第3章第11話 ~大魔王と冒険者達 2~
7月26日に文章内容の修正と一部変更をしました。
交易都市ライファから見て西にある山脈地帯。無数の鉱石が大地に埋まっているその麓を私と『赤き炎槍』、『緑の烈風』の女一人、男八人の合計九人の集団が歩いていた。
「ふぅ・・・!ようやく依頼書に書かれていた場所に着いたな・・・・・・」
山道を歩きながら『赤き炎槍』のリーダーであるダルジリスがポツリと呟く。
彼の眼前には青々と大地に茂る草原と、所々疎らに生えている木々が半分ずつの割合で存在し、その向こうには頂上が白く染まっている大きな山が見えていた。
「しっかし、目的の魔物が生息している場所がまさかの『マナリス山脈』だったとはな。思ってもみなかったぜ・・・!」
ダルジリスに続く様に呟いたのは、『緑の烈風』のリーダーであるガイオンであった。彼は片手を日の光を遮る様に掲げながら、ダルジリスも見ている山を見る。
『マナリス山脈』とは、交易都市ライファの西に存在する大きな山々が連なった地域の事であり、『マナクリスタル』というが採掘出来る場所だ。
この『マナクリスタル』という鉱石は、空気中にある魔力を吸収した後に倍加して発散するという特性を持っており、主に魔法を強化するアイテムの素材や儀式系魔法の媒体等の多くの用途に使う事が出来る為、ライファ領の特産品の一つとして有名な物でもある。
そんな、売れば一財産くらいは稼ぐ事が出来る鉱石が埋まっているであろう山脈を見つめるガイオンだったが、その表情は近寄りたくなかったとでも言いたげな嫌そうな顔をしていた。
「何やら嫌そうな顔をしているが、あの山脈に何かあるのか?」
彼のその表情を目にした私が、おや?と思いながら声を掛けると、ガイオンは両目を半眼にし、唇を突き出す様にしながら自身が嫌そうな顔をしている理由を話し出した。
「ああ・・・実はあの山脈には昔からある魔物が住みついていてな。『クリスタルリザード』って言うんだが、固いわ魔法を跳ね返すわと並みの戦士や魔法使いじゃ簡単に返り討ちにされちまうくらいにかなり厄介な奴なんだよ」
『クリスタルリザード』とは『カオスゲート・オンライン』では脅威度Bランクだった魔物であり、この世界では脅威度Aランクとされている魔物の事で、体の大きさは個体によって異なるが基本的に体長約一m程、大きさは成人男性の腰ほどはある巨大蜥蜴だ。
攻撃方法は牙による噛み付きや爪による引っ掻き、後は体の大きさを使った突進と物理攻撃のみではあるが、この蜥蜴の一番厄介な所は全身に生えている水晶のような水色の輝きを持つ鱗であり、その一枚一枚が鉄並みの硬度を誇り、マナクリスタルと同じ効果を持っている。その為、大抵の物理攻撃は効き辛く、魔法攻撃にしても吸収して倍にして術者に跳ね返すといったことも出来るので、討伐記録があまりない魔物としてもそれなりに有名だったりする。
「あの山脈にマナクリスタルがあるのは知っているとは思う。今俺達がいるこの麓でもそこそこ取れるんだが、山脈の奥にはもっと沢山あると言われているんだよ。だが、その奥に行こうにもクリスタルリザードが障害となって進めなくなっちまっているんだ。もう一つ付け加えて言うなら、アイツ等は餌を求めて麓まで下りてくることがあるし、気性も結構荒いから遭遇したら問答無用で襲ってくる。そうなったら、アイツ等が俺達を見失うまで逃げないといけなくなるし、下手したらそのせいで依頼を失敗する可能性があるからな。それを考えると憂鬱になるんだよ・・・」
「なるほどな・・・まあ、確かに通常の戦い方ではあのクリスタルリザードを倒すのは難しいだろうな。だが、アイツ等にも弱点はあるんだぞ?正攻法が駄目ならそれ以外を行えばいい」
ガイオンの説明を聞いて納得したように頷いた私は、その後で逃げる程の相手ではないだろうと暗に告げた。
「・・・ん?ちょっと待ってくれ、フェルヌス。アンタ、まさかあのクリスタルリザードを倒す方法を知っているのか?」
「ああ。クリスタルリザードの鱗は確かに厄介だが、魔法を吸収し、倍化して跳ね返す効果は体の外側のみにしか発揮されない。だから、その内側―――範囲外となっている体内からであれば、魔法攻撃は有効なんだよ」
「内側って・・・つまり口とかを入口に見立てて魔法を撃ち込めってことか?無茶を言うな、アンタは。アイツ等はあの巨体でありながら中々素早いんだぞ?」
「それについてはひっくり返してしまえば問題ないさ。クリスタルリザードは一度ひっくり返ると自力で起き上がるのに時間がかかるからな。それとやるなら土属性の魔技とかが使えるぞ。アイツ等の鱗は確固とした実態を持たない魔法―――つまりは火属性や風属性といった魔技は吸収できるが、逆に実態のあるモノを操る土属性や木属性といった魔技は吸収する事は出来ないからな。・・・例えば、土属性の 《ロックピラー》という魔技があるが、これは目標真下の地面から岩の柱を形成し、突き上げる様に出現させる技だ。視界の外、認識外から攻撃するから相手の意表を突くし、クリスタルリザードみたいな魔物をひっくり返すのに結構使えるんだぞ」
「へっ?そうなのか?そいつは知らなかったなぁ・・・」
はぁぁ・・・と感嘆の息を吐くガイオン。その様子は目から鱗でも落ちているかのように驚いているように見えた。
「(うーん、この反応・・・やっぱりこの世界だと、派手さのない魔法って人気が無いんだな)」
ガイオンのその反応を目にした私は、表情を変えはしなかったが内心では悩ましげな唸り声を上げていた。
以前交易都市ライファの図書館でこの世界の魔法について調べた際に知ったのだが、どうやらこの世界では広く使われている魔法とあまり使われていない魔法があるようなのだ。
主に人気があって使われているのは【火属性魔法】、【水属性魔法】、【雷属性魔法】、【風属性魔法】、【光属性魔法】、【生命属性魔法】の六つ。これらの属性魔法は戦闘もだが、それ以外にも様々な事に使用する事ができる応用範囲の広いモノが多い。
その逆に【土属性魔法】、【木属性魔法】、【闇属性魔法】、【無属性魔法】、【死属性魔法】の五つは役に立たない魔技しか使えない属性魔法とも呼ばれており、この世界ではマイナーな魔法として扱われていた。
だからというか、ガイオンが驚いたのはそんなマイナーとして扱われている属性魔法にそんな使い方があるとは思ってもいなかったからだろう。
だが、私としてはその認識については意義を唱えたい気持ちがあった。
というのも、後者五つの属性魔法は使い方次第では前者六つの属性魔法以上の結果を出す事もできたりするからだ。
「その他の属性魔法についても、癖はあるが状況と使い方次第では切り札としても使えたりする。ちなみに属性魔法の中でも液体、個体、気体という三つの形態がある【水属性魔法】の場合は、その内の実態のある液体と固体は吸収されないが、実態のない気体は吸収されてしまうので注意が必要だがな」
「へぇ・・・!魔法について結構詳しいんだな、アンタ」
「凄ぇな・・・!」という声を溢すガイオン。その眼は感嘆の感情を見せており、その目を向けられた私は「ふふん・・・!」と内心で密かに胸を張るのであった。
「「(やっぱり俺の目に狂いは無かった。彼女はかなりの逸材だ・・・!!)」」
ちょっぴりドヤ顔をしているフェルヌスの横顔を見ていたガイオンと、そして二人の話に聞き耳を立てていたダルジリスは、その確信を同時に抱いた。
「(高ランクの魔物を討伐出来ている時点で相当腕が立つことは知っていたが、それだけじゃなかったらしいな。まさかあの厄介なクリスタルリザードを倒す方法を知っているとは。・・・どうやら魔物に関しての造脂が深いらしい)」
「(それに魔法に関する知識も豊富みたいだな。土属性とかのマイナーな属性魔法って、使い手があんまりいないからどんな魔技が使えるのかよく分かっていなかったんだが、この話しぶりだと他にも知っていそうだ。仲間に引き入れた後に彼女が知っている魔技を教われば、それだけで戦力アップも出来そうだぜ!)」
「「(それに滅茶苦茶可愛い女の子だし。是非とも仲良くなって、絶対に俺の彼女になってもらおう・・・!!)」」
「「ふふふふふ・・・!」」
ニヤニヤと欲望が混じったにやけ面を浮かべるダルジリスとガイオン。彼等が浮かべているその笑みは情欲の感情が思いっきり透けて見えるものであった。
まあ、そんな二人の様子をフェルヌスが目にしており、「うわぁ・・・」とドン引きしてもいたのだが。幸いと言うべきか、彼等がそれに気付く事はなかったのであった。
マナリス山脈の麓での探索を初めて一時間が経過した頃。私達は今回の討伐依頼の対象である魔物の姿を発見した。
「・・・どうやら、アレが討伐対象らしいな。依頼書に書かれていた情報とも符合する」
「しっかし、随分とまあデカい図体をしてやがるなぁ。・・・見た目は完全に亀だな、こりゃ」
乱立する木々や草むらの影に身を潜めながら対象の魔物を観察するダルジリスとガイオン、そして彼等の仲間達。
彼等の視界の先にいる件の魔物の姿は、体長約五m、全高約三m程のかなりの巨体であり、黄金色の甲羅を背負っている様子から動物の亀に酷似している。
しかしその手足の爪は鋭く伸び、後ろに伸びている長い尻尾には棘の様な突起物が無数に付いていて、横から見える相貌もまた厳つく鋭いという印象を覚える形であり、下あごから上に向かって伸びる鋭い牙が特徴的と言える。
一見するとかなり攻撃的な姿形をしており、その気性も見た目通り荒々しいと思えてしまうのだが、しかしその動きは非常にゆっくりのんびりとしていた。
また、その背中の上には沢山の小型の魔物が乗っていて、まるで一休みしつつ対象の魔物の移動に便乗しているようにも見え、しかもそれに対して対象の魔物は全くと言っていい程追い払おうとしない。どころか、まったく気にしている風にも見えなかった。
「背中の上に小型の魔物が乗っていても気にしないとか、どんだけ鈍いんだっての」
「それに動きも相当鈍い。一斉に掛かれば苦もなく終わるだろう」
対象の魔物がのんびりと地面に生えている草を食べている光景を見て、あんな動きが鈍そうな魔物なら簡単に倒せそうだと笑みを浮かべる『赤き炎槍』と『緑の烈風』の面々。
だが、その中で唯一私だけが「冗談だろう・・・!?」と頬を引き攣らせていた。
「(おいおいおい・・・!今回の依頼にあった討伐対象って、まさかアイツの事なのか・・・!?)」
「厄介な・・・!」と呟きながら、私は苦虫を噛んだような顔を浮かべた。
何故私がそんな反応をしたのかというと、それは目の前で草花を頬張っている魔物がどういう存在なのか知っていたからだ。
あの亀みたいな姿をした対象の名前は『ムテキタートル』と言い、見た目と名前で勘違いされやすいが、あれでも竜種に属している魔物である。
性格はのんびりとしており、基本的に戦うという事をしない為、攻撃的な見た目に反してその危険性は限りなく低い。
ここまでであれば、私が厄介だと呟いた様には思えない魔物だと感じることだろう。
まあ実際その通りで、放っておく分にはなんら危険性も害もない魔物ではあるのだが―――しかし、コイツを倒そうと考えた場合は話が別となる。
何故なら、ムテキタートルには【無敵化】―――〝発動中は通常攻撃、戦技、魔技、状態異常等のありとあらゆる攻撃と効果を無効化する効果を使用者に付与する〝という常時発動型スキルを保有しており、これがある限り倒すどころかダメージを与えることすら不可能だからだ。
ハッキリ言って、守りという点においては名前通り無敵の名を欲しいままにしているが、これだけ強力なスキルであれば当然それ相応のデメリットも存在している。
デメリットは全部で三つ。〝攻撃力が必ず一となる〝、〝戦技、魔技、特技が使用不可能となる〝、〝発動中に攻撃を受けた際には『MP』を消費する〝といった感じだ。
・・・とは言え、実を言うとこの三つのデメリットはムテキタートルにとってはあまりデメリット足り得なかったりするのだが。
その理由は、まず〝攻撃力が必ず一となる〝、〝戦技、魔技、特技が使用不可能となる〝という点についてだが、これについてはそもそもムテキタートル自身が基本的に戦うという事―――他者に襲い掛かったり、逆に襲われた時に反撃する事をしない為、あまり意味がないデメリットとなっている。
次に〝発動中に攻撃を受けた際には『MP』を消費する〝についてだが、その消費量はたった一程度とかなり少なく、加えてムテキタートルが【MP自動回復】―――〝一定時間毎に一定量『MP』を回復する〝というスキルも保有しているため実質消費量ゼロとなるからだ。
まさしくチートと呼ぶに相応しい魔物と言えるだろう。事実『カオスゲート・オンライン』でも公式チートモンスターと呼ばれていたし。
ちなみに、【無敵化】のスキルは種族固有のモノで一般的に取得できるものではなく、保有している存在もムテキタートルも含めたった五体の魔物しか確認されていない。
一応、【無敵化】のスキルを保有する魔物の素材を使って作成した防具ならば、種族問わず【無敵化】のスキルを発動する事は可能ではあるが、あまりにも致命的と言える欠陥がある為に『カオスゲート・オンライン』でもその防具を使っているプレイヤーはほとんどいない。
「(とはいえ、【無敵化】が発動中は私の攻撃すら効かないからなぁ。・・・一応ムテキタートルの倒し方は私の持つ知識の中にはあるが、その為には色々と準備をしなくちゃいけないしな。とりあえず今は皆にアイツに関する説明をして、一旦下がってもら―――)」
「よし・・・!行くぞお前等!俺達『赤き炎槍』の力を見せてやろうぜ!!」
「「「オォッ!!」」」
「そっちは気合十分みたいだな・・・!俺等も負けてられないぞ!『緑の烈風』の底力を見せつけてやれ!!」
「「「オォッ!!」」」
「―――ッ!?」
まずは体勢を立て直すべきだと考えた私は、近くにいる『赤き炎槍』と『緑の烈風』の面々に声を掛けようとしたのだが、しかしその前に彼等は各々の武器をその手に持ってムテキタートルへ向かって駆け出してしまっていた。
そこで私は思い出した。どうでもいい事としてすっかり忘れていたが、元々彼等『赤き炎槍』と『緑の烈風』は私を自分達の仲間に引き入れようと争っていたことを。
つまり彼等が「俺達が先に倒す!」や「先に倒すのは俺達だ!!」と競う様に飛び出していったのも、先に討伐対象の魔物を狩った方が私を仲間にすることが出来るのだという暗黙の了解が彼等の間で何時の間にか出来上がっていたからなのだろう。
「ちょっ・・・!?」
その事に思い至った私は彼等を止めようと静止の声を上げようとしたのだが、しかし既に遅く、彼等はもうムテキタートルのすぐ傍にまで接近してしまっていた。
「どうやら俺達が先に着いたようだな・・・!行くぞお前等っ!!」
「「「応っ!!」」」
最初にムテキタートルに攻撃を開始したのは『緑の烈風』だった。リーダーであるガイオンを筆頭に、彼等はそれぞれが手に持つ武器による攻撃をムテキタートルに向けて放つ。
「《風刃一矢》!!」
最初の一撃はガイオンが構えた弓から放たれる緑色の輝きを纏う矢であった。
《風刃一矢》とは〝弓から放たれる射出物に触れたモノを切り刻む風の刃を纏わせる〝という戦技だ。風属性も付与される技であり、遠距離技の中でも使いやすい部類に入るモノの一つでもある。
ガイオンの弓から放たれたその矢は、直後に風を纏い、薄い橙色の気も纏って、まるで小さな竜巻と化してムテキタートルに迫っていく。
「・・・・・・?」
「何・・・!?」
だがしかし、その一撃はムテキタートルの体に当たった瞬間に弾ける様にして消えてしまった。
攻撃を受けた側であるムテキタートルはと言えば、「何か当たった・・・?」という感じにぼんやりとした顔を上げていた。
「《フレイムスラッシュ》!」
「《貫突》!」
「《ヴァイパーショット》!」
ガイオンに続くように武器を振るい、戦技を放つ『緑の烈風』のメンバー達。
ある者は〝炎を纏わせた武器による斬撃を放つ〝という戦技である《フレイムスラッシュ》を発動して手に持つナイフで斬り掛かり、ある者は〝硬い鉄の鎧すら貫く槍の一撃を放つ〝という戦技である《貫突》を発動して片手に持っている短槍を突き出し、ある者は〝複雑な軌道描きながら対象を抉り打つ〝という戦技である《ヴァイパーショット》を発動して細かい棘の付いた鞭を振り被った。
だがしかし、彼等の技もまたガイオンの時と同じようにムテキタートルの体に触れた途端にガキン!という甲高い音を響かせながら弾かれてしまった。
「なっ・・・!?戦技が効かない!?」
「武器も弾かれたぞ!?しかも欠片も傷付いてねぇぞあの甲羅!」
「むしろこっちの武器の刃が欠けた!何だコイツ・・・!?」
驚き、思わず後退る『緑の烈風』。
そんな彼等を尻目に、少し遅れてやって来たダルジリス達『赤き炎槍』がそれぞれ手に持つ武器を構えた。
「はっ、何をやってんだ!そんな力の無い攻撃なんて弾かれて当然だろう!俺達が手本を見せてやる!用意は良いか、お前達!!」
「「「応っ!!」」」
ダルジリスの鼓舞に力強い返事を返す『赤き炎槍』のメンバー達。
彼等はそれぞれが手に持つ武器を振るい、次々に戦技を放っていく。
「《五連斬》!」
「《パワーブレイク》!」
「《チャージスラスト》!」
ある者は〝舞うように五回連続の斬撃を放つ〝という戦技である《五連斬》を発動して両手に持つ双剣を高速かつ連続で振るい、ある者は〝振り回した武器を対象に叩き付ける〝という戦技である《パワーブレイク》を発動して身の丈程もある大斧を横から勢いよく叩き付け、ある者は〝対象に向けて突進しながら武器を突き刺す〝という戦技である《チャージスラスト》を発動して刀身が二m近くもある分厚い大剣の刃先を前へと突き出す。
「《大切断》!!」
そして最後の大取りを務めたのは、ダルジリスの槍の一撃だ。
《大切断》―――”表皮や装甲が硬い相手を一撃で間断する”という戦技を発動し、刃の形状が薙刀に似た槍を大上段から振り下ろすダルジリス。
おそらく彼の予想では、この一撃であればムテキタートルの固そうな甲羅程度難なくかち割れるとでも思っていたのだろう。
その結果は―――先程の『緑の烈風』の時と同じであった。『赤き炎槍』の武器も技もまた、ムテキタートルの体に当たった瞬間にガキンッ!!という甲高い音を響かせながら弾かれたのだ。
「ば、馬鹿な・・・!?」
「嘘だろ・・・!?俺達の攻撃どころか、リーダーの《大切断》すら弾きやがったぞ、コイツ・・・!」
「い、一体どんだけ固いってんだよこの亀は・・・!?」
武器を弾かれた際に生じた腕の痺れを抑えながら後退る『赤き炎槍』のメンバー達。
その瞳には自分達の攻撃を弾いて見せたムテキタートルに対する驚愕と恐怖の感情が渦巻いているように見えた。
だが、彼等のリーダーであるダルジリスは諦めていなかった。彼は痺れが走る自身の両腕を見て顔を顰めながらも、仲間達に攻撃を続けるよう指示を出す。
「ぐっ・・・!こ、攻撃の手を緩めるな、お前等!いくら固いと言っても全身が固いわけじゃない!どこかに弱点がある筈だ!攻撃を続けながらそれを探すんだ!!」
「「「お、応っ!」」」
ようやっと両腕の痺れが治まったところで武器を構え直して再度突撃を開始するダルジリス。
その姿を見て、指示を聞いた『赤き炎槍』のメンバー達は戸惑いながらも返事を返す。そして武器を構え直すと、彼の背中を追って自分達もまた突撃を開始した。
「くそっ・・・!俺達も遅れを取るな!アイツ等よりも先に弱点を見つけ出して、そこを突くんだ!!」
「「「お、おおっ!」」」
ムテキタートルに向けて再度突撃するダルジリス達の姿を見て自分達も負けていられないと思ったのか、ガイオンは自身の仲間達を鼓舞しつつ、彼等と共に『赤き炎槍』のいる場所とは反対の向こう側へと回り込むと、その場所からムテキタートルに向けて自分達が覚えている技を放ち始めた。
「・・・なんだかなぁ。いくら攻撃したって、アイツに効きはしないのに」
幾つもの戦技が放たれ、爆音やら衝撃波やらが飛び交う目の前の光景に、私は草木の生い茂る場所で身を隠しながら「やれやれ」と言いたげな溜め息を吐きながらポツリと呟いた。
ムテキタートルとの戦闘を開始してから十数分後。そこにはのんびりと地面に生えた草花をムシャリムシャリと食べるムテキタートルと、その周囲に力尽きたように倒れている『赤き炎槍』と『緑の烈風』の面々の姿があった。
「ハァ・・・ハァ・・・!く、くそっ、本当にどれだけ固いんだコイツは・・・!?まさか柔らかいと思っていた目玉や口の中までもが弾かれるとは思わなかったぞ・・・!」
「ゼェ・・・ゼェ・・・!こ、ここまでやっても傷一つ付かないとか、マジでどうしろってんだよ・・・!?」
ゼェ・・・ハァ・・・!と荒い呼吸を繰り返しつつ、悪態を吐く彼等。『赤き炎槍』と『緑の烈風』の面々の体には外傷などは見られないものの、しかし体中からは大量の汗が噴き出しており、それにより身に着けている衣服もビショビショに濡れてしまっていた。
「どうやら落ち着いたようだな。・・・・・・とりあえず、大丈夫か・・・?」
そんな彼等の下に近づいて来たのはフェルヌスであった。彼女は身を隠していた草木の影から出て来ると、無事かどうかの確認の声を掛けて来た。
それに対して最初に返事を返したのはガイオンだった。彼は荒い呼吸を繰り返しながら体を起き上がらせるとフェルヌスへと顔を向けた。
「あ、ああ。・・・なあ、フェルヌス。アンタ確か魔物に詳しかったよな?何でコイツには攻撃が効かないのか聞いてもいいか・・・?」
「お、おい、烈風の・・・!お前、何を・・・!?」
大丈夫だという感じに頷いた後でフェルヌスにそう問い掛けるガイオン。おそらくクリスタルリザードの事を倒し方も含めて話したこともあってフェルヌスが魔物について詳しい事を知り、もしかしたらムテキタートルの事も知っているのではないかと思ったのだろう。
だがその問いに彼女が答える前に先の声を上げたのはダルジリスであった。彼は自らの体を起こしつつ ガイオンに何を考えているのかと言いたげな視線を送った。
「何って、この滅茶苦茶に固い亀の倒し方を聞くんだよ。コイツはライファの冒険者ギルドでも高ランクである俺等の攻撃を受けてもビクともしなかったんだぜ?それに後で気付いて倒れている間に仲間内でも確認したんだが、俺も含めた『緑の烈風』の全員がこの魔物について何も知らなかったんだ。絶対まともな奴じゃないって・・・」
「は、はぁ・・・!?お前等が知らないだと・・・!?」
斥候関係―――情報収集や調査などを得意としている筈のガイオンを含めた『緑の烈風』が目の前の亀の様な魔物の事を知らなかったと言う事実を耳にしたダルジリスは驚愕の表情を浮かべた。
「じゃあ、なんでこの依頼を受けたんだよお前等・・・」
「そこはほら・・・・・・ノリと勢いってやつだよ」
「斥候関係専門の奴がノリと勢いで依頼を受けるんじゃねぇよ!!」
「いやお前マジでふざけるなよ・・・!?」と言いたげなツッコミを入れるダルジリス。
だが、そこについてはガイオンの方も一言二言くらいは言いたかった事があったのだろう。彼は反論する様に声を荒げた。
「仕方ねえだろう!あまりに急な出発だったんだから、碌な準備が出来なかったんだよ!?・・・だが、それでもこれだけは分かる。ライファ領に生息している魔物について詳しい俺達がこの亀の魔物を知らないってことは、おそらくコイツは他所から流れて来た奴だってことだ!それは間違いない!!」
「偉そうに言ってんじゃねぇよ!つまり何も知らないってことじゃねぇか、それは!何の役にも立たねぇ情報を言ってんじゃねぇ!!」
「あんだと、こらぁ・・・!?」
「やるかぁ・・・!?」
「ああぁん・・・!?」
立ち上がり、互いの額をゴツゴツぶつけながら至近距離で睨み合うダルジリスとガイオン。
口元をへの字にし、額に青筋を浮かべている彼等の姿はまるでどこぞのチンピラかヤクザの様にも見え、そんな彼等の姿を目にした『赤き炎槍』と『緑の烈風』のメンバー達は「リーダー達を止めないと・・・!でも、今のこの二人めっちゃ怖い・・・!?」と言いたげに右往左往していた。
「―――うっさい。喧嘩するな、血気盛んな野郎共」
「「ふぎっ・・・!?」」
その場ですぐさま殴り合いの喧嘩が始まってもおかしくない雰囲気を漂わせるダルジリスとガイオン。その最中、突如彼等は自分達の脳天にガツンと鋭い痛みが走ったのを感じた。
その痛みの原因が何時の間にか自分達の横に立っているフェルヌスの拳によって殴られたからだと理解した二人は、「何すんだ!?」と彼女に一言文句を言おうと、キッ!と鋭い視線を向けて―――
「―――なんだ?何か言いたいことでもあるのか?」
「・・・い、いや」
「・・・な、何でもないぜ」
―――喜怒哀楽の感情が一切見えない、ゾッと寒気がする程の冷気すら感じさせるハイライトの消えた彼女の瞳を目にして思わず押し黙った。
「(え、何あの目・・・!?めっちゃ怖いんですけど!!?)」
「(さ、寒い・・・!?ただ視線を向けられている筈なのに、急に体が震えてきやがった!?)」
まるで道端に落ちているゴミや塵芥でも見ているかのような冷ややかな視線。それを受けた二人は体中から大量の冷や汗がドパッ・・・!と噴き出すのを感じ、同時に背中に氷でも入れられたかのような身が凍える感覚を覚えた。
そしてそれは『赤き炎槍』と『緑の烈風』のメンバー達も同様であったらしく、「美人は怒ると怖いと言うのは本当なんだな」とか、「見た目が可愛い分、そのギャップで冷たい視線がより恐ろしく感じる」とか、「やべぇ、なんかゾクゾクする。癖になるかも」と彼等は呟きながら互いに身を寄せ合ってガタガタと体を震わせていた。
・・・・・・なんか最後のだけ少し違うような気がするが。
「はぁ・・・それじゃあ、これからあの魔物について知っていることを話そうと思うが―――アンタ等、聞く気はあるか?」
『あ、はい。ゼヒトモキカセテクダサイ』
ともあれ、黙り込んだ『赤き炎槍』と『緑の烈風』の面々の姿を目にして場が落ち着いたと判断したらしく、大きな溜め息を一つ吐いた後で彼等に話を聞くつもりはあるかと尋ねるフェルヌス。
それに対して男達は一切の反論をすることなく粛々と頷くのであった。
次回は6/11に投稿予定です。




