やさしさの味
新学期から入学してきた、愛の魔法が使える一年生。
その存在の凄さは、噂の伝達速度でよく分かった。
「あのミライって方、愛の魔法が使えるそうですわ!」
「まあ、では真実の愛を?」
「それが、いつも一緒に傍に殿方がいらっしゃるの!」
「あらぁ?でもその方って正式ではないにしろ、婚約者がいらっしゃったような……。」
「ということは、婚約者を捨てて、真実の愛に走られたってこと?!」
「きゃー!そんな真実の愛ってアリなのかしら?!」
見たくない光景から逃げるために、別の階に逃げたというのに、
当事者が近くにいない分、尾ヒレがついた噂をたくさん耳にしてしまった。
気持ちが、悪い。
「アラベラ様?」
「ああ、ここリタ様のクラスルームの階でしたわね……。」
「私に会いに来てくださったかと、自惚れてしまいました。」
「もう。」
私の顔が青い原因を理解してくれていたのか、リタ様にしては珍しい返答をくれた。
「食堂に行きませんか?夏季休暇中に新しいデザートメニューが出来たんですよ。」
「……ごめんなさい、あまり食欲なくて。」
「では、何処かここではない場所に……。」
「……裏庭。」
「え?」
「あそこなら、きっと人がいないはずだから……。」
そう言いながら私はフラフラと裏庭の方に進んだ。
リタ様も慌てて私の後を追ってきてくれた。
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久しぶりの裏庭。
当たり前だけどとっくに桜は散っていて、木々は緑の葉っぱで覆われていた。
「こんな場所が……!」
「あまり人に知られていない場所だから、ここなら何も聞こえなくていいかなって。」
「そう、ですね。」
「桜のシーズンはね、ここはとても素敵な場所になりますのよ。」
「今でも十分素敵ですが、それは来年が楽しみですね。」
「えぇ……。」
来年の春。
私はどうなっているんだろう。
その時も、私はウィリアム様とミライ様の姿をみて辛い思いをしているのだろうか。
それとも―
先のことを考えると、苦しくて涙が出てきた。
隣にいるリタ様は優しく背中をさすってくれた。
そんなリタ様の優しさが嬉しくて、余計に涙は止まらなくて、声をあげて泣いてしまった。
「うっ、あぅっ……ひっく……。」
「大丈夫です、大丈夫ですよアラベラ様。ここなら誰も―」
「アラベラ、それにリタ嬢。」
「っ?!」
後ろから現れたのは前と同じ、ブルーノ様だった。
なんという最悪なタイミング。
大泣きしているのを見られてしまった。
「どうした?何故泣いている。何か辛いことが……。」
「なんでも、ないのです。」
"「婚約者は、自分の家や、アラベラの家を気にして破棄したくても出来ないんじゃないか?」"
過去に言われたブルーノ様の言葉を思い出して、更に苦しくなる。
「何でもないわけないだろう、そんなに泣いて……もしかして、婚約者のことか?」
「ブルーノ様、乙女には乙女の訳がございます。そんなに深く入り込むのはお止めください。」
「む……、すまない……。」
ピシャリとリタ様が言ってブルーノ様の言葉が止まった。
ザクリ、とブルーノ様の言葉は突き刺さるものだったので、申し訳ないけどリタ様の言葉がとても有難かった。
「でも、もし私が力になれることがあれば、力になる。いつでも頼ってくれ。」
「ありがとう、ござい、ます……。」
「じゃあ、また生徒会で。」
そう言うと、私たちの前からブルーノ様は去っていった。
「……本当、何をしに来たんだか。」
ブルーノ様が見えなくなってから、リタ様は一言、そう呟いた。
「リタ様……?」
「いえ、な、ななんでもありませんよ。アラベラ様。」
「そう……。」
聞き逃さなかったその言葉、何も聞かなかったことにしたけれど。
何か、あったのかしら……。
少し気が紛れたからなのか、泣いてすっきりしたからなのか、私のお腹が音を立てた。
「あ……。」
「そ、そろそろ、遅いお昼にしましょう、アラベラ様!」
「ええ、そうですね……。」
さっきとは違ってニコニコ笑うリタ様は、私の手を引いて食堂まで歩いてくれた。
夏季休暇中に出来た新しいデザートメニューは、背の高いグラスに、生クリーム、チョコレート、アイス、フルーツetc...
たくさんの具材が入ったパフェだった。
「アラベラ様と一緒に食べたかったので、我慢していましたが、これが幸せの味……!」
幸せそうにパフェを食べるリタ様。
嬉しいことを言ってもらって、涙腺が緩んでいた私はまた少し泣いてしまった。
甘いパフェが少しだけ塩っぽくなったけれども、これはこれで。
この味、いつまでも忘れたくないな、なんて。
そんなことを思いながら、溶け始めたアイスをつついていた。




