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【改訂版】カオスゲート・サーガ ~大魔王と勇者の冒険譚~  作者: Kudo
第2章 ~大魔王と少年と交易都市~
23/71

第2章第7話 ~初めての依頼~

2020年11月25日に文章構成の修正と一部文章の追加をしました。

2021年9月30日に内容の一部変更をしました。

 


 冒険者ギルドでのやり取りの後、モールテスから勧められた依頼を受けたフェルヌスとアルクは、とある場所に向けて交易都市ライファの東大通りを歩いていた。

 その場所とは東大通りの一角にある家財道具を専門に扱っている『ノートン工房』という所であり、彼女達がそこに向かっているのは、依頼主であるノートン工房の工房主と顔合わせをする為だった。

 ちなみに、フェルヌス達が受けた依頼の内容は、東門の近くにある東区資材置き場にある木材や鉄材を『ノートン工房』に届けるという、所謂資材を運搬する仕事だ。

 内容自体は単純で、一見すればフェルヌス達以外でも達成する事が出来そうだと思えるものだが、どうも運ぶ荷物の重さや量の問題で、他の者達―――特に今この都市に残っている冒険者見習い達では難しいだろうと判断され、依頼が出されてからずっと未達成のままだったらしい。

 他にも色々な依頼が溜まっていて、どうすれば良いものかと冒険者ギルドのギルドマスターであるモールテスは頭を悩ませていたそうだが、そんなところへフェルヌス達が来たのは彼にとって渡りに船だったらしく、これ幸いと溜まっている依頼を二人に―――というか、フェルヌスに片付けさせようと考えたらしい。

 そんなモールテスの魂胆が透けて見えていたフェルヌスは、冒険者ギルドを離れる際に「初めは自分に対してあれだけ怯えていたというのに、なんという切り替えの早さだろうか。メンタル面どんだけ強いんだ?」と内心で呟きつつ、呆れと関心が混ざったような溜め息を吐いた。


「・・・あっ!フェルヌスさん、ここがノートン工房みたいですよ!」


 そうして、テクテクテクと足を進めていたフェルヌス達はようやく目的地へと辿り着いた。

 先にノートン工房の看板を見つけたアルクは、こっちこっち!と言いたげに手を振りながらフェルヌスの前を走って行く。


「ほら、あれ!モールテスさんから教えてもらった”テーブルと椅子が描かれた看板”も掛かってますし!」


 彼が指をさした先には、確かに言う通りの看板が掛かっていた。

 どうやらこの二階建ての建物がノートン工房であるらしい。そうと分かったフェルヌスは扉の前に立つと、コンコンコンとノックをし、「すみませーん、依頼を受けてやって来た冒険者ですがー」と扉越しに声を掛けた。


「―――おう!お前等が俺の依頼を受けた冒険者か!よく来てくれた!」


 野太い返事の後に扉の向こうから現れたのは、(たくま)しい筋肉を持ち、髪型が鶏冠のような特徴的な形をしている三十代後半の男性であった。


「俺がこのノートン工房の工房主、『ヴァルテマ・ノートン』だ!よろしくな!」


「あ、は、はい!よろしくお願いします!?」


 フェルヌス達の姿を視界に納めると、二カッとした笑みを浮かべ、腹の底に響くような大きな声で自己紹介をする男―――ヴァルテマ。

 それに釣られるように驚いたアルクが大きな声で返事をし、アルク程ではないがちょっと怯んでいたフェルヌスは、驚きを顔に出すことなく軽く頭を下げながら挨拶を返した。


「うん?その反応・・・・・・俺の事を知らないって感じだな?これでもこの交易都市で一、二を争う家財道具作りの腕を持つ職人って呼ばれてて、この辺りじゃあ知らない奴はいない筈なんだが・・・?」


「まあ、この町には昨日着いたばかりだからな」


「そうなのか?それじゃあ知らなくても不思議じゃねぇな!」


 訝しむヴァルテマにフェルヌスがそう返すと、彼はガハハハッ!と豪快に笑った。

 それから彼は満足するまで笑った後、「さあて、それじゃあ 仕事の話をしようじゃねぇか」と話を切り出した。


「お前等にやってもらい仕事は依頼書にも書いておいたが、家財道具を作る材料となる木材や鉄材を東門にある資材置き場から持ってきてもらいたい。

 木材は二番倉庫にある物を大小合わせてニ十本、鉄材は四番倉庫にある鉄板を五枚くらい持って来てくれれば十分だ!あ、それと運ぶ時は資材置き場にある運搬用の荷車を使うといいぞ!なにせ量が多いからな!」


「わ、分かりました。それじゃあ、その・・・依頼発注書の確認をお願いします」


「うむっ!」


 ガハハハハッ!と豪快に笑っているヴァルテマと依頼内容の確認を行い、間違いないという返事を貰ったフェルヌス達は、冒険者ギルドでモールテスに貰っていた『依頼発注書』という羊皮紙を彼に渡した。

 『依頼発注書』とは冒険者ギルドが依頼を受けた冒険者に渡す物であり、依頼者に「貴方の依頼を受けた冒険者です」という事を示す物だ。

 これに依頼人から完了のサインと評価を書いてもらい、冒険者ギルドに提出する事で依頼を達成したという事になり、冒険者は冒険者ギルドから報酬を受け取れる仕組みになっているのである。


「それじゃあ、頼むぜ二人とも!最近は物騒だからな。気を付けて行けよ!」


 依頼発注書を受け取ったヴァルテマはそう言うと、フェルヌス達に向けて「頑張れよ」と親指をグッと立てて見せた。








 依頼人であるヴァルテマとの顔合わせを終えた後、東門の近くにある資材置き場へとやって来たアルク達は、一番から六番までの倉庫の内、木材と鉄材があるという二番と四番の倉庫の中を確認した。

 二番倉庫には角ばった長方形の形をした約二mの長さの木材と、それより一m程短い木材がそれぞれ分けられて置かれており、また四番倉庫には厚さ約二mm前後の鉄板が何枚も重ねて置かれていた。


「これが目的の資材か・・・確か依頼主は資材置き場に運搬用の荷車があると言っていたが・・・・・・」


「あっ、あれじゃないですか?」


 運搬用の荷車を探して視線をキョロキョロとさせるフェルヌスの横で、先に荷車を見つけたアルクはそちらへ向けて指をさす。

 その先には大小の荷車が各三台ずつ置かれており、一見すると木造で作られた簡易的な物ではあったが、近寄って状態を確認してみると以外にもしっかりとした作りとなっていて、そこそこの重さの物を乗せても壊れることはなさそうだった。


「よし。それじゃあ、これに資材を乗せて運ぶとするか。アルクは小さい方の木材を運んでくれ。私は大きい方の木材を運ぶよ。最初はあまり無理をしないで出来る範囲の事からやって行こう」


「は、はい!」


 フェルヌスは最初に木材から運ぶことを決め、アルクに指示を出しつつ自身も資材を運ぼうと倉庫の中へと入って行く。

 アルクもまたフェルヌスに指示された通りに、まずは一m程の長さの木材を運ぼうと持ち上げようとした。


「ふんっ・・・!―――お、重い・・・!?」


 重ねられていた木材の内の一本を引っ張り出して肩に乗せたアルクだったが、木材の重さは彼が思っていた以上に重かった。

 立ち上がる事こそできたものの、その重さによって体勢が不安定となり、一歩ずつ歩く度にフラフラと体が左右に揺れる。


「大丈夫か、アルク?なんだか一本運ぶだけで息が絶え絶えだが?」


「ハァ・・・ハァ・・・だ、大丈夫で・・・・・・ッ!?」


 なんとか木材を一本荷車に運び入れた後に肩を上下させながらアルクが息を整えていると、フェルヌスが心配する様な声を掛けてきた。

 それに対して振り向きつつ、大丈夫だと言おうとしたアルクは―――そこで目を剥くような光景を見て固まった。

 なんと、驚くべきことにフェルヌスは、二m程の木材を両肩の上に、二、三本ずつ乗せる様に持ち上げて運んでいたのだ。

 一本でも自身がふらついてしまうくらい重い木材を、自身より少しだけ背が高い少女が軽々と複数持ち上げて運んでいる。しかもその表情はまるで重さなんて感じていないかの様に平然として、だ。

 そんな彼女の姿を目にしたアルクは思わず頬を引き攣らせてしまった。


「えっと、アルク?」


「・・・ッ!だ、大丈夫、です!ぼ、僕だって、このぐらいぃぃ・・・!!」


 再度フェルヌスに声を掛けられた事でハッと我に返ったアルクは、首を横に振って「まだやれます!」と答えた。

 それはまさしく男の意地と呼べるモノであり、その後も彼はヒィヒィ言いながら頑張って木材を荷車へと運んでいった。

 それからしばらくして、依頼されていた数の木材と鉄板をそれぞれが運ぶ荷車に―――アルクの小さな荷車には一mの木材を十本、残りの二mの木材と鉄板をフェルヌスの大きな荷車に―――乗せた二人は、ノートン工房へ向かおうと荷車を引きながら東大通りを進み始めた。

 ちなみに、並びとしてはアルクが先頭を進み、後方をフェルヌスが着いて行くといった編成だ。


「ふん!ぐ、ぐぐぐぐぅ・・・・・!!」


 荷車の前側には持ち手となる木の棒が取り付けられており、それを押して動かせるようにはなっているのだが・・・・・・とは言え、アルクにとっては自身の体重以上の重さのそれを運ぶのは至難であり、中々思う様には動かせず、少しずつしか前に進めていなかった。

 ちなみにだが、こういう荷運びをするのなら定番とも言える馬などの動物に引いてもらえばいいじゃないかと思う人がいるかもしれない。当然それはアルク達も考えたのだが・・・・・・しかし、残念ながらそれはできなかった。

 一応、東門の近くには資材置き場の他に荷車を引く為の馬―――というかロバが用意されている馬小屋があり、そこの管理人に貸出届を出せばそのロバを借りられるようになってはいた。

 ・・・なってはいたのだがしかし、アルク達が確認した時には既に全てのロバが他の所へ出払ってしまっていて、一頭も残っていなかったのだ。

 それ故に、アルク達は自分達の手で荷車を引いて運ぶことになったわけである。


「ぬ、ぐぐぐぐぐぅ・・・・・・!!」


「ほ、本当に大丈夫か?アルク。やっぱり私が運ぼうか?」


「だ、大丈夫ですぅぅぅ・・・・・・!!」


 ぐぎぎぃっ・・・!?とアルクが歯を剥き出しにし、獣の様な唸り声を上げながら腕に力を込めて荷車を引っ張る。

 そんなアルクの姿を見て再び心配に思ったのだろう。フェルヌスが声を掛けるがしかし、それに対して彼は大丈夫だと返した。

 もちろん、それは強がりだ。それでも通せる意地は通したいと、幼くとも一人の男としてそうしたいと、アルクはそう思っていたのだ。


「ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・・・・」


 そうして、ようやくアルク達はノートン工房へと到着した。

 この時点でアルクの息は完全に上がっていた。また、手足も疲労によってプルプルと震えており、立っていることすら難しい状態であった為、両手足を地面に着いた四つん這いの体勢となっていた。


「お疲れ様、アルク。よく頑張った。あとはもう休んでて良いんだぞ?」


 そんな状態のアルクに、フェルヌスは覗き込む様に自身の顔を近づけつつ、彼の頭を撫でた。

 フェルヌスが浮かべている表情は、頑張った人を労わるかの様な優しげなそれだ。

 そんな彼女の顔を目にしたアルクの心境はと言えば、誉められ(ねぎな)われた事に対する嬉しさと気恥ずかしさが半分、「嘘だろう」という驚愕が半分という感じであった。

 前者はともかく後者に関しては、フェルヌスの顔には疲労感の様なものは一切感じられず、汗の一滴すらも流れている様子が見られなかったからだ。

 分かってはいたが、やはり彼女の身体能力は自分よりも遥かに上らしい。その事を再認識したアルクは、しかし心を奮い立たせて、今できる精一杯の強がりを見せた。


「だ、大丈夫、です・・・!ケホッ、ゴホッ・・・!・・・まだ・・・やれます!」


 確かに自身が運んだ量以上の資材を運んでいた彼女が一切疲れていないという事実には驚きを隠せない。

 だけどそれ以上にアルクは、たった一度資材を積んだ荷車を運んだだけでかなり疲弊している自分自身を情けないと思っていた。

 そもそもアルクは、今回の依頼が修行を目的にフェルヌスが選んだのではないかと考えていた。冒険者ギルドでアルクを強くすると言った後で肉体労働系の依頼を受けたので、おそらくそうじゃないかと思ったのだ。


「(フェルヌスさんは僕を強くしてくれると言ってくれた。だったら、これはおそらくその第一歩。こんな所で(くじ)けていたら、勇者どころか冒険者と名乗る事すらできない・・・!)」


「ふんっ・・・!く、のぉぉぉおおおっ・・・!!」


 だからこそアルクは、「疲れた」やら「もう休みたい」等といった感情を胸の奥へと押し込むと、こんな事で根を上げる訳にはいかないと奮起し、何度も深呼吸をした後にグッと拳を握り、膝に手を着きながら立ち上がる。

 まだまだ頑張れると、そう示す為に。








「頑張るのは良い。良いんだが・・・ペース配分を考えずに頑張ると倒れてしまうぞ?」


 全身汗だくの状態且つプルプルと身体を震わせながら目の前で立ち上がるアルクの姿を目にしたフェルヌスは、彼の考えていることがなんとなく想像できて、思わず呆れと心配の溜め息が零れてしまった。

 おそらく彼は、今回受けた依頼を修行とかトレーニングの一環だとでも思っているのだろうが・・・・・・残念ながら、フェルヌスにはそんな意図などありはしなかった。「せっかく冒険者となったのだから、修行を始める前に一つくらい依頼をこなしておこう」程度の単純な理由と軽いノリで決めただけだったのだ。

 つまりはただの勘違いなわけなのだが、しかし一度そう思い込んでしまったアルクは、どれだけフェルヌスが休みを取ろうと提案しても首を横に振るだけ。これ以上無理に動けば倒れてしまうというのに、覚悟を決めた様な顔で荷車に積んである資材をノートン工房の倉庫へと運ぼうとする。


「はぁ・・・分かった。分かったよ、アルク。君がそこまで言うのなら、やれるところまでやってみるといい」


 そんなアルクの様子を見たフェルヌスは、「これは休むように説得するのは無理そうだな」と判断し、彼の意地と気概を尊重して気が済むまでやらせてあげることにした。倒れてしまったその時は、自分がフォローをしようとも考えて。

 ・・・それからしばらくして、日も落ちてきて夕日の光が都市を照らす様になってきた時間帯に、荷車に積んでいた資材をノートン工房の倉庫へと運び終えたフェルヌス達は、依頼主であるヴァルテマと再び顔を合わせていた。


「おう!お疲れさん!今日はありがとうな!―――ところで、そこの坊主は大丈夫か?」


 仕事を終えたフェルヌス達を出迎え、依頼発注書に完了のサインを書くヴァルテマ。

 しかし、その視線はフェルヌスの背中に背負われているアルクへと向けられていた。


「・・・だ、大、丈夫、でぇ~・・・す・・・・・・!」


 ヴァルテマの問いに対し、大丈夫だと返事をするアルク。

 しかし、その顔色は青く染まっており、全身もガクガクと震えている。呼吸も「ヒュー・・・ヒュー・・・」と今にも止まりそうなくらい弱くなっており、ハッキリ言って瀕死の状態にしか見えない。

 ヴァルテマもそう思ったのだろう。彼は頬に一筋の汗をタラリと流しつつ、「・・・・・・なあ、嬢ちゃん。この坊主、本当に大丈夫か?」とフェルヌスに尋ねた。その内心では「いや、これ、絶対に大丈夫じゃねぇだろう」と思いながら。


「なに、大丈夫だ。頑張り過ぎて疲れ果てているだけだから、休めばまた元気になるよ」


 それに対してフェルヌスは、「やれやれ」と言いたげな苦笑を浮かべながらそう答えた。

 そう。アルクがこんな状態となっているのは、フェルヌスが懸念していた通りに体力を使い果たすまで頑張り過ぎてしまった結果であった。

 今のアルクは自力では手足の一本すらもまともに動かす事が出来ない状態だ。だからこそこうしてフェルヌスが背負っているというわけなのだが・・・・・・まあ、その内心では「こうなる前にキチンと休んでほしかったなぁ」と思っていたり。


「とりあえず、この後冒険者ギルドで報酬を受け取ったらそのまま宿屋に直行して休ませるさ」


「そうか?それじゃあ、しっかりと休ませてやれよ!」


「ああ、それではな」


 依頼主であるヴァルテマのサインが入った依頼発注書を受け取ったフェルヌスは、彼に別れを告げて冒険者ギルドへと向かうべく踵を返す。

 ヴァルテマも「おう!もう無理はするんじゃねぇぞ~!」と声を掛けながら、彼女達の背中を見送るのであった。








 依頼主であるヴァルテマと別れた後、フェルヌスはアルクを背負いながら大通りを通って冒険者ギルドへと戻ってきた。


「・・・・・・おや?お帰りなさいませ。」


 ギィィィ・・・、と冒険者ギルドの扉を開けた先でフェルヌス達を出迎えたのはモールテスであった。

 両手に複数の紙を持って仕分けをしている所を見るに、どうやら受付カウンターで書類整理を行っていたらしい。


「あら、見ない顔ですね?」


 それと、冒険者ギルドにいたのはモールテスだけでなかった。彼の隣にはフェルヌス達が来た時にはいなかった若い女性が一人いた。

 モールテスから受け取った紙を束にしてまとめようとしていたその女性の見た目は二十代前半位だろうか?可愛らしい顔立ちをしており、そこそこ長い茶髪の髪を銀輪の髪飾りでポニーテールに纏めているのが特徴的だ。

 また、その服装は制服の様な見た目をしており、濃紺色の上着と小さな赤ネクタイが印象的に思えた。

 その服装とモールテスと受付カウンターに並んで立っている姿から、おそらくギルド職員ではないか、とフェルヌスは推測した。


「冒険者ギルドにどのようなご用件でしょうか?ご依頼ですか?ご登録ですか?・・・・・・というか、背中のその子は大丈夫ですか?なんだか顔色が悪いように見えますけど・・・・・・」


 ギルド職員と思われる女性は笑顔を見せながらフェルヌス達に声を掛けて来る。

 ただし、その視線はフェルヌスの背中に背負われているアルクへと強く向けられており、彼の事を心配している様ではあったが。

 そしてもっと近くで様子を見ようと思ったのだろうか。彼女は受付カウンターから出て来ると私達の下へ近付いて来た。


「ああ、シャーラ君。そのお二人は、本日冒険者登録をした人たちですよ。依頼を一つ受けて出かけていたんですが、戻って来たという事はその依頼を終えて来たのでしょう」


「そうだったんですか?」


 と、そこでモールテスが声を掛けた。

 フェルヌス達がどういう人物なのかと説明すると、それを聞いたシャーラと呼ばれた女性ギルド職員は彼の方へと振り向いて「そんな話聞いていませんでしたよ、ギルドマスター!」と言いながらジト目を向ける。

 それに対してモールテスは、笑みを浮かべながら「申し訳ない。伝えるのを忘れていたよ。ハッハッハッ・・・!」と流していたが。


「さて・・・それでは、フェルヌスさん。依頼主のサインが書かれた依頼発注書を提出していただいてよろしいでしょうか?」


 そして話を変える様にフェルヌス達に依頼発注書の提出を求めるモールテス。

 それに「ああ」と返事をしながら頷いたフェルヌスは、上着のポケットに入れていた依頼発注書を受付カウンターの上に置いた。


「ありがとうございます。・・・・・・はい。サインの確認と、評価の方も問題ないようですね。―――ところで、一つお聞きしてもよろしいでしょうか?アルクさんを背負われているようですが、何かあったのでしょうか?」


 依頼発注書を受け取り、そこに書かれている依頼主のサインと評価内容を確認したモールテスは問題ないと頷き、その後で先程から気になっていたと言いたげにアルクについて尋ねて来た。

 「怪我などはしていないようですが・・・」と呟く彼に、フェルヌスはノートン工房の工房主であるヴァルテマにも言ったことを彼に伝えた。


「動けなくなるまで頑張り過ぎてしまったようでな。報酬を受け取ったら宿屋に戻って、今日はもう休ませるつもりだよ」


「そうだったのですか・・・」


「(良かったぁ・・・!事件とかに巻き込まれた訳じゃなかったのかぁ・・・!いやはや、本当に良かった良かった)」


 モールテスはまるで安堵でもするかのように胸に手を当て、ホッと小さく息を吐いた。

 まあ、その内心ではアルクが大きな怪我などを負ったわけではないという事に狂喜乱舞していたが。

 フェルヌスが大魔王であることを知り、また彼女がアルクという少年に執着しているであろうことも知っているモールテスは、かの少年の身に何かあればこの目の前にいる大魔王が暴れ出す可能性が高いと危惧していた。

 そして、もしそんな事になれば、この交易都市ライファが一夜で廃墟となる光景が出来上がるだろうとも彼は思っていた。

 だが、今回の場合はアルク自身が頑張り過ぎた事による体力切れによるものであり、誰かしらから危害を加えられたわけではない。その事に、モールテスは一先ず安心して良さそうだと思った。


「あまり無茶をしたら駄目ですよ、アルクさん。無理無茶をして体を壊したら元も子もありませんから。冒険者は体が資本なのですからね・・・!」


「は、はぁい・・・」


 フェルヌスに背負われているアルクに注意してくださいと言うモールテス。

 実際、無理無茶をして体を壊す冒険者や冒険者見習いがいる事を彼は知っていた。故に新人冒険者であり、子供であるアルクもそうなってほしくないという気持ちを当然の如く抱いていたのだ。

 ・・・まあ、それ以上に、彼に何かあれば保護者であるフェルヌス(大魔王)が暴れ出しかねないので、本当に無理無茶はしないで欲しいとも思ってはいたが。いや、切実に。


「よろしい。・・・さて、それでは依頼達成を確認できましたので報酬をお渡しますね。こちらが報酬の五十デルです」


 モールテスはそう言って、ジャラジャラと音が鳴る袋をテーブルに置く。袋の口を閉じる紐は軽く緩んでおり、中身である複数枚の銅貨の姿が見えていた。


「ああ、ありがとう」


 フェルヌスはその袋を受け取ると、それをポケットに入れる。

 実際にはそのフリをしながらアイテムボックスへと入れたのだが、それをモールテスが知る由もない。

 ちなみにだが、モールテスはこの依頼報酬をフェルヌスに渡す際に、内心では大魔王である彼女にこんな端金を渡しても満足しないのではないか?もしかしたら報酬金額が少ないと駄々を捏ねるのではないか?と考えていた。

 報酬金額を上げなければ暴れると言われたら流石にモールテスも困り果てる事になっていたが、しかし予想に反して彼女は不満も何も言うことなく普通に報酬を受け取った。

 それを目にしたモールテスは、無茶振りを言われなくてよかった、と密かにホッと息を吐いた。


「あれ?報酬って、そんなに貰えるものなんですか?」


 ―――だがそこで、唐突にアルクから疑問の声が上がった。


「ん?」


「はい?」


「え?」


 その場にいたアルク以外の全員が思わず声を上げ、「え、何言っているのこの子?」と言いたげな顔を彼に向けた。


「そんなに・・・とは言われますが、こういう荷運びなどの雑用仕事は常に出されている常駐依頼というものでして、その報酬はそれ程高くはないのですよ?」


 最初に口を開いたのはモールテスだった。

 彼は簡単に、今回フェルヌス達が受けた依頼がどういうものだったのかを説明する。


「相場でも精々三十デル程。今は雑用依頼を受ける冒険者の数が少ないので一時的に値上がりしている状態ではありますが・・・」


 正直言ってそんなにと呼べる程の金額ではない、と暗に語るモールテス。

 しかし、その後に語られたアルクの話が、その場にいた面々に二の句を告げなくさせた。


「ああ・・・えっと、僕が薬草や食材採取の依頼を受けた時の報酬が五デルくらいだったから、それよりも高くて驚いたんですよ」


 「荷運びの仕事って、結構お金が貰えるんですね」と言うアルクに、その言葉を耳にした彼以外の三人は思わず押し黙ってしまった。

 特に彼の境遇を知るモールテスとフェルヌスは、揃って自身の目頭を押さえてしまった。


「(報酬が中引きされていたとは聞いていたが、まさかそこまでだったとは・・・!)」


「(というか、そんなに少ないとなれば、買える物なんて本当に限られるでしょうに・・・!?エプーアの連中、そこまでの屑に成り下がっていたのですか・・・!!)」


 こんな幼子に酷い仕打ちをしてきたであろう屑野郎共に対して胸の内で憤る二人。

 そしてもう一人、フェルヌスとモールテスの気持ちを代弁するかのように声を上げる人物がいた。


「な、な、な・・・!?なんなんですか、それはぁっ!!」


 一際声を張り上げたのは、女性ギルド職員のシャーラであった。

 彼女は驚き、憤慨しながら、採取依頼で出される報酬金額の説明をし始める。


「薬草及び食材採取の依頼はその状態や数、希少性、危険度によって報酬金額が変わりますが、それでも薬草なら一本三十デル、食材では一個十デルは最低でも出されますよ・・・!少なくとも、荷運び以下の金額になるなんて事はあり得ません!!」


 「一体どんな依頼を受けてきたんですか!?」と吠えるシャーラ。

 その咆哮をフェルヌスに背負われながら受けたアルクは、その勢いに押されるように、ついこれまで自分が請け負ってきた依頼の一部を吐露してしまう。


「え、えっと・・・!?『苦毒草(くどくそう)』の採取とか『ピューファの実』の採取もやったことがありますけど、その時はそれぞれ一個三デルと五デル貰いました。後、一番高かった報酬が『聖銀穂(せいぎんほ)』の採取依頼で、一シルも貰ったことがあります、よ・・・?」


「前二つもふざけているのかと言いたい金額ですけど、それ以上に物申したいのは『聖銀穂』の報酬です・・・!何ですか、一シルって!?いったいどんだけボッてるんですか!それ一本だけでも最低一〇ゴル!状態が良い物なら三〇から五〇ゴルは下らない、『神聖水』の材料になる薬草ですよ!?」


 驚き以上に怒りの感情が混じった叫び声を上げるシャーラ。

 その勢いは凄まじく、真正面から彼女の話を聞く羽目になったフェルヌスが思わず「おぉう・・・!?」と一歩引いてしまう程であり、また彼女の背中にいたアルクも、怒りの対象が自分ではないと分かってはいたものの、勢いに押されてタジタジとなっていた。

 ちなみに、アルクが採取していた物についてだが、まず『苦毒草』は様々な薬の原料に使われる毒草であり、その使用方法は主に毒薬を作る為の繋ぎとしてや、『万能毒消し薬』と呼ばれる毒であれば全て消すことが出来る薬の材料としても有名だ。

 しかし、同時に発見するのが難しい毒草としても広く知られている。

 その理由は、様々な地に自生し普通の毒草としても一般に流通されている青色の葉と紫の花弁という見た目の『魔毒草』と、見た目が殆ど同じで見分けがつかないからだ。

 唯一の違いは葉の裏が赤いか黒いかであり、赤ければそれが『苦毒草』なのだが、日があるうちは黒く見えるくらい濃くなっているので気付かないまま一緒に採取されたり、効能が『魔毒草』と似通っている部分もあるので、そのまま薬作りに使用していた、なんて事例も結構あったりする。

 『ピューファの実』は中心に十字の切れ目が入った白っぽい色合いの木の実で、特筆すべき点は”呪いを浄化できる”という効能であり、”呪い”の状態異常に侵されている者が食べた場合は、即座に”呪い”状態を解除する事ができる。

 ただし、味に関してはハッキリ言って美味しくない為、身を細かく砕き、潰し、砂糖水と混ぜた飲み物として使用する方法が一般的だ。

 そしてこの『ピューファの実』だが、木の実という事でどこにでも生えていそうイメージがあるが、実際はそうではない。綺麗な水と風、豊富な栄養のある土がある場所でなければ実の成る木自体が全く成長しないので、採取できる場所がかなり限られている。

 そんな二つの本来の相場は、約三十シルから五十シル前後。アルクの言うようなデル一桁で取引される程度の物ではない。

 ・・・そして、彼が最後に口にした『聖銀穂』の相場は、ハッキリ言って異常なほど値崩れしていると言ってもいい。

 『聖銀穂』とは穂先(ほさき)が銀色に輝く稲穂(いなほ)の事で、『神聖水』と呼ばれる水を作る為に必要な原材料である。

 『神聖水』とは『聖水』と呼ばれる魔物や悪魔を寄せ付けない力を持つ水を更に強化したモノであり、その力はたった一滴で町一つ分の範囲にいる魔物や悪魔が尻を蹴られる勢いで逃げ出す程だ。通常の『聖水』が瓶一本分で家一軒分程度の範囲までしか及ばず、また魔物にとってはあまり近づきたくないと思わせる程度しかないので、それと比較すれば『神聖水』がどれだけ強力かは分かるだろう。


「『聖水』に関しては主に”教会”が取り扱っています。その作成に必要な材料も教会内部で作ってはいますけど、『聖銀穂』だけは栽培出来ておらず、もっぱら野生で生えているモノを取って来るしかないんです!

 しかもこの『聖銀穂』は昔はそこら辺の森の中にも生えていたくらい沢山あったそうなんですが、過去に結構な数が狩り尽くされてしまって、今ではもう見つけること自体難しくなっている物なんです!」


「え、えっと・・・?」


「・・・つまり何が言いたいのかと言うと、『神聖水』を作れる『聖銀穂』は、教会関係者が喉から手が出る程欲しがる物であり、それが見つかったと成れば、莫大な金を払ってでも手に入れようとする、という事です!

 ・・・・・・なのに、なのに!それを採取した報酬が一シルって、いったい何処のどいつがそんなふざけた事をしてんのよぉぉッ!!」


「・・・ッ!?」


「ひうっ・・・!?」


 そんな高級素材を採取し、納品した報酬金額がまさかの一シルという事に、シャーラの怒りが天元突破したのか、目を血走らせながら雄叫びを上げる。

 その様子を目にしたフェルヌスは冷や汗を流して一歩後退り、アルクもまた涙目となって肩をビクッ!?とさせた。


「そこまでにしておきなさい、シャーラ君」


 と、そこでモールテスのストップが入った。

 彼はシャーラの肩をポンと叩くと、彼女に落ち着く様に声を掛ける。


「ですが、ギルドマスター・・・!」


「アルクさんはちょっと特殊な環境にいたのですよ。その件については後で教えるので、今は落ち着きなさい」


 「あと、彼が怖がっています」と続けて言うモールテス。

 その言葉と、涙目で恐々と自身を見つめるアルクの瞳を目にしたシャーラは、グッ・・・!?と呻いた後、不承不承ながらも頷いて、「後でちゃんと説明してくださいよ?」と細めた目をモールテスへと向けた。


「お騒がせして申し訳ありませんでした」


「いや、彼女が怒る理由も分かるし、その件に関しては私も快く思ってはいないからな」


「ですよね!」


 シャーラが落ち着いたのを見たモールテスは、フェルヌス達に向かって申し訳ないと頭を下げる。

 それに対してフェルヌスは、「問題ない。むしろ自分も同じ気持ちだ」と返し、それに同調してかシャーラが全力で頷いた。


「・・・・・・シャーラ君。君はもう本当に黙っていてくれないかい?」


 そんな二人の姿を―――特にシャーラを目にしたモールテスは溜め息を吐きながら眉間に寄った皺を揉み解した。








 冒険者ギルドでのやり取りを終えた後、フェルヌス達は自分達が宿泊しているゴンゾーの宿屋に帰って来た。

 フェルヌスはアルクを背負ったまま自分達の部屋に入ると、ベッドの上にアルクを降ろして座らせた。


「も、もう限界・・・・・・ごめん、なさい。もう休み、ます・・・お休み、な・・・さ・・・・・・グゥ・・・・・・」


 流石にもう体力が限界だったのだろう。アルクは倒れるようにベッドへ横になると、そのままグゥグゥと寝入ってしまった。

 その様子を目にしたフェルヌスは「寝るの早っ!?」と少し驚いたものの、その後で「しょうがないなぁ」と苦笑しながら彼の体の上に毛布を掛けた。


「お疲れ様、アルク」


 眠っているアルクの頭をゆっくりと撫でながら、フェルヌスは今日あった出来事―――汗水垂らしながら木材や鉄材を運ぶ彼の姿を思い返して苦笑を浮かべる。


「・・・・・・そういえばあの時、私はどうしてギルドマスターに対してあんなに強い警戒心を抱いたんだろう?」


 と、そこでふとフェルヌスは、思わずといった風に呟いた。

 彼女の脳裏には、自身とアルクが初めて交易都市ライファの冒険者ギルドに来た時に、まるで自分達を驚かすかの様に現れたモールテスの姿が浮かんでいた。


「索敵系のスキルやら特技やらを発動していた私に気付かれることなく近くに現れたのだから、そこに関しては警戒心を抱くのは当然だ。

 ・・・しかし、普段の私であれば()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()んだが・・・・・・」


 フェルヌスは己の胸に手を当てながら、その時の事を思い返して首を傾げる。


「(あの瞬間、私は自分の体が自分のモノではないかのような感覚を覚えていた。胸の内に”アルクを守らなければ”という感情が強く湧き上がって来て、同時に彼を害するかもしれない存在に対して”強い殺意”が湧き上がった。

 あの時はその感情の波に流されてしまったが、今思い返してみると色々とおかしいような・・・・・・まるで他の何かからの干渉を受けたような感覚だった。あれはいったい何だったのだろうか?)」


 胸に当てていた手を目の前に広げて、ジッと見つめるフェルヌス。

 いったい何が自分に干渉して来たのか。状況を鑑みるにアルクが関係していることは分かっているのだが、しかしそれが分かっていたとしてもどうしようもないだろう。なにせ、そもそもの原因が何なのか分かっていないのだから。


「はぁ・・・駄目だな、現時点では情報が足りなさ過ぎて答えが出せない。この件は一度保留にして、今日はもう休むとしよう」


 原因が分からなければ対処の仕様がないし、このまま考えていても堂々巡りにしかならない。そう思ったフェルヌスは溜め息を吐きつつ、その思考を頭の隅へと放り込んだ。

 その後、寝る時に嵩張る上着やデニムパンツを脱いでノースリーブのレオタードだけという肌着姿になったフェルヌスは、アルクの寝ているベッドとは別の隣にあるベッドの上に横になると、体の上に毛布を掛けて眠り始めるのであった。






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