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【改訂版】カオスゲート・サーガ ~大魔王と勇者の冒険譚~  作者: Kudo
第2章 ~大魔王と少年と交易都市~
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第2章第14話 ~少年と少女~

2020年12月24日に文章内容の大幅修正をしました。

2021年10月14日に文章の一部変更をしました。



 孤児院院長のマルシャルさんに屋根の修理を頼まれた僕は、その準備を行う為に彼女から教えられた修理に必要な道具と材料があるという孤児院の裏手の倉庫へとやって来た。

 倉庫の中を確認すると、マルシャルさんが言っていたように様々な道具と材料が置かれており、その内の今回使う分を丁度倉庫内にあった木箱に詰め込んで運ぶ。

 そして材料の一部を孤児院の中庭に置き、残りの材料と工具類が入った木箱を抱えた僕は、孤児院の最上階へと向かった。


「まずは壊れた木板を外さないと・・・・・・」


 最上階の木窓から二階の屋根の上に降りた僕は、屋根の穴が空いている部分に近づいてく。そして穴の周りにある屋根の外装の損傷具合を見ながら、僕は以前依頼中にヴァルテマさんから教わった建築に関しての話を思い出していた。


『いいか、アルク!ここらの建築は大雑把にいえば三段階の工程で作られている。まずは家の基礎であり柱である組み木と言われる部分だ!これが無ければ建物の形を保てないからな!次に外装だが、細かい部分は作る所によって変わるんだが、基本的には組み木に沿うように木板を打ち付けて繋ぎ合わせて壁を作る!その上に『ソハド岩石』という岩石を砕いて水に溶かしこんで粘土状にした物を木板に塗りこんでいく!こいつは乾くと岩並みに硬くなって多少の衝撃なんてビクともしなくなるんだぜ!・・・っで、最後に屋根を作る時だが、最初は木板を打ち付けていく!その後に『ラハド鉱石』というソハド岩石より頑丈さは劣るが軽い鉱石を混ぜた粘土を塗りつけていくんだ!ソハド岩石の粘土じゃあ自重で屋根が壊れちまうからな!そして塗りつけた粘土が乾いた後は接着効果のある『フォレストスパイダー』の粘着糸を使ってさらに木板を張り付けて完成だ!ちなみに張り付ける木板だが水を弾く性質を持つ『ラクルカ』という木の樹液を塗れば腐らず長持ちするようになるぞ!』


 僕はヴァルテマさんが話してくれた内容を思い出しつつ、最初は穴の周りにある壊れた屋根の外装と木板を剥がそうと、倉庫から持ってきた工具である金槌とノミを手に取った。

 屋根の外装や木板にノミを入れ、その柄尻を金槌で叩いてトンカントンカンという小気味良い音を辺りに響かせていく。その度に壊れた屋根の外装と木板は削れ、取り外されていき、それから三十分程経った頃には、それら全てが僕の手によって取り外された。

 ちなみに、取り外した木板はそのまま屋根に置いておくと落ちる可能性があって危ないので、一時的に孤児院の廊下に纏めて置いてある。


「よし・・・!次は組み木だな・・・!」


 次に壊れた組み木部分の取り外しと付け替えを行っていく。組み木部分は途中から壊れ折れ曲がっていた部分を(のこぎり)でギコギコと切り落とし、その際に残った部分をL字の様に、下半分が出っ張る様な形に整える。

 続いてそこに新しいを組み木を付けるのだが、その前に新しい組み木の端を逆さにしたL字の様に上半分が出っ張る形になる様に(のこぎり)で形を整えておく。勿論残った部分とちゃんと重なるようにだ。

 そして重ね合わせたその二つを接着させ、固定させる為に『フォレストスパイダーの粘着糸』を使用する。フォレストスパイダーの粘着糸は一度くっ付いたらほぼ外すことは不可能と言われるほど粘着性がとても強い糸ではあるのだが、しかし水には弱く、濡れてしまうとその強い粘着性が無くなって唯の糸になってしまうという特性がある。

 ただ、湿気や冷気には強いらしいので、要は直接水が掛からなければ粘着性が無くなる事はないらしい。加えて、例え濡れたとしても乾かす事で糸の粘着性は復活するので、そういった面から様々な用途に使える便利素材として広く界隈に知れ渡っている。


「さて、と・・・後は小さな木板と釘を使って固定して・・・っと」


 組み木を重ね合わせた部分の横に小さな木板を当て、その四隅にコンコンコンと釘を打ち付けていく。

 これもヴァルテマさんから教った方法で、フォレストスパイダーの糸の粘着性が無くなった時の為の保険だ。雨漏り等で何かの拍子に水が掛からないとも限らないので、その時に起こるズレを抑える為の処置でもある。

 これ等の作業をあと数回繰り返し、マス目状の形になる様にしていく。


「次は木板を張り付けて、と」


 穴が空いていた部分に幾つもの組み木のマス目が出来たのを確認した僕は、続いてそのマス目状の所に釘と金槌、粘着糸を使って木板を張り付けていった。そして張り付け作業を開始して三十分が経った頃には屋根の穴が空いていた部分は木板で完全に塞がれた状態となっていた。


「ふぅ・・・!一先ずこれで穴は塞がった。次はラハド鉱石を混ぜた粘土を塗っていかないと・・・・・・あっ、そうだ。そう言えば孤児院の壁も所々剥がれていた所があったっけ。ついでだし、ソハド岩石の粘土も作って塗り込んでおこうかな」


 そう呟いた僕は木窓を通って孤児院の中に戻ると、廊下に纏めて置いておいた大量の壊れた木板を木箱に入れいき、それを抱えて中庭へと向かった。


『建築によく使う粘土は比率が大切だ!使用する材料によって量も順番も変わる!まずソハド岩石の粘土の作り方だが、バケツなどの器に土とソハド岩石を砕いた物を五対五の比率で入れてある程度混ぜ合わせ、その後に水を注ぎつつ掻き混ぜる!大体五分くらいかき混ぜれば完成するぞ!次にラハド鉱石の粘土の作り方だが、ソハド岩石のやつとは順番と比率が違う!まずバケツに水を入れておき、その後にラハド鉱石を砕いた物を入れ、その後に土を少しずつ入れながら混ぜ込んでいく!この時の比率は水が三、鉱石は五、土が二の配分だ!分量については後でどうとでも出来るが、作る順番を間違えると粘土じゃなくてただの泥水が出来てしまうから注意するんだぞ!んで、こっちは大体十分くらい混ぜれば完成するからな!』


 孤児院の庭に到着した僕は、抱えていた木箱を中庭の隅に置いた後に、以前ヴァルテマさんから教わったソハド岩石とラハド鉱石を使った粘土の作り方を思い出しながら作っていく。最初はソハド岩石の粘土から作る事から始めた。木製のバケツの中にヴァルテマさんに教わった通りの分量比率と順番で水と土、砕いたソハド鉱石を入れて掻き混ぜていく。

 バケツの中に入っているそれは、見た目は灰色の泥水といった感じであったが、混ぜていくうちに徐々に固まり始め、五分もすると程良い硬さと柔らかさがある粘土が完成した。

 ソハド岩石の粘土が完成したのを目にした僕は、続いてラハド鉱石の粘土を作り始める。これもまたヴァルテマさんに教わった通りの分量比率と順番で材料をもう一つ用意していた木製のバケツに入れてゆっくりと混ぜ込んでいき、そして十分後には程良く固まったラハド鉱石の粘土が完成した。


「よし!それじゃあ次はこの二つを塗り込んで、っと・・・!」


 二種類の粘土が入った二つのバケツの取っ手を掴んで持ち上げた僕は、それぞれ使うべき場所に運んだ。

 最初はソハド岩石の粘土を使う事から始め、所々が剥がれ落ちていた壁に塗り込んでいく。こちらは壁の損傷個所は多いが損傷度事態は然程酷くはなかった為、ものの十数分もすれば作業は終わった。

 続いて屋根の内壁となるラハド鉱石の粘土を新しく貼り付けた屋根板の上に塗り込んでいく作業を始める。ある程度のラハド鉱石の粘土を屋根板の上に掛け、修理の際に取り外した破損した木板の内、手ごろな大きさの物をパテ代わりに使って厚さが均等になる様に粘土を伸ばしていく。


「ふう・・・後は乾くのを待つだけ。乾くまでには時間が掛かるから、その間に”ラクルカの樹液”を加工して、屋根の外装になる木板に塗っておこうっと」


 ラハド鉱石の粘土を屋根板の上に塗り終えた僕は、一息吐いた後で粘土が乾くまでの間に次の作業であるラクルカの樹液の加工を始める。

 作業を始める前に孤児院の台所を借りる許可をマルシャルさんに貰いにいく。今度の作業には火を使う必要があったからだ。


「さて・・・それじゃあまずは火を点けてと・・・」


 そしてマルシャルさんから「必要ならどうぞお使いください」と孤児院の台所を使う許可を貰った僕は、まず最初に石で作られた(かまど)に火を点けることから始めた。

 ちなみにこの時、燃料として先程屋根の修理の際に取り外した破損した木板を使っている。廃材の有効利用というやつだ。


「次は鍋を用意して、その中にラクルカの樹液を入れてっと」


 続いて倉庫から運び込んだ側面丈夫に幾つか穴が空いている錆びついた鍋を竈の上に置き、その中に薄らとした黄色の液体―――『ラクルカの樹液』を入れていく。


『ラクルカの樹液ってのは面白い性質を持っていてな。もちろんそのままでも十分に使えるんだが、こいつに熱を加えると変色・・・つまり色を変えていくんだ。元々の黄色から赤に、続いて紫、青、緑となり、最後に黒になる。一度変色すれば冷めても色はそのままだから、使いたい色を自由に作れるわけだ。・・・ただし、色が黒くなっている状態でさらに熱したら焦げて使い物にならないゴミになっちまうから、そこん所は注意するんだぞ!』


 ヴァルテマさんの忠告を思い出しつつ、ラクルカの樹液に熱を加えていき、色が変化するのを待つ。

 ちなみに、そのままでも十分に水を弾く性質のあるラクルカの樹液をどうして加工しているのかと言えば、それは応急とはいえせっかく修理するのだから、出来るだけ綺麗に整えようと考えたからだ。キチンとした修理が行われることになった際に壊れた個所が分かりやすくなる様にという考えもありはしたが、結局はそう言う事である。


「―――よし、変わってきた変わってきた・・・!」


 しばらく鍋の様子を見ていると、段々と火が通ってきたようで、甘みが感じられる独特な匂いを(かも)しながら樹液の色が変わって来た。孤児院の屋根の色は緑色だったので、樹液の色も緑色になるまで様子見をし、目的の色に変わったのを確認した僕は、すぐに竈から鍋を取り外して台所のテーブルの上に置いた。


「・・・ねぇ、何してるの?」


 後は樹液が冷めるのを待つだけだと思いながら、「ふぅ・・・」と息を吐いていると、不意に横合いから幼さを感じさせる声が掛けられた。

 それにちょっと驚きつつも声が聞こえた方向へと視線を向ければ、そこには一人の女の子がいた。

 年の頃は僕と同じかそれよりも下くらいだろうか?見た目は肩より少し長めの鮮やかな赤髪と綺麗な青い瞳が特徴的な、将来は絶対美人になるだろうと思える可愛らしい少女であった。


「これはこの孤児院の屋根を修理するために使う材料だよ。えっと・・・ところで君は?」


「私は”クーリィ”って言うの。この孤児院の子供なんだよ!」


 元気いっぱいにそう答える『クーリィ』と名乗った少女。彼女の孤児院の子供というセリフから、マルシャルさんの話にあった、他の孤児院に一時避難していた子供達内の一人なのではないか?と僕は思った。

 それと同時に、どうしてその子供が此処にいるのだろう?と首を傾げたが。


「ねぇ、君はどうしてここに?」


「えっとね、院長先生に会いに来たの!私もだけど、皆孤児院がどうなっているんだろうって心配しててね、様子を見に行きたいって話になったの!でも、全員で行くのは院長先生に迷惑を掛ける事になるから、誰か一人が代表になって見に行く事になったんだ!」


「それで、君が代表となって見に来たと」


「うん、そうだよ。・・・まあ、皆が皆、自分が行きたいってなっちゃって、決まるまでに時間が掛かっちゃったけどね」


「そ、そうなんだ」


 確かに今まで住んでいたところから急に移されたら不安にもなるだろうし、心配にもなるだろう。孤児院の子供達の気持ちがなんとなく分かってしまった僕はつい苦笑してしまった。


「それでお兄ちゃん。これは何に使うの?」


 自身がどうして此処にいるのかを語った彼女は、鼻をスンスンとさせながら「なんだか甘い匂いがするんだけど」と、鍋の中身を覗き込んできた。

 こちらに向けるその目は「これは食べ物なの?」と言っているかのようだ。


「これは屋根の修理に使う木板に塗るものなんだ。これを使えば水を木板が水を弾くようになって、更に腐り難くなるんだよ。それと、甘い匂いはしているけど食べ物じゃないからね?」


「食べたらお腹を壊すからね?」と僕が言うと、「そうなんだ・・・」と残念そうな表情を浮かべた。


「・・・・・・ねぇ、お兄ちゃん。さっきこれを屋根の修理に使うって言ったよね?私も手伝っていいかな?」


「・・・え?」


 鍋の中に入っているラクルカの樹液に残念そうな視線を向けていたクーリィは、ふとそんな言葉を口にした。


「私だってこの孤児院の子なんだから、自分たちの家は自分たちで直したいもん!ねぇ、お願い!私にも何かやらせて!お手伝いさせて~!!」


「え、えぇ!?」


 自分も何かをしたいと強く主張するクーリィ。彼女は僕の服をガシッ!と掴むと、勢いよく前後に揺らし始めた。


「ちょっ・・・!?なっ!?ま、待って!分かった!分かったから、もう揺らさないでぇ!?」


 想像以上に強かった彼女の力に驚き、同時にこれ以上揺らされたら吐くと思った僕は咄嗟に首を縦に振って頷く。

 それを目にしたクーリィは「バンザーイ!」と両手を上げた。


「ホント!やったぁー!」


「グフッ・・・!?」


「あ、ごめん」


 まあ、その拍子に彼女の手は僕の服を離してしまい、僕の体は勢い余ってバタリと地面に倒れ込んでしまうのであったが。








 それからしばらくして、ラクルカの樹液の熱が冷めたのを確認した僕とクーリィの二人は、協力して屋根板用の木板に緑色に変色したラクルカの樹液を塗っていた。

 塗る為の道具は孤児院内の棚に仕舞われていた刷毛(はけ)を使用する。これはクーリィが孤児院内にある棚から見つけてきた物であり、彼女が言うには孤児院で行っている内職等でも使用されている物らしい。

 それを受け取った僕はラクルカの樹液を塗る作業をしつつ、クーリィにやり方を教えた。


『刷毛とかブラシとかでラクルカの樹液を塗る時は必ず一定方向に塗る事!側面も同様に、だ!毛先などで樹液を塗ると木板に細かい溝が出来る。樹液を重ねて塗るごとにその溝は大きくなっていき、そしてその溝に沿って樹液に弾かれた水が流れていくようになるんだ!だから逆方向とか途中で横方向とかに塗り方を変えると水の流れが途中で滞り、それが雨漏りや腐食の原因になったりするので注意するんだぞ!』


「・・・って、以前ノートン工房のヴァルテマさんが言っていたんだ」


「へぇ~、そうなんだぁ」


 以前ヴァルテマさんから教わったラクルカの樹液の塗り方をクーリィにも教えつつ、刷毛を使って一定方向になる様に樹液を木板に塗っていく。

 そして、それから数分も経たない内にラクルカの樹液は乾いた。これはラクルカの樹液の特性の一つで、量が少ないと保湿を保てなくてすぐに乾燥してしまうのである。


「これからこれ(木板)を屋根に張り付けに行くけど、危ないから君は来ちゃだめだよ」


「えー・・・」


 屋根に張り付ける予定の木板全てにラクルカの樹液を塗り終えた後、僕はそれ等を脇に抱えて孤児院の最上階へと再び向かう。もちろん、その際にクーリィに着いて来ない様に言うのも忘れずに。

 なんというか、ここでしっかり言っておかないと「私もやる!」と言い出しかねない雰囲気をクーリィから感じたからだ。

 実際、僕が先に言わなければそう言うつもりだったのだろう。彼女は不満そうにプクゥと頬を膨らませた。

 その後、孤児院の屋根の上に到着した僕は、元は大きな穴が空いていたが今は粘土が固まって灰色の内壁が出来ている屋根の破損箇所に、ラクルカの樹液を塗った木板を張り付けていく作業を開始した。木板の片面に新しく作ったラハード鉱石の粘土を塗り付け、その面を下にして内壁に張っていく。こうすると木板と内壁がくっ付いて固定され、ズレたり剥がれたりする事が無くなるのだ。

 また、一度固まれば壊そうとしたりしない限りは早々形が崩れる事もないので、建物の外装の取り付け作業等ではフォレストスパイダーの接着糸よりも余程向いていると言えた。


「これが最後の一枚、と・・・!」


 ラクルカの樹液を塗られて緑色になった木板を綺麗に並んで見える様に張り付けていく。その作業自体は十数分程でほぼ終了し、そして今最後の一枚を張り付けて完了した。


「ふぅ・・・よし、終わった!後はマルシャルさんに確認してもらって、依頼発注書にサインを貰おうっと・・・!」


 額に浮かんだ汗を服の裾で拭う。そんな僕の瞳には、つい数時間前には大きな穴が空いていたとは思えないくらい薄っすら橙色混じりの西日の光を反射する綺麗な孤児院の緑色の屋根が映し出されていた。






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