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永久螺旋 ―Unlimited Spiralー  作者: 天澤榧乃
幕間 混沌迷路の歩き方
14/24

4

 羽佐間さんを先頭に歩くこと、少し。

「螺旋さん……」

 おずおずと、華火ちゃんが切り出す。

「何ですか?」

 振り返らず、羽佐間さん。私と華火ちゃんは一度、顔を見合わせた。

「あの、言い辛いんですけど……」

 私も必死で言葉を選びながら、


「そのですね、この道は……」

「さっきも通ったよ……」

「……はい?」


 羽佐間さんはそこで初めて立ち止まり、振り返った。

 何か考えがあっての前進、では、なかったようだ。

『根拠の提示……』

 この様子だと、城戸さんも気付いていたらしい。応えた羽佐間さんの言葉で、私たちは思わずその場にしゃがみこんだ。


「勘、ですが」


 黒峰さんの端末機械から、つづりさんの声が聞こえてくる。

「えっと、同じ所をずっと……ぐるぐるしてるみたい、ですよ?」

「やはりそうでしたか……予め把握できていない空間はどうも苦手なのです」

 自覚があったらしかった。ラインハルトが控えめに申し出る。

「わ、わたくしで、よろしければ……道案内をさせて頂ければと思います、ラセン」

 かなりしっかりしているように見える羽佐間さんだけれど、迷路はかなり、苦手らしい。


 そんなわけで、今度はラインハルトに先導されて、出口を目指す。

 と、


「ラセン、わたくし、重大な発見をしてしまったやもしれません……!」

 興奮気味に、羽をバサバサ言わせながら喋るカラス。


「どうしました?」

「この迷路空間、構造式がわたくしの世界のものではございません! 書き換えられているようでございます。もしや、我が主の魔力を狙った、陰謀なのでは……!」

 バッサバッサとうるさいカラスを、黒峰さんが遮った。


「あの……元々の構造式に、ランダムに数値を挟んだ結果なんだよね。式の原型は留めていないと思って下さい。陰謀じゃないよ」


『余計なことを……』

 城戸さんに、完全同意。

「……何か良い方法はないのでしょうか」

 羽佐間さんが思考に沈む。

 私も考える。スマホさえ起動するならば、迷路の攻略法、とかいう検索ワードでネット上の情報を漁ってみたい。そしてその情報の検証実験をしたい。


 ……ん? 迷路の攻略……検証実験……


「あの……」


 試す価値は、あると思う。八方塞がりのこの状況に、少しでも変化を与えられるとすれば。


「どちらかの壁に手をくっつけて進んでいけば、いずれ迷路の出口に辿り着く、って……聞いたこと、ありませんか?」


 結果的に、それは大成功を収めたと言って良いと思う。

 時間はかかったけれど、前方に『出口』と書かれたゲートが見えた時には、安心のあまり涙が出た。

 全員が『出口』のゲートを通過した瞬間に迷路は音もなく霧消して、本来の景色なのであろう風景に変化した。


「ありがとう、綾音さん!」

 華火ちゃんの目が輝いている。

「これで戻れるよ! そしたら僕は、あの魔女を倒しに行くんだ!」

 あの気迫を持つこの子なら、あるいは本当に黒野さんを倒せるのかもしれない。


「……見事に消えたね……僕の力作……」

 黒峰さんはしんみりと背後を見やっていたけれど、気を取り直したようにこちらに向き直る。

「綾音ちゃん、君のお陰で難関をクリアできた。ありがとう」

 ……事態をややこしくした張本人が言えることだろうか。けれど、黒峰さんの笑顔に邪気はない。


「ラセン。それでは、わたくしの役目は、ここまででございますか……?」

「ええ。ラインハルト、あなたの世界に、ご迷惑をおかけしました。これにて一切の契約を解――」

「我が主、ラセン。あなたの軸に戻られても……わたくしはあなたの統治下に置かれることを、望みます」


 ……羽佐間さんと、このカラス――ラインハルトには、前世での縁、みたいなものでもあるのだろうか?


「夜色の鴉は、ラセンの使い魔であることに、誇りを持っておりますので」

「ですが……ラインハルト、本当に――」

「それがわたくしの望みにございます」

 ……色々と訊いてみたいけれど、部外者が立ち入って良い問題でもなさそうだ。

「螺旋さん、みんな! もうすぐだ!」

 何かを察知した様子の華火ちゃんが、場の空気を変えた。

 直後、地面から有り得ない光量が押し寄せてきて、


 再び、世界が反転し、


――僕たちは、秘されるべき存在

――記憶は

――守るために

――でも きっと



――また会えるような、気がする


     *    *     *


「……それが、先方の条件です」

「でもさ、マズくない? バレるんじゃない?」

「しかし、干渉してしまった事実もある」

「そもそも原因を作ったのは、黒野さん、あなたでは?」

「そうだよねー。一歩間違ったら、全ての世界に歪みが発生して……大変なことになってたと思いますけどー!」

「情管室長としては、今回のみ特例と見なすべきかと判断していますが……」

「記操としても、この件に関しては問題ないと判断したよ」

「部長としては、どうお考えに――あれ? 部長?」

「逃げた!」

「仕方がありません、審議官に指示を仰ぎますか?」

「あ、それならさっき指示が――」


     *    *     *


 ピピピピッ、ピピピピッ……

 スマホのアラームで、ぼんやりと目を覚ます。

 何だかとても、長い夢を見ていたような、そんな気がするけれど……内容はもう、思い出せない。夢ってそんなものだ。

 私は伸びをしてから、今日の予定を脳内で確認する。

 あ、サークルの先輩にノートを返さなきゃいけないんだっけ。


 軽い朝食をさくっと済ませ、準備も整え、時間にはかなりの余裕を持ってアパートの部屋を出る。

 大学までは近いから、澄んだ青空を見上げたりしつつ、のんびり歩く。

「あのー」

 後ろから、声がかけられた。振り向くと、女の人が立っていた。

 ピンクが混ざったすみれ色の、フレアスカート。


 ……どこかで見た、ような?


「落とし物、ですよー」

「え?」

 女の人は、封筒らしき物を差し出してくる。

 ……私、そんな物、持ってたかな……?

「アヤネさん、ですよねー?」

「??」


 封筒を受け取らない、という選択肢は無さそうなので仕方なく受け取ったけれど、やっぱりその封筒に覚えは無い。

 うーん。どうしよう、困ったな。とりあえず、中を確認してみても良いだろうか?

 ちょっと迷ったけれど、仕方ない。封筒と言っても、封はされていないし、思い切って中身を見てみる。


 一葉の写真。


 覚えはない、はずなのだけれど……

「……あれ? これ、私?」

 知らない人たちに囲まれて写っているのは、確かに私、秦野綾音で間違いない。

「いつの間に、こんな……」


 大学の知り合いでは無さそうだし、何故かセーラー服姿の中学生なんかも写ってるし、蝶ネクタイをしたカラスまでいる。何だろう、これ。


 あ、この女の人なら、もしかして、何か知ってたりしないだろうか?

 訊いてみようと顔を上げたけれど、既にそこに彼女はいなかった。


 ……あれ?


 途方に暮れていると、聞き覚えのある声が、背後から。

「おーい、綾音ちゃーん! お、は、よー!」

 件のサークルの先輩、紗雪さんだ。

「おはようございます、紗雪先輩」

「ん? 何持ってるの?」

「えっと……これは内緒です」

「何それー! 気になる!」

「あ、それより、ノート、ありがとうございましたー」


 私の日常は、いつもと変わらず続く。

 非日常に憧れたりもするけれど、どうやらそんな世界は、私の日常に入り込む余地なんて、なさそうだ。



Break time is end...and...To be continued...

次回より第二章開幕です。

以降ずっとシリアス路線になります。温度差にご注意下さいませ。

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