118話 修学旅行(2)
もちろん、宿泊先のホテルでも三人は同じ部屋だった。
部屋へ入るなり、先生は旅行用のバッグを放り出し、なぜか満面の笑みでおもちゃを並べ始めた。
「さあ、今夜は三人だから、いつもより本格的な特別授業ができるわよ!」
「ホテルまで来て授業するんですか……」
主人公がげんなりすると、彼女も隣で深いため息をついた。
二人としては、せっかくの旅行なので静かに話したかった。ところが先生は、そんな二人の気持ちにはまったく気づかず、誰よりもうきうきしていた。
今回は三人ということで、まず彼女の指導から始まった。いつもとは逆に、彼女のほうから積極的に距離を縮め、相手をリードする練習らしい。
「もっと堂々と! 姿勢を意識して、相手の反応をよく見るの!自然な雰囲気でキスするの」
先生は身ぶり手ぶりを交えながら、やたら細かく説明する。
彼女が主人公へ近づこうとすると、先生が二人の間へすっと割り込んだ。
「待って。今の動きは少し固いわ。まず私がお手本を――」
「先生が間にいたら練習できません」
彼女が冷静に指摘した。
「そう? じゃあ私はこっちに……」
先生が横へ移動すると、今度は主人公の正面に立った。
「先生、彼女が見えません」
「もう、二人とも注文が多いわね!」
「先生がずっと邪魔なんです!」
その後も、彼女が隣に座れば先生も間に座り、二人がやり始めれば先生が横から解説し、少し雰囲気がよくなればメモ帳を取り出して採点を始めた。
「今の距離の縮め方は八十点!」
「残りの二十点は?」
「指導者との連携ね」
「その指導者が一番の減点要素です」
主人公が即答すると、彼女は吹き出してしまった。
授業内容はいつもと逆だった。彼女が主導し、主人公がそれに合わせるはずだった。
しかし実際には、先生が二人の間を右へ左へ動き回り、一人で特別授業を盛り上げているだけだった。
先生は最後まで満足そうだったが、主人公と彼女の感想は完全に一致していた。
――とにかく、先生が邪魔だった。
その夜。
部屋には、三台のベッドが並んでいた。
主人公はそのうちの一台に潜り込み、すぐに眠りについた。
しばらくして――。
「……ん?」
眠りの途中で、主人公は妙な暖かさを感じた。
すぐ隣から、人の体温が伝わってくる。
眠い目をこすりながら横を見ると、そこにはお姉さんが気持ちよさそうに眠っていた。
「……なんで?」
主人公はぼんやりと首をかしげる。
確か、眠る前にはお姉さんも自分のベッドにいたはずだった。
いつの間にこっちへ移ってきたのだろう。
「まあ……いいか……」
とにかく眠かった。
考えるのも面倒になり、主人公は再び目を閉じた。
ところが――。
バサッ!
「うわっ!」
突然、掛け布団が勢いよく引っ張られた。
寒さに驚いて目を開けると、ベッドの横に彼女が立っていた。
しかも、ものすごく不機嫌そうな顔をしている。
「お姉さん!」
「……なによ」
お姉さんも目を覚まし、眠そうに顔を上げた。
彼女は腰に手を当てて言った。
「彼と一緒に寝ることは、授業とは関係ないでしょ!」
「あら、いいじゃない。彼と一緒に寝ると安心するのよ」
「よくありません!」
「それに、たまに授業のときだってこうしてるわよ?」
「はあ!?」
彼女の眉がぴくりと動いた。
「聞いてないんだけど!」
「わざわざ報告する必要ないでしょ?」
「あります!」
「ないわよ」
「あります!」
「ないってば」
とうとう二人は主人公のベッドを挟んで言い争いを始めてしまった。
「ちょっと二人とも……眠いんだけど……」
主人公が弱々しく訴えても、二人の耳にはまったく届かない。
「だいたい、お姉さんは距離が近すぎるの!」
「あなたこそ嫉妬しすぎじゃない?」
「し、嫉妬じゃありません!」
「じゃあ別にいいじゃない」
「よくない!」
「……もう好きにしてくれ」
主人公は枕を抱えて目を閉じた。
だが――。
二人の言い争いは、その後もしばらく続いた。
結局、その夜。
一番眠れなかったのは、二人に挟まれた主人公だった。




