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【改訂版】カオスゲート・サーガ ~大魔王と勇者の冒険譚~  作者: Kudo
第3章 ~大魔王と少年と少女と~
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第3章第7話 ~ゴンゾーの宿屋の悩み事 1~

2022年7月8日に内容を修正しました。



 ある日の昼下がり。午前中の修行を終えた私、アルク、クーリィの三人は、ゴンゾーの宿屋の一階にある食事スペースの、複数置かれているテーブル席の一つに座り、本日の昼食をそれぞれ食べていた。


「うん。やっぱりここの料理はおいしい!」


「ああ、このタレの掛かった手羽先も中々だ。この鶏肉もしっかりと肉の味が引き出されていて、さらにそれを辛みのあるタレが際立たせているな」


「私、辛いのって苦手なんだけど、これなら大丈夫そう!ピリッて来る程度だし!」


 テーブルの上に置かれている料理―――特にテーブル中央にあるタレの掛かった手羽先を口にして、美味しいと言いながら笑みを浮かべる私達。


「褒めてくれてありがとう。お世辞でも嬉しいわね」


 そこへ野菜サラダが入った木製のボウルを手に持った恰幅の良い女性が嬉しそうに声を掛けてきた。

 私達に声を掛けてきたこの人物の名は『アレイシア』と言い、私とアルクが現在寝泊まりしているゴンゾーの宿屋の女将さんである。

 その性格はカラッとしており、修行で疲れたアルクとクーリィにワザワザ精が付くものを作ってくれた事もあるなど、行動で面倒見の良さを示してくれる人物である。


「お世辞なんかじゃないです!本当に美味しいです!」


「そうそう!―――というわけで女将さん。これをもうちょっとお代わりしてもいい?」


「ハハッ・・・!分かったよ。それじゃあアンタのお代わり分は、もっと大きくなれる様に沢山用意してあげるよ!」


「いや、本当にもうちょっとで良いんだけど・・・。沢山用意されても食べ切れないんだけど・・・!」


 アルクとクーリィ現在進行形で口にしている料理を美味しいと言い、二人の感想を聞いた女将さんは初めは嬉しそうに頬を緩ませるのだが、しかしその後でやっぱり彼女は表情を曇らせて、どこか気落ちした様子を見せた。


「・・・女将さん。なにか困り事でもあるのか?」


「え?あ、ああ。まあ、ちょっとねぇ・・・でも、お客さんに迷惑を掛けるような話じゃないから大丈夫だよ!」


 私が大丈夫なのかと心配そうに声を掛けると、女将さんは笑いながら片手をパタパタと振って「心配するほどの事じゃないからねぇ」と、何かを誤魔化そうとする仕草を見せる。


「そう、か?まあ、そう言うのならこれ以上の詮索はしないが・・・」


 「触れられたくない事は誰にでもあるだろうし」と私は言いながら、テーブルの上に置いていた水の入ったコップを手に持ち、口元に運んで―――


「―――ドッ、チクショウがあぁぁぁ!!」


「ゴホっ!?」


 次の瞬間、宿屋の奥にある厨房室の方から響く様に聞こえて来た、何かにイラつき、嘆く様な野太い男性の大声に驚いてむせてしまった。


「むぶぅ!?」


「うぇっ!?」


 驚いたのは私だけでなく、隣にいたアルクとクーリィもそうであった様で、特にアルクは飲み込もうとしていた食べ物を喉に詰まらせて咳き込んでいた。


「ちょ、ちょっとアンタ!いきなり何大声出してんだい!お客さんがビックリしちまっただろう!」


 宿屋の女将である女将さんもまた、私達と同様に驚いた反応を示していたが、そのすぐ後に彼女は厨房室に入っていき、そこにいた男性にそう怒鳴り返していた。


「あ、ああ。すまない。考えが煮詰まっていて、思わず声が出てしまったんだ」


「一ヶ月後の事を考えて頑張っているのは分かるけど、少し気分転換したらどうだい?」


 その後、厨房室からは一人の男性が女将さんに慰められながら出て来た。

 その男性の容姿は、筋骨隆々という表現が適切なほど男らしい肉体を持っており、その顔立もかなり彫りが深く、肉体同様に男らしいと言えるようなモノであった。


「・・・・・・はぁ」


 男性は女将さんに話し掛けられた事で一先ず落ち着いた様子を見せてはいたが、部屋の隅に置かれているテーブル席に座って溜め息を吐くその姿からは、どこか憔悴している様に見えていた。


「・・・ねぇ、女将さん。一ヶ月後に何かあるんですか?」


 そんな男性の姿を見て心配に思ったのだろう。一緒に戻ってきた女将さんにアルクはそう声を掛ける。

 男性の様子を見ながら「やれやれ・・・」と呟いていた彼女は、アルクの問い掛けに気付くとそれに答える様に口を開いた。


「この町では一ヶ月後の光の月に、毎年料理大会を開いているのさ。この辺り一帯では結構有名な大会で、時には周辺国から一流の料理人もやって来るほどの大きい大会なのよ。その大会に参加した料理人たちは己の知識と技術、そして独創性で審査員の舌を唸らせて評価を競い合い、付けられた点数が一番大きい人が優勝する、という形式になっていて、優勝した料理人は『名誉料理人』と呼ばれる称号を手に入れられるのさ!」


「『名誉料理人』ってなんですか?」


「『名誉料理人』というのは、言ってしまえば一流の料理人の中でも特に凄い料理の腕を持っている人の事を呼ぶ渾名みたいなもんさ。その称号を持っていれば、自分の作った料理をお貴族様や王族の方みたいな偉い人に出すことも出来るほどの名誉と名声を手に入れることも出来てしまえるのよ」


 そこまで誇らしそうに説明していた女将さんだったが、しかしすぐにその表情を困った風に(しか)めた。


「それで(ウチ)の旦那―――あっ、この人の事ね―――もそれに参加することになってるんだけど、大会に出せるようなインパクトのある新しい料理が作れなくて焦っているのさ」


 女将さんはそう言いつつ男性の事を指差し、音にならない溜め息を吐いた。


「ねえ、料理って新しくないと本当にダメなの?私達の食べているこの料理はこんなに美味しいんだけど?」


 クーリィが不思議そうに自分が食べている手羽先の料理を見つめながらそう言葉を零す。

 彼女の言葉を耳にした女将さんは、その表情を困ったと言いたげなモノに変えながら苦笑を浮かべた。


「どんなに美味しくても、独創性が感じられなくっちゃ認められないんだよ。この町で行われている料理大会は、元々色々な食材を使って新しい調理方法を見つけようと開いたことが始まりなのさ。その伝統に(のっと)って、既存の料理であったとしても何か一つでも独創性か、もしくは独自性が感じられる物が無ければ問答無用で失格にされちまうんだよ」


「・・・なるほどな。つまり旦那さんはそれを作ることが出来なくてあんなにイラついているのか」


 女将さんの説明にそう納得する私達。

 確かにそう言った理由であれば悩んでしまうのも分かるし、開催まで残り一ヶ月ともなれば焦ってしまうのもおかしくはないだろう。


「あの、フェルヌスさん。どうにか出来ませんか?」


 ・・・と、そこでアルクが悩む様子を見せている宿屋夫婦の姿を目にして、普段色々とお世話になっているのだから力になってあげたいとでも思ったのだろう。薄らと瞳を潤ませながら私の事を見上げてきた。

 多分、二人の悩みを解決出きるのはこの場では私くらいだろうと考え、無意識に頼っての行動だろう。ついでに言えば、その横でクーリィも同じように私の事を見上げていた。

 そんな二人の姿を見て、思わず保護欲が湧いてと言うべきか、それとも幼さ特有の可愛さに当てられてと言うべきなのか、私は「うぐぅっ・・・!?」という呻き声を上げながら胸を押さえる。

 だがしかし、そのまま絆されて流される程、私はチョロい女ではなかった。


「そ、そんなことを言われてもな・・・!?私は別に料理人と言う訳ではないから、口出しなんて出来ないぞ・・・!」


 言外に自分には無理だと否定の言葉を話す私であったが、しかし二人は―――特にアルクは「そんな筈はない!」と私の言葉を更に否定した。


「だって、あの『始まりの森』で作ってくれた『しちゅー』とか『こーんすーぷ』とかは本当に美味しかったから。そんなものが作れるフェルヌスさんならどうにか出来るって、僕は信じてます・・・!」


「えっ?師匠って、そんなに料理上手なの?」


「うん。そうだよ、クーリィ。出来ればまた食べたいなぁって思うくらいに美味しかったよ!」


「いや待て二人共。あれは飽く迄家庭料理であって、料理屋で出せるような代物では―――」


「―――君達。少しいいだろうか?ちょっと聞きたいことがあるんだが・・・・・・」


 アルク達からの相談をさすがに無理が過ぎるとして話を終わらせようとした私であったが、何時の間にか三人の話を聞く為に傍に来ていた男性が声を掛けてきた。


「盗み聞きをするつもりはなかったんだが、君達の話を聞いていてな。君達の話に出ていたその『しちゅー』と『こーんすーぷ』と言うのはどんな料理なんだ?」


「え、えっと・・・」


「ああ、きちんと名前を言っていなかったな。私は『ゴンゾー』。この宿屋の主人だ」


 宿屋の主人であるゴンゾー―――旦那さんは私達に自身の名前を名乗ると、「それで料理の話なんだが・・・?」と再び問い掛けて来る。


「えっと。僕も食べただけでどういった料理なのかまでは・・・その料理を作ってくれたのもフェルヌスさんですし・・・・・・」


「(待て。今このタイミングで私に話を振ってくれるなアルク!そんなことをすれば・・・!?)」


そう言いながらアルクの視線は私へと向けられ、それを追って旦那さんの瞳もまた動く。

 その時点で私は嫌な予感を感じて―――


「・・・ほう、君が作った料理なのか。ならお願いだ!是非ともその料理の事を詳しく教えてくれ!」


「(・・・ほぅら、こんな事になった)」


 ―――そして料理を教えてくれと頼み込んで来る旦那さんの姿を見て、内心でやっぱりか・・・!と言う様に肩を落とした。


「えっと・・・旦那さんが焦る気持ちも分からなくはない。だが、私の作れる物はアルクにも言った様に精々家庭料理の類であって、客に出せるほどの代物ではないんだぞ?」


 とりあえず、私は軽い興奮状態になっている旦那さんを落ち着かせようとそう話し掛けるのだが―――


「それでも構わない!新しい料理の作る閃きの切っ掛けになるのなら・・・!」


 逆に、より興奮してグワッ!と詰め寄って来たのを見て、「あ、これは無理そうだな」と悟った。


「お客さん、アタシからもお願いするよ。何時までも悩み込んでいる旦那の姿を見るのは、アタシもいい加減辛くなってきてねぇ・・・」


「フェルヌスさん!僕からもお願いします!」


「師匠!私からもお願い!」


 しかも女将さんとアルクとクーリィの三人までもが頭を下げてくる始末。

 そんな状況に、なんだか断り辛い雰囲気になって来たなと思った私は少しの間葛藤し、それから半ばヤケクソ気味な声を出して頷いた。


「~~~~~~ッ!?・・・ああ、もう、分かった!分かったよ!家庭料理程度の代物で良ければ教えるから!!」


「おお、そうか!感謝する!ありがとう。本当にありがとう!」


「お、おおぅ・・・!?」


 頷く私の姿を見た旦那さんは嬉しそうな笑みを浮かべつつ、私の両手を握ってブンブンと勢いよく上下に振るう。

 その勢いに私は思わず戸惑いの声を上げる。・・・というか、その上下運動に私の体が思いっきり引き摺られてしまっていたので、そんな反応しか返せなかったのだ。

なにせ旦那さんの体格は私より二倍以上も大きいし、体重差も相応にある。どれだけ私の方が彼よりも力があろうとも、慣性の法則までは無視出来なかったのである。


「それではさっそく厨房に来てくれ!そして早く俺に新しい料理を教えてくれ!」


「ま、待て!待って、旦那さん!作り方教える前に材料を揃える方が先だから!」


「そうだよ、アンタ!嬉しいのは分かったから少し落ち着きな!」


「うっ・・・!?す、すまない・・・」


 新しい料理を知ることが出来る嬉しさに興奮して、そのまま私を厨房室へ引き摺って行こうとする旦那さんであったが、そんな彼に向けて私と女将さんが落ち着くように言うと、急ぎ過ぎた様だということに気付いたらしく立ち止まってくれた。


「そ、それで?君の作った料理に必要な材料は一体何なんだ!?」


 掴んでいた私の手を離した後で、こちら向かって振り返りながら再びグワッ!と詰め寄る旦那さん。

 それに対してフ私は「近い近い近い・・・!」と両掌を前に出す。


「教えるから。教えるから顔を近づけないで!まず離れて!・・・・・・ゴホン。えー・・・シチューを作る為に必要な材料は『ポルテト(ジャガイモ)』、『キャロ(人参)』、『ティマネ(ティマネ)』、『肉』、『ソルゥト()』、『ペルパル(胡椒)』『食用油』、『バゥタ(バター)』、『フォロ(薄力粉)』、『動物の乳』、『水』、『コンソメ』だ」


 旦那さんに頼んで羊皮紙を用意して貰った後、その羊皮紙にシチューを作るのに必要な材料を私は書いて行く。

 食材の呼称はゲームのそれと同じ様であるので、持っている知識を活用出来るこの状況は結構ありがたく思っていた。少なくともこの世界で生活をする分には何の支障もないので。


「それでアルクとクーリィには今書いた材料の内、ソルゥト()ペルパル(胡椒)、食用油、コンソメ以外のこの丸が付けられた物を買って来て貰いたんだが、頼めるか?」


「うん!分かりました!」


「はーい!任せておいてよ師匠!」


「アタシも行くよ。この時間帯だと良い食材ってのは少なくなっているからね。目利きなら任せな!」


「ではお願いします、女将さん」


 私から材料が書かれた羊皮紙を受け取ったアルク達は、宿屋を出ると町の食材市場へと向かっていった。

 そして彼等を見送った後、フゥと息を軽く吐いた私はクルリと踵を返すと旦那さんへ振り返った。


「それでは私達は、彼らが帰ってくるまでの間に自分達のやるべきことをやるとしよう。まずは、シチューを作る為の下地となるコンソメ作りから始める」


「おう!よろしく頼むぜ、フェルヌスさん!」


 私のその言葉に、待ってましたと言いたげな返事を元気よく返す旦那さん。

 鼻息を荒くして今か今かと待ちわびているような彼の姿を目にした私は、なんだか餌を前に待てをされた犬―――と言うよりも、なんだか涎をダラダラと溢している肉食獣の様に見えてちょっと引きつつ、内心で「なんだかなぁ・・・」という苦笑を漏らすのであった。






次回投稿は5/11です。

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