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【改訂版】カオスゲート・サーガ ~大魔王と勇者の冒険譚~  作者: Kudo
第2章 ~大魔王と少年と交易都市~
25/71

第2章第9話 ~図書館へ 1~

2020年12月3日に一部文章の修正と追加をしました。

2021年9月30日に内容の一部変更をしました。



 アルクの修行を開始してから一週間。彼の修行は順調に進んでいた。

 ―――というか、()調()()()()()()()()()


「フッ・・・!フッ・・・!フッ・・・!フッ・・・!」


 長い鉄の棒を振り回すアルク。その速度は結構な勢いであり、ブォンブォンという音が聞こえて来る程だ。

 そして何よりも一際目につくのは彼の持つ鉄の棒だ。それには大きくて分厚い円柱型の鉄の塊が三つ取り付けられており、その見た目に恥じない重厚さを感じさせる。

 まさか、たった一週間でここまでの事が出来るようになれる程成長するだなんて、一体誰が予想出来るだろうか?


「(いやいやいや・・・!?おかしいから!絶対におかしいから、これ!!)」


 そしてそれは、彼を鍛えていた私こそが一番感じている事でもあった。

 私が当初組んでいた予定では、初めの一、二週間は体力作りに集中するつもりだった。それはアルクの年齢や体の事を考えての事だったのだが、しかし彼の成長速度は私の予想を大きく上回る程に早かった。

 修行を始めたばかりの初日と二日目はともかく、三日目には初日に行った腕立て伏せとランニングを余裕で行えるようになっていた。四日目には追加のトレーニングメニューとして考えていた屈伸や反復横跳びを開始した。五日目、六日目の頃には私が考えていた全てのトレーニングメニューを(こな)せるようになっていた。そして七日目の今日には、昔私がネタ武器として作った『トレーニングロッド』をアルクに渡して試しに振ってみてくれと言ってみたところ、現在の様にアルクが豪快に鉄塊を振るう光景ができあがったのである。

 ちなみに、現在のアルクのステータスは以下の通りである。



種族名:【人間種(ヒューマン)普人族(ノービス)

名前:【アルク・■■■■■】

性別:男性

年齢:10歳

称号:■■■■、■■■■■、

状態:通常

『HP』:582/582

『MP』:54/54

『SP』:322/322

『STR』:301

『VIT』:204

『AGI』:321

『INT』:62

『MND』:57

『DEX』:255

『LUK』:101(5000)



 以上が今のアルクのステータス値であり、以前のモノと比べれば倍以上の上昇を見せていた。

 だがその結果を見た私は、頬に一筋の冷や汗を流していた。


「(いくらなんでもトレーニングをたった一週間行っただけでここまで成長する筈がない・・・!もうこれは異常と言う他ないだろう・・・!)」


 私がそう思ったのには理由があった。

 というのも、この世界法則や設定が『カオスゲート・オンライン』と同じだとすれば、アルクのステータス値がここまで劇的だと分かる程上昇する筈がないと思っていたからだ


「(『カオスゲート・オンライン』でトレーニングを行った際に上昇するステータス値は、一律で一ポイントから十ポイントまで。しかも、ステータス値が上がる程に必要なトレーニング量もどんどん増えて行くという現実(リアル)的仕様だった。それを考えると、彼の成長は何か他の要因がなければ説明がつかない・・・!)」


 一応ステータス値を上昇させる方法はトレーニングをする事以外にも存在してはいるが、しかし私はその方法をアルクにやらせてはいない。これまで私がトレーニング以外でアルクにやらせてきた事と言えば、冒険者ギルドで色々な依頼を受けさせた事くらいであり、それでも上がると言えば上がるが、主に力仕事関係の雑用ばかりだったので、実質トレーニングのそれとあまり変わりがない。


「(となれば、他に考えられる残る要因は・・・彼が取得しているあの二つの特殊スキルくらいか・・・?)」


 私は以前『鑑定のメガネ』を使って確認した、アルクが取得している二つの特殊スキルの事を思い出した。

 一つは【目指すもの】と言い、自らが目指す理想の姿を求める限り、それに到達するまでの間は常に成長率を上昇させる〝という効果を持つ常時発動(パッシプ)型スキルだ。

 二つ目も常時発動(パッシプ)型スキルで【足掻くもの】と言い、〝自らが不利な状況及び環境にいる場合、各種ステータスとスキル成長率を上昇させる〝という効果がある。

 【目指すもの】は彼が勇者になりたいという思いから。【足掻くもの】は『突き落す愚者の腕輪』の効果によって彼の肉体が不利な状況及び環境にいると判断された事により発動しているのだろう。しかし、それでもその上昇率はそれぞれ一.ニ倍か一.五倍が精々であり、『突き落す愚者の腕輪』の副次効果も加えたとしても、二倍からニ.五倍までが限界の筈なのだ。

 その事を考えれば、ステータス値を一週間で倍以上に上昇させるにはこの二つだけでは足りない。他にも要因となるモノがある。そう考えた私は、【目指すもの】と【足掻くもの】以外で可能性がありそうな、アルクが取得しているスキルを思い出そうとして、そこでふと「そういえば」と呟いた。


「(確か、アルクが取得していたスキルの中に()()()()()()()()()()()()()があったな。・・・・・・まさか、それか・・・?)」


 フムと顎に指を当てながら考える。

 私の知る限り〝スキルが塗り潰される様に消された状態〝は、何らかの理由によってスキルとしての機能を失っている事を示している。

 主にスキルが封印されたり、奪われたりした場合になる状態ではあるが、滅多になるものではなく、私も『カオスゲート・オンライン』でのイベントでしか見たことがないものだ。だが、もしかしたらそれがアルクのステータス値を倍以上に上昇させたのかもしれない。・・・と、そう思った私だったが、しかしそれが正解だという確信を持つ事はできなかった。

 というのも、この状態のスキルは先程も書いた通り()()()()()()()()()()()()()()()()()であるわけで―――つまりは発動できるできない以前に、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだ。

 謂うなれば白紙の状態。ゼロに何を掛けてもゼロのままであるように、最初から無いものを有るものとして扱う事はできない。


「(・・・そう。できる筈がないんだが、しかしそうなると、いったい何がアルクの成長を促したのやら。もうホントにわけ分からんなぁ)」


 意味不明、理解不能な現象に私は頭を悩ませる。

 そのまましばらくの間ウンウンと唸っていたが、これ以上考えても答えなんて出ないだろうと判断して―――というより、色々と面倒だと感じるようになってきたので、最終的に私は考えることを放棄した。


「はぁ・・・やめだ、やめ。これ以上考えても(らち)が明かない。とりあえず、今日の分のトレーニングはもう終わってるし、アルクに声を掛けて昼休憩に入るとしよう」


 この件を一旦保留にすることにした私は、溜め息を一つ吐いた後に首を横に振り、今もトレーニングロッドをブンブンと振っているアルクの下へ声を掛けに向かうのであった。








 午前のトレーニングを終えて昼休憩を取った私達は、ここ最近の毎日の日課とも言えそうな雑用依頼を受けに冒険者ギルドへ―――向かわずに、交易都市ライファの北の居住区にある『ライファ図書館』へとやって来ていた。

 どうして此処に来たのかと言えば、実は数日前にゴンゾーの宿屋の女将さんから「この都市の北にある居住区に図書館があるから、調べ物があったらそこに行ってみるといいわよ」という話を聞いたからだ。

 彼女の話から図書館の存在を知った私は、これを機にこれまで後回しにしてきた情報収集を本格的に行おうと考え、アルクを連れてやって来たのである。

 ちなみに、アルクも連れて来ているのは、そろそろ彼に休息を取ってもらおうと考えていたからだ。流石に毎日トレーニングと仕事では彼も気が滅入るだろうし、体も休まらないだろうと思っていたからであり、前者は彼の強くなるという目的上外すことは出来ないが、後者に関しては冒険者ギルドで依頼を受けるかどうかは基本任意であるので、休もうと思えば何時でも休める為だ。

 なので、私はアルクに「今日の予定は午前のトレーニングのみやって、午後は休みとする。そんでもって昼休憩をした後に私は図書館に行くつもりだが、君はどうする?一緒に来るか?」と言ったのだが、以外にも彼は図書館に行く事に結構乗り気であった。

 本人から話を聞くに、どうやらアルクは小さな頃から本を読むのが好きだったらしい。故郷の村にいた頃は家にあった絵本をよく両親に読んでもらっていたそうだ。

 エプーアの町で過ごしていた頃は、最初の一年の間はともかくそれ以降は生きるのに必死で本を読む暇なんてなかったので、この機会に久しぶりに色々な本を読みたいとも彼は言っていた。


「ここがライファ図書館、か・・・」


 そうして、目的地である『ライファ図書館』の前に到着した私達は、目の前に建てられている貴族の屋敷と見間違えそうになるほどに大きな館を見上げていた。

 高さは大体三階建てくらい。横幅と奥行きの長さもかなりあり、ある意味”大図書館”とも呼べそうな建築物であった。


「これは・・・随分な蔵書量だな」


「ふわぁぁぁっ・・・!」


 建物の正面入り口の扉を開いてライファ図書館の中へと足を踏み入れた私達は、そこに広がる光景を目にして驚きを(あらわ)わにした。

 本、本、本。そこはまさしく本の山。知識の宝庫。多種多様の人類の英知が記された書物がズラリと本棚に納められていた。


「手前にある分も相当だが、どうやら奥にはまだまだ本棚があるようだな」


「二階と三階辺りにも本棚があるのが見えますよ。凄いなぁ・・・!」


「確かに凄いが、これは目的の本を見つけるだけでも一苦労しそうだなぁ・・・」


 図書館内部の構造を見た私は「もしかしたら、予想よりも時間がかかるかもしれないな・・・」と呟く。

 私は本を読む事は別に嫌いではない。むしろ興味を抱いたり、必要だと判断すれば積極的に読むほうだ。・・・が、それでもこの本の山から目的の物を見つけ出すと言うのは些か面倒臭さを感じ始めていた。


「とりあえず、まずは此処の事を知っている人―――管理者に当たる人を探そう。私達だけでは下手したら一日かけても探している本を見つけられないかもしれないし」


「そうですね。本棚がまるで迷路の壁の様になっていますから迷子になりそうですし。―――あっ、フェルヌスさん。あそこに受付があるみたいですよ?」


 スッ、とアルクがとある場所へ向けて指を差す。

 そこは図書館内部でも広々としたスペースであり、テーブルとイスが置かれている様子から、おそらくその場所は読書スペースなのだろう。その一角の奥に『受付』と書かれた札が置かれた分厚そうな木造のテーブルに囲われた場所があった。

 そしてそこには緑色の制服染みた上着とスカートを身に纏い、長い金髪を三つ編みに纏めた女性が複数冊積み重なった本を腕の中に抱えて運んでおり、丁度それを木造のテーブルの上に置くところであった。


「ふむ、どうやらあそこにいるのはこの図書館の職員の様だな。・・・ちょっと声を掛けてみるか」


 彼女にこの図書館の中を案内してもらおうと思った私は私は、そちらに向けて足を進め、声を掛ける。


「すまない。ちょっと聞きたいことがあるんだが・・・」


「はい?どうしまし、た、かぁぁああ・・・!?」


「おうッ・・・!?」


 ドスン!と木造のテーブルの上に積み重なった本を置いた職員と思われる金髪三つ編みの女性は、返事をしながら私の方へと振り向こうとする。

 だが、その際に彼女の肘が木造のテーブルの上に置かれた積み重なった本に当たり、それらがバラバラと床へ散らばり落ちてしまった。

 それを見た私は思わぬハプニングにちょっと驚いたものの、親切心から落ちた本を拾おうとその場に屈んだ。


「ッ!?」


 そして落ちている本へと手を伸ばしながらその表紙を見た瞬間、私は思わず噴き出しそうになった。

 そこには二人の美形と思われる男達が上半身裸で絡み合い、軽く目を瞑りながら顔と顔を近づけている絵が描かれていた。

 良く見れば他の落ちている本の表紙も大体似たような感じの絵柄が描かれており、その中にはかなり露出の際どいモノも存在していた。


「(これはあれか・・・!男同士のエロスと言うか、薔薇的展開と言うか、そんな奴か・・・!?)」


 私は頬を引き攣らせ、「わぁ・・・」と拾い上げたそれと、床に散らばるそれ等にハイライトの消えた目を向ける。


「あわ、あわわわわわ・・・!?」


 一方、これらの本を運んでいた金髪三つ編みの女性はと言えば、床に散らばり落ちた本と、その内の一冊を手に持つ私に視線を行ったり来たりさせながら、頬を赤く染めつつ顔色を青くさせてアワアワとしていた。

 それはまさしく「見られてはいけないモノを見られてしまった!?」というのがありありと分かる表情であった。


「(まさか、この世界にも腐女子と呼ばれる様な人物がいるとは・・・)」


 ちなみにだが、私はこういったモノに対する偏見などは特に持っていない。己の趣味でない事は確かだが、趣味趣向なんてモノは人の数だけ存在すると思っているので、精々が「まあ、そういう趣味の人もいるだろう」という程度の認識だ。

 とは言っても、男同士云々のそれに関しては私自身の感性の問題でつい現実的な絵面を想像してしまう為、思わず「ウッ・・・」となってしまうのだが。


「(しっかし、まさかこの図書館にそっち関連の本があるとは。しかもこんなに大量に。・・・・・・もしかして、意外と人気があるのか?)」


 本を片手に持ちながら「やれやれ」と溜息を吐いた私は、内心でそう独り言を零しつつ床に散らばっている他の本へと手を伸ばそうとして―――しかし、そこで金髪三つ編みの女性が何かに気付いた様にハッとし、とある方向へ視線を向けた事に気付いた。


「えっと・・・これって一体何の本なんだろう?」


「―――ッ!?」


 その場に幼い少年の声が響いた。

 バッ!と声が聞こえた方へと振り向けば、そこには床に散らばり落ちている本の内の一冊を拾おうとしているアルクの姿があった。


「(し、しまった!アルクの事をすっかり忘れてた!?というかマズイ・・・!これをアルクに見せるのは、情操教育的に明らかにマズイ・・・!!)」


 アルクが手を伸ばしているのは、何の絵柄も描かれていない裏表紙が上となっている本であったが、しかしそれを裏返してしまえば彼が半裸の男達が絡み合う絵を見てしまうのは確実だ。その事に気付いて嫌な汗が流れるのを感じた私は一瞬驚きに目を見開き―――次の瞬間には常人の目には捉えきれない速さで駆け出した。


「(彼が表紙の絵を目にしてしまう前に、床に落ちている本を全て回収する・・・!)」


 私はこの一時の間のみ己の意識を戦闘状態のそれへと瞬時に移行させ、広範囲に床に散らばっている本を回収しようと次々に手を伸ばしていく。

 最初はアルクが拾おうとしている本を、続いてその周囲に落ちている本をといった順番で。

 その速さはまさしく風を超え、音を超え、初速に関しては一瞬ではあるが光と同等の速さにまで到達していた。

 そして全ての本を己の手の内に回収しきった私は、積み重ねたそれらを金髪三つ編みの女性の隣にある木造のテーブルの上へ叩き付けるように置いた。


「うわっ・・・!?」


「ぴぃっ・・・!?」


 その際にドスン!という音が響き、アルクと女性が驚きの声を上げた。

 「一体何が起こった・・・!?」といった感じにキョロキョロと周囲を見回す二人。その後で先程まで床に散らばり落ちていた筈の大量の本が、何時の間にか木造のテーブルの上に積み重なっているのに気付いて困惑する様子を見せた。


「なあ、オイ・・・」


「ぴゃいっ!?」


 そこに響くドスの利いた声。

 その声の主は、当然と言うべきか私であった。

 意識を戦闘状態のそれから通常のものへと戻した私は、金髪三つ編みの女性の目の前に来るとニッコリとした笑みを浮かべた。

 ただし、目は笑っていなかったし、ハイライトも消えていたが。


「うひぃっ・・・!?」


 それを目にした金髪三つ編みの女性は、ビクゥッ!?と肩を竦ませ、顔色を青醒めさせた。その反応はまるで、何か恐ろしいモノを目にしたかの様な、そんな感じだ。

 しかし、私はそんな彼女の反応を無視して、ガシリッ!とその細い肩を掴んだ。


「さっきのを見なかった事にするので、ちょっと私達の頼みを聞いて貰っても良いだろうか?」


「え・・・?えっ・・・!?」


「良・い・よ・なぁ?」


「―――あ、はい」


 金髪三つ編みの女性に向けて、「断ったらどうなるか、分かっているよなぁ?」と言いたげな眼光を向ける。

 それを真正面から見る羽目になった彼女は逆らったらヤバイと思ったのだろう。体をガクガクブルブルと震えさせながら、何度も首を上下に動かすのであった。






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