第2章第13話 ~孤児院の依頼~
2020年12月21日に文章内容の大幅修正をしました。
2020年12月24日に一部文章の修正をしました。
2021年1月3日に一部文章の追加をしました。
2021年10月14日に文章の一部変更をしました。
2023年2月23日に内容の一部を変更しました。
暖かな午後の日差しが燦々と降り注がれ、穏やかな風が吹く交易都市ライファ。その都市の中で僕は、カテナ衣裳店と呼ばれる店の店内の一角で椅子に座りながら黙々とある作業をしていた。
それは人形作りであった。僕が今形作ろうとしているのはひよこの人形であり、この店で子供向けの玩具として売り出されている予定の物だった。
「よし、完成!カテナさーん!最後の一個が出来ましたよー!」
「あら、ありがとう!本当に助かっちゃったわ!」
僕は先程までチクチクと人形に通していた糸の通った針を引っ張り、糸きりバサミを使って糸を切って玉止めした後に店内の会計席に座っていた妙齢の女性――――カテナさんに声を掛けた。
声を掛けられたカテナさんはお礼を言いながら僕の座っているテーブル席へと近づき、僕が作ったひよこの人形を手に取った。
「うん。綺麗に出来てる。型崩れもないし、中身の綿も丁度良い量。完璧ね!この年でこれ程の腕を持っているなんて素晴らしいわ!」
「い、いえ、そんな・・・・・・!」
カテナさんに褒められ、気恥ずかしさから頬を掻きつつ思わず目線を逸らしてしまう。
そもそも、どうして僕がこの店でひよこの人形なんて物を作っているのかと言えば、それは冒険者ギルドのクエストボードにあった『小物作りを手伝ってほしい』という雑用依頼を受けたからであった。
依頼人は『カテナ衣裳店』の店長である『カテナ・ロク』さん。たった一代で自身の店を繁盛させ、交易都市のみならず周辺に存在する他の領地にまでその名を轟かせて有名にさせた女傑だ。その服を作る腕前は誰もが感嘆するほどであり、彼女が過去に作った作品の内の何点かは王族にも献上されたこともあるのだと言う。
それほどに有名な人物がどうして冒険者ギルドに依頼を出していたのかと言えば、その答えはただ単純に人材不足という理由であった。
実はつい先日、カテナ衣裳店で働いていた一部の針子の人が結婚を機に故郷に帰る事になり、店を辞めてしまったのだそうだ。
このご時世、結婚して家庭に専念する人がいるのは別に不思議でもないのだが、今回の場合は複数人が、しかもほぼ同時に辞めてしまったらしく、現在この店では針子が足りない状態になって困っていたらしい。このままでは通常営業も儘ならないと判断したカテナさんは、簡単な仕事でもいいので冒険者の手を借りようと決めて依頼を出したのだそうだ。
ちなみに僕がカテナ衣裳店の依頼を受けるのは今回が初めてではない。一週間ほど前にも依頼を受けており、その際に店長である彼女に腕前を気に入られて小物作りを任せられるようになったのである。
「あらあら、可愛い反応ね。ねえ、アルク君。前から言っていたけど、やっぱり貴方このままウチの従業員にならない?給料弾むわよぉ」
「いえ、あの・・・前にも言った通り僕は冒険者として強くなりたいので、お気持ちは嬉しいんですけど・・・・・・」
「そう?・・・残念ねぇ」
そんな凄い人に認められ、お店の仕事を一部とはいえ任せてもらえるという事に自身の実力を認められたような気がして僕は内心では嬉しく思っていたが、しかしどれだけ嬉しく思えたとしても、どれだけ腕を認められたとしても、彼の夢は服を作る職人ではない。
故に僕はカテナさんに対して申し訳なさそうな表情を浮かべながら首を横に振って丁重に断った。
「お疲れ様でした!」
「はい。お疲れ様。またよろしくね」
その後、カテナさんといくつかの世間話をした僕は私物である鞄を肩に掛け、またテーブルに立て掛けていた木刀を納めた布鞘を背負うと、元気よく挨拶をしてカテナ衣裳店を出るのであった。
「ただいま~!シャーラさん依頼達成しました!これ、依頼発注書です!」
「はい。お帰りなさい、アルク君」
カテナ衣裳店での仕事を終えた僕は、冒険者ギルドへと戻って来た。
冒険者ギルドの受付カウンターに向かうと、そこで待っていたギルド職員のシャーラさんへと依頼主であるカテナさんのサインが書かれた依頼発注書を渡した。
「はい、どうぞ。これが報酬の二シル四十五デルよ」
「ありがとうございます!」
依頼発注書を受け取ったシャーラさんは、そこに書かれたサインを確認した後に受付カウンターの下から用意していた報酬の入った袋を僕に手渡した。
シャーラさんから報酬袋を受け取った僕は、彼女にお礼を言いながら受け取ったそれを自身の肩に掛けていた鞄の中へと仕舞う。
そんな僕の様子を見ていたシャーラさんは、ふいに頬に手を当てながら感心する様な視線を僕に向けた。
「本当にアルク君はすごいわねぇ・・・まだ小さいのに一日でこんなに沢山の依頼を受けられるなんて・・・」
「フェルヌスさんの修行のおかげです!体力作りという目的もあるそうですけど、どちらかと言えば色々な仕事をやって様々な経験を積むことが目的なんだそうです!」
「そっかぁ・・・初めは君みたいな小さい子がこんなにたくさん依頼を受けて大丈夫かなと思っていたんだけど・・・今ではそれが、過去の良い思い出よ」
「あ、あははは・・・・・・」
シャーラさんが最後に呟いたその言葉に、僕はつい乾いた笑い声を零してしまった。
実はこのシャーラさんという女性は、一日に複数の依頼を僕に受けさせるフェルヌスさんに対して文句を言った事があった。その時にシャーラさんが口にした文句は、十歳という幼い僕の事を心配してのそれであったのだが、しかしその後で実際に僕が一日に複数の依頼を受けて平然と熟しているのを見て、驚きと呆れの溜め息を零す事しかできなくなったらしい、ということを後日シャーラさん本人から聞かされた僕は思わず何とも言えない顔をしてしまった。
というのも、彼女が口にしていた文句は決して間違いなどではなかったからだ。実際、以前までの僕であれば、一日に複数の依頼を熟す事なんて不可能だっただろうし、絶対途中で倒れていた。フェルヌスさんの修行を受け、体を鍛えて体力が増してきたからこそ、こうして途中で倒れることなく受けた全ての依頼を熟せるようになったのだ。
「しっかし、君にそんなことをさせるフェルヌスさんの方も凄いわよ。この前なんてゴブリン、グレーウルフ、スライムの討伐を行って、しかもこの間なんかAランクの魔物であるビッグメタルコングを討伐してきたんだから!」
「あれには本当にびっくりしたわ・・・!」とシミジミと語るシャーラさん。
おそらく彼女の脳裏に浮かんでいるのはフェルヌスさんが討伐したビッグメタルコングを冒険者ギルドに持ち帰って来た時の光景だろう。僕も目撃していたのでその時の事は覚えている。その時に冒険者ギルドに運び込まれたビッグメタルコングの体は、まさに見るも無残なと言える様な姿であった。全身を覆っていた筈の鋼の皮膚は罅割れ、砕け、剥がれていて、無事な所など一つもない。また、その手足も骨が折れているからなのか、不自然な個所で幾つも折れ曲がっていた。
一番印象に残ったのはビッグメタルコングが死に際に浮かべ、固まった表情だ。まるでとても恐ろしい何かに出会ってしまったと言いたげなその表情は、冒険者として活動していた過去を持っているらしいシャーラさんからしても思わず身の毛が弥立つ様な何かを感じ、そしてビッグメタルコングにそんな表情を浮かべさせたのがフェルヌスさんであるという事を察したのだろう。その時の彼女は思いっきり頬を引き攣らせていた。
「ギルドマスターの権限でFランクから一気に上がったとはいえ、あの人の実力は絶対Cランク程度には収まらないと思うわ!だってAランクのビッグメタルコングを単独で仕留めているのよ!?最低でもAランク、もしくはそれより上のSランク相当だと私は思っているわ!」
「師弟揃ってとんでもないんだから!」と愚痴を零すシャーラさんに、僕は乾いた笑いを返すことしか出来なかった。
ビッグメタルコングがズタボロの状態で冒険者ギルドに持ち込まれた時は僕もシャーラさんと同じように驚いてはいたが、内心では『始まりの森』で様々な魔物と戦うフェルヌスさんの姿を間近で見ていた事もあって、彼女ならば出来てもおかしくはないだろうとも思っていたからだ。
なにせ、Sランク以上の魔物であるブラッドグリズリーを簡単に倒した紫水晶の様な鱗を持つドラゴンを単独で討伐しているのだ。それらよりも遥かに弱いであろうビッグメタルコングを討伐できたとしても、なんら不思議な話ではなかった。
「あはは・・・・・・そ、それはそれとしてシャーラさん、今度はこの依頼を受けますね?」
乾いた笑いを浮かべていた僕は話題を変えようと思い、丁度目に入った受付カウンターの上に乗せられている真新しそうな依頼書を手に取ってシャーラさんの目の前に置いた。
「・・・・・・って、さっき依頼を達成したのにまた受けるの!?どんだけやるつもりなのよ!」
「今日の分は、これでお終いにするつもりですよ」
「働き過ぎじゃない!?」と言うシャーラさんに、僕はそう言いながら笑って見せる。
「はあ・・・もう、分かったわよ。でも、働き過ぎは本当に駄目だからね!貴方はまだ子供なんだから無理はしないように!」
「はい!」
元気に返事をする僕に、シャーラさんは呆れながらも新しい依頼発注書を渡してくれた。
それを受け取った僕は、元気良く駆け出して冒険者ギルドの外に向かうのであった。
「さて、今度の依頼はっと。えーと・・・北の居住区にある孤児院からの依頼か・・・」
冒険者ギルドから出て街中を歩いていた僕は、先程シャーラさんから受け取った依頼発注書をピラリと翻しながら、そこに書かれている依頼内容をもう一度確認した。
依頼内容は『エクセシリア教』が運営する孤児院の屋根の修理。孤児院にいるシスターや子供達では壊れた屋根を治すのは危険なのでお願いしたいという事が書かれていた。
『エクセシリア教』とは、この『アンリミト』という世界で広く知られている宗教であり、この世界を創り上げたとされる創造神『エクセシリア』を主神に、
火と戦いを司る男神『フレゴル』。
水と癒しを司る女神『アールー』。
風と自由を司る女神『ウィーダム』。
土と恵みを司る男神『アグリエ』。
雷と導きを司る男神『サダリド』。
木と成長を司る女神『ライード』。
光と真実を司る男神『クイクライ』。
闇と叡智を司る女神『ダネーシス』。
生と死を司る女神『ラポーデン』。
時と空間を司る男神『ティムペス』。
という十の従属神を崇め、信仰している多神教の宗教組織のことだ。
ちなみにこの『エクセシリア教』は、それぞれの従属神を信仰している教会が寄り集まった事で誕生した宗教組織でもあり、そうなった経緯は諸説あるらしいのだが、一番有名な説は〝それぞれの教会が所有する教典に創造神『エクセシリア』を最上位の神としている記述が共通して存在しており、そうであるのなら一つの組織として纏まった方が良いのでは?と考えられたからではないか〝というものだそうだ。
それ故なのか、『エクセシリア教』という組織にも一応各従属神に因んだ各派閥が存在しているが、その派閥同士で敵対し、抗争を起こした、なんて話は聞いた事がなかった。
ただ、以前シャーラさんとライファ図書館の司書であるミレアリーナさんから豆知識として聞いた話なのだが、どうやら『エクセシリア教』の各派閥はお互いにお互いを監視し合っているらしい。
敵対はしていないのに何故そんな事をしているのかと言えば、その理由はいずれかの派閥に所属している一部の神官や信徒が何かしらの暴走行為を始めた時にすぐに対処し、鎮圧する為だそうだ。
各派閥は自分達の派閥の名を冠した神々の性質や役割に準じた活動を行っているそうなのだが、しかしその中にはそれを拡大解釈したり、変な方向に理解してしまう者達もいるらしい。そういった者達は大体が歴史に名を残す程の傑物になるか、もしくは歴史に名を残す程の悪党になるかのどちらかであるらしいのだが、前者はともかく後者に関してはどの派閥も現れる事を望んでいない為、もし後者が現れた場合は全ての派閥が協力して鎮圧に乗り出すのだそうだ。
そして僕がこれから向かおうとしている孤児院は、『エクセシリア教』の派閥の一つ―――『ライード派閥』が主に関わっているらしい。
『ライード派閥』は『エクセシリア教』の中でも木属性の技や魔法を得意とする者が多く所属し、力であれ知識であれ”成長する”のであればそれら全てを推奨し、尊び、祈りとする教会として知られている。その為、その派閥に所属する神官や信徒は、種類や貴賤を問わず常に何らかの技術を研鑽しようとしている者達ばかりであり、その内の何人かが偉大な功績を遺したこともあるらしい。
ただし、この”成長する”に関しては定義が明確に定められていなかったりする部分もある為、先程の話でも出ていたが、過去にとある人物がとんでもない事をして恐ろしき悪名を世界中に轟かせた事もあったらしい。
シャーラさんとミレリアーナさんの二人から聞いていたそんな話を思い出しながら交易都市ライファの北の大通りを歩いていた僕は、途中で横道へと入って行き、そして幾つもの住宅を通り過ぎた先でようやく依頼主がいるであろう孤児院へと到着した。
孤児院の見た目は一般的な教会を模した二階建ての建物であり、其処此処の壁には『エクセシリア教』の紋章が刻まれているのが見えた。
また鐘楼もあるらしく、その部分だけ塔の様に三階建ての造りとなっている様であった。
「すみませーん!冒険者ギルドから依頼を受けた者ですがー!」
孤児院の扉をノックしつつ大きな声で呼びかける。
すると、少しして扉の向こうから「はーい!」という女性の声が聞こえて来た。
「はいはい、お待ちしておりま・・・し・・・た・・・・・・?」
ガチャリと扉を開けて現れたのはシスター服を身に纏った初老の女性であった。
来客の姿を見ようとしたのだろう。目線をまっすぐ前に向けていた彼女だったが、残念ながら僕はそこにいない。
初老のシスターは目の前に誰の姿も見えない事に、おや?と不思議そうに首を傾げる。
そんな彼女に僕は、「こんにちは」と声を掛けた。
「こんにちは。冒険者ギルドから来ました、アルクと言います」
その声に気付いた初老のシスターが視線を下に向け、そして僕の姿を目にして驚いたように瞠目した。
「え、ええっと・・・その・・・あなたが依頼を受けて来てくれたのかしら?」
「はい、そうです」
困惑の表情を浮かべながら問いかけて来る初老のシスターに僕は頷いて見せた。
僕は彼女の気持ちが分からなくもなかった。何故なら、彼女が出していた依頼には成人している冒険者を希望すると書かれていたからだ。
屋根を修理する為には屋根の上に登らなければならない。だが、もしそこから足を滑らせて落ちようものなら大怪我を負う事は間違いない。だからこそ出来るだけ成人した大人に来てほしかったのだろうが、しかし今現在のこの都市の冒険者ギルドにはそれが行える者はいない。
では、何故冒険者見習い―――つまりは未成年の子供である僕がその依頼を受ける事が出来たのかと言うと、実は以前僕は似た様な依頼でとある民家の壁や屋根を修理したことがあり、その際に依頼主から高い評価を貰っていたので、その事を知っていたシャーラさんが”彼ならこの依頼を達成できる”と判断して許可を出してくれたのである。
だが、それを知らない初老のシスターからすれば、何故?と戸惑うしかないだろう。浮かべている表情からそれを察した僕は、少しだけ苦笑をした。
「えっと、とりあえず依頼にあった壊れた屋根を見せてもらっていいですか?」
「え、ええ、分かりましたわ。こちらへどうぞ」
僕が目的の場所まで案内してほしいと頼むと、初老のシスターは少しだけ言葉を詰まらせながら、「こちらです」と孤児院の中に招き入れてくれた。
それから僕は壊れた屋根の所に向かうまでに初老のシスターから自己紹介を受けていた。初老のシスターの名前は『マルシャル』さんと言い、この孤児院の院長を務めている人であるらしい。また、普段この孤児院には彼女も含めたシスターが三人と十人くらいの子供達が住んでいるらしいのだが、しかし今は屋根の修理が完了するまでの間は危険だという事で、彼女以外の面々は一時的に他の孤児院に避難させているのだそうだ。
「そして、此処から見えるあの場所が修理してほしい部分なのですが・・・」
「よっと・・・!―――うわぁ・・・これは凄い・・・」
話をしつつ孤児院の最上階にまで案内してくれたマルシャルさんは、僕の身長くらいはありそうな大きさの木窓を指差し、続けて「あそこです」とその木窓から見下ろした先にある壊れた屋根の部分を指差した。
自身の身長よりも多少高い位置にあった木窓の縁によじ登った僕は、彼女が指差している場所を目にして思わず感嘆するかの様な驚きの声を上げた。
どうやら壊れているのは孤児院の屋根の端の辺りであり、そこに穴が空いているようなのだが、しかしその大きさはかなりのもので、十人ちょっとの人が入ってしまいかねない程だ。壊れたと言っても、精々屋根板が剥がれたりとか一部が腐っていたとかを想定した僕としては、まさに予想外の壊れっぷりと言わざるを得なく、思わずタラリと冷や汗を流してしまった。
「随分と大きい穴ですねぇ。・・・というか、いったいどうやったらここまで大きい穴が出来るんだろう?」
「実は、この孤児院の隣にある家が先日まで改築工事を行ってまして、その最中に運ばれていた木材が誤って孤児院の屋根に突っ込んで来たのです。幸い怪我人が出る事はありませんでしたが、しかしこのままでは雨風を凌ぐことは難しくて。・・・・・・建築業の方に頼もうともしたのですが、何処も数ヶ月先まで予定が詰まっているらしく、すぐには仕事を請け負う事が出来ないそうなのです。・・・なので、その建築業の方が仕事を請け負うまでの応急修理をお願いしたかったのですが・・・・・・」
「なるほど、そういう事だったんですか・・・」
マルシャルさんの話を聞いた僕は納得する様に頷き、その後で自信ありげに己の胸をドンと叩いた。
「分かりました。そういう事なら、僕に任せてください!この大きさは予想外でしたけど、穴を塞ぐくらいなら僕にもできますので!」
「え・・・?で、ですが、貴方の様な子供に頼むのは、さすがに・・・・・・」
それに対してマルシャルさんは眉を顰め、不安げな表情を浮かべた。おそらく僕が怪我でもするのではないか、下手をしたら屋根から落ちて死んでしまうのではないかと心配なのだろう。
そんな彼女に僕は胸を軽く張って見せた。
「大丈夫です!これでもノートン工房のヴァルテマさんから”お前の手先の器用さは素晴らしいな!”って言われたこともありますから!」
少し前までは持っていなかった自信を胸に僕はそう答える。
そう。僕はこれまでノートン工房の店主であるヴァルテマさんの依頼を何度か受けた事があり、その際に彼に誘われて幾つか家具を作り、その出来栄えを褒められた事があったのだ。
「まあ、あのヴァルテマさんが・・・!・・・そう。彼が認めたという事は、本当にそれだけの腕をお持ちという事なのでしょうね。―――分かりました。そういう事であればお願いするとしましょう。・・・・・・ですが、何かあったらきちんと呼んでくださいね?」
ヴァルテマさんの名前を耳にしたマルシャルさんは、先程まで浮かべていた不安げな表情を幾分和らげて、そして納得する様に頷いた後に孤児院の屋根の修理を僕に任せる事に決めたらしい。
・・・まあそれでも、その瞳には僕が怪我をするのではないかという心配気な色は相も変わらず滲んでいたのだが。




