表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【改訂版】カオスゲート・サーガ ~大魔王と勇者の冒険譚~  作者: Kudo
第3章 ~大魔王と少年と少女と~
53/71

第3章第13話 ~大魔王と企む者達 1~

7月26日に文章内容の修正と一部変更をしました。



 ムテキタートルとの二度目の戦闘を行い、そして討伐する事に成功した私達だったが、しかしその後である問題に頭を悩ませていた。


「さて、この巨体をどうやって運ぼうか?」


 そう。その問題とは、討伐したムテキタートルの輸送についてだった。


「依頼書にはムテキタートルの素材を依頼者に渡す様に書かれていたが、解体したとはいえ、流石にこれ程の巨体を運ぶのは一苦労だぞ」


「正直これだけ大きいなんて思っていなかったから、荷車なんて持って来なかったしなぁ・・・」


 ダルジリスが言った様に、ムテキタートルの体は頭、手足、尻尾、甲羅、といった風に解体をし、内臓等の使えなさそうな部位は土の下に埋めた。だがそれでも、甲羅だけで全長約三m、頭や手足、尻尾といった部位も単体で一m程の大きさがあるそれ等は、合計すれば相当な重量になるだろうし、運ぶのに多くの人出が必要になるだろう。

 さらに言えば、ムテキタートルの血肉を嗅ぎ付け、食らおうと襲い掛かってくる魔物の対処をする必要もある事を考えると、普通に考えればこの場にいる者達だけで交易都市ライファにまで運ぶのは重労働―――というか不可能に近い。


「(・・・まあ、私のアイテムボックスに入れてしまえばその問題は解決できるのだが、な・・・)」


 ただし、それは『赤き炎槍』と『緑の烈風』に限った話であり、アイテムボックスを持つ私に関しては当て嵌まることはない。

 解体したムテキタートルの素材を私のアイテムボックスに入れてしまえば、自分も含めた全員が手ぶらで町に帰る事が出来る。

 ・・・がしかし、私としてはそれを行う事に多少の躊躇(ためら)いがあった。

 というのも、実は以前交易都市ライファにある図書館で調べていた時にアイテムボックスというのはこの世界ではかなり珍しいスキルとして認識されているモノである事を知り、更にはそれを持つ人物を国や大きな商会が喉から手が出る程に欲しがり、囲い込もうとする事を知ったからだった。


「(実際持っていたら便利だしな、アイテムボックスって。・・・私がそれを持っているとコイツ等が知ったら、多分これまで以上にしつこい勧誘をしてくる可能性がある。そう考えると、下手にコイツ等の前で―――というか、基本人前で使う訳にはいかないだろうな)」


 交易都市ライファに着くまではその事を知らずに気軽に使っていたわけだが、現状私がアイテムボックスを使えると知っているのは幸運にもアルクだけ。緊急時以外では人前で使う事を控えようと考えてはいるのだが、しかしそうなると、このムテキタートルの素材をどうやって運ぶべきなのかと悩んでしまう。

 まあ、別に使わなくても私のステータスなら文字通りの意味で持ち運ぶことは可能であるが、そうすると素材に痛みや傷が出来てしまう可能性もあるし、なによりそんな面倒臭いことをしたくはない。


「(どうするべきか・・・・・・って、ん・・・?)」


 解決策を考えて頭を悩ませる私であったが、不意にガラガラといった音が聞こえて来たのに気付いた。


「(何だこの音は・・・?響き方からして、段々近づいて来ている様だが・・・)」


 音が聞こえてくる方へと視線を向ければ、丁度そこには複数の鎧を着た人物達が、無数に立ち並ぶ木々の影から姿を現した所であった。


「ほう・・・!まさか、彼の魔物を一介の冒険者風情が討伐するとはな。久しぶりに心の底から驚いたぞ・・・!」


 私達の目の前に現れたのは何や豪華そうな装備を身に着けた者達だった。

 その内の一番先頭にいた幾つもの傷を覗かせるフルプレートアーマーを着た人物が数歩前に出て来る。

 その人物の顔はフルフェイスの(頭全体を覆う)兜に隠れているせいで分からなかったが、その声音は男性のそれであり、驚きと、どこか(あざけ)りが交わった様なモノを感じさせた。

 またその腰元の左右には二振りの剣を下げており、左側のそれは無骨そうな見た目をしており、反対の右側のそれは柄が羽の様な形状をしていて、黄色と赤色が交互に彩られた豪華さを感じさせる見た目をしていた。


「・・・何だ、お前等」


「ふん、何だとは失敬だな。流石は野蛮で下賎(げせん)な冒険者。礼儀がなっていない」


 突然姿を現したその人物達に対して何者だと問い掛ける私であったが、それに対する返答は上から目線のものであった。


「・・・・・・・・・」


「(何なんだ、コイツ等は・・・?突然現れたかと思ったら此方を馬鹿にする様な物言いをするなんて、喧嘩でも売っているのか?)」


 敵意は感じられないものの、自分達の事を格下として見ている様な視線と言動に私は不快感を覚え、思わず顔を(しか)めた。


「まあいい、我々も忙しい身だ。先程の無礼は聞かなかった事にして、とっとと済ませるべき用事を済ませるとしよう」


 フルプレートアーマーを着た人物はそう言うと、手甲に包まれた片腕を胸元まで上げ、その腕を前へと伸ばしながら掌を上に向け、


「―――単刀直入に言う。貴様等が討伐した魔物の素材を速やかに我等に献上せよ!」


 そして声高々に、宣言するかの様にそう言った。


『・・・・・・・・・はっ?』


 その時、そのセリフを聞いた私と『赤き炎槍』と『緑の烈風』の心は一つになった。

 すなわち「何言っているんだコイツは!?」と。


「は、はぁ!?いきなり何を言ってやがるんだ、テメェは・・・!」


 まず最初に口を開いたのはガイオンであった。彼は鎧の人物に食って掛かる様に声を荒げる。


「冗談も休み休み言え・・・!俺達が命がけで討伐した魔物の素材を、いきなり目の前に現れた名前も顔も知らない奴等に寄越せと言われて、そう易々とやるわけがないだろう・・・!」


 続いて口を開いたのはダルジリスであった。何かを堪えるかのようなその声音は、まるで内心に燻る怒りの炎を押さえ込んでいる様にも聞こえる。

 それに加え、彼等の仲間達もまた「ふざけたことを抜かすな!」や「三枚に下ろすぞ、このボンクラが!」と鼻息荒く気炎を揚げている。


「(まあ、彼等の反応は当然だな。誰だって自分達が仕留めた獲物をぽっと出の輩なんかに奪われたくはない。しかも嫌なくらいに上から目線で言ってくる連中にだなんて、そんなの反発するに決まっている)」


 声を荒げる彼等の様子を目にしつつ、「今の物言いには私もイラッと来たし・・・」と私は声には出さずに内心で呟く。

 だが、そんな私達の反応を見た鎧の人物は「フンッ・・・!」と鼻を鳴らすと、ビッ!と指す様に人差し指を伸ばした。


「これは要望ではない、命令だ!野蛮で下賤な冒険者である貴様等に拒否権など無いわ!」


『あ゛ぁ!?んだとこらぁ!!』


 いっそ傲慢とも強欲とも呼べそうなフルプレートアーマーの人物のセリフに『赤き炎槍』と『緑の烈風』の面々はより強い苛立ちを覚えたようで、「ブッ飛ばすぞコラァァッ!!」と吠える様に叫んだ。


「(というか、軟派そうなガイオンはともかく、武人の様な気質を持つ筈のダルジリスまでもがああも声を荒げるなんてな。相当腹に据えかねたんだろうなぁ・・・)」


 私もまた彼等と同様に鎧の人物の言動に苛立ちを覚えていたのだが、より激しく怒りの炎を燃え上がらせる彼等の姿を見た事で逆に冷静になってしまった。


「(しかし、この連中の目的は一体何だ?連中のセリフを思い返せば、私達がムテキタートルを倒せるとは思っていなかった的な事を、姿を現した時に言っていたが・・・・・・)」


 様子を見るかぎりでは、彼等もまたムテキタートルを狙っていたらしく、その素材を欲しているのは間違いなさそうだ。


「(アレの使い道はかなり限られている。私の知る限りでは盾や鎧くらいにしか使えない筈だし、売り飛ばすにしても加工しなければ、見た目は唯の観賞用の亀の甲羅でしかない。一体何が目的で・・・)」


 しかし、私としては何故彼等がわざわざアレを求めているのかが分からず、内心で首を傾げてしまう。


「そもそも、コイツは俺達が受けた依頼の依頼主が求めている(モン)だ!ソイツに渡すのならともかく、それを横から掻っ攫おうとするクソ野郎にくれてやる(モン)なんてねぇぞ!!」


「ふむ・・・それなら問題ないな。貴様等が言う依頼主、それは我等の事だからな」


『・・・・・・はっ?』


「(・・・ああ、なるほど。そういう・・・・・・)」


 まあ、その疑問は目の前の人物から語られた内容を耳にしたことで多少は納得出来てしまえたのだが。


「(とはいえ、それをまるっと全部鵜呑みにするつもりはないがな・・・)」


 依頼主が現場に来る。その可能性はあり得なくはないが、このフルプレートアーマーの人物がその依頼主なのかについては真偽の程は分からない。もしかしたら依頼主を語る何者かと言う可能性も無くはないのだ。

 そしてそう思ったのは『赤き炎槍』と『緑の烈風』の面々も同様であったようで、ダルジリスが彼等の考えを代弁をするかのように口を開いた。


「おい・・・何を言ってやがるんだ・・・?貴様が今回の依頼の主だって・・・?その証拠が一体何処にあるって・・・・・・」


「依頼書には依頼主の名前が書かれていた筈だぞ?”イヴァール・べムスン”とな」


「む・・・?た、確かに書かれていたが・・・・・・」


「それはこの私の名前なのだよ」


「何だと・・・?」


「では、改めて名乗るとしよう。私の名は『イヴァール・フォン・べムスン』。アルゴノブル王国のサーポルベント侯爵家に仕えし騎士達の中でも一、二を争う腕を持つ筆頭騎士である・・・!」


 腰に差していた剣を鞘に納められた抜き取り、鞘先を地面にガンッ!と叩き付けながら自身の名―――イヴァール・べムスンを名乗るフルプレートアーマーの人物。

 その威風堂々とした佇まいは、騎士と名乗るのに十分だと思えるような風格を感じさせるものであった。


「サーポルベント家のイヴァール・フォン・べムスンだと・・・!?まさか、あの『風雷剣』のイヴァールか・・・!?」


 その名前を耳にしたガイオンは、聞き覚えがあったのか驚きに目を見開いた。


「知ってるのか?」


「ああ・・・『風雷剣』のイヴァールと言ったら、サーポルベント領では名の知れた騎士の名だ。高い剣の腕を持ち、魔法の扱いも一級品と噂される程に有名な人物だ・・・!」


「どうしてそいつがこんな所に・・・?名前を騙る偽物という可能性はないのか?」


「アイツの肩を見ろ。一つの体に二つの頭を持つ蛇の絵柄。アレはサーポルベント侯爵家の紋章だ。あの家は自分達の血縁か、貴族出身の騎士にしかあの紋章を使わせない。もし、それ以外の奴がアレを纏おうものなら、サーポルベント侯爵家は自分達の貴族としての誇りに傷を付けられたと判断してソイツを全力で殺しに掛かる」


「つまり、必然的に名を騙る者はいないという事か、納得した」


 イヴァールの名を聞いた後、困惑しながらもその人物に関する自身が知っている情報を私達に語るガイオン。

 彼の話を聞いた私は「ふむ・・・」と小さく呟いた。


「(そんなに有名な奴なのか?と言うか、今サーポルベント領って言ったよな?今回の依頼主はサーポルベント領の貴族だった筈・・・・・・そいつ等が、わざわざ依頼の品を求めてここまで来たって言うのか?・・・そんなことをしなくても、冒険者ギルドで待っていれば依頼の品を手に入れられた筈だ。なのにこんな所まで来て、私達に魔物の素材を献上しろだなんて一体何を考えて―――って、まさか・・・?)」


 そこである一つの推理がフェルヌスの頭の中を過ぎった。


「(依頼を達成した冒険者には、冒険者ギルド経由で依頼主から報酬が支払われる様になっている。今回の様な塩漬け依頼だとしても、それは同じだ。・・・だがもしも、もしもその()()()()()()()()()()()()()()()()・・・?)」


 此処に来る前にしていたシャーラとの話で、依頼主であるサーポルベント領の貴族達はこの町に半年間も滞在しているというものがあった。そんな長期間滞在していたのであれば、当然その分の宿泊費やその他諸々の経費が掛かったはず。

 ましてや王族や貴族以外の人々を見下す様なプライドが無駄に高い連中だ。金遣いの荒さはなんとなく想像出来てしまえる。

 そしてもしかしたら、そのせいで報酬として払う分の金銭にまで手をつけてしまったのかもしれない。


「(報酬が払えないのであれば、魔物の素材を受け取る事なんて出来はしない。だから冒険者ギルドに運び込まれる前に自分達で回収しようと考えたのか・・・?)」


 何となく思いついた考え。だが何故だろうか、どうしてかそんなに間違っていない様な気がすると私は思った。


「ふっ・・・!冒険者風情にも知られているとは、流石は私だな。さて、それでは私が何者なのか分かった所で再度貴様達に言おう。そこな魔物の素材を我等に差し出せ。さもなくばその時は・・・」


 そんな事を考えているうちに、シャラリと一本の剣―――左腰に下げていた無骨な方を鞘から抜き、私達へと突き付けるイーヴァル。

 そしてそのイーヴァルに習う様に、彼の背後にいた他の鎧を着た人物達も腰に下げていた鞘から剣を抜いて構えた。


「くっ・・・!?」


「むぅ・・・!?」


 武器を抜いたイーヴァル達の姿を見た『赤き炎槍』と『緑の烈風』は、それに応じる様にして武器を構える。

 ・・・だが、その頬や手足には薄っすらとした脂汗が滲み出ていた。


「(ちくしょう。コイツ等、目に見える様な隙がない・・・!一人一人がB~Cランク冒険者並みの力量を感じるぜ・・・!中でもあのイヴァールって奴から感じられる強さは半端ない・・・!)」


「(不用意に手を出そうものなら、十合ともたずにこちらがやられる・・・!噂に違わぬ強さではあるが、それが相手というのは最悪としか言いようがないな・・・!)」


 互いに己の武器を構えながら睨み合う男達。

 そんな緊迫感漂う状況の中、位置的に彼等の間に挟まれる様な場所に立っていた私は、武器を構えることなく腕を組んだ状態で少し頭を悩ませていた。


「(さて・・・この状況をどうしたモノか・・・・・・あの連中の実力は、『赤き炎槍』や『緑の烈風』よりも上。特にあのイヴァールとか言う奴は隔絶しているくらいに突出している。彼等の実力ではまともな戦闘は望めないだろうな)」


 《ステータス鑑定》でイヴァール達のステータスを確認し、『赤き炎槍』と『緑の烈風』の面々のステータスと比較して私はそう判断する。


「(まあ、私なら倒す事は出来るが、その後に発生するであろう面倒事を考えると、殺り合いたくはないな・・・・・・)」


 どこぞのライトノベルとかでも、貴族関係のトラブルに巻き込まれて面倒を背負い込む展開があるという知識を自身の頭の中から引き出していた私は、あまり積極的に敵対したくはないと思っていた。

 ただし、自衛の場合は話が別だが。


『・・・・・・・・・』


『・・・・・・・・・』


「ふむ・・・これは一体どうしたことだ?何故このような状況になっている」


『・・・・・・ッ!』


 そうして場が膠着状態に陥ったまま少々の時間が過ぎた後、イヴァール達の背後から若い男性の声が聞こえて来た。

 その場にいた全員が声が聞こえて来た方向へと視線だけ向けると、そこには二十代前半くらいの、豪華そうな貴族風の衣服を着た人間種(ヒューマン)の青年が一人立っていた。

 金髪碧眼のその見た目と、細身でありながらがっしりとした体は、まるで物語に出てくるどこぞの王子の様に見える。・・・だがしかし、先程から浮かべている嫌らしさを感じさせるニヤニヤとした笑い方が、その見目の良さを全て台無しにしていた。


「イヴァールよ、何事が起こったのか説明せよ」


「はっ・・・畏まりました、ランヴァルト様」


 青年―――ランヴァルトと呼ばれた人物から声を掛けられたイヴァールは、その足元へと跪くと、頭を下げて状況説明を行う。


「実は、この野蛮で下賤な冒険者達が例の魔物の素材を献上する事を拒んでおるのです」


「ほう・・・?たかが冒険者風情が強情な事だ。なるほど、つまりお前達はアレを渡そうとしない愚か者達から徴収しようとしていたのだな?」


「はっ、真にその通りでございます」


 イヴァールから話を聞いたランヴァルトは状況を理解したように頷いた後、蔑むような笑みを浮かべた。


「全く、素直に私達の命令に従えば良いものを・・・・・・―――むっ・・・!?」


「・・・・・・ん?」


 そうして私達へと視線を向けた時、ランヴァルトは突然驚いたように目を見張った。


「・・・・・・美しい」


「はっ・・・?」


「なんという美しさだ・・・!まるで精巧な人形のような顔立ち。光を反射して輝く銀色の髪。そして思わず引きつけられてしまうような気持ちになる濃い肌色。良い、良いぞ・・・!本当に、素晴らしい程に美しい・・・!!」


 突如イヴァール達の下から離れ、ズンズンと足を進ませるランヴァルト。

 そして彼は私の前で立ち止まると、胸元に手を当てながら跪き、フェルヌスに向かって手を差し伸べ、


「そこの女。私の八番目の妻になれ!」


 そして爆弾発言をかました。


『なっ・・・!?』


「・・・・・・・・・はいぃ?」


彼のそのセリフを聞いた『赤き炎槍』と『緑の烈風』の面々は驚きの声を上げ、言われた当人である私もおまた目を細め、訝しげな反応を返した。


「な、な、何をいきなり・・・!突然現れて何を言いやがるんだ、テメェは!?」


「そ、そうだぞ・・・!というか、その口振りからするともう七人も妻がいるのかよ!?それなのに彼女にまで粉を掛けてんじゃねぇぞ!!」


「私の妻になれば、豪華な食事を毎日口にすることが出来るぞ?それだけでなく、煌びやかな衣服や宝石などの装飾品も好きなだけ与えて上げよう。―――どうだ?私の妻になりたくなって来ただろう?」


『聞けよ!?』


 とんでもない発言をしたランヴァルトに対し、口々に文句を言う『赤き炎槍』と『緑の烈風』。

 だがそれらの文句を全く聞こうとしない―――というかまともに聞こえているかどうか怪しいランヴァルトは、自分の妻になれば如何に豪勢な暮らしが出来るのかと私に話し掛け続ける。


「むぅ・・・・・・」


 そして話し掛けられている当人である私はと言えば、眉尻を下げて困惑した表情をしていた。


「(まさか求婚されるとは思っていなかったな。・・・まあ、相手は貴族だ。とりあえず、この場は角が立たない様に丁重に断るとするか・・・)」


「その話はありがたいとは思うが、私は貴方の妻になどなるつもりは―――!?」


「ふっ、そう遠慮をしなくても良いのだぞ。さあ、早くこちらへ来い」


「ちょっ・・・!?」


「(全く聞く耳を持っていない・・・!?まさかコイツ、典型的な馬鹿貴族の類か・・・!?)」


ランヴァルトの話を断ろうとしたが、彼は自身の要求―――命令が断られるとは欠片も思っていないようで、私の話を空耳だと断じて聞こうとせずにその腕を掴み、イヴァール達のいる場所へと連れて行こうと引っ張り始める。


「んな勝手なことを―――」


「させて堪るかぁ!?」


『テメェみてぇな野郎に、フェルヌスさんを渡しはしねぇぇっ!!!』


私が連れて行かれそうになる光景を目にした『赤き炎槍』と『緑の烈風』の面々は憤慨し、ダルジリスとガイオンを筆頭に、彼等はランヴァルトへ向かって飛び掛かった。


「―――せいっ!!」


『がはッ・・・!?』


『ぐぎぃっ・・・!?』


 だがその行動は、間に入り、振るわれたイヴァールの剣の一閃にて阻まれ、その際に発生した衝撃波によって彼等の体は吹き飛ばされた。


「なっ・・・!?皆っ!」


「まったく・・・ランヴァルト様の決定に異を唱えるとは。やはり野蛮で下賤な者共だな、冒険者という奴は。―――身の程を弁えよ!」


『ぐっ・・・!』


『う・・・ぐぅ・・・・・・!?』


 振り切った剣を引き戻し、トスッと地面に突き刺すイヴァール。

 地面に倒れ伏す『赤き炎槍』と『緑の烈風』の面々を見るその瞳は、とても冷たいものであった。


「イヴァールよ、これ以上邪魔をされるのも面倒だ。―――そこのゴミ共を()消せ(殺せ)


『・・・・・・ッ!?』


 気負い無く、まるで何時もの事をやれとでも言う様にイヴァールへと殺害命令を出すランヴァルト。

 その言葉を聞いた『赤き炎槍』と『緑の烈風』の面々は息を飲んだ。


「なっ、待っ・・・!?」


 そしてそれは私も同様であった。

 いきなり馬鹿な事を命じたランヴァルトに対し、私は命令の撤回をする様に言おうとするが、しかし命令を受けたイヴァールの行動はそれよりも早く、躊躇いすら一切なかった。


「御意」


 ランヴァルトの命令に頷いた後、即座に地面に突き刺していた剣を引き抜き、頭上へと掲げるイヴァール。


「恨むのなら、愚かなことをした自分達の所業を恨むのだな。―――《オーラスラッシュ》!!」


 そして剣を振り下ろすと同時に戦技を発動した。








「馬鹿な・・・これが《オーラスラッシュ》だと・・・!?」


「嘘、だろ・・・!?俺達が知るそれとは、比べ物にならない威力だぞ・・・!」


 空を裂き、地面を抉り、次第に極省の乱気流を発生させながら自分達の下へと迫り来る橙色の(オーラ)の斬擊を目にしたダルジリスとガイオンは驚愕に目を見張った。

 《オーラスラッシュ》とは、”(オーラ)を斬擊として対象に向けて放つ”という戦技だ。その威力の程は使い手によって大きく異なり、彼等の知っているモノは遠くの的に対して浅い傷を付ける程度の威力のそれだ。

 しかし、イヴァールが放った《オーラスラッシュ》の威力は常人が放つモノよりも何倍も強力なモノであった。ガガガガッ!!と音を立てながら大地を軽々と削り取っている(オーラ)の斬擊がどれだけ恐ろしいモノなのかを直感的に判断した『赤き炎槍』と『緑の烈風』の面々は地面を這いずって何とか躱そうとする。


「うぐっ・・・!?」


「く、そっ・・・!体が、上手く・・・・・・!」


 だがしかし、先程受けたイヴァールの一撃による衝撃が抜け切れていない彼等の体は、その意思に反して思う様に動かない。

 間に合わない。そう判断した彼等は死を覚悟して目を瞑り―――


「・・・・・・ん?」


「・・・・・・あれ?」


 ―――しかし、いくら待っても衝撃も痛みも来なかった。

 一体何がと思って彼等が目を開けると、そこには横に構えたショートソードで 《オーラスラッシュ》の斬撃を受け止めているフェルヌスの姿があった。


「何・・・!?」


「ふぇ、フェルヌスさん・・・!?」


「むっ、なに!?何時の間に・・・!」


 距離にして数mは離れていた筈のフェルヌスが何時の間にか自分達の目の前に現れ、そしてイヴァールの放った戦技から守ってくれた事に驚きの声を上げるダルジリスとガイオン。

 そして驚いているのはフェルヌスの腕を掴んでいた筈のランヴァルトも同様であった。彼は目を見開きながら、己の手と彼女が今いる場所を何度も見比べている。


「はぁっ・・・!!」


 驚いている彼等を他所にフェルヌスは自身の腕に力を入れ、ショートソードで受け止めていた 《オーラスラッシュ》を弾き飛ばす。


「やれやれ・・・あぁ、耳が痛かった」


 フェルヌスの様子を見るに、イヴァールの放った技は彼女にとってはどうとでも出来る低度のモノだったのだろう。

 とは言え、流石に《オーラスラッシュ》がショートソードを削ろうとして響くガリガリという音は相当五月蠅く感じていたのだろう。ピコピコと頭の上の獣耳を動かしながら煩わしそうに顔を顰めていた。


「なっ・・・!?あれだけの威力の 《オーラスラッシュ》をいとも簡単に・・・!?」


「マジかよ・・・!?」


「むぅ・・・!?」


『・・・!?・・・・・・!?』


 フェルヌスがイヴァールの戦技を弾く光景を見た周囲にいる者達は、全員が驚きの声を上げた。

 特にイヴァールの驚き様は大きかった。まさか自身の技がこうもあっけなく防がれ、弾かれてしまうと思ってもいなかったのだろう。彼は驚愕に目を見開き、悔しさを覚えて思わず歯軋りをしていた。


「(サーポルベント家の筆頭騎士であり、最強の騎士であるこの私の技をああも容易く弾くだと・・・!?あの小娘、一体何者だ・・・!?―――いいや、何者であろうと構うものか・・・!この屈辱、晴らさねば気が済まない・・・!!)」


 それが例え自身の主であるランヴァルトのお気に入りであろうとも・・・!と、自身の攻撃を防がれたという屈辱感と怒りが胸の内から湧き上がるのを感じたイヴァールは、ギシリッ・・・!と剣の柄を強く握り締める。


「・・・・・・・・・」


「い、イヴァール・・・?」


 無言のまま前へと足を進ませ、フェルヌスの元へと向かおうとするイヴァール。

 その様子をおかしいと感じたランヴァルトが声を掛けるのだが、しかしその声が届いていないのか、それとも意図して聞こうとしていないのか、イヴァールは彼に一切視線を向けることなくチャキリと剣を構えると、ズンッと一際強く地面を踏み締め、フェルヌスに向かって斬り掛かった。


「ふんっ!」


「―――ッ!」


 その一撃を手に持つショートソードで防ぐフェルヌス。


「うおおおぉぉぉっ!はぁっ!!」


「―――ッ!ふっ!ふんっ・・・!!」


「―――ぬぅっ!?」


 自身の一撃を防がれたと見るや、イヴァールはすぐさま続けて十数もの斬撃を放つ。

 唐竹、袈裟切り、横薙ぎ、突き等を連続で、一般人が見れば目にも止まらぬ速さで振るわれる。

 だがしかし、それらの攻撃をフェルヌスは涼しい顔のまま的確に防ぎ、弾き、受け流していく。途中、大振りで振るわれた力任せの―――強い苛立ちを感じさせるような剣の一撃を受け止める事もあったが、その際には腕に力を込めて斬り払い、対峙していたイヴァールの体を大きく後ろへ後退させた。


「・・・・・・・・・」


「お、おのれぇ・・・!?」


 後ろへと吹き飛ばされながらも体勢を整えて着地するイヴァール。

 そして兜の隙間から覗かせるその表情は怒りに染まっており、まるで鬼の形相の様に歪ませながらフェルヌスの事を強く睨みつけていた。


「おのれおのれおのれぇっ・・・!!小娘が、調子に乗るでないぞ!?」


「調子に乗る・・・?それは貴様等の方じゃないのか・・・?」


 対するフェルヌスはと言えば、その視線を受けていると言うのに涼しい顔を変えることはなく、半身となって自身の正面へとショートソードを構え直す。


「私達の獲物だけでなく、その命まで奪おうとする。そんな横暴を行う輩を調子に乗っていないと誰が言える?・・・それに、この依頼の間だけとはいえ今のコイツ等は私の同僚なんだ。それを手に掛けようとするのなら覚悟しろ。―――その命、そこらの犬畜生の餌にしてくれる・・・!」


 スゥッと目を細めながら静かにそう宣言するフェルヌス。

 その瞳には呆れと、多少の苛立ちの感情を覗かせていた。






次回は6/21投稿予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ