友達 side:R
リタ視点です。
夏季休暇。
殆どの生徒は家に帰ったらしい。
私は帰らない選択をした。
今家に帰れば、また私は卑屈な人間になってしまいそうな気がする。
あの絶望的に最悪な男と毎日顔を合わせ、半分しか血の繋がりのない兄と姉には罵声を浴びさせられる。
学校に通う前の心の支えは、お母様の侍女だったレイと、ジゼルお姉様だけだった。
自分でもこんな人間と仲良くなりたいとは思えない、自信がなくて、卑屈で、話そうとすると吃ってしまう。
そんな私が少しずつ変われているのはアラベラ様のお陰だ。
大変なこととか、怖いこととか苦手なことに巻き込まれたりもしたけど、前より心から笑える。
最初は怖かったダビ様も、ちょっと口が悪いだけで、本当はとても優しい人だと分かった。
確実に、私は前に進めていると、自分でも思う。
でも、あの家の住人の前では、また昔の私に戻ってしまう。
そもそも、帰る必要なんてあるのだろうか?
もうお母様もいない、あんな空間に。
3年後、卒業したら家に戻らなければいけない。それが今一番辛いこと。
卒業後、すぐに何処かの家に住み込みで働かせてもらえないだろうか。
夏季休暇中、予定がない日……ほぼそういう日ばかりなんだけど、そんなことをひたすら考え続けていた。
今日もそんなことについて悶々と考えていると、侍女のレイがノックをして入ってきた。
「リタ様、お客様ですよ。」
「えっ、アラベラ様?」
「いえ、その婚約者様です。」
「ええぇ?!」
突然の訪問、しかもウィリアム様って。
初めてお会いした時にご挨拶したとか、お昼ご一緒する時にご挨拶したとか、図書室行った時に偶然お会いした時に挨拶したとか……。
挨拶しかしてない……!!
4人でテストの話するとか、間接的に会話したかな?とかそのレベルでは……。
あ、あとこの間のお茶会の時に体調心配して下さったわね。
もしかしてウィリアム様ではない?!レイが婚約者をダビ様と勘違いしている可能性……それはとても凹む……。
いやそれにしてもダビ様だったとしても私に何の用事が、舞い上がっては駄目、舞い上がっては駄目よリタ……。
「ええええと、取り敢えず通して……。」
「かしこまりました。」
ドアから入ってきたのは、紛れもないウィリアム様でした……。
「ウィッウィリアム様、え、えっと、ご、ごきげんよう……。」
「ごきげようリタ嬢、突然押し掛けてごめんね。」
「い、いえ、だだ大丈夫です……何かあったんですか?」
「その……ベラのことなんだけど……。」
そうよね、ウィリアム様が私に用事ってアラベラ様のことに決まってるわよね。
ウィリアム様、本当にアラベラ様のこと好きですもの……二人には本当に幸せになって欲しいです……というか、アラベラ様に幸せになって欲しい……。
「ベラと、喧嘩のようなものをしてしまって……家に行っても面会を拒否されていて……。」
「ヒッ?!」
「今日も行ってきたんだけど、僕どころか、侍女以外には誰にも会ってくれないらしくて……。」
「そ、そんな盛大な喧嘩をなさったんですか……。」
「うーん、まあ僕が悪いんだけどね……。」
お恥ずかしい、と言いながらウィリアム様は苦笑された。
「それで、私が何か関係でも……。」
「よければ、ベラに会いに行ってくれないかな……。」
「私が、ですか?」
「僕に会いたくないならそれはそれで仕方ない、嫌だけどね。でも、今のようにずっと家族にさえ会わない状態がいつまでも続くのはよくないと思うんだ……。」
「ウィリアム様は、本当にアラベラ様のことを大事に思ってらっしゃるんですね。」
「……一方的、だけどね。」
「そんなことありません。アラベラ様だってウィリアム様のことを大切に思っていますよ。」
じゃなかったら、ウィリアム様と喧嘩して何日も部屋に篭らないだろう。
「ありがとう……。」
「じゃあ、私支度して、アラベラ様に会いに行きますね。」
「い、今から?!」
「ええ、善は急げ、です!」
驚いた顔をしていたウィリアム様は、私が腕まくりのポーズをすると、クスッと笑った。
「ありがとう、リタ嬢。」
「いえいえ。」
「僕はアラベラ以外の女の子が正直得意ではなくて、リタ嬢ともあまり話せてないのに……こんなこと頼むなんてどうかしてると思ったんだ……。」
「大丈夫です、アラベラ様は大切な友人です。ウィリアム様も、挨拶友達?的な感じで大切な友人ですよ!」
「挨拶友達……そうだね、ありがとう、リタ嬢。」
ちょっと失礼だったかもしれないけど、ウィリアム様が笑ってくれたのでよしとして下さい。
そういう訳で、アラベラ様。
リタが会いに参ります。
……この後、まさか晩御飯をご馳走になった上に、お泊まりさせて頂くことになるとはこの時、全然予想していませんでした……。
アラベラ様とは普通に話せるんですけど、アーミル先輩アーロン先輩はまだ少し慣れない……。




