第3章第10話 ~大魔王と冒険者達 1~
どうも皆様お久しぶりです。kudoです。
今日から第3章の続きであり、旧版にはなかった追加内容分を投稿していきます。
とは言うものの、実はまだ全部は書ききれていない為、今現在で完成しているストック分だけですが。
7月26日に文章内容の修正と一部追加しました。
「(―――はぁ・・・どうしたらいいんだろうなぁ、これは・・・・・・)」
交易都市ライファ。その町中の一角にある冒険者ギルドの中で私、『フェルヌス・クディア』はどうしたものかと途方に暮れた顔をしていた。
いったいどうしてそんな顔をしているのかと言えば、それは私の目の前で複数の男達が口論をしているからであった。
「邪魔をしてくれるなよ、烈風の・・・!彼女に先に話し掛けたのは俺達だぞ・・・!」
「邪魔?今邪魔だと言ったか、炎槍の?おいおい、おいおいおい・・・!俺達はただこう言っているだけだぜ?”抜け駆けをするな”とな・・・!彼女に目を付けていたのはお前等だけじゃないんだぜ?」
「そんなことは俺達だって知っている。だが、お前等は一向に彼女に話し掛けようとしていなかったじゃないか。そんな腰抜けに説教される謂われはないぜ?」
「・・・なんだと?」
「なんだよ?」
彼等はそれぞれでチームを組んでいる冒険者達であり、交易都市ライファに所属している冒険者の中でもBランクという上位の実力を持っている者達だ。
私から見て左にいるのは『赤き炎槍』というチームだ。耳に掛かる程度の長さの赤い短髪と、同じ色合いの軽装鎧を身に纏う『ダルジリス』という槍の扱いを得意とする彼をリーダーに活躍している四人組みだ。
彼らの見た目や雰囲気はまるで武人の様な印象を受け、実際戦闘のプロフェッショナルとして此処では名が通っていた。
そしてその反対、私から見て右にいるのは『緑の烈風』というチームだ。肩ほどまでの長さのある緑掛かった黒髪に、薄緑色の衣服と銀色の胸当てや手甲を身に纏ったリーダーである『ガイオン』を筆頭に、弓矢などによる遠距離戦や斥候を得意とし、こちらも同数の四人組で活躍している人物達だ。
彼らの見た目や雰囲気は軟派なという印象を受けるものだが、その実見た目に反して堅実的に仕事をする事で名が知られていた。
そんな彼等がいったい何を言い争っているのかと言えば・・・まあ、その原因となっているのは私であったりするのだが。
彼等の目的はどちらも私を自分達のチームに入れる事。どうやら以前私がAランクの魔物であるビッグメタルコングを単身で倒して見せた事を知り、それだけの実力の持ち主を仲間にしたら自分達のチームの戦力増強になるからと考えたかららしい。
最初にそう話し掛けて来たのは『赤き炎槍』であったが、その後に抜け駆けなどさせないと言わんばかりに『緑に烈風』が横やりを入れてきて、現在の言い争いの状況となったのである。。
「(『カオスゲート・オンライン』で冒険者として活動していた経験のある私としては、彼等の考えも分からなくはない。強い味方がいれば、その分依頼達成がし易くなったり、生存率が上がるからな)」
とはいえ、私は初めから『赤き炎槍』と『緑の烈風』のどちらのチームにも入るつもりなどなかった。
理由は幾つもあるのだが、敢えて挙げるとすれば二つある。
一つは単純な実力差がありすぎることだ。《ステータス鑑定》で彼等のステータス情報を見る限りでは、全ステータスが千前後とそこらの一般的な冒険者と比べれば遥かに高く、確かにこの交易都市ライファで有名になれるだけの実力を持っている事が分かる。
だがしかし、私からすればその程度ではさして強いと思えるモノではない。千前後なんて数値は、『カオスゲート・オンライン』の常識でも、精々初心者の領域を脱却したという程度の扱いをされるモノであったからだ。それに五万前後もある私の素のステータスと比べてもその差は圧倒的であり、もし戦闘の際に私が力の加減を間違えでもしたら、余波だけでも彼等を殺してしまいかねない。そう考えると彼等とチームを組むのは私にとってはデメリットしかない。
そしてもう一つの理由が、私が今弟子として鍛えつつ面倒を見ているアルクとクーリィの存在であった。
『赤き炎槍』と『緑の烈風』が求めているのは飽くまで私という即戦力。未だ見習い冒険者でしかない二人を邪魔者扱いをして、最悪排斥しようとする可能性もある。
・・・まあ、そういった事をする輩であるのならチームに入るどころか、逆に再起不能になるまで徹底的に壊滅させるつもりであったが。
「(ともあれ、まずはこの無駄な言い争いを止めないとな・・・)」
内心で物騒な事を考えながらも、今はこの場を納めることが優先だろうと考えた私は彼等に声を掛けようとする。
だが、事態は私にとって予想外の方向へと向かおうとしていた。
「よぉし!ならば、どっちが彼女を仲間にするのに相応しいチームか勝負しようじゃないか!」
「いいだろう!その提案に乗ってやろうじゃないか!」
「・・・・・・・・・えっ?」
『赤き炎槍』と『緑の烈風』による私を賭けての勝負が今ここに始まろうとしていた!
・・・ただし、賭けの景品として扱われる羽目になった私の意思を無視してであったが。
「いや・・・いやいやいや!?ちょっと待てお前ら!?何を勝手に・・・!」
「見ていてくれよ、フェルヌスさん!俺達『赤き炎槍』が見事に勝利して、絶対にアンタを仲間に入れてみせるからな!」
「それは俺等のセリフだぜ、炎槍の!待っていてくれよ、フェルヌスさん!俺等『緑の烈風』が、華麗に勝利を決めて見せるからな!」
「いや、だから私は仲間になるだなんて一言も・・・!?―――駄目だコイツ等、こっちの話をまるで聞いていない!?」
何を勝手な事を、と『赤き炎槍』と『緑の烈風』の二つのチームに文句を言おうとする私であったが、しかし話を聞こうとしない―――というより、自分達の世界に浸っているが故に聞こえていない様子の彼等を見て思わず愕然とした。
「(ふん・・・!お前達に彼女を奪われてなるものか!彼女を仲間にするのは俺達だ・・・!)」
『赤き炎槍』のリーダーであるダルジリスは、『緑の烈風』のリーダーであるガイオンと睨み合いながら、内心でそんな事を思う。
彼がフェルヌスと言う人物の事を知ったのは、数ヶ月前から起こっていた行方不明事件の調査を終え、交易都市ライファに戻って来てから少ししての事であった。初めは冒険者ギルドで広まって来ていた彼女の噂―――幾つもの依頼を同時進行で達成したり、短期間でランクをBにまで上げたり、更には脅威度Aランクの魔物であるビッグメタルコングと戦って勝利するなどを聞いて、随分と法螺を吹くものだと思った。
だが実際にその当人を目にした時、それが嘘偽りではなさそうだとダルジリスは判断した。
どうして彼がそう判断したのかと言えば、その理由は彼の右目にあった。
『解析の魔眼』。瞳に捉えた対象の情報を読み取る力を持つという能力を持つ魔眼であり、その目によってダルジリスはありとあらゆる人物や魔物の強さを読み取ったり、武器やアイテムの性能、効果を判別することができた。
そして当然その魔眼の力はフェルヌスにも向けられたわけなのだが・・・・・・その結果は”エラー”―――情報を読み取ることが出来ないというものであった。
ダルジリスのこれまでの人生の中で、この”エラー”が確認されたのは今回の件を抜けば過去に二回確認されている。
一つは所々錆びつき、古ぼけた武器を解析しようとした時だ。その時は”エラー”が出たそれを、そこらの廃材屋にでも売ろうとしたのだが、その際に出会ったとある英雄に持たせてみた途端、その武器の姿が新品同様の姿に代わり、後にそれがとある国の伝承に語られていた伝説の武器であったと分かった時には度肝を抜かされた。
その後に再び『解析の魔眼』で見てみると普通に解析出来たので、おそらく封印や隠蔽と言ったモノが掛けられていると”エラー”が起こるのだと分かった。
そしてもう一つは強大な力を持つ魔物に出会った時だ。一番初めは頭が獅子、胴体が虎、下半身が山羊、尻尾が蛇の頭という複数の動物の体を合わせた姿を持つ『キメラビースト』と呼ばれる脅威度Bランクの魔物と相対した時であり、その際に分かったのは名前だけで、持っている力や能力などは何も分からなかった。
しかしその数年後、初めて会った時よりも強くなってから再びそのキメラビーストに出会うと”エラー”が起こることなく普通に持っている力や能力を見ることが出来たので、おそらく自身の実力以上の存在の情報を読み取ることが出来ないのだと理解した。
そして話は戻ってフェルヌスの件に関してだが、初めダルジリスは彼女に掛かっている隠蔽効果のせいで情報を読み取ることが出来ない事に気付いて《看破》―――”隠蔽効果を無効化する”という特技を使って隠蔽効果を無効化して彼女の持っている力や能力を読み取ろうとした。
・・・だが、そこでまたもや”エラー”が発生した。
隠蔽効果を無効化したのに”エラー”が発生したという事はつまり、フェルヌスの実力がダルジリスよりも上である事の証明に他ならない。
見た目十代前半の少女が自身よりも強者であるという事を知ったダルジリスは、最初は驚き困惑したが、しかしその後でそれ程の実力者を仲間に引き入れれば自分達のチームはもっと高みへ、もしかしたらAランクよりもさらに上へ行けるのではないかと考えた彼は、仲間と相談してフェルヌスを仲間に誘う事を決めた。
これが『赤き炎槍』がフェルヌスに声を掛けてきた経緯である。
「(彼女に関する噂の中には、たった一人でAからCランクの魔物を百以上仕留めたというものがあり、そのほとんどが拳や剣による傷が付けられていたという・・・・・・それが本当だとすれば、彼女の近接戦闘能力は相当なモノだ・・・!近接戦を主体とする俺達『赤き炎槍』からすれば、是非とも仲間になって貰いたいと思える程の・・・!)」
内心でそう思いながら、『緑の烈風』の面々にギラリッ!という音が鳴りそうな睨みを効かせるダルジリスと『赤き炎槍』のチームメンバー。
その目はまさに、獲物を横取りされては堪らないという狼の如き鋭いモノであった。
「(おうおう、なんて鋭い目を向けて来やがるんだ、アイツ等は!・・・まあ、それで怯む俺達じゃないがな・・・!)」
その鋭い視線を真正面から受ける『緑の烈風』と、そのリーダーであるガイオン。
実は彼等―――というかガイオンがフェルヌスに声を掛けて来た理由もまた、『赤き炎槍』と似たような経緯であったりする。
ガイオンがフェルヌスの事を知ったのはダルジリス達とほぼ同時期。行方不明事件の調査を終えて交易都市ライファに戻って来た時であった。
ダルジリスが聞いた噂と同じものを耳にしたガイオンは、真偽を確かめる為にチームの仲間と共に情報収集を行った。斥候を得意としているのは伊達ではなく、ダルジリスの『解析の魔眼』の様な力を持たずともその高い情報収集能力によって彼等は噂が真実であるという事を突きとめた。
そしてガイオン達は思ったのだ。”フェルヌスの様な戦闘能力の高い人物が仲間になってくれたらな”と。
彼等がそう思ったのは、『緑の烈風』に所属しているメンバーは一人一人が調査能力や情報収集能力、斥候などに関しては高い才能を持っていたが、その反面戦闘能力が低いという悩みがあったからだ。
ある程度の戦闘センスこそありはしたが、正直言ってそんなものは強敵相手には簡単に蹴散らされる程度でしかなく、だからこそ『緑の烈風』の面々は、困難という障害を突破出来るだけの力の持ち主を求めた。
フェルヌスを仲間に入れたいと思ったのも彼女が丁度その条件を満たしていたからだ。
「(彼女が仲間になってくれれば、今まで失敗する確率が高くて諦めるしかなかった依頼が受けられる様になるかもしれない。そうなればBランクから上がらない現在の停滞した状態から抜け出せるかもしれない・・・!)」
Bランクとなって早五年。そろそろ上のランクに上がりたいと思っていたガイオン達にとって、フェルヌスの様な人物が現れたのはまさしく大きなチャンスと言えた。
だが実を言うと、『赤き炎槍』と『緑の烈風』の両チームが実力という点以外でフェルヌスを仲間にしたい理由がもう一つあった。
「(それに何より・・・!)」
「(そう、何より・・・!)」
『(是非とも仲良くなって、彼女の様な美人と恋人の関係になりたい・・・!!)』
頬を薄っすらと赤く染め、少々鼻息を荒くしながらそんな事を思う男達。
どうして彼等がそんな事を思うのかと言えば、その理由は冒険者の男女比が関係していた。
現在確認されている冒険者の男女比は男性が九割、女性が一割とかなり偏っており、女性冒険者との出会いを求めたとしても、そもそも存在自体もそうだが出会う事もかなり稀。一般の人々との出会いもあるにはあるが、冒険者という職業は基本的にその日暮らしの者が多く、生活の安定性や将来性等が見出だせない為に、こちらも付き合おうとする者はかなり少ない。
だからこそ、彼等が希少な女性冒険者であるフェルヌスを仲間にしたがるのも、戦闘能力もそうだが彼女と男女の仲になりたいと思っている部分が半ばあったからである。
「(謂わばこれは男と男の勝負であると同時に、どれだけ男として優秀なのかを彼女にアピールする戦い・・・!)」
「(チーム内対抗戦も控えてはいるが、今は取り敢えず他の奴等に奪われない様にするのが先決・・・!仲間内での戦いはその後だ・・・!!)」
『(彼女と付き合う男はこの俺だ!他の奴にみすみす渡してなるものか!!)』
ゴゴゴゴゴッ・・・!と男達の間に渦巻くピンク色が混じった闘気。
今まさに、一人の女を賭けた男達の戦いが始まろうとしていた。
・・・まあ、何時の間にか彼等の勝負の景品にされてしまったフェルヌスからすれば、勝手な事を抜かすなと文句を言いたくなるものではあったが。
「それで、勝負内容な何にするつもりだ、炎槍の?」
「勝負のお題はこれだ!この依頼を先に達成した奴の勝ちと言うのはどうだ?」
ダルジリスはそう言いながら、クエストボードから取り外した一枚の依頼書をガイオンに見せた。
「依頼難易度はBランク。内容は指定された魔物の討伐とその魔物から取れる素材の回収及び納品。成功報酬は総額二十ギル。一人頭五ギルだな。これでどうだ?」
「ああ、いいぜ・・・!そこそこ上手い報酬だし、その勝負に俺達は乗るぜ・・・!」
ダルジリスの提案に『緑の烈風』の面々は互いに目を合わせて頷き、ガイオンが代表して勝負を受けると答える。
だが、実は一つだけ気になっていることがあった。
「―――たださ。一つ気になっているんだが・・・・・・なんかその依頼書そこそこ色褪せてないか?」
「うん?まあ、そりゃそうだろうな。何せ半年前から張り出されていたモノだからな、これ」
「え!?そんなに前からあった奴なのか・・・!てことはそれ、”塩漬け依頼”か・・・!?」
少しだけ驚きに目を見張るガイオン。
彼の言った”塩漬け依頼”とは冒険者の間で使われる別名であり、本来の呼び名は『長期間未達成依頼』。依頼内容と報酬が釣り合わなくて受ける者がいなかったり、または受けたものの失敗するなどして結果的に長期間放っておかれてしまっている依頼がこれに当たる。
「というか、何でそんな単純な依頼が残っているんだ?報酬も良いし、既に誰かが達成していてもおかしくないと思うんだが・・・?」
「悪いが、それに関しては俺も知らん。何せ他の依頼書の下に隠れてあったのを、ついさっき見つけたやつだからな」
「―――それについては私が説明しましょう」
「うおっ!?シ、シャーラちゃん・・・!?」
なんでそんな依頼が残っているのかとガイオンが不思議そうに首を傾げていると、そこへ冒険者ギルドの制服を着た、そこそこ長い茶髪の髪を銀輪の髪飾りでポニーテールに纏めた、見た目二十代前半の可愛らしい顔立ちをした普人族の女性―――シャーラが『赤き炎槍』と『緑の烈風』の間に挟まる様に姿を現した。
突然目の前に現れた彼女に驚いた『赤き炎槍』と『緑の烈風』の面々は、思わずといった風にそれぞれ半歩後ろに下がった。
まさかこの交易都市ライファの冒険者ギルドの”人気受付嬢”が音も無く自分達の目の前に現れるだなんて全く思っていなかったからだ。
実はシャーラは冒険者達―――特に男性陣の間ではかなり人気のある人物であった。容姿の良さもそうだが、誰に対しても礼儀正しく親身に接してくれる人柄が彼等の癒しを求める心をクリーンヒットし、冒険者達の間では一種のアイドル、もしくは看板娘として扱われているのである。
「(あ、あのシャーラちゃんがこんな、俺のすぐ目の前に・・・!?)」
「(な、なんたる僥倖・・・!よ、よし!この機会に彼女とも仲良く―――ハッ!?)」
故に彼女とお近づきになろうとする男性冒険者は後を絶たず、それは当然彼女を間に挟めている『赤い炎槍』と『緑の烈風』もそうだった。
だがしかし、そんなことを彼等が許すわけが無かった。
「(こ、これは殺気・・・!?いや、それ以外にも嫉妬や憎悪が冒険者ギルドの至る所から感じられるぞ・・・!)」
「(くっ!これは『SFK』の連中のモノか・・・!何というプレッシャーだ・・・!?)」
『SFK』とは、正式名称を『シャーラちゃんファンクラブ』と言い、冒険者ギルドの受付嬢であるシャーラとの交流や、彼女に癒されることを目的とした男性冒険者達の集まりである。
この『SFK』に所属している冒険者達の大半は、当然シャーラの事を恋愛対象として見てはいるのだが、同時に鉄の掟の様なモノがあり、彼女に迷惑を掛けたり、または付き合おうとして抜け駆けをする者が現れた場合、粛清の名の下にファンクラブに所属している冒険者達による袋叩きが行われる。
まあ、粛清される基準としては一般常識及びモラル的な意味でアウトだと判定された場合のみであり、それ以外では注意をするだけに留められているが。
だからこそ、結果的に抜け駆けする形となってしまった『赤き炎槍』と『緑の烈風』の八人の男達に、彼等『SFK』の殺気と嫉妬と憎悪が入り混じった視線が降り注がれていた訳である。
「(グッ・・・!?分かる・・・分かるぞ・・・!無言で視線を送るアイツ等の言いたいことが・・・!!)」
「(こいつはあれだな・・・!”他の女に粉を掛けておいて、シャーラちゃんにまで手を出そうとするのか、この野郎共・・・!!”っていう視線だな、こりゃ・・・!?)」
重苦しいほど暗雲とした圧を感じた『赤い炎槍』と『緑の烈風』の面々は口を閉ざし、緊張からか指の一本すら動かせなくなった。
「皆さん、どうしたんですか?急に黙り込んでしまって・・・?」
「い、いや・・・!?な、何でもない・・・!なんでもないぞ、シャーラ・・・!!」
「そ、そうそう・・・!気にしなくていいから・・・!!」
自身が声を掛けた瞬間、何故かそんな状態となった『赤き炎槍』と『緑の烈風』の姿を見て不思議そうに首を傾げるシャーラ。
そんな彼女に対し、『赤き炎槍』と『緑の烈風』の面々は周囲から剣呑とした視線を向けられながらも、誤魔化す様に大丈夫だと答える。
それを聞いたシャーラは、ツイッと周囲に視線を向けた後に「そうですか?ならいいんですけど」と一先ずの納得を見せた。
「そ、それで、この依頼が塩漬け依頼になってしまっている理由を説明すると言っていたようだが・・・?」
「あ、はい。・・・実はその依頼なんですけど、依頼主が貴族なのが問題なんですよ」
「・・・?貴族が依頼主だなんて、別に不思議な話じゃないだろう?」
「この都市にも貴族は何人もいるし」と言うダルジリスの言葉に、シャーラは「その通りなのですが・・・」と呟きつつ、一体何が問題なのかを話し始めた。
「問題視しているのは、この依頼を出したのがこのライファ領の貴族ではないからなんですよ。しかも他の町の冒険者ギルドを経由してではなく、此処へ直接にです」
「はっ?わざわざ別の領地の貴族が依頼して来たってのか?そいつは不思議な話だな・・・」
シャーラを除いたその場にいた全員が不思議そうに首を傾げる。
ちなみに、その中の一人であるフェルヌスは別の意味で首を傾げていたが。
「一応話を聞いていたが、一体何が不思議なんだ?」
今まで蚊帳の外的な立場に置かれていたフェルヌスだったが、今なら話を聞いてくれるかもしれないと思ったのだろう。加えて、どうして依頼主がライファ領の外の貴族である事がそんなに不思議なのか分からなかったのもあり、とりあえず聞いてみようと彼女は声を掛けてみた。
「俺らが不思議に思っていたのは、別の領に住んでいる貴族がワザワザ此処に―――この町の冒険者ギルドに来て依頼を出したって点なんだよ」
「冒険者ギルドは様々な国、様々な町にその支部を置いているんだが、この『アルゴノブル王国』では国の方針で一つの領に冒険者ギルドの支部を最低一つ置く形を取っているんだ。だから他の領の冒険者ギルドに依頼を出すのなら、自分達の領にある冒険者ギルドを経由させて張り出せばいい筈なんだよ。それなのにわざわざ来るだなんて何を考えているんだか・・・」
「ふむ、なるほど。それなら確かに不思議に思うな・・・・・・」
その問い掛けに対して彼等は一度目を合わせた後、どうして自分達が不思議に思っていたのかの理由をフェルヌスに話し、それを聞いた彼女は確かに不思議な話だなと納得する様に頷いた。
「もう一つ情報を付け加えるのなら、この依頼を出したのは此処ライファ領と北西で隣接しているサーポルベント領の貴族ですよ」
「げっ!?それマジか・・・!?」
そして続くように語られたシャーラのその言葉にダルジリスとガイオンとその仲間達は驚き、揃ってとても嫌そうな顔をした。
そんな彼等の反応を見たフェルヌスは、おや?と首を傾げた。
「・・・?依頼主に何か問題でもあるのか・・・?」
「いや、問題も何も・・・って、そうか。フェルヌスさんはこの町に来てまだ日が浅いんでしたっけ。なら知らないのも無理ないですね。・・・実は私達が今いる此処ライファ領と、隣り合っているサーポルベント領は昔から確執がある犬猿の仲なんですよ」
「しかも、年に一回は確実に小競り合いが起きるんだぜ。向こうから攻めてくる形でだ」
「えっと、そんなに仲が悪いのか・・・?」
「仲が悪いと言うよりも、サーポルベント領を治めている領主がウチの領主様の事を一方的に敵視している形だな。何でも昔、とある戦場で色々あって以来ずっといちゃもんを付けられているらしいぜ?」
やれやれと肩を竦め、首を横に振りながらそう語るガイオンに、フェルヌスは思わず「おいおい・・・」と呆れた様な声を零した。
「だが、それなら私達冒険者は関係ないんじゃないか?敵視されているのはライファ領の領主なんだろう?」
「まあ、そうなんだが・・・俺達が嫌な顔をしたのは別の理由からなんだよ・・・」
ダルジリスは片手で自分の頭を掻きながら、はぁ・・・と溜息を吐く。
「サーポルベント領の貴族ってのは、アルゴノブル王国にいる貴族達の中でもかなりプライドの高い連中の一角でな。基本的に王族や貴族以外の連中を見下してやがるんだ」
「その無駄に高いプライドのせいで起こした事件はそれなりに多く、それによって冒険者ギルド及びそこに所属している冒険者達―――つまり俺達にも被害が及んだこともある。さらに言えば、その起こした事件の罪を何の関係もない一般市民や冒険者に擦り付けた事もあって、サーポルベント領の貴族は俺等の業界じゃ蜥蜴の如く嫌われているんだよ」
「・・・とまあ、そう言う事情もあって、この町の冒険者達は誰もこの依頼を受けようとせず、結果的に半年も放っておかれていたんです」
「なるほど。そう言う事か・・・」
フェルヌスは納得した様に頷く。その顔にはサーポルベント領の貴族に対して「しょうもない連中だな」と言いたそうな、呆れている様な表情を浮かべていた。
「ってぇことは、この依頼は受けない方がいいってことか・・・」
「だな。何癖付けられるのも面倒くせぇし、それに半年も誰も受けていないんだから、ここに来た連中もさすがに自分達の領地に帰っているだろう」
苦笑いしながらそう言うガイオンだったがしかし、それを否定するようにシャーラが困り顔を浮かべながら首を横に振った。
「その事なんですが・・・・・・実はまだいるんですよねぇ、その人達」
「・・・は?えっ!?マジかそれ!?」
「マジです。半年もの間ずっと貴族御用達の宿に泊まってこの都市に留まっているんですよ。それにここ最近は誰も依頼を受けようとしないのを見てイラついているのか、都市の住人に八つ当たりをしている様子も見られていますし・・・」
「なんだそりゃ・・・私兵団の連中は取締りに動いたりしていないのかよ?」
ガイオンが口にした私兵団とは、ライファ領を治めるライファ辺境伯家に仕える騎士の集団の事だ。主な活動はライファ領内の治安維持であるが、時には冒険者と協力して盗賊及び魔物退治に参加する事もある。
ちなみに、創作物等では騎士よりも冒険者の方が強いという描写で書かれる物語がよくあるが、この世界では逆に基本的には冒険者よりも騎士の方が強い。その理由はしっかりと体を鍛えているのでステータスの平均がそこらの冒険者よりも高いからだ。
以前説明した事であるが、『カオスゲート・オンライン』と酷似しているこの世界では鍛えたら鍛えた分だけステータスが上昇する。勿論上がった分だけ上昇量も少なくなっていき、間隔も長くなるのだが、それでも碌に鍛えていない者達に比べたらその強さの差は一目瞭然だ。
それを理解していたからこそ、ガイオンは不思議そうに首を傾げながらそう質問したのだが、それに対するシャーラの返答は困ったと言いたげなものであった。
「それが・・・彼等としても相手が貴族だという事と、まだ領主様が領地の見回りから戻って来ていない為に許可が下りなくて、動きたくても動けないんだそうです。本音としては、とっとと捕まえて領地に送り返したいんだとは言っていましたけど・・・」
「あ~・・・なるほどなぁ。領主様に仕えている手前、アイツ等としても貴族が相手じゃ勝手なことをする訳にはいかないのか」
乱暴狼藉を働いているとは言え、貴族―――それも敵意を示している者達を捕えたりした場合、抗議と言う名の難癖を付けられる可能性がある。碌でもない貴族であれば、それを”相手を攻める口実”に使って戦争を吹っ掛けてくる可能性があり、そして件のサーポルベント領の貴族はその碌でもない貴族に当たる。
仕えている領主が不在の状況で勝手にそんな事を起こすわけにもいかないと、彼等が二の足を踏むのも頷けるとガイオンは溜め息を吐いた。
「その通りなんです。―――そこで話は戻るのですが、皆さんはこの依頼を受けてくれるんですよね?私、この耳でちゃんと聞きましたよ?」
そしてそれに同意する様に頷くシャーラであったが、しかしその後で何故か彼女はいい笑顔を浮かべながらズイッと前に一歩進み出た。
「しゃ、シャーラちゃん・・・!?」
「えっ、ちょっ、なんか雰囲気が怖いんだが・・・!?」
『赤き炎槍』と『緑の烈風』の面々はシャーラから滲み出る異様な雰囲気を感じ、ザッと思わず一歩下がる。
「実は、先程の話に出ていたサーポルベント領の貴族が起こした騒動に対する苦情が依頼としてこの冒険者ギルドに届いているんですよね。―――百近い数が」
「百っ・・・!?え、なに、ソイツ等そんなに問題起こしているのかよ・・・!?」
「ええ、ええ、そりゃもう好き勝手暴れてましてね・・・!無銭飲食はするわ、都市の住民の持ち物を奪ったりするわ、挙句の果てには強姦未遂事件まで起こしているんですよ、あの人達は・・・!完全に八つ当たりの範疇を超えてますよ、あれは・・・!!!」
憤慨し、頬を膨らませるシャーラ。その額には青筋が幾つも浮き出ているのが見え、本気で怒っている様子が伺える。
ちなみに一番最後の強姦未遂事件に関しては、都市の治安維持を行っている騎士達もさすがに見過ごすわけにはいかないと、事件の犯人である貴族と数名の従者を捕まえて牢屋にブチ込んだらしい。〝口実〝という難癖を付けられる可能性がありながら、彼等が逮捕に踏み切った理由としては、被害者が身内であったという部分もあったらしいと、シャーラは当時の事情を語る。
「・・・って、依頼を出していた貴族を牢屋に入れたのか?じゃあ、この依頼は無意味になるんじゃあないのか・・・?」
「それがそうもいかないんです」
シャーラの話を聞いて、おや?と思い、首を少し傾げながら呟くダルジリス。
だが、その呟きを耳にしたシャーラが首を横に振った。
「何せその依頼を出した依頼主は複数名いまして、その内の一人は先程も言ったように捕まりましたが、他の人達がまだ残っているんです。それに加えて上層部からの圧力も掛けられているらしくて、その依頼を犯罪者から出された不当なモノとして破棄する事も出来なくて・・・・・・なので、皆さんが依頼を受けてくれると言ってくれたことは、本当に嬉しかったんですよ?」
ニッコリと輝くほどの綺麗な笑顔を見せるシャーラ。
だがしかし、その笑顔に黒いモノを感じ取った『赤き炎槍』と『緑の烈風』の面々は、全員が顔中に脂汗を滲ませ、頬を引き攣らせた。
「い、いや、俺達はこの依頼を辞た―――」
「―――受けてくれるって言いましたもんね?」
嫌な予感を盛大に感じたダルジリスは反射的に依頼を辞退すると言い掛けたのだが、そこへ逃がさないとでも言いたげにガシリとシャーラが彼の腕を掴んだ。
「うふふふ・・・!もしこの依頼を辞退するなんて言い出したら、私は何をするか分かりませんよ?具体的な例として、今後ここで受け取れる報酬の額を半分に減らしてあげましょうか?」
「ちょっ・・・!?何だその理不尽!?」
パワハラ染みたそのセリフに思わず絶句するダルジリス。
思わず助けを求める視線を周りに飛ばすのだが、その視線を真っ向から見てくれる同業連中はおらず、ダルジリスに視線を向けられた瞬間、サッと彼等は視線を逸らして関わり合いになりたくないという感じに彼の訴えを無視した。見捨てたとも言う。
それを理解したダルジリスと『赤き炎槍』のメンバーはガックリと肩を落とした。
「よし。頑張れよ、炎槍の。俺達はちょっと買い物に行ってく―――」
「もちろん『緑の烈風』の皆さんも受けてくれるんですよね?」
「―――から・・・って、俺達もなのか!?」
目の前の光景を見て、これは逃げるべきだと判断したのだろう。自然な流れでその場を退出しようとしたガイオンと『緑の烈風』のメンバー達だったが、しかし鋭く目を光らせたシャーラがそれを見逃す筈もなく、彼等もまた当然の様に参加だという言外の決定事項を彼女は告げた。
「ダルジリスさん達と口論をしている時に勝負を受けると言っていたじゃないですか」
「た、確かに言ったけど・・・!?」
「という事は、依頼達成に協力してくれるという事で良いんですよね?」
ニィッコリと笑みを浮かべながらそう問い掛けるシャーラ。
だがその全く笑っていないその瞳は、「それとも、貴方達もダルジリスさん達と同じ目に―――いや、それ以上の目に遭いたいんですか?」と言っているようにも感じられ、それを察したガイオン達もまたガックリと肩を落とした。
「あ~・・・じゃあ、まあ、私は帰らせてもらうぞ?」
そこでフェルヌスがそう言いながら踵を返す。
目の前の光景を見てガイオンと同じ考えに至ったのだろう。「元々自分は、彼等のいざこざとは何の関係もないのだし」と言いつつ、他人事のようにその場から立ち去ろうとしたのだが―――
「あっ、フェルヌスさんも一緒にお願いしますね」
「何故に・・・!?」
だがしかし、そうは問屋をシャーラが下ろさせはしなかった。
彼女はフェルヌスの肩をガシッと掴むと、ズモモモモ・・・!と何処か凄みのある笑顔を浮かべながら顔を寄せてくる。
「彼等が依頼中に逃げ出したりしない様に監視役をお願いしますね?」
「待て、待て待て待て・・・!まだ私は受けるとは・・・!?」
「ちなみにこれはギルドからの指名依頼です♪」
「いやいやいや、一職員である君にそんな権限ある筈ないだろう・・・!?」
「それについては問題ありません。この件に関する一切の裁量権をギルドマスターから頂いておりますので。そう言う訳で、この依頼を拒否した場合はそれなりに重い罰則を与えることになりますが、フェルヌスさんはよろしいんでしょうか?」
「・・・・・・・・・」
表面上は先程までよりも更に輝いて見えるシャーラの笑顔。だが、その身に纏う雰囲気は反比例する様に黒さを増していた。
そしてそんな彼女の様子を見たフェルヌスは、「あ、これ拒否られない奴だ」と察し、彼女もまた男達と同様にガックリと肩を落とすのであった。
ちなみに、シャーラに裁量権を渡していた件のギルドマスターであるモールテスはといえば、実は物陰に隠れながらフロア内の様子を伺っており、「フェルヌスさんに言うことを聞かせるなんて、シャーラ君ってば恐ろしい子・・・!?」と呟いていたとかいないとか。
ギャイギャイとした喧騒が聞こえる冒険者ギルド。それを全身をフード付きマントで覆った一人の男が光の感じられないじっとりとした瞳で眺めていた。
その手には酒精の弱い酒が入ったジョッキが握られており、残り少なくなっていたそれを一気に飲み干すと男はおもむろに立ち上がり、音もなく歩きだす。
「・・・・・・」
冒険者ギルドを出た男はしばらくの間大通りを歩き、途中で脇道へと逸れて建物と建物の間にある道―――所謂裏道を進んでいく。
曲がり角を右に左にと何度も道を曲がって行き、最終的に先程とは別の大通りに出た男は、右斜め前に存在する三階建ての大きく、豪華さを感じさせる建物を視界に納めるとそちらへ向かって歩みを進めていく。
「・・・・・・」
建物の裏へと回り、裏口の扉を開けて建物の中へと入った男は、そのまま職員用と思われる薄暗い通路を歩いていく。
そして途中にあった階段を登って行き、最上階へと到着した男はその階に存在する四つある扉の内の一つの前に立つと、警戒する様に視線を左右に向けて周囲に誰もいない事を確認した後に、コンコンコンッと扉をノックする。
「―――入れ」
扉の向こうから若い男の声が響く。
その言葉を耳にした男はガチャリと扉を開けて部屋の中に入ると、すぐさま後ろ手に扉を閉める。
部屋の中には何人もの鎧を身に纏った騎士達が立っており、その中心には大きなソファに寛ぐ様に座っている年若い貴族風の男がいた。
「・・・若君。我々が冒険者ギルドに出していた依頼について進展がありましたのでご報告に上がりました」
「・・・ほう?それはつまり、あの野蛮で粗野な冒険者共がようやく私の依頼を受けたという事でいいのだな?まったく、これ程までに待たせるとは学も身分も無い平民はこれだから・・・・・・それで?我々の依頼を受けたのはいったい何処のどいつだ?」
「はい。依頼を受けたのは『赤き炎槍』と『緑の烈風』という二組のBランク冒険者のチームとフェルヌスというCランクの女冒険者でして、彼等はこれから目標の討伐に向かうのとのことです」
跪き、年若い貴族風の男に対して頭を下げながら自身が見聞きしたことを話すマントを纏った男。
その話を薄らとした笑みを浮かべながら聞いていた若君と呼ばれた男は、二組のBランク冒険者のチームが依頼を受けたという話を聞いて一瞬笑みを深めたが、その後に続いたCランクの女冒険者も依頼を受けたという話を聞いて訝しげな様子を見せた。
「ふぅん?『赤き炎槍』と『緑の烈風』という冒険者チームの噂は私の領地でも聞いた事がある。なんでもこのライファ領ではそれなりに腕の立つ冒険者達だとな。・・・だが、そのフェルヌスという女冒険者の話は聞いた事がない。いったい何者だ?」
若君の問い掛けに、マントを纏った男は申し訳なさそうに一層頭を下げた。
「申し訳ありません。最近冒険者登録をした新人であるらしく、詳しい情報は何も・・・・・・ただ、冒険者登録をしてから一月も経たずに最低のFランクから一気にCランクへと上がっている様子を見るに優秀な人物であることは間違いないと思います。また本当かどうかは分かりませんが、単身でビッグメタルコングを討伐したという噂も流れたことがあります」
「何?あのビッグメタルコングをか?それが本当なら、実力的にはAランクを越えていることになるが・・・・・・ふむ。それ程に腕の立つ者達であればあの魔物を倒す事が出来るやもしれぬな。よしんば無理だったとしても、それなりに消耗させてくれることだろう」
片手で顎を撫で上げながらそう呟いた若君は、「・・・よし!」と一つ頷くと座っていたソファから立ち上がった。
「では、確実を期すために我々も向かうとしよう。お前達、出発の準備を始めよ!かの魔物を討ち取りに行くぞ!!」
バッと片手を振り払いながら周りにいる騎士達へと命じる若君。
その命令を聞いた騎士達は「はっ!」と応えた後に、それぞれが出発する為の荷造りを始めた。
「・・・よろしいのですか、若君?これは冒険者達の獲物を横から掠め取る様な行為。冒険者ギルドの顔に泥を塗るようなものです。下手をしたらご領地の治安に影響が出る可能性がありますが・・・」
そんな中、傍らに侍っていた騎士の一人が囁く様に若君に尋ねた。その声音からは、あまりやりたくはないという思いが感じられる。
だがそれを、若君は一笑に付した。
「はっはっはっ。おいおい、勘違いをするな。我々がこれから行うのは、愚かで弱く、無知蒙昧な民共が恐怖する存在である魔物を倒すという、謂わば貴族としての当然の義務であって、獲物を掠め取る等といった、そのような卑しい行為をするわけではない」
「ですが・・・」
「それに、そろそろ資金が心許なくなってもきていた。このライファ領に留まる為に父上に何度か金を送ってもらうよう頼んではいたが、流石にこれ以上は難しいだろう。・・・であれば、この機会に確実に成果を持って帰らなければならん。でなければ、次に何時機会が巡って来るか分かったものではないからな」
やれやれ、といった風に言いながらヒラヒラと手を振った若君は、その後でニヤリとした笑みを浮かべた。
「・・・・・・とは言え、お前の懸念も分からんわけではない。まあ、安心しろ。もしもの場合はその件の冒険者共を口封じに始末すればいい。そうすれば我等の情報が漏れることはまずないだろう。なぁに、どのみちこの領地は滅ぶ運命にあるのだ。今更一人二人殺したところで大して変わらん」
「そ、それは・・・」
話を聞いた騎士は押し黙り、冷や汗を流しながら一歩下がる。
それを目にした若君はゆっくりと、どこか楽しげに目を細めるのであった。
次回は6/6に投稿予定です。




