104話 家族で温泉旅行(2)
温泉宿に到着した主人公一家は、夕食後、部屋でのんびり過ごしていた。
主人公「はぁ~……畳って最高……」
弟「お兄ちゃん、あとで卓球しよう!」
主人公「やるやる。今日はもう何も考えないぞ。今日こそゆっくり休むぞ」
その瞬間だった。
プルルルルルル!
部屋に備え付けられている電話が鳴った。
主人公「ん?」
父「お兄ちゃん、出てくれるか?」
主人公「はーい」
受話器を取る。
主人公「もしもし」
フロント『お客様、ロビーにお客様がお見えになっております』
主人公「……客?」
フロント『はい。主人公様にお会いしたいとのことです』
主人公「誰だろ」
主人公は何も疑わず、エレベーターでロビーへ向かった。
チーン。
扉が開く。
そして――。
主人公「…………」
ロビーのソファに、見覚えがありすぎる女性が座っていた。
おねえさん「遅い」
主人公「なんでいるの!?」
子ども家庭庁のおねえさんだった。
しかも仕事用のバッグまでしっかり持っている。
おねえさん「仕事を全部終わらせて、すぐ来たわ」
主人公「来たわ、じゃないよ!」
おねえさん「高速鉄道を乗り継いで2時間くらい」
主人公「そこまでして来る!?」
おねえさん「来ます」
主人公「即答!?」
主人公は後ずさった。
おねえさん「安心して。ちゃんと宿も取ったから」
主人公「安心要素が一個もないんだけど」
おねえさん「部屋風呂付きの、ちょっといい部屋」
主人公「旅行を満喫する気じゃん!」
おねえさん「せっかく遠くまで来たしね」
主人公「じゃあ温泉入ってゆっくり寝てください!」
おねえさん「その前に特別授業」
主人公「やっぱりそれか!!」
主人公、逃走。
おねえさん「あ、こら!」
主人公「今日は旅行なんだあああ!」
ロビーを抜けようとしたところで――。
宿の従業員「館内は走らないでください!」
主人公「すみません!」
速度低下。
その瞬間。
ガシッ。
おねえさん「捕まえた」
主人公「しまった! マナーを守ったばっかりに!」
おねえさん「いい心がけね」
主人公「褒められてもうれしくない!」
主人公は最後の切り札を出した。
主人公「まだだ! 家族旅行なんだから、両親の許可が必要でしょ!」
おねえさん「じゃあ電話しましょう」
主人公「え」
携帯で父へ電話する。
おねえさん「こんばんは。子ども家庭庁の担当者です」
父『ああ、いつもお世話になっております。』
主人公「お父さん! この人、旅行先まで来たんだけど!」
父『すごい熱心な担当者さんだなぁ。お父さんうらやましいぞ』
主人公「感心するところじゃない!」
すると電話の向こうから母の声まで聞こえてきた。
母『お兄ちゃん、ちゃんと授業受けなさいよ』
主人公「お母さんまで!?」
母『弟はもう寝かしつけたから大丈夫』
父『せっかくだし、俺たちものんびりできるな』
母『そうね、あなたと二人でゆっくり過ごせるわね』
主人公「俺を差し出して夫婦の時間を確保するな!」
おねえさん「ということで」
主人公「ということで、じゃない!」
電話終了。
主人公は辺りを見回した。
正面――おねえさん。
背後――フロント。
上――吹き抜け。
主人公「……逃げ場がない」
おねえさん「観念した?」
主人公「旅行とは何だったのか……」
その夜。
おねえさんが取った部屋には温泉があった。
おねいさん「たまには、温泉に入りながら授業もいいね。」
温泉に入りながら授業を行った。少しのぼせてしまったみたいだった。
主人公「終わった……」
おねえさん「よくできました」
主人公「満足そうだな……」
おねえさん「非常に満足です」
主人公はぐったりとしていた。おねいさんがベットに寝かしつけてくれて、氷も持ってきてくれた。
翌朝、まだ外が薄暗い時間。
おねえさんは高速鉄道の始発に合わせて宿を出発した。
おねえさん「じゃあ、旅行楽しんでね」
主人公「今さら!?」
おねえさん「次から旅行するときは事前連絡」
主人公「はい……」
おねえさん「絶対よ」
主人公「はい……」
おねえさんは満足そうな顔で去っていった。
数時間後。
朝食会場。
父「昨日はどうだった?」
主人公「たっぷり授業させられた」
母「よかったじゃない。気持ち良かったでしょ」
主人公「どこが!?」
弟「今日、遊園地行こう!」
主人公「行く!」
主人公は決意した。
今日こそ旅行を楽しむぞ。
家族で旅行を楽しんだ。
そして帰り道。
行きとは違い、すっかり疲れ切った主人公は、後部座席で爆睡していた。
弟「お兄ちゃん、ずっと寝てるね」
父「昨日からいろいろあったからな」
母「まあ、旅行を楽しめたならよかったんじゃない?私たちも楽しめたし。ねえ、お父さん」
父「…………」
途中でサービスエリアに寄っても、主人公は起きなかった。
そして目を覚ましたころには、すでに自宅の近くだった。




