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転生悪役令嬢は、推しと会う


「ー聞きしに優る溺愛ぶりだな、()大夫」


振り返った先にいたのは、我が最推し。前世で熱を上げ、たっぷり貢いだあの方。


(ショウ)大法院長。こんな所でお会いするとは思ってませんでした。せっかくお声かけ頂いたところ申し訳ないんですが、今いいところでー」


「ああ、すまん」


ちょっとおとぼけさんなところは漫画通りだな、(ショウ) 俊熙(ジュンシー)


再び甘い笑みで近づいてきた浩然(ハオラン)の顔をむんずと掴んで止める。ったく、こいつは本当に何を考えているんだ。


「……琳霞(リンシャ)


「さっきはつい流されそうになったけど、私は人前で口づけはしません。かといって宿にも入りません」


「そんな殺生な」


「婚姻前に宿になど入ったら醜聞だわ。もし婚約の継続が危うくなってしまったらどうするの?」


「それはいけない」


クックックと(ショウ)大法院長が肩を震わせて笑っている。どこか面白い要素がありましたでしょうか。


(シュ)侍衛、君もいたのか」


「お久しぶりです、()大夫。そちらは許婚の方ですか?」


(シュ) 仔空(シア)もいるとは。さすがW主人公、仲良しだな。笙鈴(ショウリン)が聞いたら羨ましがりそうだ。


「ああ。許婚の(カク) 琳霞(リンシャ)だ。琳霞(リンシャ)、知ってるとは思うけど、こちらは大法院長の(ショウ) 俊熙(ジュンシー)殿とその部下の(シュ) 仔空(シア)だ」


「お目にかかれて光栄ですわ、大法院長さま、(シュ)さま」


令嬢教育で施された礼をすると、(ショウ) 俊熙(ジュンシー)は丁重な礼で、(シュ) 仔空(シア)は爽やかな笑顔で応えてくれた。


「お初にお目にかかる、(カク)家の姫君。陛下よりお噂はかねがね」


「まあ、陛下からですの?」


「陛下は従兄弟の()大夫と義妹の貴女の成婚をそれは楽しみにしていらっしゃる」


そうなのか。まあお姉様と絶賛イチャラブ中の陛下は、最近私にも優しいけど。


「お会いできて嬉しく存じます、(カク)様。皇后さまのご懐妊をお祝い申し上げます」


「ありがとうございます、(シュ)さま」


お姉様のご懐妊が発覚したのは一週間前。まああれだけイチャイチャしてたら子どもの一人や二人できるだろう。


「陛下と皇后さまの仲睦まじさは我々としても喜ばしいところ。ただ、一つがご忠告申し上げる」


「……何か心配ごとでも?」


「今の陛下は皇后さま以外目に入らぬご様子。ご懐妊中で夜伽の相手が務まらぬにも関わらず、毎夜のように皇后さまの宮に通われているとか」


「陛下のご寵愛を一身に受ける皇后さまを妬む者はそれなりにいるのです。とはいえ、厳重に守られている皇后さまに手出しするのは難しい」


妹の私を害して、お姉様を揺さぶろうってわけね。なんて下劣な。


お姉様は私をとても大切にしてくださる。たった一つしか変わらないのに、お姉様は私の母がわりを務めてくれていた。


琳霞(リンシャ)、わたくしの可愛い妹。おまえに何かあれば、わたくしは生きてはいられないわ。


漫画でも、「(カク)皇后」は「(カク) 琳霞(リンシャ)」を心から慈しんでいた。愛する妹を永遠に失ったことに耐えきれず、生ける屍となった「(カク)皇后」を貴族たちの口さがない中傷から守るため、「皇帝」は彼にとって最も辛い選択をするのだ。最愛の「(カク)皇后」を廃后し、出家させる。心は「(カク)皇后」にとらわれたままなのに。


「加えて、()武官に憧れている者も多い。十分にお気をつけを、姫君」









陛下の言祝ぎを受け、両家が認めた婚姻ではあるが、私と浩然(ハオラン)の婚約を快く思わない人間は一定数いる。


我が郭家の長女であるお姉様は皇后で、ただ今ご懐妊中。生まれた子が男子ならば、東宮決定だ。つまるところ、次代の天子である。


李家の夫人たるおばさまは先帝陛下の同母妹(いもうと)。おばさまと先帝陛下の母・(リュウ)太皇太后さまは将軍家の娘だった方で、おばさまもまた軍部にパイプを持っている。また、おばさまは帝国貴族界の中心。おまけに跡継ぎの浩然は陛下の信が厚い。


要するに力ある二家が結びつくのが気に入らないのだ。


星陽国貴族の頂点に君臨する、李・郭・(チョウ)(ホウ)の四家。四家はそれぞれ独自の派閥を作っている。李家と郭家が結ぶことで自らの権益が脅かされるんじゃないかって趙家と蓬家は警戒してるってわけ。四家以外の貴族も、強大化を恐れる心は同じだ。


「ちょっと考えさせられちゃったわ」


「大丈夫だ、琳霞。趙大臣も蓬大臣もこの婚姻を快くは思っていないだろうが、彼らが結ぶ可能性は零に近い」


そうなのだ。なぜなら、この二家はとっっっても仲が悪いから。犬猿の仲。水と油。氷炭相容れず。


二家のいがみ合いは年季が入っている。何しろ建国当初からだ。不仲を改善するため、何度か婚姻が行われたが全て徒労に終わったらしい。


「それに梓宸(ズーチェン)殿の奥方は趙家の娘だろう。趙大臣も滅多なことはしないと思う。-真に警戒すべきは、四大貴族ではない」


四大貴族に次ぐ家柄を誇る七家。劉・()(ハン)(オウ)(エン)(ソウ)(ケイ)


「劉家は母が手綱を握っているから今のところは大丈夫だろう」


「韋家は韋賢妃の失墜の連帯責任で衰退。他の家にちょっかいを出す余力はないわ」


「曹家は李家の派閥だし、荊家と淵家は郭家の派閥だから心配ないにしてもー問題は残り二家だな。彼らだけなら問題ないが、皇族(・・)と結びつかれると厄介だ」


財力はある二家。権威はある皇族。


脳裏に浮かんできたのは、蛇のような笑みを浮かべるあの男だった。














「え? 趙家から花見の宴の招待状?」


「ああ、嫌がらせだろうが」


お父様によると、恐らくその花見の宴は趙家派閥で固められ、私をアウェイな状態にしていじめようとしているらしい。


「お父様ったら本当に姑息。琳霞を孤立させようとする魂胆が透けて見えるというものよ。娘である私は招待されていないんだもの」


「仕方ありませんわ、お義姉様。たった数時間の宴、我慢してみせます」


「大丈夫かい? ったく、わざわざ浩然が陛下の視察に同行して都を空ける日にするなんて、本当に性格が悪いな」


憤慨するお兄様とお義姉様を宥め、宴の話を聞いて怒り狂った浩然を落ち着かせるのに尽力していると、あっという間に宴の日になった。付き添ってくださるのはお兄様だ。


「-琳霞」


「お父様」


「攻撃は最大の防御だ。お前の存在を知らしめてやれ。それが郭家の娘としての務めでもある」


「……はい、お父様」


無理しなくていいと笑うお兄様と共に牛車に乗り込み、趙家に向かった。

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