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【改訂版】カオスゲート・サーガ ~大魔王と勇者の冒険譚~  作者: Kudo
第4章 ~迫り来る愚かなる者達~
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第4章第3話 ~少年と少女と冒険者見習い達 3~



 冒険者ギルドでの話し合いを終えた後、パルプィナの実の収穫依頼を受けた僕達は、西の外壁門を通って都市外に出て、そこから緩やかに伸びている街道を馬車に乗って移動していた。

 僕達が乗っている馬車はパルプィナの実の収穫依頼の為に幾つか用意されていた物の一つだ。毎年の事だそうだが、今回僕達が受けた依頼はとにかく人手を必要とするものであるらしく、基本的に冒険者は依頼された場所へは徒歩で向かうのが常なのだが、それでは効率が悪く時間も掛かるという事で、冒険者ギルドが結構な人数をまとめて送り出せるように準備していた物らしい。

 車輪が回り、車体が揺れる度に、ガラガラ、ガタゴトという音が鳴る馬車を運転しているのは、僕達の監督役を請け負ってくれたオリバーさんだ。

 流石はベテランと言うべきか、御者席に座る彼の馬車を引く馬の扱いは上手く、時に手綱を引くなどして的確に操っていた。

 その後ろ、馬車の荷台では、僕とクーリィ、そしてギタル達が座りながら話をしていた。


「へぇ・・・じゃあ、ギタルとその妹さん、それからショーンの三人は、元々都市の外で暮らしてたんだ?」


「ああ、そうだぜ。アルギュウ村っつってな。だだっ広い放牧地があって、そこで牛とか馬とか羊とかの家畜を沢山飼ってる村なんだ。俺と妹はその村の村長の子供で、ショーンは村で唯一の薬師の息子なんだよ」


「村長と薬師の・・・なるほど。・・・でも、その子供の君達がどうして冒険者に?」


「う~ん、それなんだけど・・・ほら、一月程前まで続いていた行方不明事件があっただろう?あれのせいで一部の村人が怖がっちゃって、村から出て行ってしまったんだよ。僕等が都市にいたのも、その煽りを受けてというか安全を考えての事でね。都市に住んでいた親戚の下に一時的に預けられたんだ」


「・・・預けられたって、家族で来たわけじゃないの?」


「まあな。流石に村長やってた俺の父ちゃんと、薬師やってたショーンの親父さんは村から離れることができないってんで、子供の俺達だけが都市に来たんだよ。・・・・・・正直、叔父さん達には感謝してるんだ。親戚とはいえ、他所の子供の俺達の面倒を見てくれているからな」


「僕等が冒険者になろうと思ったのは、その叔父さん達に何かお礼になることをできないか、って考えての事なんだ。・・・・・・まあ、それ以外にも目的があるんだけどね」


「それは、どういう・・・?」


 何やら意味深なことを口にする二人。

 それに僕はどういう事だろうと首を傾げて見せる。


「・・・・・・俺達が冒険者になったのは、叔父さん達にお礼をしたいってのもそうだが・・・なによりも、いなくなっちまった俺達の家族を探す為なんだよ」


「え?それって、まさか・・・」


「ああ。例の行方不明事件、その被害にあった人達の中に、俺とショーンの両親も入ってんだ」


 ギタルはほんの少し顔を伏せながら呟く様にそう言った。


「父ちゃん達が行方不明になったのを俺達が知ったのは、叔父さん達の所で暮らし始めて一週間が経った頃だった。知らせてくれたのは、領内を巡回していた辺境伯様に仕える騎士でさ。その人が村の様子を見に行った時には人っ子一人いなくなっていたらしいんだ。荒らされた後もあったから、たぶん誰かに連れ去られたんじゃないか、って話だったんだが、残念ながらその手がかりになりそうなものは見つからなかったらしい」


 その口調こそ感情を感じさせない淡々としたものだったが、しかしその内心は口調程落ち着いているわけではないらしい。

 何故なら、彼の拳はギュッと強く握り締められていて、その瞳には強い怒りと悲しみの色が見えていたからだ。

 だが、ギタルはすぐにそんな自分の様子に気付いたのか、一度深く息を吸い、吐く事で気持ちを落ち着かせた後に、しんみりとした場の空気を変えようとしてか努めて明るい声を出した。


「まあ、そう言った理由で俺達は冒険者になることにしたってわけだ。・・・あ、もちろんショーンが言っていたようにオリバーさんに憧れて、ってのも嘘じゃねぇぞ。切っ掛けは確かに父ちゃん達を探す為だったけど、冒険者になりたいと思っていたのは元からだったんだからな」


「そうだったんだ。・・・君達も、その・・・色々と大変な思いをしてきたんだね」


 ギタルに向けて言ったその言葉に、同情の気持ちがないと言えば嘘になる。

 彼は二カッとした笑みを浮かべていたが、でもその笑みを目にした僕は、彼の心に癒えない傷が残っているように感じられて、それが何とも痛々しく思えてならなかったからだ。


「じゃあ、そっちの三人も・・・?」


 ギタルとショーンの話を聞いて、「二人にそんな経緯があったのなら、もしかして・・・?」と思った僕は、その視線をポムス、シェイナ、キィナへと視線を向ける。

 だが、それに対して三人はフルフルと首を横に振った。


「ううん、違うよ」


「そうそう。私達はギタル達みたいな複雑な事情を持っているわけじゃないよ」


「オイラ達は~、小遣い稼ぎの為に~、冒険者見習いをやってるんだ~。ただ~、オイラ達だけじゃ~、うまくいかなかったから~、ギタル達に~、パーティを組んでってお願いしたんだ~」


 と、軽い感じで答える三人。

 ギタル達の様な何かしらの事情がある者特有の重苦しい感じがしないその様子を見て―――なるほど、確かにこの三人は本当にギタル達とは違う理由で冒険者になったのだろうと僕は思った。


「・・・というか、大変な目にあったって言やぁ、お前等だってそうじゃねぇか。偽物の冒険者カード渡されて扱き使われたり、変な奴等に襲われて孤児院を追い出されたり・・・ある意味、俺等が経験した事より酷ェ話だろうがよ」


 と、そこでギタルが何処か呆れている様な口調で僕達に向けてそう言った。

 彼がそんな事を言ったのには理由があって―――というのも、実は彼等が冒険者になった理由を話すよりも先に、僕達が自分達の身の上話をある程度話していたからだ。

 ・・・まあ、返されたギタル達の反応は「うわぁ・・・」といった感じのドン引きしたものだったが。

 とはいえ、そんな反応になってしまうのも無理はないだろうと思ってはいた。なにせ、傍から見れば明らかに理不尽な出来事ばかりだったのだから。

 なので、何も言い返せないと思った僕は、「あはは・・・」と乾いた感じの笑い声を上げて誤魔化した。


「―――あ~・・・お前等、そろそろ話が一段落したところか?なら少しの間、静かにしといてくれるとありがたいんだが・・・」


 そうして、僕達が話をしていた時だった。不意に、御者をしていたオリバーさんから声を掛けられたのは。

 それに誰よりも早く反応したのはクーリィだった。彼女はオリバーさんの隣に移動して御者席に座ると、彼を見上げながら尋ねた。


「どうしたの、おじさん。何か見つけたの?」


「いやだから、俺はおじさんって歳じゃ・・・ああ、もういいや。・・・実はこの先に誰かいるみたいでな。大丈夫だとは思うんだが、一応警戒しとけってお前等に言いたかったんだよ」


 そう言いながら、前方を指差すオリバーさん。

 その指し示した先には、街道を歩く二つの人影があった。

 向かおうとしている方向こそ同じであったようが、移動速度は向こうよりも此方の方が早かった為、進むにつれて距離が近づいていき、その輪郭が徐々に明らかになっていった。


「ん~?先輩、なんか後ろから馬車が近づいて来てますけど」


「なに?むむっ、あれは・・・・・・おお!そなたは確か、外壁門で共に戦った冒険者・・・オリバーと言ったか?まさかこのような場所で会うとはな!」


「あん?アンタ等、もしかしてあの外壁門にいた騎士達か?」


 二つの人影の正体は、騎士甲冑を身に着け、その手に三ツ又の槍を持った二人の騎士達であった。

 片方は十代後半くらいの年若い青年。もう片方は口許に生やしたチョビ髭が特徴的な壮年の男性だ。

 僕達が乗る馬車に気付いて振り向いた彼等は、馬車の御者席に座っていたオリバーさんの姿を見て、まるでこんな所で知り合いに出会うとは思わなかったと言いたげな、驚いた様な反応を見せた。

 そして、オリバーさんの方もまた目の前にいる人物達に見覚えがあった様で、驚きの声を上げていた。


「アンタ等が此処にいるのは領地の巡回か何かか?」


 オリバーさんがそう尋ねると、チョビ髭の騎士は頷いた。


「うむ。この周辺の村々を見て回る任務を与えられてな。今日はもう既に幾つか見ていて、後はこの先にある村を見て終りだ。それで、貴殿は・・・子供達の引率か?」


「あ~・・・当たらずも遠からずって奴だな。俺は冒険者見習いのコイツ等が受けたパルプィナの実の収穫依頼の監督役を請け負ってな。今はそこに向かって移動している最中なんだよ」


「パルプィナの実の・・・・・・おお!そう言えば、そろそろあの実の収穫時期であったな」


「あれ、生でも美味しいけど、デザートに使えばもっと美味しくなるんですよねぇ」


 オリバーさんの話を聞いた騎士達は、僕達が此処にいる理由を知って納得した様にうんうんと何度も縦に振っていた。


「ふむ、どうやら我等と貴殿等の向かう先は同じである様だな。そういう事であれば・・・オリバー殿。一つ提案なのだが、共にその村へ向かわぬか?」


「うん?まあ、俺達としては一緒に行ってくれるってんならありがたいと思うが・・・いいのか?」


「構わぬ。幼き子供を守るのも騎士の務めよ。それに、子供の引率込みとはいえ、腕利きが共に来てくれるのはありがたい。なにせ、ちとこの辺りで不穏な噂が流れ始めていたのでな」


「不穏な噂だって・・・?」


 呟かれたオリバーさんの声は、どういう事だと言いたげなものであり、それを察したチョビ髭が、うむと頷いた。


「実はここ数日、この近辺で怪しい集団を見かけたという話が各村々から上げられていてな。初めは、何処ぞから流れてきた盗賊団が悪巧みをしているのではないかと思っていたのだが・・・・・・調査を進めていく内に、おかしな点が多々見受けられてな。どうにもそういった輩ではないのではないかと思い始めていたところなのだ」


 チョビ髭の騎士が言うには、普通盗賊というのは寄せ集めの集団である場合が多く、まとまりがなく、知恵もそうあるわけではないので、至る所に痕跡を残すそうだ。

 ・・・がしかし、件の怪しい集団はその痕跡が極端に少なかったらしい。

 どうやら自分達のいた痕跡を消しているようで、これはチョビ髭の騎士の所感ではあるが、その消し方は軍隊式の訓練を受けたもの特有の、計画性に基づいたものであるそうだ。

 つまり、件の怪しい集団はただの盗賊団などではない可能性が高いということであり、何かしらの確信がある様子で語るチョビ髭の騎士の話を聞いたオリバーさんは、「・・・きな臭ェな」と眉間に(しわ)を寄せて呟く。


「軍隊式の訓練を受けた経験のある盗賊なんてのが、そんじょそこらでそう簡単に湧いて出るわけがねぇ。十中八九どっかの軍隊、もしくは騎士団の可能性が高い。・・・他に何か分かったことはないのか?例えば何処の所属とかさ?」


「いや、残念ながらそういったモノは分からんかった。分かったのは、人数が大体二十~三十人程、馬が十数頭いるということだけだ」


「馬までいんのか・・・しかも結構な数・・・ますますキナ臭い話になって来たなぁオイ」


 「こりゃ、ますます盗賊団なんてもんじゃねぇな」と零すオリバーさんに、チョビ髭の騎士は「まったくだ・・・」と同意した。


「今のところ、その集団による目立った被害報告は出ていない。・・・が、正体と所在地を突き止めない限り危険であることに変わりはない。・・・とりあえず、今から行く村の様子を見た後に調査報告を上げるつもりだが、それまでは・・・少なくとも都市に戻るまでの間は貴殿等と行動を共にしたいと思うのだが、いかがだろうか?」


「・・・まあ、俺としちゃ別に構わないんだが、生憎と今はこのガキ共の引率中なんでな。コイツ等にこのまま向かうかどうかの意思確認をさせてくれ。今回の依頼はコイツ等が選んで受けた依頼だし、コイツ等が行きたくないと言うのであれば戻る必要がある。・・・ああ、勿論。その時には今聞いた話を冒険者ギルドに報告させてもらうぜ?」


「うむ、構わぬよ。我等はそちらでも問題はない。どちらにせよ、冒険者ギルドとは情報の共有化をする必要があるだろうからな。」


「話が分かる人で助かるよ。・・・・・・さてと、話を聞いていたんだろう、お前等。どうする?俺としては都市に帰るのをお勧めするが・・・?」


 オリバーさんはそう言いながら、肩越しに馬車の荷台にいる僕達に向けて視線を向けてきた。


『・・・・・・』


 一瞬押し黙る僕達。

 なにせ、危険に飛び込むかどうかの瀬戸際だ。そりゃ黙るし、どうすればいいのかと悩む。

 ・・・ただ正直、僕の考えとしては、都市に戻った方がいいと思っていた。

 今の僕の実力ならば、たぶん相手がただの盗賊であれば問題なく倒すことができるとは思う。それは以前、パンデモニウム教団という悪魔を崇拝する組織を相手に戦った経験からくる判断だったが、しかしそれが軍隊や騎士団相手となれば話が変わる。

 ましてや、僕と同じくフェルヌスさんに師事を受けているクーリィはともかく、おそらく戦闘経験などないと思われるギタル達も一緒となれば、余計に厳しいと言わざるを得ない。彼等を守りながら戦えるだけの技量を持ち得ているとは、まだまだ言えないからだ。

 ハッキリ言って、危険性を考えれば引き返した方が賢明だと思う。

 ―――けれど・・・と、僕はチラリと視線を横に向けた。

 そこには、決意を秘めたような眼差しで前を見るギタルの姿があった。


「・・・行く!俺は行くぞ!妹の為にパルプィナの身を持って帰んなきゃならないんだ。こんな所でハイそうですかと戻って堪るか!」


 ギタルはグッと拳を握り締め、自分の意志を示すように声を上げた。

 そんな彼の様子に、他の子供達も顔を見合わせると、コクリと力強く頷いた。


「うん、僕達も構わないよ。というか、帰りの道でその集団と出会わないとも限らないし。だったら戦える人が多い方が安全だと思う。・・・君達はどうするんだい?」


「私も問題ないよー!もし怪しい連中が襲って来たら、この師匠から貰ったこの木刀と、教わった戦い方で、しこたまぶっ叩いてやるから!・・・アルク兄ぃも当然行くよね?」


 ショーンがギタル以外の子供達を代表して言い、それに続くようにクーリィも背中の布鞘に納めていた木刀を抜いて、片手で掲げながら頷き、その後で僕にも行くかどうかを尋ねてきた。


「―――勿論行くよ。それに、元々今回の依頼は彼等から頼まれて受けたものだ。その彼等がこのまま行くと言うのなら、行かないわけにはいかないしね」


 僕はそう言うと、皆と一緒になって前を向く。

 すると、それを見たオリバーさんが、「そうか」と呟きながらニヤッとした笑みを浮かべると、騎士達へと向き直った。


「・・・というわけだ、騎士様方。コイツ等もこう言っているようだから一緒に行かせてもらうぜ。・・・まあ、もしもの時はコイツ等の安全を優先させてもらうが、いいよな?」


「うむ、構わぬよ。そのもしもの時が来たら逃げてしまっても構わぬ。ただ、もし仮にその集団を発見した場合は、この警笛で知らせてほしい」


 チョビ髭の騎士はそう言うと、懐から小さくて黒い筒状のモノを取りだし、オリバーさんに手渡す。

 その小さなソレを受け取ったオリバーさんは、掌の上に置いて一頻り眺めた後、ズボンのポケットに仕舞い込んだ。


「了解した。それじゃあ、目的の村に向かうとするか。行くぞ、お前等ぁ!」


 響き渡るオリバーさんの掛け声。

 それに僕達は、はい!と元気よく返事をした。








 二人の騎士と一緒に行く事になってしばらくして、僕達は目的の村にもうすぐ辿り着くところまで来ていた。

 この道中で僕達はチョビ髭の騎士と年若い青年騎士と互いに自己紹介を交わしていた。

 それぞれ、マクレーとラディッシュと名乗った彼等は、ライファ辺境伯配下の騎士団に所属する騎士であるらしく、普段は都市防衛の任に就いているのだそうだ。

 こうして領地内の村々を見回っているのもその一環であるらしい。なんでも、守りを固めて動かないでいるだけでは都市に迫り来るであろう危機を察知する事が難しくなるからとのこと。また、村々で起こる問題を調べ、解決すれば、その分だけ危機を未然に防ぎ、遠ざける事ができるからだとも彼等は言った。

 その話を聞いていくうちに僕は、段々と彼等に尊敬の眼差しを向けていくようになった。

 何故ならその考え方が、在り方が、僕が憧れ、目指している理想の勇者像に何処か近いものを感じたからだ。

 だからと言うべきか。そう思った瞬間、胸の内で密かに抱いていた彼等に対しての警戒心が次第に解けていくのを実感していった。

 ・・・ちなみにだが、その話を聞いている間、僕とクーリィとギタルの三人は、馬車から降りてマクレーさん達と同様に街道を歩いていた。

 それはマクレーさん達と出会った時の話に出ていた怪しい集団というのを警戒してのものだった・・・・・・のだがしかし、この道中ではその怪しい集団はおろか、盗賊や魔物等からの襲撃を受けることなく、穏やかなものだった。

 目的の村近くにまで来た頃になると、僕は内心でホッとしていた。どうやら僕達の心配は取り越し苦労に終わりそうだと。

 ―――だけど、それは束の間の平穏だった。


「・・・・・・え?」


 僕達が目的の村へと辿り着いた時、そこには幾つもの火の手が上がっていた。

 それだけじゃない。道端には村人と思わしき人達が、何人も、何人も、血を流して倒れている様子も目に入った。


「なんだ、なんだよこれ・・・いったいどういうことだよ、これはぁ!」


 僕と同じくその光景を目にしたギタルは叫び声を上げた。

 それは怒りと困惑と恐怖が()い交ぜになったような、悲痛ささえ感じさせるような叫びだった。


「あ、アルク兄ぃ・・・村が・・・村が燃えちゃってるよ・・・何で、どうして・・・・・・」


 クーリィが僕の服の裾を指で掴む。

 目の前の惨劇を見て不安と恐怖を覚えてか、その指は震えており、その瞳はまるで昔見た悪夢を思い出したかのように光がなくなり、怯えるように揺れていた。

 そんなクーリィの様子を目にした僕は、彼女を安心させようとして、彼女の頭を優しく撫でつつ、頭の中では「どうしてこんなことに・・・この村でいったい何が起こったんだ?」という疑問で埋め尽くされていた。

 ―――そしてふと、僕の脳裏にある一つの可能性が浮かんだ。

 もしかしてこの惨劇を引き起こしたのは、例の怪しい集団なのではないか、と。


「むむっ!?これはいかん!行くぞ、ラディッシュ!村を襲う悪逆なる者共を追い払い、村人達を助けるのだ!!」


「りょ、了解です、マクレー先輩!あっ、オリバーさんは子供達と一緒に村から離れていてください!危ないので!」


 マクレーさんが険しい表情を浮かべ、何処か焦燥感を漂わせながら声を張り上げる。

 目の前の惨劇を目にしてからの数秒は僕達と同じく呆然自失となっていたようだったが、すぐに正気を取り戻したらしい。槍を両手で握り締めたマクレーさんは、キッと火の手が上がる村へと視線を向けると、勢いよく走り出した。

 それを追い掛ける様に、彼の後輩であるラディッシュさんもまた槍を構えて走り出す。

 槍を振り回し、焦げ臭い匂い漂う黒煙と、皮膚が焼け爛れそうになるくらいの熱気を持つ炎を切り裂く様に吹き飛ばしながら、彼等は燃え盛る村の中へと入って行く。

 その背中を見送ったオリバーさんは、一瞬だけ険しい目をした後、クルリと僕達に振り向いた。


「話は聞いていたな、お前等。この状況だ、此処にいるのは明らかにマズイ。今すぐ安全だと思える所まで離れるぞ」


 そう言って足を進ませ、僕達の横を通り過ぎて馬車へ乗り込もうとするオリバーさん。

 ―――その手を、僕は咄嗟に掴み取った。


「・・・ッ!離れるって、この村をこのまま放っておいて逃げろって言うんですか!?」


「ああ、そうだ。何時この村を襲っている連中が此処にやって来るか分からないからな」


 思わず声を荒げ、オリバーさんを引き留めようとする僕だったが、しかしそれに対して彼は冷静に言葉を返してくる。


「その・・・おじさんなら村の人達を助けることが出来るんじゃないの?だって、Cランク冒険者なんでしょ?」


「・・・出来るか出来ないかで言えば、まあ出来るさ。―――ただし、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 クーリィが縋るような目を向けながら声を掛けたりもするが、しかしオリバーさんは肩越しに僕達に向けていた目をスッと細め、首を横に振った。


「だが、今此処にはお前等がいる。今の俺の仕事はお前等の監督役だ。その仕事の中にはお前等の身の安全も入っている。だから俺は村人を助けに行くことはできない。騎士達に出会った時も言っただろう。”もしもの時はお前等の安全を優先する”ってな」


 言った。言っていた。確かにオリバーさんは、マクレーさん達と出会った時にその言葉を口にしていたし、当然それを僕達も聞いていた。

 だけど・・・それでも・・・、と僕は俯き、唇を強く噛み締める。

 今も燃え盛っている村の中には、悲鳴を上げ、助けを求めながら逃げ惑っている人達が大勢いる。だというのに、それを見捨てる様にして逃げるなんていうことを僕はしたくはなかった。

 それは人間であれば誰しもが持つ真っ当な感性―――善性や正義感といったものから来る思いであったが、しかしそれ以上に、自分が憧れ、成ろうと目指している勇者や英雄といった者達であれば、この目の前で起こっている悲劇を見過ごすなんて事はしない筈だとも考えていたからだ。

 所詮は理想論だと笑われるかもしれない。何時までも子供みたいな夢を見るなとも言われるかもしれない。

 でも、それでも、僕はそんな考えを捨てることは出来なかった。

 ―――だって、僕の夢は、英雄譚で語られる様な勇者に成る事なのだから。


「・・・!」


「・・・・・・」


 だからこそ、僕は顔をグッと上げて、オリバーさんの顔をジッと見詰めた。

 オリバーさんもまた、何も言わずに僕の顔をジッと見返す。けれどその瞳には、我儘な子供をどう説得しようか悩んでいる様な、そんな感情の色を滲ませているように見えた。

 そしてそのまま数秒間、互いに無言のまま見詰め合っていると―――


「―――ああ、あああ・・・!あそこは、あそこは・・・!!」


 ―――そこで突然、震え混じりの悲鳴が上がった。

 いったい何事だと思った僕達が声が聞こえた方へと視線を向ければ、そこには半開きの口をワナワナと震わせ、両目を見開きながら僕達がいる方とは別の所へと視線を向けるギタルの姿があった。

 その姿を目にして、どうしたのだろうか?と訝しみつつ、僕は彼が目を向けている先へと視線を向ける。

 そこには、まるで壁の様に立てられた柵に三つ又の葉が特徴的な蔓草が絡まる様に生い茂り、その所々には楕円形の丸々とした黄色い実が幾つも実っていた。

 それはまさに果物畑とも言うべきものであり、実っている黄色い実がパルプィナの実であろうことは見た瞬間に察せられた。それが光を反射して輝く様は、今この時でさえなければ、綺麗とも美しいとも思えた事だろう。

 ―――そう、村の家々から燃え移った炎によって焼かれている状況でさえなければ。


「・・・ッ!」


 燃える。燃えていく。畑に幾つも生い茂っている植物が舐める様に広がって行く炎によって焼かれ、燃えていく。葉が、実が、全てが灰となって崩れ落ちていく。

 その光景を前に僕は息を飲んだが、しかし僕以上にそれを目にして衝撃を受けた様子を見せたのはギタルだった。


「やめろ・・・やめてくれ・・・!燃えてくれるなよ頼むから・・・!妹が待ってるんだ・・・パルプィナの実を食べさせたら元気になる筈なんだ・・・!だから・・・だから・・・ッ!!」


「ギタル!?いけない!そっちに行っちゃダメだ!!」


 ギタルはイヤイヤと首を横に振りながら一歩二歩、ザッザッと足を進めさせると、次の瞬間にはダッ!と勢いよく駆け出した。

 それを呼び止めようとしたが、しかし彼は聞く耳持たずに今も燃え盛っている畑に向かって走り去ってしまった。


「くっ!?・・・すみません、オリバーさん。僕が彼を連れ戻して来ますので、皆の事をお願いします!」


「なっ・・・!?おい、待て!」


 走り去るギタルの背中。それを目にした僕はどうするべきか一瞬迷った後、皆の事を頼むと言いながら掴んでいたオリバーさんの腕を離し、踵を返して、彼の返事を待たずにギタルの後を追って駆け出した。


「熱ッ・・・!?くっ、いったい彼は何処まで行ったんだ!?」


 ギタルを追い掛けて踏み込んだパルプィナの実が実っていた畑は、今や火の海と化し、炎の迷路へと成り果てていた。

 地面からは数えきれない程の火の粉が上がり、時折風が熱風となって僕の肌を炙る。黒煙も立ち込めているせいか空気も非常に悪い。

 長時間、この中には居続けることはできない。そう感じた僕は、一刻も早くギタルを見つけなければと辺りを見回すのだが―――しかし、その姿は見つからない。激しく燃え盛っている炎のせいで視界が遮断され、その気配すらも隠されてしまっていたからだ。


「ギタルー!何処にいるの、返事をして!ギタルー!」


 だけど、それでも、僕はギタルを探す事を諦めはしなかった。

 必死になって彼の名前を叫びながら、燃え広がる炎の中を駆け抜けていく。


「―――うわぁっ!?」


「ッ!ギタル!?」


 ―――その時だった。彼の驚くような声が聞こえたのは。

 距離はそう遠くない。目の前でメラメラと燃えている蔓草が生い茂る柵の向こう側だ。


「ハアアアアッ!《スラッシュ》!」


 そう判断した僕は、背中に背負っていた布鞘から木刀を抜き取って構えると、上段に思いっきり振り被り、戦技名を叫んで発動しながら、目の前の障害物に向けて降り下ろした。


「ギタルッ!!」


 ドガシャァンッ!!と蔓草が生い茂る柵を打ち壊し、炎の壁を突き破ってその向こう側へと踏み込む。

 舐める様に、這う様に、迫り来る炎の波を木刀で切り払い、吹き飛ばしながら、その先へと視線を向ければ、そこには地面に尻餅をついているギタルの姿があった。

 彼の姿を見つけることができた僕は一瞬安堵し、ホッと息を吐こうとして―――しかしそんな気持ちは、深紅色に染められた騎士甲冑を着込んだ騎士と思われる人物が、今にも彼に向けて槍先を突き出そうとする光景を目にしてすぐに消え失せた。






次回の投稿は5/9を予定しております。

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