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不安の花

今日はウィリアム様と約束していたお出かけの日。

ジゼルに精一杯可愛くしてもらった。

べ、別に頼んだわけじゃないけど……。

ジゼルはニコニコしながら「楽しみましょうね。」と言ってくれた。


ジゼルと馬車に乗り、向かった先はアーチボルド家の領地。

この間行った湖だ。


「前回嫌な思いをさせてしまったからね。あそこは素敵な場所だから好きになってもらいたくて。」



そう提案してくれたのは、ウィリアム様。

正直、前回はあまり満喫できなかったので嬉しい申し出だった。



しばらくして着いた湖は、今日もとても綺麗だった。

先に着いていたウィリアム様は馬車の前まで出迎えてくれた。

ミライ様がくっついて来ているのではないかと不安だったので、ウィリアム様だけのお姿に少しホッとした。


「お待たせしました、ウィリアム様。」

「ベラ、今日も可愛い。」


手の甲に軽くキスを落とすウィリアム様は、今日もとても素敵だ。

少し……恥ずかしいけれど。


「じゃあ、行こうか。」

「はい。」


「「ごゆっくりどうぞ。」」

そう言ってジゼルとウィリアム様の執事のクリスが馬車の前で頭を下げた。

そこで待っていてくれるらしい。


「ベラ、こっち。」


手を引かれて湖の反対側へ向かう。

湖の向こう側には、背の高いひまわりがこちらに向かって、たくさん咲いていた。


「すごい……!」

「これをベラに見せたくて。」

「嬉しい、ありがとうございます……。」

「こっちに行くと、ひまわり畑の中に入れるよ。」

「まあ!」


ウィリアム様に案内されて、ひまわり畑の中に入ると、まるで迷路の中にいるような感覚だった。


「かくれんぼ、しているみたいですね。」

「ここなら誰にも見つからないよ。」

「ふふっ。そうかもしれません。」

「ベラと二人っきりだ。」


頬を撫でられて、少しくずぐったかったので、思わず声が出る。


「ベラ、可愛い。」

「っ……今のは……。」


恥ずかしくなって、俯くと、「顔をあげて。」と言われる。

ウィリアム様の顔が徐々に私の顔に近づいてきて、それで……。





「ウィル様ーっっ!!どちらですかー!!」


ミライ様の大きな声が聞こえて、私たちはピタと止まる。


「ミライ様……?」

「来ないでと言ったのに……。」

「今日ここに来るとお話しされたんですか?」

「……しつこく聞かれてね。このひまわりが大層気に入ったらしくて、私もまた行きたい、と。」

「また……?」

「数日前にミライ嬢とも来たんだ。倒れていたのがこの湖付近の場所でね。そのついでに。」

「……そうなんですね。」


なんだろう。このガッカリ感。

さっきまで凄く嬉しくて幸せだったのに、一気に谷底に突き落とされたような気がした。

私だけが特別なような気がしてた。思い上がりも甚だしいわね、私。

そうよ、それに、私は所詮、非公式(アンオフィシャル)の婚約者。

身分的にも破棄されたって、文句の言えない立場だわ。


「……さ、ミライ様呼んでますし、行きましょうか。」

「え、ベラ、ちょっと待って。」

「触らないで下さい!」

「ベラ……?」

「すみません、今日のところはこれで失礼します。」


勢いよくひまわり畑を飛び出すと、目の前にミライ嬢の姿があった。


「あっ、アラベラさ」

「ごめんなさい、急いでいるので。」


早く、早く馬車に。

私がかなりの勢いで馬車に向かっていったので、クリスと談笑していたジゼルは目を見開いて驚いていた。

馬車に着くちょっと前に、ウィリアム様に捕まった。


「ベラッッ!どうしたの、なんで、泣いて……」

「……何年も正式にしていただけない婚約者なんて、いる意味ないですわね……。」

「そ、それは、君が―」

「私のせい、なんですね。分かりましたわ。」

「ベラ!!そうじゃない!!」

「頭を冷やしたいので、今日はこれで。ジゼル、ごめんなさい、馬車を開けて。」

「ベラ……聞いてくれ、僕が君と正式に婚約していなかったのは……君が、君が僕を……。」

「私が……?」

「アラベラ様、ウィル様どうなさったんですか?」


ウィリアム様が何か言いかけたところで、ウィリアム様の腕にひょいと抱き着くミライ様が現れた。


「ミライ嬢、今は黙っていてくれないか。」

「えーでも、心配ですし……。」


そんなやり取りを見てどうしようもなくイライラしてしまい、私は背を向けて馬車に乗り込んだ。


「アラベラ様……。」

「行きましょう。」

「……はい。」


「ベラッッ!」


馬車が走り出すと共に、私は声をあげて泣き始めてしまった。

ジゼルはそんな私を抱き寄せて、背中を撫でてくれた。


楽しみにしていたお出かけを台無しにしてしまった。

そして、せっかくの湖で嫌な思いをウィリアム様にさせてしまった。

色々なぐるぐるした気持ちを泣きながら話した。

そして、私はウィリアム様のこと……。


「お辛かったですね……。」

「わ、わだし、す、好き、なんだ、、うっ、、、ウィ、ウィリアムさまっ。」

「ええ、えぇ。」

「だ、だから、他のおんなのこと、あんなにいっしょにいるの、見たく、ないっ。」

「そうですね、そうですよね。」


小さい子をなだめるように、ジゼルはずっと肯定し続けてくれた。



私、ウィリアム様のこと、好き、なんだ……。

声に出して、ようやく気付いた。


だからこんなにも苦しくて、切ない。

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