お礼を言いたいのに
テスト返却の日、授業を終えて図書室に向かった。
「ウィリアム様。」
「ベラ!」
図書室にいたウィリアム様に声をかけると、背景に花が咲いたように微笑んでくれた。
「君からここに会いに来てくれるなんて珍しいなぁ。」
「あ、お仕事中ですよね、すみません。少しだけお話ししたいなって。」
「それなら少し待って貰ってもいいかな?今やってる作業に区切りつけるから。」
「ええ、待っていますね。」
にこ、とウィリアム様は笑うと、その後、目に見えない速さで何かの作業をなされていた。
時間で言うと……3分くらい?
「はい、お待たせ。」
「い、いえ、早いんですね。」
「ベラと早くお話ししたかったから。」
「……お兄さまたちがウィリアム様を生徒会役員に引き入れなかったの、悔やまれますわ。」
「ま、まあその話は置いておいて。どうしたの?」
首をキョトンと傾げたウィリアム様可愛いな……。
あ、いや、そうじゃなかった。
「あの、ちょっとナイショ話を、あそこで。」
私が指差すのは勉強エリア。
テスト中は結構人気で満席のこともあったけど、今はそんなことはないようだ。
「ナイショ話?いいよ、しようか。」
もう会って数分なのに、今日は色んな笑顔のウィリアム様に会えるなぁ。
ふわっと笑ったウィリアム様は、私を勉強エリアまでエスコートしてくれた。
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「あの、お礼を言いたくて。」
「お礼?」
あまり人に聞かれたくない話だったから、勉強エリアに行ったものの、必然的に距離が近くなるからドキドキするのよね……。
「リタ様が嫌がらせをされていた話は、しましたよね。」
「ああ、ベラも水をかけられた話ね。」
「私は一回きりでしたので……。」
「それでも、許せない出来事だ。」
「ご心配おかけしました……。」
「ベラが大丈夫ならいいよ。それで?」
「あっ、え、えっと……。」
ウィリアム様が私の髪の毛に触れて、ちゅ、と毛先にキスを落とした。
そういうことされると、頭が回らなくなっちゃうんだってば!
「その、リタ様が嫌がらせされていたのって、王太子殿下のブルーノ様と同じ生徒会役員になったから、なんですよね。」
「そうみたいだね。」
「なら、同じく生徒会役員の私がどうして嫌がらせされないんだろう、って思ったんです。……ウィリアム様と、ダビのお陰なんですね。」
リタ様を嫌がらせしていたのは、リタ様のクラス付近の生徒たちだ。
図書室の"人気者"の噂がリタ様付近のクラスでしか立たなかったように、生徒会役員に"アラベラ"がなったことは知られてなかったのだ。
噂で「生徒会役員に女子が入ったらしい」「誰、誰よそれ?」となってすぐにリタ様が役員になったので、あの女が!となってしまったとか。
こんなに噂や情報が乖離しているのは、階が違うことが原因らしい。
階が違うと同じ学年でも偶然会うことが少ないし、合同授業を行うクラスは同じ階のクラスのみだ。
そして、階が違うこちらでは私が役員になったことは一気に広まった。
勿論、それをよく思わない人もいて、中にはあからさまに睨んでくる女子生徒もいた。
でも嫌がらせされなかった。
何故か。
それは、私が役員になった話と一緒に、私とウィリアム様が婚約者である話が広まったから。
私たちの婚約は正式なものじゃない。だから、この婚約を知っているのはごく僅かだった。
しかし、ダビが私たちが婚約者同士というのを広めてくれた。
婚約者がいる私は王子に手を出さないだろう、と判断されて、嫌がらせまでは至らなかったのだろう。睨まれはしたけど!
なんか婚約に関して囲い込まれてる感は否めないけど、今回はこれで助かったので、お礼は言いたかった。
「ウィリアム様が、ダビに頼んだんですよね?婚約していることを広めて欲しいって。そうすれば、私がブルーノ様に手を出すわけないって思って頂けるから。」
「うーん、ちょっと惜しいなぁ。」
今度は髪じゃなくて頬を触れられる。
細くて綺麗な指が少しくすぐったい。
「お、惜しいとは……?」
「ウィリアム・ヴァン・アーチボルドは、アラベラ・カーラー・コルソンを溺愛しているから、アラベラにちょっかいをかける奴は男でも女でも許さない。」
「へっ。」
「そう、広めてくれって、入学式の日に頼んだんだ。まだあの時は別の階に広まってなかったみたいだけどね。」
一瞬目を見開いて、ふふっと笑いながら私の頬をまだ触れている。
そんなに触り心地良いのか知らないけど、恥ずかしいのは変わりない。
ん、いや、今さらっとさらっと重要なこと言ったわよね。
「え、それじゃあもしかして、クラスメイトにいつも何処か距離置かれているのって……。」
「……ベラのクラスには効果効きすぎたみたいだね。」
苦笑気味に答えるウィリアム様。
入学してから悩んでいたことの一つ、「クラスメイトと仲良くなれない」これ、絶対この話のせいじゃない!
「わ、わたし!今日ウィリアム様にお礼言おうと思ってました!そんなの、そんなのってないです!」
「ごめんね……でも、アラベラが婚約破棄したいとか言い出したから不安だったんだよ……?」
ぐっ、と特大ブーメランが私の頭に突き刺さりました。
「それは……非常に申し訳なく思っております……でもそれは……。」
「それは?」
ウィリアム様のためでもあるんですよ。
とは言っても信じてもらえないよなぁ。
これがゲーム本編だったら、近いうちに起きること予言なりなんなりして無理やり信じてもらうとか、出来そうだけど……いやそれ胡散臭い占い師みたいにならない……?
「ま、まあとにかく!失ったものは多い気がしますが、助かったことには変わりないのでお礼は申し上げます!ありがとうございます!」
フンッと顔を横に背けてしまうのはご愛嬌ということで。
「ごめんってベラ。きっと夏季休暇開けたらクラスメイトも君とそれなりに仲良くしてくれるよ。」
「それ新たな噂流すおつもりですか?!そういうのやめて下さい!しかもそれなりって!」
「怒った顔も可愛いなぁ。ところで夏季休暇何処か行かない?」
「夏季休暇の間、ずっと頭を冷やしていて下さい。」
……この後、なんだかんだ許してあげた私、甘いかしら。




