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しばらくしてつづりがテレポーテーションで姿を現し、
「螺旋さん、戻りました。甲斐室長の指示も受けてきました。以降螺旋さんの指示に従い行動します」
はきはきと報告をする。結局城戸は戻ってこなかった。
「判りました。ではそのようにお願いします――もうこんな時間でしたか」
螺旋の言葉で、それぞれが時計を確認する。気付けば終業の時刻が迫っていた。
「真山さん、それから高瀬さん、結崎さん、二日後まで大きな動きはないでしょうし、今日はここまでで結構です。お疲れ様でした。黒峰さんもそこまでにしましょう」
「はい」
黒峰を除く面々が返事をする。
「んー、もうちょっと探っちゃダメですか?」
画面から螺旋にちらりと目だけ向けて、黒峰が粘る。螺旋は微かに嘆息した。
「……だめだと言っても無駄なのでしょうね」
二・五階の各部署に存在する端末は、特捜でしか扱えない情報へのアクセスの鍵でもある。魔力によるものなのか何なのか高瀬は詳細を知らないが、特殊な情報へのアクセスは、このフロアの端末を介さないと不可能な仕組みらしい。それゆえ黒峰はたまにフロアに泊まり込む。一度そのスイッチの入った黒峰を止めることは不可能に等しい。
「……権限外の情報には決して触れないように」
諦念の混じった声で、螺旋はそれだけ言った。黒峰はその優秀さと好奇心の強さゆえに、割と頻繁にやらかすのである。
「了解です! 今回はさすがに気を付けます」
「……常に気を付けて下さい」
螺旋のもっともな指示をきちんと受け取ったのかどうか怪しい、と、そこにいる全員が思った。
「黒峰さん、このタイミングで螺旋さんが部長に呼び出されるようなことしたら、わたしがシバきますねー」
つづりが念を押すように言う。
「大丈夫大丈夫、今回は大丈夫」
黒峰は応えるものの、完全に画面の向こうの情報に全ての集中力を注いでいるのが判る。
「ですから黒峰さん、今回だけではなく、常に……」
そこまで言って螺旋は嘆息し、それ以上紡がなかった。高瀬とつづり、華火は顔を見合わせて苦笑する。
「……明日も忙しくなります。皆さん、今日は帰りましょう」
「はーい」
「お疲れ様です」
「お疲れ様」
つづり、高瀬、華火が口々に応じ、魔捜部屋を退出した。
「じゃあまた明日ー」
部屋に残る黒峰の言葉には意識が乗っておらず、惰性のようなもので発せられたのだろうと高瀬は推察した。
高瀬たちが連れ立って庁舎を出たところで、螺旋を待っていた夕鷹こと伶那の姿が目に入った。華火は一足先に庁舎を出ており、既にこの場にはいない。
「螺旋」
「れ――夕鷹さん」
夕鷹が歩み寄ってくる。
「ちょっと確認したいことがあるから、これからいい?」
「……はい」
「じゃあごはん食べながらね。どうせ昼も食べてないでしょ」
「…………」
螺旋は静かに目を逸らす。
「食べてないでしょ」
夕鷹は高瀬とつづりに目を向けた。
「わたしは見てないですね、螺旋さんがおひる食べてるところ」
つづりが正直に答え、
「自分も見てないですね」
高瀬も追撃する。夕鷹はそれを受けて頷くと、
「食べろって言ったわよね」
じろりと螺旋を睨む。
「……はい」
「ったく、あんたヴェパールも悪神も相手にするんだったら、魔力は温存しなさいよ! そもそも生活を魔力で回してるっていうのが既にヤバいのよ! 師匠が見たら何て言うか!」
「……はい」
「あんたは人間なのよ! こっち側にいて貰わないと困るの!」
「承知しています」
「ああもう! 解ってないから食べてないのよね!? ったく世話が焼けるったらありゃしないわ! 行くわよ!」
捲し立てて、螺旋を引きずって歩き始める。今回ばかりはと言うべきなのか、彼女も大人しくそれに従った。数歩進んだところで抵抗するように立ち止まったので高瀬とつづりが訝しんでいると、彼女は彼らを振り返り、
「ではお二人とも、お疲れ様です」
律儀にそう述べてから夕鷹に連行される。
「あ、お疲れ様です」
「お疲れ様でーす」
軽く一礼してそれを見送り、
「……やっぱりヤバいんですかね? ごはん食べないで魔力でどうにかしてるのって」
つづりが今更の疑問を投げかけた。
「んなもんヤバいに決まってるじゃないすか。あの人睡眠すらまともに取ってないでしょう、人間っていうか生物としておかしいんですよ」
「……あー、ですよねー……」
「結崎さん、ちなみにこれまでそれを疑問に思ったことは……?」
「いやー、最初はちらっと思ったんですけどね、螺旋さんって最強格の魔術師だし、まあそんなものかなーって」
「そんなものなわけないっすよね!? 何を納得してんすか! 羽佐間さんもですけど結崎さんも、魔術師とか超能力者とか、感覚バグってません!?」
「あっはっはー、高瀬さんだって補助能力者じゃないですかあ」
「自分はもうちょっとまともな感覚の持ち主だと思います!」
「いやー? 高瀬さんのこっちへの馴染み具合もどっちかって言うとまともじゃない寄りですよー?」
「なっ……!?」
「じゃあお疲れ様でーす、また明日ー」
つづりはひらひらと手を振ると、軽やかな足取りで去って行く。さすがに人目のある外では、テレポーテーションは使わないようだ。
「……お疲れ様っす」
高瀬は力なく返して、自分も帰路についた。そう言えば紗雪はバイトで遅くなると言っていたか。夕飯はコンビニで調達するか、と予定を立てる。
――と。
「アイイチローさんー」
後ろから声を掛けられた。その口調で思い当たるのは――確信とともに高瀬は振り返る。
「! 早乙女部長!」




