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【改訂版】カオスゲート・サーガ ~大魔王と勇者の冒険譚~  作者: Kudo
第3章 ~大魔王と少年と少女と~
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第3章第14話 ~大魔王と企む者達 2~

7月26日に文章内容の修正と一部変更をしました。



「(さて、結果として彼等と殺り合う構図になってしまったが、この後はどうしようか・・・・・・)」


 先頭に立っているイヴァールと言う騎士を筆頭に、鎧を着た人物達と対峙していた私は、その内心で落としどころをどう付けようかと考えていた。


「(イヴァールという奴の強さはこの中では一番高い。ステータス的には私の方が上だが、この場でコイツを殺しでもしたら後が色々と面倒臭い事になる)」


 しかもイヴァールが様付けして仰ぐランヴァルトと言う青年―――おそらくサーポルベント侯爵家の親類もいる。もしここで彼が死のうものなら、それを切っ掛けにしてライファ領とサーポルベント領の間で戦端が開かれる可能性がある。

 この二つの領は昔から因縁がある―――というかサーポルベント領側が一方的に敵視しているらしいと聞いている。なら、そうなっても何ら不思議はないだろう。


「(殺さずに力づくで追い返す事も可能だが、それをしても意味がないだろうな。アイツ等の目的は私達が仕留めたムテキタートルの素材。それ欲しさにこうして奪おうとして来ている時点でその執着具合は強いと思われる。もし此処で手に入らなければ、次こそ必ず手に入れる為に今度は手段を選ばずに来る可能性が高い)」


 盗みに入るくらいならまだ可愛い方だろう。だが軍勢での襲撃を仕掛けてきたり、誰か人質を取っての恐喝をされでもしたら最悪だ。交易都市ライファの住人に迷惑を掛けるどころの話ではなくなってしまう。


「(そんな事になるくらいなら、とっとと目的の魔物の素材を持って帰ってもらった方が面倒が無くていい。こちらを無視してくれるのであれば尚良いな)」


 楽観的な思考。そうであればいいなと言う希望であったが、それが私の本心であった。

 とは言え、現実はそう甘いものでは無い。


「(だが、そうはならないだろう。ランヴァルトという青年が命じたというのもあるだろうが、それがあったとしてもあそこまで剣を振るう事に躊躇が無いという事は、多分初めからこちらを殺すつもりでいたという事に違いない・・・)」


 そうでなければ、いきなり殺しに掛かったりはしないだろう。おそらく私達が関わっていたという証拠を隠滅する為であろうが、しかし随分と雑な証拠隠滅だとも私は感じていた。


「(『赤き炎槍』と『緑の烈風』の冒険者ランクはB。ライファの冒険者ギルドの中でも上位に位置する。そんな彼等の消息が依頼先で途切れたら、一体何があったのだろうと冒険者ギルドが調査に乗り出す事だろう。遺体は森に住む動植物によって掃除されるだろうが、それでも幾らかの遺品は残る。それらが見つかれば早晩彼等が死んだ、もしくは殺されたという事実は発覚する)」


 そうなればより詳しい調査をするだろうし、その過程でサーポルベント領の人間に殺されたという情報も得るだろう。


「(特にギルドマスターであるモールテスは優秀な人物だ。私達が受けた依頼内容を見て、その依頼を出した人物の行動とその人物が今どこにいるのかを知れば、おそらくは大体の事情を察する事だろう)」


 冒険者という職業はどのような依頼を受けるも、受けた依頼でどれだけの怪我を負おうとも、基本的には自己責任だ。だが、依頼主が依頼を受けた冒険者の物を横取りしようとし、且つ殺そうとするのは、ギルド側としても流石に見逃すわけにはいかないだろう。

 言ってしまえば冒険者ギルドの面子を潰すような行為。もしこれを許し、目を瞑ろうものなら、ギルドに所属している冒険者達は身の危険を感じてギルドの依頼を受けようとはしなくなるだろう。誰しも自分の命が大事だからだ。

 そうなれば冒険者ギルド側としても運営に困ることになる。


「(故に、こんなことをしでかしているサーポルベント領に対し、何らかの報復措置を行うのは想像に難くない。依頼の受諾拒否、冒険者ギルドの撤退など色々と考えられるが、それだけでもサーポルベント領の人間にとっては困る事態となるだろうな)」


 なにせ冒険者ギルドが受ける依頼の大半は一般市民から要望のモノが多い。商売に関するもの、村や町の治安維持に関するもの等があったりするが、その大半は日々の生活に根差したものが大半だ。もし冒険者ギルドがそれらの依頼を受けなくなったとしたら、彼等の生活に何らかの影響を与えるのは間違いないだろう。

 さらに言えば、もし自領を治めている貴族が馬鹿な事をしたせいで冒険者ギルドが彼等の依頼を受け取らなくなったという事を彼等が知れば、反乱が起こる可能性もありえるし、また反乱が起こらなかったとしても治安関係に問題が出てくるのはまず間違いない。


「(私でもざっと考えただけでこれだけの可能性が思いつく。領地を治めている貴族であれば、自領の治安に問題が生じる様な事を危惧するのは当然の事・・・・・・だと思っていたんだがな)」


 頭の中で色々と考えていた私は、スッと目を細めて目の前で起こっている光景を見つめた。


「おぉい!?イヴァールよ、一体何を考えているんだ・・・!?あの娘は私が嫁にすると言った筈だぞっ!なのに、何故殺そうとしてるんだお前は・・・!?あの娘を家に連れ帰ったら、思う存分よがり狂わせ、ヒンヒンと鳴かせて楽しむつもりだったのだぞ!?それを殺してしまっったら意味がないだろうが・・・!」


「・・・・・・・・・」


 その視界の先では、私の事を警戒して剣を構えているイヴァールに対し、ランヴァルトが腕をブンブン振り回しながら文句を言っていた。

 顔を真っ赤にしながら小さな子供の様に駄々を捏ねる様子は、とても成人している男性とは思えないし、また一つの領地を治めているであろう貴族の姿ではない。


「(私自身、貴族と言う存在に対して多少の偏見はあるという自覚はあった。だがそれでも、このランヴァルトという男は貴族として以前に人として駄目過ぎだろう。正直言って、まさかここまで屑野郎の様な発言をするとは思っていなかったぞ)」


 むしろ私が思ったような典型的な馬鹿―――所謂、自身の欲望に忠実で考えなしな貴族という評価が、傍から見れば適当だと言えそうである。


「おい!聞いているのか、イヴァール!イヴァール!?」


 そんな風に散々っぱら文句を言うランヴァルトであったが、しかし文句を言われている側であるイヴァールはといえば、それら全てを聞き流している様子であった。


「・・・・・・・・・」


 剣を構えるその姿は、先程と同じ騎士の名に恥じない威風堂々としたモノ。だがその身が纏う雰囲気は苛立ちと殺気が混じり合ったモノであり、とても騎士と名乗る者が発する様なモノではない。

 また、その瞳から覗かせる感情は怒りと言う名の激情に染まり切り、睨む様に私の事を注視していた。


「(それに、あの男も何を考えているのかよく分からないな・・・まさか、たかが一撃を防いだだけでああも怒り狂うなんて、誰が予想出来るか)」


 表情にも口にも出さなかったものの、その内心では訳が分からんと私は溜め息を吐いた。


「おい!おいってば!聞いているのか、イヴァール!聞こえているのならちゃんと返事を―――!?」


「お下がりください、ランヴァルト様」


「―――ッ!?」


 ―――そこで、事態が動いた。

 未だギャアギャアと喚いていたランヴァルトを後ろへと押し退け、イヴァールが一歩前に出る。


「これより先は命を削り、奪い合う戦場。戦う力を持たない貴方では、ハッキリ言って邪魔にしかなりません。その命を無為に散らせたくないのであれば、我等の戦いを黙って後ろで見ていてください」


「なっ・・・!?なぁっ・・・!?」


「(うわぁ・・・仕えているであろう相手に随分とハッキリ言ったなぁ、アイツ・・・)」


 表面上は冷静そうに聞こえる物言いだったが、その声音は胸の内から湧き上がる強い感情を喉の奥で飲み込み、無理やり抑えて込んでいる様に感じるモノ。

 その言葉自体も内容的には「死にたくなければ黙って引っ込んでいろ」と言っている様なものであり、言われた側であるランヴァルトの表情は、自身の配下であるイヴァールからぞんざいに扱われた事に対する驚きと怒りに染まっており、何かを言おうとして、しかしあまりの怒りで言葉が出てこないのか口をパクパクとさせていた。


「邪魔者が黙ったところで、さて、小娘よ。まずは貴様を侮っていたことを先に謝らせてもらおう。まさか、下賤な冒険者がこの私と互角に戦えるとは思っていなかったからな。―――だが、ここからは違う」


 光の加減か、ギンッ!と瞳を光らせたイヴァールは、さらに一歩前に進みながら既に抜いていた剣を右手だけで持ち、空いた左手で右腰に下げていたもう一本の剣を抜く。

 鞘から抜かれたその剣の形状は片刃の直剣といった風であり、剣身は赤みを帯び、刃は黄色み掛かっていて、黄色と赤色が交互に彩られた羽を思わせる形状をしている柄と合わせると、色鮮やかさをより感じさせるモノであった。


「私の本来の戦い方は、二本の剣を自在に操る二刀流。その強さは剣を一本振るっていた時よりも、何倍も強くなる。加えてこの左手に持つ剣は、我がべムスン家に代々伝わる宝剣『ソニックスパーダ』。これを手に持った私はさらに強くなり、まさに最強を名乗るのに相応しい存在となる・・・!」


 そしてイヴァールは右手に持つ無骨な見た目の剣を前に出し、左手に持つ色鮮やかな剣を右脇腹に添える様にして構え、


「―――覚悟せよ。貴様がこれから目にするのは、変幻自在にして岩をも砕く剛剣。矮小なその身、その魂で、存分に味わうが良い・・・!!」


 チャキリと音を鳴らした瞬間、私に向かって駆け出した。








「ふんっ!!」


 イヴァールの動きは常人から見れば一瞬でフェルヌスの目の前に現れたように見えた事だろう。

 更に上段から振るわれた二つの斬撃は電光石火とも呼べる一撃であり、その威力は並大抵の剣士であれば防ごうとした剣ごと間断せしめるものだろうと言えた。


「―――ッ!」


 その一撃を、フェルヌスは逆時計周りに体を回転させながらステップを踏む様に横へ回避し、そのままイヴァールの首元目掛けて横薙ぎにショートソードを振るう。

 それは当てるつもりなどない寸止めを前提とした一撃であり、何時でも命を落とせるのだと暗に伝えようという目論見があったのだが、しかしそれはイヴァールの手により防がれ、意味を失くす。


「ぬんっ・・・!」


 己の攻撃が回避されたと理解した瞬間、イヴァールは二振りの剣を振り切ろうとした段階で両腕を交差させ、そのまま流れる様に顔の高さまで上げ、フェルヌスのショートソードを防ぐ。


「はぁっ・・・!」


「・・・ッ!」


 そして同時に左手に持つ彩りのある剣をフェルヌスの胴体に向けて振るうが、その一撃をフェルヌスは後方へ飛び退く事で回避する。


「ふんっ!せいっ・・・!せいはっ・・・!!」


「・・・ッ!」


 飛び退いたフェルヌスを追撃しようと両手の剣を振るうイヴァール。

 前に進むと同時に右手の剣を左から右へ振るい、続いて左の剣を突きだし、そして前に出した左の剣を少しだけ引き戻した後に、右手の剣と共に右斜め上から袈裟方に切り落とす。

 その一振り一振りは先程の一撃同様に電光石火の如き速さのモノ。そしてその鋭さは時々剣の軌道上に入っていた幾つもの木々が何の抵抗もなくスパッと斬られる程に鋭利であった。


「・・・ッ!・・・・・・ッ!!」


「(ぐっ・・・!何故だ・・・、何故当たらん・・・!?)」


 だがしかし、そんな触れるモノ全てを切り裂く様な斬撃も当たらなければ何の意味もない。

 イヴァールの両手の剣から振るわれる幾つものそれを、フェルヌスは軽やかにステップを踏みながら回避し続ける。

 その動きは風に吹かれて宙を舞う羽の様であり、見る者にとってはまるで優雅に舞っているかの様に見えるものだろう。


「(この戦いで振るわれる我が剣技は、これまでの戦いの中で最も冴え渡っている!なのに、それなのに、どうしてそれが当たらんのだ・・・!?)」


 その後も上へ下へ、右に左にと、両腕に持つ剣を縦横無尽に且つ連続で振るうイヴァールであったが、それすらもフェルヌスは軽々と回避する。


「《斬花爆衝(ざんかばくしょう)》!ぬぅぅぅぇぇえいっ!!」


 時には自身が習得している《斬花爆衝(ざんかばくしょう)》―――”剣に纏わせた(オーラ)を爆発させて前方広範囲に斬撃の嵐を浴びせる”という強力な戦技も放つイヴァール。

 しかしそれすらもフェルヌスは涼しい顔で回避した。戦技が発動するよりも前にイヴァールの頭上を飛び越え、彼の背後に着地することで攻撃範囲から逃れたのだ。


「馬鹿な・・・この技すらも躱すというのか・・・!?」


 そしてそれを目にしたイヴァールは、驚愕に両目を見張った。

 彼、イヴァール・べムスンは、サーポルベント侯爵家に仕える筆頭騎士だ。その実力は高く、『風雷剣』と呼ばれるその名は他の領地にも広く知れ渡っている。

 今まで数多くの高名な戦士や騎士達を(ほふ)って来たし、王都で定期的に開かれている御前試合で何度も優勝したことすらある。

 その己の剣技が(ことごと)く通用しない。どれだけ剣を振るおうともその剣先が掠る気配が微塵もない。

 その事実に、イヴァールは怒りに染まっていた己の胸中に次第に焦りと恐怖の感情が湧き出てくるのを感じ始めていた。








「(・・・なるほど。これは確かに最強と呼ばれるだけの事はある)」


 イヴァールの攻撃を回避していた私は、何度も身を翻しながらも彼の剣捌きに感心の意を示していた。

 一振り一振りにしっかりと意思が込められており、また剣を振るった後の残心も行われていて隙も中々見受けられない。

 私はそれを目にして、やれやれと内心で嘆息した。


「(どうやら他者を見下す性格はともかく、剣の腕は確からしいな。彼のステータスは私の素のステータスの半分くらい。だというのに、まさか剣技だけでその差分を埋めるとは・・・攻撃を回避する為に戦技を使わせられる羽目になるのも予想外だった)」


 この時、私は発動していたのは《フェザーダンス》―――〝回避不可能なモノや必中の効果が付与されたモノ以外の攻撃を回避する〝という戦技だ。【踊り】スキルて習得できる技であり、その回避成功率はスキルレベルに依存する。また発動中は『SP』を消費し続け、攻撃動作に入ると効果が中断される仕様になっている。

 それを使ってもなお時々当たり掛けているのだから、彼の剣の腕は相当なものなのだろう。私の脳裏には、そん所其処らの輩がイヴァールと戦おうものなら数合も持たずに切り伏せられてしまう光景が浮かんだ。

 とは言え、勝てないという程ではない。本気を出して戦えば十分に倒すことができる相手だ。


「(正直に言えば、コイツを速攻で潰すことは簡単だ。だが、こうもプライドが高い奴だと、どれだけ叩き潰そうがその高いプライドが邪魔をして負けを認めようとはしないだろう)」


 殺してはいけないという制約がある以上、必然的に生かして帰す必要がある。

 だが、その後で勝敗に納得できずに再び勝負を挑みに来る可能性も無くはない。


「(そうなったら今度こそ命がけの戦いになりそうで面倒臭い。そんな事になるくらいなら、今の内に徹底的に潰して、心を完全に圧し折った方が後が楽になるだろう)」


 何時でも倒せるというのに、敢えて攻撃を躱すだけでイヴァールに手を出さなかったのもその一環だ。

攻撃が当たらない、通じないというのは存外精神的な部分にダメージが来るもの。どうすれば倒せるのか。それ以前にどうすればまともに傷を付けられるのか。それを考えるだけでも精神には相当な負担が掛かる。

 最終的にこの相手にはどんなことをしても勝つ事が出来ないのだと理解してしまえば、真っ当な精神を持つ者ならポッキリと心が折れる事だろう。

 そしてその作戦は当然と言うべきか、イヴァールに対しても有効であった。


「う、うおおおぉぉぉっ!!」


「・・・・・・・・・」


「くっ!ぐぅぅっ・・・!?このぉぉ!!《百裂一閃(ひゃくれついっせん)》!《レインストライク》!《スプラッシュスラッシュ》!《双擊裂波(そうげきれっぱ)》ァァァアアアーーーッ!!」


 再びイヴァールから放たれる無数の剣閃。

 〝剣を一振りすると同時に無数の剣閃を発生させる〝という戦技である《百裂一閃》に、〝剣を突き出すと同時に十数もの(オーラ)の刃を射出する〝という戦技である《レインストライク》、〝剣を振り下ろすと同時に(オーラ)の斬擊を放ち、それがある程度進むと分裂して斬擊の弾幕と化す〝という戦技である《スプラッシュスラッシュ》や、〝二振りの剣を下から上へ交差させる様に振るい、巨大なエネルギー状の斬擊を放つ〝という戦技である《双擊裂波》など、どれもこれも広範囲を攻撃する技ばかり。

 それらの技をほぼ一息の内に、雨霰の如く連続で放ったイヴァールは、自身の口元を笑みの形に歪めていた。

 おそらく逃げ場のない、回避する余地もない面制圧攻撃ならば。己の剣技は当たるだろうと、私の体を切り刻めるだろうと思っているのだろう。


「―――《轟波一閃(ごうはいっせん)》」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え?」


 それ等無数の斬撃を、私は《轟波一閃》―――〝剣を一振りすると同時に前方広範囲に向けて(オーラ)の爆発を発生させる〝という戦技でもって全て吹き飛ばした。








「(何だ・・・?何が起こったのだ・・・?あの小娘は一体何をしたのだ・・・!?)」


 己の放った数々の技が扇状に放たれたフェルヌスの戦技によって千々に吹き飛ばされる光景を目にしたイヴァールは、兜の下で思わず呆けた表情を浮かべていた。

 フェルヌスが口にした《轟波一閃》。その名前はイヴァールも知っていたし、なんなら彼自身習得している戦技の一つだ。

 だがしかし、フェルヌスが放ったそれは、イヴァールが知っている技と同じモノだとは到底思えないものであった。

 イヴァールの知る《轟波一閃》の攻撃範囲は、前方一mから二mまで。爆発の威力も彼の知る限りでは相手を軽く吹き飛ばす程度しかない

 だが、先程フェルヌスが放った《轟波一閃》はその範囲を大きく越えており、威力もまた段違いであった。最早別物と言ってもいいくらいに。


「(今のが、今のが《轟波一閃》だと・・・?ふざけるなよ・・・!あんな、目の前にあるもの全てを飲み込み、吹き飛ばす程の威力を持った技が《轟波一閃》などであるものか!!)」


 戦慄し、鎧に包まれたその身を無意識にガタガタと震わせるイヴァール。

 フルフェイスの兜の隙間から覗かせるその瞳は徐々にだが恐怖の色を滲ませ始めており、そしてその変化をフェルヌスの瞳はしかと捉えていた。


「(ふむ・・・どうやらだいぶ心が折れてきた様だな。この様子なら、あともう一押しすれば完全に折れるだろう。―――まあ、他の連中の心はとっくの昔に折れているみたいだが・・・・・・)」


 フェルヌスはツイッと視線を横に向ける。

 そこには顔色を真っ青に染めた、イヴァールの仲間と言えるであろうランヴァルト達がいた。


「あ、あ、嘘、だろう・・・!?」


「あの方が・・・イヴァール様が手も足も出ないなんて・・・!」


「何者だ・・・!一体何者なんだ、あの女は・・・!?」


 最強の騎士とうたわれていたイヴァールが手も足も出ない。その事を二人の戦闘を見ていて理解したのだろう。彼等は絶句してその体をガクガクと震わせていた。


「お、おい・・・?どうしたというのだ、お前達・・・?あの戦いはイヴァールが押しているのではないのか?」


 ・・・訂正。ランヴァルトだけは状況を全く理解できていない様であった。


「・・・いいえ。いいえ、ランヴァルト様・・・!違います、違うのです・・・!なまじ戦いと言うモノを知っている我等だからこそ分かるのです・・・!」


「イヴァール様の剣は岩をも砕く剛剣であり、更にはそれが稲妻の如き速さで振るわれるのです。並みの者ではその剣を目にすることは出来ませんし、また反応して防いだとしても、その剛剣によって盾にした物ごと叩き斬られます・・・!あの方の最強の騎士という名は伊達ではないのです・・・!!」


「なのに、それなのに・・・!その剣が掠りもせず、一合も打ち合う事すらない・・・!その事実が持つ恐ろしさが如何程か、ランヴァルト様でもお分かりになられるでしょう・・・!」


「う、うむ・・・!」


 部下達による必死さすら感じられる説明を聞いたランヴァルトは多少引きながらも頷く。

 だが困惑しているその表情は、話を全部理解しているわけではないという事が傍目からも伺い知れた。


「凄ぇ・・・凄ぇよフェルヌスさん・・・!」


「ああ・・・まさか彼女が此処まで強かったとはな・・・・・・!」


 ふと、ランヴァルト達がいる場所とは反対の方向から聞こえて来たフェルヌスを称賛する声。

 今度はそちらの方へとフェルヌスが視線を向ければ、そこには倒れ伏していた体を起こそうとする『赤き炎槍』と『緑の烈風』の面々がいた。


「・・・・・・・・・」


 強い力は尊敬よりも先に恐怖を呼び寄せるモノ。そして力の差があればあるほど、恐れる感情は強くなる。

 彼等も自身の力を見たら恐怖の感情を覚えて逃げるかもしれない。そう考えていたフェルヌスだったが、どうもそんな様子は彼等には見られない。

 彼等がフェルヌスに向ける視線は畏敬の念を感じさせるモノ。畏怖の感情も感じられなくはないが、どちらかと言えば前者の方が強く感じられた。


「(まあ、変に怖がられるよりはマシかな)」


 彼等の姿を見てそう思ったフェルヌスは、「やれやれ・・・」と言いたげな軽い苦笑を浮かべた。


「ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・!」


「(どうすれば・・・どうすればあの小娘に勝てる・・・!)」


 そんなフェルヌスの姿を、肩を上下させるほど荒い呼吸を繰り返していたイヴァールが睨みつける。

 彼の頭の中はフェルヌスの思惑通りにどうすれば彼女の事を倒せるかでいっぱいとなっており、そしてその心はかなり疲弊(ひへい)しきっていた。


「(認めたくはない・・・認めたくはないが、このままでは私が勝利する事は難しいのも確かだ・・・!何か、何かあの小娘を倒す策を考えなければ・・・!)」


 フェルヌスの動きは速い。その速さはイヴァールの目では追う事が出来ず、武器を振るう腕もまた追いつくことが出来ない。

 加えて、剣を合わせた時に感じた不動さ。それがまるで大地に根を張る巨木の様な力強さをイヴァールに感じさせていた。


「(何故か向こうから攻撃をして来ず、殺気もないのが気になるが、それもおそらく時間の問題だろう。彼女がその気になれば、私など一息に殺せてしまえる・・・!)」


 今のままではまともな戦いにすらならない。そう感じていたイヴァールは打開策を見つけようと視線を周囲へ巡らせ、


「(ああ、そう言えばコイツ等がいたな・・・!)」


 フェルヌスが同僚と語っていた『赤き炎槍』と『緑の烈風』の面々の姿を見て、ニヤリと笑った。


「ふっ・・・!」


「むっ・・・!?」


 ザッと大地を掛けるイヴァール。

 その進行方向の先は、勿論彼等がいる場所だ。


「うえぇぇっ!?」


「何・・・!?」


 ようやっと立ち上がることが出来た『赤き炎槍』と『緑の烈風』の面々は、まさか自分達に向かって来るとは思ってもみなかったようで、慌て、狼狽えている。

 逃げようとする様子も見せてはいたが、しかしその動きは鈍く、体勢も建て直しきっていない為に防御動作も間に合わない。


「シイィィィーーーッ!!」


 高速で男達に接近し、右手に持つ無骨の剣を力いっぱいに振り抜こうとするイヴァール。


「させるか!」


 だがしかし、それが振り抜かれるよりも早くフェルヌスが彼等の前に瞬時に移動して、イヴァールの一撃を受け止めた。


「―――掛かったな!!」


 それを目にしたイヴァールは兜の下でニンマリとした笑みを浮かべ、自身の目の前に立ち塞がったフェルヌスに向けて左手に持つ剣―――宝剣『ウインドスパーダ』を突き出す。


「《旋風封牢刃(せんぷうふうろうじん)》ッ!!」


 叫ぶように声を上げ、戦技を発動するイヴァール。その途端、彼が持つウイングスパーダの剣身から竜巻の如き渦を巻く暴風が現れ、フェルヌス達に向かって放たれた。


「・・・ッ!?《グラビティウォール》!」


 周囲にある者すべてを飲み込み、切り刻まんとするそれを目にしたフェルヌスは驚きに一瞬目を見開くも、しかしすぐさま自身の右手を前に出すと、その掌から薄らとした透明感のある黒い壁を出現させてその暴風を受け止めた。

 イヴァールが放った《旋風封牢刃(せんぷうふうろうじん)》とは、〝風の刃が渦巻く竜巻を相手に向けて飛ばし、拘束しながら切り刻む〝という戦技であり、見た目通り風属性が付与されている技であるそれは、拘束力は強いものの威力はそこまで高くはない。

 しかし、現在進行形で放たれているそれの威力はとてもそうとは思えない程強力なモノ。具体的にどれ程かと言えば、分厚い巨石を数秒で削り、抉り抜く事が出来る程だ。

 何故そこまで威力が上がっているのかというと、その理由はイヴァール持つウインドスパーダの効果が関係していた。

 ウインドスパーダの効果は”風属性の攻撃によるダメージを一.五倍上昇させる”と言うもの。つまり風属性であれば戦技も魔技も問わず威力を底上げするということであり、その効果があったからこそウインドスパーダはべムスン家にて代々宝剣として扱われていたのだ。

 そして、イヴァールの攻撃を防ぐ為にフェルヌスが発動した《グラビティウォール》だが、これは〝発動者の目の前に圧縮した重力の壁を出現させる〝という魔技であり、鋼鉄を遥かに超える頑強さを持ち、生半可な攻撃など通さない防御系の技だ。

 具体的にどれ程かと言えば、威力が底上げされたイヴァールの《旋風封牢刃》とぶつかり、しかし全くと言っていい程小揺るぎもしていない様を見れば分かるだろう。

 ギギギッ・・・!と鍔競り合う、荒ぶる暴風と半透明の黒き壁を間に挟みながら一進一退の攻防を繰り広げる二人。

 そして現状で不利の側となっているのがどちらなのかと言えば―――それは当然と言うべきかイヴァールの方であった。


「くっ・・・!?」


 先程の攻防で自身とフェルヌスの間には実力差があることを認めたくはないものの理解していたイヴァールは、自身が習得している技の中で最も強力であり、必殺とも言えるであろうそれが防がれる事も、悔しくはあるが予想はしていた。

 そしてだからこそ彼は、”本命の一撃”をフェルヌスに叩き込むために動き始めた。


「ぬうううぅぅぅっ・・・!!」


 叫びと共に更に前へとウインドスパーダを押し込むイヴァール。同時に、吹き荒れ渦を巻く暴風の範囲が拡大し、目の前に立ち塞がる黒い壁ごとフェルヌス達を包み込もうとし始める。


「チッ・・・!」


「(広範囲攻撃か!このままではマズイ・・・!)」


 その光景を目にし、このままでは防ぎきれないと判断したフェルヌスは、《グラビティウォール》の発動を中断し、後ろへと跳び下がる。


「―――《ディストーションフィールド》!」


 そして暴風に煽られて動けないでいた『赤き炎槍』と『緑の烈風』の近くに着地すると、《ディストーションフィールド》―――〝発動者の周囲に圧縮した重力の壁を出現させる〝という魔技であり、所謂 《グラビティウォール》の全方位展開版を発動し、『赤き炎槍』と『緑の烈風』を含めた自分達の身を球状に展開された薄透明の黒い壁で包み込んだ。

 先程の焼直しのように再び繰り広げられる攻防。衝突する《旋風封牢刃》と《ディストーションフィールド》の間でガリガリと何かが削れるような音が周囲に響き渡る。

 そして渦を巻いて吹き荒れる暴風が《ディストーションフィールド》を包み込んだ途端、その勢いは更に増大した。

 暴風は巨大な竜巻と化し、《ディストーションフィールド》ごとフェルヌス達の体を持ち上げる。


「・・・ッ!」


「―――このまま、吹き飛べぇいっ!!」


 ブオンッ、と下から上に向けてウインドスパーダを力強く振り上げるイヴァール。

 その瞬間、巨大竜巻の勢いは更に加速し、数秒後にはまるでエネルギーの柱の如く姿を変貌させ、ドオオオォォォンッッッ!!!という凄まじい爆風を引き起こした。


「ぐ、ぐうぅぅぅっ!?」


『どわあぁぁぁっ!?!?』


 その爆風は当然巨大竜巻の中心にいたフェルヌス達にも影響を及ぼし、《ディストーションフィールド》に包まれていた彼女達を遥か遠くへと吹き飛ばすのであった。













「ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・ガハァッ・・・!」


 《ディストーションフィールド》に包まれたまま遥か上空へと吹き飛んで行くフェルヌス達。それを見送ったイヴァールはガシャリと音を立てながら地面に膝を着くと、疲労に塗れた荒い呼吸を繰り返し、ガハッと多少の血反吐を吐き出した。


「(くっ・・・!最後に放った《旋風封牢刃(せんぷうふうろうじん)》。体力を使い切り、命まで削ってまで発動したそれで何とか奴等を吹き飛ばす事は出来たが、しかし・・・・・・!)」


 イヴァールが浮かべている表情は兜に隠れていて見る事が出来ない。しかし、その身に纏い漂わせている雰囲気からは悔しさと焦燥感のようなものが感じられていた。


「ご、ご苦労だったな、イヴァールよ・・・!」


「ランヴァルト様・・・・・・」


 そんな彼の元へ怯えの感情が混じったような労りの声が掛けられた。

 声の聞こえた方へとイヴァールが振り向くと、そこには頬をヒクヒクと引き攣らせたランヴァルトが立っていた。


「脅威の排除に時間が掛かり、申し訳ありません」


「む、むぅ・・・まあ、あの娘はとんでもなく強かったからな。お前が手間取るのも、信じたくはなかったが仕方がない。だが、流石にあれほどの攻撃を受けては生きてはいないだろう。・・・・・・嫁に出来なかったのは残念だったが、な」


 イヴァールに気にするなと言うかのように話すランヴァルト。その後に呟いた言葉にはフェルヌスと呼ばれていた少女を手に入れられなかった事を残念そうにしている様子を見せていたが。

 しかし、そこでイヴァールが首を横に振った。


「いいえ、ランヴァルト様。申し上げにくいのですが、おそらくあのフェルヌスという娘は倒せてはおりません」


「な、なに・・・!?」


 イヴァールのその言葉を聞いたランヴァルトは驚きに目を剥いた。

 どういうことだ!?というランヴァルトの無言の問い掛けに応えるようにイヴァールは言う。


「技を放った直後、あの娘は守りの術を発動しておりました。その硬さは我が必殺でも削りきれない程。・・・故に身動きを取れなくし、遠くへと飛ばしましたが、時間が経てば奴等は時期に戻って来るでしょう。その前に件の魔物―――ムテキタートルの素材を即刻運び出してしまった方がよろしいかと」


「う、うむ・・・!?そうか、そうだな・・・!で、では皆の者、作業を始めるのだ!」


『―――はっ!!』


 ランヴァルトから出される指示。それを耳にした部下達は、返事をした後にすぐさま作業を始め、フェルヌス達が解体し地面に置いたままであったムテキタートルの素材を、彼等が持ち込んでいた荷車へと次々に乗せていく。


「お手を。肩をお貸します、イヴァール様」


「・・・うむ」


 その部下の内の一人がイヴァールに声を掛けてきた。

 それに応えるようにイヴァールは頷きを返すと、声を掛けて来た自身の部下の肩に腕を廻し、彼に支えられながら立ち上がった。


「(今回の事で目的の物は手に入った。これで()()()()を作ることが出来るだろう。それを手にすることが出来れば、私は完全に無敵となる・・・!故に次は、次こそは絶対に負けん・・・!あの娘、再び相対した時には、今度こそ打ち倒してくれよう・・・!)」


 部下に支えられつつ内心でそう思いながら、フェルヌス達が吹き飛んでいった方向に視線を向けるイヴァール。

 その瞳からは怒りと屈辱と恐怖が複雑に混ざり合った感情を覗かせていた。






次回は6/26投稿予定です。

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