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【改訂版】カオスゲート・サーガ ~大魔王と勇者の冒険譚~  作者: Kudo
第2章 ~大魔王と少年と交易都市~
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第2章第15話 ~騒乱序章~

2021年1月3日に文章内容の大幅修正をしました。

2021年1月10日に一部文章の修正をしました。

2021年10月14日に文章の一部変更をしました。



「まあまあ、これは・・・!?」


 孤児院の屋根の修理が完了したとアルクに呼ばれ、孤児院の最上階にある木窓から穴が空いていたであろう場所を見たマルシャルは驚きの声を上げた。なにせその出来栄えは建築関係の知識を持たない彼女から見てもとても綺麗に直っていると思えるものだったからだ。

 穴が空いていた部分が何処かを知らない者が見れば、本当にそんなモノがあったのかと首を傾げるレベルと言えば、その完成度が分かるだろうか?正直マルシャルでさえも事前に知っていなければ無事だった部分と壊れていた部分の境界線が全く分からないくらいだ。

 試しに修理した部分に水を流してみてもらったが、水漏れも起きない。それを確認したマルシャルは問題ない―――というか、コレはもう完全に修理されているのではないか?と思った。


「まさか、その歳でこれ程の腕を持っているとは・・・本当に驚きました。どこかで建築の経験をお積みになられたのですか?」


「いいえ。ただノートン工房の依頼を受けた時に、工房主であるヴァルテマさんに色々と教わったりしていたんです!」


「なるほど・・・ともかく素晴らしい仕事ぶりでした。報酬には色を付けておきますね」


「ありがとうございます!」


 嬉しそうなあ笑みを浮かべるアルク。彼のその表情を目にしたマルシャルは可愛らしいと内心で思い、「ふふっ・・・」と口元に笑みを浮かべた。

 それから彼女は、預かっていた依頼発注書に今回の仕事の評価―――S~Eまでの六段階の内のS評価を書き、「どうぞ」とアルクへと渡した。

 彼女から依頼発注書を受け取ったアルクは、お礼を言いつつそれを自身のカバンの中へと仕舞う。


「―――きゃあああぁぁぁぁ!?」


「「―――ッ!?」」


 そして、「それじゃあ」と言って踵を返して孤児院の玄関へと向かって外へ出ようとした時だった。孤児院の外から女の子の悲鳴が聞こえてきたのは。








「今の声・・・!まさか、クーリィ!?」


「クーリィですって・・・!?」


 今の悲鳴が先程まで自身と一緒にいたクーリィの声であることに気付いた僕は、孤児院の玄関扉を勢いよく開いて飛び出す様に孤児院の外へと走った。


「いや!放して!?」


「この・・・!?いいから大人しくしてろ、ガキが!」


 そしてそこで目にしたのは、黒いフードマントを身に着けた三人の男達が孤児院の庭でクーリィを麻袋に入れようとしていたところであった。


「お前ら、彼女をどうするつもりだ!」


「なんだ、このガキは!」


「邪魔すんじゃねェ!」


 僕はクーリィを助けようと駆け出し、そんな僕を迎撃しようとしてか手前にいた男二人が罵声を上げながら拳を振り上げてきた。

 おそらく殴り掛かろうとしたのだろう。だが、その拳が振り切られるよりも先に僕は男達の顔面に拳と蹴りを叩き込んだ。


「ハアッ!タァッ!!」


「ゲハッ・・・!?」


「ギヒィ・・・!?」


 僕の一撃を受けた男達は短い悲鳴を上げると同時に鼻血を噴き出し、そのまま崩れ落ちる様に地面に倒れた。

 白目を剥き、ピクピクと体を震えさせているのを見るに、完全に気を失っている様だ。


「なっ!?クソッ!」


 自分の仲間が一撃で倒される光景を目にした三人の男達の内の最後の一人は驚きの声を上げる。だが、そのすぐ後に自身の下へと近づこうとしている僕の姿に気付くと、悪態を吐きつつバッと掌をこちらに向けた。


「《ブラックスモーク》!」


 男の掌から噴き出す大量の黒煙。それは男の下へ近付こうとしていた僕の視界を遮った。


「くっ・・・!?クーリィッ!!」


 思わず足を止め、周囲に立ち込めている黒煙を払おうと腕を振り回す。そして、ある程度視界を確保した後に男とクーリィがいるであろう場所に向かったのだが、その時には既に二人の姿は消えてしまっていた。


「クソッ・・・!?」


「こ、これは、いったい・・・!?何があったというのですか!?」


 僕がクーリィを助けられなかった事を悔やんでいると、孤児院から出て来たマルシャルさんが声を掛けて来た。

 どうやら現場の状況を見て困惑しているらしく、その視線は僕と地面に倒れている二人の男達を往復していた。


「すみません、マルシャルさん・・・!クーリィが・・・クーリィが攫われてしまいました・・・!」


「クーリィが・・・!?そんな、まさか・・・!どうしてあの子が此処に・・・!?今この孤児院は危ないから来てはいけないと言っておいたのに・・・!?」


「孤児院の様子が気になったらしくて、少し前に来ていたんです。すみません、報告する時に一緒に伝えておくべきでした・・・!」


「ッ!そういう事ですか・・・!―――分かりました。では、詳しい状況説明を求めます。何があったのか教えてください!」


 最初はクーリィが拐われたと聞いて顔色を青褪めさせ、狼狽えていたマルシャルさんであったが、すぐに冷静さを取り戻すと状況説明を求め始めた。


「犯人は三人の男で、クーリィを袋に入れて連れ去ろうとしていました。その内の二人は僕が倒しましたが、最後の一人には逃げられてしまいました。クーリィが入れられた袋も無くなっていたので、おそらく・・・!」


「そのまま連れ去られた、と。―――分かりました。では、アルクさんはこの事を冒険者ギルドに伝えて応援を呼んできてください!現状ではクーリィを拐った男がどこに向かったのかは分かりませんが、私達だけで探すよりも、多くの人手を使った人海戦術で探したほうが発見しやすいですから!」


「わ、分かりました!」


「その間に私は、この男達から情報を引き出せるだけ引き出しておきましょう。―――なに、心配はいりません。ウチが面倒を見ている子に手を出したのです。自分達が行った事が如何に愚かだったのかを後悔させながら、ボロ雑巾の様になるまで搾り取ってあげますので」


 そう言いながら冷えきった視線を倒れ伏している男達へと向けるマルシャルさん。それを目にした僕は、自身の背筋にゾクッとしたモノを感じた。

 その後、マルシャルさんは「男達から情報を聞き出した後は衛兵所へ行って、そちらでも応援を寄越してもらえる様に頼んできますね」と言いながらどこからともなく取り出した縄で男達を縛り上げ、僕はそんな彼女の姿を尻目に、一路冒険者ギルドへ向かって駆け出すのであった。








「はっ、はっ、はっ、はっ・・・!」


 胸に焦燥感を抱きながら足を動かし、地を駆けて冒険者ギルドへと急ぐ。

 走って、走って、走って。そしてようやく冒険者ギルドへと到着した僕は、その扉を突撃する様な勢いのまま開けつつ、声を張り上げ様として―――


「シャーラさん、頼みたい事が―――!」


「邪魔だ小僧!そんな所に突っ立ってんじゃねえ!」


「―――あるんで・・・!?わ、わわわ・・・!?」


 突如眼前に迫ってくる木箱に驚き、反射的に横へ飛び退いた。

 出入口の扉の脇に着地した僕は、ぶつからなくて良かったと一瞬ホッと胸を撫で下ろしたのだが、しかしその安堵は冒険者ギルド内の様子を目にした途端に驚愕へと変わった。


「な、何これ・・・!?」


 大勢の人、人、人。

 服装や所持している武器を見るに、どうやら彼等彼女等は全員冒険者であるらしかった。


「おい、急げ!西からやって来るオークの群れを狩りに行くぞ!」


「「「おう!」」」」


「東に出たフレイムリザードと戦う人はこちらに!水属性が使える人も来てください!」


「今行くわ!南の方のブルホークはそっちに任せるわよ!」


「任せといて!私の弓で撃ち落とすから!」


「おぉい!輸送担当は手伝ってくれぇ!大型クロスボウの矢を運ぶからよぉ!」


「こっちはポーションだ!割らないように気を付けて運べよ!」


 喧騒に包まれている冒険者ギルド。これまで姿どころかその影さえも見かける事がなかった数多くの冒険者達が、慌ただしく武器や防具、弓矢の矢弾、ポーション等が入った木箱を運んだり、それぞれの武具の手入れを行ったりしている。

 その様子はまるでこれから戦争でも始めようとしているかの様であり、非常にピリピリとした空気がその場に充満していた。


「こ、これはいったい・・・!?」


 ここ一ヶ月の間で見た事がない―――というか、初めて見る冒険者ギルド内の光景を目にした僕は、いったい何が起こっているのかと唖然とし、荒々しい雰囲気に飲まれて思わず尻込みをしてしまった。


「・・・・・・ん?あっ!アルク君!戻って来ていたのね!」


「あ、シャーラさん・・・!」


 思わず呆然としていた僕であったが、自身の名前を呼ぶ声が聞こえたので、そちらへと視線を向けた。

 声の主は、どうやら冒険者ギルドの職員であるシャーラさんであったらしい。彼女はギルド職員の定位置とも言える受付カウンターにいて、そこから「こっちに来て」と言いたげに手招きをしていた。


「あ、あの、シャーラさん。何があったんですか・・・?なんで急に、こんなに沢山の冒険者達がこの冒険者ギルドに集まっているんですか?」


「うん、ビックリしたよね。実はちょっと前に問題が発生してね。今は皆でその対応をしようと準備している所なの」


 僕はシャーラさんの手招きに応じる様に、恐る恐る人にぶつからないように気を付けながら受付カウンターへと向かう。

 そんなおっかなビックリな感じで近付いてくる僕の姿を見たシャーラさんは、苦笑を浮かべながら現在この冒険者ギルドが慌ただしい理由を教えてくれた。


「実は今、この交易都市ライファに魔物の群れが迫っている事が分かったの」


「ま、魔物の群れ・・・!?」


「ええ、そうよ。発見したのは、以前話した行方不明事件の調査をしていた冒険者達でね。彼等が一通りの調査を終えて帰還している途中でこの都市に向かっている魔物の群れを見つけたそうなのよ。接近している群れは全部で三つ。西と東、それから南の方角から迫って来ているらしいわ」


「ええ!?」


「群れ自体はそれほど大きなものじゃないそうなんだけど、厄介なのはその三つの群れが同時進行で迫ってきている事でね。今現在、大半の冒険者達が調査に出ているウチのギルドじゃ全然人手が足りない状況なのよ」


「そ、そんな・・・・・・・」


 クーリィの誘拐事件が起こった時にまさかそんな事態が起きていたなんて、と僕は絶句する。


「あ、あの・・・!実は、シャーラさんにお願いがありまして・・・・・・!」


 それでも僕は一縷の望みを掛けてシャーラさんに事情を話して、攫われたクーリィを探し、助ける為の人手が欲しいと頼み込んだ。ほんの数人でもいい。依頼としても要請するし、勿論報酬も払うとも口にした。

 ・・・だが、それに対するシャーラさんの返答は否であった。


「そう。そんなことが・・・。―――でも、ごめんなさい。君の要請には応えてあげたいのだけど、現状では町の防衛が最優先なの。それに、今この都市にいる冒険者の数は四十五人。その内の三十人が既に西、東、南の外壁門の防衛に当たっていて、残りの十五人はこうして各種物資の準備と輸送をしているの。だから、そのクーリィちゃんって子と誘拐犯の捜索の為に割ける人員は、今このギルドには・・・・・・」


 申し訳なさそうにそう言いながら首を横に振るシャーラさん。

 それを目にした僕は、「そんな・・・」という声を漏らし、悔しげに拳をギュッと握った。


「まずはこの事をギルドマスターに報告してからどうするべきか考えましょう。もしかしたら、あの人なら・・・・・・」


「・・・ッ!だ、だったら僕だけでも彼女を探しに行きます!見習い冒険者の僕でも、隙を突ければ連れ出す事くらいは出来る筈ですから!」


 ギルドマスターであり、元Sランク冒険者でもあるモールテスさんならなんとか出来るかも、とシャーラさんは言おうとしたのかもしれない。でも、その言葉を全部聞く前に「だったら自分だけでもクーリィを助けに行く!」と僕は叫び、踵を返して走り出した。


「え!?ちょっ、待ってアルク君!」


 その際、後ろから自身を呼びとめようとするシャーラさんの声が聞こえて来たが、しかし僕はそれを無視して冒険者ギルドの出入口へ向かい、扉を開いて外へと飛び出した。








「はぁ・・・!はぁ・・・!はぁ・・・!」


「(勢いで飛び出して来ちゃったけど、クーリィはいったい何処にいるんだ・・・!?)」


 大通りを全力で駆ける。

 勢いそのままに飛び出したものの、今の僕にはクーリィとその彼女を攫った誘拐犯の居場所を探し出す当てなどなかった。

 だが、現在のこの都市の状況を考えれば彼女達がいると思われる場所については大体の見当をつけることはできる。なにせ、今この都市にはシャーラさんが言っていたように西、東、南の方角から魔物の群れが接近している。そしてその方角に面している三つの外壁門には、迎え撃つ為に調査から帰って来た冒険者達が防衛に当たっているが、しかしその数はシャーラから聞いた話では三十人と少ない。戦力的には不安であり、場合によっては最悪都市内に魔物が侵入してくる可能性もある。

 その事を交易都市ライファに住んでいる住民達も分かっているのか、手に持てるだけの荷物を持って、もしくは荷車に乗せられるだけの荷物を持って都市の中心部へ向かおうとしている人々の姿が所々で目に入った。

 おそらくだが、クーリィを攫った誘拐犯もこの人々と同じように避難しようとする可能性が高く、このまま都市内にいるのは危険だと判断して脱出を考えているかもしれない。それらの事を前提で考えると、クーリィと誘拐犯が向かうと思われる場所は一つに絞られる。

 それは北の外壁門だ。おそらくだが、現在あの場所は今回の騒動に対応する為に常駐している警備の人員が他三つの外壁門に回されて少なくなっている可能性が高い。もし誘拐犯がこの都市からの脱出を考えているとすれば、警備の人員が少なくなっているそこから出て行こうとするのではと僕は考えていた。


「・・・ッ!これは・・・!」


 そう考え、北の外壁門に向けて走っていたわけなのだが、しかしそこへ向かう途中にある町の中心部―――城と見紛う程の大きな屋敷が建てられている場所の周辺に到着した僕は、目の前の光景を目にして思わず立ち止まり、唸ってしまった。

 そこには都市に迫り来る危機を知り、避難しようと集まって来た大勢の人々がいたのだ。

 しかもその数はまだまだ増えそうな様子であった。どうやら僕が通って来た通りからだけでなく、他の通りからもやって来ているらしい。

 その中には良く見れば騎士の格好をした者達もいた。どうやら避難してきた者達の誘導を行ったり、喧騒等が起こらないか巡回をしているようだ。


「・・・んあ?坊主じゃねえか、お前さんも避難して来たのか?」


「え、サジェットさん?」


 そして僕の近くにも丁度騎士が一人やって来てすぐ傍を通ろうとしていたのだが、ふとその騎士が僕に声を掛けてきた。

 その騎士が自分の知っている人物―――外壁門で門番をしていたサジェットさんであるという事を知った僕は思わず瞠目した。


「えっと、サジェットさんがどうしてここに・・・というか、なんで騎士の格好をしているんですか?」


「あー・・・」


「貴方、門番じゃなかったんですか?」という僕の問い掛けに、サジェットさんは頬を掻いて困ったなと言いたげな声を漏らした。


「実は俺、とある貴族の三男坊でさ。こういう非常事態が起きた時には市民の避難誘導とかを任されてんだよ」


「サジェットさんが貴族・・・・・・見えない」


「うるせぇ、俺だってそう思ってるよ。・・・んで、だ。話を戻すが坊主、お前も魔物の群れが迫って来ているのを聞いて避難して来たのか?」


「いえ、実は・・・」


 僕はサジェットに自身が此処に来るまで事情を話した。

 孤児院の子供であるクーリィが攫われた事。冒険者ギルドに応援要請をしに行ったが、冒険者全員が外壁門の防衛に当たっている為、捜索と救出に割ける人員がいない事。その事を知った僕が自分だけでもクーリィを助けに行こうとしていた事。

 それを聞いたサジェットさんは「なるほどな」と腕を組みながら頷いた。


「事情は分かった。その上で言うんだが、おそらくその誘拐犯は北の外壁門にはいないと思うぞ」


「・・・え?どういうことですか?」


 サジェットさんのその言葉に僕は思わずどういう事かと聞き返した。


「実は今回の騒動が起こる直前に領内の見回りを行っていた騎士団の一部が戻って来ていてな。今そいつらが北の外壁門の方からも魔物の群れがやって来るかもしれないって考えて防衛に当たってんだよ」


 それはつまり、必然的に誘拐犯が北の外壁門から脱出する事は難しいという事。しかも門を閉じて物理的にも封鎖しているらしい。


「(北の外壁門から脱出できないということは、つまり誘拐犯もクーリィもまだこの都市内にいるという事。だけど・・・)」


「では、誘拐犯はクーリィを何処に連れて行ったのか?」と僕は考え込んだ。


「(この交易都市ライファは狭いようで意外と広い。しかも大通り以外の道は場所によっては複雑な迷路のような構造になっている所もある。闇雲に探していたら、下手したら僕の方が迷ってしまう可能性が高い)」


 そうなればクーリィを助け出すどころの話ではなくなる。

 せめて何か手がかりになるモノがあれば、とギリッと歯軋りした僕であったが、そこでふと自身の名前を呼ぶ誰かの声が耳に届いた。


「・・・・・・ああ!いました!アルクさん。アルクさーん!!」


「・・・え?マルシャルさん?」


 その声の主は孤児院院長のマルシャルさんであった。

 彼女は僕の傍まで駆け寄って来ると、笑みを浮かべた。


「よかった。見つかりました」


「ど、どうしたんですか?何故貴女がここに?確か衛兵所に向かった筈じゃ・・・?」


「実はあの後分かった事がありまして、その事を伝えようと冒険者ギルドに向かっていたのです」


「その途中でアルクさんを見かけたので声を掛けたのです」とマルシャルさんは一息吐いた後に、どうして自身が冒険者ギルドに向かっていたのかを話し出した。


「アルクさんと別れた後、捕えた男達を衛兵所に連れて行ったのですが、その際に男達の懐から”表と裏に角の生えた牛と六枚の羽根の絵柄が描かれたコイン”が出て来たのです。それはとある組織の一員であることを表す代物でして・・・・・・」


「角の生えた牛と六枚の羽根の絵柄のコインってぇと・・・そうか、『パンデモニウム教団』か!」


「パンデモニウム教団?」


 何それ?と首を傾げる僕に、サジェットさんはパンデモニウム教団がどういう組織なのかを説明をしてくれた。


「パンデモニウム教団ってのは悪魔を崇拝している宗教組織でな、主に様々な犯罪行為やテロ活動を行っている集団なんだよ」


「犯罪・・・テロ・・・そんな奴等がどうして・・・?」


「その事なのですが、どうやらパンデモニウム教団の目的は彼等が崇める悪夢を呼び出す事の様なのです。そして、その呼び出す儀式の生贄に使う為にクーリィを―――」


「―――彼女を攫ったっていうのか、クソッ・・・!?」


 ギリッと拳を強く握る。

 その胸の内には、あの幼気な少女を悪魔を呼び出す為の生贄なんかにさせて堪るかという義憤の心が湧き上がっていた。


「マルシャルさん!その儀式が何処で行われるのか分かりますか!?」


「え、ええ・・・捕えた男達からこの都市の北東にある墓地で儀式を行おうとしていることを聞き出しました。そしてその事を冒険者ギルドに知らせようと思っていたのですが・・・・・・」


 冒険者ギルドに向かった筈の貴方が何故ここに?という視線をマルシャルさんは僕に向ける。

 その視線を受けた僕は、クッ!と歯噛みしつつ申し訳なさそうに俯いた。


「すみません。冒険者ギルドの協力を貰うことは出来ませんでした。現在この都市に魔物の群れが迫って来ているらしくて、その防衛に冒険者達を当てているのでこちらに割けるだけの人員が存在しないと・・・・・・」


「そうですか・・・この慌ただしい都市の状況から何かが起こっているという事は分かっていましたが・・・・・・」


 明らかにガッカリした様子で目を伏せるマルシャルさんであったが、それからすぐに僕の目線に合わせる様にしゃがみ込むと、僕の頭を優しく撫でた。


「あの子の為に人を呼んで来ようとしてくれてありがとうございます。後はこちらで何とかしますから・・・」


 労わっているという事を如実に感じさせる優しい声音。そして僕の頭を優しく撫でる彼女の手。それはどこか安心感と心地良ささえ感じられるモノであったが、しかし僕には同時に己の未熟さを突きつけられている様にも感じられて、その胸の内に悔しさを募らせていた。


「・・・ッ!」


 顔を俯かせながら握りしめていた拳を更に力強く握り締める。

 だが、次の瞬間にはその顔をバッと上げた。


「マルシャルさんはこのことを冒険者ギルドに伝えに行ってください!僕はこれからクーリィを助けに行きます!」


「え・・・!?い、いったい何を言って・・・!そんな危険な場所に、子供の貴方が行く必要は無いのですよ・・・!!」


 マルシャルさんからクーリィ達がいるであろう場所を耳にした僕は、その場所へ向かおうと踵を返す。

 そんな僕の様子を見たマルシャルさんは驚きながら咄嗟に僕の方を掴んで引き留めようとした。


「そうだぞ、坊主!そのクーリィって嬢ちゃんは騎士である俺達が助けに行くから、お前は此処で待ってろ!」


 サジェットさんもまた「俺達に任せろ」と言う。


「パンデモニウム教団とか言う奴らがクーリィを生贄に使う為に攫ったとしたら、もうそれほど時間は無いと思います!それに騎士の人達に頼んだとしても実際に動くまでには時間が掛かるんじゃないんですか!?」


「うっ・・・!そ、それは・・・・・・」


 だけど僕がそう指摘すると、おそらくそれは図星だったのだろう。サジェットさんは思わずといった風に呻いた。








「(やべぇな・・・なんにも言い返せねぇや)」


 騎士達がクーリィを助けに向かうまでには時間が掛かるんじゃないのか?というアルクの言い分に、サジェットは言い返す事ができなかった。なにせ、今のこの都市が陥っている状況は一言で言って最悪だ。騎士や冒険者という戦える者の大半がこの都市を離れているその最中に魔物の群れが(せま)って来ているのもそうだが、都市の防衛の為に残っているサジェットも含めた幾らかの騎士の半数は冒険者達と共に外壁門の防衛に、もう半数は都市の住民の避難誘導に駆り出されてしまっていて、とてもではないが余裕があるとは言えなかったからだ。

 一応クーリィという少女を救出する人員を集めようと思えば集められるが、その為には都市の防衛や市民の避難誘導に支障が出ない様に調整をしなければならず、アルクの言う通りどうしても時間が掛かってしまう。

 ならば先程戻って来た北の外壁門を防衛している騎士団に協力を要請したらどうかという考えがサジェットの頭を過ぎるが、しかしそれは無理だと彼は頭を振った。

 その理由は単純に命令系統が違うからだ。単純に言えば命令系統が違う。サジェットが持つ権限は飽く迄非常時における都市防衛に関するものだけであり、騎士団に命令する権利は与えられていないのだ。

 どうしても対応が後手に回らざるを得ない。そう思ったサジェットはチッと舌打ちをした。

 そんなサジェットの様子を目にしたアルクは、彼も何とかしてくれようとしているのだと嬉しく思ったのか、小さく笑みを浮かべた。

 だがその後で、クーリィに迫る危機を考えればあまり時間を掛けるわけにはいかないと考えたのだろう。その表情を真剣なモノへと変えた。


「・・・やっぱり僕だけでも先に助けに行きます!サジェットさんは人を集めて後から来てください!」


「ッ!?ば、バカ野郎!何言ってやがるんだ、坊主!待て、行くんじゃねぇ!?」


「大丈夫です、僕も戦うつもりはありません。クーリィを助け出す事が出来たら一目散に逃げるつもりですし、もしそれが出来なかったとしても騎士の人達が来るまでの時間稼ぎくらいはやって見せます!!」


「ま、待って!待ちなさい・・・!」


 ダッと地面を蹴り、駆け出すアルク。

 そんな彼を引き留めようとするマルシャルとサジェットであったが、しかし彼はそれを無視して一路都市の北東にある墓地に向けて走って行くのであった。






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