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【改訂版】カオスゲート・サーガ ~大魔王と勇者の冒険譚~  作者: Kudo
第2章 ~大魔王と少年と交易都市~
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第2章第22話 ~大魔王と悪魔 4~

2021年1月21日に文章内容の大幅修正と一部追加をしました。

2021年10月14日に文章の一部変更をしました。



「さて・・・それじゃあそろそろこの戦いを終わらせるとしようか」


「終わらせる、だとぉ・・・!?大きな口を叩きおったな、貴様ぁ・・・!」


 幾十幾百と互いの武器で斬り結んでいた私とグベイザーの戦いは、いよいよ佳境に差し掛かろうとしていた。


「ハァッ!」


「ヌゥンッ!?」


 私はチャキリとショートソードを構えるとグベイザーに向けて六つの斬撃を放つ。

 その斬撃をグベイザーは何度目か分からない二振りの岩石の大剣を使った防御法でもって防ぐ。


「シッ・・・!」


「ヌゥ・・・!?」


 グベイザーが攻撃を防いだ瞬間、私は体を沈ませながらかの悪魔の目の前へと接近し、そして勢いよく体を起こしながら強烈な蹴り上げの一撃を放ち、二振りの岩石の大剣を破壊した。


「ヌァッ!?わ、我の剣が・・・!?」


 自らの武器が破壊されたことに動揺し、一瞬茫然となるグベイザー。

 そして、その隙を私は見逃さない。


「―――ふっ!せいっ!」


「グアアァァァッ・・・!?」


 Vの字に剣を振り下ろし、斬り上げて、グベイザーの両肩から先を切り飛ばす。

 己の両腕を喪失したグベイザーは痛みに呻き、泡を吹きながら一歩二歩と後退った。


「どうだ、私の剣の腕は。中々のモノだろう?」


「お、おのれぇ・・・!?これで勝ったと思うなよ・・・!―――フンッ!!」


 私がニヒルな笑みを浮かべて見せると、グベイザーは悔しげな唸り声を上げながら両足を肩幅に開いてほんの少し膝を曲げ、「オオオオオオオッ・・・!!」と声を上げ始めた。

 それはまるで力を溜めている様な感じであり、その様子を「いったい何をしているんだ?」と思いつつ見ていた私は、次の瞬間に起こった光景を見て驚きに目を見張った。


「オオオォォォオオォォオオオオッ・・・!―――ハァッ!!」


 雄叫びの様なグベイザーのその声に呼応する様にかの悪魔の体から黒い霧のようなモノが噴出し、それが両肩に集まると無数の泡の様な状態となり、それから膨張し、伸びていくと、数秒後にはそれが先程失った筈の両腕となっていたのだ。


「再生能力・・・!?”悪魔種(デーモン)”にそんな力なんて無かった筈・・・!」


「クククッ・・・!随分と驚いている様だが、別に何も不思議な事ではないのだぞぉ?そもそも、此処が何処だか忘れていないか?」


「墓地・・・墓場・・・ッ!そうか、そういう事か・・・!【陰力吸収】の効果か・・・!」


 【陰力吸収】とは、”悪魔種(デーモン)”がデフォルトで持っているもう一つのスキルであり、負の感情が渦巻く場所であればリジェネ効果を得られるようになる能力だ。その回復量は負の感情が濃ければ濃いほど上昇していく。

 ・・・まあ、その逆に正の感情が濃い場所では回復するのではなくダメージを負っていくデメリットがあったりするが。


「その通り!言わばこの場所は我のホームグラウンド同然。つまり、この場にいる限り貴様が我を倒すことは不可能だ!―――そして、この地に満ちる負の感情をエネルギーに変えて放つ我が必殺技にて、この戦いを閉幕としてくれる・・・!」


 そう語ったグベイザーは胸を反らし、腕を広げ、周囲に満ちる負の感情を吸収し始める。そしてバッ!とこちらに向けて両の腕を伸ばして掌を向けると、その先にエネルギーとして変換したそれを集中させていく。


「”暗黒の炎よ。今ここに顕現し、我が敵を蹂躙し、破壊し、滅ぼし尽くす力を与え(たま)え”・・・!―――《ダークネスメテオ》ォォ!!」


 グベイザーの掌の先でボッと黒い光を纏わせる小さな種火が点いたかと思ったら、次の瞬間には彼の身の丈を越えるほどの巨大な火球へと膨張した。

 グベイザーが発動した《ダークネスメテオ》は、火と闇の属性を複合させた火球を相手に向けて放ち、着弾した瞬間に大爆発を起こして周囲にあるモノを焼き尽くす範囲攻撃を行う魔技だ。それは尋常ではない灼熱の様な熱気を周囲に発し始め、それを受けた墓石は焼け融けていき、大地は溶岩化していく。


「跡形もなくぅぅ、燃え尽きろぉぉぉーーーっ!!!」


 私に向けて押し出すように《ダークネスメテオ》を射出するグベイザー。その顔は自身の勝利を全く疑っていない、勝ち誇った様な笑みを浮かべていた。


「フェルヌスさん!」


「ああ・・!?」


 アルクとクーリィの悲鳴の様な声が聞こえる。おそらく、かなり離れている筈の自分達の所にまで火球の熱気が感じられることに焦燥感を覚えたのだろう。巨大な慰霊碑の影から覗かせたその顔はこちらを心配する様な表情を浮かべていた。


「クハ、クハハ、クハハハハハッ!さあ死ねぇ!死んでしまえぇ!!」


 己の勝利を確信してか、高笑いを上げるグベイザー。


「クハハハハハハッ―――・・・ハァッ!?」


 だがそれは、次の瞬間に起こった光景を目にして驚きの声を上げながら止まった。


「フンッ・・・!」


 何故なら、こちらに迫り来ようとする黒光を纏った巨大な火球を私が真正面から、しかも左の掌だけで受け止めたからだ。


「な、なん、なんだとぉぉぉーーーッ!?!?」


 轟音と灼熱の熱気を放つ《ダークネスメテオ》を片手で受け止めてまったく子揺るぎもしていない、どころか焼かれてすらもいない私の体を目にしたグベイザーは、目玉が飛び出るのではないかと思える程に両の目を驚きに見開いた。

 まさか自身の必殺技が受け止められるとは思ってもみなかったのだろう。かの悪魔は開いた口が塞がらないと言わんばかりにガクンと顎を落としていた。


「残念だったな・・・・この程度の攻撃は私には効かないんだよ」


 グベイザーに向けて、私はニィィッと三日月の様に裂けた笑みを浮かべて見せる。

 その笑みを目にしたかの悪魔は瞳に恐怖の色を滲ませた。


「ば、馬鹿な・・・!こんな馬鹿な事が・・・!?た、確かに、我は我の攻撃を平然と受け止められる存在がいる事は知っている・・・!だが、だがそれは、我よりも高位の”悪魔種(デーモン)”や我等”悪魔種(デーモン)”と敵対する存在である天使共くらいの筈・・・!下等種族である筈の人に受け止められるなど、そんな、そんなこと、信じられん・・・!?」


 理解できない、したくも無いとでも言いたげに口元をワナワナと震わせながらグベイザーは数歩後退る。


「(だ、ダメだ・・・!勝てない・・・勝てるわけがない・・・!!逃げねば・・・ここは一度逃げて体勢を立て直さねば・・・!!)」


「くっ!?」


 そして、本能が命の危機という警鐘を鳴らしたからなのか、グベイザーは背中に隠していた翼をバサリと広げると、地面を蹴ってその場から飛んで逃げようとした。


「逃げるつもりか?―――まあ、当然させんがな・・・!」


 ―――しかし、それを私が見逃す筈がなかった。こちらに背を向けて飛び立つグベイザーの姿を目にした私は、さっきから左手で受け止めていた《ダークネスメテオ》を両手で抱える様にグワシッ!と鷲掴(わしづか)む。

 そしてそれを大きく振り被り、飛んで逃げようとするグベイザー目掛けて勢いよく投げた。


「あ、ありえない・・・!ありえないありえないありえないぃ・・・!!こんな、こんなこと、ありえる筈が―――!!?」


 己の放った《ダークネスメテオ》が己へと投げ返されるという光景を目にしたグベイザーは、信じられないと言いたげにそう呟き、そしてその言葉を最後に、かの悪魔の体は闇色の黒光が混じった爆炎の中に呑み込まれた。








 《ダークネスメテオ》の闇色の爆炎に包まれて消えたグベイザーの姿を鋭い視線で一瞥した後、私は踵を返すとアルク達が隠れている巨大な慰霊碑へと向かった。


「二人共、もう出て来ても大丈夫だぞ!」


「あ、はい。分かりました!ほら行こう、クーリィ!」


「う、うん」


 私がもう大丈夫だと声を掛けると、真っ先に反応したアルクが隠れていた慰霊碑の影から姿を現した。それから彼は、同じく隠れていたクーリィを連れて、私の下へと駆け寄って来た。


「凄いです、フェルヌスさん!悪魔に勝ったんですね!」


「まあな。あの程度の相手であればどうという事は無いさ」


「お兄ちゃん。このお姉さん、すっごく強いんだね・・・!」


「ああ、当然さ!なんたって僕の師匠なんだぞ!それに、フェルヌスさんはドラゴンだって倒したことがあるんだ!」


「ドラゴンを・・・!?凄い凄ーい!」


 戦闘が終わって一先ずの安心感を得たからだろうか、和気藹々(わきあいあい)な雰囲気で私がどれだけ凄いのかを語るアルクと、その話を聞いて凄いという言葉を連呼するクーリィ。

 そんな二人の様子に私は気恥ずかしさの様なものを感じながら、内心でその微笑ましいやり取りをもっと見ていたいと思っていた。

・・・が、()()()()()()()()()()()私は、その気持ちを押し殺してパンパンと手を叩いた。


「はいはい、一安心して浮かれているのは構わないが今はここから離れるのが先決だぞ。・・・アルク。すまないが、先にその子を連れて冒険者ギルドに向かっておいてくれないか?」


「え・・・?良いですけど、一緒には行かないんですか?」


「後で向かうから」と私が言うと、アルクは何故?という感じに不思議そうに首を傾げる。

そんな彼に私は、「そうしたいんだが・・・」と言いながら苦笑を浮かべた。


「その前にちょっと後片づけをする必要があってな・・・なに、そう時間は掛からないから心配しなくていい」


「だから先に行っててくれ」と私が軽く笑みを浮かべながら言うと、アルクは戸惑いつつも「分かりました」と頷いて、クーリィの手を引いて墓地の出入口へと向かっていった。


「・・・・・・・・・行ったな。・・・さて、と・・・それじゃあとっとと後片付けを済ませるとしようか」


 墓地から出ていき、遠く離れていくアルク達の姿を見送った私は、彼等の姿が見えなくなった後で踵を返し、墓地の奥へ向かって歩き出した。

()()()()()()()()()()()()()()()()()








「グッ・・・!ガハッ・・・!?―――ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・!お、おのれぇ、下等生物風情が・・・!よくも、よくも我をこのような目にぃ・・・!!」


 墓地の最奥。位置的には交易都市ライファの外壁が存在する外周部にて、一つの黒い影が地面を這いずっていた。

 その黒い影の正体は、先程 《ダークメテオ》の爆炎に呑み込まれて消滅したと思われていたグベイザーであった。

 彼の体は全身の至る所が焼け爛れ、煤に塗れており、一部は炭化すらしてしまっていた。いくらその体が魔力で作られた仮初のモノであるが故に痛覚などが鈍いとは言え、それでもここまでの怪我を負ってしまえば流石に痛みを無視する事などできはしない。

 己が全身を(さいな)む激痛に顔を顰めていたグベイザーであったが、しかしかの悪魔はその痛みを我慢して体を動かしていく。その様子はまるで何かに急かされているような、追い詰められている様な、そんな印象が感じられた。


「と、特にあの女ぁ・・・!か、体の再生が終わったら、絶対に復讐してやるぅ・・・!」


 【陰力吸収】の効果で周囲から負の感情を吸収して肉体の再生に当てていたグベイザーは、内心で自身の体を傷だらけの状態にした元凶であるフェルヌスに対して苛立ちと怒りの感情を抱きながら呻くように呟く。


「ほう・・・?そんなボロボロの状態になっているというのに、それだけの気概を保てているとは、正直驚きだ」


「―――ッ!?」


 そうして頭の中でどんな風に彼女に復讐をしてやろうかと考えていた時だった。聞き覚えのある声がグベイザーの耳に届いたのは。

 頭の中が真っ白になり、「そんな、嘘だろう・・・!?」と小さく呟きながら声が聞こえてきた背後へと視線を向ければ、そこには頭に獣耳を生やした銀髪の少女―――フェルヌスが顔を俯かせ、前髪で目元を隠しながら立っていた。


「よう。良い格好だな、”悪魔種(デーモン)”」


「な、何故・・・!?どうして・・・!?」


 胸中に恐怖と絶望の感情を抱きながらも「どうしてここに・・・!?」と声を上げようとするグベイザーであったが、しかし上手く口が動かずキチンとした言葉が出てこない。

 そんなグベイザーの様子を見たフェルヌスは、かの悪魔が何を言おうとしているのか察したのか、「ああ・・・」と呟いた。


「どうしてお前が生きていることが分かったのかって・・・?別に不思議な話じゃあない。単純に、()がお前達の常套(じょうとう)手段を知っていただけの事さ。お前達”悪魔種(デーモン)”は、死にそうになったら身代わりとなる影を―――《シャドウエスケープ》で作った己の分身を囮にして逃げ出すってな。・・・往生際の悪いお前達の悪癖だろう?」


「・・・ッ!?」


 フェルヌスが口にしたその言葉に、グベイザーはヒュッ!?と息を飲んだ。

 そう、フェルヌスの言う通り。あの時、《ダークネスメテオ》の闇色の爆炎に呑み込まれたグベイザーは 《シャドウエスケープ》―――”己のHPの三分の一を削って作り出した分身を囮にして短距離転移を行う”という魔技を発動し、その場から逃げていたのだ。

 ・・・とは言え、転移できる距離が短距離という事もあって、先程まで戦っていた場所から精々数十m程度しか離れていなかったが。

 しかし、その考えはフェルヌスに見抜かれていた様であった。現にこうして居場所を特定されているのだから。


「まあ、体が焼け焦げているのは転移するまでに時間が掛かってしまったせいだと分かるんだが・・・なんか、それにしては焼かれ過ぎじゃないか?どれだけ手間取っていたんだよ・・・・・・」


 グベイザーの状態を見たフェルヌスは、少しだけ懐疑的な視線をかの悪魔に向ける。

 彼女のその指摘は正解であった。事実グベイザーは 《ダークネスメテオ》を投げ返された光景を目にした事で驚きのあまり一瞬体を硬直させ、そのせいで 《シャドウエスケープ》を発動するのが遅れてしまい、爆炎に体を焼かれてしまったのだから。

 だが、その視線を向けられている当の本人 (本悪魔?)であるグベイザーはと言えば、フェルヌスの言葉を無視して彼女から離れようと必死になって手足を動かしていた。


「グゥッ・・・!?し、死んで堪るか・・・!無様でも・・・!愚かでもいい・・・!今回自身が被った敗北と言う名の汚点など、一度逃げ切った後で機会を伺い、絶好のタイミングで晴らせばいい・・・!今は唯、如何にしてこの女から逃げられるかを考えなければ・・・・・・!!」


 ヒィヒィと息を吐きながら、地面を這いずるグベイザー。先程の戦闘で、目の前の女(フェルヌス)が、自身よりも圧倒的に強い存在なのだということを理解していたかの悪魔は、最早悪魔としてのプライドも下等種族などに追い詰められた事に対する恥も、何もかもを意識の外に追いやってただ生き残る事のみを考えていた。

 だが、グベイザーのその考えが―――否、妄想が現実になることなどありはしなかった。フェルヌス(大魔王)という存在に敵として認識された時点でかの悪魔の運命は既に決まっており、最早何もかもが手遅れだった。


「―――ッ!?」


 ピュンという風を切る音が鳴る。

 その音が何なのかという疑問を覚えつつ己が右腕を前に伸ばそうとしたグベイザーであったが、何故かその右腕を動かすことが出来なかった。

 何故と思いつつ己の右腕へと視線を向ければ、そこでようやくグベイザーは己の右腕の肩から先が無くなっていることに気付いた。


「な、何が・・・・・・ッ!?」


 思わず自身の右腕があった場所を呆然と見ていたグベイザーであったが、しかしそこでまたしてもピュンと言う風を切る音が鳴った。


「グ、グオオォォォオオオ・・・!?そ、そんな・・・そんな・・・!?何故だ・・・!わ、我の腕が、足がないぃぃッ・・・!?」


 音が聞こえたと思った瞬間、右腕だけでなく左腕と両足の感覚まで無くなった事に気付き、湧き上がってくる熱と痛みにのたうち回るグベイザー。

 痛みによる悲鳴を上げながら、あの時一瞬聞こえた音が己の手足を奪ったのだろうという事と、それを行ったのが後ろにいるフェルヌスだろうという事は理解できたが、しかしいったいどうやって奪ったのか、その影すらも見る事ができなかった事に、かの悪魔は体を恐怖に震えさせた。

 そして、そんな哀れな芋虫の様に体を震わせているグベイザーの元へザッザッと足音を響かせながらフェルヌスが近づいていく。


「こらこら、何を勝手に逃げ出そうとしているんだ?人の話は最後まで聞くものだぞ?」


 溜め息を吐きながらそう呟くフェルヌス。

 近づいてくる足音と共にその声を耳にしたグベイザーは、自身の体をより一層震えさせた。


「ひ、ひいぃぃぃぃぃっ・・・・・!?・・・く、来るな・・・!来るなぁ!?―――グフゥッ!?」


 身を捩り、必死になってその場から逃げ出そうと体をじたばたとさせるグベイザーであったが、しかし四肢を失った体でまともに動ける筈もなく、かの悪魔の体はフェルヌスの足に踏まれて地面に押さえつけられた。


「あっ・・・あぁ・・・!?ば、化け物・・・・・・!!」


 呻き声を上げつつ自身の体を踏みつけるフェルヌスへとグベイザーは視線を向ける。そして、そこでかの悪魔は三日月状に裂けた様な禍々しい笑みを浮かべた彼女の姿を見て―――ゾッとした。

 フェルヌスの口元は確かに笑みの形を浮かべてこそいたが、しかしその紫色の瞳はグベイザーを追い詰めていく事を楽しんでいる様には見えなかった。どころか、喜怒哀楽の感情全てが感じられない。爛々と輝かせてこそいるものの、その瞳から感じられるのはただただ冷え切った殺意だけ。

 冷徹に、冷酷に、冷淡に殺意を振り撒くその姿は、グベイザーにはまるで殺意が凝り固まった様な化け物にしか見えなかった。


「化け物だと?何を言ってるんだ、お前は・・・?」


 思わずと言った感じのグベイザーの呟きにフェルヌスはそう返す。

 だがその声音には温かみなど一切感じられず、極寒の吹雪のごとき冷ややかさを放っていた。

 現在のフェルヌスの状態を言葉で言い表すのであれば、おそらくこの言葉が適切だろう。―――”静かにブチギレている”と。

 そもそも、どうして彼女がそんな状態になっているのかと言えば、その理由は単純明快だ。

 ”アルクを殺そうとしたから”。それが彼女がブチギレている理由であった。

 以前あったエビルモークドラゴンとの戦闘時にも、かのドラゴンによってアルクが殺されかけた事があり、その際にもフェルヌスは己の胸中から激情が沸き上がって来るのを感じてそのままブチギレた事があった。

 だがあの時は、敵対していたエビルモークドラゴンだけでなく、死ぬことを受け入れようとしたアルクに対する怒りもあったので、結果的にではあるが激情を向ける矛先が分散していた。

 ―――しかし、今回は違う。今回アルクは死を受け入れようとはしなかった。生きることを諦めなかった。

 だからこそ、そんなアルクを殺そうとするトロールや彼等を従えるグベイザーという”悪魔種(デーモン)”に対してのみ、フェルヌスは強い怒りや殺意といった激情を抱いていた。

 ()()()()()()()()()、湧き上がったそれらの感情に任せて獣の様に暴れていただろう。―――だが、()()()()()()()

 怒りが怒髪天を突き、一週回って冷静に―――というよりも、絶対零度の如き冷たさを発する様になり、その思考は”滅ぼすべき敵”として認識したグベイザーをどうやって滅ぼし尽くそうかと、その一色に染まっていた。

 本来ならグベイザーなんて雑魚は一瞬で倒す事も可能だというのに、()()()()()()()()()()()()()()()()のもそのせいだ。

 アルクに、自身の身内に手を出した相手を一瞬で殺してあげるなんて優しい事はしない。徹底的に恐怖と絶望を叩き込んだ後に、惨たらしい死に様を与えんが為に。

 今のフェルヌスには慈悲や情けを掛けるといった考えも、容赦をしてやるといった見下すような考えすらもありはしない。

 あるのは唯一つ。”己の敵をブッ潰して、ブッ壊して、ブッ殺して、跡形も残さず滅ぼし尽くす”という、強迫観念の様な何かであった。


「まあ、そんなことはどうでもいいか。さっさと後片づけを始めないとな・・・」


 フェルヌスはそう呟くと、己の指をパチンと鳴らした。

 その瞬間、彼女の背後に四つの魔方陣が出現し、その中から這い出て来る様に、蛇の様な長い体をした、しかし目鼻が無く大きな口しか存在しない生物が何体も姿を現した。


「しょ、【召喚魔法】・・・!しかも無詠唱でだと・・・!?―――い、いや、それよりも『暴食虫(グラトニーワーム)』だと・・・!き、貴様、何故それを呼び出した・・・!?」


 先程フェルヌスが発動したのは《召喚(コール)》―――”【契約魔法】を施した対象を自身の下へと呼び出す”という魔技であり、それによって呼び出したのは『暴食虫(グラトニーワーム)』という魔界に生息している芋虫型の魔物(モンスター)であった。

 暴食虫(グラトニーワーム)は『カオスゲート・オンライン』のプレイヤーの間でも有名な魔物(モンスター)であったが、ただしそれは別に強いからという理由ではない。どちらかと言えばその逆で、獲物に向かって食らい付こうと真っ直ぐ直進するだけの、戦闘能力が無いに等しい魔物(モンスター)であったからだ。

 実質、その強さは最弱の魔物であるゴブリン以下。単体では然程脅威足り得ず、一般人でも武器を振るえば簡単に倒す事が出来てしまえる。

 だがしかし、それが群れを成した場合には話は変わってくる。

 彼等は自らの死を恐れない。自らの同胞の死を悲しまない。あるのは唯”食べたい”という欲求だけであり、時に彼等はその食欲故に自らの同胞さえも食らおうと襲い掛かるのだ。

 そんな魔物(モンスター)を何故フェルヌスは呼び出したのか?


「―――ま、まさか・・・まさかまさかまさか・・・!?貴様ぁっ・・・!?」


「どうやら、どうしてコイツ等を呼び出したのか気付いたようだな?―――そう。後片付けをする(お前を殺す)為さ」


 暴食虫グラトニーワームについての詳細を思い出したグベイザーは、彼女がしようとしている事を察して思わず戦慄し、頬を引き攣らせた。

 暴食虫(グラトニーワーム)には、唯一つだけ保有しているスキルがあった。それは【暴食】というスキルであり、その効果は名前の通り無闇矢鱈と物を沢山食べる事だ。

 それだけ聞くと、何の役にも立たなさそうなスキルだと思えそうだが、しかしこのスキルの真骨頂は”この世に存在するありとあらゆる物を食らう事ができる能力を得ること”であり、一般的に食べ物と認識されていない物であっても食べられるようになる事だ。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。物質としてあろうがなかろうが関係なく、存在しているのであればそういったモノすらも当然の様に食らう事ができるようになるのだ。


「コイツ等なら肉も、骨も、血の一滴も―――そしてお前の魂すらも残さずに全部食らい尽くしてくれるからな」


 「”後片付け”には持って来いだろう?」と言うフェルヌス。

 グベイザーを見下すその顔には、ニンマリと暗い笑みが浮かんでいた。


「―――さあ、無様に食われながら死に果てろ。この畜生が」


「ギ、ギャアァァァァッ!?」


 そしてその言葉を合図に暴食虫(グラトニ―ワーム)達は一斉にグベイザーの体へと飛び掛かり、その肉体を生きたまま貪り食らい始めた。

 数にして数十匹程はいるであろう彼等は次々とグベイザーの体へと群がり、肉を噛み千切り、内臓を引き摺りだし、骨を噛み砕き、地を舐め啜り、どんどんどんどん咀嚼(そしゃく)しては飲み込んでいく。

 そして暴食虫(グラトニ―ワーム)達がグベイザーの体を食べ始めて数分が経った後、その場に残されていたのは抉られたような穴が空いた地面だけであり、かの悪魔がいた痕跡なんてものは肉の一片、骨の一欠片、血の一滴すらも残ってはいなかった。






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