悪役令嬢
1000mリレーを何故、競技祭でやろうと思ったのかしら。
見てて楽しいものかしら?
そんな疑問を走る前に持っていたけど、もうどうでもいい。
もう、走り終えたのだから!
ビリにもならなかったし、変に目立ちはしなかったはず。
足はこれだけでガクガクですけど……。
後はもう、クラスの応援席に座っているしかないわね。
ふう、と一息つくと後ろから声をかけられた。
「アラベラ様、お疲れ様です!」
「リ、リタ様?!」
顔を真っ白な粉だらけにしたリタ様が現れて何事かと思ったけど……。
「障害物競走、お疲れ様でした。」
「はい!私、一位になりました!」
「流石……!」
「えへへ。」
にっこり笑って可愛いのだけど、真っ白なのよね……。
顔を洗ってきます、とリタ様は応援席から去っていったのだけれど、
リタ様の顔を見て何人かが目を丸くして驚いていたのは面白かったわね……。
次は借り物競争かぁ、なんてプログラムを見ていたら、横のイスにストン、と人が座った。
「あら、リタ様忘れものでも……」
「アラベラ様!」
「ミ、ミライ様……。」
今日、何度目かの登場のミライ様。
「競技祭って楽しいですね!次はウィル様が出ますよ!」
「は、はあ……。あの、何か私に御用でも……?」
あんまり聞きたくなかったんだけど、こう何度も声をかけられるのも辛い。
要件があるならさっさと言って欲しい。
「ウィル様って本当かっこいいですよね。婚約者のアラベラ様が羨ましいです。」
「さ、さっきも聞きましてよ。」
「私、ずっと心細い思いをしていました。記憶をなくして……。でもウィル様に出会ってからとっても幸せなんです。」
「あのそれも前半さっき……。」
え、何。この話を聞いて欲しいがために、わざわざ私声をかけられているの……?
「これって恋なんですかね?」
「は?」
思わず声が出てしまった。
私がかなり怪訝そうな顔をしたと思うんだけど、ミライ様は関係なく話を続ける。
「分かっています、アラベラ様っていう素敵な婚約者がいることは。」
「そうですか。」
「それでも、この気持ちは止められなくて……、ごめんなさい、ヴァネッサ様。」
「ヴァネッサ……?」
あれ、このセリフ、ニコラのルートで、ヴァネッサに対して言うセリフじゃなかった……?
どういうこと……?
思わずまじまじとミライ様を見てしまった。
うん、ヒロイン顔。
いやそうじゃなくて……リボン?
そういえば、ノーマルヒロインと違って、この子、リボンの色が違う。
ノーマルはショッキングピンクなんだけど、これはワインレッドのリボン。
結の……リボン……。
これって、一回誰かのルートでハッピーエンドでクリアできると貰えるアイテムで、
攻略対象との接触率をあげられるリボンなのよね。
二週目以降にならないとつけられないリボン。
この主人公、一度この世界をクリアしているってこと……?
確かにここはあのゲームそのままで、私もあのゲームのキャラクターの一人。
ループ、やり直しとかが私の気付かないところで行われている、ということなのかしら。
愛の魔法が使える理由が、これで説明がつく。
一度誰かとハッピーエンドになっていれば、覚醒しているわよね。
しかも私のことヴァネッサって……。
もしかして、何かの手違いで二週目で過去にタイムスリップしてしまった、とか?
今の時代にゲーム内での攻略対象は存在しないけれど、彼女は主人公。
イケメンキャラとライバルキャラさえいれば、攻略は可能……?
いやいや、妄想が過ぎるわよ私。
でも、もしこの仮説が正しければ、ウィリアム様は……。
「きゃー!ウィル様!」
考え事を長々としていたけれど、隣のミライ様の悲鳴で我に返った。
ああ、ウィリアム様は障害物競走に参加されてるのね。
拾った紙を見て、こちらの方を見る。
少し驚いた顔をしていたけれど、こちらに走ってきた。
「ウィル様!何をお探しなんですか?」
「……ミライ嬢、来ていただけますか。」
「はぁい!」
そう言って、ウィリアム様はミライ様の手を引いて、走り出した。
見事一位でゴール。
鑑賞位置は違うけど、この光景見たことあるわ。
ヒロインがその時点で好感度一番高い相手に、借り物競争で選ばれるのよね。
その時のスチル。
「正式ではない婚約は、いつでも破棄ができる。それなのに、婚約者は長い間、誓いをしてくれていない。」
ブルーノ様の言葉が、勝手に頭の中で再生される。
ヴァネッサはニコラと正式な婚約をしていなかった。それを思い出した。
「あの噂って、本当だったんじゃ……。だって今、自ら手を取りにいったぞ……。」
「おい、声落とせよ!」
「あ……。」
私が居たことに気付いてボリュームを下げたが、私にはしっかり聞こえていた。
……私はいつの間にか、悪役令嬢の祖母じゃなくて、主人公の悪役令嬢になっていたのかもしれない。




