第3章第12話 ~大魔王と冒険者達 3~
7月26日に文章内容の修正と一部追加をしました。
「―――ってことは何か?あのムテキタートルって魔物は、その【無敵化】とかいうスキルのせいで俺達の攻撃が一切効かないというのか・・・!?」
それがムテキタートルに関する説明を私から聞いた後に出したダルジリスの第一声であった。
彼のその言葉を私を除いたその場にいる全員の言いたかったことを代弁したものであり、『赤き炎槍』と『緑の烈風』の面々は「信じられない」とか、「冗談だろう」と言わんばかりの表情を浮かべていた。
「その通り。アイツには戦技も魔技も特技も、所謂正攻法と呼べる攻撃は意味をなさない。ハッキリ言って攻撃するだけ無駄だ」
「だ、だが、その【無敵化】は魔力を消費して発動しているんだろ?だったら魔力切れを狙えば・・・!」
倒せるかもしれない。そう言おうとしたガイオンであったが、その言葉を言い切る前に私が首を横に振った。
「それも無理だな。【無敵化】で消費される魔力は極微量。それにムテキタートルは【MP自動回復】という『MP』―――魔力を一定時間ごとに回復するスキルも保有している。故に、どれだけ攻撃したとしても奴の魔力を削り切る事は実質不可能だ」
「・・・くそっ!」
私の説明を聞いたガイオンは、〝どれだけ攻撃しても無駄だ〝という言葉が事実その通りであった事を知って思わず悪態を吐きつつ頭を抱えた。
まさかそこまで厄介な魔物だとは彼も思っていなかったのだろう。彼の顔はどうすればいいのかと言う困っていると言いたげな表情を浮かべており、そしてそれは隣にいたダルジリスもまた同様であった。
「今回の依頼を達成するのは無理そうだな、これは。・・・力には自信があったんだが、そもそもそれが通用しないのであれば討伐しようがない」
ダルジリスのその呟きに、彼の仲間である『赤き炎槍』のメンバーと、ガイオン達『緑の烈風』の面々が同意する様に頷いた。
はぁ・・・と重い溜め息を吐いた彼等は、一度冒険者ギルドへ戻ろうと踵を返そうとして―――
「―――いや、倒そうと思えば出来るぞ?まあ、準備が色々と面倒臭いが・・・・・・」
『なん・・・だと・・・!?』
―――しかし私のその言葉を聞いて足を止めた。
「は、はぁ・・・!?倒せる・・・?倒せるだって・・・!?」
「えっ・・・?冗談とかでなく、マジで・・・?」
自身の顔を勢いよく私へと向ける赤き炎槍』と『緑の烈風』の面々。驚きに目を剥いているその表情は、「嘘や冗談とかじゃなくて・・・?」と言いたげなそれだ。
「ああ。実際に倒したことがあるからな」
それに対する私の返答は”討伐した事がある”であった。
その言葉を耳にした彼等は「いいっ・・・!?」やら「嘘だろ・・・!?」という驚愕の声を上げた。
私は話を聞いて混乱している様子の『赤き炎槍』と『緑の烈風』の姿を視界に納めながら、腕を組みつつムテキタートルを攻略する方法を話し始めた。
「ムテキタートルの厄介な所は、さっき説明した通り【無敵化】というスキルと、それを十全に扱えるだけの魔力だ。だが、実はそれを一気に解決する方法がある。・・・と言っても、一つしかないんだが」
「そ、その方法って一体何なんだ・・・?何か特別な事でもするのか?」
「もしくは特殊な道具を使うとか・・・?」
「いや、別に何か特別と思える様な事をする訳じゃない。まあ、特殊な道具を使うという点に関しては、掠っているとも言えるけど・・・」
ダルジリスとガイオンの問いに惜しいと答える。
その後で一度咳払いをした私は、ちょっと首を傾げながら彼等に尋ねた。
「・・・で、ちょっとこの場にいる全員に聞きたいんだが、この近くに池とか川とか、そこそこの深さがある水辺が何処にあるか知らないか?」
「―――ここら辺でそこそこ大きな水辺って言ったら、此処だろうな。『マナリス湖』と言って、街道を進む商隊や冒険者達の休憩所としても使われている場所だ」
「へぇ・・・!この近くに、これ程大きな池があるとはな・・・!」
近くに水辺がないかと尋ねてから十数分後。私はこの辺一帯の地形を元々知っていたガイオン達『緑の烈風』の案内で、ムテキタートルのいる場所から程近い場所にあった、そこそこの大きさの池の前へとやって来ていた。
ガイオンが言うには、この大きな池の名前は『マナリス湖』と言い、マナリス山脈の南東部にある山脈から流れて来る魔力を含んだ水が溜まって出来た場所であるらしい。
この池の水は交易都市ライファの真下に存在している地下水道にも流れていて、町の人間が生活用水として汲み上げて使っているそうで、また魔力の上昇や回復といった効果もあるらしく、魔法を使う者達の間ではそれなりに有名な場所でもあるのだそうだ。
尚、そんな水を飲んだりしたら体に支障をきたすのではないかと思うかもしれないが、体内に多量に摂取しなければ何ら問題はないらしい。一日も経てば取り込んだ魔力の大半が抜け出るそうだ。
「うん。多分此処なら、アイツ等がいる可能性は高いな」
私は眼前に広がるマナリス湖を見ながらそう言うと、キョロキョロと周囲に視線を向ける。
その際、丁度近くに一m程の長さの太い木の枝が落ちているのを見つけたのでそれを拾い、マナリス湖の縁辺りに立って枝先部分を水の中に突っ込んだ。
「よっと・・・ふむ、深さもそこそこ。これなら・・・・・・!」
「・・・なあ、ちょっと質問して良いか?こんな所に来て、一体何をしようとしているんだ?」
水の中に突っ込んだ太い木の枝をジャブジャブと水音を立てながら右へ左へと動かす。
その様子を傍で見ていたガイオンは、私に何をしようとしているのかと尋ねてきた。
「ムテキタートルを倒す為の準備だよ。アイツを倒す為には、私が探している奴が見つからないとどうしようもないからな」
「探している奴って、この湖の中にか・・・?魚か何かでも探しているのか?」
「いや、私が探しているのは魔物だよ。特にこういう魔力が豊富な湖とか池とか川の底にいる、ね」
「底、ねぇ・・・」
顎を触りながら首を傾げるガイオン。おそらく彼の頭の中では今、魚類系だったり水棲昆虫系だったりと該当しそうな魔物を思い浮かべているのだろう。
・・・まあ結局ヒットしなかったらしく、最終的にいや無いなという感じに首を横に振っていたが。
「・・・っていうか、こんなことをしていていいのか?こうしてる間にもムテキタートルが逃げたりしないか?」
「それは大丈夫。アイツの動きはかなり鈍い。もし移動したとしても、あの場所から半径十m以内にはいるだろうからな」
ムテキタートルの移動速度は亀の様な見た目通りにかなり遅い。しかも道端に生えている草を食べながらでもある為、一歩進むのに三十分くらい掛かる事が良くある。
「それに一応、ダルジリス達『赤き炎槍』が監視の為に残っているんだし、見失う心配はしなくても良いと思うぞ?」
両手に持った太い木の枝を湖の水の中でグルグルと掻き回しつつ、視線だけをガイオンに向けながら私はそう答える。
現在この場には私と『緑の烈風』しかおらず、『赤き炎槍』の姿だけが無い。その理由は、彼等がマナリス湖に向かった私達とは別に、折角見つけた目標に逃げられて見失っては困るという理由で、ムテキタートルの監視の為に自分達からその場に残ると言い出したからであった。
一応『赤き炎槍』にもガイオン達『緑の烈風』に言った様にムテキタートルは早々逃げないし、逃げても遠くには移動しない事を伝えはしたのだが、それでも不測の事態が起こる可能性もあるからと彼等は言い、また私が希望した目的地への道案内は『緑の烈風』が適任であり、自分達では下手をしたら迷う可能性があるからと彼等は言っていた。
所謂、適材適所というやつだろう。
「それはそうなんだがな・・・・・・」
「―――っと、おや?枝先に何かが引っ掛かったな。・・・もしかして当たったか?」
そうこうしている内に、私はグルグルと掻き回していた太い木の枝に何かが引っ掛かったような感触を覚えた。
ザバリ、と太い木の枝の先を水の中から引き上げれば―――そこには所々にちょこんと存在する黄色い単眼が特徴的とも言える、黒い海藻の様な触手をウネウネと動かす植物的な何かが枝先に絡まる様に引っ掛かっていた。
「よしよし、コイツを探していたんだ。これでムテキタートルを倒せるな!」
「・・・えっ?ちょ、ちょっと待ってくれ、フェルヌス。アンタが探していた魔物って、もしかしてコイツだったのか・・・?」
目的のモノを見つけて笑みを浮かべる私であったが、それとは対称的にガイオン達『緑の烈風』は枝先に引っ掛かっている植物的な何かを見て、困惑の表情を浮かべていた。
「そいつって、アレだろ?『マナイーター』だろう?数多くいる魔物の中でも、最弱の呼び名を欲しいままにしている内の一体の・・・・・・えっ?本当にコイツが、アンタの探していたやつなのか・・・!?」
『マナイーター』とは、主にそこそこの深さのある池や川等の水辺に生息し、最弱の魔物と呼ばれているゴブリンよりもさらに弱い魔物としてある意味有名な植物型の魔物である。
弱点は露出している黄色い単眼であり、これを軽く叩かれるだけで即死してしまうという脆弱ぶりが特徴と言えば特徴で、子供でも簡単に倒せてしまえることから最弱の名が付けられている。
主な主食は周囲に漂う魔力であり、水辺で生息しているのも、水の中の方が魔力の霧散率が低く、容易に吸収しやすいからという理由からだ。
ちなみに食用可能であり、味や食感は昆布に近かったりする。
「いや・・・いやいやいや!流石に無理があるだろう!いくらなんでもコイツがあの魔物を倒せるとは、俺達には到底思えないんだが・・・!」
「まあ、言いたいことは分かる。だがこのマナイーターは、実はムテキタートルの天敵だったりするんだぞ?」
「こ、コイツがか・・・!?」
「嘘だろう・・・?」と懐疑的な目を私に向けながら困惑の声を上げるガイオン達。
そんな彼等の反応に対し、私は内心で「まあ、信じられないも無理もないな」と思いながら苦笑を浮かべるのであった。
マナリス湖でのやり取りから数分後。ムテキタートルを発見した場所に戻って来た私達は、対象の監視の為に残っていたダルジリス達『赤き炎槍』の姿を見つけて声を掛けた。
「―――今戻った。様子はどうだ?」
「おう、お帰り。今のところは変わりないぞ。かコイツは俺達が見つけた時から変わらずか此処で地面の草を食ってやがるよ・・・」
ハァ・・・と私達を出迎えたダルジリスは疲れた様な溜息を吐く。
その横では彼の言う通り、呑気に地面に生えている草花をムシャムシャ食べているムテキタートルの姿があった。
「人がこんなに近くにいるというのに、コイツは全くと言って良いほどに気にしてない。まるで馬鹿にでもされている様だ・・・!」
ガンッ!とムテキタートルの足を蹴るダルジリスだったが、蹴られた側であるムテキタートルは痛みも何も感じていない様子で、口をモゴモゴと動かしている。
「それで?コイツを倒す準備は出来たのか?」
「ああ。ムテキタートルの天敵を見つけて来たんだ」
私はそう言いながらマナリス湖からここまでずっと持ち歩いていた太い木の枝を、ダルジリスに見える様に持ち上げる。
目の前に太い木の枝を掲げられたダルジリスは、その枝先にウネウネと蠢く黒い海藻の様な触手を動かすマナイーターの姿を目にして、頬にタラリと一筋の汗が流れるのを感じた。
「え、えー・・・これが、アイツの天敵、なのか・・・?」
思わずといった風に困惑気な声を出すダルジリス。まさか最弱の魔物として有名なマナイーターを持ってくるとは思ってもいなかったのだろう。
「冗談か何かか・・・?」と呆然と呟く彼であったが、自信あり気な笑みを浮かべている私と、その後ろに立っているガイオン達『緑の烈風』の「そうだよなぁ・・・そう思うよなぁ・・・!」と言いたげに何度も頷く様子を目にして、冗談の類いではないと理解したらしい。ヒクヒクと盛大に頬を引き攣らせた。
「ふむ・・・どうやら疑っている様だな。では論より証拠。実際にコイツをムテキタートルに嗾けてみようじゃないか」
私はそう言うとマナイーターが引っ掛かっている木の枝を頭上へと放り投げた。
投げられたマナイーターは大きな放物線を描きながら、ポトリとムテキタートルの甲羅の上に落ちて―――次の瞬間、様子が激変した。
「うおっ・・・!?」
「な、なんだ・・・!?急に動きが激しく・・・!?」
ダルジリスとガイオンは突如としてムテキタートルの上で激しい動きを見せ始めたマナイーターを見て思わず驚き、後退った。
先程まで引っ掛かっていた木の枝からムテキタートルの甲羅に移り、絡まろうと黒い海藻の様な触手を縦横無尽に動かしながら伸ばすマナイーター。その姿は、まるで栄養を求めて地面に根を張ろうとする植物の様にも見えた。
「・・・ん?なあ・・・気のせいか、マナイーターの様子がおかしくないか・・・?なんかこう、触手がどんどん伸びている様な・・・?」
「いや、気のせいなんかじゃない・・・!本当に伸びているぞ!」
というか、実際に根を張ろうとニョキニョキという擬音が聞こえそうなくらいに物凄い勢いで触手を伸ばしていた。
その様子を見ていたガイオンとダルジリスは、思わず「なんだこれ!?」と驚きの声を上げた。
「これがマナイーターの特性だ。マナイーターは魔力を吸収すると、その魔力を栄養に変えて自身の体を成長させる。今みたいに魔力を持った生物等に接触した場合は、そいつが持つ魔力を吸収しようと体を絡ませ、締め付けて来るんだ」
マナイーターが吸い取る魔力の量は、秒間約一五◯から二◯◯。ムテキタートルの自然回復する『MP』量を上回っており、吸い尽くすまで離れようとはしないし、離されたりしないようにより複雑に絡まる。
更に言えば、マナイーターの本来の生息地は水中だ。陸の上だからこそ絡まる様な形となっているが、もしこれが水中であったのなら、水の中に引きずり込まれて全身に絡まれた末にそのまま溺死させられてしまうことだろう。
その話を聞いた私以外の面々は顔色を青褪め、「うわぁ・・・マジか・・・・・・」と言いたげにドン引きしていた。
「マ、マナイーターにそんな特性があっただなんて・・・!?冒険者ギルドにある魔物図鑑にも載ってなかったぞ、そんな事・・・!?」
「おそらくだが、弱点を軽く小突いただけで倒せる最弱の魔物という事で細かい部分までは調べられてなかったんだろうな。これは後で報告して再調査を行った方が良いだろうな・・・・・・」
納得した様な、慄くような声を漏らすダルジリスとガイオン。
そんな彼等の様子を見た私は、本当に知らなかったんだなと内心思った。
「(以前、この世界の冒険者ギルドにある魔物図鑑を見たことがあるが、記載されている情報が少なかったんだよなぁ)」
書かれていた内容は主に姿形や生息地、戦い方といったものくらいであり、『カオスゲート・オンライン』の冒険者ギルドに存在していた魔物図鑑と違って、持っている能力や特性などに関するモノが足りないと感じてはいたのだ。
「(まあ、異世界なんだからゲームとは色々違うという事は分かってはいた。だが、特にマナイーターの様な雑魚とか最弱とか呼ばれている魔物に関する記述が想像以上に少ないのが気にはなっていた・・・)」
だが彼等の様子を見る限りでは、ただ単にキチンと調べていなかっただけらしい。その事を知った私は「なんだかなぁ・・・」と内心で思わず呟いてしまった。
「(『カオスゲート・オンライン』では魔物をペットや戦力として従える魔物使いと呼称されるような連中がいて、そいつ等が調べた魔物の生態に関する情報が魔物図鑑に反映されたりしていたんだが・・・そう言えばこの世界に来てからそいつ等の姿を見たことがないな、と・・・!)」
「ギャアアアァァァ・・・!グガァアアアッ・・・!!」
向かうとは違って此方ではそういう連中がいないのか。それともこの国にいないだけで他の場所にでもいるのか。そんな疑問を内心で抱き始めていたが、そうこうしている内に事態が推移して来たようで、自身の魔力が吸われている事に気付いたムテキタートルが悲鳴の様な泣き声を上げ始めていた。
ズシンズシンと地響きが成る程に何度も足を踏みしめ、ブオンブオンと音が鳴るくらいに体を揺らすムテキタートル。しかし、そんなことで甲羅に複雑に絡まったマナイータが外れる事は無く、むしろその勢いを利用して首や手足に伸ばした触手を巻きつけて行く。
「ガァッ・・・!ギィッ・・・・・・!?」
ギリギリギチギチと音が鳴るくらいにムテキタートルの首を締め付ける触手。それによって上手く呼吸が出来ないのか、ムテキタートルは掠れた様な声を漏らす。
『う、うわぁ・・・・・・』
それを見た『赤き炎槍』と『緑の烈風』の面々は、ある意味惨いその光景を見て一斉にドン引きした。
もし自分達がムテキタートルの立場であったならと考えたのか、私のした話を思い出してなのか、元々青褪めていた顔色をより一層青褪めさせ、白くさせている。
「う~ん・・・この感じだと、魔力が吸い尽くされるまであと数分って所かな・・・?」
「(【無敵化】さえ無くなってしまえば、最早体がデカイだけの亀。『赤き炎槍』と『緑の烈風』の面々であれば、十分に倒せてしまえるだろうな)」
そして私はと言えば、冷静且つ平然としながら彼方側と此方側の戦力差を比較していた。
「(私が出張れば即終わらせられるが・・・まあ、今回私が受けた依頼は監視役としてだし、此処は討伐依頼として受けている彼等に任せるとしようか)」
「さて、これで事前準備は完了したわけだが・・・そちらの方はどうだ?攻撃する準備は出来ているか?」
ムテキタートルの討伐を『赤き炎槍』と『緑の烈風』の面々に任せようと判断した私は、彼等へと振り返りつつ戦闘準備は出来ているのかと尋ねる。
だがしかし、彼らが返した反応は不思議そうに首を傾げるといったものであった。
「むっ・・・?攻撃する準備、だと・・・?」
「えっと・・・、する必要があるのか・・・?もうなんか、アレだけで倒せるんじゃないのか・・・?」
俺達の出番、必要なくない?と言いたげな様子の『赤き炎槍』と『緑の烈風』の面々。
それに対して私は「そんな訳ないだろう」という言葉を溜め息と共に呟いた。
「確かに魔力を吸い取ったり、締め付けたりして苦しめてはいるが、此処はマナイーターのホームグラウンドである水中じゃない。マナイーターの本来の戦法は、獲物を水中に引き摺り込んで溺死させるという搦め手。ある程度のダメージは与えられても、魔力を吸い取り切ってしまえばもう餌は無いのだと判断して勝手に離れてしまうから倒し切る事なんて出来やしないんだ。・・・それに【無敵化】の効果を無効に出来るのは魔力を吸われている間だけ。マナイーターが離れれば、折角削った魔力は物凄い速さで回復する。つまり、私達がムテキタートルを倒す為にはマナイーターが、魔力を吸っている今しかないと言うわけだ。―――理解できたか?」
私は人差し指を立てながら、まるで先生が生徒に言い聞かす様にそう説明する。
それを聞き、いの一番に理解して頷いたのはそれぞれのチームリーダーであるダルジリスとガイオンであった。
「―――ああ・・・そう言う事なら納得だ」
ダルジリスはそう呟くと、己の自慢の武器である槍を両手に握り締めながらムテキタートルの真横へと移動する。
それを見た他の『赤き炎槍』の面々も彼の意図を察したのか、彼と並ぶ様に立ち、それぞれの武器を構える。
「要は、ムテキタートルからマナイーターを離さない様にしつつ攻撃しろってことだろう?それなら俺に任せてくれ。しっかり留めておくからさ・・・!」
その後ろではガイオン達『緑の烈風』がダルジリス達『赤き炎槍』の背後数mの位置に立ち、両手で持つ弓矢を構え、矢尻を添えた弦を引き絞り始めた。
そしてムテキタートルの動きが一瞬止まった瞬間、ダルジリスが掛け声を放った。
「いくぞぉっ!!」
『応ッ!』
その掛け声を合図に声を張り上げながらムテキタートルへと駆け出す『赤き炎槍』。特に一番先頭を走っていたダルジリスは、引き絞るように構えた槍を今にもムテキタートルへ向けて突き出さんとしていた。
しかし、それが放たれるよりも前に複数の矢がムテキタートルの足下に―――より正確に言うのなら、地面に写し出されたムテキタートルとマナイーターの影が重なりあっている場所に、トスッと突き刺さった。
「―――《影縛り》!【無敵化】が消えている今なら、コイツは効くだろ?」
「ガゥグゥッ・・・!?」
「・・・・・・!?」
それはガイオン達『緑の烈風』が放った矢であった。
《影縛り》とは、元は【短剣】のスキルにて習得する技であり、”対象の影に気を込めた武器を突き刺す事でその対象の動きを一時的に停止させる”という効果を持つ戦技。
それを受けたムテキタートルとマナイーターの体はビキリッ・・・!と硬直した。
「良い援護だ。後は俺に任せろ・・・!」
ガイオンの放った戦技を目にし、ニィッ・・・!という好戦的な笑みを浮かべたダルジリスは、動きを止めたムテキタートルの側面―――頭のすぐ横に辿り着くと、両手に持つ槍を大きく振り上げた。
「《大・切・断》ぅぅぅ!!」
戦技を発動し、バチバチと静電気の様に迸る橙色の気を纏うダルジリスの槍。その穂先をムテキタートルの首目掛けてダルジリスは勢いよく振り下ろした。
「ガ・・・ァ・・・ッ!?」
「・・・ッ!なんて呆気無さだ・・・!先程までの理不尽な硬さが嘘の様だぞ・・・!!」
その一撃はムテキタートルの首に三分の一程の傷を付けた。
先程は【無敵化】の効果によって当たるも効かず、弾かれてしまった己の技。だがしかし、今度はそうはならず、最後までその刃を振り切る事ができた。
その事を理解し、実感したダルジリスは一瞬だけ呆然とした様子を見せた。まさか最弱の魔物であるマナイーターを利用するだけで、通じなかった自分達の攻撃がこうも簡単に通じる様になるとは思っても見なかったとでも言いたげに。
驚愕し、呆然としたのは攻撃を受けた側であるムテキタートルも同様であった。その目は「そんな、まさか・・・!?」という感じに驚愕に見開かれており、かの魔物の心情が伺い知れるものであった。
「グ、グアアアアアアアーーーッ!!?」
「うおっ・・・!?」
しかし驚いていたのも束の間、《影縛り》の効果が切れたのだろう。ムテキタートルはズシンと足を横へ踏み込むと、次の瞬間にはその巨体をダルジリスにぶつけようと動かした。
その体当たりを驚きの声を漏らしながらもバックステップを踏んで回避しようとするダルジリスだったが・・・しかし飛距離が足りなかったのだろう。グオンッという暴音轟く一撃が彼へと迫る。
「させるかよぉぉ!!」
「ふんぬらばぁぁ!!」
「よいっしょぉぉ!!」
それを間一髪で彼の仲間が防いだ。
ムテキタートルの巨体を受け止めている彼等の手に持つ武器が橙色の気を纏っている様子を見るに、どうやら防御系の戦技を発動しているらしい。その様子を見るに、おそらく”武器や防具を使って相手の攻撃を防ぎ、受け流す”という戦技である《パリィ》を使っているのだろうが、しかしそれは技の選択を間違えていると言わざるを得なかった。
なにせ《パリィ》は防御系の技としては優秀なのだが、飽く迄主目的は相手の攻撃を受け流す事であり、受け止めるという点については他の防御系の技に数段劣るからだ。
それでも受け止めることが出来ているのは三人掛かりであるからなのだろう。歯を食いしばりながらムテキタートルの巨体を押し返そうとする様は、自分達のリーダーを、仲間を守るという意思が感じられた。
「・・・・・・!」
ふとそこで、シュルシュルッという音がした。
その音の正体はマナイーターの触手であった。ムテキタートルと同じく《影縛り》の効果が切れて動ける様になったのだろう。持ち上げられたその数十本の触手の先端はダルジリス達『赤き炎槍』に向けられていた。
おそらくムテキタートルの近くにいた彼等を獲物として認識したのだろう。その魔力を吸い取ろうとマナイーターは持ち上げた触手を伸ばそうとして―――
「させるか!《スナイプスロー》!」
「撃ち抜く・・・!」
「当たれぇぇ!!」
「ちょいやさぁぁ!!」
―――がしかし、その前にガイオン達『緑の烈風』の手から投げられた小石がマナイーターに向けて放たれた。
《スナイプスロー》とは”手に持った物を目標に向けて勢いよく投げる”という戦技だ。【投擲】というスキルで覚えられ、命中率にも補正が掛かる技なのだが、名前の通り物を投げるだけなので威力の程はお察しだ。
だが、それでもマナイーターの弱点を突く分には十分であった。
「・・・・・・!?」
弱点である黄色い単眼が狙われていると悟ったのだろう伸ばそうと動かしていた触手を引き戻して投石を防ごうとするが・・・しかし悲しいかな、マナイーターの触手にはその勢いを止めるだけの力がなかった。
投石がぶつかった瞬間、防ごうとした触手ごと押され、ブチュリと音を立てて黄色い単眼が潰れたのだ。
倒した。見ていた誰もがそう思ったことだろう。実際、弱点を突かれたマナイーターは触手をビクンと震わせると、力を失ってパタリと垂れ堕ちた。
「油断大敵だぜ、炎槍の」
「・・・っ!ああ、すまん。助かった。―――とでも言うと思ったか、このバカ!?」
「おうっ!?」
「貸し一つだぜ?」という感じのニヒルな笑みを浮かべるガイオンであったが、しかしそれに対するダルジリスの返答は「何やってんだこのバカ!?」というモノであった。
「マナイーターを倒しちまったら【無敵化】が発動しちまうだろうが!!」
「・・・あっ」
ダルジリスに突っ込まれ、そう言えばそうだったという風に声を漏らすガイオン。
「―――いや、その心配はしなくていいと思うぞ」
「・・・へ?それはどういう・・・?」
そこで私が呟き、それに対してガイオンがどういう事だ?と聞き返そうとした瞬間―――垂れ下がっていたマナイーターの触手がピクンと動いた。
「・・・!!」
「おい、嘘だろう・・・!?」
次の瞬間にはまるで花開くかのように勢いよく触手が回転しながら持ち上げられた。更には触手の至る所から幾つもの黄色い単眼がゴポリと音を立てながら出現する。
その様子を目にしたガイオンはマナイーターが活動を再開したことを悟り、驚きに両目を見開いた。
「ちょっ、これどうなってんだよ!?おい、フェルヌス!」
「ああ、うん。あれがマナイーターの特性その二だ。アイツ、魔力を吸い取っている間は一時的に不死身になるんだよ。だから今のマナイーターを倒すとしたら、まず寄生元であり魔力の供給源であるムテキタートルを倒す必要があるんだ」
ガイオンが聞きたい事が何かを察した私はマナイーターが持つもう一つの特性を説明し、それを聞いた彼は「ちょっ、それ先に言っといてくれよ!?」と叫んだ。
「くっ!そういう事なら・・・・・・ダルジリス!」
「応!任せろ!・・・お前等、もう少しだけ頑張れるか!?」
「問題ないぜ・・・!やっちまえ、リーダー!!」
再び自身の武器である弓矢を構え直しながらダルジリスの名を叫ぶガイオン。
彼の意図を察したのだろう。ガイオンに返事を返しつつ槍を構え直したダルジリスは、自身の仲間の返答を聞いて「ヘッ・・・!」と笑みを浮かべた。
「行くぜぇ!援護は任せたぞガイオン!!」
「任せろ!」
ダッ、と走り出すダルジリス。彼は両手に握る槍を大きく振り被ると、その矛先をムテキタートルの頭部、先程完全には切り落とせなかった首元に狙いを定める。
「うおおおおおーーーっ!!《十字斬・炎牙》ッ!!!」
バチッ、と一瞬だけ橙色の気が静電気の如く迸り、続いて槍の穂先が炎に包まれる。
そして、その槍をダルジリスは勢いよく振り下ろし、またその勢いを利用して体を回転させて横薙ぎに切り払った。
「グギャアアァァァ・・・!!?」
傷が付いていたムテキタートルの首に再び叩き込まれる十字の斬撃。炎を纏ったその攻撃は当たった後も燻る様にかの魔物の肉を燃やしている。
ダルジリスが放った《十字斬・炎牙》は、”炎を纏わせた武器で対象を十字に斬る”という戦技だ。もっと細かく言えば、《十字斬》という戦技に火属性を付与した技とも言えるが、実はこの技の効果はそれだけではない。相手に付けた炎の斬撃は一定時間が経つと追加効果として爆発する仕様となっているのだ。
つまり―――
「ギャ・・・ギィ・・・・・・!?!?」
―――それはムテキタートルの首元に付けられた炎の斬撃が爆発するという事。それにより、今度こそムテキタートルの首は完全に切り離され、ドスンッという重い音を響かせながら地面へと落ちた。
「・・・!!!」
戦技を放った後、体勢を整えようとするダルジリス。そこへマナイーターの触手が勢いよく伸ばされた。
それはおそらく生存本能故だろう。このままでは自身も死ぬと感じて、ダルジリスを次の宿主にしようとしたのだろうが、しかしその行動はガイオンが放った技によって阻まれた。
「―――《五月雨矢・風絶》!!」
ガイオンが構えた弓から連続して放たれる矢。それ等は全て風刃を纏っており、間にある触手を切り裂きながらマナイーターの弱点である黄色い単眼へと真っ直ぐに飛んで行く。
「・・・・・・!?!?」
カカカッ、と音を立てて全ての黄色い単眼に突き刺さるガイオンの矢。それを受けたマナイーターは魔力の供給元が絶たれた事もあって今度こそ絶命したのだろう。触手の色が少し薄くなり、まるで浜に打ち上げられた海草の様にその身をベシャリと崩れ落とした。
「お疲れ、ダルジリス」
「おう。そっちもな、ガイオン」
ムテキタートルとマナイーター。目の前の魔物達を倒した事を確認したダルジリスとガイオンは戦闘が終わったと判断したのだろう。その後で彼等は、互いの健闘を称え合うかのように、パンとハイタッチをするのであった。
次回は6/16投稿予定です。




