表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【改訂版】カオスゲート・サーガ ~大魔王と勇者の冒険譚~  作者: Kudo
第4章 ~迫り来る愚かなる者達~
62/71

第4章第6話 ~大魔王とライファ辺境伯 前編~



 交易都市ライファの中心に存在する城。その城内の一室。執務室と思われる場所で、筋骨隆々な肉体と頭の左右に三つのカールが作られた髪型―――分かりやすく言うなら、中世の時代の貴族男性がしていたようなクルクルヘアーのそれ―――が特徴的な一人の男性が後ろ越しに手を組みながら窓の外を眺めていた。

 彼の名前は『バゼルドーラ・フォン・ライファ』。このライファ領を治める領主であり、ライファ辺境伯とも呼ばれている人物だ。

 バゼルドーラはしばらくの間窓の外を眺めた後、ポツリと呟きながら後ろへと振り返った。


「・・・・・・それで、モールテスよ。例の御人はどうしている?」


「―――はい。現在彼女は応接室にてお待ち頂いております。ご用意したお茶とお茶菓子を楽しまれている様子でしたので、ご不快に思われていることはないかと」


 振り向いたバゼルドーラの視線の先には、交易都市ライファの冒険者ギルドのギルドマスターである初老の男性―――モールテス・バリソンが扉の前に立っていた。

 執事服を着こなし、左の片目辺りに片眼鏡モノクルを付けている彼は恭しく頭を下げた後、バゼルドーラの問い掛けが誰の事を指しているのか分かっている様に頷く。


「そうか・・・それは何より、と言うべきか」


 安堵したようにそう言葉を零した後、執務机に座ったバゼルドーラは、引き出しからそこそこ厚い書類の束を取り出した。


「しかし、お前から上げられたこの報告書を目にした時は、驚いたどころの話ではなかったぞ。まさか、我が領内に大魔王がやって来ようとはな。初めは冗談の類だと思ってしまったほどだ」


「正直に言えば、私も最初見た時は信じられませんでした。ですが、彼女から感じられる強者の雰囲気、そして力量は紛れもなく本物です。彼女が本気になればこの都市程度、一瞬にして灰塵へと変えてしまうでしょう」


「・・・お前がそこまで言うとはな。それ程なのか?」


 バゼルドーラが左右の眉を眉間に寄せながら訝し気に尋ねると、モールテスはコクリと頷いた。

 彼等の言う例の御人とは、〝大魔王〝という名称から分かると思うが、『フェルヌス・クディア』のことだった。

 バゼルドーラは手に取った報告書を見ながら、感慨深げに目を細める。

 そこに記されていたのは、彼女が交易都市ライファにやって来てから行ってきた事の数々だ。

 この都市の冒険者ギルドで冒険者登録を行い、Fランク冒険者から始めた彼女が、数多の依頼を効率的且つ大量に熟していき、ランクを瞬く間に上げていったのはまだいい。驚き、感心はすれど、別に前例がないわけではなかったからだ。

 だが、その内容の一部にとてもではないが見過ごせないものが混じっていた。


「(―――なんだ、〝ビッグメタルコングの単独討伐〝って。ビッグメタルコングと言えばあれだろう?全身が大抵の武器などすべて弾き返す程に頑強な鋼色の輝きを放つ皮膚に覆われている、全長十m程の巨大ゴリラだろう?)」


 鉄塊程度ならば容易く粉々に砕けるくらいの力があることと、雷属性以外の攻撃は全くと言っていいほど効かないこともあって、その驚異度はAランク相当。例え同じランクの冒険者であっても、一人で挑めば苦戦は必須・・・というか、その体格差故にまともに闘うことすら難しい魔物だ。

 最低でも魔法攻撃が行えるものがいればいいが、それでも一発二発では多少のダメージを与えるのが関の山。その為、ビッグメタルコングを相手する時は、大抵数百人規模で徒党を組み、大盾を持った前衛が壁役を担当して注意を引き付けつつ、遠距離からの一斉魔法攻撃で削っていくというのがセオリーとされている。

 だというのに、そんな化け物をたった一人で、それも見た目は十代前半くらいの少女が討伐したのだ。これが驚かずにいられるだろうか?

 しかも、ビッグメタルコングの体には無数の拳の跡が残っていたらしい。その内容から推察するに、おそらくフェルヌスという少女は、物理攻撃(それも素手)でもってビッグメタルコングを倒したのだろう。

 バゼルドーラも己の力には自信はあるが、しかしそれでもほんの少し凹ませるのが精々で、フェルヌスのように明確な拳の跡を残すなんて事は無理だった。


「(いや、そちらにも驚いたが、それと同じくらい驚いたのがこれだ。『悪魔召喚事件』。こちらは下手をしたら、私の領地だけではない。このアルゴノブル王国そのものが滅亡の危機に瀕していた可能性があった)」


 バゼルドーラは手元の報告書を一枚捲り、二枚目に書かれている内容に目を通した。

 フェルヌスが冒険者として関わった案件の中で、ビッグメタルコングのそれと同じくらいにバゼルドーラが驚愕したのが、この『悪魔召喚事件』に関する内容であった。

 事件の首謀者である『パンデモニウム教団』と呼ばれる組織は、悪魔崇拝者達が集まって作られた裏世界の宗教団体であり、その特性上あまり表に出てくる事はなく、潜んでいる間は存在すら知覚させない程の驚異的且つ徹底した隠匿性を有している。

 そんな、色々と厄介な手合いではあるがしかし、一度表に出てしまえばその隠匿性はあっという間に瓦解する。

 ・・・・・・というか、彼等自身が自ら、自分達の仕業だ!という感じに大々的にアピールするのである。

 おそらく、自分達の力を誇示する為のパフォーマンスの意味合いがあるのかもしれないが、しかし物陰からわざわざ頭を出してくれるのであれば、こっちのもの。

 『パンデモニウム教団』の信徒達の戦闘力は個々人でバラつきはあるものの、大体はそう高くなく、『王国騎士団』やバゼルドーラが率いる『ライファ騎士団』、サーポルベント侯爵が率いる『紅の鷹騎士団』等の名の知れた者達であれば、問題なく対処できる程度の相手だ。然程苦労はしない。

 だが、彼等が呼び出す悪魔達はそうはいかない。特に『悪魔召喚事件』で呼び出された伯爵(アール)級の悪魔ともなれば、有している能力にもよるが、たった一体で国を一つ滅ぼすことができてしまえる。

 ―――その悪魔すらもフェルヌスは倒してしまったというのだから、なるほど、確かにその実力に関しては疑いようがない。

 ・・・疑いようがないがしかし、バゼルドーラの本音としてはそれを事実だと信じたくない気持ちの方が強かった。

 話始めの方で彼が口にした、モールテスから上げられた報告書を目にして冗談の類だと思ってしまった、という言葉は嘘ではない。嘘ではないがしかし、それは幾分マイルドにして言ったものであり、実際のところは「ついに年相応に耄碌してしまったのか?」といったニュアンスのものだった。

 モールテスとは、様々な事情でバゼルドーラが駆け出しの冒険者をやっていた頃からの長い付き合いだ。先輩冒険者として散々世話になってきた相手でもあり、その人柄と能力はバゼルドーラ自身もよく知っている。

 故に、彼が御伽(おとぎ)話くらいでしか語られない〝大魔王〝が現れた、なんてことを言い出した時は本気で心配した。主に頭を。

 ・・・が、顔を会わせ、言葉を交わした事でそうじゃないと分かり、加えて数々の証拠を見せられたことで、フェルヌス・クディアという少女が、本当に本物の〝大魔王〝と呼ばれるに足る存在であるということを、嫌でも理解させられることとなってしまった。


「あ~・・・ところで、彼女の目的についてなんだが・・・・・・これに書かれているのは本当なのか?この〝アルクという少年を立派に育てる為〝というのは」


「はい。飽く迄今現在の目標、といった感じになりますが・・・実際に指導をしている様子も見られているので、おそらく間違いないかと」


「・・・そうか、間違いないのか・・・・・・」


「・・・?何か気になる事でも?」


 話の途中で報告書に書かれている一文を指差しながらモールテスに尋ねるバゼルドーラ。

 それにモールテスは躊躇うことなく肯定の言葉を口にするがしかし、その返答にバゼルドーラはどこか納得がいかなさそうな表情を浮かべていた。

 ・・・いや、どちらかと言えば不思議そう、といった感じだろうか。疑問に思ったモールテスが尋ねると、バゼルドーラ眉尻を少し下げながら答えた。


「いやな、想像していたのと違うなぁ、と思ってな。ほら、私達の知っている魔王と言えばあれだろう?虐殺したり、略奪したり、支配したり・・・そういった傍若無人と言うか、自分勝手なヤツばかりだろう?だから、大魔王である彼女も、そういった類いの輩なのかと思ったのだが・・・・・・」


「・・・・・・想像していたのと違ったので困惑していると」


「うむ」


 「私の知っている魔王とかなら大体そんな感じだからな」と呟くバゼルドーラに、モールテスは内心「否定できないな」と思った。

 実はこの世界には〝魔王〝と名乗ったり、そう呼ばれたりしている存在が結構いたりする。

 その数は確認され、認知されているだけでも五十前後。未確認の者を含めれば三桁に届くかもしれない。

 その大半が己が我欲を優先している者ばかりであり、中にはただ暴れまわっているだけの者もいる。バゼルドーラが〝虐殺したり、略奪したり、支配したり〝と言っていたのは、これが理由だ。

 理性的に振る舞っている者もいたりはするが、そんなのは本当に極一部であり、滅多に目にすることはない。また、例え理性的であったとしても、価値観の問題などで相容れない時もあるので、穏やか且つ良好な関係性になれる者はもっと少ない。ハッキリ言ってかなり希少だ。

 故にというか、魔王の上位存在と言える〝大魔王〝ともなれば、もっと凶悪で危険な存在と思うのが普通だろう。御伽話でも大体がそう語られている為、バゼルドーラが抱いていたイメージもそこから来ていた部分があった。

 しかし、報告書に記載されているフェルヌス・クディアに関する内容はそのイメージとかけ離れている。むしろ真逆と言ってもいい。その点は報告書の内容からも明らかだ。


「冷酷非道な人物ではなかったことを喜ぶべきなのだろうが・・・しかし、このアルクという少年にとって大魔王である彼女と出会い、見初められてしまった事は、果たして幸運なのか不幸なのか・・・・・・」


「・・・むしろ、彼がこれまでいた環境を思えば、前者の方に当たるかもしれませんね」


 バゼルドーラの呟きに続くように、モールテスが何とも言えない複雑そうな表情を浮かべながらそう呟く。


「む・・・?どうしてそう思うのだ、モールテスよ?・・・いや待て、もしやお前が調べていた例の案件か?私も概要だけは軽く聞いていたが、そこまで酷かったのか?」


 だがそこで、バゼルドーラがピクリと片眉を上げた。

 モールテスの言葉に気になる点があったからだ。

 それからすぐに思い当たる節があったのか、モールテスに尋ねると、彼は小さく首肯した。


「ええ、まあ・・・行方不明事件が収まりを見せて余裕が出来た際に信頼できる調査員を送ったのですが・・・・・・正直、真っ当な大人の立場から言わせてもらえるのなら、あそこはもう見るに堪えない、弱者を嬉々として食い物にする欲の皮が突っ張ったクズ共が蔓延る、最低最悪の掃き溜めのような場所です。・・・よくもまあ、ああも汚泥の如き連中を集められたものだと、思わず感心してしまいましたよ。―――本当に反吐が出る」


「お、おぉう・・・お前がそこまで言う程か」


 顔を歪めながら吐き出すようにして語るモールテスに、バゼルドーラは若干引き気味になる。普段の紳士然とした姿を見慣れているからこそ、その驚きは一入(ひとしお)だ。

 つまり、それ程までに怒りを覚えたという事だろう。その事を察したバゼルドーラはほんの少しだけ冷や汗を流した。


「・・・その、だな、モールテスよ。その調査報告がどんなものだったか、聞いてもいいだろうか?」


「・・・構いませんが、詳しいお話は彼女のいるところですると致しましょう。一番彼に関係する話を聞きたがっているのは彼女でしょうから。・・・それに、これ以上お待たせするのは流石に失礼になりますので」


 バゼルドーラは若干頬を引き攣らせつつも、引いていた体を戻してモールテスに詳しい話を聞き出そうとしたが、それはやんわりと断られてしまう。

 客人として招待した少女の姿をした大魔王を、これ以上待たせるのはよろしくないだろうと、そう言いながら。


「む、む?もうそんなに時間が経っていたのか?・・・むぅ、仕方があるまい。では、話の続きは彼女のいるところで聞くとしよう」


 一瞬不満そうな表情を浮かべたバゼルドーラだったが、しかしすぐに諦めたかのように溜息を一つ零すと、そのままモールテスと共に部屋を出る。

 部屋を出た彼等が向かう先は、フェルヌス・クディアが待つであろう応接室だ。

 しばらく廊下を歩いた後、その扉の前に辿り着いたバゼルドーラ達は、コンコンコンとノックをするとドアノブに手をかけ、ゆっくりと回して押し開けた。








 冒険者ギルドでライファ辺境伯に呼び出しを受けているという話を聞いた私は、かの人物が待っているであろう交易都市ライファの中心に存在する城へと向かった。

 招待状も何も持ってはいなかったのだが、どうやら城門を警備していた騎士に話は通っていたらしく、名前を言い、ライファ辺境伯に呼ばれて来たと言ったら、すんなりと通してもらえた。

 それから、案内を任されてたのであろうメイドに連れられ、城内の一室―――おそらく応接室だと思われる部屋に通された。

 おそらく、準備が整うまで待っていてもらおう、ということなのだろう。部屋の中央に置かれたテーブルの上にお茶とお茶菓子が運ばれてきたので、たぶん間違いない。

 「主の支度が整うまで、こちらでごゆるりとお待ちください」と言ってメイドがそそくさと退出した後、私はソファに座って、出されたお茶菓子に手を伸ばしてみた。

 お茶菓子として用意されたのは、どうやらクッキーらしい。

 絵柄も何もない茶色い色合いのそれをクルクルと裏返すなどして一通り眺めた後、私は一口噛ってみた。


 ガリッ・・・!ガリッ、ゴリッ、ガリッ、ゴリッ・・・。


「・・・・・・・・・」


 食べてみての感想は、〝固い〝だった。

 いや、食べられない、という程のものじゃない。砂糖か蜂蜜が入っているのか甘味は感じられるし、例えるなら噛めば噛むほど味が出る、といった感じだ。これはこれで美味しいと言える。


 ガリッ・・・!ガリッ、ゴリッ、ガリッ、ゴリッ・・・。


「・・・・・・・・・」


 ―――だが固い。このまま食べ続けたら絶対顎が疲れるぞ、これ。嫌がらせか?嫌がらせを受けているのか私は?

 ・・・いや待て。もしかしたら、この世界のお菓子は、これがスタンダード(標準)なのかもしれない。

 確か、元々クッキーは旅行の携帯食が起源で、中世の頃のそれは質感が硬く、乾燥していて甘くなかったとか。

 ギルドマスターのところで口にしたのも大体こんな感じだったし、ひょっとしたらそういう理由なのかもしれない。


「(・・・というか、なんで私はこんな知識を知っているんだ?あれか?記憶を失くしてしまう前は菓子職人だったりしたのか?)」

 

 カチャ・・・コクッ、コクッ、コクッ・・・。


「・・・・・・・・・」


 口の中が乾いてしまったので、お茶を飲む。

 用意されたのは渋味が少なく、甘みが感じられる種類のものだったらしい。

 黒っぽい水色と芳醇な香りから、おそらくアッサムティーか、それに近いものだろう。以外とゴクゴク飲めてしまえ―――


「(・・・・・・いやだから、なんで私はこんな知識を持っているんだよ!?)」


 おかしい。明らかにおかしい。

 確かに私は『カオスゲート・オンライン』では色々な料理やお菓子を作ってきたことはある。だが、それほど深い知識なんて持ち合わせていなかった。精々が美味しいか美味しくないか、くらいだ。

 ましてや、お茶の知識なんて興味すらなかったし、知ろうともしなかったのであるわけがないのだ。

 だというのに、私の頭の中にはそれがあった。

 いったい何時、何処でこんな知識を得たのか。甚だ不思議でならない。


 ―――コンコンコンッ。


「・・・はっ!?」


 そうやって私が頭を悩ませていると、ノックの音が室内に響いた。

 ハッと我に返った私が顔を上げるのと、扉が開くタイミングはほぼ同時であった。


「お待たせしてすまない。ライファ領領主、バゼルドーラ・フォン・ライファだ。君がフェルヌスくんか。いやぁ、話には聞いていたが、実に可愛らしいお嬢さんだ」


 「はっはっはっ!」と快活な笑みを浮かべながら部屋に入ってきたのは、頭の左右にあるクルクルとしたカール状の髪が特徴的な筋骨隆々な肉体を持つ男であった。

 身長は軽く見積もっても、二mは越しているだろう。まさに大男と呼ばれるような体躯の持ち主だ。

 その後ろでは、ギルドマスターであるモールテスが立っており、一歩身を引いたような感じのその姿は、まるで付き従う従者の様であった。


「初めまして、ライファ辺境伯。私はBランク冒険者のフェルヌスと言います。本日はお招きいただき、ありがとうございます」


「お、おぉ・・・!?お、おう・・・」


 ソファから立ち上がり、挨拶をする。

 初対面なのだから挨拶はしっかりしないと、とそう思って行儀良さげにやったのだが、何故かライファ辺境伯は面を食らったかのように驚いた様子で一歩後退りした。

 ・・・いや、何で?


「い、いやはや、すまない。予想以上に礼儀正しい挨拶をされたもので少々驚いてしまったよ。・・・その、お嬢さん。失礼を承知で聞くのだが、君は本当に冒険者なのかな?」


「ええ、そうですが・・・?」


 私が首を傾げつつそう答えると、ライファ辺境伯は「そ、そうか・・・ちょっと失礼」と呟いた後に、クルリと振り返り、丁度後ろにいたモールテスに腕を伸ばして、ガッ、と肩を組んだ。


「(な、なあおい。本当にあの子が、お前の言うあの大魔王なのか?私にはとてもそうは見えないんだが)」


「(ええ。間違いなく彼女が大魔王ですよ。容姿についてはきちんと説明したでしょう?見た目に惑わされてはいけません。彼女は紛れもなく、大魔王と呼ばれるに相応しいとてつもない強者(つわもの)です。その気になれば我々など、おそらく片手間で秒殺されます)」


「(秒殺!?え、そんなに強いのか、彼女は?)」


「(強いんです。なので、その事を前提に言動と行動に注意してくださいね)」


「(む、むぅ・・・分かった。気を付けよう)」


 こそこそと、小声で話し合う二人。どうやら私のことで色々話し合っているらしい。


「いやぁ、待たせてすまない。色々と確認の為にコイツと少し話をしたくなってなぁ」


「それは、私が本当に大魔王なのかということを、ですか?」


「馬鹿なっ!?何故分かった!?」


 何故って、そりゃあもちろん全部聞こえていたからなのだが。

 敢えて一言で言うのなら、私のケモ耳イヤーは優秀だったとだけ言おう。

 まあ、モールテスは自分達の会話が私に丸聞こえだったという事に気付いていたようなので、一種の茶番劇みたいなものだろうけど。


「フハハハハハッ!まあ、バレてしまったのであれば仕方がない!いや、疑ってすまない。報告書を見たり話を聞いたりしてある程度君の事を知ってはいたのだが、私が想像していたのはもっと屈強そうな感じだったのだが、まさか、こんな可愛らしい見た目の、礼儀正しいお嬢さんだとは思ってもみなかったのだよ。気分を害してしまったのであれば、謝罪しよう」


「別にそこまでしていただかなくても構いませんよ。私の見た目は確かに小娘ですからね。疑ってかかるのも無理はない」


 「むぅぅ・・・!」と唸り声を上げた後、開き直ったように豪快な笑い声を上げるライファ辺境伯。

 それに対して私は、苦笑を浮かべて返した。


「・・・おお、そうだ。言葉遣いに関してだが、無理に畏まった言い方をしなくてもいいぞ。何時も通りの口調で構わんよ」


「―――む、そうか。では、その言葉に甘えさせてもらうとしよう。・・・しかし、何時も通りの口調、か。報告書を見たり話を聞いたりしている、とも言っていたし、随分と私の事に関して詳しいようだな、ライファ辺境伯。その情報の仕入れ先は・・・・・・まあ、当然一つしかないわな」


 そう言いながら、私は視線をライファ辺境伯から、彼の後ろにいるギルドマスターへと向ける。

 視線を向けられたモールテスは、一瞬肩を震わせ、ブワッと冷や汗を流した。


「(さて、ギルドマスター。貴方に話があるのだが・・・)」


「(あ、頭の中に声が・・・!?デジャブッ・・・!?)」


 私は”特定の相手と思念での会話を可能とする”という魔技である《念話》を発動。モールテスの脳内に直接声を掛ける。


「(確か貴方は、下手をしたらこのライファ領事態が滅んでしまうかもしれないからとかで、私が大魔王であるという事を世に広めるつもりはない、って前に言っていた筈だよな?・・・なのに、どうして彼は私が大魔王であるということを知っているのだろうか?それは、交易都市ライファ(ここ)では、貴方しか知らない事の筈なんだが?)」


「(そ、それは・・・そのぉ・・・・・・!?)」


 モールテスの両目が盛大に泳いでいる。

 おそらく、ライファ辺境伯に色々と報告した時から私に問い詰められる事は想定していたのだろうがしかし、実際にその状況に直面した途端に恐怖が勝ってしまったとか、そういった感じなのだろう。

 表面上は落ち着いた紳士然とした姿であるというのに、その一方で中身のテンパり具合が半端ない。

 前から思ってはいたが、見た目と内面のギャップが激しいな、この人。


「(・・・はぁ。まあ、いいけどな。正直なところ私としては、その事で貴方を責めるつもりはなかったりするし)」


「(・・・へ?その、許してくださるのですか?私としてはありがたいとは思いますが、いったいどうして・・・?)」


 思わずモールテスを見つめる目が半眼となりつつも、しかし内心では仕方がないといったような感じの溜め息を吐いた私が《念話》でそう伝えると、彼は安堵しつつも片眉を上げるなどの困惑気な仕草を見せた。


「(許すも何も・・・私が大魔王であるということをギルドマスターが誰かに伝えることは、元から想定していた事だったしな。それに、ギルドマスターの為人(ひととなり)は短いながらもそれなりに関わってきたから大体分かっている。貴方が誰かに話すとしたら、それはよっぽど信頼し、信用している相手くらいのものだろう)」


 最後に「・・・違うか?」と尋ねると、まさにその通りで何も言えなくなったのか、返答は「・・・・・・」と無言であった。

 そう。モールテスの性根は善性のそれだ。人間性もまっとうであり、悪意を持って他者を害することも、悪事に手を染めることもまずしない。そんな人物だ。

 そのモールテスが信用して話す相手だ。であれば、その人物も同じく信用できる人物である可能性が極めて高い。

 ちなみに、ライファ辺境伯の人柄や評判などは、一応事前に調べてはいた。

 アルゴノブル王国の貴族の中でも武闘派に数えられており、戦となれば負け知らずだとか。

 質実剛健を是としているが、人材登用の手腕は見事の一言で、それによって領地を飛躍的に発展させてきたとか。

 三人の娘がいて、その内二人は既に嫁に出ており、最後の一人は何処かの学園に通っていて、今は領地にいないとか。

 他にも色々あったが、特出すべき点があるとしたら大体このくらいだろう。

 総じて、優秀な人物といった評価だが、登用された者の中には、冷遇されていた者や生活が苦しかった者、奴隷だった者などが比較的多く、そういったところを見るに、少なくとも悪い人物ではないことは分かる。


「―――あ~・・・大魔王殿。そろそろ、貴女を呼び出すに至った本題について話したいと思うのだが、いいだろうか・・・?」


「・・・分かった。あと、私のことはフェルヌスと名前で呼んでもらって構わない。大魔王と呼ばれるのは、あまり慣れていないものでな」


「では、フェルヌス殿と呼ばせてもらおう。・・・フェルヌス殿、立ったままでは疲れるだろう。話はそこのソファに座ってしようじゃないか」


 と、そこでライファ辺境伯から声を掛けられた。

 妙な緊張感が漂う場の雰囲気を変えようという意図もあったのだろう。ソファに座る事を促されたので、空気を読んだ私は、素直に彼の言葉に従う事にするのであった。




次回の投稿は5/30を予定しております。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ