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【改訂版】カオスゲート・サーガ ~大魔王と勇者の冒険譚~  作者: Kudo
第4章 ~迫り来る愚かなる者達~
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第4章第9話 ~勇者を目指す少年 1~



「副団長!ライファ領側の山道より騎士が一人やって来ました!」


「・・・来たか。よし、中央の広場まで通せ!いいかお前等、手を出すんじゃねぇぞ!あの騎士の相手は俺がするからな!!」


 『紅の鷹騎士団』の野営地にて騎士の声が響き渡る。

 それを耳にし、待ち侘びていた相手が来たことを察したバルディオスは、防具―――元々装備していた物はアルクの攻撃によって使い物にならなくなったので、予備として用意していた軽装鎧のそれ―――を身に纏い、愛剣を腰に差し直し、野営地の広場へと歩みを進める。

 バルディオスがその場所に辿り着くと、既にそこには、騎士甲冑を身に纏い三つ又の槍を手に持ったチョビ髭が特徴的な騎士―――マクレー・ノーレッジが待ち構えていた。

 マクレーの周りには『紅の鷹騎士団』の騎士達が彼を取り囲む様に円を描いており、彼らはマクレーが自分達の野営地にやって来たことに警戒心を露わにしているようだった。別の言い方をすれば、殺気立っていると言ってもいい。

 騎士達の視線は険しく、一部は自身の剣の柄に手を添えて何時でも抜けるようにもしているようだったが、しかしその中心でマクレーは堂々とした様子で仁王立ちをしていた。

 浮かべている表情も、騎士達の殺気など物ともしていないかのように涼しげな感じだ。

 その姿を目にしたバルディオスは、ニヤリとした笑みを浮かべた。


「よう。来てくれて嬉しいぜ、マクレー・ノーレッジ。戦力差を考えて奇襲を仕掛けて来るんじゃないかと思っていたんだが・・・まさか、真正面から堂々と来るとはな。あれか?騎士道精神というやつか?」


「それもある。が、それだけでもない。何故なら貴様がいるからだ、バルディオス・ゼル。貴様が相手では奇襲など意味をなさんからな」


 まるで友人にでも話し掛けるような気安い感じでバルディオスが声を掛けると、マクレーは冷静な態度で言葉を返す。


「ジルバ砦での話はある程度聞いている。その大半は噂だが、その中には嘘か真か、相手の奇襲を行われる前に察知して全て返り討ちにしたというのもあった。真実はどうかは知らんが、少なくともそのような噂が流れるくらいには、貴様は優秀だという事。そのような相手に、私が考えられる奇襲策などあまり効果はないだろう。・・・ならば、敢えて真っ向から対峙した方がまだ勝利できる可能性がある」


「くくっ、なるほどな。随分と自分の腕に自信があるんだな。・・・だが、こうも考えなかったのか?例え俺を倒したとしても、その瞬間に俺以外の連中から襲われるかもしれない、とかよぉ」


「もしそうなったとしても、貴様が止めるであろう?」


「あん?」


 マクレーのその言葉に、バルディオスは片眉を上げる。


「貴様の気質は騎士というよりも、どちらかと言えば武人のそれだ。であれば、例え貴様の言った通りの事が起ころうとも―――」


「―――俺が責任を持ってそいつ等を止めるってか。・・・ははっ、ほんの少ししか顔を会わせていないってのに、意外と俺の事をよく分かっているじゃあないか」


「なに、貴様の様な手合いとは過去に何度も相手したことがあるのでな。それなりに長く生きていると、色々な者達と相対する機会があるのである。所謂、経験則というやつであるな」


 そんなバルディオスに構わず言葉を続けるマクレー。

 彼の話を聞いたバルディオスは、「へぇ・・・」と何処か感心するように呟いた。

 それは己の気質を見抜かれたことに対する素直な驚きであった。

 確かにバルディオスは、自分が騎士―――騎士道精神のそれとは縁遠い人間であるという事を自覚していた。

 だからというか、バルディオスは昔からどうにも騎士団という集団に馴染む事ができないでいた。

 綺麗事は大いに結構だし、それ自体は悪いとは思っていない。だが口ではそんなことを言いながらも、貴族間で行われる権力闘争等では平然と真っ黒いことを行う連中を、彼はどうにも好きになる事ができなかったのだ。

 性に合わないとも言う。

 そんな彼が『紅の鷹騎士団』にいるのは、上司からの命令というのあったが、一番の理由は強敵と戦う機会が多く訪れると考えたからだ。

 まあ、バルディオスとしては強敵と戦えるなら別に冒険者になっても良かったのだが、彼の実家が平民でありながら侯爵家に代々仕える兵士の家系であった為、所謂世襲的な感じで彼はサーポルベント侯爵家に仕える事となったのである。

 そこからトントン拍子に出世して『紅の鷹騎士団』副団長となり、そして今日まで様々な相手と闘り合ってきたわけであるが、強敵と出会うことができたのは両手の指で数える程。正直、中々強敵と出会えないこの環境に、彼は若干嫌気が差してきていた。

 そう感じている最中に下された今回の命令―――ライファ領の村人を攫って儀式の生贄にするという命令に、バルディオスは内心かなり辟易(へきえき)していた。もう騎士なんて辞めてしまおうかなと思い始めてしまうくらいには。

 正直、やる気なんて欠片もなかったので、惰性的に仕事を熟していたのだが、そんな折に自分の事を木刀でぶん殴ってブッ飛ばして見せた子供と出会ったことでバルディオスのやる気がムクッと頭を上げ、加えてマクレー・ノーレッジと出会ったことでその闘志に完全に火が点いた。


「(そうして、奴と戦う事ができる状況を整えたわけだが・・・・・・いいねぇ、いいねぇ!やっぱりこいつは俺の同類、戦いを尊び、そこに喜びを見出す戦士のそれだ。切っ掛けこそあまり気が進まないものだったが、しかしそれは一旦頭の片隅に置いておくとしよう。なにせ、これからコイツと思いっきり闘り合えるんだからなぁ・・・!!)」


 嬉しさと興奮を隠さずに「ククッ・・・!」と軽い笑みを浮かべながら剣の柄に手を掛けるバルディオス。

 それを目にしたマクレーは、ムッと少しだけ顰め面になると三つ又の槍を両手で持ち、水平に構える。


「俺の様な手合いと過去に何度も相手したことがあるってんなら、当然分かるだろう?俺みたいな奴は、強い奴を見ると無性に闘いたくて闘いたくてしょうがなくなる衝動に駆られるってさぁ!さあ、無駄話はこれくらいで終わりにして、そろそろ戦いを始めようじゃねぇか!!」


「やれやれ、戦闘狂というのはどうしてこう・・・・・・とはいえ、貴様とこれ以上無駄話をするつもりはない、という点では同意する。―――行くぞ、”ジルバ砦の紅蓮剣”バルディオス・ゼルよ。その身、我が槍にて貫かれる覚悟は十分か?」


「そっちこそ、俺の愛剣に焼き斬られて灰になる覚悟は出来たのか?”氷華槍”マクレー・ノーレッジ!」


 互いに挑発し合う二人。

 その言葉を合図に彼らは同時に駆け出し―――そして互いの武器をぶつけ合い、甲高い音を響かせた。








 二人の内、最初に攻め手に回ったのはバルディオスであった。

 武器をぶつけ合った後、自身にとって適切な間合いを取る為に跳び下がったマクレーを追い掛けて、炎が噴出する紅蓮の剣を縦横無尽に振るっていく。

 それをマクレーは、時に槍先の刃で、時に柄で、時に石突き部分で突き弾くなどして防いでいく。


 「はっ、やるじゃねぇか、マクレーさんよぉ!だが、これならどうだぁ!!」


 自身の攻撃を悉く防がれたことにショックを受けるかと思いきや、むしろ喜々として笑みを深めるバルディオス。

 彼は自身の目の前に紅蓮の剣を掲げると、その剣にもの凄い勢いで魔力を込める。

 その瞬間、紅蓮の剣から噴出する炎の勢いがさらに増した。今までが焚火程度だったとしたら、今のこれは火炎放射のそれだ。

 まるで長大な炎の剣、いや鞭の様に揺らめいて(しな)るそれを、バルディオスは連続して振るっていく。


「そらそらそらそらぁ!」


「・・・ッ!」


 それをマクレーは飛び退いたり、屈むなどして次々に回避していき、回避できないものは三つ又の槍を振るい、その穂先で斬り飛ばすことで防いでいく。

 そうしてバルディオスの攻撃を凌ぎつつ隙を伺っていたマクレーは、連続攻撃の合間に振るわれる大振りの攻撃を目にした瞬間、それを反撃のチャンスだと判断し、一気に踏み込んだ。


「―――《螺旋槍(らせんそう)》!!」


「うおっ!?」


 三つ又の槍をグルンッ、と勢いよく回転させながら突き出すマクレー。

 彼が発動した《螺旋槍》とは”(オーラ)を纏わせた武器を回転させながら対象に向けて突き出す”という戦技だ。

 貫通効果が付与されたその穂先は吹き荒れる炎の壁を貫き、吹き飛ばしながらバルディオスへと迫る。


「危ねぇ危ねぇ―――ッ!?」


「―――シッ!!」


 その攻撃を予期していたようにバルディオスは紅蓮の剣でもって防ぐがしかし、マクレーの攻撃はそれで終わらなかった。

 数えきれないくらいの残像すら残る程の速さで繰り出される連続突き。その穂先は的確にバルディオスの急所を穿たんと螺旋を描きながら突き出されていく。


「ちぃっ―――!?」


 その攻撃を苦虫を噛み潰したような表情を浮かべながら防いでいくバルディオス。

 手に持つ紅蓮の剣で弾き、捌き、防いでいたがしかし、それは三つ又の槍の穂先―――刃と刃の間の隙間に挟まれ、絡め取られることによって止められた。

 マクレーは槍を捻じり、バルディオスの剣を強制的に下へと退けると、がら空きとなったバルディオスの顔に向けて、握り締めた拳を突き出した。


「ヌンッ!!」


「舐めんじゃ、ねぇ!!」


「な、ぐぅっ!?」


 ゴウッ、という音を立てながら迫り来るマクレーの拳を、バルディオスは空いていた方の手で受け止め、そしてそのまま間髪入れずにマクレーの頭に向けて頭突きをかました。

 マクレーの兜とバルディオスの額当てがぶつかり、ガイィンッという音が響く。

 頭突きを食らったマクレーは兜のおかげで怪我を負う事はなかったがしかし、その衝撃によって体を僅かに仰け反らせる。

 だが、すぐに体勢を整えると身を捻り、バルディオスの胴体に向けて蹴りを繰り出した。


「ガッ・・・!?こ、こなくそっ・・・!」


 マクレーの一撃を受けてズザザッ、と地面を滑りながら後ろへと下がるバルディオス。

 蹴りを受けた一瞬だけ痛みで顔を歪ませた彼であったが、しかしその後にニヤリと笑みを浮かべると、再び紅蓮の剣に魔力を送り、先程とは比べものにならない程に巨大な炎の剣を形成した。


「食らえやぁぁ!!《唐竹割り》ぃぃぃっ!!!」


 ほぼ同時に《唐竹割り》―――”『VIT(耐久力)』を無視した縦斬りを対象に叩き込む”という戦技を発動。振り被り、頭上に掲げた巨大な炎の剣を勢いよくマクレーに向けて振り降ろす。

 それを目にしたマクレーがいる場所の近くにいたバルディオスの部下達は、巻き込まれては堪らないと一目散に逃げ出した。

 なにせ、部下としてバルディオスの下にいた彼等は、彼の攻撃の威力がどれ程かを知っていた。内心で彼の身分が低いことを気に入らないと思っていたとしても、その恐ろしさの程をよく知っていたのだ。

 しかし、我先にと逃げ出した彼等とは違い、マクレーはその場から動くことなく残っており、静かに三つ又の槍を構えていた。


「フゥゥゥッ・・・!」


 集中するように目を細め、ゆっくりと息を吐き出すマクレー。


「―――《アイスウェポン》ッ!《飛昇烈波(ひしょうれっぱ)》ッ!!」


 そして眼前に巨大な炎の剣が迫って来た事を知覚した時、技名を叫びながら、構えた槍を勢いよく振り上げた。

 瞬間、三つ又の槍の穂先が氷の刃に包まれ、そしてその穂先が振り上げられると同時に幾つもの巨大な氷柱が生み出される。

 地面から突き出るように生えた氷柱は、巨大な炎の剣とぶつかると拮抗し―――最終的に爆発と衝撃波を引き起こし、その余波によって二人の体は後ろへと吹き飛ばされた。


「今のを防ぐかよ。そして、なるほどな。それが、アンタが”氷華槍”と呼ばれるようになった所以の技か」


「・・・技という程、出来たモノではないのである。精々が手持ちの武器を頑丈にする程度の小手先の技術である」


 《アイスウェポン》は”武器に水属性を付与し、またその武器を当てた相手に確率で『凍結』の状態異常を付与する”という魔技であり、その後にマクレーが発動した《飛昇烈波》は”武器を下から上に向けて振り上げると同時に(オーラ)の斬撃を飛ばし、対象を上空へ吹き飛ばす”という戦技だ。

 ちなみに、《飛昇烈波》を放った後に氷柱が生み出されたのは《アイスウェポン》の効果が関係しており、気の斬撃が通った所が瞬間的に凍り付いたからである。

 その事を理解したバルディオスは感嘆の吐息を漏らしながら呟くのだが、その言葉に対してマクレーは首を横に振って答える。

 それは謙遜している様にも見えたが、しかしマクレーの表情を見るに本人は本当にそう思っているようだった。


「・・・あん?」


 だがそこで、バルディオスはふと違和感を覚えた。

 それは目の前のマクレーにではなく、自分にでもなく―――自分達の周りにだ。

 気付けば自分達の周りを・・・いいや、この野営地全体を包み込む様に白い(もや)が立ち込み始めていたのだ。

 視界がほとんど真っ白に染まっていく。見える範囲は狭く、精々自身と相対しているマクレーがやっと見える程度。それ以降から先は完全に見えなくなってしまっていた。


「(こいつは煙か・・・?いや、煙たい感じがしねぇ。てことは、もしかしてこいつは霧か?だが、だとしたら、どうしてこんな急に立ち込めてきやがったんだ?ここ数日は雨なんざ降っちゃいねぇ。霧が出て来る要素なんて無い筈・・・・・・いや待て、まさか!?)」


「ぐあっ・・・!?」


「がぁっ・・・!?」


「ッ!?」


 自分達の周りに立ち込めているこの霧が何なのか、その正体にバルディオスが気付いた瞬間だった。突如として、複数の人間の悲鳴が上がったのは。


「な、何だ貴様らがはぁッ・・・!?」


「よし。皆さん、こちらへ!早く!今の内に逃げてください!」


「くっ!おのれ、賊め!逃がすとでも思ってぐふぅっ・・・!?」


「そっちこそ、邪魔が入らないとでも思わなかったのかよ?」


 声から察するに、悲鳴を上げたのは自分の部下達だろう。そして会話から察するに、おそらく襲撃者は二名。目的は村人たちの奪還だろう。

 声色から襲撃者の一人は成人男性のそれ。もう一人は甲高い声質から多分子供・・・それも聞き覚えがある声であった。

 子供の声を聞いてバルディオスの脳裏に浮かんだのは、あの炎上する果物畑の中で異常に頑丈な木刀を武器に自身と闘り合った少年の姿だ。


「・・・ククッ、なるほどな。立ち込めている霧を目眩ましにして野営地内に入り込み、村人を助け出す算段だったか。んで、この霧もお前等が用意したものなんだろう?」


「御明察の通りである。私が堂々と真正面からやって来ることで貴様等の注意をこちらに集中させ、その隙に他の者が攫われた村人達を助け出す。そういう筋書きである。―――そして事ここに至れば、私の役目も陽動のそれからがらりと変わる」


 立ち込めた霧はそう長く持つものではなかったのだろう。次第に拡散し、薄くなっていく。

 その最中に、マクレーは大きく跳躍した。

 着地した先は、おそらくだが襲撃者と村人達が逃げた方向なのだろう。その道を守る様に、立ち塞がるように、ザッと足裏で地面を擦りつつ前後に両足を開いた彼は、氷の刃に包まれた槍を構え直す。


「ここから私が務めるは、彼等が逃げ切るまでの時間稼ぎ。要は殿(しんがり)である。―――汝等、私より後ろを通りたければ、死ぬ覚悟を持って掛かって来るがいいっっっ!!!」








「こっちです!皆さん、急いで!」


 霧に乗じて見張りの騎士達を気絶させ、攫われた村人達を助け出した僕とオリバーさんは、避難誘導を行いながら野営地を出た後、そのまま真っ暗闇の森の中へと逃げ込んでいた。

 作戦内容はこうだった。まずマクレーさんが『紅の鷹騎士団』の前に真正面から堂々と現れて注意を引きつけ、そして彼が出す合図―――どのような方法で行ったのかは全く見当もつかないが、霧が野営地を完全に覆ったタイミングで僕達が村人達を助け出すというシンプルなもの。

 そして攫われた村人達の救出は成功した。後はこのまま森の中を突っ切って村まで戻り、村に残っている皆と合流して、そのまま村人達が避難所として使っているという村の南東にある洞窟にまで逃げ込めれば作戦は完了だ。

 とはいえ、現実はそう易々と上手く行ってはくれない。

 『紅の鷹騎士団』の騎士達の大半はマクレーさんが殿として受け持ってくれはしたが、その戦力差は一対多。一人で全員を相手取れるわけもなく、やはりどうしても抜け出る者が出てしまう。

 数はそう多くはなさそうだが、それでも聞えてくる怒声と松明の明かりの数から、少なくとも十人程はいそうな感じだ。

 ちなみにだが、僕とオリバーさん、そして村人達は、追手である騎士達に見つかり辛くなるように、明かりとなる物を一切使わずに森の中を進んでいた。

 真っ暗闇の森の中でそんな物を持っていれば、一発で居場所がバレてしまうからだ。そうなれば、身体能力の差であっという間に追手である彼等に追いつかれてしまう。

 とはいえ、本来であれば視界がほとんど効かない夜の森の中を、明かりとなる物が無い状態で進むのは自殺行為に等しい。木の根や下草に引っ掛かって転倒する危険もあるし、何よりも視界の悪さから自分が何処に向かっているのか分からなくなり、遭難してしまうリスクがあった。

 だが、そのリスクはオリバーさんが解決してくれた。

 《ナイトヴィジョン》―――”例え光の届かに暗闇の中でも昼間の様に見る事ができるようになる”という魔技を僕達に掛けてくれたのだ。

 そのおかげで、僕達は真っ暗闇の森の中を難なく進めるようになっていた。

 だがそれでも、僕達は追ってから完全に逃げ切ることは難しかった。

 勘が良いのか、それとも目が良いのか、一部の騎士達が僕達を見つけ、剣を抜いて襲い掛かって来たのだ。


「見つけたぞ!逃がすと思っているのか、このクソガキがぁ!」


「っ!ぐぅっ・・・!?」


 僕の背後に現れた騎士の一人が刃を降り降ろす。

 それを振り向きざまに、咄嗟に木刀を振るう事で防いだがしかし、体格差か筋力の差か、あるいはその両方か、鍔迫り合いに押し負けて地面に膝を着いてしまう。

 ぶつかり合った互いの武器がギチギチギチと音を立て、火花が散る。

 前々から思っていたのだが、この木刀は異常な程に頑丈だ。普通、木刀が剣を受け止めたらそのまま斬られる筈なのに、これは一切そんな様子を見せない。

 まるで鋼の様な硬さだ。見た目は木刀だというのに、火花を散らせている様子を見るに、そう思わずにはいられない。

 だがそれでも、どれだけ硬くとも、使い手である僕が未熟で非力であれば意味がない。

 現に両手に力を入れて押し返そうとしても、相手の剣はまるで微動だにしない。むしろ更に押し込み、僕の事を潰そうとしてきていた


「うぐぐぐぐぐっ・・・!!」


「ふはははははっ!平民風情が貴族に反旗を翻すとは不届き千万!その素っ首、今此処で刎ねてくれ―――」


「―――《ダブルスラッシュ》!」


「―――るわがはぁっ・・・!?」


 その均衡を破ったのは、オリバーさんの強烈な一撃だった。

 僕を押しつぶそうとしていた相手の剣を掬い上げるように弾き飛ばし、そして返すように剣を振り下ろして、鎧ごと騎士の体を切り裂いたのだ。


「無事か、坊主!」


「オリバーさん・・・!は、はい。ありがとうございます。助かりました・・・!」


 崩れ落ちる騎士を尻目に僕の安否を問うオリバーさん。

 僕はそれにお礼を言いつつ、立ち上がって体勢を整えようとする。


「おごごごごごっ・・・!?お、おのれ、平民めがぁぁ・・・・・・!」


「うおっ!?まだ生きてたのかよ、コイツ!流石は騎士と言うべきか、鎧ごと叩っ斬ったってのにまだ動けるとか、ホントに頑丈だな」


 だがその時、倒したはずの騎士から悔しげな声が上がった。どうやら今の一撃を受けてもまだ死んでいなかったらしい。

 痛みを感じてか、苦しげな息遣いを繰り返していたその騎士は、切り裂かれた部分を片手で抑えながら、億劫そうに上半身を起こす。


「許さん・・・!絶対に許さんぞ、貴様等ぁぁ・・・!!平民風情が、貴族である私に傷を付けおって・・・どうなるか、分かっているのだろうなぁ・・・!!必ずや見つけ出して、子々孫々に至るまで徹底的に甚振り尽くして―――!」


「うるせぇ。いい加減黙りやがれ」


「な、何をする、ぐはっ・・・!?や、やめ、おごっ・・・!?きさ、ぐぼはぁぁっ・・・!?」


 顎の当たりから血を滴らせつつ、口汚い罵声を吐き散らす騎士。

 だがそれを無視するかのようにオリバーさんは騎士の兜を剥ぎ取ると、露わとなった顔面に向けて、ゴッ、ゴッ、ゴシャァッ・・・!と連続で拳を叩き込む。

 それがトドメとなったのだろう。騎士は白目を剥いて、ドゥッと仰向けに倒れた。


「ようやく気絶し()たか。たくっ、こんだけやっても中々死なねェってんだから、騎士ってのは呆れるくらいにタフだよな」


「あ、あはは・・・」


「―――こっちだ!こっちから声が聞こえたぞー!」


「やっべ、逃げるぞ坊主!」


「は、はい!」


 騎士の頑丈さに心底呆れたように呟くオリバーさん。

 僕がそれに苦笑をしていると、遠くの方から別の追手の声が聞こえてきた。

 どうやら、先ほどオリバーさんの拳によって沈んだ騎士の悲鳴がかなり遠くまで響いてしまっていたらしい。それを察した僕達は、慌ててその場から離れるように走り出した。

 ―――それからどれだけ走っただろうか。感覚的だが、野営地からはだいぶ離れられたと思う。

 眼前には森と街道の境目が見える。僕達が来た時に通った道だ。これを辿って行けば、村へと辿り着くことが出来るだろう。

 それを確認した僕とオリバーさんは、ここまで誘導してきたほぼ全ての村人達に声を掛け、説明をし、街道を進んで行ってもらう。

 背中を見せ、村へと向かって駆けていく村人達。

 その後ろ姿を見た僕とオリバーさんは安堵の息を零し、彼等と共に村へと―――向かうことはなく、未だ真っ暗闇の森の中に留まっていた。


「おい、そっちは見つけたか?」


「いや、まだだ。夜の森の中は見通しが悪い。いくら明かりとなる松明やランタンがあったとしても、正直焼け石に水だ。遠くまで見ることは難しい」


「くっ、やはり足で探すしかないか。俺はあっちを探す。お前はそっちを頼む」


「了解した。見つけたら笛を鳴らして知らせろよ」


 木の陰や草薮(くさやぶ)の中に身を隠しながら様子を伺っていた僕達の視線の先では、松明を持った騎士達が僕達を探す様に森の中をうろついていた。

 この辺りを一頻り探した彼等は、此処には誰もいないと思ったのだろう。別の場所を探そうとそれぞれに別れ、この場から姿を消した。


「・・・・・・・・・行ったか?」


「・・・・・・・・・行きましたね」


 完全に暗闇の向こう側へと姿を消し、足音も聞こえなくなった事を確認した僕とオリバーさんは、フゥと息を吐いて緊張を解く。

 どうして僕達は村人達と一緒に行かなかったのか。その理由は、村人達の中で一人だけ追手の騎士達から逃げている最中に逸れてしまった人がいて、その人を探す為だった。

 逸れてしまったのは村長の娘さんであり、どうやら僕達が助けに入る前に野営地にて『紅の鷹騎士団』の騎士の一人に暴力を振るわれたらしく、それがトラウマとなってしまったのか、迫り来る騎士達の姿を見てパニックを起こしてしまい、一人だけ皆とは別の方向へと走り去ってしまったらしいのだ。

 騎士達に見つからないように身を隠しながら捜索を続けていた僕達だったが、しかし森の中を進むにつれて、段々とそれが難しくなってきていることを感じ始めていた。


「―――ちぃっ・・・!ヤベェな、完全に囲まれてやがる。これじゃあ先に進みたくても進めねぇ」


 ポツリ、とぼやく様に呟くオリバーさん。頻りに周囲を伺って進むタイミングを測っているようだが、辺りをうろつく騎士の数が多いせいか、動こうにも動けないみたいだ。


「す、すみません。僕が足を引っ張ってしまったばかりに・・・!」


「あん?なぁに言ってんだ。相手は騎士だ。アイツ等と闘り合うには最低でも俺と同じ―――つまりはCランク冒険者並みの実力が必要だ。だってのに、お前はその歳で騎士と互角に渡り合い、持ち堪えてみせた。誰にでも出来ることじゃねぇ。むしろ誇ってもいいくらいに凄ェ事だ。だから謝んなくていい。つぅか、もっと胸を張って堂々としてろ!」


「えっ、あっ、はい!」


 実は此処まで来る少し前に一度、僕達は騎士達に見つかってしまっていた。

 その原因となったのは僕であり、足元に落ちていた木の枝に気付かずに踏み鳴らしてしまったのだ。

 そこからはなし崩し的に応戦することになったが、相手の応援が駆けつける前に隙を見つけて逃げ出すことには成功した。

 だが、この辺りに僕達がいるという情報が他の騎士達にも伝わってしまったが為に、周囲を囲まれ、満足に身動きを取る事ができなくなってしまったのである。

 その事でオリバーさんに怒られるかと内心思っていたのだが、実際はその逆で、騎士達と戦えていたことを褒められてしまった。

 予想もしていなかった事に一瞬戸惑いを覚えてしまった僕だったが、同時に嬉しくも思い、薄らと笑みを浮かべた。


「よし。良い返事だ。・・・で、だ。坊主。お前、この包囲網を突破する方法を何か思いつくか?生憎、俺には良い方法が思い付けなくてな」


「包囲網を突破する方法ですか・・・・・・」


 オリバーさんの言葉に僕は考え込む。

 確かに、このまま隠れ続けていたとしてもいずれ見つかってしまうのがオチだろう。その前に囲まれてしまっている現状を打破しようと考えるのには僕も同意する。

 けれど、そんな方法なんてそう簡単に思い付けるものではない。そもそもの話、僕はまだ冒険者見習いだ。それなりに戦いの経験はあるけれど、それでもオリバーさん程じゃない。

 けれど、そのオリバーさんが僕に何か方法がないかと聞いてきた。つまりそれは、彼にも突破口となるような策が思いつけなかったからだろう。

 とはいえ、僕が思いつける方法なんて精々、どちらかが囮となって注意を引いている間にもう一人が包囲網を突破する、という事くらいだ。正直策と呼べる程のものじゃない。


「(うーん・・・いったいどうすれば・・・・・・うん?)」


「おら、平民が!早くこっちに来い!」


「あうっ・・・!?」


 目を瞑りながら僕が頭を悩ませていると、何処からか騎士の怒鳴り声が聞えて来た。次いで若い女性の声も。

 聞こえてきた方向は、丁度僕達から見て斜め右にある大人二、三人分くらいの大きな岩がある辺りだ。

 そちらへと視線を向けると、一人の女性を中心に三人の騎士が取り囲んでいる光景が目に入った。


「はぁ、はぁ、はぁ・・・」


「たくっ、梃子摺らせやがって。平民風情が、本当に俺達から逃げられると思っていたのか?」


「さあ、他の奴等が何処に行ったか答えてもらおうか。答えなければどうなるか、言わずとも分かるよな?」


「おら!何とか言えよ!」


「ひっ、あぐぅ・・・!?」


 顔色を青褪めさせ、恐怖に体を震わせる女性。村娘と思われる服装をしているのを見るに、おそらく彼女が僕達の探していた村長の娘さんだろう。

 その彼女を大岩へと追い詰めた騎士達は、他の村人達が何処に行ったのか詰問しているようだが、怯えるだけで何も答えようとしないことに痺れを切らしてか、騎士の一人が村長の娘さんのお腹に向けて蹴りを放った。


「おえぇぇ・・・!!」


「汚ねぇ!おいおい、吐いたぞこの女」


「吐いていいのは他の連中の居場所であって腹の中身じゃない。さっさと言え、言わんか!」


「うぐっ・・・!?し、知らない。私は何も知らないんです・・・!」


「知らないんじゃないんだよ、知らないんじゃ。話さないってんなら、俺達にも考えがあるんだぜ?」


 腹部を蹴られ、圧迫されたことで吐き気を催したのだろう。村長の娘さんが俯いて胃の内容物を吐き出す。

 それを見た騎士の一人は村長の娘さんが突然吐いたことに驚いて後退り、もう一人は彼女の髪を引っ張って無理やり顔を上げさせ、最後の一人はニヤニヤとした笑みを浮かべながら、痛そうにしている彼女の顔を下から覗き込む。


「オリバーさん、あの人は・・・!」


「ああ。たぶん俺達が探している村長の娘だろう」


「ですよね!じゃあ、早く助けないと!」


「待て、坊主!迂闊(うかつ)に飛び出るんじゃねぇ!」


 僕が女性を助けに向かおうとすると、その腕をオリバーさんが掴んで止めた。


「一人二人ならともかく、三人ともなると流石に真正面から戦いを挑むのは厳しい。ここはもうしばらく様子を見て、隙ができるのを待とう。奇襲を仕掛けるんだ」


「でも・・・!」


「我慢してくれ。一人二人ならともかく、三人ともなると流石に正面から戦いを挑むのは厳しい。間違いなくこちらが負けることになる。そうなったら、彼女を助けるどころじゃなくなるぞ」


「くっ・・・!」


 オリバーさんの言う事も理解できる。けれど、目の前で襲われている人がいるのに黙って見ているだけというのは、あまりにも―――。

 そう思ってオリバーさんに抗議しようとする僕だったが、しかし彼の表情を見て思わず口を閉ざしてしまった。

 オリバーさんの顔には焦燥感がありありと浮かんでいた。彼もまた彼女を助けたいのをグッと堪えていたのだ。

 なにせ相手は騎士。一応互角に戦えてこそいるが、本来であれば自分達よりも各上の相手なのだ。オリバーさんの言う通り二人掛かりで、もしくは一対一であれば勝てる可能性はあるだろう。けれど、相手が三人ともなれば、戦力的に確実に返り討ちに遭ってしまうだろう。

 考えなしに無謀に挑んで死ぬか、それとも勝てる可能性が高い方法を取るか。

 僕はどちらを選ぶべきかを悩み、考えて―――。


「話したくないってんなら、お前の体に聞いてやるよ!おら、とっとと服を脱げ、平民!!」


「いやっ、いやぁぁぁーーーっ!!?」


「・・・ッ!ごめんなさい、オリバーさん!」


「あっ、おい待て、坊主!?」


 村長の娘さんが上げた悲鳴を上げた瞬間、後ろから聞こえるオリバーさんの止める声を無視して、僕は思わず飛び出していた。







次回の投稿は6/20を予定しております。

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