第2章第18話 ~外壁門での出来事~
第17話に乗せていた一部内容をこちらに移しました。
2023年2月23日にセリフの一部を変更しました。
「ふぅ・・・ようやく終わった。まったくギルドマスターめ、いったいどれだけ私に仕事を任せるつもりなんだか。・・・いやまあ、儲けさせてもらってもいるから、一概に文句ばかりじゃないんだが・・・・・・」
そろそろ日が傾き始める時間帯。冒険者ギルドのギルドマスターであるモールテスから出された魔物討伐の依頼を受けて交易都市ライファの南にある森に出向いていた私は、目的であった魔物の討伐終えて都市へ帰ろうと街道を歩いていた。
「今現在の冒険者ギルドの事情も分かっているつもりだけれど、それでも一日の内に十件前後の依頼を出すのは流石にどうかと思うがなぁ。それもC~Aランクのやつばかり。・・・まあ、討伐対象の生息域に合わせて揃えられていたから、気配りが利いていると言えば、効いているのかもしれないが」
「それでも任せ過ぎじゃないだろうか?」と呟きながら、私は街道をテクテクテクと歩く。
「・・・ん?なんだあれ?」
そうして、もうすぐ交易都市ライファが見えてくるであろう所にまで戻って来た時、私は都市の外壁に向かって近付いていく土煙の存在に気付いた。
「魔物の襲撃か?・・・にしては、どうにも様子がおかしいな?」
土煙を起こしていたのは、どうやらゴブリンやオークといった魔物の群れのようだったが、かの魔物達の様子を見た私は、不思議そうに首を傾げた。
私がおかしいと思ったのは魔物達の視線だ。比較的近い距離に私がいるというのに、そちらには一切目を向けずに真っ直ぐ前だけを、交易都市ライファだけを一心不乱に見ているのだ。
加えて、かなり興奮もしているらしく、何度も雄叫びを上げる様はまるで何かに酔っているかの様であり、傍から見れば一種異様にも感じられた。
「オークはともかく、女と見れば積極的に襲い掛かって攫おうとするゴブリンが全く来ない・・・どころか、視線すら向けないのは明らかにおかしいな」
「ふむ・・・」と顎に手を当てた私は、ちょっと一当てしてみようかと考え、魔物の群れに向かって駆け出した。
「シッ・・・!」
とりあえず様子見という事で、背中に背負っていた鞘からショートソードを抜いた私は、群れの最後尾にいたオークの背中に斬り掛かった。
勿論、反応を見る為に敢えて倒さない様に手加減してだ。
「ブヒャッ・・・!?グオォォッ!!」
背中を斬られたオークは一瞬呻き声を発した後、腕を振り回してこちらに向けて裏拳を放ってきた。
「おっと・・・・・・うん?」
「ブヒッ!ブヒブヒッ!」
「・・・あれ?」
当然それを余裕で躱す私だったが、しかしその後に目にしたオークの行動には疑問の声を上げてしまった。
驚くべきことにオークは裏拳を放った後すぐに私から視線を外して、交易都市ライファへ向けて再び駆け出したからだ。その様子はまるで、お前なんかに構っていられるか!と言っているかの様に。
ついでに言えば、先程のオークとは別のオークやゴブリン達も私の事を完全に無視していた。すぐ近く、目の前にいると言ってもいい距離なのに、だ。
最早異様を通り越して異常であった。
「一体何なんだ?・・・って、ん?なんだこの匂いは?」
私は魔物達の行動に首を傾げつつ、辺りに散らばった紫色のオークの血から立ち昇る血生臭さ感じて少し眉を顰めていた私であったが、ふとそこで何処からか別の匂いが―――いっそ胸焼けしそうなくらいに甘ったるい匂いが漂って来ている事に気付いた。
匂いの出所はどうやら交易都市ライファの外壁門辺りからのようで、そこから風に流されて此処まで届いて来ているらしい。
その事に気付いた私は「まさか魔物達の様子がおかしいのはこの匂いのせいか?」と思いつつ、魔物達を追いかける様に外壁門へと向かう。
そして私が外壁門の近くに到着した時、丁度そこでは二十人ちょっとの武装した者達―――恰好から察するに、騎士が二人に門兵が十人、冒険者が十人といったところだろうか―――が都市に近づいてくる魔物達を討伐しようと手に持っている武器を振るっているところであった。
「ギギャッ!ギギャッ!」
「はあぁぁぁっ!!」
「ギギギャッ・・・!?」
「おおぉぉらぁぁぁっ!―――よし、今だ!」
「任せろ!セェェイッ!!」
「とりゃぁぁぁあああっ・・・!!」
「ブグフゥ・・・!?グヒッ・・・!グブゥゥ・・・・・・」
「この・・・!それ以上近づくんじゃないよ、このゴブリン共が・・・!!」
「ギヒィッ!?」
「ギャッギャッ!ギャアァァァッ・・・!?」
現在外壁門に集まっている魔物の数は約三十体前後。既に討伐されてる数も含めると五十体近くになるだろうか。その魔物達を外壁門を守っている者達は片手剣で斬り裂き、長い槍の矛先で貫き、両手持ちの槌で叩き潰し、構えた弓から矢を放って次々に屠っていく。
その動きに淀みはなく、まるで慣れた作業を熟しているかの様な彼等のその姿に、私は思わず「へぇ・・・」と感心した様な声を零した。
「あの様子なら、私が手を貸さなくても彼等だけで十分に魔物の群れを討伐できるだろうな・・・・・・って、あれは」
彼等の戦っている様子からその力量を察してそう呟いていた私であったが、そこでふと己の視界の端に外壁門へと迫り来る新たな魔物の群れを捉えた。
数は五体と少ないのだが、しかしその姿を確認した瞬間私は、「むぅ・・・」と声を漏らした。
「あれは、『チャージリザード』か・・・?アイツ等までこの匂いに引き寄せられたのか」
『チャージリザード』とは、見た目は全長二mの全体的に茶色いトカゲであり、主に襟巻の様に首回りに生えている鋭く尖った棘で攻撃しているBランク相当の魔物だ。しかもその棘は前後に動かすことも可能で、前面に向けた後に繰り出される突進攻撃は、防御する事が非常に難しい。加えて鱗もそこそこ硬く、そん所其処らの鈍の武器では簡単に弾かれてしまう程だ。
ただ、棘の下に隠されている首の肉は非常に柔らかいので、突進攻撃の際にそこをすれ違いざまに攻撃すれば比較的簡単に倒す事が出来たりするのだが・・・・・・
「あの様子じゃ倒すのは無理そうだな」
そう呟いた私の眼前では、チャージリザードに追いかけられ、逃げ惑う冒険者達の姿があった。
『キシャァァァーーーッ!!』
「ちゃ、チャージリザード!?嘘だろう!?」
「こんなのまで来るなんて、いったいどうなってんだよ今日はぁぁッ!?」
「チクショウ!来んな!こっちに来んじゃねぇぇッ!?」
「ええい・・・!いったい何をやってるのであるか、貴殿等は!?冒険者だろう!この程度の魔物なぞさっさと討伐してしまうのである!!」
「無茶言うなよ!?アイツ等はBランクのモンスターだぞ!?一体だけでもCランクの俺達の手に余るっているのに、それが五体もなんて相手できるかぁッ!!」
「腰抜け共め・・・!ならば私が倒してくれる!!食らえトカゲ―――グボワアアァァァッ!?!?」
「ギャァァァッ!?騎士が一人轢かれたぁぁッ!?」
「先輩ーーーッ!?って、ちょっ、こっちにも来―――グッハァァァッ!?!?」
「もう一人も轢かれたぁぁぁッ!?」
「というか凄ェなあの二人・・・!轢き飛ばされるだけであの棘に刺さらないなんて、どんだけ運が良いんだよ・・・!?」
チャージリザードの突進攻撃を受けて吹き飛ぶ騎士二人。そしてその光景を見て叫びつつ、別の意味でも戦慄している冒険者達や門番の兵士達。
そんな色々な意味でカオスになっている外壁門の状況を目にした私は、「やれやれ」と息を吐きつつ背中に背負っている鞘からショートソードを引き抜くと外壁門へ向かって駆け出した。
「仕方がない。助けに行くとするか。―――《瞬歩》!」
《瞬歩》―――”足裏から気を噴射させ、その勢いを利用して高速移動する”という戦技を発動しつつ地面を蹴った私は、比較的に近くにいたチャージリザードの一体に狙いを定める。
そのチャージリザードは冒険者達や門番の兵士たちに向かって突進攻撃を行おうとしていたところであったらしく、丁度首回りの棘を前面に向けていたので、その顕わになっている肉質が軟らかい首の部分に向けて私は素早くショートソードを振るった。
「シッ・・・!」
「ギバァッ・・・!?」
短い悲鳴が上がると共にポーンと飛ぶチャージリザードの首。
それを目にした冒険者達及び門番の兵士達は「・・・は?」と呆けた声を漏らす。
「ハッ!」
「ジャギャッ!?」
「セイッ!」
「ギャッ・・・!?」
「まだまだ・・・!」
「ギィィィッ!?」
そんな彼等の様子を視界の端に捕えつつも無視して次々と他のチャージリザードへ斬り掛かって行く。
ヒュンヒュンと剣を振るう度にポーンポーンとチャージリザードの首が飛んで行く。
「これで最後!」
「シャギィッ・・・!」
「む・・・!」
そうして合計四体のチャージリザードの首を切り飛ばした後、最後の一体に向かって斬り掛かった私だったが、しかしその一撃は体を捻らせ、首の棘を動かして受けた事で防がれた。
おそらくは同族が次々とやられていくのを見て危機感を抱いたのだろう。死の間際に見せたその超反応によってショートソードはギャリギャリギャリと音を立てながら棘の上を滑り、弾かれた。
「ギシャアァァァ!!」
「・・・ッ!」
剣が弾かれた事で崩れた体勢を立て直そうと一度後ろに跳んだ私であったが、それを隙と見たのかチャージリザードは上空へ大きく跳び上がり、私に噛みつかんとしてかズラリと鋭い牙が並んだ口を大きく開けて襲い掛かって来た。
「―――《ライトニングボルト》!」
「シャギャァァァアアアーーーッ!?!?」
だが、その攻撃易々と受ける私ではなかった。
跳び上がったチャージリザードに向けて、掌から《ライトニングボルト》―――”相手に向けて直進する電撃を放つ”という【雷属性魔法】の魔技を掌から放つ。
それを食らったチャージリザードは断末魔の悲鳴を上げ、次の瞬間には全身黒焦げ状態となってドスンという音を響かせながら地面に落ちた。
「ふぅ・・・」
チャージリザード達との戦闘を終えた私は一息吐くと、右手に持つショートソードを振るって刃に付いていた血糊を払い飛ばして背中の鞘に納める。
「・・・・・・ん?」
そこでふと、自身の獣耳がザッという地面が擦れる音を捉えた。
何の音だろうと思い振り向けば、そこには戸惑いの表情を浮かべる冒険者達及び門番の兵士達の姿があった。
「・・・アンタ、いったい何者だ?」
その中の一人―――彼等の中で一番体格のいい男が前に出てきた。
恰好から見るにおそらく冒険者達の中でもリーダー的な立場にいる人物なのだろう。彼は私に対して警戒しながら何者かと問い掛けてきた。
「お前達と同じ冒険者だよ。依頼を受けて都市の外に出ていたんだが、その帰りに魔物に襲われているお前達の姿を見かけてな。手助けしようと思って来たんだが・・・・・・余計なお世話だったか?」
「・・・いや、正直言って助かった。俺達じゃチャージリザードをどうにかする事はできなかったからな。だが、冒険者ねぇ?俺はアンタみたいな別嬪さんを此処らで見かけたことはないんだが・・・・・・本当か?」
「嘘じゃないさ。気になるならこの都市にある冒険者ギルドでギルドマスターをやっているモールテスに確認するといい。私の冒険者登録をしたのは彼だからな」
苦笑を浮かべながらそう答えると、どうやらモールテスの名前を出したことが信用する決め手になったようで、男は強張らせていた表情を緩ませて「そうか」と安堵の息を吐いた。
「いや、悪かった。ここんとこ嫌な出来事が続いていたもんでな。変に疑っちまった」
「別にいいさ。突然知らない人物が現れたら警戒するのは当然だ。気にしちゃいない」
「そう言ってもらえると助かるよ。―――ああ、そう言えば自己紹介がまだだったな。俺の名前は『オリバー』。Cランクの冒険者だ」
「よろしく、オリバー。私の名前はフェルヌス。そちらと同じCランク冒険者だ」
私に対して疑って悪かったと謝った後に自己紹介をしつつ手を差し出す男―――オリバー。
それに倣う様に私も自己紹介をしながら手を伸ばし、彼と握手をする。
「ところでちょっと聞きたい事があるんだが、今この都市でいったい何が起こっているんだ?」
そしてお互いに手を離した後で、私は「依頼で都市から離れていたから、状況が掴めないんだが・・・」とオリバーに尋ねた。
それに対してオリバーは、「あ~、実はな・・・」と私に今この都市が陥っている状況を説明してくれた。
まずオリバー達についてだが、どうやら彼等は最近このライファ領で起こっている誘拐事件の調査依頼を受けていた冒険者であったらしい。・・・で、その調査が一区切りついたので一旦都市へ帰ろうとしていた際に、西、東、南の三つの方角から都市へと迫る魔物の群れを発見し、それに対応するために現在都市に残っている冒険者達や門番の兵士達、騎士達と共にそれぞれの方角に面した外壁門で防衛に当たっていたらしい。
最初は二十~三十体程の低ランクの魔物の群れだったそうだが、時間が経つにつれて徐々にその数を増やし、まるでわんこ蕎麦の如く次から次へと襲いかかって来たらしい。しかも、ランクも徐々に上がって来ていたそうで、迎撃も難しくなって来ていたそうだ。
「なるほど・・・私が離れている間にそんな事になっていたのか。―――ああ、そうだ。もう一つ聞きたい事があるんだが、さっきからこの辺一帯に漂っている甘ったるい匂いについて何か知っているか?」
「甘ったるい匂い、だと?」
説明を聞いて納得する様に頷いた後で私は、先程から気になっていた外壁門一帯に漂っている匂いに付いて何か知っているかとオリバーに尋ねた。
だが、それに対して彼は「何の事だ?」と言いたげに首を傾げた。その様子を見るに、どうやら私が感じているこの匂いを彼は感じていないらしい。
「おい、お前等の中でこの別嬪さんが言う様な匂いを感じている奴はいるか?」
「甘い匂い、ねぇ・・・?」
「辺り一面に広がっている魔物の血の臭いは感じてるけどよぉ・・・・・・」
「そんな匂いなんて、なぁ・・・?」
・・・いや、どうやら匂いを感じていないのは彼だけではないらしい。オリバーが後ろにいた他の冒険者達や門番達に尋ねるも、彼らもまたそんな匂いなんて感じていないと首を傾げたり横に振ったりしていた。
「―――今、甘い匂いと言ったかね?それはもしかして、こうずっしりとした重みが感じられる匂いであるか?」
「うおわぁ!?無事だったのかよ、アンタ!?」
そこへ、横合いから別の男の声が掛けられた。
声を掛けてきたのは先程チャージリザードに轢かれて宙を舞っていた騎士の一人であった。
身に付けていた鎧は所々が凹んでいて、まさにボロボロという言葉が似合いそうな状態であったが、しかし当の本人はその見た目に反して元気一杯であり、ズカズカとこちらに近づいて来た。
「フンッ、貴殿等とは鍛え方が違うのである!鍛え方が!・・・それで?どうなのだね、そこな娘よ。貴殿が感じている匂いとは私が言った通りのものかね?」
「あ、ああ。確かにそちらの言う通り、ずっしりとした感じの甘い匂いだけど・・・何か心当たりがあるのか?」
「うぅむ・・・確信があるわけではないが、おそらく『誘引魔香』ではないかと思われる」
「誘引魔香・・・ああ、あれか!」
チョビ髭が特徴的な騎士が口にしたその名前を聞いた私は、思い出した!と言いたげに声を上げた。
『誘引魔香』とは、魔物を呼び寄せる特殊な匂いと煙を発生させる香草であり『カオスゲート・オンライン』にも存在していたアイテムだ。私も魔物との一対多の戦闘を行う為に使用した事があったのでその存在を知ってはいたのだが、しかし匂いの強さや重厚さが自身の知るそれと違っていた為、騎士に言われるまで気付けなかった。
ちなみにこの世界では、現存する全ての国の法律で使用はおろか所持する事自体も犯罪となる代物でもあったりする。
「アレが使われているというのであれば、この異常事態にも納得できるのである。・・・がしかし、問題は何処で使われているか、である。アレは品質や量によって引き寄せる強さや範囲が変わるし、それに応じて匂いの強さも変わる。あまりにも匂いが弱ければ近場にいる魔物か、もしくは魔法に長けた者にしか嗅ぎとれん」
「へぇ・・・つまりこの別嬪さんはかなりの魔法の使い手だって事だな」
「そうではあるが、話の要点はそこではないのである!」
感心する様な視線を私に向けるオリバーであったが、そんな彼に対して「そうではない!」と騎士が荒げた声を上げる。
「そう声を荒げなくても言いたい事は分かってるって。つまり、あれだろ?その誘引魔香ってのがある場所はこの別嬪さんしか分からないって事だろ?―――んで、だ。その匂いの出所は何処か分かるか、別嬪さん?」
声を荒げる騎士を宥めつつ、こちらに問い掛けてくるオリバー。
それに対して私は、困ったように眉間に眉を寄せた。
「うーん・・・そう言われてもなぁ。この辺一帯がその匂いに包まれてるから、細かい位置まではちょっと。・・・・・・ただ、敢えて言うのなら上の方かな?地面に近い此処よりもそっちの方が匂いが強い感じがする」
「上、ねぇ・・・」
頭上を見上げながらそう答える私に、真似をするようにオリバーもまた頭上を見上げ、そこで彼が「あっ」と声を上げた。
「もしかして外壁の上にある見張り通路じゃないか?普段あそこに登る奴なんて門番以外いないし、それにその門番にしたって登るのはだいたい夜中の見張りくらいの時だし」
「登る為の階段は外壁門の内側にあるから、上手く隙を突ければ登る事は可能だろう」と言うオリバーに、騎士もまたそれに納得する様に頷いた。
「むぅ・・・つまり、今の時間帯なら何らかの方法で登ってしまえば気付く者は誰もいないという事であるか。・・・・・・よし、ならばそこへは私達が確認に行こう。誘引魔香の適切な処理の仕方を我々騎士は知っておるからな」
「我々って、今此処で動ける騎士はアンタだけだろうが。同僚はほれ、ああなってるし」
そう言いながらとある場所を指差すオリバー。
その指の先には、地面に頭から突っ込んでいるもう一人の騎士の姿があった。
「問題ない。この程度で動けなくなる程、柔な鍛え方はしておらんのである。―――というわけで、とっとと起きんか!ラディィィッシュッ!!」
「うひぃあッ!?ごめんなさい!?」
フンッ!と鼻を鳴らした後に大声を上げる騎士。
その声によって地面に頭から突っ込んでいたもう一人の騎士―――『ラディッシュ』は目を覚まし、驚きながら地面に埋まっていた頭を引き抜いて体を起こした。
「えっ?えっ?オイラ、確か魔物に轢かれてやられた筈じゃ・・・?」
「何時まで寝惚けておるのだ、ラディッシュよ!さあ早く、我々のすべき事をしに行くのである!」
「・・・えっ?あの、すべき事っていったい何を・・・って、ちょっ、待ってください、マクレーさん!?引っ張らないで・・・!襟首掴んで引っ張らないでください!?お尻が、お尻が擦れて痛いからぁぁぁッ!!?」
記憶が混乱しているのか、戸惑っている様子を見せる『ラディッシュ』と呼ばれた騎士。
しかしそんな事なぞ知るかと言わんばかりに彼を叩き起こした『マクレー』と呼ばれた騎士がその襟首をグワシッ!と掴むと、そのままずるずると外壁門へと引き摺って行った。
そんなスポ根染みた暑苦しさが感じられるノリに着いて行けず、ただ見送る事しかできなかった私とオリバーの二人は、それから少しした後にお互いに視線を合わせ、思わずといった風に苦笑した。
「あ~・・・行っちまったなぁ。・・・というかアイツ等、その何とか魔香がある場所は分かるのか?」
「たぶん大丈夫だと思うぞ。誘引魔香の効果を引き出すためにはお湯で煮続ける必要があるからな。最低でもどこかに鍋か何かがある筈だ」
「そうなのか・・・・・・ところで別嬪さん。アンタはこの後どうするつもりなんだ?」
「そう、だな・・・受けていた依頼の報告もあるから、一度冒険者ギルドに向かおうと思っている」
「そうかい。なら、出来ればでいいんだが、その後で俺達の所に手を貸しちゃくれないか?アンタが参戦してくれれば、この後の防衛戦も楽になりそうだからな」
「・・・・・・そうか。では、報告しに行った後で可能であれば手伝いに来よう」
「応!よろしく頼むわ!」
そう言いながらニッと笑って見せるオリバー。
その笑顔を目にした私は一瞬キョトンとした後、彼にフッと笑い返すと外壁門の向こうにある都市内に建てられている冒険者ギルドを目指して駆け出すのであった。




