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【改訂版】カオスゲート・サーガ ~大魔王と勇者の冒険譚~  作者: Kudo
第3章 ~大魔王と少年と少女と~
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第3章第15話 ~大魔王と企む者達 3~

7月26日に文章内容の修正と一部変更をしました。



 ゴオオオォォォッ・・・!!という音を発しながら、数えきれないほど生い茂る木々の上空で渦を巻き、荒れ狂う巨大な竜巻。

 一定方向に一定の速度で進んで行くそれは、時間が経つにつれてその勢いが徐々に弱まり始めていく。

 渦を巻く風の所々に隙間が出来てくる様になるまで弱まると、竜巻は眼下に広がっている森の一角へ降り立ち、周囲に弾ける様に散々に消えていった。

 後に残ったのは薄透明の黒い球体だけ。だがそれも、パチンという音が鳴り響いた途端に融ける様に消え、中から九人の男女―――私と『赤き炎槍』と『緑の烈風』が姿を現した。


「・・・・・・ふぅ、ようやく散ったか」


 自分達を覆い、切り刻まんとしていた巨大竜巻がようやく消えた事に、私は人心地着いたような安堵の溜め息を吐いた。


「(あの竜巻の威力―――渦を巻いていた風の刃の切れ味は相当に鋭い物だった。例えるのならアレだ。ミキサーの中にいる様なモノだ。私には効かないが、私と同道していた『赤き炎槍』と『緑の烈風』が直に食らったら、その姿をコンマ数秒で挽き肉に変えられてしまっていただろうな)」


 イヴァールが最後に放った 《旋風封牢刃》と言う技は、例えるなら高速回転する複数の刃で相手を取り囲み、切り刻むもの。その技を完全に防ぐ為には私が使用した《ディストーションフィールド》のような全方位を防御できる技でなければ不可能だ。

 だがしかし、『赤き炎槍』と『緑の烈風』の面々はその様な手段を持ち合わせていなかった。彼等の能力を《ステータス鑑定》等を使って調べたのでほぼ間違いない。

 このままでは、結果は火を見るよりも明らか。故に私は、彼等の身を守る行動を取ることを選択した。知人が死ぬ様を見るのは流石に御免蒙りたかったからだ。


「しかし、また随分と遠くに飛ばされたな・・・・・・先程までいた場所は、おそらくあっちの方角だろうが・・・」

 

 遠くを見やりながら私はそう呟く。

 その視線の先には削られ、抉られた様な傷の付いた木々が幾つもあった。

 おそらくだが、竜巻の末尾が掠りでもしていたのだろう。周りに生い茂っている他の木々を見れば、その違いは一目瞭然だ。


「(しかしあのイヴァールという奴、以外と思考が柔軟―――というか、姑息な手段を躊躇無く取れる奴だな。その人の本性は窮地に陥った時にこそ現れるとは言うが、どうやらアイツは威風堂々とした見た目とは裏腹に、その本質は小物の類らしい)」


 私は目の前の光景を眺めながら、先程まで戦い、自分達を吹き飛ばした相手であるイヴァールの事を考えていた。

 自らよりも弱い者達を狙い、そうはさせじと私に守らせた上で、諸共に吹き飛ばす。

 窮地を脱する為とはいえ、正々堂々を是とする騎士とは思えない戦い方を取ったイヴァールをそう評した私は、とはいえ、それに対する嫌悪感の様な気持ちなどは特に抱いていなかった。


「(本来戦いに卑怯も何もない。あるのは生きるか死ぬかだけ。その点で言えば、生き残るために敢えて姑息な手段を取ったアイツは頭が回る奴なのだろうな。―――それに落としどころとしても現状は悪くない)」


 元々私はイヴァールとの戦闘を終えた後に、戦った事によって疲弊したとか、もしくは数の不利とかの理由で下がるつもりだった。

 だからこそ、こうして自分達が吹き飛ばされたことはある意味都合が良いと言えた。


「(サーポルベント領の貴族であろう彼等を下手に傷つけ、殺そうものなら、それこそどれだけの厄介事が起こる事か・・・・・・流石に、自分達のせいでライファ領とサーポルベント領の間で戦争が起こるなんて事は勘弁してほしいからな)」


 こうして離れていれば元いた場所に辿り着くまでに時間が掛かるし、例えその場所に着いたとしても、その時には既に彼等がムテキタートルの素材を回収して運び出した後だろう。そうなれば、再び戦闘が起こる事はない筈だ。


「(ただ、唯一の心残りはイヴァールとかいう奴の心を完全に折りきれなかった事だ。本質が小物な癖に無駄にプライドが高い奴ってのは、後々厄介な事を仕出かす事が多い。持ちうる手段によっては最低最悪且つ面倒な一手を衝動的に取るからな)」


 出来ればあそこで反骨心が湧かなくなるくらいに徹底的にイヴァールの心を圧し折りたかったのだが、今更たらればの話をしたところで状況が変わるわけでもない。

 今後の事を思い、憂う気持ちを胸の内に抱きながら、私は溜め息を吐いていた口を閉じて気持ちを切り替える。


「(まあ、今さらそれを考えた所で仕方がない。とりあえず今は、冒険者ギルドへ報告に戻る方が先決だろうな)」


 どちらにせよ今回の依頼が達成出来なくなったのは間違いない。一応元いた現場を確認する必要はあるものの、その後で冒険者ギルドに細かい経緯を報告する必要があるだろう。


「―――フェルヌスさん」


「・・・ん?」


 そう考えていると、ふいに自身の名前を呼ぶ声に気付いた。

 声が聞こえた方へと視線を向ければ、そこには何故か私に対して頭を下げている『赤き炎槍』と『緑の烈風』の面々の姿があった。


「・・・・・・は?」


 それを見た私は「え?何これ?」とほんの少し驚きに目を丸くする。

 だが、頭を下げている彼等は、そんな私の驚き様に気付かず口を開いた。


「すまない、フェルヌスさん・・・!俺達のせいでこんな事になっちまって・・・!」


「それに加えて先程の戦い、折角勝てる戦いだったのに、俺達が足を引っ張ってしまったせいでこんな所にまで飛ばされる羽目になってしまった・・・!本当に申し訳ない・・・!!」


 皆の代表としてかそう語るダルジリスとガイオン。

 目を閉じ、俯くその顔は沈痛な面持ちであり、申し訳ないと言う思いが感じられるモノであった。


「え、えっと、そんなに気にしなくてもいいと思うがな・・・まさか依頼主が現場にやって来て、しかも依頼されていた目標を横取りするだなんて、普通誰も想像出来ない―――というか予想出来るモノではなかったんだから・・・・・・」


 私はそう言って謝りたおしてくる彼等の事を宥める。

 それは間違いなく私の本心から来るセリフであった。いや本当に。

 普通、依頼者が依頼達成の協力をするのならともかく、まさか邪魔をしてくるだなんて、冒険者と言う業界に身を置いている側からすれば「そんなまさか!?」と思う様な事態だ。

 私自身『カオスゲート・オンライン』で受けて来た依頼の中で似たような事態に遭遇したことが何度かあったが、それは飽く迄意見の相違や状況の変化による仕方なさから来ていたものであり、今回の様な依頼主が明確に敵意と害意を持って襲ってくるなんて事は流石になかった。

 所謂、初体験というやつである。


「それに、こんな風に謝るよりも先に、まずはムテキタートルの素材の有無の確認をした方がいいと思うぞ?確かあの場所に置きっぱなしだった筈だろう?」


 ともあれ、今はそれを気にしていてもしょうがないと思った私は、まずはしなくてはならない事をするべきだという言葉を口にする。

 それを聞いたダルジリスとガイオンはお互いに目配せをすると、眉間に眉を寄せながら頷いた。


「そう、だな・・・依頼自体は失敗だとしても、アレを納品すれば幾らかの足しにはなる筈だ」


「だが、アイツ等の狙いはあれだっただろう?荷車も事前に用意していたようだし、とっくの昔に運んでいてもおかしくないと思うぞ?」


「だとしても確認しないわけにはいかないだろう。もしかしたら、持ちきれなくて置いていった物もあるかもしれん」


「あ~・・・まあ、確かに。解体した甲羅や肉なんかも結構な大きさと重さがあったからな。一部くらいは置いて行っている可能性も無くはないか・・・・・・」


 そう結論付けた二人は、一度「うん」と頷く。


「よし・・・!それでは、まずは身支度を整えるとしよう。先程の戦闘で―――というか、吹き飛ばされた時に出来た傷の手当てもまだだったからな」


「後は武器の確認もだな。あの『風雷剣』の剣を受けたんだ。幾らかガタが来ていてもおかしくない。魔物でも何でも、もし戦闘になった時に使い物にならなかったら命に関わるし・・・!」


 ダルジリスとガイオンはそれぞれ自分達の仲間に向けて指示を出し、それを受けた彼等はその指示の通りに負っていた傷の手当てや武器の確認を始めた。

 そんな彼等の様子を視界に入れつつ、自分達もまた怪我の有無や武器の確認などをするダルジリスとガイオンであったが、そこでふとダルジリスが「そういえば」という感じに呟いた。


「しっかし、今回の事をシャーラちゃんが聞いたらどう思うだろうなぁ・・・なぁ、フェルヌスさん?」


「む・・・?ふむ。まあ、彼女はサーポルベント領の貴族に対して不平不満を言っていたからな、それを考えれば何となく想像出来るが・・・・・・」


「多分アレだ。初めは依頼が失敗してしまった事を残念そうにはするだろうが、詳しい経緯を聞いたら激怒するじゃないか?彼女、ギルド職員としての誇りも持っている筈だから、今回みたいにギルドの看板を汚すような事をされたのなら余計に」


『・・・・・・ありえそうだなぁ』


 依頼を受ける前のシャーラの様子を思い返していた私達は、怒り狂う彼女の姿を脳裏に思い浮かべて、実際そうなりそうだなぁと思いながら、ポツリとそう呟くのであった。








 交易都市ライファの冒険者ギルド。その一角にある受付テーブルにて一人の女性―――ギルド職員の一人であるシャーラが受けた依頼の報告に来た冒険者の対応をしていた。


「はい、依頼の達成を確認しました。お疲れ様でした、オリバーさん。これが報酬となります」


「おう!ありがとよ、シャーラちゃん!」


 依頼発注書を受け取り、そこに書かれている評価を確認したシャーラは、それをテーブルの下に納めた後に達成報酬である金銭の入った袋を目の前の体格のいい男性冒険者―――オリバーに差し出す。

 それを受け取ったオリバーはシャーラにお礼を言うのだが、その後でふと何かを思い出したように、「ああ、そういえばさあ・・・」と彼女に向かって話し掛けた。


「例の依頼・・・あのはた迷惑な貴族の依頼を受けたアイツ等って、今どうしているのかな?」


「アイツ等、と言うと・・・フェルヌスさん達の事ですか?」


「そうそう。確か『赤き炎槍』と『緑の烈風』と一緒に行ったんだよな?」


「ええ、依頼を受けて一緒に。・・・それがどうしたんですか?」


 「何か気になる事でも?」と問い掛けるシャーラに、オリバーは「いや、そう言うわけじゃないんだが・・・」と歯切れ悪そうに呟く。


「実はアイツ等が受けた依頼の依頼主についてちょっとした噂話を聞いてさ・・・」


「噂話・・・?」


 シャーラの疑問にオリバーは頷く。


「ああ、例のサーポルベント領の貴族についてなんだが・・・どうもここ最近、何度か金銭関係でのトラブルを起こしているらしいんだ」


「金銭関係のトラブル、ですか?でも、そんなの今に始まったことではないですよね?あの人達は以前から品物の支払いを踏み倒すなんて事を平気でしていたし・・・・・・」


「まあそうなんだけど、そうじゃなくてさ・・・どうやらアイツ等、自分達が泊まっている宿屋の宿泊代金を踏み倒そうとしていたみたいなんだよ」


「宿泊代金を・・・?―――って、ちょっと待ってください・・・!確かあの人達が泊まっていた宿って、貴族御用達の高級宿である『黄金の一角馬』でしたよね・・・!?」


「そう。金さえ払えば身分問わず超一流のサービスを行うが、その逆に金を払えない奴には想像を絶する程厳しくなるあの高級宿だ」


「確かあそこって、宿泊していた人が代金を支払えなくなった場合、ぼろ雑巾になるまで使い潰す事で有名でしたよね・・・!?掃除に洗濯、料理といった仕事から、場合によっては客の要望に応える為に命がけの食材調達に向かわせられたり・・・!そ、そんな所の代金を踏み倒そうとしていたんですか、あの人達は・・・!?」


 「嘘でしょう!?」と頬を引き攣らせるシャーラ。

 そんな彼女の反応を目にしたオリバーは「分かる分かる」と頷いた。


「それとこれも噂なんだが・・・どうもあの宿屋の宿代を含めて結構散財し過ぎたせいで、手持ちの金が足りなくなって来たらしいんだよ。そんで今日の朝方には宿を出る事にしたらしいんだが、その時に残っていた有り金を全部巻き上げられたっていう話も聞いてな?」


「あ、そうなんですか?領地に帰ろうとしたんですかねぇ?まあ、これでこの都市も平和になると思いま・・・って、有り金全部!?」


 その途端、シャーラはまたもや頬を引き攣らせ、それに加えて両目をカッ!と驚愕に剥いた。


「ちょっ・・・!?その話は本当ですかっ!?」


「お、おおぅ・・・!?ええっと、その、俺が聞いたのは飽く迄噂であって、本当かどうかまではちょっと・・・!?」


「あっ・・・!これはすみません、つい・・・」


「あ、ああ、別に構わないんだが・・・・・・というか、どうしてそんなに身を乗り出してまで聞いて来るんだ?」


 突然グワッ!という擬音が付きそうな程テーブルから身を乗り出すシャーラ。

 それを見たオリバーは戸惑いながらも彼女の謝罪を受け入れ、その後で「どうしてそんなに?」と逆に尋ねた。


「ええと、その・・・ここだけの話にして欲しいんですが・・・・・・」


 シャーラは少し視線を右往左往した後にオリバーに手招きをして近寄って来てもらうと、その耳元に囁く様に言う。


「彼等サーポルベント領の貴族達が此処の冒険者ギルドに依頼を出していた事はご存知だとは思いますが、実はあの人達は依頼を達成した冒険者に払う報酬金をギルドに預けていなかったんですよ」


「そ、そうなのか・・・?だ、だけど確かそれって、依頼主から依頼内容を聞く時に必ず預かる事になっていた筈だろう?それがどうして・・・?」


 冒険者ギルドの人気受付嬢であるシャーラがこんなに近くに、しかも囁くようにして己の耳に息が吐かれるのを感じて思わず頬を赤く染めるオリバーだが、彼女が言ったセリフの中に気になるモノを感じた。

 彼が今口にしたそれは冒険者ギルドが運営をする上で必要な規定の一つであり、様々な人物からの依頼を請け負う際に、依頼を達成した時に冒険者に支払う報酬金を依頼主から預かる様にしている。

 その理由は単純に、円滑に冒険者ギルドを運営する為だ。過去に依頼を達成した冒険者に対して難癖を付けて報酬金を支払おうとしない依頼主がいたことがあり、しかも最後にはその依頼主が夜逃げをするように消えてしまったという出来事があった。

 他にも似たような事例や、中には依頼を達成しても依頼主が死んでしまった事で報酬を払う人がいないという事例も起こった事があり、それらを教訓とした冒険者ギルドは以後依頼主からの依頼を受理する際にその依頼内容に見合った金額の報酬金を預かる様になったのだ。

 だが、どうやら彼女の口振りではそれが成されなかった様に聞こえ、訝しんだオリバーは思わず聞き返した。


「本来ならその通り。・・・ですけど時期が悪かった」


「時期?」


「彼等が依頼を出したのは約半年前、それは丁度この領地で行方不明事件が多発していた頃でした」


「あ~・・・」


 オリバーは納得した様に頷いた。なにせ彼もその事件の調査に参加していた冒険者の一人だったからであり、当時の状況を良く知っていたからだ。


「当時のギルド職員の数はかなり減っていて、まともな運営を行う事が難しい状況でした。とはいえ、そんな状態であっても私達はギルドの規定通りに彼等から報酬金を回収しようとしたのです。・・・ですが彼等はそれを拒否し、更にはこちらを脅して来たんですよ・・・!」


「えぇっ・・・!?」


 話を聞いていたオリバーは思わず驚いて声を上げるのだが、すぐに己の口を塞いだ。

 その後で彼はキョロキョロと周囲へ視線を向けて、今の声を聞いている者がいないか確認する。

 周囲には他の冒険者達が疎らにおり、椅子に座って酒を飲んだり、自身の仲間達と共に談笑している様子を見せていた。

 まあ、一部は物陰から凄い形相で二人の事をジッと見つめていたが、そいつ等はシャーラが男性冒険者と話をしていると何時も見つめてくる奴等なので、何時もの光景として置いておく。


「お、脅して来たってどうやって・・・!?このギルドには元Sランク冒険者であるギルドマスターがいる筈だろう・・・!」


 ギルドマスターであるモールテスの実力は、Aランク以下の実力の持ち主では相手にならない程に高い。現役を退いた今でもその実力に衰えは見られていないのだ。

 そんな人物がいる冒険者ギルドをどうやって脅すと言うのだろうか?


「確かに、ギルドマスターに適う者はそういません。・・・ですが、()()()()()()()()()()()()()?」


「は?匹敵・・・って、まさか!?」


 サーポルベント領にいる人物で元Sランク冒険者であるモールテスに匹敵する人物。それを想像したオリバーはある一人の人物の事が頭に浮かんだ。


「まさか、あの『風雷剣』のイヴァール・べムスンか・・・!サーポルベント領最強の騎士であるアイツがこのライファ領に来てたのか・・・!?」


「ええ、そうです。かの領の最大戦力である筈の彼がこの交易都市ライファに来ていた。その事実も驚きですが、それ以上にギルドマスターと彼が戦えば、周囲へとまき散らされる戦闘の余波が甚大な被害をもたらします。それを危惧したギルドマスターは、向こうが提案した依頼が達成された際に報酬を支払うという内容を渋々承諾しました」


「なるほどな、それでか。・・・・・・ん?ってことは待てよ?つまり今のアイツ等って、フェルヌス達が依頼が達成したとしても、それを支払う金が無いという事なんじゃ・・・・・・」


 今の話と噂で聞いた話から状況を推察したオリバーは思わず呟き、それを耳にしたシャーラは同意する様に何度も頷いた。


「そう!その通りです!だから私は焦っているんですよ!ああもう、あの人達は本当に・・・!?こうしちゃいられない!急いでやる事やらないと・・・!!」


 「はぁぁ・・・!」と大きな溜め息を吐きながら頭を抱えたシャーラは、その後で先程聞いた噂の真偽と、それに並行して依頼を受けて都市の外に出たフェルヌス達を呼び戻すための人員を選ぼうとして、


「ただいま、シャーラ。今戻ったよ」


「フェルヌスさん!?」


 ガチャリとギルド館の扉を開けて中に入って来たフェルヌス達の姿を見て驚きの声を上げた。


「ダルジリスさん達に、ガイオンさん達も・・・!?」


 更にその後ろを見れば、所々ボロボロな『赤き炎槍』と『緑の烈風』の姿もあった。

 帰って来るのに数日は掛かるだろうと思われていたフェルヌス達がこうも早く帰って来たことに、シャーラは目を丸くする。


「お、お帰りなさい、皆さん・・・!というか、えっ!?帰って来るのが早くないですか!?」


「まあ、なんだ・・・少々想定外の事態が起こってな」


 驚きながらも出迎えの声を掛けるシャーラに対し、フェルヌスはポリポリと指で頬を掻きながら気まずそうに目線を横に向けた。


「その事に関しては―――」


「―――俺達から説明させてもらう」


 そこでズイッとフェルヌスの前に出るダルジリスとガイオン。

 彼等は自分達が依頼を受けて行った先で起こった出来事をシャーラに語った。

 依頼目標であったムテキタートルの討伐を成功させた事、そしてその後でムテキタートルの素材を横取りしようと襲撃してきた依頼主であるサーポルベント領の貴族と戦闘を行った事を。


「・・・んで、イヴァールの攻撃で吹き飛ばされた後に、持ちきれなかったムテキタートルの素材が残ってないかと思ってもう一度現場に戻ってみたんだが、結局全部持って行かれてたよ。欠片一つ残っちゃいなかった」


 説明の最後にそう言いながら溜め息を吐くガイオン。その表情は非常に残念そうにしていた。


「なるほどなぁ・・・そんな事があったってことは、やっぱりあの噂話は本当だったわけだ」


「噂話だって・・・?」


 一緒に話を聞いていたオリバーが思わずと言った風に呟き、それを耳に拾ったガイオンがどういう事だと聞き返す。


「ああ。さっきもシャーラちゃんと話していたんだが、どうもアイツ等有り金全部失くしていたらしいんだ」


「はぁっ!?」


「それ、マジかよ・・・!?」


「(・・・まさか、考えていた推測が大当たりとは)」


 そして彼の話を聞いたダルジリスとガイオンは驚きの声を上げ、フェルヌスもまた無言ではあったが、自身の推測が当たっていた事に驚きを顕わにしていた。


「・・・・・・っていうか、さっきからなんか、シャーラちゃんが静かなんだけど?」


「ん?そういえばそうだな。一体どうしたんだ、シャー、ラ・・・!?」


 そこでふと、先程から妙に黙っているシャーラの事を気にしだすガイオン。

 彼の疑問の声を耳にしたフェルヌスもまたそういえばと思い、彼女の方へと声を掛けながら振り向こうとして、


「うふ、うふふふふふ・・・!」


「シャ、シャーラ・・・?」


「そうですか・・・そぉぉうですか・・・!どうやら彼等は私達の事を心底舐めきっている様ですねぇぇ!!」


 見る人の大半が見惚れる様な綺麗な微笑みを浮かべながら、しかしその全身からは怖気が走る程の禍々しい雰囲気を放つ彼女の姿を見て、フェルヌス達は思わず一歩引いた。


「・・・え、何これ?何がどうしてこうなった!?な、なぁ、ダルジリスにガイオン、二人は何か知らないか・・・?」


 冷や汗をタラリと流しつつ、自身よりもシャーラとの付き合いが長い筈の二人に問い掛けるフェルヌス。

 だが、それに対する二人の返答は否であった。


「い、いや、こんな彼女の姿は俺達も初めて見る・・・!」


「あ、ああ・・・!何度か馬鹿をやった奴とかに対して怒る事はあったが、ここまで恐ろしく感じる程激怒している姿は見たことがねぇよ・・・!」


 そう応える二人の顔色はシャーラから放たれる禍々しい雰囲気に当てられたのか真っ青になっており、気を付けの体勢のまま体をガタガタと震わせていた。

 その様子を見たフェルヌスは、彼等は本当に何も知らないようだと判断し、しかしそれならば一体何が彼女の琴線に触れたのかと内心疑問に思う。


「その疑問に関しましては、私がお答えましょう」


「うおっ!?ギ、ギルドマスター・・・!?」


 そこへ唐突に掛けられる声。それが自身の背後から聞こえてきた事にフェルヌスは驚きながら後ろへと振り向けば、そこには冒険者ギルドのギルドマスターであるモールテスが立っていた。


「(ま、前もそうだったが、本当に何時の間に現れたんだこの人・・・!?)」


「その様子から察するに、どうやらシャーラ君がああも怒っている事に驚いているようですね?」


「(いや、そっちにも驚いているけど、アンタに対しても驚いているんだけど・・・!?)」


 フェルヌスは常時感知系のスキル発動しており、それにより半径数十mの範囲内の情報を常に取得しているわけなのだが、しかしモールテスに関しては声を掛けられるまで気付く事が出来なかった。

 なので、どうやって自身のそれを掻い潜ったのかと、声にだしてそうツッコミたかったフェルヌスであったが、言えば話が進まなくなると思った彼女はその場では敢えて口を閉じた。


「おそらくですが、彼女は貴女達の話を聞いて昔の事を思い出したのでしょう」


「昔の事・・・?」


「ええ。詳細は個人のプライバシーに関わる為省きますが、彼女は昔、まだ冒険者として活動していた頃に、今回の貴女達の様に依頼主に裏切られて命を狙われた事があるのですよ」


「そんな事があったのか?」


「ええ。なので、その時の事を思い出して憤っているのでしょう。―――あの様に」


 そう言いながらツイッとシャーラに視線を向けるモールテス。

 それに釣られてフェルヌスも振り向き、そしてその頬をヒクリと引き攣らせた。


「裏切り者には罰を与えないといけませんよねぇぇ・・・!他の町の冒険者ギルドにも通達して、あそこの領地にいる貴族からの依頼をぜぇぇんぶ受けないよう手配してぇ・・・そんでもって今回の話を吟遊詩人の人達に広めてもらうようにも頼んでぇ・・・うふ、うふふふふふふふふふふふふ・・・!!」


『ヒイィィィッ・・・・・・!?』


 目元が隠れる程に俯くシャーラ。その口元は先程までとは違って黒い。それはもう黒い笑みを浮かべており、最早見る者に恐怖しか感じさせないそれを真正面から見る羽目になっていた『赤き炎槍』と『緑の烈風』の面々は互いに身を寄せあい、ガクブルと震えていた。


「あ~・・・お邪魔になりそうだから、俺はこれで失礼させてもらうよ・・・!」


「ま、待て・・・!置いていかないでくれ・・・!!」


「そ、そうだぞ・・・!行くなら俺達も一緒に連れて行ってくれ・・・!!」


 現状の様子を見たオリバーが「頑張ってねぇ・・・!」と言いながらそそくさと立ち去る。

 おそらく危機感を覚えたのだろう。身の振り方が上手い人物である。

 そしてそれに追従しようとする『赤き炎槍』と『緑の烈風』の面々であったが、しかし獲物を見つけた狩人(シャーラ)がそれを見逃す筈がなかった。


「一体何処へ行こうというのですか?ねぇ、ダルジリスさんにガイオンさん?貴方達には聞きたい事が山程あるんですよ?それこそ、一から十までたぁぁっぷりとねぇぇ・・・!!」


『ヒィ、ヒイイィィィッ・・・・・・!?』


 ガシリとその細腕からは想像出来ない程、力強く肩を掴まれるダルジリスとガイオン。

 ビクリと体を弾ませた二人は、それからギギギッという擬音が聞こえそうな程恐る恐る後ろへ振り返り、そして三日月の様に裂けた暗い笑みを浮かべるシャーラの顔を見て悲鳴を上げた。


「うん。あれは十分にホラーだわ・・・」


 その光景を見たフェルヌスは思わずそう呟く。


「取り敢えず、彼女には一旦落ち着いてもらわないとな。・・・そういうわけでギルドマスターにも協力をしてもらいたいんだが―――っていない!?」


 『赤き炎槍』と『緑の烈風』に助け船を出す為に、シャーラの上司であるモールテスに協力してもらおうとしたフェルヌスであったが、しかし彼の姿は気付いた時にはもう既に影も形もそこにはなかった。

 後に残されていたのは羊皮紙の紙切れ一枚。

 そこには『後は任せた』という文字だけが書かれていた。


「い、何時の間に・・・!?」


 なんという逃げ足の速さかと、驚愕と感嘆の声を漏らすフェルヌス。

 そしてこのままではシャーラの暴走とも言えるそれに自身も巻き込まれると判断した彼女は、すぐさま(きびす)を返してギルド館の出口へと向かおうとして、


「うふふ・・・!フェルヌスさんも、何処へ行こうとしているんですかぁ・・・?」


「・・・ッ!?」


 だがしかし、彼女の下したその判断はあまりにも遅かった。

 ガシリと掴まれる自身の肩。視線だけを後ろに向ければそこには綺麗な、しかし恐ろしさを感じさせる笑みを浮かべたシャーラの顔があった。


「貴女にも聞きたい事はいっぱいあるんですからねぇ?さぁ、一緒にいきましょぉ?」


「いや、ちょっ、待っ・・・!?って、嘘だろう!?私が引き摺られてる・・・!?」


 何処かに連れて行こうとするシャーラに対して抵抗しようと踏ん張ろうとするフェルヌス。

 当初は自身の身体能力であれば余裕で抗えると想定していたが、しかし現状はその想定とは裏腹に彼女の体は引き摺られてしまっていた。


「(お、おかしい・・・!?以前見た事のある彼女のステータスの数値は私よりも遥かに下だった筈・・・!?)」


「い、一体どうして・・・!?って、原因はこれかっ!」


 そんな予想外の事態に困惑するフェルヌス。

 そう簡単に、この短期間で自身の馬鹿みたいに高いステータスに匹敵する程強くなれる筈がないと思った彼女は周囲を見回し―――そこであるモノを見つけた。

 それは何時の間にか自身の背中にくっついていた、指先くらいの大きさの透明な羽の付いた光る玉。しかもよく見れば、背中の他にも頭や腕、足にも同様のモノが幾つかくっついているのが目に入った。


「(これは《ダウンフェアリー》・・・!何時の間にコレを付けられていたんだ!?)」


 《ダウンフェアリー》とは、”対象のステータスを半減させる”という補助系の魔技だ。指先くらいの大きさの透明な羽の付いた光る玉が対象に接触する事で効果は発揮され、また接触している数が複数であればその数に応じて効果は倍加していく様になっており、その効果時間は使用者の実力によるが、最大で三分間は続く。

 つまりこの魔技によって身体能力が劇的に下げられてしまったからこそ、フェルヌスはシャーラに力負けしてしまっているのである。

 尚、《ダウンフェアリー》の欠点は弾速が遅いこと。五秒経っても一mも進んでいないなんて事はよくある事であり、動きの速い相手にはあまり使えない技でもある。


「(シャーラが発動した・・・という考えは流石に無理があるな。いくらなんでも私に気付かれないでコイツを付与させるなんて芸当が彼女に出来るとは思えない。それにコイツは習得難易度がかなり高い技だ。斥候とか隠密関係のスキルをある程度育てないと習得出来はしな―――あっ・・・!)」


 これを掛けたのはシャーラかと一瞬思ったフェルヌスだったが、しかしすぐに違うと首を横に振った。

 それじゃあ誰がと思って可能性がありそうな人物を思い浮かべ―――そしてある一人の人物の姿が脳裏に浮かんだ。


「(そうだ、モールテス・・・!あの男なら 《ダウンフェアリー》を使えたとしてもおかしくない・・・!)」


 モールテスは元Sランク冒険者。彼ならば 《ダウンフェアリー》を習得していたとしても不思議ではなく、さらに言えばつい先程もフェルヌスに気付かれる事なくその背後を取っていた事もあり、その時に《ダウンフェアリー》をフェルヌスに付与していたとしてもなんらおかしくはなかった。


「(おのれ、謀ったなモールテスゥゥゥッ!!)」


 シャーラに引き摺られ、『赤き炎槍』と『緑の烈風』と共にカウンター裏にある部屋に連れ込まれていくフェルヌス。

 そして扉が閉められる直前、物陰に隠れながら「頑張って!」と言いたげに良い笑顔で親指を立てて見せるモールテスの姿を見た彼女は、胸中に溜まっていた苛立ちを彼に向けてぶつけるかの様に内心でそう叫ぶのであった。








「(申し訳ありません、フェルヌス様。私も巻き込まれたくはありませんので)」


 シャーラによって談話室へと連れ込まれ、その姿を消したフェルヌスを見送ったモールテスは、立てていた親指を戻すと、その手を自身の顎下へと持って行く。


「(しかし、奪い取りたくなる程欲する魔物の素材ですか・・・・・・前例がないわけではありませんが、今回の件、何やらキナ臭さを感じますねぇ。・・・()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、合わせて報告するといたしましょう)」


 首を傾げつつ内心でそう思ったモールテス。

 彼は踵を返すと、自身の髭を撫でながら二階へと向かう階段を一段ずつ上って行くのであった。






次回は7/1投稿予定です。


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