世界を滅ぼさなかった魔王
「こんな夜更けに良く集まってくれた」
既に夜天に輝く満月は頂点を過ぎようとしていた。
ヒカリ達『勇者』と呼ばれるメンバーは、帰還のための魔法の説明を受け今後の方針を固めたところだった。
「既に報告に来た騎士から聞いていると思うが——————魔王サタナエルが討たれた」
だが、今しがた皇帝・グラディウスが口にしたような伝令がヒカリ達が居た応接間にもたらされたのだ。
「魔王を討ったのは誰なのです?」
ザバルは不安そうな顔のフェリアに少しだけ目を向けながら、グラディウスへ疑問を投げかける。
「討ったのは新たな魔王『ベレト・フォーリ』という名の魔族だ」
「フム………聞いたことのない名だ………第一階級の魔族が王になった訳ではなさそうですなぁ」
己が推測を述べるのはリーディス・ガヴ。骨に皮を張り付けたような細い男。―――皇帝に様々なことを進言出来るほどの発言力を持った大臣。
以前にヨミヤを巡る捜査方針で、アサヒと一悶着あった大臣だ。
「他に何か情報はねぇのか———ないのでしょうか陛下」
危うく不敬罪一歩手前の発言を慎んだのは、近衛騎士団団長・シルバーだ。
「いや、判明しているのは名前のみだ。―――そもそも、この情報も国境の町を襲った魔族が遺していった情報らしい」
「………町は大丈夫なのでしょうか?」
おそるおそる発言するアサヒに、グラディウスはしっかり頷く。
「騎士に犠牲者が何名か居るが………おそらくデモンストレーションを兼ねた情報の拡散が目的だったのだろう。住民の被害はなかったそうだ」
「そう、ですか………」
決して、『良かった』とは発言しない彼女は、そのまま口を閉ざして聞き役に徹する。
「………陛下、少しよろしいでしょうか?」
「どうした?」
いつもは静かに皇帝の話を聞くヒカリの珍しい発言に、グラディウスは耳を傾ける。
「討ち取られた魔王………サタナエルについて………その強さをあまり存じません。―――彼の者はいったいどれほどの強者だったのでしょうか?」
「………そうか、詳しく話したことはなかったな」
ヒカリにの疑問に、グラディウスは息を吐き―――口を開く。
「魔王が最初に現れた時代………人類はこうして町を築くことも出来ない程に魔族に追い詰められた時代がある」
「えっと………確か、『絶命期』———だったでしょうか」
「そうだ」
ヒカリの言葉を肯定しながら、グラディウスは続ける。
「エイグリッヒの発見した魔導書にはな、その時のことが記されていてな———どうやら、最初の魔王を討ったのは、勇者召喚によって召喚された勇者らしい」
「なるほど、『存在する』ということは以前に使用されたことがある魔法だと思っていましたが………」
「話が逸れたな」
グラディウスは、玉座より遥か北方を睨む。
「魔王サタナエルは、そんな『絶命期』に君臨した魔王に次いで人類を追い詰めている魔王なのだ」
魔族は基本的に戦うことが好きな種族である。―――気性が荒い者が多く、サタナエルが台頭するまでは魔族間での連携が今ほど上手くいっていなかったのだ。
いくら個人個人が強くとも、戦争は所詮、質量勝負。―――魔族にはない密な連携を武器に人類は魔族の攻勢を退けてきた。
「あの魔王はな、本当の意味で魔族をまとめ上げてしまったのだ。―――軍を再編成し、各人員の配置を見直し、強固な守りを実現し………魔族の高い戦闘力を生かして我らを追い詰めていったのだ」
「………魔王サタナエルは、それほど人望の厚い魔族だったのでしょうか?」
「ふっ、魔族に『人望』………か。―――だが実際にそうであろうな。『恐怖』などでまとまるような種族ではない。それなら、まとまった理由はそれ以外考えられん」
人でない者に『人望』という言葉を使うことに冷たい笑いを隠せないグラディウスは言葉を続ける。
「あとは、よく言われているのは『第一階級の数が歴代で一番多い』という話だな」
「一番………アベリアス、アスタロト、ネヴィルス………それとアガレスか」
指折り数えて、ヒカリは『四人』という数字にたどり着く。
「いや、魔王軍にはもう一人、お前たちが見たことのない第一階級———アザエルという者がいる」
「ついでに言えば、エイグリッヒの爺さんが過去討ち取った第一階級が一人いるぞ」
グラディウスとザバルの捕捉に、ヒカリは立てる指を二つ増やす。
「六人………」
ちなみに、先代魔王には三人の第一階級が仕えていた。―――先代と比べても、その数は単純に倍だ。
「マンガだったら、中々多い数だね」
「でも私、敵の幹部が十人出てくる作品知ってるよ………!」
「加藤君、セーカ、ちょっと静かにしようか」
「「はい………」」
アサヒに咎められた加藤と茶羽は、すぐに口を閉ざす。
「彼の魔王は、何も『人望』だけの魔王ではない」
少しだけ静まり返った玉座で、グラディウスは話を続ける。
「エイグリッヒが初めて第一階級を打ち取った三日後だったか………サタナエルは一度だけこの帝国領に姿を現したことがある」
「第一階級を打ち取った後………ということは………」
「あぁ、サタナエルはエイグリッヒを殺すつもりでやってきたらしい。―――そして、あのエイグリッヒが殺されかけた」
「あのエイグリッヒさんが………」
「幸い、任務から戻ってきたエクセルが駆けつけ、逃げ切ることが出来たらしいがな」
それでも、帝国の最重要戦力であったエイグリッヒとエクセルは、数か月の間動くことも出来ない負傷を負ってしまったらしい。
「第一階級を討伐………もしくは追い詰めることの出来る二人があそこまで追い詰められたのだ。―――その強さは尋常じゃない」
第一階級に匹敵する強さを誇るエイグリッヒとエクセル。
その二人を相手取り、サタナエルには全く敵わなかったらしい。
「………」
事実であるならば、魔王サタナエルはあれだけ強い第一階級とは———隔絶した強さを誇るだろう。
―――それこそ、単独で世界の人間を殺しきることが出来るほどの。
「ま、待ってください………じゃ、じゃあ、そんなサタナエルを討伐した『ベレト』って魔王は………」
ヒカリの声が上ずる。
「………間違いなく」
シャンデリアの明かりが、揺れる。
「史上最悪の魔王だろう」
※ ※ ※
魔王城。
漆黒の居城———その一室で魔国の政を司る重要人物たちが集まっていた。
「………」
その中心でヨミヤ———否、『ベレト・フォーリ』は口角を吊り上げた。
「帝国に全面戦争を仕掛ける。―――よく聞けよ」
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