第3章閑話 ~暗躍?する大魔王~
2022年7月8日に内容を修正しました。
細長い三日月が夜空に昇り、黄色い光が優しく大地を照らしている深夜の時間帯。多くの生物が寝息を立て、活動しているのは精々夜行性の動物くらいであろうその時間帯に、交易都市ライファの北東部の住宅街の一角に存在する集団墓地内にて、私こと『フェルヌス・クディア』はとある儀式を行おうとしていた。
「〝暗黒の雫より生まれし闇の同胞よ。欲望を是とし、絶望を好む闇の使徒よ〝」
目を瞑りながら詠唱を行う私の眼前には巨大な魔方陣が描かれており、それは仄かに、幻想的な光を発している。
「〝我は汝との対話をを望むものであり、対価を糧に汝との契約を望む者である〝」
朗々と、穏やかに、静かに私は詠唱を唱える。
それと連動する様に魔方陣から放たれる光は明滅を繰り返し、私の薄褐色の肌を舐める様に照らす。
「〝故に、呼びかけに応じ、我が前に現れ出でよ〝―――《悪魔召喚》!」
そうして最後の詠唱文を唱え終えた後、私は魔方陣の中に一滴の血を垂らし、発動に必要な魔力を注ぎ込んで魔技発動の宣言をする。
その瞬間、魔方陣から放たれる光が一変して紫色へと変化し、その輝きは先程までとは比べ物にならないほど強くなった。
「《悪魔召喚》の儀式に応じ、参上した。我らを呼び出せしは汝か?」
紫色の強い輝きを放つ魔方陣。そしてそんな状態の魔方陣の中から二つの人影の様なモノがゆっくりと、迫り上がる様にして現れた。
「我が名は『ガルギゴイル』。公爵級悪魔の中でも随一の力を持つ大悪魔である」
私から見て左の人影―――ガルギゴイルと名乗ったその悪魔は、魔方陣の上で膝立ちの状態から立ち上がり、その全容を顕にした。
身長は見た目一八◯cm程、体全体が骨の様な白い外骨格に覆われ、その下にはまるで筋繊維そのものが露出しているかの様な見た目の赤色の肉体が脈動している。
顔の部分もまたその大半が頭蓋骨の様な外骨格に覆われており、左右の側頭部辺りからはまるでドリルの様にグルグルと捻じれた、太く長い日本の角が上に向かって伸びていた。
「同じく、公爵級悪魔『ウルマティ』。技の技量に関しては悪魔一を名乗れる程の技巧の使い手である大悪魔です」
ガルギゴイルに続くように立ち上がりながら名乗ったのは、私から見て右側の人影。
ウルマティと名乗るその悪魔の見た目は、身長一六〇cm前後の青白い肌と豊満な肉体を持った女性であり、後ろ腰より少し上辺りからは蝙蝠の様な真っ黒い大きな翼が生えていた。
顔立ちは知的な様相―――例えるなら仕事の出来る女といった感じで、クール系美人秘書と呼ぶのが適当と思えるモノであり、腰まで届くほどの蒼い長髪がその印象を助長していた。
「召喚者よ。召喚の盟約に従い汝の望みを言え。我らがその望みを叶えてやろう」
「その代り、その望みに匹敵する対価を我らに寄越すのだ、召喚者よ。渡せぬと言うのであれば、契約不履行と見なし、その肢体を引き裂いて我らの腹に納めてくれましょう」
私に向かって交互に話し掛ける悪魔達。その表情はさして変化などありはしなかったが、自分達を呼び出したこちらをどこか見下している様な視線を向けていた。
「・・・・・・・・・」
二体の悪魔が向けてくる見下したような視線。それを真正面から受けていた私は、どうやら自分は侮られている様だと理解した。
・・・理解していたが、実を言えば彼女はそれをあまり問題視はしていなかった。目的を果たす為なら、その程度の事はどうでもいいと考えていたからだ。
今回私が行ったのは 《悪魔召喚》という儀式系の魔技であり、その名の通り悪魔種を呼び出し従える技だ。
この技の発動に必要な条件は、悪魔種のいる世界とこちらの世界を繋ぐ出入口となる魔方陣、次に召喚した悪魔を実体化させる為に必要な魔力、最後に呼び出す為の贄となる血肉の三つを用意した上で専用の詠唱を行う事。
まず第一の条件である魔方陣についてだが、これは以前『悪魔召喚事件』と呼ばれる様になった事件にて、『パンデモニウム教団』と呼ばれる組織が自分達が崇め奉る悪魔種を召喚する為に集団墓地の中に用意したモノを再利用した。
なお、どうして私がそれを流用したのかというと、それは単純に面倒臭かったからであり、正直言って一から魔方陣を書くよりも既にあるモノを幾分か書き換えて使った方が手間暇が掛からないからだ。
ちなみにだが、『悪魔召喚事件』詳細を知っている者からすればどうして事件に使われた魔方陣が残っているのかと疑問に思う者もいるだろう。
一応事件が収束した後、この集団墓地は冒険者ギルド及びライファ領主の私兵軍により徹底的な調査が行われており、普通ならその時に事件で使われた魔方陣が発見され、危険性を考えて消されている筈なのではと思うことだろう。
・・・がしかし、その時の調査の結果では都市内に潜入していた『パンデモニウム教団』の壊滅と、私と悪魔との戦闘の余波で発生した集団墓地内の一部損壊というもののみであり、魔方陣に関しては、そもそもそういうモノを発見したという報告すらありはしなかった。
この調査結果に現場を調べた者達は、おそらく魔方陣は戦闘の余波で消えてしまったのだろうと判断していたようだったが、しかし実際にはこうして存在し続けていた。
それは何故かと言えば、『パンデモニウム教団』の教徒達が事前に魔方陣に刻んでいた防衛機能が効果を発揮していたからであった。その防衛機能によって保護されていた事により、魔方陣は私とグベイザーと名乗っていた悪魔種との戦闘の余波では破壊されず、その後の冒険者ギルドと私兵軍の調査の出も発見されることが無かったのである。
続いて第二の条件である魔力についてだが、これは特に難しい説明などなく、私自身の魔力を使用した。
悪魔種二体分。しかもそのどちらもが公爵級と言う事で本来なら相当な魔力量を必要とする。この世界の基準で考えると、具体的には通常レベルの魔法使いが四百人分だ。
だがしかし、その消費量は私にとっては実質的に無いに等しかった。自身が持つ総『MP』量の約二割程度で十分に賄える程度であり、さらに言えば常時発動型の【蹂躙者】というスキルが持つ効果の一つである《MP自動回復》によってその消費した分の『MP』を約一、二分程度で全回復してしまう為だ。
そして三つ目の悪魔族を呼び出す為の贄となる血肉についてだが、実はこれは用意する物は肉や果物といった食べ物系から血液や特殊な水と言った液体系、その他にも武器防具や珍しい道具と言った物まで何でも良かったりする。
それらを贄とすることで姿を現した悪魔種は大抵は用意されたその贄を好みとしているモノばかりであり、それを契約の対価として求める事が多い。中には『パンデモニウム教団』が呼び出したグベイザーのような人間を対価に求める悪魔もいたりするが、それは『カオスゲート・オンライン』の設定上ではかなりの少数派として扱われていた。
また、今回私が悪魔種の召喚に使ったのは自身の血であったわけだが、それを贄とした理由としてはフェルヌスの持つ【大魔王】というスキルが関係している。
【大魔王】というスキルは複数の技を習得する事が出来る強力なスキルなのだが、実はこれには隠し要素的な効果がある。召喚の際に自らの血肉を使えば、魔に属する者と己の種族に関係する者限定ではあるが、無条件で高位の存在を呼び出し易くすることが出来るのである。
つまり、本来なら厳選した贄を用意する必要がある公爵級の悪魔種を呼び出せたのはこれが理由であった。
そしてここで話を初めの方に戻すのだが、そもそもどうして私がこの悪魔族達を召喚したのかについてだ。
その理由は、現在私が自身の弟子として育て、面倒を見ているアルクとクーリィという二人の子供が関係していた。
『悪魔召喚事件』の一件しかり。クーリィがこの交易都市ライファに来ることになった原因の孤児院襲撃の一件しかり。どうもこの二人は事件に巻き込まれやすい体質であるようだと感じた私は、二人が再び何かしらの事件に巻き込まれた時の備えとして、護衛役となるモノを用意しようと考えたのだ。
「どうしたのだ、召喚者よ。早く望みを言え。汝が憎んでいる輩を滅ぼせばいいのか?それとも、汝に逆らう者共を皆殺しにすればいいのか?」
「ガルギゴイルよ、そう急かしてあげないでおきましょう。どうやらこの召喚者は私達の持つ力に怯えているようですし?口が開ける様になるまで気長に待ってやろうではありませんか」
「むっ・・・?そうか。それなら仕方がないな」
・・・そう考えて、目の前にいる二体の悪魔種を召喚したわけなのであるが、どうやら今回呼び出した悪魔種は血の気が多いタイプの様であるらしい。私が彼等の強さを確認しようと無言で《ステータス鑑定》を発動していると、その様子を見て自分達にビビッているようだと二体の悪魔種は勘違いをしたらしく、好き勝手なことを言い出し始めていた。
「(やれやれ、随分と好き勝手言ってくれるな、コイツ等・・・)」
私は思わず音にもならない溜め息を零す。
ちなみに、この悪魔種達のステータスは以下の通りである。
種族名:【悪魔種:デビルガーゴイル】
名前:【ガルギゴイル】
性別:男性
年齢:2856歳
称号:公爵級悪魔
状態:通常
『HP』:211326/211326
『MP』:95647/95647
『STA』:104562/104562
『STR』:30541
『VIT』:29865
『AGI』:16854
『INT』:10417
『MND』:10326
『DEX』:9654
『LUK』:10236
種族名:【悪魔種:ケラハヴェル】
名前:【ウルマティ】
性別:女性
年齢:1841歳
称号:公爵級悪魔
状態:通常
『HP』:154476/154476
『MP』:128963/128963
『STA』:54621/54621
『STR』:15879
『VIT』:14475
『AGI』:23147
『INT』:31206
『MND』:29874
『DEX』:13658
『LUK』:14658
「(こいつ等・・・流石に公爵級と言うだけはあってその強さは相当なものがあるな・・・)」
ガルギゴイルの種族『デビルガーゴイル』は主に地属性や雷属性の技を得意とする悪魔種であり、元々は自立型魔法兵器であるゴーレムが何らかの手段によって悪魔化する事で誕生する存在である。
なお、姿に関しては元となったゴーレムによって異なり、またその能力も異なっている為、個体によってその性能は天と地程もあったりする。
ウルマティの種族『ケラハヴェル』は主に水属性の技を得意とする悪魔族であり、特に冷気に関する技であれば悪魔種の中でも一、二を争う力を持つ。
ちなみにこの悪魔の容姿は老婆か美女のどちらかしかおらず、今回は美女の方を引いた様である。
ステータス構成はガルギゴイルが物理特化型、ウルマティは魔法特化型と得意不得意がハッキリしている感じだ。少なくとも以前私が出会った自称伯爵級悪魔のグベイザーよりは間違いなく強い。
護衛として見ると多少過剰戦力かもしれないが、私としては唐突に強敵と遭遇する可能性を考えればやり過ぎだとは思わなかった。
まあ傲慢さが感じられる言動を聞くと、本当にコイツ等をアルク達の護衛に付けていいものかと、悩んでしまう点も無いわけではないのであるが。
・・・というか、何だか馬鹿にしていると思われるその口調に、実は密かにイラッとしていたり。
「・・・スゥ・・・フゥ・・・!・・・さて、私の望みだが―――」
私は一度目を閉じ、軽く深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。
そして下ろしていた瞼を上げると、私は目の前にいる二体の悪魔に向けて自身の望みを語り始めた。
とある午前中。何時もの修行場所として使っている交易都市ライファの外にある小高い丘の上で、僕とクーリィの二人は今日も今日とて修行を行っていた。
これまではフェルヌスさんから渡された木剣等を振っての素振りが主であったが、ここ最近はそんな日々に少しだけ変化が出て来た。
それは新しく修行する内容が増えたこと。ある程度体力がつき、フェルヌスさんから貰った木刀も含めた素振り用の模擬武器も扱いきれる様になってきた為、以前教わっていた戦技等を使用してく修行を行うようになったのだ。
「《スラッシュ》・・・!《スラッシュ》・・・!《スラッシュ》・・・!《スラッシュ》・・・!」
上から下に木剣を振るう。するとその際に、薄らとした橙色の光が木剣に宿っているのが見えた。
今僕が何度も発動させている技は《スラッシュ》という【剣】のスキルで一番初めに覚える戦技であり、基本技の一つだ。
フェルヌスさんから聞いた話だが、この 《スラッシュ》という戦技は口頭、もしくは頭の中で宣言すれば発動する事が可能であり、特に”型”と言うモノ―――戦技を発動する為に必要な特定の動作は必要としていない事から、普段使いからここぞという時にまで幅広く使える便利な技として有名らしい。熟練者であればある程好んで使う傾向があるそうだ。
とは言え、練習を始めたばかりという事もあってか木刀に纏われている気はあまりにも薄らとしており、注意して見ないと本当に発動しているかどうか判別が付き難い。習熟していけば刃全体が気の光に包まれる様になるらしいのだが、現状ではまず刃先部分にしっかりとした気を纏わせる事が目標だとフェルヌスさんは話していた。
「ふぅぅ・・・・・・!」
戦技を発動する為には気が必要だ。そしてその気を用意する為にはスタミナを消費する必要がある。
故に戦技を何度も使い続けていれば、当然それ相応に疲れることになる。スタミナが切れたらきちんと休憩する様にとフェルヌスさんから言い含められていた僕は、手に持っていた木刀を地面へ突き刺すと、それを支えにしながらゆっくりと息を吐いた。
「あれ?アルク兄ぃ、もう休憩?」
そんな僕の下へ、半分からかい混じりの声が掛けられた。
声の聞こえた方向へと視線を向ければ、そこには木刀を振るいながら僕にニヤニヤとした笑みを浮かべて見せるクーリィの姿があった。
「うん・・・さすがにしんどくなってきたからね。ちょっと一休みしようかと思って・・・」
「そっか。ふふん・・・!体力は、私の方が、上みたい、だね・・・!」
「はぁ・・・」と疲労を感じさせる溜め息を吐く僕に見せつける様に、クーリィは「私はまだまだ元気元気!」と言いたげに木刀を振るっていた。
・・・・・・ま、その数分後には僕と同じくスタミナ切れとなり、苦しそうに地面に四つん這いとなっていたが。
「ぐふっ・・・!?」
「もう・・・無理をするからだよ、クーリィ」
「うぐぐ・・・!?」
クーリィに心配そうな視線を向けながらその背中を僕は擦る。
ある意味自業自得であったが為にクーリィは何も言えずに悔しそうに言葉を口籠らせた。
「よ、よーし・・・!体力が回復したら他の戦技も練習しよっと!」
「何言っているのさ、クーリィ。フェルヌスさんからも言われているでしょ?他の技を覚えるのは、基本のこの技をしっかりと使える様になってからだって」
「う~・・・!だって練習するのはずっと同じ技ばっかでさ、さすがに飽きて来たんだよ。気分転換に他の技も練習もしてみたいと思うのは当然じゃない?―――丁度、そのネタは師匠から貰っているわけだし」
そう言うとクーリィは、小高い丘の頂上に生えている木の下に置いていた自身の鞄を開け、その中から一冊の本を取り出した。
それはつい先日、戦技の勉強用にとフェルヌスさんから僕とクーリィに渡された物だ。表紙には『戦技習得の書~これを読んで、簡単に便利で強い技を覚えよう!~』という題名が書かれており、その内容は表紙の名前の通りに様々な戦技が詳しい解説とイラスト付きで乗せられていた。
「・・・ていうかこれ、本当に分厚いよね。この本に書かれている内容は”自分が知っている戦技を分かりやすく纏めた、所謂説明書みたいな物”とか師匠は言っていたけど・・・・・・あの人、一体どれだけの技を覚えているんだろうね?」
「さ、さあ・・・?」
どこぞの国の辞典並みに厚みのあるそれを手に持ち、相応の重みを感じたクーリィは思わずと言った風に呟き、それを耳にした僕は明確な答えを返す事が出来ず首を傾げた。
「貰ったと言えば、本の他にもこれがあったよね?」
「ああ。”お守り”として渡された首飾りの事?」
クーリィの問いにそう返しながら、僕は自身の服の下から細い紐に吊るされた銀色の首飾りを取り出した。
僕の首元に掛けられているそれはまるで大盾を模した形をしており、その中心部には剣を模した意匠が彫られている。
クーリィの首元に掛けられている首飾りも僕のモノと同じ色合いだが、しかしその意匠は異なり縦に伸びた楕円形で、その中心には女性の横顔が彫られていた。
「こんな高価そうな首飾りを渡すなんて、師匠は何を考えているんだろうね?」
「う~ん・・・僕もフェルヌスさんと出会ってからそう日が経っていないから、これだ!っていう答えは返せないけど、多分純粋に僕達の事を心配したからじゃないかな?」
「だからって、こんな物を渡すかな普通?逆にこれを狙いに来る人が来そうなものだけど・・・」
クーリィのその言葉に僕はそれ以上何も言えなかった。なにせ僕自身、この首飾りは売ればそこそこの値段がするんじゃないかと思っていたからだ。
ちなみに、これは数年も経った後になってから知った話なのだが、僕達が首から掛けていた首飾りは『オリハルコン』というこの世界に現存する金属の中でも最高峰の頑丈さを誇る物の一つでありながら、その原石を発見、採掘する事が難しい希少価値の高い物を材料に作られていたらしい。
同じ希少金属として扱われている『ミスリル』には劣るものの、魔力の伝導率もまた相応に高いため、魔法や儀式の触媒としても高値で取引されている物でもあり、故にその値段はこの世界の常識に当てはめればそこそこどころか、最低でも一財産は軽く稼げてしまえたりする程だ。
加えて、オリハルコンは加工が難しい金属としても有名であり、それを首飾りというアクセサリーに―――ついでに言うと首飾りを吊るす紐込みで―――細工するだなんてことはこの世界の鍛冶や彫金の常識から考えれば、ありえないと現実逃避をしながら断言するレベルらしく、その技術力の事も考慮すれば、一財産どころか一国の国家予算並みの金額か、もしくはそれ以上になる事は想像に難くない。
「た、たぶん、あまりそこら辺は考えていなかったんじゃないかな?フェルヌスさんの価値観ってどこか僕達とズレてる節があるから」
「う、ううん・・・まあ、確かに師匠のその辺の事を考えると、ありえなくはない、のかな・・・?」
とはいえ、そんな高価過ぎる物が自分達の首に掛かっているとは露とも知らない当時の僕達にしてみれば唯々頑丈でそう簡単に壊れない代物という認識しかなく、最終的にそう結論付けて話を終わらせたのであるが。
なお、これ以降も僕達はフェルヌスさんの価値観について時折頭を悩ませることになるのだが、それは蛇足というものである。
さて、そんな色々な秘密のあるアルクとクーリィの首飾りであるが、実はもう一つ二人の知らない秘密があった。
『ふん・・・!まさか、公爵級悪魔である我等がガキのお守りをする羽目になるとはな・・・!』
『ですが、ガルギゴイル。これは我等の契約者が対価を払って望んだことなのですよ。かの者と結んだ契約を反故にするなど、それこそ誇りある我等公爵級悪魔のする事ではないでしょう』
アルクとクーリィの首飾りの中、正確にはそこに納められている小さな宝石の中にて、二体の公爵級悪魔種であるガルギゴイルとウルマティが《念話》―――”思考による会話が出来る様になる”という特技を使って会話をしていた。
どうして彼等がアルクとクーリィの首飾りの中に潜んでいるのかと言えば、それは彼等と契約したフェルヌスの命令が関係していた。
その命令とはガルギゴイルがアルクを、ウルマティがクーリィを担当する形で影ながら護衛する事である。
『そんなことは分かっておるわ・・・!我等は愚かで卑しい下級の悪魔種共とは違う。だがな、ウルマティよ。それでもガキのお守り程度に使われるという現状をどうして誇れようか・・・!それに、このような小さな器に入れられるなど・・・!』
『契約者が対価として用意したこの器は我等の憑代とするには十分以上の代物と言える筈ですよ?貴方は一体何が不満なのですか?』
『確かに精神生命体である我等悪魔種は、その気になればこのような小物等の中に入る事ができる。・・・が、それでも窮屈に感じないわけではないのだぞ!格としては十分以上だからこそ、余計にこの窮屈さが癪に触わるのだ・・・!』
しかし、ガルギゴイルは現状に不満を抱いていた。
元々ガルギゴイルは弱者を甚振る事を好み、暴力を是とする性格の悪魔種だ。であるからこそ、今回の護衛という命令は彼にとっては好きに暴れられない分ストレスが溜まる。
護衛対象が高い地位にいる人物であったり、何かしらの重要人物であったりするのであればまだ溜飲を下げられたし、自分の様な高位存在を付けるのにも納得できたのだが、しかしガルギゴイルが護衛をすることになったのは唯の子供。これには高いプライドを持つかの悪魔にとっては不満が募るというもの。
また、それに加えて大は小を兼ねるというか、大きい事は良い事だという考えも好んでいる彼からすれば、首飾りと言う小物に潜むという現在の状況は鬱屈とした気分を感じてしまい、余計にストレスが溜まるという悪循環も起こっていた。
『貴様は不満に思わないのか・・・!?我等公爵級悪魔が入るべき器はこんな小物ではなく、もっと大きなものが相応しい筈だ!なあ、そうだろう!?』
故にこそ、ガルギゴイルは自分達の今の状況が如何に不遇であるのかという事を同じ公爵級悪魔種であるウルマティに同意を求め、共感してもらう事で、自身の抱いている苛立ちを抑えようとしたわけなのだが。
『いえ、別に・・・私としては大きさなんて気にはならないのですが・・・』
『あれぇ・・・!?』
しかし、訴えられた側である当のウルマティはと言えば現在の状況を然程不満には思っていなかった。
ウルマティは身も凍える様な寒さを好み、静けさを是とする性格の悪魔種。ガルギゴイルとは違って小物に潜むことに対して別に不満があるわけではなく、窮屈さを感じている訳でもない。
どちらかと言うと彼女が抱いている不満は街中の喧騒という点に関してのみ。静けさを是とする彼女からすればそれは非常に五月蠅く感じるモノであるのだが、逆に言えばそれ以外に対しての不満はなかったのだ。
『というか、私的にはこの首飾りの中は居心地が良いので、出来る事ならずっと此処に居たかったりするのですが・・・』
さらに言えばウルマティが潜んでいる首飾りには、彼女の好みに合わせた調整がなされていた。
首飾りの内部には所々に魔力を与える事で冷気を発生させる『アイスストーン』と呼ばれる鉱石の欠片が仕込まれており、またその冷気が外に出ない様に調整する魔方陣も刻まれている為、冷気が常に首飾り内部に充満する仕様となっていた。
つまり寒さを好むウルマティからすれば、現在の環境は喧騒の事を抜きにすれば非常に居心地が良いと呼べるモノだったのである。
『き、貴様はそれでいいのか、ウルマティよ・・・!?公爵級悪魔種としてのプライドは無いのか・・・!?』
『プライド、ですか・・・?それを優先すれば、私達にとって過ごしやすい最適な環境が得られるのですか?得られるというのであればそうしますが、実際にはそう簡単にはいかないでしょう?というより、貴方も私の事を言える立場ではないでしょうが』
『うぐぅっ・・・!?』
ウルマティのその切り返しに思わず言葉を詰まらせるガルギゴイル。
そう。ウルマティの言う通り、この調整というのはガルギゴイルの潜んでいる首飾りの方にもしっかりとなされていた。
そちらの方には魔力を吸収し、それを倍加させて発散させると言う特性を持つ『マナクリスタル』と呼ばれる鉱石の欠片が仕込まれており、その内部は彼の好む高純度の魔力が常に満たされた非常に居心地の良い場所になっていたのである。
なのにどうして不満を言っているのかと言えば、先程彼が口にしていた公爵級悪魔種としてのプライドがその原因であった。
『そもそも、我々悪魔種は元来プライドよりも個人主義を優先する者ばかり。高位の悪魔種としてのプライドを持つのは大いに結構ですが、それを私にまで押し付けないでください。貴方と私では元から求めている物が違うのですから』
『ぬ、ぬうぅぅぅ・・・!?』
ハッ・・・!と鼻で笑うような、罵倒侮蔑の成分が多少混じった言葉を言い放つウルマティ。
その言葉を耳にしたガルギゴイルは額に青筋を浮かべながらも言い返そうと思ったのだが、彼女の言うそれが悪魔種の常識からすれば正論とも呼べるモノであると理解もしていた為、結局何も言う事が出来なかった。
『ふん・・・!貴様がそれでいいと言うのであれば、もう何も言わん・・・!そうまで言うのであれば、やりたいようにやれば良いだろう・・・!』
『ええ。是非とも、そうさせていただきますよ』
最終的に憤慨する様子を見せながらそう吐き捨てるガルギゴイル。
その言葉を受けたウルマティは「貴方に言われずとも」と言いたげな様子でそう返答をするのであった。
次回投稿は5/6です。




