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転生したらみんなが恋人いる謎の世界だった。どうして私だけいないの。  作者: まやまや
転生したら男でした。

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107話 弟の進級試験

弟は、毎日のように家で勉強していた。


もうすぐ、小学五年生の学期末の進級試験があるからだ。


この国では、小学生が次の学年へ進むためには、必ず進級試験に合格しなければならない。


不合格になれば、留年するわけではない。


学校を辞めるわけでもない。


――神の世界へ送られる。


主人公がその制度を知ったとき、最初は何かの聞き間違いだと思った。


「……テストに落ちたら、神の世界?」


母親は静かにうなずいた。


国全体では、毎年、一学年のおよそ五パーセントが進級試験に合格できないという。


二十人に一人。


決して珍しい数字ではなかった。


それだけに、試験が近づくにつれて、家の空気も少しずつ重くなっていった。


中学生になれば試験はあっても、どれほど成績が悪くても、それを理由に神の世界へ送られることはない。


危険なのは、小学生の間だけだった。


しかし、その小学校で学ぶ内容はかなり厳しい。


主人公が以前いた世界の基準なら、中学生で習うような内容まで、小学校を卒業するまでに覚えなければならなかった。


弟は、もともと成績があまり良くなかった。


学校から帰れば、すぐに学習用タブレットを開いて勉強を始める。


夕方になると塾へ行き、帰宅してからもまたタブレットに向かう。


それでも、母親の表情から不安が消えることはなかった。


ある夜。


母親が自分の端末で、学校から送られてきた弟の成績データを確認しながら言った。


「家庭教師もお願いするわ」


弟の手が止まった。


「……塾にも行ってるよ」


「分かってる」


母親の声は優しかった。


だが、その表情は笑っていなかった。


「でも、絶対に落とせないの」


その一言で、部屋が静かになった。


誰も「もし落ちたら」とは言わなかった。


言わなくても、全員が分かっていた。


それから弟は、学校、塾、家庭教師という生活を続けた。


夜遅くまでタブレットに向かう弟の姿を、主人公は何度も目にした。


ある日、主人公は弟が解いている問題を何気なくのぞき込んだ。


タブレットの画面には、次々と問題が表示されている。


数学では、


「3x+5=20を解きなさい」


弟はしばらく考えてから、専用のペンで画面に、


『x=8』


と書き込んだ。


すぐに画面が赤く変わる。


『不正解』


「あれ……?」


弟は首をかしげた。


書いた答えを消し、指を折りながらもう一度考える。


「20から5を引いて……15。15を3で割るから……5」


今度は、


『x=5』


と書き込んだ。


『正解』


次の問題へ進む。


「y=2x+3について、x=4のときのyを求めなさい」


弟は、


『y=14』


と書いた。


『不正解』


「えっ?」


どうやら、2と4を掛けるところまでは分かっていたものの、その後の計算を間違えたらしい。


もう一度計算して、


『y=11』


と書き直す。


『正解』


続いて、


「1200円の商品を15%値引きした価格を求めなさい」


弟はかなり長い間、画面を見つめていた。


「15%だから……120円……?」


『1080円』


と書き込む。


『不正解』


「また違う……」


計算欄に何度も数字を書いては消す。


しばらくして、


「1200円の10%が120円で、5%が60円だから……180円。1200から180を引いて……」


『1020円』


『正解』


英語では、


『適切な語を選びなさい』


I want (  ) a doctor in the future.


A. be

B. to be

C. being

D. been


弟は迷った末に、


「Aかな……」


とつぶやき、「A. be」を選んだ。


『不正解』


「あー……」


弟は頭を抱える。


解説を開いて確認し、ようやく「B. to be」を選んだ。


『正解』


さらに英文読解では、


『英文を読み、問いに答えなさい』


Mike played soccer with his friends after school. He went home at five o’clock because he had to study English for a test.


Why did Mike go home?


A. To eat breakfast.

B. To eat lunch.

C. To study English.

D. To play soccer.


弟は英文を何度も読み返した。


そして、


「たぶん……D」


と選択した。


『不正解』


「違うの?」


もう一度英文を読み直す。


今度は「C」を選んだ。


『正解』


理科では、


「電圧が6V、抵抗が3Ωのとき、流れる電流は何Aですか」


弟は、


『18A』


と書き込んだ。


『不正解』


「6かける3じゃないの?」


画面に表示された解説を読み、しばらく考え込む。


「割るのか……」


『2A』


『正解』


次の問題は、


「植物が光合成をするとき、主に取り入れる気体は何ですか」


これはすぐに、


『二酸化炭素』


と書いた。


『正解』


主人公は黙って画面を見ていた。


正解。


不正解。


不正解。


正解。


不正解。


正解。


画面には、その二つがほとんど交互に表示されていた。


十問解けば、四問か五問は間違える。


酷いときには、三問続けて不正解になることもあった。


(……これ、かなり危ないんじゃないか?)


主人公は心の中で思った。


しかも問題そのものが難しい。


方程式に一次関数、割合の計算。


英語も文法だけではなく、英文を読んで内容を理解する問題まである。


理科では、すでに電圧や抵抗を使った計算まで出ていた。


主人公が以前いた世界の基準なら、中学生が習っていてもおかしくない内容ばかりだった。


(小学五年生でこれか……。しかも、弟は半分くらい間違えてるぞ)


弟は眠そうに目をこすりながら、それでも問題を解き続けている。


間違えるたびに、画面には赤い文字で『不正解』と表示される。


「また間違えた……」


弟が小さくつぶやく。


それでも、答えを消して、もう一度やり直す。


家庭教師から教わった解き方を思い出しながら、一つずつ計算していく。


正解すると、ほんの少しだけ嬉しそうな顔をした。


だが、次の問題ではまた間違える。


その繰り返しだった。


主人公は後ろから黙ってその様子を見ていた。


眠そうではある。


疲れてもいる。


それでも、一問一問、必死に食らいついていた。


主人公は声をかけようとして――やめた。


「頑張れ」という言葉さえ、今の弟には重く感じられた。


そして、ついに進級試験の日がやってきた。


弟が家を出るとき、母親はいつもより長く、その背中を見送っていた。


試験も当然、紙では行われない。


学校で配布されている試験用端末を使い、画面に表示された問題へ直接ペンで答えを書き込む方式だった。


ただし、普段の学習とは違い、その場で正解や不正解が表示されることはない。


すべての問題を解き終え、試験データが学校のシステムへ送信されて初めて採点される。


試験が終わって帰ってきた弟に、母親が尋ねた。


「どうだった?」


弟はしばらく黙っていた。


「……分かんない」


「難しかった?」


「うん。何問か全然分からなかった」


母親の表情が曇った。


「でも、分かるところは全部書いた」


「そう……」


それ以上、誰も何も聞かなかった。


試験が終わっても、すぐに結果が出るわけではなかった。


それから数日間。


家族は普段どおりに生活しながら、通知が届くのを待った。


食事中でさえ、誰かの端末が通知音を鳴らすたびに、全員が一斉に反応した。


そして、ついに弟の端末に学校から通知が届いた。


弟は震える指で画面を開く。


主人公も両親も、一言も発さず、その画面を見つめた。


そこに表示されていたのは――。


『進級試験 合格』


しばらく、誰も声を出せなかった。


最初に大きく息を吐いたのは、母親だった。


「……よかった」


その声は震えていた。


弟も、ようやく笑った。


「受かった……」


父親は弟の肩を強く抱いた。


主人公も、胸の奥に張りつめていたものが一気にほどけていくのを感じた。


決して余裕のある合格ではなかった。


家庭教師まで頼み、何度も間違え、それでも繰り返し勉強を続けた結果、弟はどうにか次の学年へ進むことができた。


ただ――。


主人公には、どうしても一つの疑問が残った。


今回、弟は合格した。


では。


同じ日に、不合格の通知を受け取った子どもたちは、今ごろどうしているのだろう。


そう考えた瞬間。


ついさっきまで胸を満たしていた安堵が、ほんの少しだけ冷たいものへと変わった。

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