第2章第3話 ~交易都市到着 3~
2020年10月10日に内容の一部修正をしました。
2021年9月30日に内容の一部変更をしました。
交易都市ライファの出入口である門を潜って街中へと入った私は、その先にあった光景を目にして「交易都市という名は伊達ではないんだな・・・」と呟いた。
目の前を歩いて行く沢山の人、人、人。眼前に広がるは、まさしく群れと呼ぶに相応しい程の数えきれない人が大通りを歩いている光景だった。
私達がいる通りはどうやら商業区のような場所らしく、様々な店や屋台、露店等が開かれていて、そこに並んでいる品々を買おうと、多くの人々がやって来ている様であった。
「さて、ようやく目的の都市に到着したわけだが・・・ふむ。小腹がちょっと空いてるし、宿に向かう前に何処か寄っていくか?・・・アルクはどこか行きたい所はあるか?」
「・・・・・・・・・・・・」
「(う、うぅん・・・まあ、さすがにそんなすぐには立ち直れないか・・・)」
周囲の光景を一通り見た私は、お腹に片手を当ててお腹が空いたと言いたげなアピールしつつ、自身の隣で未だに呆然自失気味に俯いているアルクに向かって声を掛けた。
それは先の門での一件を考慮して気持ちを紛らわせよう、気分転換をしてもらおうといった気遣いからくる行動であったのだが、しかし当のアルクはまるで声が聞こえていないかの様に無反応。その可愛らしい顔を俯かせて、茫然と地面を見つめ続けていた。
「しょうがない。当初の予定通り、まずは宿屋へと向かうか。・・・確か、あの兵士が教えてくれたお勧めの宿の名前は、『ゴンゾーの宿屋』だったっけ?」
「はぁ・・・」と溜め息を一つ吐いた後、気を取り直して門番の兵士から聞いた宿屋を探そうと、アルクの手を引きながら歩き出す。
そんな中、私の脳裏にはある一つの懸念事項が過っていた。
「(宿屋へ向かうのは良いとして、問題は”お金”だな・・・。この世界の金銭がどんなのか、私はまだ見たことないからな)」
紙幣なのか貨幣なのかという疑問もそうだが、そもそもどうやってこの世界のお金を手に入れようかと、私は歩きながら一人黙考する。
「(質屋的なのはおそらくどこの世界にもあるだろうから、まずはそこを探して見るべきか?―――うん?)」
頭の中で金銭を手に入れる手段を色々と考えていた時、近くの屋台で一人の客が買い物をしようとしているのに気付いた。
この世界の”お金”を知るには丁度いいかもしれないと思った私は、そちらへと視線を向けてある特技を発動する。
「(・・・―――《鷹の目》!)」
発動した途端、黄色い光が私の瞳の輪郭に沿う様な形で出現した。
今発動した《鷹の目》とは、”遠くのものが見える様になる能力を自身に付与する”という効果の特技だ。望遠鏡をイメージすれば分かりやすいだろうか。遠近の調整を行うことも出来るし、習熟していく過程で照準補正ターゲットロック能力が付与され、弓矢や投石等の遠距離攻撃の命中率が上昇するという副次効果もあって、色々と重宝する技でもあったりする。
「(あの屋台は肉の串焼きを売っている店か。店主の腕がいいのか、良い色合いに肉が焼けているな・・・)」
《鷹の目》の効果により遠くの光景を見る力を得た私は、屋台の店主と客のやり取りを―――特に物と金銭の交換を行っている手元を注視する。
ついでに、屋台で売られている品物の出来具合を評価しながら。
「(アレがこの世界の金か?貨幣の様だが、銅色のコインという事は銅貨という奴か?―――ん?銅貨に彫られているあの絵柄は・・・)」
そこで私は、おや?と思った。彼等の持つ銅貨の絵柄にどこか見覚えがあったからだ。
「(表に女性の横顔、裏に大樹の絵柄だと・・・?)」
銅貨の絵柄を目にした私は「まさか・・・」と思わず呟き、そのすぐ後に自身が履いているショートパンツに付いているポケットに手を入れ―――る振りをしてアイテムボックスの入口を開き、そこからある物を取り出した。
それは彼等が手に持っている物と全く同じ絵柄が描かれた銅貨であった。
私が持つこの銅貨は、『カオスゲート・オンライン』でゲーム通貨として使われていた物の一つで、”デル”という名称で呼ばれていた物だ。ゲーム通貨の中では最少額の貨幣であり、これ以外にも銀貨の”シル”、金貨の”ギル”、王銀貨の”シギル”、神金貨の”ゴルギル”というのもあって、銅貨のデルも含めて全部で五種類の貨幣が存在していた。
その単位を日本円で換算すると、一デルで十円。一シルで千円。一ギルで十万円、一シギルで一千万円、一ゴルギルで十億円という感じだ。
ついでに言えば、神金貨より上の貨幣もあったりするのだが、『カオスゲート・オンライン』でもまず一般には出回ってはおらず、私にしても知り合いが持っているのを見たことがあるくらいで、自分では一枚も持っていない。・・・が、ここではその話は置いておく。
「試してみるか・・・」
私は先程取り出した銅貨を片手に握りながら、もう片方の手でアルクの手を引きながら肉の串焼きを売っている屋台へと足を進めた。
「おじさん。串焼き四本頂戴」
「あいよ!一本三デル。合計で十二デルだぜ!」
「これでいいか?」
「まいど!そら、串焼き四本だぜ!」
「ありがとう。ほら、アルク」
「・・・・・・え?わっ!?あ、ありがとう、ございます・・・」
屋台の店主に銅貨を払い、四本の肉の串焼きを受け取った私は、その内の二本を自分の分に、残りのもう二本をアルクの目の前に差し出して見せた。
心ここにあらずといった状態であったアルクは、突然自分の目の前に肉の串焼きが現れたことに驚く様子を見せた。どうやら今ので意識が現実に戻って来たらしい。彼は戸惑いながらも、私にお礼を言いながら肉の串焼きを受け取った。
「えっと、これは・・・食べて、いいんですか?」
「いいから渡したんだ。遠慮せずに食べるといい」
「は、はい。その・・・頂きます」
最初は食べることに躊躇していたアルクであったが、私が食べていいと頷いて見せると、パクリと一口食べた。すると余程その肉の串焼きが美味しかったのか、その後は満面の笑みを浮かべながらアグアグと串焼きを食べ始めた。
その様子を微笑ましそうに見ていた私は、自分も食べてみようと肉の串焼きを口にする。
「(ふむ・・・《アイテム鑑定》でホーンラビットの肉だということは分かっていたが、意外とおいしい。味の決め手はこのタレかな?ピリッとくる辛さと酸味のある甘酸っぱさが思いのほか調和してて飽きが来ない)」
口の中に広がる肉の味を噛み締めつつ、初っぱなの買い物で当たりを引いたことに「幸先がいいのかな?」と思う。
そしてあっと言う間にパクパクと二本の肉の串焼きを食べ終えた私は、指先に付いた肉汁を舐めながらこの世界の通貨について考察を始めた。
「(しかし、まさかゲームで使われていた通貨がこの世界でも使えるとは思わなかったな・・・)」
いくら世界観が似ていたとしても、ゲームの時に使用されていた通貨がこの世界でも使えるかは分からない。だからこそ実際に使ってみた訳なのだが、まさか本当に使えるとは思っていなかった。
もし使えなかった場合は、アイテムボックスに入っている換金できそうな物でも売って資金を得ようと思っていたので、ある意味嬉しい誤算だと言えた。
屋台で買った肉の串焼きを食べ終えた後、私達は門番の兵士から勧められていた『ゴンゾーの宿屋』を探して宿屋通りと呼ばれている道を歩いていた。
どうやらこの通りは宿屋だけでなく、複数の飲食店も建ち並んでいるらしい。さっきから美味しそうな匂いが辺りに漂って来ていて、妙にお腹が空く感覚を覚えていた。先程肉の串焼きを食べたというのにだ。
「あぅ・・・!」
そしてそれはアルクも同じであったらしい。グゥゥゥ~・・・!という音が聞こえたかと思えば、彼が自分のお腹を片手で押さえて少し恥ずかしそうにしていた。
「・・・ん。ここか、『ゴンゾーの宿屋』というのは」
そうしてしばらく通りを歩き続けていた私達は、ようやく目的の宿屋の名前が書かれた看板を見つけた。
「いらっしゃい!『ゴンゾーの宿屋』へようこそ。宿泊なら一人部屋一泊一〇〇デル。二人部屋なら一五〇デル。食事は別料金だよ!」
その看板が掛けられた建物の中に入った私達を出迎えたのは、受付のテーブルに立っていた少し恰幅の良いおばちゃんであった。
私は受付の前に来るとテーブルの上に銀貨を五枚置く。
「とりあえず二人部屋で三日間泊まらせてほしい」
「まいどあり!―――って、銀貨で支払いとは太っ腹だねぇ・・・!はい、これがお釣りと部屋のカギだよ。部屋は二階に上がって通路を歩いて行った先の番号が書いてある所。どれが入る部屋かは鍵に付いている木札に書かれているから、間違えないようにね!」
「どうも」
おばちゃんは、目の前に置かれた銀貨に一瞬瞠目するもすぐに受け取り、お釣りの銅貨と『105』という番号が書かれた木の札の付いた鍵をテーブルに置く。
それを受け取り、階段を登って二階に上がろうとした私は、しかしそこでアルクが着いて来ていないことに気が付いた。
「・・・どうしたんだ、アルク。早く行くぞ?」
「え゛・・・いや・・・えっと・・・」
何故か受付テーブルの前で立ち止まっているアルク。
そんな彼に振り返っておいでおいでと手招きをするのだが、しかし当の少年は何故か薄っすらと頬を赤く染めながら二の脚を踏んでいた。
「あ、あの、フェルヌスさん!部屋は別々にした方が良いんじゃないかと思うんですけど・・・!」
「何故?」
「な、何故って、その・・・やっぱり、男女が同じ部屋に寝泊まりするのはマズイんじゃないかなぁ、って・・・!」
頬を赤らめ、両の人差し指を突き合わせながら、部屋を別々にしようと言うアルク。その様子を見るに、どうやら気恥ずかしさの様なモノを感じているらしい。そんな彼の様子を目にした私は、つい溜め息を吐きながら「野営の時も一緒のテントで寝ていたのに、今更・・・」と呟く。
「・・・?」
そこでふと、何処からか視線が向けられてくるのを感じた。いったい何処からと視線を感じた方へと振り向けば、そこには受付テーブルにいたおばちゃんがニヤニヤと私達の事を見ていた。
そのニヤけた表情から察するに、おそらく「もしかしてこの二人はそういう関係なのかな?」なんて邪推しているのではなかろうか。実際には違うのだが、否定すればするだけ「分かってる分かってる」なんて、誤魔化さなくても大丈夫的な事を言われそうな気がした私は、敢えて何も見ていないと言う様にスルーすることにした。
「私は別に気にしないから、早く行こう」
「で、でも・・・」
「どうしても来ないと言うのなら、こちらも最終手段に出るぞ。具体的には此処から部屋まで君の体を抱きかかえて―――」
「わ、分かった!分かりました!!行きます!行かせてくださいぃぃ!!?」
部屋まで君の体を抱きかかえて運ぶぞ?というセリフを言おうとした私であったが、それを最後まで言わせないと遮る様にアルクが叫んだ。
ちなみに私達の会話を近くで聞いていたおばちゃんは、私の発言対して「まあ、なんて大胆な娘なの!?」と頬に手を当てて驚いていた様子を見せていたが、それは蛇足だろう。
先程宿屋の一回でのやり取りの後、私達は階段を昇って二階へと上がった。そして『105』の看板が掛けられた自分達に割り振られた部屋の前に到着した私達は、ガチャリと部屋の扉を開けて中へと入った。
「・・・・・・まあ、普通だな」
部屋の内装を目にした私は「中世の世界観的には・・・」という言葉を呑み込んで、そう呟く。
部屋の左側には敷き布団が敷かれた木製のベッドが二つと、綺麗な水が入った水瓶が置かれており、反対の右側には簡素な木製のテーブルが一台に、後は服を入れておく為のクローゼットが一つ置かれていた。
この世界の一般的な宿屋の基準がどういったモノか私は知らないが、元々持っていた価値観や『カオスゲート・オンライン』での宿屋の内装を思い返して、この宿屋は品揃えがいい方なのかもしれないと感じていた。
「さて・・・これからどうするか・・・」
部屋の中に荷物―――と言っても大半をアイテムボックスや倉庫に仕舞っているので、装備していた上着や武器くらいだが―――を置いてベッドに座った私は、頭の中で今後の行動方針を考えていた。
「(まずは、この町で活動する為に自分達の身分証を作る必要があるだろうな・・・さすがに三日間しか町の中にいられないのは色々と不便だし、危険だからな)」
アルクのことを考えるのならば、都市の中にいた方が安全だ。魔物が蔓延る外に比べれば、その危険度はかなり下がるからだ。
であればこそ、最優先に行う事は自分達の身分証の作成だろう。その為には町役場か冒険者ギルドに向かう必要があるなと、門番の兵士の言葉を思い出しながら私はそう結論を出す。
「・・・・・・・・・」
「よいっ、しょ・・・!ふぅ・・・」
その後で、つい、と横目で私が座ったのとは別のベッドの上に自身の荷物を置いているアルクを見る。その脳裏には門番の兵士とのやり取りの結果、死んだ魚の様な目となってしまったアルクの姿が思い起こされていた。
「(問題はアルクの扱いだろうな。町役場はともかく、冒険者ギルドに彼を連れて行った場合どういった事態になるのか)」
結果的にはといえ、彼は偽物の冒険者カードを使用して冒険者として活動をしていた事実がある。例え偽物の冒険者カードを渡したのは冒険者ギルドの方だと訴え出たとしても、ある程度の権力を持っているだろう向こうに知らぬ存ぜぬをされてしまえば、それ以上の追及が出来なくなり、揉み消されてしまう可能性が高い。
それだけならまだ良いが、逆に十二歳未満で正式な冒険者としての依頼を受けて活動していた点を指摘され、冒険者ギルドの決まりを破ったとして、アルクを騙された被害者としてではなく、犯罪行為を行った人物として扱う可能性もありえる。
「(まあ実際にそうなるかは、冒険者ギルドへ行って確かめてみないと分からないが、無垢な子供を騙して利用していた連中がいる組織だからな。最悪の事態を考えていた方がいいかもしれない)」
はぁ、と溜め息を溢す私の脳裏に浮かんでいたのは、己対冒険者ギルドの構図だった。
もちろん、出会って数日しか経っていない子供一人に肩入れし過ぎじゃないかという自覚は自分でもあったが、そもそもそれ以前に私は、こういった罪の無い者が悪意に満ちた理不尽に晒されるというのが非常に腹立たしいと感じる人間であった。
ただし、その腹立たしいという感情は別段正義感とかから来るものではなかった。全く無いとは言わないが、それでもどちらかと言えばそれは”気に入らない”という苛立ちから来るものであった。
「(ただまあ・・・もしも此処の冒険者ギルドがアルクがいたというエプーアの町の連中と同じ様なことをするのであれば、その時は・・・・・・)」
そうなって欲しくないと願っていた私であったが、そうなった時のもしもの光景を想像して、自身の胸の内から怒りと言う名の熱が燻る感覚を覚えて、無意識の内に己の手からゴキリッ・・・!という音を鳴らした。
その日の夜。カーテン越しに月の光が差し込む部屋の中で僕はベッドの上に寝転びながら、しかしまったく眠る事が出来ずに、ジッと天井を見上げていた。
眠れない理由は相部屋となり、自身の隣のベッドでスヤスヤと眠っているフェルヌスさんの存在が気になっているからだろうか?
否。それも理由の一つだと否定はしないが、しかし自身が気にしていたのはこの町に入る際に通った門での出来事の方であった。
そこにいた門番の兵士から自分の持っていた冒険者カードが偽物だと言われた時、己の胸中には様々な感情が入り乱れていた。
〝本物だと思っていたのに〝という裏切られた思い。
〝信じられない〝という否定。
〝そんな、まさか・・・!〝という疑い。
何が本当で何が嘘なのか。そんな事を考えていた僕は、自分が今まで本物だと思い込んでいた偽物の冒険者カードをカバンから取り出し、目の前に掲げた。
「―――これまで僕が冒険者として過ごしてきた五年間は、一体なんだったんだろう?」
ベッドの上に寝転がりながら偽物の冒険者カードを眺めていた僕は、無意識にそんな言葉を呟く。
「ん、んんぅ・・・・・・」
「・・・!」
そうして、しばらくの間ジッとそれを見つめていた時、ふと隣から艶めかしさを感じさせる声と布が擦れる音が聞こえて来る事に気付いた。
寝返りを打つように声と音が聞こえた方へと顔を向ければ、そこには可愛らしいとも美しいとも思えるフェルヌスの寝顔があり、僕はその綺麗な顔立ちに見惚れながら、ふと「どうしてこの女性は、こんなに僕に親切にしてくれるんだろう・・・?」という疑問が思い浮かんだ。
『始まりの森』での出会いから此処まで、フェルヌスさんが僕に愛情の様なモノを向けて来ていたことは感じ取っていた。
それは母親が子に向けるような、もしくは姉が弟に向けるような、言うなれば親愛の情と呼べそうなモノ。見ず知らずで何一つ事情を知らないというのに、〝だからどうした〝と言いたげに世話を焼いてくるフェルヌスさんのその姿に、初めは彼も困惑を隠せなかった。
だが接していくうちに、僕はフェルヌスさんのその行動に嘘は無いのだと確信を得ていき、次第に僕は彼女に対して素直に感謝の気持ちを抱ける様にもなっていった。
「(・・・だけど、一つだけ僕には気になっていることがある。それは何故だか分からないけど、彼女が僕の事を命懸けで守ろうとしているという点だ。)」
『始まりの森』にいた頃から思っていた事だが、魔物と戦闘になった際に彼女は僕の前に出て壁になろうとする動きが目立っていた。特に『邪なる嘲笑する竜』との戦闘時ではそれが顕著だった。
どうしてそのような行動を取るのかと、交易都市ライファに向かう旅の途中で彼女に聞いた事があったのだが、しかし当の本人からは「えっ?そんなことしていたか?」と返されてしまった。どうやら意図して行っていたわけでは無かったらしく、その時のフェルヌスさんは不思議そうに首を傾げていた。
「う・・・うぅん・・・・・・」
「・・・ッ!」
その時の事を思い返しつつ、ジッとフェルヌスさんの寝顔を見ていた僕は、そこで彼女が艶めかしさを感じさせる声を零しながら、ベッドから体を起き上がらせる様子を目にした。
どうやらトイレに行こうと起きたらしい。目元を擦りながらベッドから足を下ろして立ち上がった彼女は部屋の外へと出ていく。
その間、僕は自身が起きていることを気付かれない様に寝たふりをしていた。幸いフェルヌスさんは寝ぼけていた様で、僕が寝たふりをしていることに気付く事はなかった。
その時はホッと安堵の息を吐いていたが、しかしその後に起こった出来事によって僕は思わず息を飲み、体を硬直させた。
「ふわぁぁ・・・・・・」
「―――ッ!?」
欠伸をしながら部屋に戻って来たフェルヌスさんが、自分が寝ていたベッドに横になるのではなく、何故か僕の寝ているベッドに潜り込んで来たのだ。
「ちょっ・・・!~~~~~~ッ!?」
フェルヌスさんの顔が目の前に迫って来るのを目にして、声にもならない悲鳴を上げながら反射的に後ろへと下がろうとした僕だったが、その途中で自身の体が何かに引っ掛かった様に止まってしまった。
「し、尻尾・・・!?」
自身の体に何かが巻き付いている感触を覚えて視線を下に向けてみれば、そこにはフェルヌスさんの長い尻尾が僕の体に巻き付いている光景が目に入った。
「な、なんで・・・!?と、取り敢えず、なんとか外して・・・!」
驚きで思わず大きな声が出そうになったが、それではフェルヌスさんが起きてしまうと思ったので何とか我慢する。
幸いにもと言うか、フェルヌスさんの尻尾が巻き着いているのは胴体部分だけであり、手足までは拘束されていなかった。なので、僕は自身の体に巻き着いた彼女の尻尾を外そうとゆっくりと手を伸ばした。
「ゆっくり・・・起こさないように・・・掴ん―――」
「―――ふぁん!」
「―――ッ!?」
そしてフェルヌスさんの尻尾を優しく握ったその時、彼女の口から甘ったるい声が上がった。
それを耳にした瞬間、ゾクリとした感覚を覚えた僕は顔を真っ赤に染めながら彼女の尻尾から思わず手を離し、そして離したその手で無意識に自身の胸元を押さえた。
「(びびびビックリしたビックリしたビックリしたぁ・・・!?何今の声・・・!?)」
僕の心臓は驚きと、そして彼女の上げた声を聞いた事で湧き上がってくる妙な興奮によって激しい動悸を繰り返していた。
その感覚に戸惑いを覚えつつも、「もしかしたら、今のでフェルヌスさんが起きてしまったんじゃないか?」と思った僕は、そっと彼女の顔に視線を向けてみた。・・・が、当の本人はまさかの熟睡状態。顔を薄らと赤く染めながら体をモゾモゾ動かしてはいるものの、スヤスヤと気持ち良さそうな寝息を立てていて、起きる気配はまるで無かった。
「よ、よし・・・!今度こそ・・・!」
フェルヌスさんが目を覚まさなかった事にホッと胸を撫で下ろした僕は、再び彼女の尻尾を自身の体から外そうと挑戦し始めた。
「―――ふぅん!」
「・・・ッ!」
「―――ひゃぁん・・・!」
「・・・ッ!?」
「―――あっ!そこ、良い・・・!」
「・・・ッッ!?!?」
だがしかし、自身の手が触れる度に上がるフェルヌスの甘ったるい声によって僕は驚きと高揚、そして羞恥心の様なものを感じて幾度も反射的に飛び退いてしまう。
というか、これ程イロイロされているというのに全然目を覚まさないなんて、どれだけ深い眠りに落ちているのだろうか?頬を赤く染めながら眠るその姿からは、睡眠と快楽、一体どちらの気持ち良さを感じているのかは傍目からでは判別出来なかった。
その後も自身の体に巻き着いたフェルヌスさんの尻尾を外そうと奮闘していた僕だったが、しかし結局彼女が目を覚ます朝方まで外す事が出来ず、その日の夜を悶々と過ごす羽目になるのであった。




