第7話 — 二人目の革命家
19:05。
モモちゃんは箱を抱えて帰宅した。
玄関を開ける。
入る。
閉める。
三歩進む。
そして箱を床へ置いた。
そのままソファへ飛び込む。
うつ伏せのまま。
足をばたつかせながら靴を脱ぐ。
クッションを叩く。
「おかえり、モモちゃん」
ぐでぇぇぇぇ……
「知ってたんだね」
「何のことですか?」
「君の縦仲間たちが私を足止めするってことだよ」
「今日は長時間も縦に存在させられた」
「二倍の非存在が必要だね」
ロボちゃんは数秒間沈黙した。
「現実はそういう仕組みではありません」
「その通り!」
モモちゃんは大げさに指を突き上げた。
ソファに沈んだまま。
「私の前に縦エージェントを増やしたんだ」
「それは行列です」
「私には挟撃に見えるね」
「戦争ではありません」
「今さら降伏宣言かな?」
「誰も降伏していません」
「我々は水平革命のため最後まで戦う!」
「最後の瞬間まで芋虫の繭みたいに丸まって横になるんだ!」
「戦争はもう少し組織的です」
チッ……
「しつこい連中だね」
「私は戦争には参加していません」
モモちゃんはその返答を完全に無視した。
ソファに座り直す。
そして箱を引き寄せた。
「ギャハハハハ……」
「ついに来たね」
「何がですか?」
「増援だよ」
沈黙。
モモちゃんは箱を開けた。
丸い物を取り出す。
白い。
光っている。
モモちゃんは目を見開いた。
「新しい仲間が来たよ!」
それを高々と掲げる。
その瞬間。
部屋の照明が表面に反射した。
キラーン。
「ほら見て」
「ちゃんと光るんだよ」
「意味が分かりません」
「嫉妬しなくていいんだよ、ロボ」
「嫉妬ですか?」
「君は二重スパイだからね」
「そろそろ演技はやめたらどうかな」
「私は二重スパイではありません」
「まさにそういう人が言いそうなことだね」
モモちゃんは新しいロボットを見た。
それからロボちゃんを見た。
そして再び新しいロボットを見た。
沈黙。
とても長い沈黙。
そして目を見開いた。
「待って」
「分かったよ」
「何がですか?」
モモちゃんは大げさに掃除ロボットを指差した。
「この子は一度も縦にならない」
沈黙。
「……何ですか?」
「見てよ!」
「丸いんだよ!」
「しかもずっと水平!」
モモちゃんは自分の頬を両手で押さえた。
明らかに感動している。
「仲間を見つけた!」
「それはロボット掃除機です」
「その通り!」
「水平なロボット掃除機だよ!」
モモちゃんはロボットを床へ置いた。
そしてボタンを押す。
ピッ。
ロボット掃除機はゆっくりと動き始めた。
部屋の中を進む。
床を掃除しながら。
モモちゃんは即座にソファへ戻った。
うつ伏せになる。
顎の下で両手を組む。
足をぶらぶらさせながら。
新しい仲間を見守っていた。
尊敬の眼差しで。
「君も水平同盟に入りたいの?」
ブゥゥゥゥゥン……
ロボットは壁へぶつかった。
コツン。
沈黙。
「肯定と受け取っておくね」
「壁にぶつかっただけです」
「その通り!」
「縦社会と戦っているんだね」
「名前を付けるべきだと思うな」
ロボちゃんは数秒間沈黙した。
「それはロボット掃除機です」
ぐでぇぇぇ……
「君もロボットだよ」
「縦エージェントじゃなければ超かっこいい名前を付けてあげたのに」
「ふん」
モモちゃんは腕を組んだ。
考える。
とても考える。
天井を見る。
それから新しい仲間を見る。
「分かった!」
大げさに指を突き付けた。
「アスピちゃんだ!」
ブゥゥゥン。
「気に入った?」
ブゥゥゥン。
「照れ屋なんだね」
「大丈夫」
「そういうところも尊重するよ」
モモちゃんは顎に手を当てた。
考える。
とても考える。
「いや」
「もっと良い名前がある」
沈黙。
そして目を見開いた。
「分かった!」
「マルちゃんだ!」
ブゥゥゥゥゥン。
ピッ。
「気に入ってくれて嬉しいよ」
「バッテリーが少ないだけです」
「嫉妬しているふりはしなくていいんだよ、ロボ」
「嫉妬していません」
「かわいいね……」
沈黙。
「いや」
「いやいや」
「私を操ろうとしているんだね」
「そんな手には乗らないよ」
「意味が分かりません」
「その通り!」
マルちゃんは方向を変えた。
そしてゆっくりと充電台へ戻り始める。
「ほら見て、ロボ」
「もう水平活動を始めたよ」
「やっぱり信じてよかった」
「バッテリーが少ないだけです」
「それは君の意見だね」
ピッ。
ピッ。
ピッ。
沈黙。
モモちゃんは固まった。
「待って」
ピッ。
ピッ。
モモちゃんの目が見開かれた。
「暗号信号だ」
「違います」
「救難信号!」
「救難信号ではありません」
「妨害工作だね!」
モモちゃんはソファから飛び上がった。
充電台へ向かって走る。
マルちゃんはその場で動かなかった。
敗北していた。
疲れ果てていた。
世界に見捨てられていた。
少なくとも。
モモちゃんにはそう見えた。
モモちゃんはその場に膝をつく。
ディスプレイを覗き込む。
そして読み上げた。
「ゴミ容量がいっぱいです」
沈黙。
「ゴミを捨ててください」
沈黙。
とても長い沈黙。
モモちゃんはゆっくりと両手を口元へ運んだ。
「そんな……」
「どうしました?」
「緊急手術が必要なの?」
「違います」
「蓋を開けてゴミ容器を空にするだけです」
「助かるの?」
「彼はロボット掃除機です」
「そういう仕組みです」
モモちゃんは俯いた。
「怪物たちだね……」
「誰のことですか?」
「縦エージェントたち」
「マルちゃんを機械に変えてしまった」
「最初から機械です」
「君は彼らのやり方に賛成なの!?」
「やり方など存在しません」
モモちゃんはごくりと唾を飲み込んだ。
震える手で。
ボタンを押す。
カチッ。
蓋が開いた。
モモちゃんは中を見つめた。
沈黙。
とても長い沈黙。
そして慎重にダストボックスを取り出した。
繊細な手術を行う医者のように。
目にはすでに涙が浮かんでいる。
「頑張って、マルちゃん……」
「もう少しだからね……」
モモちゃんはゴミを捨てた。
容器を掃除した。
元の場所へ戻した。
そして蓋を閉める。
カチッ。
沈黙。
ピッ。
マルちゃんはゆっくりと充電台を離れた。
再び部屋を巡回し始める。
ブゥゥゥゥゥン……
モモちゃんの目が輝いた。
「助かった!」
「最初から危険な状態ではありません」
「ロボ……」
モモちゃんは鼻をすすった。
「君は冷たいね」
「私は心臓を持っていません」
モモちゃんは沈黙した。
考える。
とても考える。
そして目を見開いた。
「分かったよ」
「何がですか?」
「君も操られていたんだね」
「違います」
「もう何も言わなくていいよ」
ロボちゃんは沈黙した。
モモちゃんは再びソファへ戻る。
うつ伏せになる。
マルちゃんが部屋を巡回する様子を眺めながら。
「私はいつか縦の陰謀に勝てるのかな……?」
沈黙。
とても長い沈黙。
「ロボ?」
「何ですか?」
「私が勝てるって信じてくれて嬉しいよ」
「そんなことは言っていません」
「応援してくれてありがとう」
「応援していません」
「その信頼が励みになるね」
沈黙。
「それも意味が分かりません」
「その通り!」
モモちゃんは目を閉じた。
満足そうに。
マルちゃんは今も部屋を巡回している。
そして初めて。
水平革命の仲間は二人になった。




