第3章第2話 ~弟子入りを望む少女 2~
2022年7月8日に内容を修正しました。
ここ最近の私とアルクの毎日の日課である午前のトレーニング。それにクーリィが加わってから今日で一週間が経過していた。
この一週間で行われていたトレーニングはアルクが今まで行ってきたモノと変わっておらず、丘の周りを走るランニングに腕立て伏せ、屈伸、反復横跳び等の体力と基礎身体能力を鍛えるものであった。
まあ、元から高いステータスを持つ私はともかく、初めの頃はヒィヒィ悲鳴を上げていたアルクも今では慣れたもので、一通りのトレーニングメニューを熟した後は多少の息切れ程度に治まるようになっていた。『突き落す愚者の腕輪』の効果を受けてこれなので、かなり体力と身体能力が上がっているのが分かる。
ではそれ以外の、最近私に弟子入りしてトレーニングに参加し始めたクーリィはと言えば―――
「ふっふっふっふっ・・・!」
丘の周りを軽快に走り―――
「ふっふっふっふっ・・・!」
腕立てや屈伸、反復横跳び等を順調に熟していた。
ちなみに、現在のクーリィのステータスをトレーニング前と後で比較とこんな感じだ。
種族名:【人間種:普人族】
名前:【クーリアンデ】
性別:女性
年齢:8歳
称号:英雄の卵、■■■■■、
状態:通常
『HP』:22/22
『MP』:30/30
『SP』:80/80
『STR』:35
『VIT』:10
『AGI』:34
『INT』:44
『MND』:24
『DEX』:31
『LUK』:305
種族名:【人間種:普人族】
名前:【クーリアンデ】
性別:女性
年齢:8歳
称号:英雄の卵、■■■■■、
状態:通常
『HP』:386/386
『MP』:117/117
『SP』:382/382
『STR』:259
『VIT』:93
『AGI』:198
『INT』:133
『MND』:104
『DEX』:269
『LUK』:850
「・・・・・・・・・」
「(アルクに続いてこの子まで・・・何だ。私が鍛える奴は成長速度が異常な奴ばかりなのか?)」
目の前の光景及びそのステータス数値を見た私は思わず頬を引き攣らせる。
それはまさにアルクの時を彷彿とさせるモノであり、その上昇速度はやはり異常だと思えるモノであった。
・・・まあ、その原因らしきものも実はもう既に確認済みだったりするのだが。
「(まさかクーリィにも表記が塗り潰された特殊スキルがあるとは・・・意外とアルクの他にもいるもんなんだな)」
そう。彼女、クーリィにもアルクと同じ【■■■■■】という表記が塗り潰された特殊スキルが存在したのだ。しかも文字数も同じであることから同一のスキルの可能性がある。
まあそれ以外にも、【英雄の卵】―――〝数%だけ成長率を上昇させる〝という特殊スキルもあるので、おそらく相乗効果的なモノも合わさっているのだろうと思われるが。
とはいえ、どちらにしても異常だという事に変わりはなかったりするのであるが・・・。
閑話休題。
まあ、それを今考えたとしても答えが出るわけではないので一旦置いておく事として、トレーニングを終えた後は昼休憩を挟み、午後になるとこれまた日課となっている冒険者ギルドで出されていた依頼を受けていた。
私達が専ら受けているのは、難易度Gランクの品物を配達するという依頼だ。その名の通り、他所の町からこの町へと届けられた荷物を指定された場所へ運ぶ配達業務である。
荷物自体は片手で持てるくらいの小さな物から荷車で運ぶ必要がある程の大きな物と色々とあるのだが、今回はそれらをまとめて荷車で運んで行くことにした。
街中という事で使う荷車は人力の物を使用し、前方で荷車を引っ張って行くのをアルクとクーリィが、後ろから支えるのを私が担当していた。
・・・まあ、私が後ろから荷車を押すと修行にならないので、横にズレたりした時に軌道修正したりと、本当に支えるだけだったが。
ちなみに、どうして私が二人と一緒にいるのかというと、その理由は修行を初めてまだ一週間のクーリィが怪我を負わない様に見守る為だ。
なにせクーリィはまだ八歳の幼子。私が元いた世界である地球ではまだ親の加護を必要とする年齢の子供だ。現状トレーニングによってある程度身体能力も上がってきているので余程の事でなければ怪我を負う事は無いが、ついつい心配な気持ちが出て来てしまうのが人としての当然だろう。
とは言え、本人の性格は幼いながらにしっかりとしているので、自分から危ない事に首を突っ込む事は早々無いとは思われるが。
「(だからと言って、油断はしない方がいいだろうな。結果として何かの事件に巻き込まれてしまう可能性も無いわけでは無いし。独り立ちしても良いと思えるくらいに強くなるまでは一緒にいるべきだろう。せめて今から一週間前のアルクくらいに強くなれば、そん所其処らのゴロツキ程度は簡単に転がす事が出来る様にはなるとは思うが。・・・まあ、なんにせよ。師匠と言う名の保護者の一人になったのだから、キチンと面倒を見なければな)」
内心でそう思いながら、私は目の前にて現在進行形で道の脇へとズレようとしている荷車をガッと掴んで軌道修正をするのであった。
その後、私達は時間を掛けて自分達が請け負っていた配達物の大半を配り終え、そして最後の配達先へと辿り着いた。
「・・・で、最後に着いたのが此処と」
そう呟いた私の視線の先にはそこそこ大きな建物が一軒あった。
この建物には見覚えがあった。クーリィが住んでいる孤児院だ。どうやら最後に荷物を配達するのは此処らしい。
そう思った私は、なんとなしに孤児院の屋根に視線を向けた。
「(確かアルクの話では応急処置的な感じで直したと聞いていたが・・・・・・うーん、とてもそうは思えない程の出来栄えだな)」
以前アルクが冒険者ギルドの依頼で屋根の修理をしたという話を聞いていた私は、彼が直したと言っていた場所を見つけようとしたのだが・・・・・・しかし、屋根の何処に穴が空いていたのか、無事な部分と修理した部分の境はどこなのか。正直遠目から見る限りではその辺がよく分からなかった。
「(意外と建築士というか、物を作る才能がアルクにはあるのかもしれないな・・・・・・って、ん?)」
孤児院の方へと視線を向けながらなんとなくそんな事を考えていたのだが、そこでふと複数の軽い足音が自分達の下へと近づいて来るのを自身の獣耳が捉えた。
「あっ!やっぱりクーリィだ!」
「お帰りクーリィ!今日は早かったね?修行とかいうのはもういいの?」
「クーリィお姉ちゃん、遊んで~!」
孤児院前にて佇んでいた私達の下へ近づいて来たのは、十歳前後の二人の少年とそれより三つか四つ幼い少女といった三人の子供達であった。
孤児院の扉を開けて外に出てきたところを見るに、おそらくクーリィと同じく孤児院で暮らしている孤児達なのだろう。子供達は私達の姿を視界に捉えると、パタパタと走り寄って来た。
「やっほー!皆―!残念だけど帰って来た訳じゃないんだ。冒険者ギルドで受けた依頼で孤児院に届ける物があってね。院長先生はいる?」
「院長先生なら裏庭の畑で草むしりしているよー」
「もうすぐ収穫の時期だからねー」
「遊んで、遊んで~!」
クーリィが自身と同じ孤児であり家族である子供達に孤児院院長であるマルシャルはどこにいるのかと問い掛けると、それに応えるように三人の内の一人である少年が孤児院の裏手を指差し、そしてそれに追随する様にもう一人の少年がどうして彼女がそこにいるのかを答える。
・・・まあ、最後の少女だけは終始一貫してクーリィに遊んで欲しいとだけしか言っていなかったが。
「分かった。ありがとう二人共。それからごめんね。今はお仕事優先だから、我慢してね。遊んであげるのは帰った後にしてあげるから、ね?」
「え~・・・」
プクゥ、と頬を膨らませる幼い少女。
それを見たクーリィは申し訳なさそうな顔をしながら彼女の頭を優しく撫でた。
「本当にごめんね。それじゃあ、院長先生の所に行くから」
「おう!仕事頑張れよ!」
「この子の事は任せといて。君が帰って来るまで代わりに遊んでおいてあげるから」
「うん。任せた!」
少年二人は「この子の遊び相手は自分達がするから」と言い、それを聞いたクーリィは「後はお願いね」と少年二人に片手を振りながら孤児院の裏手へと向かい始めた。
勝手知ったると言いたげに孤児院の敷地内を進んで行くクーリィ。その後を追う様に私とアルクも歩いていく。
「仲がいいんだね。クーリィ」
「まあね。同じ孤児院の仲間だから当然だよ!」
歩きながらアルクがクーリィにそう話し掛けると、彼女は「ふふん!」と胸を張った。それはまさにドヤ顔というやつであり、そんな二人を私は微笑ましげに見ていた。
そうしている内に、ふと自分達が少年の指差していた孤児院の裏庭へと到着した事に気付いた。
眼前に広がるそこそこの広さの野菜畑。その中で草むしりをしている孤児院院長のマルシャルの姿を見つけた私達は、「おーい!」と彼女に声を掛けるのであった。
「あらあら、まあまあ。そうですか、私宛の荷物を届ける為にここまで・・・それはそれは、ありがとうございます。クーリィもありがとうねぇ」
荷物―――紐で固く縛られた片手で持てる程度の大きさの木箱を受け取った後で、そうお礼の言葉を言いながら私達に頭を下げる孤児院院長のマルシャル。
所々皺が見られるその顔は、朗らかで優しそうな笑みを浮かべていた
「ふふん!どういたしまして!」
「何故そんなに偉そうにしているんだ?クーリィ・・・」
「あの、お仕事でしたから、そんなに畏まらなくても・・・」
そんな彼女に、私達三人は三者三様の反応を返した。
クーリィは笑みを浮かべながら偉そうに胸を張り、そんな彼女に私が苦笑しながらツッコミを入れ、そしてアルクは仕事として当然の事をしたのだとマルシャル院長に下げている頭を上げてもらおうとしていた。
「それはそれとして、院長先生。院長先生宛の荷物ってどんな物か聞いてもいい?」
「・・・そう言うという事は、貴女は中身を見ていないのですね?」
「ま、まあね!」
頷くクーリィ。・・・だがしかし、その声音は微妙に震えていた。
そんな彼女の些細な様子に気付き、不思議そうに首を傾げたマルシャル院長だったが、その後に呟かれた私とアルクの話を耳にして、どうしてそんな反応をしたのか納得した様子を見せた。
「まあ実際は、孤児院宛の物だと分かってから此処に辿り着くまでの間に、何度か中身を取り出そうとしていたがな・・・」
「そしてその度にフェルヌスさんに止められていましたけどね・・・」
「ちょっ!?師匠!アルク兄ぃ!どうして言うの!?」
「あらあら、まあまあ・・・いけませんよ、クーリィ。個人の荷物を許可なく無闇に開けようとするのはいけない事ですよ?」
「うっ・・・!?ご、ごめんなさい・・・」
私達二人の話を聞いたマルシャル院長は困った様な顔をしてクーリィへと振り向き、注意をする。
それを受けたクーリィは、ばつが悪そうな表情となって彼女に謝った。
「次からは気を付けてくださいね。―――さて、それでは私はこれの確認をさせていただきますね」
クーリィの謝罪を受けたマルシャル院長は、話はそれで終わりとして受け取った荷物の中身を確認しようと懐に仕舞っていたナイフで木箱を縛っている紐を切り、その蓋を開けた。
木箱の中には封筒に納められ、封蝋で口を閉じられた複数の手紙と分厚い布で包まれた何かが入っていた。
「ふむ。手紙、ですか・・・」
封蝋を切り、封筒の中から手紙と思われる物を取り出したマルシャル院長はそれに目を通し始める。
「・・・ッ!」
―――その瞬間、彼女の表情が変わった。
「・・・・・・クーリィ」
「ん?なぁに、院長先生?」
「申し訳ないのですが、私の代わりに畑の草むしりをしてもらえますか?」
「え・・・!?でも私、まだ冒険者ギルドへの報告があるんだけど・・・」
「手伝ってくれたら、今日の夕飯は貴女の大好物であるオーク肉の煮込み料理を作ってあげますけど?」
「よーし!私に任せて、院長先生!」
マルシャル院長のお願いに初めは難色を示していたクーリィであったが、貴女の大好物を作ってあげるという言葉に掌を返して元気よく返事をした。
「お願いしますね、クーリィ。それからフェルヌスさん。ちょっと私と共に来ていただけますか?」
「・・・?ああ、構わないが・・・」
「では、こちらへ・・・」
そう言って、スッと孤児院の中へと私を誘うマルシャル院長。
暗に二人きりで話したいというそれに特に拒否する理由も無かったため、私は一つ頷いた後に彼女の後ろを付いて行く。
・・・と、そこでふとアルクはどうするのかと気になった。
「あ、そうだ。アルクはどうする?このまま帰るか?」
「ううん。僕はクーリィの事を手伝います。さすがにこの広さの畑を一人でやるのは大変そうだし・・・」
「そうか・・・それじゃあ私が戻るまでそっちは頼んだ」
「はい。フェルヌスさんが戻って来るまでに終わらせられるように頑張りますね」
そうして、私はアルクに向かって任せたと言いながら孤児院の中へと足を進め、彼はそんな私の背中を手を振りながら見送るのであった。
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