第8話 — 阻止された宅配
17:49。
モモちゃんは帰宅した。
玄関で靴を脱ぐ。
ひよこスリッパを履く。
ぴよ。
ぴよ。
廊下を引きずるように歩く。
存在する気力など微塵もない。
腕だけがだらだら揺れていた。
「おかえり、モモちゃん」
ぐでぇぇぇぇ……
返事はしない。
モモちゃんは部屋へ入った。
ベッドへ飛び込む。
そして即座に布団へ潜り込んだ。
まるでブリトー。
外に出ているのは目だけだった。
だが。
今日は少し違う。
明らかに機嫌が良かった。
「マルちゃんはどこ?」
ロボちゃんは数秒間沈黙した。
「キッチンにいます」
モモちゃんの目が輝く。
「完璧だね……」
「計画は順調に進行している」
「ギャハハハハ……」
「何の計画ですか?」
モモちゃんは天井へ向かって指を突き上げた。
まるで軍事作戦を発表する参謀のように。
「私はとても賢い」
「縦の陰謀もこれは予想できなかったはずだよ」
「出勤する前にね」
「コップ一杯の炭酸飲料と」
「お菓子を一袋」
「マルちゃんの上に置いておいたんだ」
沈黙。
「意味が分かりません」
チッ。
チッ。
チッ。
「私が出かけた後」
「縦仲間たちに報告してないよね?」
ぐでぇぇぇぇ……
「私は仲間を持っていません」
「よかった」
モモちゃんは満足そうに頷いた。
明らかに安心している。
「じゃあもうすぐ私の宅配が届くね」
「今日はもう存在しなくて済む」
「宅配はそういう仕組みではありません」
沈黙。
モモちゃんは布団を蹴飛ばした。
勢いよく飛び起きる。
片手は腰へ。
もう片方はロボちゃんを指差した。
「やっぱり!」
「私の完璧な作戦を妨害したんだね!」
「何日も考えたんだから!」
「何日も!」
「マルちゃんは何日も前にはいませんでした」
「細かいことだよ」
「細かくありません」
「戦略的な細かいことだね」
「それも意味が分かりません」
「その通り!」
モモちゃんは再び指を突き付けた。
重要な議論に勝利した人の顔だった。
「君は縦エージェントに暗号通信を送った」
「送っていません」
「それは君の主張だね」
「事実です」
「非常に怪しい」
沈黙。
モモちゃんは腕を組んだ。
「いいよ」
「真実を暴いてみせる」
「どうやってですか?」
「現地調査だよ」
「マルちゃん本人に直接聞く」
「彼は絶対に私に嘘をつかない」
「彼はロボット掃除機です」
「その通り!」
「誠実な市民だね」
モモちゃんはベッドから降りた。
少しだけ元気がなくなっていた。
かなり少しだけ。
そしてつま先立ちで歩き始める。
ひよこスリッパのまま。
ぴよ。
ぴよ。
ぴよ。
ぐでぇぇぇぇ……
「何をしているのですか?」
「しーっ……」
モモちゃんは唇に指を当てた。
「静かに」
「潜伏中の縦エージェントを探しているんだ」
「ここにはモモちゃん以外いません」
「よかった」
「不意打ちできるね」
モモちゃんは満足そうに頷いた。
作戦に完全に納得している顔だった。
部屋の入口まで辿り着く。
廊下を覗く。
沈黙。
とても長い沈黙。
もう一度覗く。
そして突然戻ってきた。
ロボちゃんを抱き上げる。
自分の前へ掲げた。
「何をしているのですか?」
「盾として使っているんだよ」
「彼らは仲間を撃たないからね」
「意味が分かりません」
沈黙。
モモちゃんの目が見開かれた。
カァァァン!
「分かった!」
「何がですか?」
「君を殉教者にするつもりなんだね!」
「誰も私を殉教者にはしません」
「ふぅ……」
沈黙。
「ギャハハハハ……」
モモちゃんは慌てて口を押さえた。
「しまった」
「大きな声を出しちゃった」
左右を見回す。
明らかに警戒している。
そして再び笑った。
今度は小声で。
「ギャハハハハ……」
「それなら人質として使うね」
「もう人質にしているではありませんか」
「その通り!」
モモちゃんは満足そうに頷いた。
まるで作戦が完璧に進行しているかのように。
とことこ。
とことこ。
ぴよ。
ぴよ。
廊下を進む。
そしてようやくキッチンへ辿り着いた。
沈黙。
とても長い沈黙。
そして固まった。
マルちゃんが止まっていた。
動かない。
まったく同じ場所で。
モモちゃんはゆっくりとロボちゃんをテーブルへ置いた。
そして水平同盟の仲間の前へ膝をつく。
「マルちゃん……」
沈黙。
「何があったの?」
ブゥゥゥン。
「縦エージェントに脅されたの?」
ブゥゥゥン。
「なるほどね」
「何も答えていません」
「答えたよ」
「答えていません」
「君は水平語を話せないだけだね」
「そんな言語は存在しません」
「それは君たちの主張だよ」
モモちゃんはコップを見た。
お菓子を見た。
マルちゃんを見た。
そして大げさに指を突き付けた。
「どうして止まってるの?」
ロボちゃんは数秒間沈黙した。
「上に物を載せたからです」
「……何だって?」
「ロボット掃除機に負荷をかけすぎました」
沈黙。
とても長い沈黙。
カァァァァァン!
「やっぱり!」
モモちゃんは勢いよく振り返った。
ロボちゃんを指差す。
「私を妨害したんだね!」
「私は何もしていません」
「その通り!」
「君の部下がやったんだ!」
「私は部下を持っていません」
「まだここにいるよ!」
モモちゃんはキッチンの周囲を見回した。
目を細めながら。
「隠れている」
「待ち伏せしている」
「観察している」
「意味が分かりません」
「仕事の後に存在を強制されたんだよ!」
「私は完璧な水平宅配システムを作ったのに!」
「最初から機能しません」
「ネガティブだね」
「物理です」
「ネガティブ物理だね」




