119話 おねいさんの変化
最近、おねいさんの特別授業は、以前とはずいぶん内容が変わってきていた。
まず、主人公がおねいさんの家へ行くと――。
「いらっしゃい。今日はご飯、作っておいたわよ」
そう言って、おねいさんが手料理を振る舞ってくれるようになったのだ。
以前なら、到着したらすぐに授業が始まっていた。
ところが最近は違う。
二人で料理を食べながら学校のことや最近あった出来事を話し、そのあともしばらく雑談する。
そして、ようやく授業が始まる。
しかも授業時間は一時間ほど。
内容も、ほとんど国家試験の実技対策だけになっていた。
「じゃあ今日は、ここを確認しましょうか」
「また実技?」
「そうよ。女性の扱い方のほうは問題ないもの」
おねいさんはそう言って、主人公の手順をじっと確認する。
間違えても、以前のように厳しく注意されることは少なくなった。
「あっ、そこは違うわ」
「やっぱり?」
「でも、前よりずっと良くなってるわよ。もう一回やってみましょう」
「……なんか最近、優しくない?」
主人公が思わずそう言うと、おねいさんは少しだけ笑った。
「そうかしら?」
「絶対そうだって」
それだけではない。
以前のおねいさんは、授業の日でもほとんど化粧をしていなかった。
ところが最近は、主人公が来る日になると薄く化粧をするようになり、服装にも以前より気を遣っているように見えた。
主人公もその変化には気づいていたが、下手に触れると面倒なことになりそうなので黙っていた。
ただし――。
休日になると主人公を外へ連れ出すのだけは、まったく変わっていなかった。
「今日は映画に行くわよ」
「今日は授業じゃないのか?」
「社会経験も授業の一環です」
「それ絶対デートしたいだけだろ!」
「違います」
「即答するな!」
そんな日々が続いていた。
そしてある日。
実技練習が終わったところで、主人公は思い切って切り出した。
「先生」
「なに?」
「そろそろ国家試験、受けさせてくれない?」
主人公としては、一刻も早く試験に合格したかった。
いつまでも特別授業を続けているわけにはいかない。
ところが、おねいさんは少し困ったような顔をした。
「うーん……」
「その反応はなんだよ」
「あと少しなのよね」
「あと少し?」
おねいさんは主人公の実技記録を確認しながら言った。
「女性の扱い方なら、もう合格圏内よ。でもあなた、実技がちょっと苦手なのよね」
「ちょっと?」
「……かなり?」
「悪化した!」
おねいさんは苦笑する。
「知識はちゃんと身についているの。でも、本番になると焦って手順を飛ばす癖があるでしょう?」
「うっ……」
心当たりがありすぎた。
「だから、試験を受けさせてあげられるのは……ぎりぎりになりそうね」
「ぎ、ぎりぎり……?」
主人公の額から、じわりと冷や汗が流れた。
このままでは――。
特別授業が、まだまだ続く。
ちらりとおねいさんを見る。
すると、おねいさんはなぜか少しだけ嬉しそうに笑っていた。
「大丈夫よ。合格するまで、私がしっかり教えてあげるから」
「……それ、いつまでかかるんだよ」
「さあ?」
にこり。
主人公の冷や汗は、さらに増えた。




