第2章第11話 ~少年の日記~
2020年12月10日に文章内容の大幅修正をしました。
2020年12月12日に文章の一部追加をしました。
2021年10月14日に文章を一部修正しました。
「はい、アルク」
「えっと・・・何ですかこれ?本?」
「日記帳だよ。その日一日にあった出来事を書いていくアレさ」
雷の月×日。
修行を初めてから一週間後のある日。突然フェルヌスさんから一冊の日記帳を貰った。
フェルヌスさんが言うには、その日一日に起こった出来事を文章として書いて振り返る事で自分がどれだけ成長出来ているのかを客観的に見れるようにする為だそうだ。
フェルヌスさんが言うには、修行をしている間は自分が強くなっているという実感が中々湧き辛いだろうからという理由らしい。
ただ、この渡された日記帳なのだが、実は相当高価な代物なんじゃないかと思われる。
なにせ挟められている紙の一枚一枚が白くて綺麗であったからだ。
僕の知っている紙というのは、動物である羊の皮を使って作った羊皮紙であり、その色合いは茶色みを帯びていて、触り心地はどこかザラザラとしている。
しかし、この紙は違う。先程も言った様に真っ白で、触り心地もツルツルとしていて気持ちが良い。多分この紙一枚で銀貨どころか金貨くらいは掛かるんじゃないだろうか?しかもそれが何十枚も重ねられていたのだから、思わず頬を引き攣らせてしまった。
こんな一目で高級そうだって分かる物をヒョイッと渡してくるだなんて、あの人の金銭感覚は本当にどうなっているんだろうか?
あともう一つ気になった事と言えば、日記帳を渡した後にフェルヌスさんが呟いた「自分の成長速度がどれだけおかしいのかを、これで自覚できればいいんだけど・・・」という言葉だ。あれは一体どういう意味だったのだろうか?
「ほら、頑張れアルク。あと残り二十回だぞ!」
「はい・・・!」
その後は、修行を始めてから毎日午前中に行っている腕立て伏せや走り込み、兎跳びによる丘の登り降り、反復横跳び等のトレーニングを行った。
始めたばかりの頃は一つ終えるだけでも息が切れて倒れていたけど、一週間も続けると体が慣れて来たのか、今では倒れることなく最後まで行えるようになった。
幾らか余裕も出来てきたし、少しずつ成長しているのだろうと思う。
「アルク君。これ追加の洗い物ね。よろしく!」
「はい!」
「アルク君。こっちのテーブルと椅子の掃除をお願い。こっちは私がやるから」
「はい!」
午前のトレーニングを終えた後、僕達は冒険者ギルドへ向かった。
そこで依頼を受けてから依頼主の下へと向かい、そこで詳しい依頼内容を聞いてから仕事に取り掛かった。
今日受けた依頼は、とある飲食店の掃除のお手伝いだった。使い終わった食器を洗ったり、店内に置かれているテーブルや椅子、床などの汚れてしまった部分の掃除をしたりした。
「ねぇ、アルク君。今度私と一緒にお出掛けしないかしら?」
「はい!・・・・・・はい!?」
ただその店の店長の娘であり、ウェイトレスとして働いている人が妙に絡んで来るのには困った。悪意とかは感じられないのだけど、僕を見つめる彼女の視線には時折背筋がゾワッとしてしまう。
なんかこう、体全体を事細かに測られている様な感じだ。
「それは遠慮させてもらおう。彼の保護者である私としては、流石に今の彼を私以外と二人きりにさせたくはないのでな」
ちなみにフェルヌスさんも僕と一緒に同じ依頼を受けており、彼女は主に料理をお客に運んだり、支払いの会計をしたりしていた。
店の制服であるスカート丈が膝くらいのエプロンドレスを身に纏うその姿は、彼女の容姿も相まってとても可愛らしいと思えるモノであった。
そう思うのは僕だけでなく、当然店にやって来たお客も同じであったようで、彼等の大半―――特に男性客は彼女に見惚れていた。
中にはちょっかいを掛けようと手を伸ばす人もいたが、フェルヌスさんはそれを紙一重で華麗に避けており、一切触らせる事はなかったが。
「あらあら、嫉妬?嫉妬なの?んもぅ!普段クールぶっているくせに可愛らしいところがあるじゃないの!」
「・・・?何を言っているんだ?私は保護者として彼の安全を考えて言ったんだが・・・・・・」
「誤魔化そうとしたって私にはお見通し・・・・・・って、あらやだ。これマジな顔だわ。―――はぁ・・・本当に過保護ねぇ。でも、そんなに過保護じゃアルク君が成長出来ないんじゃないかしら?時には親元を離れて自由にさせてあげるのも彼の為だと思うけど?」
「それはいずれ、だ。今はまだ体を鍛えている段階だからな。この状態で誰かに、何かに襲われでもしたら一溜まりもない。なので、独り立ちさせるのはある程度強くなってから。それからだ」
「ふぅん?そこら辺はちゃんと考えているのね」
あと店長の娘さんとは仲良くなったらしく、気軽に話をしている様子が見られたり、時々現れる面倒で迷惑な客を協力して追い出したりしていた。
特に無駄にキンキラキンとしていた商人が荒くれ者達と共に店に来た時は凄かった。
どうやらその人物はこの店と、店のある土地の権利書を奪い取ろうと色々と画策していた人であったらしく、何時まで経っても首を縦に振らない店長達親子に業を煮やして最終的に実力行使に出てきたようだった。
・・・だったのだが、フェルヌスさんと以外と強かった店長達親子の手で荒くれ者達は即座に鎮圧された。掛かった時間は一分するかしないかであり、その結果を見た商人も目を白黒させていた。
・・・まあ、その商人も最後にはフェルヌスさんと娘さんの手で沈められたけれど。
抉り込む様に商人の顎下へと放たれた二人の拳。それを受けた商人の体は吹き飛び、グルングルンと回転しながら空高く昇っていき、そしてベシャリと地面に落ちたのだ。
その様子を見ていた僕は、まるで喜劇の様だとつい思ってしまった。
「・・・それで?具体的にはどのくらい強くなったらいいと思っているの?」
「む?そうだな・・・とりあえず、『アイアンクラブ』を倒せるくらいになれば、まあ安心だと私は思っているが・・・」
「いや、いやいやいや・・・!それBランクの冒険者が徒党を組んで討伐に当たる魔物じゃない!例え才能があっても倒せるようになるまでどれくらい掛かると思ってるのよ!・・・・・・もしかして、大人になっても面倒を見るつもりなの?」
「いや、私の予想ではあと二年くらいアルクが鍛えたら、ソイツを単身で倒せるくらいには強くなれると思っているんだが」
「えぇ・・・・・・?いやぁ・・・それは流石に夢見すぎでしょ」
本当に仲が良い。・・・良いんだけど、ちょっとフェルヌスさん?期待してくれるのは嬉しいんですが、流石にその期待は重い・・・!重いと思います・・・!!
「さて、アルク。今日からは、今まで行ってきたトレーニングの量を半分にして色々な武器の型を練習をしていくぞ!」
雷の月△日。
この日からはフェルヌスさんは僕の体力がついてきたので新しいトレーニングを始めると言いながら、『アイテムボックス』と彼女がそう呼んでいる黒い穴から取り出した物を僕に渡してきた。
それは木を材料に作られた剣だった。最初にそれを見た時は兵士の訓練などに使われているという木剣かなと思ったのけど、しかしそれにしては形が少し不思議だった。
フェルヌスさんが言うには、これは刀と呼ばれる武器を模して作られた木刀と言うモノで、直剣と呼ばれる様な両刃の剣を模して作られる木剣とは違い、細身の片刃で刃先が少し反り返った形をしているのだと言う。
「まずはこの木刀を使って剣の振り方を体に覚えさせていく。とりあえずの目標としては、これから教える各剣の型を午前中の内に一◯◯回振れるようになる事だな。・・・今から一通りの手本を見せるから、ちゃんと見て覚えるように」
フェルヌスさんはそう言いながら『アイテムボックス』からもう一本の木刀を取り出すと、それを使った素振りの仕方を僕に見せてくれた。
縦、横、斜め、突きと彼女が木刀を振っていく。
その動きはまるで踊りを踊っている様にも見え、彼女の容姿も相まってとても美しい光景だと、その時見ていた僕はそう感じた。
「・・・と、まあこんな感じかな。まず最初は上からまっすぐに木刀を振り降ろしていくのから始めるぞ。振り上げて一歩進むと同時に振り下ろし、また振り上げて一歩下がると同時に振り下ろす、という動作をやっていくように」
「・・・ふぇ?―――は、はい!」
フェルヌスさんの木刀を振るう姿に思わず見とれてしまっていた僕は、その後彼女に声を掛けられる事で正気に戻り、それから彼女に剣の振り方を教わりながら木刀を振るっていった。
「ふっ・・・!ふっ・・・!ふっ・・・!」
「うんうん、その調子その調子。型が崩れてきたら指摘するからな」
「はい!ふっ・・・!ふっ・・・!」
木刀の柄を両手で持ち、頭上へと振り上げて一歩踏み出すと同時に振り下ろす。
頭の中にある木刀を振るうフェルヌスさんの姿を思い出しながら、それを手本として何度も何度も同じ動作を、繰り返し繰り返し行っていく。
だけど、やはり始めたばかりのせいか木刀を振り下ろす度に姿勢が安定しなかった。体がふらついたり、型が崩れてしまったりして、その度にフェルヌスさんに指摘され、直していく。
素振りが終わる頃にはかなり疲れてヘロヘロになってしまったけれど、それでも強くなる為の新しい一歩を踏み出せた事が僕には嬉しく思えた。
「ふん・・・!よいしょっ・・・と!・・・・・・ふぅ、終わったぁ・・・!」
「そっちも終わったか。それじゃあ依頼主に報告して冒険者ギルドに戻ろうか」
「はい!」
そしてその日の午後もまた、これまでと同様に僕とフェルヌスさんは冒険者ギルドの雑用依頼を受けた。
ちなみに、今日からは僕の体力がだいぶついてきたという事もあって、フェルヌスさんの勧めで一日に一つか二つ、多い時は三つの依頼を受けていく事になった。ここ最近は体力がついてきた事に比例して、受けた依頼を一、二時間程で終わらせてしまっているのも数を増やすことにした理由の一つらしい。
そして今回僕達が受けた依頼は手紙や荷物の配達、民家の屋根の修理、公共トイレの掃除等だった。一つ一つの報酬金額は雑用依頼という事でそれほど多くはないのだけれど、それでも僕がエプーアの町で受けていた命の危険性が高い魔物が蔓延る森の中へ薬草採取に向かうという依頼の報酬金額と比べれば明らかに多かった。
その差がどれくらいかと言えば、その日一日の食べ物が手に入るかどうかと、一日二食か三食を必ず口にする事ができるという差か、あるいは屋根のない野晒しの地面の上で寝るのと、安めのボロ宿の一室を借りて休む事ができる差、と言った感じだ。
そのあまりの差を知った時、正直僕は愕然としてしまった。しかも、薬草採取の依頼は本来なら採取した数によっては雑用依頼よりも多く報酬金額を貰えるらしく、以前その事を冒険者ギルドのギルドマスターであるモールテスさんやギルド職員であるシャーラさんに教えてもらった時は、いったいどれだけ報酬金額が抜かれていたのだろう、と後で涙を流したのは今でも覚えている。
それからもう一つ、雑用依頼に関して気になっている事があった。
それは雑用依頼の数だ。僕達がこの都市に来てからかれこれ二週間くらいが経っており、その間に幾つかの雑用依頼を受けて熟していたのだけれど、それでも冒険者ギルドのクエストボードには未だにかなりの数の雑用依頼が張られていた。
「〝庭に大量に生えてしまった雑草を抜いてほしい〝に〝荷物の積み込み作業を手伝ってほしい〝。あっ、こっちには〝一人寂しい夜を一緒に過ごしてくれる男性求む〝というのもありますよ!」
「本っ当にまだまだたくさんあるなぁ。というか、私達が来た頃よりも増えてないかこれ?幾つか達成している筈なんだが・・・・・・それと最後のは受けないように。明らかに怪しすぎるから」
「それについては私がご説明しましょう」
「あ、モールテスさん」
そんな僕達の疑問に答えてくれたのは冒険者ギルドのギルドマスターであるモールテスさんであった。
なんでも、例の誘拐事件の調査の手伝いに僕の様な冒険者見習いの人達を回しているらしいのだけれど、そのせいで雑用依頼を受けてくれる人達がおらず、依頼が溜まってしまっているのだそうだ。
じゃあ、その回している人達の幾人かを戻せばいいのではと思った僕は、その考えをモールテスさんに伝えたのだけど、帰ってきた言葉は難しいというものであった。
「出来ればそうしたいのですが、無理なのですよ。それに戻したところで単純に数が足りません」
モールテスさんの話では、現在交易都市ライファの冒険者ギルドに所属している冒険者見習いは僕を除いて六人いて、しかもその六人全員がそれぞれ幾つかの冒険者チームの補佐に回されていて外す事ができないらしい。
それと冒険者見習いの数が少ないのも理由があって、去年見習い冒険者であった者達の大半が冒険者へと正式登録したからだそうだ。それにより、残った冒険者見習いは現状その六人だけなのだと言う。
ただ、何時もならばこれほどまでに少なくなることはないらしい。毎年の春頃になると周囲に点在している村々から子供達が冒険者になる事を目指してやって来て冒険者見習いとなるので、数自体はある程度確保できるのだそうだ。
しかし、今年は例の誘拐事件のせいでその来る筈だった子供達も村人事行方不明となってしまったらしく、結果として現在の冒険者見習いの数が少ない状況になっているらしい。
「それ故に人員の確保もままならず、依頼も達成することが出来なくなって溜まっているというわけでして、実はこうしてお二人に依頼を受けていただいているのは、冒険者ギルドとしてはかなり助かっているのですよ」
「そうだったんですね・・・・・・あっ、そうだ!」
モールテスさんの話を聞いたこの時の僕は、納得する様に頷いた後にある事を思いついた。
「フェルヌスさん。冒険者ギルドで受ける依頼ですけど、明日から別々に受けませんか?」
「・・・・・・なに?」
「この都市に来てそこそこ経ちますし、此処で受ける依頼の仕事もだいぶ慣れてきましたから、今なら僕一人でも大丈夫だと思うんです!」
その時の僕はそれが名案だと思ったのだ。実際、エプーアの町では騙されていたとはいえ、数々の依頼を熟して来たことがあるので自信の様なモノもあったし。
故に僕はフェルヌスさんにそう提案したのだが・・・・・
「・・・大丈夫だと?」
返されたのは低い呟きと物凄く怖い目であった。
フェルヌスさんの紫色の綺麗な瞳が一瞬で濁り、瞳孔が縦に細くなる。そして、それに合わせて彼女の体から怖気が走る様な恐ろしい雰囲気が立ち昇るのも感じられた。
「どうして私が君と一緒の依頼を受けていると思っている。私のトレーニングを受けている君の体調に異常が出ないかを確認する為というのもそうだが、一番の理由はギルドマスターの話にも出ていた誘拐事件への対策の為だぞ?幼い子供が街中を一人で歩いている姿は、むしろ誘拐してくださいと言っているものだろうが」
「うっ・・・!?」
「それに、この都市でも何度か行方不明事件が起こっているようだしな。―――なぁ、ギルドマスター。冒険者見習いの子供達を幾つかの冒険者チームに向かわせているのも、それが理由なんじゃないか?」
「よ、よくご存じで・・・・・・ええ、確かに。フェルヌス様の言う通り誘拐事件が発生する様になってから数ヶ月経ちますが、その間にこの都市でも何件か子供が行方不明になるという事が発生しておりまして、幾つかの冒険者チームの下に手伝いという名目で子供達を向かわせたのもその対策で、彼等には子供達を保護して貰うよう依頼していたのです」
「敢えて説明しておりませんでしたが」と最後にそう言葉を付け足したモールテスさんに、その時の僕は何も言えなかった。
・・・というか、フェルヌスさんの纏う雰囲気に圧されて口を動かそうとすることすら難しかった。
「・・・で、だ。これらの話を踏まえてもう一度聞こうじゃないか、アルク。―――誰が一人で大丈夫だと?」
「えっと・・・・・・」
最終的に僕は自分の言葉を撤回した。
モールテスさんの話を聞いたからと言うのもあったけど、一番の理由は恐ろしい雰囲気を纏うフェルヌスさんが怖かったからだ。
もし撤回しなかったらどうなっていたのかと、背筋にドッと冷や汗が流れたのを今でも覚えている。
「ふっ・・・!ふっ・・・!ふっ・・・!」
雷の月〇日。
今日も今日とて強くなる為に修行を行った。
何時ものトレーニングを行ってから、数日前から新しく初めた木刀を使っての素振りをしていく。
素振りを始めた頃は一振りする度に何度も体勢が崩れていたけれど、今では体が幾らか慣れて来たのか体勢が崩れる事はそんなになくなってきた。
とはいえ、最初から最後まで体勢をしっかりと支えながらはまだ出来ないのだけれど。
「ふっ・・・!せいっ!はぁぁっ・・・!!」
雷の月☆日。
木刀での素振りを始める様になって一週間。ようやく最初から最後まで体勢を崩すことなく木刀を振れる様になった。体勢が崩れる事が無くなった分動きの無駄も無くなったので、体力の消費も抑えられるようになり、今ではそれぞれの剣の型を一〇〇回行ってもそんなに疲れる事が無くなった。
同時に木刀の振り方も上達してきているのを実感している。最初の頃は木刀をブンブンと振り回すだけだったけど、今ではヒュンヒュンと風を切る様な音を鳴らせるくらいにはなり、さらには木刀の剣先を掠らせるだけで雑草や木の枝なんかを切れるようになってきた。
これらの事が出来る様になった僕は、自分が成長している事を実感し、順調に強くなっているのだと喜んだ。
・・・ただ、何故かフェルヌスさんはそんな僕を見て口元をムニャムニャとさせていたけど。その様子はまるで、言いたいけど言えないというか、コレじゃないとでも言いたそうな感じに見えた。
「三一一・・・!三一二・・・!三一三・・・!」
雷の月◆日。
今日から素振りをする数を増やすことになった。
フェルヌスさんが言うには、素振りをしている最中も体勢をしっかりと支えられるようになったかららしく、教えられた剣の型を各五〇〇回行う様にと言われた。
そして彼女に言われるがままその日の午前中は五〇〇回の素振りを行ったのだけれど、終わった後は息も絶え絶えで、体は疲労でぐったり。
昼食を取った後も疲れは取れなくて、午後に冒険者ギルドで受けた依頼の仕事をしている最中も、ついうたた寝してしまいそうになった。
「四九七・・・!四九八・・・!四九九・・・!五〇〇・・・!・・・ふぅ・・・・・・」
雷の月◎日。
素振り五〇〇回をするようになってから約一週間。素振りをしていく内に体がコツでも覚えたのか、段々と効率良く木刀を振れる様になり、同時に掛かる疲労も軽減していき、今では五〇〇回振り終わってもまだある程度の元気が残る様になった。
そんな僕の様子を見たフェルヌスさんが何故かヒクヒクと口元を引き攣らせていたけど。
「フェルヌス様、少々よろしいでしょうか?実は折り入ってお願いしたいことがありまして・・・・・・」
「うん?」
それと、この日は冒険者ギルドでモールテスさんに声を掛けられた。
どうやらフェルヌスさんに用事があったらしく、彼は依頼書と思われる多数の羊皮紙を手に持ちながら近づいて来た。
「実は少々困った事になりまして、出来ればフェルヌス様にこれらの依頼を受けて欲しいと思うのですが・・・」
「私に・・・?これは・・・ふむ・・・どうやら全部討伐依頼のようだな。ただ、どれもこれもCやBランクのものばかり。中にはAランクのものも混じっているようだが、何故私に?今の私のランクは最低のFランクだ。このランクでは上位ランクの依頼を受ける事は出来ない筈だろう?」
「仰る通りです。・・・なので、ギルドマスターとしての権限でフェルヌス様の冒険者ランクをCランクにまで上げる事にしました」
「・・・・・・は?」
「確かにFランクのままではこれらの依頼を受ける事は出来ません。・・・ですが、受けられないのであれば、受けることが出来るくらいに冒険者ランクを上げてしまえばいいのです!」
「はぁ・・・!?いやいやいや待て待て待て・・・!どうしてそうなった!?というか、そんな事が出来るのか!?」
「以前、冒険者登録を行おうとした際にお話したと思いますが、冒険者のランクはギルドマスターの持つ権限でCランクにまでなら一気に上げることが出来るのです!所謂飛び級制度です!」
「いや、その話は聞いていたけど・・・確かそれって試験を受ける必要があるんじゃなかったか?私はそんなのを受けた覚えはないぞ!?」
「問題ありません。試験に関してですが、これは飽く迄ランクアップを希望する冒険者の実力を測る為に行われるものであって、既に実力の程が分かっているのであれば行う必要がないのです」
「な、なるほど・・・・・・だが、再度質問する様で悪いが、どうしてこれらの依頼を私に?確か此処に所属している冒険者の中にはAランクの人物が何人かいると聞いていたんだが・・・・・・」
「確かに所属していますが、今はいません。誘拐事件が発生する少し前に別の依頼を受けて、他の領地へ遠征しているのです。来月くらいに戻って来る予定にはなっていますが・・・しかし、それでは少々間に合わないかもしれないのです」
「間に合わない・・・?」
「・・・実は誘拐事件の調査の過程で分かった事なのですが、ここ最近付近にある森の中で幾つもの魔物の群れが確認されているのです。その大半はゴブリンやオークばかりですが、中には厄介なのも数体確認されている様でして・・・私はこれを”スタンビート”―――深い森やダンジョンの中から大量の魔物が溢れだしてくる現象の前兆ではないかと思っているのです。・・・・・・ですが、現在この都市の冒険者ギルドにこれを如何にかできる実力の者はおりません。貴女様以外には。・・・どうかこれらの依頼を受けていただけないでしょうか?」
「う、う~ん・・・」
「実力のある冒険者や騎士団が出払っている今のこの都市にこれらの魔物が襲い掛かって来たならば、おそらく一溜りもないでしょう。そうすれば貴女様はともかく、アルク様にも危険が及ぶと思いますが・・・」
「―――分かった。その依頼を受けよう」
その後、少しの間悩んだフェルヌスさんは最終的に依頼を受ける事を決めた。
たぶんモールテスさんが最後に呟いた言葉が判断の決め手になったのだと思う。その言葉を耳にした瞬間、フェルヌスさんはスッと鋭く目を細めていたから。
ただその後でフェルヌスさんが「後で覚えてろよ?」と呟いて、その言葉をモールテスさんが耳にした途端彼の顔色が若干青くなったのだけれど、あれは何だったのだろうか?
「よいしょっ・・・と!ふぅ・・・」
雷の月□日。
フェルヌスさんの下で修業を始めてから、気付けば今日で約三週間とちょっとの時間が経っていた。
今の僕は修行を始めた頃に比べればだいぶ体力と力が付いてきたと思う。なにせ一ヶ月近く前には運ぶのさえ一苦労だった木材や鉄材を軽々と運べるようになっていたのだから。
「ヴァルテマさーん!依頼された木材と鉄材を運んできましたー!」
「おおぉっ・・・!?スッゲェなぁ坊主!よくもまあこんだけの量を一人で運んできたもんだ!」
その日の午後に僕達が冒険者ギルドで受けた依頼は、この都市で最初に受けた依頼でもあった資材を運搬する仕事であった。
依頼主はその時と同じ『ノートン工房』の工房主であるヴァルテマさんだ。今回は前回の時よりも大量の資材が必要になったそうで三倍近い量の運搬を頼まれた。
「大丈夫か、坊主。流石に疲れたんじゃないか?前にこの仕事を受けた時はへばっちまってそこの嬢ちゃんに背負われてたしよう」
資材の運搬を終えた後にヴァルテマさんにそう声を掛けられた。
どうやら前回の事もあって、今回も仕事を終えたら倒れてしまうのではないかと色々と心配していたらしい。運ぶ量も前回の比ではないくらい多かったのもあったし
「大丈夫です!最近体を鍛え始めて体力と力が付いてきたので、今ではこれくらいじゃ疲れなくなりました!」
なので、その時の僕は彼に向けてニンマリとした笑顔を浮かべて見せながら「まだまだ元気いっぱいです!」と右腕で力瘤を作って見せた。
・・・・・・まあ、分かりやすくムキッと出来れば良かったんだけど、僕の作った力瘤は小さくポッコリとした感じで、傍から見たら非常に分かり辛いモノだったけど。
「おうおう、そうかそうか!確かに前と比べたら随分と元気そうだな!なら安心だ!」
でもヴァルテマさんはそれで僕がまだまだ元気だという事を理解した様で、ヴァルテマさんも「ガハハハハハハッ!」と豪快に笑ってくれた。
「ふっ・・・!ふっ・・・!シッ・・・!はぁっ・・・!!」
雷の月▼日。
もう毎日の日課と言ってもいいトレーニングと木刀の素振りを今日も行って行く。
ただ、今日からは修行内容をちょっと変えるとフェルヌスさんから話があった。今までのような型通りの素振りではなく、これまで教わった剣の型を一つの流れとなる様に意識しながら振って行く様に、という事らしい。
それと、今日からは対人戦の練習もしていくという事で、フェルヌスさんを相手に模擬戦も行う事になった。
「行きます!」
「ああ、遠慮なく来ると良い」
模擬戦を始めて最初に僕が放ったのは縦の振り下ろしとそこからの切り上げの二連撃だ。
「はっ!はぁっ・・・!!シッ!セイッ・・・!!」
「・・・・・・」
しかしそれらの攻撃をフェルヌスさんは軽々と躱した。
一撃目は半身となって、二撃目は屈んでだ。
「くっ・・・!?」
攻撃が躱された事を理解した僕は、剣を振った勢いそのままに体を回転させながら軽く跳び、右斜め上から木刀を振り被り、勢いよく振り下ろした。
「・・・・・・」
「・・・ッ!?」
だが、それも躱された。
カンッ、という音と共にフェルヌスさんの木刀の剣先が僕の木刀の側面を捉える。そしてそのまま軽く横に押され、僕の体はそれに釣られる様に引っ張られて地面の上を転がった。
「くっ!このぉ・・・!!」
だけどすぐに立ち上がって再びフェルヌスさんに斬り掛かった。
今度は横薙ぎの一撃。一歩、二歩と地面を蹴って木刀を振るう。
「ふむ」
「ッ!?ふっ・・・!」
だがその一撃もやはりというか、縦に構えられたフェルヌスさんの木刀に防がれた。
だけどその時は防がれることは想定内だったので、僕はそのまま次の攻撃を繰り出した。腕の力を軽く抜きつつ右足を斜め前へ一歩踏み出し、その移動に合わせて僕の木刀をフェルヌスさんの木刀に密着させたまま滑らせ、そのまま横薙ぎの一撃を放つ。
「むっ・・・?」
「セイッ!」
自分の中では最高の一撃と言ってもいいそれであったが、しかしそれすらもフェルヌスさんは一歩下がる事で避けてみせた。
「はああぁぁぁぁっ!!」
だが、それもまた想定内。流れる様に木刀を翻しつつ左足を一歩踏み出しながら右斜め下からの切り上げを放ち、そこからさらに縦に木刀を振り下ろす。
「ほう」
それをフェルヌスさんは一歩分下がりつつ木刀で防ぐ。
しかし、散々自分の攻撃が防がれるのを目にしていた僕はそれを気にすることなく再び木刀を振るっていく。
今度は木刀を右脇に添えて横薙ぎに振るい、そのまま流れで木刀を左斜め下段に構えて切り上げる。
「これはなかなか、ちょっと想定外だな、っと!」
「・・・ッ!」
その連撃をフェルヌスさんは紙一重で躱し、木刀で防ぎ、しかも防いだ直後に反撃とばかりに右手だけで持った木刀を振り下ろしてきた。
それを目にした僕は後ろに下がりつつ、右に払っていた木刀を引き戻してその一撃を防ぐ。
「次はこれだ」
「・・・ッ!くっ・・・!?」
そこからフェルヌスさんの連撃が始まった。
先程打ちつけた木刀を引いて左脇に添える様に構えると横薙ぎに払ってきた。
それは屈んで回避出来たけれど、フェルヌスさんはその流れで続けて右斜め下段からの切り上げを放ってきた。
「くぅっ・・・!?」
その一撃を構えた木刀で防ぐことには成功するも、僕の体は地面から離れてそのまま後ろへと飛ばされた。
地面を擦りながらなんとか着地した後、フェルヌスさんの様子を見ようと顔を上げた僕だったが、その時には既に彼女は次の攻撃態勢に入っていた。
「これは防げるか?」
トンッ、という軽い音と共にフェルヌスさんの体が跳ぶ。
そして僕の目の前にまで来ると上段からの振り下ろしを放ってきた。
「うぐぅぅっ・・・!?」
その一撃を僕は横っ飛びで躱す。
右へと跳んで地面の上を転がった僕はすぐに体を起こして立ち上がると、フェルヌスさんに向かって木刀を振り被った。
「シッ・・・!セイィィヤッ!!」
「むっ・・・!?」
先程のフェルヌスさんの動きを真似る様にして地面を蹴りつつ木刀を振り下ろす。
フェルヌスさんは僕の動きにちょっと驚いた様子を見せながらも、横に構えた木刀で僕の一撃を防いだ。
「うんうん。いい感じだ。これならそん所其処らの輩なんぞに襲われても簡単に返り討ちに出来るだろうな」
感慨深げに何度も頷くフェルヌスさん。そんな彼女を尻目に僕は一度木刀を引き戻して一歩下がり、再び構え直してから連撃を放って行った。
「うおおぉぉぉっ!!」
右から左への横薙ぎの一撃。そこからさらに体を左に回転させて右斜め下段からの切り上げ、右斜め上の上段からの振り下ろしを放つが、それをフェルヌスさんは右手だけで持つ木刀で防ぎ、払っていく。
「はああぁぁぁっ・・・!!」
流れを途切れさせない様に今度は左斜め下段からの切り上げを行い、そこから体を右に回転させて左から右への横薙ぎを放つ。
「剣を振るう流れや足の運びもちゃんと意識できているし、頭の中で次にどう動くのかもしっかり考えられている。・・・うん。正直、初めての模擬戦でこれだけ動けるとは驚きだ」
だけどやはりと言うべきか、フェルヌスさんはそれら全ての攻撃を防ぎ切った。
そして彼女は攻撃を放った直後で固まっていた僕に攻撃を仕掛けようと木刀を振り被った。
「(その一撃を待っていた・・・!!)」
息を吐き、全身の力を一瞬抜く事で体の硬直状態を回復させた僕は、右足を一歩踏み出しながらフェルヌスさんへと向けて突きを放った。
それは鋭く、早く、的確に、がら空きとなったフェルヌスさんの胴体へと突き進んで行く。
「―――だが、意識を攻めに傾きすぎている。足元がお留守だぞ?そんなに踏み込んだら・・・ほら、足を掬われる」
「え・・・?―――あぐぅっ!?」
だがその一撃が当たる事は無かった。
気が付けば目の前にいた筈のフェルヌスさんは消えていた。
そしてそれに驚いているうちに足を払われて体勢を崩した僕の体は、ゴロゴロと地面の上を転がっていったのだ。
「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・!」
ある程度の距離を転がった後、僕は荒い呼吸を繰り返しながら地面の上に両手両足を投げ出した。
「(つ、疲れた・・・!!疲労感がドッと押し寄せて来て辛い・・・!まさか、剣を振るう流れを考えながら動く事がここまで難しくて、疲れやすいだなんて思ってもみなかった・・・!!)」
疲労で体を起き上がらせることが出来ない。それどころか、投げ出した両手両足を動かそうとするのすら、この時の僕には億劫だった。
「大丈夫か、アルク」
「はぁ・・・はぁ・・・!ふぇ、フェルヌス、さん・・・!」
そんな自力では起きられなくなっている僕の所にフェルヌスさんがやって来た。
彼女は倒れている僕の横に屈むと、ハンカチと思われる布を取り出し、それで僕の顔に流れていた汗を拭ってくれた。
「どうやら今日はここまでの様だな。少し早いが、昼休憩にしよう」
「い、いえ・・・!まだ、やれます・・・!す、少し休んだら、もう一回、お願いします・・・!」
今日は何時もより早めに休憩しようと言うフェルヌスさんに僕はまだやれると口にした。確かに疲れてはいたけれど、以前までの自分ならともかく今の体力がついて来ている自分なら、十数分くらい休めばもう一度模擬戦を行えるくらいには回復すると思っていたのだ。
「ダメだ。これ以上無理をすれば怪我をする事になる。そうなると分かっているのに、やらせるわけがないだろう」
だけど、フェルヌスさんはダメだと首を横に振った。今の状態でもう一度模擬戦を行えば今度は怪我をする可能性が高いかららしく、そう言われてしまっては僕も何も言えなくなってしまった。
「今日はもうおしまい。続きは明日だ。ほら、私に背中に乗れ。何時もの場所に運ぶから」
「い、いえ・・・!その・・・!今の僕は、汗臭いだろうと思うので・・・!フェルヌスさんに、不快な思いを、させると思いますし・・・!」
ただ、その後の彼女の発言には焦った。この時の僕は全身汗だく状態だったし、そんな状態の僕をフェルヌスさんに背負って運んでもらうというのは、なんかこう、気恥ずかしさから来る遠慮の気持ちの方が強かった。
「・・・・・・・・・」
「それに、僕の汗でフェルヌスさんが汚れたら、申し訳ないですし、だから、その、少し休んだら、自力で行きますから、今は放っておいてもらえれば―――」
「・・・・・・問答無用!」
「がふっ・・・!?」
なので断ろうとしたのだが、そんな僕のお腹にドスッ・・・!と突然フェルヌスさんが掌底を放ってきた。
「な、なんで・・・?」
「子供が遠慮なんてするんじゃない。辛いと思うのなら大人に―――私に頼れ。そして甘えろ」
「だ、だからって、なんで僕のお腹を・・・!?」
「なに、気を失えば遠慮する気持ちなんて抱く事はないだろう?―――というわけでもう一発」
「ちょっ、待っ・・・!ぐふぅっ・・・!?・・・ひ、酷い・・・!?―――ガクッ・・・!」
そして僕のお腹に再び放たれる掌底。
それを食らった僕は完全に意識を失い、次に目を覚ましたのは夜中であり、宿屋のベッドの上であった。
・・・・・・前から思っていたけど、色々と理不尽過ぎやしないだろうか、あの人は。
「・・・・・・・・・」
宿屋に備え付けられていた机に向かい、その上に開かれて置かれている一冊の本―――フェルヌスさんから貰った日記帳に走らせていたペンを止めて、そこに書いた文章を読み返す。そして最後の方に書いた文章に目を通して、その当時の事を思い出した僕は困ったように眉尻を下げた。
「あの後は色んな意味で焦ったんだよなぁ・・・・・・」
はぁ・・・と溜息を吐く。
日記帳には書いていないが、実はあの時僕が目を覚ました際にちょっとしたハプニングがあったのだ。
そのハプニングとは僕のベッドにフェルヌスさんが潜り込んで一緒に寝ていた事だ。それだけならば前にもあった事だと―――毎夜毎夜気が付けば何時の間にかフェルヌスさんが自身のベッドに潜り込んでいたので―――幾分慣れがあった僕は、多少の動揺はしてはいてもある程度冷静に対処する事ができる筈だった。
―――彼女が何時もの服装であったのであれば、の話だが。
その時彼女が身に着けていたのは、全体的に白いベビードールであった。しかもヒラヒラしている部分が透けているので、生地の向こう側にフェルヌスの褐色の肌が見えていたのだ。
そんな扇情的と言える服を着ているフェルヌスさんの姿を目にした僕は、「何があった!?というか何をされたの!?」と動揺し、本気で焦った。もしかして自分の意識が無い間に何か間違いでも起こったのか!?とその時は思ったのだ。
・・・まあ、その少し後に自身がしっかりと服を着たまま寝ていたことに気付いて、ホッと安堵の息を吐いたのだが。
ちなみに、何故彼女がそんな服を着ていたのかと言えば、なんでも昨日の夜は結構蒸し暑かったらしく、何時もの服装では熱が籠ってしまって寝苦しかったかららしい。
理由は分かるのだが、それで何故自身のベッドに潜り込んで来るのかが僕には分からなかった。普通に考えてそちらの方が余計寝苦しくなると思うのだが。
「ただ、気になってる事も一つあるんだよなぁ・・・あの時僕が着ていた服って、修行を行っていた午前中に着ていた服とは違う物だった。自分で着替えた記憶はないから、多分フェルヌスさんが気を失っていた僕を着替えさせたんじゃないかなと思うんだけど・・・・・・本当に何もないよね?大丈夫だよね?」
着替えさせてくれた事に関しては、恥ずかしさを感じるが同時にありがたさを感じていた。だが、その際に何かされてしまったのでは?と考えると少し不安な気持ちも出てくるが。
「あの人、妙なところでイタズラを仕掛けてくるし。いや、そのイタズラは僕から見ても可愛らしいと思える程度なんだけどさ・・・」
頬を赤く染め、しかし顔色は不安で青くさせるという器用な表情を浮かべた僕は「う~ん、う~ん・・・!」と頭を悩ませた。
「アルクー!図書館へ行くぞー!」
「ふぇっ!?は、はーい!今行きまーす!」
そうして頭を抱えていると、不意に自身の名前を呼ぶフェルヌスさんの声が聞こえて来た。
それに僕は一瞬驚いた声を出した後、すぐに大きな声で応えながら開いていた日記帳をパタンと閉じ、それを机の引き出しの中に仕舞ってから、ベッドの上に置いていた上着の袖に腕を通し、その隣にあったカバンを肩に掛ける。
そして部屋の外に出てガチャリと扉に鍵を掛けた後、宿屋の一階で待っているであろうフェルヌスさんの下へと足早に向かうのであった。




