転生悪役令嬢は、敵陣に乗り込む
「まあ、郭家の跡取りと末娘ではないの」
「どうして趙家の宴にいらっしゃったのかしらぁ?」
聞こえてるから。聞かせてるんだろうけど。
「これはこれは、梓宸殿と琳霞姫ではないですか。いらして頂けるとは(本当に来るなんてバカじゃねーの? バーカバーカバーカ)」
「ええ、趙大臣のお誘いとあらば。妻や浩然も来たがっていたんですよ(あんたからの直々の誘いを断れるわけねーだろうが。妻や浩然が来れないように妨害しやがって)」
談笑している二人の間にはバチバチと見えない火花が飛び交っている。私は優雅な笑みを保つので精一杯だ。
「それでは今宵はお楽しみください、御二方」
あんたそんなこと全く思ってないだろう。
宴が始まると、唯一の味方であるお兄様と引き離された。「女性どうしで話をしましょ♡」「殿方が入ってきてはいけませんわよ。無粋ですもの」だそうだ。あんたたち、お兄様がいないのをいいことに私をいじめる気満々だろう。顔にやったるでェって書いてありますが。
「皆様、先週の宴のこと覚えておいでですか?」
「勿論ですわ、美杏さま。とっても素敵でしたよね」
趙家の宴に初めて参加した私に、その話題についていけるはずもない。趙家派閥の筆頭・范家の娘、范 美杏の嘲るような笑みに、悔しいので優雅な笑みを返してやった。ふんだ。
「琳霞さまは先週の宴で趙大臣がどんな詩を詠まれたかご存知ではないのですか?」
「ええ、私はその宴には参加してませんから」
「まあっ! たとえ参加していなくとも、情報を集めるのは大切なことでしてよ。これでは浩然さまがお可哀想。ねえ、皆様?」
「その通りでございます、美杏さま」
そうだった。こいつらはみんな浩然のファンなんだった。だからこんなに敵意ギラギラなのか。
「浩然さまは、色事に興味のない方でいらっしゃるから、幼馴染の琳霞さまは面倒がなかったのでしょうねぇ」
「ああ、残念ですわ。美杏さまが浩然さまの幼馴染でいらっしゃったなら、きっと浩然さまも恋の素晴らしさをご存知でしたでしょうに」
あわよくば、范家と櫻家の敵対感情をなくそうと思っていたけど、無理だな。趙家派閥でさえこれなのだ。蓬家派閥である櫻家に至っては絶望的だ。
「さっきから何も仰らないけど、元気がなくなってしまったのかしらぁ?」
本当に意地悪な笑みが似合うな、范 美杏。いっそあっぱれと言いたいぐらいだ。
「いえ……みなさまに浩然とのお話をしようかなと思ったのですが、どれからお話しようか迷ってしまって」
そろそろ反撃開始するか。お父様の言いなりになるわけでないが、攻撃は最大の防御なのだ。
「このかんざしは、浩然が贈ってくれたのです。彼はそのことをご令嬢方に話すといいと言っていたのですけど、こんなこと話されても困ってしまいますよね?」
「そ、そのかんざしに彫られているのって」
「李家の家紋……」
「ええ、そうなのです。正式に婚約が調ってからは、家紋入りの贈り物をしてくれるのです」
家紋入りの贈り物の意味は、家族全員でその者を歓迎する、という意味ともうひとつ。
命果てるまでの愛の証。
これでどうだ! と范 美杏に微笑みかけると、ヤツも取り巻き連中と違って転んでもただでは起きなかった。
「まあ、羨ましいことですこと。琳霞さまは浩然さまの幼馴染でいらっしゃって本当に幸運ですわねえ。小さい頃というのは視野が狭いものですから(狭い世界にいたのがあんただったからあんたを好きになっただけなのよ! もし私があんたの立場でも同じようなことになってたわ!)」
「まあっ、なんてことを仰るのですか? 幼い頃の浩然を、愚弄なさるのですね」
「えっ」
「私、胸が痛くて潰れてしまいそうです」
秘術・話題のすり替え。
「浩然は幼い頃から、とても素敵な人でした。私の涙を拭ってくださったり、本を読んでくれたこともありました。母の亡くなった後、部屋にこもりがちになった私を連れ出してくれたのも彼でした。咲き誇る花の可憐さも、輝く太陽の壮麗さも、空にかかる月の艶めかしさも、彼が教えてくれなければ知ることはできなかった。そんな浩然を、視野が狭いゆえに自分の気持ちを見誤るような愚か者だと仰るのですか?」
畳み掛けると、范 美杏は顔を真っ赤にしてプルプルと震えると、「誤解があるようですわね。私はこれで失礼させて頂きますわ!」と取り巻きを従えてどっかに行ってしまった。おし、迎撃完了。
「琳霞さま」
「あなたは、櫻家の雹華さま! なぜここに!?」
范 美杏が私を思いっきりいじめるためにここは人目につかないけど、趙家と犬猿の仲の蓬家の傘下・櫻家の娘たる雹華さまがいるなんてバレたら大騒ぎになる。
「そうですね。ーごめんなさい、琳霞さま」
「っ、何を」
背後から薬をかがされ、意識が遠のいていく。
「あなたに恨みはないのですが、これも一族のためなのですわ」




