不安の種
セバスチャンさんもさっきと違ってなかなか戻ってこない。
リタ様だって、まだ戻ってきていない。
もしかして迷子になっているのでは……。
気付いたら、ここには私とブルーノ様だけになっていた。
「ダビとは、とても仲がよいのだな?」
「え、えぇ。幼馴染ですし、いとこですので……。」
「ダビと同じように、私のこともブルーノと呼んでもいいんだぞ?」
「い、いえっ!そんなことは出来ませんわっ!!」
突拍子もない提案に大慌てで断ると、ブルーノ様はそうか、と肩を落とす。
「ところで、あの日、どうして裏庭にいたんだ?」
「えっ?」
「あの場所は、知っている者しか行けない場所だと思ったが……。」
「そそそそうなんですか?!なんとなく学園内を散歩していたら辿り着いちゃったんですけど……。」
「前世の記憶使って行きました。」なんて口が裂けても言えない。
ブルーノ様は首を傾げていたが、「選ばれた者だったのかもしれないな。」と納得してた。違うんですけど、そう思っていただいても大丈夫です……。
「あの時、婚約者の有無を聞いたら、少し微妙な顔をして肯定をしたな。」
「そうでしたか……?」
「婚約者と上手くいっていないのかと、あの時思っていた。」
「そ、そんなことは……。」
いきなり婚約者の話になったので、お茶を溢しそうになった。
しかも私、微妙な顔をしたのは確か婚約者にチクられるかと思ったからなんだけど……。
「正式な婚約ではないから、不安なのだろう?」
「え?」
「正式ではない婚約は、いつでも破棄ができる。それなのに、婚約者は長い間、誓いをしてくれていない。」
確かに、正式な婚約として誓いをしていないものは、簡単に破棄が出来る。
例えば別に婚約したい人が出来たとかそんな理由でも、問題はない。
これが誓いを行った正式な婚約の場合、破棄をする理由によっては、前世で言う慰謝料のようなものを払う義務が発生する。
貴族同士の場合の慰謝料は、桁が違うとは聞く……。
勿論、お互いの関係、家同士の関係が悪化する恐れがあるので、正式じゃない私たちのような婚約でも破棄する場合は穏便に済ませるのがベターではある。
確かに、小さい頃からウィリアム様とは婚約をしている。
その誓いに年齢制限はないので、なんなら、その誓いの言葉?さえ言えれば問題はないらしい。
それなのに私たちは何故まだ正式な婚約をしていなかったのだろう。
考えたこともなかった……。
私がしばらく考え込んで黙っていたのを肯定と捉えたらしく、ブルーノ様は言葉を続ける。
「婚約者は、自分の家や、アラベラの家を気にして破棄したくても出来ないんじゃないか?」
「えっ……。」
胸が急に締め付けられたような苦しさに襲われる。
「子供の頃の気持ちなんて、歳を重ねれば変わることもあるからな。」
「そう、ですね……。」
ブルーノ様の言葉を聞くたびに息苦しくなってくる。
正しいんだと思う。正しいと思うけど、耳を塞ぎたくて……。
「だから、その婚約者を解放してあげたほうがいいんじゃないか。」
「私が……?」
「それが二人にとっての幸せ「そんなわけないから。」
ブルーノ様の言葉を遮る声が聞こえた。
そして、背中に微かに体温を感じる。
「ウィリアム様……?!」
「ベラ、今日も可愛いね。」
「ウィリアム……。」
ブルーノ様が苦虫を潰したような表情でウィリアム様を見た。
え、二人とも知り合いだったの……?
というか何でここに……。
「王太子殿下、僕の婚約者に適当なことを言わないで頂けますか?」
後ろから抱きしめられているので、顔は見えないけど、だいぶ怒っているような声のトーンだった。
「私はアラベラのためを思って、助言しただけだが。」
「それが余計なお世話なんだよ。」
険悪なムードに少しいたたまれなくて、ウィリアム様に声をかける。
っていうか、ブルーノ様の前でずっと抱きしめられているの恥ずかしいんですけど……。
ウィリアム様も座ってる私を抱きしめてるから中腰よね?!辛くない……?
「あ、あの、ウィリアム様、どうしてこちらに……?」
「ここ、アーチボルドの領地だよ?」
「えっ。」
「王太子殿下からわざわざこの日にここを借りたいって連絡来てたから、ね。様子を見にきたんだ。」
「それで呼ばれてもないのにわざわざ婚約者を監視してたのか?束縛するのはどうかと私は思うが。」
「あることないこと吹き込むよりはマシじゃないかなぁ?」
あああ、また不穏な空気に……。
そんなハラハラした私にウィリアム様が気付いたようで、「ああそういえば。」と声をかけてくれた。
「ダビとリタ嬢に会ったよ。体調が二人とも悪くてもう帰る、って言ってたよ。」
「えぇ?!」
「ベラも一緒に帰るといい。あっちに進むと馬車があるから。」
「え、えぇ……。あ、じゃあ、すみません、ブルーノ様、二人が心配なので私も失礼します。」
「ああ……、二人にもよろしく伝えてくれ。」
ウィリアム様が立ち上がって、手を出してくれたので、手を取って立ち上がる。
「ウィリアム様は……。」
「僕は少し、王太子殿下と話をしてから帰るよ。」
「あの、その、穏便にお願いしますね……?」
そう言うとウィリアム様はふふっと笑って、私の頬をそっと撫でる。
「優しいね、ベラは。後で君の顔を見に行ってもいいかな?」
「え、えぇ、一度学園に戻りますので、その後でよければ……。」
「分かった、また後でね。」
「はい。……それでは失礼致します。」
二人に挨拶をすると、ウィリアム様が指してくれた方に向かって早歩きで進む。
はしたないけど、二人を待たせるのもよくないし……。
正直ウィリアム様とブルーノ様のことも心配なんだけども……大丈夫よね?




