第3章第4話 ~戦技について~
2022年7月8日に内容を修正しました。
今日も今日とて行われる修行の日々。午前中に交易都市ライファの外にある小高い丘の上にやって来た私、アルク、クーリィの三人は、本日の修行を行おうとしていた。
「今日から戦技を使用しての修行を開始する」
今日から新しい修行を始めるのだと、地面に敷かれたシートの上に座っているアルクとクーリィの二人に宣言する私。なお、この場にいる面子の服装は全員ジャージである。
ちなみにこれはおさらいとなるのだが、今私が口にした〝戦技〝とは『武具スキル』を習得し、また熟練度レベルを上げたりする事で覚えられる技の事だ。
『SP』を消費して気に変換させ、武器や防具等を用いることで発動が可能。『カオスゲート・オンライン』でもプレイヤーやノンプレイヤーキャラクター―――所謂NPCも問わず使われ、それどころか魔物も使用していた。
別の言い方に例えるのなら”〇〇流の〇〇という技”という感じだろうか。
そして、どうして私が二人にその戦技を教える事を決めたのかというと、その理由は以前彼等が巻き込まれた『悪魔召喚事件』に関係している。
あの時のアルクの実力はこの世界で言うところのCランク冒険者レベルと同等。そん所其処らのゴロツキ程度であれば難なく倒せてしまえる程度の強さはあったのだ。
・・・しかし『悪魔召喚事件』では果敢に奮闘するも、最終的には地面に這わされる結果となってしまった。
当時のアルクが戦っていた敵は三種類。『パンデモニウム教団』の教徒達、彼等によって召喚された悪魔、そしてその悪魔の手によって魔物であるトロールへと変貌した元教徒達だ。
その内の『パンデモニウム教団』の教徒達とトロールとの戦闘に関しては、その時私はその場にいなかったので飽く迄アルクから聞いた話からの推測になるが、前者との戦いではステータス面―――つまりは身体能力の差によるゴリ押しによって相手を圧倒していたようだ。一部腕の立つ者達もいたようだが、苦戦しつつも倒すことができたらしい。
・・・ただ、その腕の立つ者達の実力はおそらくBランク冒険者レベルだと思われる。明らかに格上の相手であり、しかも多対一という状況でよくもまあ勝てたものだと、話を聞いた時の私は思わず感嘆と呆れの感情を同時に抱いた。
次に後者であるトロールとの戦いについてだが、こちらに関しては相手が悪かったとしか言いようがないと私は思っていた。
その理由としては、アルクの持っていたのが木刀という打撃系の武器だったからという事もそうだが、トロールが持つ高い再生能力もまた要因として挙げられる。
つまりどういうことかと言うと、どれだけアルクが攻撃を加えたとしても受けた端から回復するため、実質的にはノーダメージであったということだ。
剣等の刃物を持っていたのであれば話はまた別だったかもしれないが、生憎と彼の手持ちの中で武器になりそうなものはその木刀しかなく、また例え持っていたとしても今の彼の実力では倒しきることは難しかっただろう。
・・・まあ、危機的状況の中で見せた、木刀に《魔力刃》を纏わせて放ったあの斬撃は素晴らしいものだったとは言えたし、後でその事を誉めたが。
なお、召喚された悪魔に関しては話を割合させていただく。そもそものステータスに差があり過ぎた為、端から論ずるに値しないからだ。
つまりそう言った経緯もあって、もしアルク達が次に何かしらの事件に巻き込まれた際、彼等の持つ身体能力に任せた自衛手段だけではどうにもならない事態が起こり得るかもしれないと危惧した私は、彼等に戦技を教える事に決めたのである。
「今から手本として見せるのは【剣】というスキルで最初に覚える戦技だ。しっかりと見ている様に」
今回教える戦技とは一体どういうモノなのかを実際に見せて教えると言いながら、私は自身のアイテムボックスから鞘に納められた一本の片手剣を取り出した。
私が取り出したその片手剣は『オリハルコンショートソード』。刀身の長さが六十五cm程と七十~八十cmくらいが一般的な普通のショートソードと比べて少々短いという、私が所有する武器の中では予備的なものとして扱っている代物だ。
・・・とはいっても、現状は今の穏やかな生活を維持する為に実力をある程度隠蔽する必要がある為、これまでメインで使っていた武具の大半を装備することが難しい状況なので、敢えて今はメイン武器として扱っている代物でもあるのだが。
そのショートソードを鞘から抜いて右手に持った私は、己の左半身をアルク達に向けると剣の柄を両手で握って持ち上げ、二人に見えやすいように構える。
「いくぞ?―――《スラッシュ》!」
そして戦技名を口にした瞬間、稲妻の様に迸る真っ赤に染まった気が刃に纏われる。
それを確認した私はそのまま前方の空間に向けて一気にショートソードを振り下ろした。
勿論、振るわれる速度はアルク達が見えるであろう程度に調整し、威力も九割方抑えたものではあったが、しかしそれでも放たれた斬撃は強烈な風圧と衝撃波を発生させ、地面を一直線に抉り吹き飛ばしていった。
「・・・ッ!剣を一振りするだけで、ここまで・・・!?」
「す、凄い!?凄いよ、師匠!!」
そんな光景を目にしたアルクとクーリィは驚き、続いて興奮したように大きな声を上げた。
そんな二人の姿を横目で視界に入れながら、右手に持っていたショートソードをクルリと回して逆手に持ち直すと、ゆっくりと鞘に納めた。
「今見せたのが、これから二人に教える《スラッシュ》という戦技だ。これは全ての戦技の基本となる技の一つでもあり、私が放ったからこそこれ程のモノとなったが、本来の威力はそう高いものじゃあない。精々、”相手に通常攻撃の一.二倍のダメージを与える”くらいだ。・・・だが、戦技を発動する為に必要な”型”が特に無い事や、口頭もしくは頭の中で宣言すればどんな状況であろうとも発動出来るという利点があり、私が元いた所では初心者から古参まで幅広く扱われてきた技でもある」
ちなみに”型”というのは、戦技を発動する為に必要な特定の動作の事を差しており、技名を宣言しない場合はこれを行わなければ戦技が発動しない仕様となっている。
「まずはこの技を連続で且つ、ある程度長時間発動し続けられる様になる事が当面の目標だ。・・・っで、ここまで軽く説明したが、何か質問があれば手を上げるように」
「はい!師匠!戦技ってどうやったら覚えられるの?」
二人に聞きたいことはあるか?と私が問い掛けると、それに真っ先に反応して手を上げたのはクーリィであった。
その元気のいい声に、私は「いい質問だ」と口元に笑みを浮かべた。
「私の知る限り、戦技を覚える手段は二通りのパターンがある。一つはスキルを取得した時と、そのスキルを上達させて行くことで覚えるパターン。もう一つは戦技を覚えている人物の手ほどき等を受けながら地道に練習して覚えるパターンだ」
前者のパターンはRPG系のゲームをやっていれば何となく分かるだろうことであり、所謂ところのスキルの育成による習得方法だ。これで覚えられるのは数ある戦技の中でも基礎的なモノだけだが、カンストした場合にはかなり強力な技を覚えることが出来る。
スキルには熟練度レベルというのが存在し、そのレベルはスキルに関係する行動を行ったり、何らかの条件を満たすことで上昇する。
後者のもう一つのパターンは所謂師弟関係を持った相手と繰り返し修行する事で覚える習得方法だ。これで覚えられる戦技はスキルの取得及び育成では覚える事の出来ないモノであり、威力や効果は群を抜いている。
・・・ただ、中にはまったく威力の無い特異な効果を持つ戦技もあったりするので、一概にそれ等全てが強力だというわけでなかったりもするが。
「まあ、今回は初めという事で前者のパターンを行っていく。まずはスキルの取得からだが、二人はもう【剣】のスキルを取得しているからな。やろうと思えば、先程私が使った《スラッシュ》をお前達も使える筈だ」
「ほんと!?じゃあさっそく・・・!《スラッシュ》!・・・・・・って、あれ?」
その言葉を聞いたクーリィはさっそくと言わんばかりに立ち上がり、戦技名を口にしながら上から下へと木刀を振るう。
その瞬間、振るわれた軌跡を辿るように白み掛かった淡い橙色の光が現れたのだが、しかしその光景を目にした彼女は不思議そうに首を傾げた。
「あれ?これって発動したの?なんか師匠の時見たく赤い光が出ないんだけど」
「いや、キチンと発動していたぞ。さっき見えた微かな光がその証拠。きちんと練習していない内は私の時の様にハッキリとは見えないし、その効果も低いんだ。・・・それとクーリィ。戦技を発動した後に体が少し怠く感じていないか?」
「え?うん。確かに感じているけど・・・」
「戦技を発動する為には気というエネルギーが必要で、この気というのは、スタミナ―――分かりやすく言うと体力を変換して生み出しているんだ。だから普通に木刀を振るった時よりも疲れたと感じたのなら、それはキチンと戦技が発動している証拠だ」
戦技の発動の際には私が話したように一定量のスタミナ―――『SP』が必要であり、基本的にこれが足りなければ発動させることは出来ない。
例外として、足りない分の『SP』を『HP』を消費して補う事で発動できる戦技も存在してはいるが、そういったモノは総じて習得が難しかったりする場合が多い。
ちなみにこれはいらない補足かもしれないが、体力=『HP』ではない。『HP』は生命力を表す表記である為、体力とは別物である。少なくとも『カオスゲート・オンライン』の設定ではそうであり、その設定はこの世界でも適応されているらしいと、以前修行の最中に私は気付いていた。
「ついでに言うと、戦技を発動した際に現れる気の色は基本橙色のそれだが、扱いの上手い下手によって色の濃い薄いがあり、またそれに応じて戦技の効果も変動したりする」
要は、気の扱いが下手であれば色は薄くなって戦技の効果は弱くなり、上手ければ逆に濃くなって戦技の効果は通常のそれよりも強くなったりするということ。
私が知っているスキルの中には【気功術】と呼ばれる、”気”の扱いに補正が入り、戦技の威力や効果が上がる様になる”というモノもあるにはあるが、生憎とこのスキルは取得条件がかなり厳しい為、現在の二人にそれを教えるつもりは私には無かった。
・・・まあ、私自身その【気功術】というスキルを取得していないので、どちらにしても教えられないのだが。
「つまり、クーリィの木刀に纏われていた気の色が薄かったのは、扱いが下手だったからと・・・」
「・・・!?」
「まあ、そうなるな。とはいえ、別に落ち込む必要は無いぞ。最初は皆そんなもんだ」
アルクの気の扱いが下手という言葉にショックを受けたのか、落ち込んだように顔を俯かせるクーリィ。
私はそんな彼女の頭を慰めるように撫でつつ、「私だって最初の頃はクーリィと同じ色合いだったんだぞ?」という言葉を苦笑を浮かべながら口にした。
「でも、それなら余計に不思議に思う事があります。―――どうしてフェルヌスさんの気は血の色の様に赤かったんですか?」
「気の色は基本橙色なんですよね?」と首を傾げながらそう問い掛けてくるアルク。
それに対して私はなんてことないかのように答えた。
「その理由は単純だ。私の持つスキルの中に戦技と魔技を強化するモノがあってな。その副次効果で私の気は血のように赤く染まってしまっているんだよ」
私の言う戦技と魔技を強化するスキルとは、【破壊魔】というパッシブ型の『特殊スキル』のことだ。
その効果は”スキル所持者の戦技及び魔技の効果を一.五倍に上昇させ、また『SP』と『MP』の消費量を二分の一軽減する”というもので、私の気の色が血の様な赤色に変色しているのも、このスキルの副次効果によって強化されたがためだ。
ついでに言うと、私の魔力の色も通常の水色から深海の如き深い青色に変色していたりする。
「そういう訳で、どんなに修行しても気の色を私のような色にはすることは出来ないんだ。・・・まあ同じスキルか、似たようなスキルを取得すれば出来るようになるだろうがな」
私がそう言うと、アルクとクーリィは「なるほど」と納得したように頷いた。
「とは言え、そういったスキルはある程度下地を作っておかないとどちらにしても取得出来ないので、今は練習あるのみだがな。―――ああそれと、これは私の経験則から来る忠告だが、スキルや戦技等をあまり過信し過ぎない方がいい」
「・・・?どういうことですか?」
何が言いたいのだろう?という感じに首を傾げるアルク。
隣にいるクーリィも同様なのか、彼女もまた彼と同じように不思議そうに首を傾げていた。
「戦技と言うのは強力な技を放つモノが大半だ。だがその分、技の起こりなどが分かりやすいモノも多い。例えば先程見せた 《スラッシュ》だが、発動するとこんな風に刃が気に包まれて発光する。もし目の前に敵対している相手がいて、そいつがこれを見たらどう思う?」
そんな二人に、私はどうしてスキルや戦技等を過信をし過ぎない方が良いと言ったのかの説明を実際に見せながら行う。
鞘からショートソードを抜いて再び《スラッシュ》発動した後、その状態を維持しながら私は二人に問い掛ける。
気を纏って赤色に発光する刃。それを目にして、私の言葉も耳にしたアルクとクーリィは、何かに気付いたようにハッとした顔になった。
「あっ、私分かった!答えは警戒する!」
「それがどんな技かはともかく、戦技が来るって分かってしまえば対策される可能性があるんですね?」
「そう、その通りだ。言ってしまえば戦技というのは、威力はあるが分かりやすい大振りの攻撃だ。アルクの言ったように来ると分かれば避けられるし、迎撃も出来る。考えなしに無闇矢鱈と使えば、大きな隙を相手に晒し出すことにもなるだろう」
ショートソードを鞘に納めながら、二人の出した答えに私は頷いて見せる。
「なるほど・・・強い技があればどんな奴にも勝てる!って、昔他の冒険者の人から聞いたことあるけど、そういう訳でもないんですね」
「別に強い技を求めることは悪いことではないよ。要は使い方と、使うタイミングだ。例えば私の戦い方だが、基本的には普通に武器を振るって、その合間に技を放つというスタイルを取っている」
私は己の脳裏に『カオスゲート・オンライン』で行われていたプレイヤー同士で行う対戦バトルの記憶を思い出していた。
その時の私の戦い方は手持ちの武装でダメージを与えつつ、相手の隙を突いて出の速い戦技や魔技を、もしくは相手の対策ごと諸共に粉砕する強力な大技を放って倒すといったモノ。
それは普段の戦闘でも使用している戦法でもあり、私にとっては最早鉄板の戦い方の一つである。
「小技連打に必殺大技、って感じ?」
「・・・・・・その表現の仕方はどこで聞いて来たんだ?まあ、意味的には間違ってはいないが」
クーリィの例えを聞いた私は、何処となく聞き覚えがあるような感じがして思わず微妙な顔をした。
「うぅん・・・!―――ともかく、そういう訳で。戦いで技を使う際には状況やタイミングを見てやること。じゃないと一気にピンチに陥るからな。分かったか?」
「はい!」
「はーい!」
咳払いをした後に私はそう言って話を締め、それに応えるようにアルクとクーリィは元気の良い返事を返した。
「うん。それじゃあ二人共、さっそく戦技の練習を始めようか。まずはこれから行うトレーニングメニューの変更について説明するぞ」
私は戦技の練習を始める前に今まで行ってきたトレーニングメニューに変更があるとアルク達に言う。
「これまで行ってきた筋トレは一旦中止。武器の素振りも各五百回までにして、余った時間を戦技の練習に当てていく。・・・とはいえ、戦技はスタミナを消費して発動する関係上、多くの回数を連続して熟すことは難しい。スタミナが少なければ尚更だ。なので、一日ごとに一つの戦技を百回ずつ、武器も変えてローテーションで行っていく。もちろん【剣】スキル以外で覚えられる戦技も覚えて練習していくぞ」
「他の戦技も使えるようになれば色々と便利だからな」と口にする私であったが、そこでクーリィが疑問の声を上げた。
「・・・あれ?あの、師匠。質問なんだけど、どうして他のスキルで覚えられる戦技も練習するの?」
「うん?どういう意味だ?」
不思議そうな声音でそう問い掛けてくる彼女に、私は首を傾げる。
「えっと・・・実は前に、冒険者ギルドで他の冒険者さん達の話を聞いた事があるんだけど・・・」
クーリィはどうして自分がそんな質問をしたのかの理由を話し始めた。
それは彼女が私に弟子入りし、冒険者ギルドにて見習い冒険者として登録してからしばらくしての事であったそうだ。
クーリィの言う他の冒険者とは、以前からこの交易都市ライファに住み、主にこの町で活動している冒険者達の事であり、彼等が話していた内容を彼女は何度も耳にする機会があったらしい。
「その中で師匠が今回教えてくれた戦技に関するモノもあったんだけど、複数の戦技を覚えたなんて話を聞いた事が無いんだよ」
それどころか、たった一つの戦技を覚えただけで満足していた様子であり、必殺技として誇っていたと話すクーリィ。
彼女の話を横で聞いていたアルクもまた「ああ、そう言えば・・・」と頷く様子を見せる。
「その話は僕も聞いた事があるよ。確か、最近だとCランクの人が《刺突》って言うスキルを覚えたって、嬉しそうにしてたっけ」
「・・・・・・・・・は?」
「(えっ・・・?戦技を一つ覚えただけで一流の冒険者って、なにその冗談・・・?)」
「これで一流冒険者の仲間入りだ、なんて喜んでいたよ」と自身が見聞きしたことを語るアルク。
そんな二人の話を聞いた私は、思わず驚いたような、もしくは呆れて茫然としてしまったような表情を浮かべてしまった。
「(いやいやいや・・・!さすがにそれで一流は無いだろう・・・!『カオスゲート・オンライン』ではそれくらいだと、まだ初心者の域を出ていないと判断されるぞ!せめて攻撃系、防御系、補助系の基礎の技を三種類ずつ覚えなきゃ、一人前とすら認められていなかったんだぞ・・・!?)」
私は「嘘だろう・・・!?」と言いたげに頬を引き攣らせた。
私が内心で語ったそれは、『カオスゲート・オンライン』では常識と言っていいようなモノだった。実際ゲーム内に存在していた訓練所とか、戦技を教えてくれる道場とかでもその点は―――一人前のラインというのは共通だったからだ。
私自身もゲームを始めた頃はそういった場所で一人前の基準というのを知ったのだが、しかし二人の話を聞くにこの世界ではその線引きの高さが違うらしい。まさか戦技を一つ覚えただけでそんなに誇れるなんて、酷いカルチャーショックを受けた気分だ。
「(二人に言われるまで気付かなかった―――というか調べようとも思っていなかったが、どうやらこの世界の強さの基準は私の予想以上に低いらしい。というか、よく今まで生きていられたなこの世界の人類・・・!?)」
私は自身の背筋にゾッとするような冷や汗と戦慄が走るのを感じた。
その様な反応をしてしまったのには理由があった。なにせ、私の知る限り『カオスゲート・オンライン』の舞台となっていた『アンリミト』という世界には強力な、それこそプレイヤーの間ではチート級とも呼ばれるような魔物が数多く存在している事を知っていたからだ。
そして、その魔物達の強さと脅威がどれ程のモノなのか、実際に戦い、体感していたからこそ私は思ったのだ。「よくこの世界は無事だったな!?」と。
「(この世界が同じ『アンリミト』の名を冠しているというのであれば、当然この世界にも私の知っている強力な魔物がわんさかいてもおかしくない。というか、まず間違いなくいるだろうな・・・!)」
そんな怪物共を相手に、戦技一つ覚えただけで一喜一憂する奴らが対峙したとしても鎧袖一触にされるだけ。その戦力比を例えるのであれば、地球にある兵器の一つであるイージス艦と掌サイズの虫と言った所。
どちらがどちらかなんて、言わずとも分かるだろう。
「(まあ、この世界の住人の中にも高い実力の持ち主はいるだろうが・・・)」
でなければ、多少の問題こそあれどこの世界がこうも平穏であるわけがない。もしくは何か他の理由によってこの平穏が保たれているのかもしれないが、どちらにせよ強大な力を持つ魔物達を如何にか出来るだけの力、または方法を持つ存在がいるという事に変わりはないだろう。
・・・一瞬だけ。そう一瞬だけ、もしかしたらチート級の魔物なんていないのかもしれないとも考えたりしたが、もしもに備えて最悪を想定しておくのは悪い事ではないと、その考えを私は一時脇へと退かすことにした。
「(まあ、今は質問してきた二人に答えを返す方が先だな)」
無意識に顔の半分を片手で押さえていた私は、小さな溜め息を一つ吐くと、押さえていた手を離してアルク達の方へと向き直った。
「あ~・・・クーリィの質問に関してなんだが、複数の戦技を覚える理由は、此処と私の故郷とでは一人前の基準が違うから、だな」
そう言って私は、アルク達に自身の故郷―――この場合は『カオスゲート・オンライン』―――の一人前の基準を教える。
それを聞いた二人は「なるほど、そういうことか」と納得した様に頷いた。
「あと、もう一つ理由を上げるとすれば、戦技を発動する際に使用するモノは、別にスキルに関連する物じゃなくても良いから、だな。例えば《スラッシュ》という戦技だが・・・実はコレ、剣以外の武器でも発動出来るんだ」
「条件さえ揃えば斧や槍でも、果ては素手であっても発動する事が可能だ」と語る私に、アルクとクーリィはは驚愕に目を見開き、「えっ!?」と驚きの声を上げた。
「えっと、戦技って特定の武器じゃなければ発動出来ないんじゃ・・・?」
「いや、別にそう言うわけじゃない。例えば【剣】スキルで覚えられる戦技だが、これは結構条件が緩い。〝斬撃〝を行える部分があれば、そこを基点にして発動出来るんだ」
他にも例を挙げるとすれば、【鈍器】スキルで覚えられる《ブレイク》と【槍】スキルで覚えられる《刺突》が挙げられる。
この二つの戦技の効果は《スラッシュ》と同じく〝相手に通常攻撃の一.二倍のダメージを与える〝というモノで、それぞれの発動条件も〝打撃〝を行える部分があること、〝突撃〝を行える部分があることという感じに《スラッシュ》と同様に緩い。
「つまり何が言いたいのかと言うと、ワザワザ斧や槍を用意しなくても、剣一本でそれ等の戦技を発動する事が出来る、というわけだ」
「ほえぇぇ・・・!戦技って、そんなに応用が効くんだ・・・!」
「以外と便利だろう?・・・ただし、デメリットが無いわけじゃない。キチンと適正のある武器以外だと、その威力は七割程度にまで下がってしまう。あと、壊れて武器としては使えなくなったり、その武器の形状があまりにも歪過ぎると適正以前の問題で発動出来ないから注意する様に」
「・・・あの、武器が壊れての部分は分かるんですけど、歪って・・・?」
「そうだな・・・例えば私が昔作った剣とか、だろうか?知り合いから注文を受けて奇剣―――普通の剣と比べて奇怪な形をしている奴―――の類を作る事になったんだが、その時にちょっとヤバい物を作ってしまってな・・・」
「や、ヤバい物・・・?」
「ああ・・・柄から先が棒のような形をしていて、ウネウネと動きながら剣先から滑りのある液体を噴き出す奴だった」
「ウネウネ・・・!?噴き出す・・・!?」
「しかも、何故かそれが途中で分かれてな・・・。大小合わせて五本の棒となって思い思いにウネウネと蠢いていたんだよ・・・。」
「五本も・・・!?」
話していくうちに、私は当時の事を思い出して来た。
炉で熱し、槌を振るい、鉄を叩いて完成させたそれが、”ちょっとモザイクが必要な触手的な何か”になってしまった時の光景を。
それを聞いたアルクとクーリィは思わず頬を引き攣らせながら驚きの声を上げた。「いったいどんな物を作ったんだ、この人は・・・!?」と。
「作った自分が言うのもなんだが、あれほど意味不明な剣は無かったなぁ・・・・・・動力になりそうな物は入れてなかったはずなのに、何故か生き物のように―――もしくはタコやイカの足の様に?―――ウネウネと動いていたからな。武器として使ってみてもダメージを与えられないわ、習得している戦技は一つも発動しないわで酷く戸惑ったものだ」
「「え、えぇぇ・・・」」
「さらに不思議なのは、注文を出していたその知り合いが何故かそれを気に入ってしまってな。金を払って持って帰ってしまったんだよなぁ。・・・アレをいったい何に使うのか、私には皆目見当もつかん」
「「そしてまさかのお買い上げ・・・!?」」
「確かアイツはこう言っていたっけか・・・”かまへんかまへん。ウチはこういう面白おかしい物が欲しかったんや。それにこれはこれで使い道はありそうやで?例えば、馬鹿をやらかしたウチの旦那に・・・フフ、フフフフフ!”・・・だったか?」
「なんかスッゴク気になるんだけどそのセリフゥゥ!?何されるの?ねぇ、その旦那さんは何されてしまうの・・・!?」
「あ~、まあ、気になるのは分かるけど、そのセリフの後に、”おっと、これ以上は個人のプライベートやから、秘密やで?”と言われてしまってな。正直その後にどうなったのか、私も分からん」
「ここでまさかのお預け・・・!?その後の旦那さんがどうなったのか、とても気になるんですけど!?」
「それは私も気になる。・・・が、それ以降の話は知らないので答えようがない。結果報告も無かったしな」
「想像でしかないが、ナニされたんじゃないか」と呟く私。
それを耳に拾ったアルクとクーリィは、「ナニって、何・・・!?」と、どういう意味なのか分からないと言いたげな顔で首を傾げていた。
「さて、二人共。雑談兼昔話はここまでにして、そろそろ修行を始めるとしようか」
そう言って、二人に語っていた奇妙な話を締め括った私は、パンパンと手を叩き、未だに話の続きが気になっている二人に向けて「ほら、行くぞー」と声を掛けるのであった。
次回投稿は4/21です。




