112話 この国の国家予算(1)
テレビのニュースで、今年度の国家予算が決定したと報じられていた。
主人公は何となく画面を眺めていたが、表示された予算の内訳を見て、思わず目を止めた。
項目金額割合
子育て・子作り支援5兆6,520億円22.0%
医療2兆円7.8%
保健・雇用対策など1兆3,160億円5.1%
社会保障計8兆9,680億円34.9%
地方交付税6兆6,800億円26.0%
公共事業2兆4,400億円9.5%
教育・科学技術2兆4,000億円9.3%
防衛費1兆2,000億円4.7%
その他・予備費・農業・エネルギー等4兆120億円15.6%
国債費0円0%
歳出合計25兆7,000億円100%
「……子育て・子作り支援、5兆6,520億円!?」
主人公は思わず画面を二度見した。
この国の人口は約4,000万人しかいない。
それなのに、国家予算の二割以上が、子育てや子作りの支援に使われているのだ。
人口一人あたりで単純計算すると、子育て・子作り支援だけで年間約14万1,300円。
国家予算全体では、一人あたり年間約64万2,500円になる。
「子ども関係、めちゃくちゃ手厚いな……」
だが、主人公をさらに驚かせた項目があった。
――国債費、0円。
「えっ? 借金の返済がないの?」
ニュースでは、その理由についても説明されていた。
この国では新規国債をほとんど発行しておらず、政府債務もほぼ存在しない。
そのため、基本的にはその年度に入ってくる税収やその他の収入だけで、国家予算をまかなっているという。
つまり、ほとんど借金に頼らない財政運営を続けているのだ。
主人公は少し考え、やがて納得した。
「……ああ、そうか」
この世界には高齢者がいない。
一定の条件を迎えた人間は、みんな神の世界へ行ってしまう。
そのため、年金制度そのものが存在せず、介護に必要な費用もほとんどない。
年齢を重ねるほど増えやすい医療費についても、高齢者がいないため大幅に抑えられている。
前世の国なら国家財政の大きな負担になっていたはずの支出が、この国にはほとんど存在しないのだ。
一方で、保健・雇用対策にはかなり大きな予算が割かれていた。
この国では勤労が国民の義務とされており、仕事が見つからない場合には国が仕事を用意する。
働ける人間は、原則として必ず何らかの仕事に就かなければならない。
その一方で、失業保険という制度は存在しなかった。
主人公は最初、そのことを不思議に思った。
失業者にお金を支給しないのに、なぜ雇用対策には1兆円以上もの予算が必要なのか。
だが、少し考えて、その理由に気づいた。
「そうか……失業者にお金を渡すんじゃなくて、国がお金を出して仕事そのものを作ってるのか」
つまり、失業した人間を給付金で支えるのではなく、国や地方自治体が雇用そのものを生み出しているのだ。
公共施設の管理、清掃、インフラの点検、農業支援、行政補助など、人手が必要な仕事を国が用意し、そこへ働き手を割り当てる。
だから失業保険がなくても、雇用対策には多額の予算が必要になる。
そして、この国の社会保障の中心になっているのが、子育て・子作り支援だった。
「……そりゃ財政も軽くなるわな」
前世の国なら巨額の支出になるはずの年金、介護、高齢者医療、そして国債費。
それらがほとんど存在しない。
その分のお金を、子育てや教育、地方行政、公共事業などへ回すことができるのだ。
人口約4,000万人の国で、年間の国家予算は25兆7,000億円。
しかも、国の借金はほぼゼロ。
主人公はテレビを眺めながらつぶやいた。
「税金が安いのも納得だわ……」
この世界で暮らし始めてから、主人公はずっと不思議に思っていた。
税金は安い。
物価もそれほど高くない。
それなのに、子育て支援や公共サービスは妙に充実している。
その理由が、ようやく少し分かった気がした。
だが――。
主人公はふと、別の疑問を抱いた。
「……待てよ」
これだけの予算を、いったいどうやって集めているのだろう。
国債をほとんど発行していないのなら、毎年25兆7,000億円もの歳出をまかなえるだけの収入が、どこかから入っているはずだ。
所得税。
法人税。
その他の税金。
それだけで、本当に足りるのだろうか。
しかも、この世界は消費税もない。
主人公は画面を見つめながら、ぽつりとつぶやいた。
「歳出は分かったけど……歳入は?」
気になり始めると、もう止まらなかった。
主人公は携帯を手に取ると、そのまま国の年間収入――歳入の内訳について調べ始めた。




