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転生悪役令嬢は、姉夫婦の仲を取り持ちたい


三日後、すっかり回復して図書室で本を読んでいた私のもとを、浩然(ハオラン)が訪ねてきた。


「奴は早速来た」


「早かったね」


「ああ。琳霞(リンシャ)から話を聞いていて良かった。……何か、禍々しい恐ろしい力を感じた。自分が自分でなくなってしまうような……。刀を壊す役は(シュ) 仔空(シア)に頼んだんだが、奴もどういうことかと首を(ひね)っていた」


奴は結構鋭いから誤魔化すのに骨が折れたと、ため息をつく浩然(ハオラン)。お疲れさまです。


しっかし、(シュ) 仔空(シア)か〜。「大帝国記」でも超強キャラ設定だったもんね。親友のすずちゃんは「(シュ) 仔空(シア)」派だったっけ。「(ショウ) 俊熙(ジュンシー)」派だった私も、「(シュ) 仔空(シア)」の戦闘シーンはカッコよくてドキドキしたなぁ。


「……なんで(シュ) 仔空(シア)の話で顔が赤くなるんだ」


「へ?」


浩然(ハオラン)の眉がますますへの字になった。


「変な誤解はしないでね。前世の漫画のこと思い出していただけだから」


「……ふぅん」


浩然(ハオラン)の機嫌は直らない。これは下手に謝っても逆効果だな。話を変えるか。


「これで、浩然(ハオラン)と私、お姉様とお兄様の死亡フラグは折れたわけなんだけど」


「……フラグ?」


「死亡の前兆のこと」


浩然(ハオラン)を死なせないように行動したことに対しては後悔は全くない。


だけど、ストーリーを変えたことで物語に齟齬が生じてしまうかもしれない。そう、たとえばお姉様と陛下の関係(・・・・・・・・・)とか。


「物語では、そのうちお姉様と陛下の不和は解消されるんだけど、私が物語を変えたことでそれができなくなるかもしれない」


「そういうもんか?」


「あくまで可能性の話だけどね」


少しでも可能性があるなら、対処しなくては。


「だから私、お姉様と陛下のこじれ切った関係をどうにかするため、邁進しようと思います!」


ここで一つ問題がある。前世の記憶を取り戻す前だって、私はお姉様と陛下の関係をどうにかしようとしていた。理由はたった一つだけ。お姉様のことが好きだからだ。


お姉様はそれはそれは陛下のことが大好きなのだが、高位貴族の長女として生まれたプライドと、ウルトラマックスハイパーツンデレな性格が邪魔をして、全く素直になれていなかった。


恋愛オンチであるお姉様と初恋を拗らせている(設定の)陛下の仲を私一人でほどくことは不可能に近い。


「……私も協力するよ。赦鶯(シャオウ)藍洙(ランジュ)のことはそろそろどうにかしなきゃと思ってたし」


陛下の御名(おんな)は「赦鶯(シャオウ)」、姉の名前は「藍洙(ランジュ)」という。陛下と最も親しい従兄弟である浩然(ハオラン)は、親しい人の前では陛下のことを名前で呼んでいる。


「ありがとうございます! そう言ってくれないかな〜って思ってたの」


「はは……具体的にどうしたらいいのかねぇ。あの二人のことは骨が折れそうだ」


「お姉様が陛下に対して素直になれない理由は三つ。(カク)家の娘としての誇り、そもそもの性格、残り一つはお父様」


漫画の設定だったので、お父様が本当に言ったのかはわからなくて、それとなく探りを入れたらビンゴだった。お父様〜!


お姉様は生まれた時から陛下の許婚だったけど、初顔合わせは六歳の時。そこで陛下(当然当時はまだ皇太子の身分でいらっしゃったけど)に一目惚れしたお姉様は、その感動をお父様に話すのだ。


彼を好きになったこと、彼にも自分を好きになってほしいこと。


ーあまり、赦鶯(シャオウ)殿下に自分を好きになってくれるよう望みすぎてはいけないよ。


ーどうして?


ーあの方は、いずれこの国の天子となられる御方。特定の人を好きになりすぎてはいけないんだ。もちろん、妃となる君との仲が良好なのは喜ばしいことではある。けど、好きになってほしいと乞えばあの方を苦しめてしまう。


それから「(カク) 藍洙(ランジュ)」は「赦鶯(シャオウ)殿下」を観察し、父親の言葉が真実であることを知る。


お父様の言ったことは間違っていない。けど、お姉様に限っては悪手だった。お父様の言葉を「好意を示すことはあの方の重荷になる」とウルトラ解釈したお姉様は、陛下に対してよそよそしくなってゆくのだ。


(カク)大臣がそんなことを……これは骨が折れそうだな」


「そうですね。ここで提案があるのですが」


ごにょごにょごにょ。


「うんまあ……かなり強引ではあるけど、あのすれ違いまくってる頓珍漢夫婦を何とかするにはこれしかないか」









私のお姉様はウルトラマックスハイパーツンデレだ。どういうふうにツンデレなのかというと、好意を持っている人の間では口数が極端に少なくなるのだ。


「それで、浩然(ハオラン)がこのかんざしを送ってくれたんです」


コクリ。


「そういえば、今度の宴はお姉様の主催なんですよね?」


コクリ。


こんなかんじで、親しい人の前ではお姉様はほとんど喋らない。この口数の少なさを、私は信頼の証と捉えているけど、陛下はたぶん違うだろう。


「ところでお姉様、陛下にいつ告白するのですか?」


「え?」


お姉様の顔がジワジワ赤くなる。陛下の話をする時のお姉様はまさに恋する乙女。本っ当に可愛いのだ。


「……あの方は、誰も特別好きになってはいけないのよ。好意を伝えることは、同時に好意を強請(ゆす)ること。あの方をお支えすべきわたくしが、そのようなことをしてはならない」


うんうん、立派にこじらせてる。半分はお父様のせいだけど。


「じゃあ、いつもみたいに(・・・・・・・)陛下のお話をしましょうか」


お姉様がどれだけ陛下に焦がれているか。お姉様との話の六割はそれだ。


「……ええ」


幸せそうに微笑んで、陛下の話を始めた。


一昨日、義務とはいえ夜に来てくださった。(カク)家への気遣いとはいえそれが嬉しかったこと。


幼い頃の陛下のこと。花を摘んでくださったけれど、好意を伝えてはいけないので満足にお礼が言えなかったこと。


陛下の寵愛(・・)を受ける(ホウ)貴妃が羨ましくて仕方がないこと。


十五分ほど陛下の話を聞かされていると、茂みの方でゴソゴソ音がした。


藍洙(ランジュ)……」


早いっ! 陛下っ! お姉様の話はまだまだ序盤だぞ!


後ろで浩然(ハオラン)が合掌していた。


私たちが立てた計画はこうだ。まず、浩然(ハオラン)が陛下を茂みに誘導する。お姉様に陛下への恋心を語らせる。以上。


「しゅ、主上(しゅじょう)……今の話、お聞きになっていたのですか……?」


震える声のお姉様に陛下が頷くと、お姉様を「帝国の薔薇」と呼ばれしその美貌を絶望に歪め、ダッシュで逃げ出そうとした。


「まあまあ、皇后さま」


「せっかく陛下がいらしたのですから」


「さぁさぁ」


「さぁさぁ」


女官たちがお姉様を陛下の前に誘導する。彼女たちも既に抱き込み済みだ。


陛下の前に突き出されたお姉様は、羞恥のあまりぷるぷる震えている。陛下が天を仰いでいた。わかります、可愛いですよね、うちのお姉様。


「君は……朕を嫌っていたのではなかったのか?」


「そんなことございませんっ! わたくしは……」


そこで言葉を切ってしまったお姉様を、陛下は切なげに見つめた。


「君が朕を好いていてくれるなら、それだけで朕は救われる」


「救われる……?」


「初めて会った時から、君のことが好きなんだ。君に冷たい態度を取られるのは、ひどくつらい」


その言葉に、陛下至上主義のお姉様は羞恥をかなぐり捨てた。


「わたくしも、初めてお目にかかった時からお慕い申しております……」


「ああ、藍洙(ランジュ)!」


真っ赤になったお姉様を、陛下はひしと抱きしめ、そのまま長い長い口づけまで始めた。私たちは空気を読み、スタコラサッサと退出することにした。



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