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Odd :Abyss Revengers  作者: 珠積 シオ
決戦の人魔編

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勇者達の方針

「コチラでしたかフェリア様、ハーディ様」


 帝宮の図書館へ、白髪に切れ長の瞳が目を引く少年騎士・ミヨが姿を現す。


「あら………確かミヨ君だったかしら?」


「どうされたのですか?」


 歴史を塗り替える魔法が出来上がったことで、疲労感を漂わせる二人へ、ミヨは机の上に広がる魔導書に目を落としながらも、要件を端的に伝える。


「ザバル様がお探しでしたよ。―――今は執務室にいらっしゃると思います」


「そうでしたか。訓練で忙しいでしょうに、わざわざありがとうございます」


「いえ、お気になさらず」


「………」


 ハーディは、ミヨの視線が()()()()()()に向かっていることを察し、ジッと彼を観察する。


「………なんだか、気になる本でもあったかしら?」


「………え? あぁ………申し訳ありません」


 酒ではなく、疲労に酔っているエルフに指摘された少年は、ハッと我に返り、申し訳なさそうに頬をポリポリと掻く。


「どうにも、ルーン文字以外の見慣れない言語が記された魔導書が置いてあったので、気になってしまい………」


「それはそうよぉ、だってこの魔導書には勇者召喚(ギフト・ブレイバ―)の術式が記された魔導書で、ルーン文字と幾何学式、古代文字によって記された『混合様式』の魔導書よ」


 ハーディは、パタリと勇者召喚(ギフト・ブレイバ―)の記された魔導書を閉じて手に取る。


「この術式を読み解けるのは世界でもエイグリッヒ、セーカちゃんと私ぐらいじゃない?」


 長き時を生きるエルフは、賢者の人数を指折り数え———そして、手を止める。


「―――あぁ、でも魔王軍のアベリアス君と魔王・サタナエルは分からないわね。充分読める可能性があるわ」


「世界でたった五人しか解析できない術式………」


 口元を引きつらせるミヨは、ますます魔導書から目が離せなくなる。


「世界でたったそれだけしか解読できないのなら、たとえ不届き者が持ち出しても読めませんね」


「………魔族との戦いの最中でしょう? その不届き者がただの泥棒だったらいいのだけどね?」


「………それは………そうですね」


「はは………」


 ハーディは魔導書を図書館の一番奥の棚に仕舞うと、フェリアを連れて部屋を出る。


「世界で………五人………」


 呟くミヨは、けれどすぐに踵を返し、図書館を後にした。



 ※ ※ ※



「みんな!」


 来客用の応接間。


 帝宮の中で数ある応接間の中で、よく勇者一行が利用している部屋。


 そこでいつも通り情報共有をしていたヒカリ、タイガ、加藤———そして、好きでヒカリの後をついて歩いているセリルが、入ってきた茶羽に視線を送った。


「どしたのセイカ?」


 すぐに立ち上がり、茶羽に近寄るのは加藤だ。


「あのね、完成したの………!!」


「完成した………って………まさか………」


「「「………?」」」


 主語のない茶羽の言葉に、ただ一人加藤が何かを察する。


 しかし、ヒカリ、タイガ、セリルは三人そろって何の話か見当がつかず首を傾げる。


「なぁ茶羽、『完成した』って………一体何の話してんだ?」


「タイガ君………千間君と剣崎君が帝都で戦った後………私の言ったこと………覚えてる?」


 それは少年少女達の心に小さくない傷を残した戦い。


「………」


 剣崎ヒカリと千間ヨミヤが帝都内で激しい戦いを繰り広げ———帝都に甚大な被害をもたらした戦いだ。


 ―――そして、二人の少年の因縁が始まり、勇者達の運命を歪めてしまった日でもある。


『みんなで帰って………遊ぼう?』


 それは、全てが終わった後………茶羽セイカが望んだこと。


 タイガは、その言葉を思い出し、驚愕に目を見開く。


「………出来たのか? ―――元の世界に帰る魔法が………!?」


「………うん!!」


「マジかよ!!」


 茶羽は、出来た魔法の概要を二人に向けて話始める。その様子は、学校で作った工作の作品を親に見せる幼子のようであった。


「元の………世界ねぇ………」


 息を深く吐き出しながら、同級生達の様子を見つめるヒカリ。


「………良かったすねヒカリ様! これで元の世界に帰れますね!!」


 気が付くと、隣に居たセリルが茶羽達の方へ視線向けたまま言葉を紡ぐ。


「………」


 結わえている長い後ろ髪を胸の前に流し、いじりながら笑うその横顔を見つめるヒカリは———やがて困ったように口を開いた。


「今まで、自分のやらかしたことの責任を全うするために必死だっからなぁ………正直、『帰る』なんて忘れてたよ」


「ヒカリ様………」


 セリルがヒカリと交流を始めて数年。―――当時は自分を助けてくれたヒカリを、一途に慕っていたセリルも、今となっては彼のしでかしたことを把握している。


 それでも、自分を助けてくれたヒカリに変わらず接するセリルは、故郷に帰ることすら忘れて他人のために働き続けたヒカリに、その柳眉を下げる。


「………俺は、自分のやったことに対して………まだ償うことが出来ていない」


 既に『成人』と呼ばれる年齢に達した元・少年は、セリルの肩に手を置く。


「―――何言ってんだろな俺は……………まぁどちらにせよ、凄い魔法にはそれだけ厳しい条件があるだろうし、『帰る』も『帰らない』もまだ少し先の話だろ」


「………そう、すね」


 魔法の詳細を確認するため、茶羽の元に歩み寄るヒカリの背中を見つめ、セリルは呟く。


「もう少し………先の、話………」



「ただいまぁー………」



 そこへ、ミヨを連れたアサヒが入室してくる。


「アサちゃん、おかえり!」


 アサヒの帰還に一番に反応したのは茶羽だ。


「お、ミヨも一緒か」


 タイガの言葉に頷くのは、白髪の少年ミヨだ。


「はい、先ほど廊下でバッタリ会って………此処に行くとおっしゃっていたので、荷物持ちとしてご同行しました」


 長期の外出をしていたと見て取れるアサヒのバッグを近くのソファに置くミヨ。


「ありがとうミヨ君。おかげで楽が出来たよ………」


「いえ、お疲れのようでしたので、お手伝いできたのなら光栄です」


 アサヒは、荷物の置かれたソファに自らも座り、天井を見上げて瞑目した。


「アサちゃん、千間君を探しに行ってたんだよね………?」


 明らかに疲れているアサヒに、少し遠慮がちに声を掛ける茶羽。


「うん、今回はメフェリトより北方の砂漠地帯までね。―――結局手がかりはなかったけど」


 相変わらず瞑目したまま、それでもなるべく心配させないためか———声色はいつも通り茶羽に言葉を返すアサヒ。


 ヨミヤが行方をくらまして一年が過ぎたころ、アサヒは訓練の回数を減らして積極的に全国を探し回り、ヨミヤの行方を捜していた。


 それでも、手がかりは一向に見つからず、段々と帝宮を留守にすることが多くなっていた。


 ちなみに、勇者として皇帝から下される任務もたまにあるが、アサヒが出先で積極的に人々の支援を行っているため、皇帝からの任務は他の勇者に比べて少ない。


「そっか………あ、あのね………アサちゃん」


「んー? なぁにセーカ?」


 口ごもる茶羽。―――何かを察したアサヒは声色を柔らかくし、身体の向きを彼女へ向けた。


「じ、実は………元の世界に帰る魔法が完成して………」


「へ………?」


「えっ………」


 その言葉に、成り行きで話を聞いていたミヨも言葉を詰まらせた。


「魔法が出来上がったことにさっきまで舞い上がってたんだけど………」


 驚愕に目を見開いているアサヒ。―――その様子は第三者から見ても簡単に分かる。


 だが、茶羽はなんだかモジモジしてハッキリしない態度だ。


「千間君を探してるアサちゃんにそんなこと言ったら『千間君を置いて行くつもり』だと思われないか………気になっちゃって………わ、私、全然そんなつもりないからね………?」


「………」


 茶羽の言葉に、またしても言葉のでないアサヒは、


「ぷっ………あははははははははっ!!」


 盛大に笑い出した。


「な、なんでっ!?」


「だ、だって………メチャクチャ凄いことしたのに、心配していることが………そんなことって………あははははっ!!」


「な、なんでよー! 本気で心配したのにー!!」


「あははっ、ごめんごめんセーカ!!」


 行儀悪くソファを乗り越えたアサヒは、茶羽の後ろから抱き着く。


「ありがとセーカ!! 心配してくれたことも嬉しいし、魔法が出来たことも良かったと思う!! ずっと頑張ってたもんね!!」


 彼女達のやり取りを、他のメンバーは微笑みながら見つめた。



 ※ ※ ※



「―――以上の理由から、ハーディさんの見立てでは、『発動は出来るものの、膨大な魔力が必要』らしいの」


 図書館でハーディの説明に、自身の推測も交えて魔法の説明を終える茶羽。


「大量の魔力………———確か勇者召喚(ギフト・ブレイバ―)発動の時は何十人の魔法使いが魔力欠乏になるほどの魔力をつかったんだろ?」


「うん………私達が召喚された直後は、あのエイグリッヒさんでさえ魔力を消費しすぎて動けなかったから………私達全員の魔力じゃとても足りないと思う………」


「マジか………セーカや真道が居てもダメなんだ………」


 この中でもかなりの保有魔力量を誇るアサヒや茶羽が居ても足りない魔力の量を実感する加藤。


「それなら、少なくとも帝国の力を借りないと魔力の話は解決しないだろうな」


 顎に手をあて、話を聞いていたタイガは肩眉をひそめながら口を開く。


「あぁ、だが………仮にも『勇者』なんて呼ばれてる俺達が元の世界に帰ることを帝国は許さないだろうな」


 ヨミヤを唯一圧倒したヒカリは、その実力から高頻度で皇帝より任務を授かる。―――他のメンバーよりも皇帝と言葉を交わす回数が多いのだ。


 だから、多少なりとも皇帝・グラディウスの人柄は知っている。


 ―――そんな皇帝の印象は良くも悪くも『リアリスト』。


「………少なくとも、魔族との戦争に勝利しない限りは帰還のための話し合いにもならないかもな」


「逆に魔族に勝てたら話し合いになるの? ―――『国の戦力だー』なんて言われて一生こき使わされそうな気がしないでもないんだけど」


 ソファに反対側から寄り掛かるアサヒは、ヒカリの言葉に疑問を呈する。


「多分、その可能性は低いと思う。―――魔族との戦争に勝てば………あの人は、魔族を根絶やしにする」


「「「………」」」


 ヒカリの言葉に『勇者』達の間に沈黙が訪れる。


 何故なら、その言葉は約二年前———ヨミヤが行方不明になるキッカケになった、あの玉座での出来事を想起させるから。


「………もしも、魔族があの人の思惑通りに根絶やしにされたとして」


 自分の言葉に嫌なものを感じながら、それでもヒカリは言葉を続ける。


「次に人類の手に負えない戦力は———()()だ」


 ヒカリはその視線を他のメンバーに向ける。


 返ってくるのは、皆の納得したような視線。


「俺達を『処刑』、もしくは『追放』できたとして―――俺達が素直に捕まる保証も、国民の批判が出ないとも限らない」


「あぁなるほどな。―――そうなりゃ、一番丸く収まる方法はひとつだな」


 思いついたように頷くタイガ。


「タイガ、一人で『わかってる』ムーヴしてるとみんなに嫌われるわよ」


「うっせぇ!!」


 昔のように喧嘩するアサヒとタイガに苦笑いしながら、ヒカリは言葉を紡ぐ。


「一応、しっかり説明しておくと、帝国にとってより安全により国民を刺激しない『俺達の排除の仕方』は、茶羽が開発してくれた魔法で俺達を元の世界に返すこと———だと思う」


「はぇー、確かに!」


 加藤は、喧嘩するアサヒとタイガをよそに、納得したように『ウンウン』と頷いていた。


「じゃあ、私達の当面の目標は———」


「ああ、最低でも『魔王の討伐』。―――これを成し遂げない事には帝国は絶対に協力してくれないだろう」


 当面の目標を掲げたヒカリに、アサヒは言い合いをしているタイガを無視して顔をヒカリに向ける。


「魔王と戦うなら力を貸すけど………それまでは私は引き続きヨミの捜索をするわ」


「それで構わないよ。―――どのみち、魔王討伐にはまだ『力』が足りないと思うしな」


 今にもアサヒに噛みつきそうなタイガは、その顎をアサヒに持ち上げられたところで、何かを思いついたかのように不自然な格好で口を開く。


「どうせなら、あの王サマが俺達を無事に返してくれる保証なんてないんだ。―――茶羽は帝国の協力なしでも魔法を発動できる方法でも探ったらどうだ?」


「そうだね。―――私の得意分野だし、『消費魔力を抑える』方向で術式をいじってみたり、何か別のアプローチをしてみるね」


「話はまとまったな。―――じゃあ、もう夜も遅いし………そろそろ解散するか」


「了解。―――ヒカリ、このあと訓練付き合ってよ」


「アサちゃん………解散って意味知ってる………?」


「ハハハ………わかった、付き合うよ真道」


「む………自分もご一緒するっすヒカリ様!! ―――ミヨも付き合うっすよ」


「………………うっす」


 『俺達も訓練するか加藤!』なんて言うタイガに、悲鳴を上げる加藤。―――各々が部屋を後にしようとしたとき、



「大変です!!!!」



 慌てた様子の騎士が扉を乱暴に開けて入室してきた。


「どうしたっすか、こんな夜中に」


 かなり息切れした様子の騎士に、尋常ならざる事態を警戒した勇者達は身構えながら騎士の言葉を待つ。


「ま、魔王サタナエルが討たれ………()()()()()()()()()()()()ッッッ!!」

閲覧いただきありがとうございます。

ドラクエの1,2,3をクリアしました。2の最後、ホント良かった…

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