第2章第2話 ~交易都市到着 2~
2020年10月10日に内容の一部変更と修正をしました。
2020年11月2日に内容の一部変更と修正をしました。
2020年1月4日に一部文章内容を修正しました。
2021年に9月30日に内容の一部変更をしました。
「うわぁ・・・」
「遠くからでも分かってはいたが、やはり大きいな・・・」
眼前にそびえ立つ交易都市ライファの巨大な外壁。遠くからでも巨大であると理解していたがそれを近くで見上げていた私達は感嘆の声を上げていた。
外壁の色は全体的に灰色をしているが、所々で表面が剥げ落ちて黒光りしている部分が見られる。おそらく防御力向上の為に薄い鉄板の様な物を外壁の中に埋め込んでいるのだろう。生半可な攻撃では壊す事は難しそうだ。
「・・・ん?」
そうして外壁を見上げていた私は、ふと壁に何かが描かれている事に気付いた。
「(あれは、魔方陣か・・・?)」
『魔方陣』とは、『カオスゲート・オンライン』の設定上では自然界に存在する魔力を利用して魔法を発動する技術の一つだ。そのほとんどは条件発動型だが、使い方によっては魔技を遠隔で発動するといった事も出来る。
方陣の形によって発動する魔法の系統が異なり、三角形型で攻撃系、四角形型で防御系、五角形型で補助系、円形型で回復系となっていて、”A、B、C”等のアルファベットで属性と発動条件、発動したい魔技を決め、”Ⅰ、Ⅱ、Ⅲ”等のローマ数字で魔技の種類を選択し、”1、2、3”等のアラビア数字で威力や、発動時間、魔力使用量等の各種調節を決定できるようになっている。
加えて複数の方陣や文字の組み合わせ次第では、効果の同時発動や重ね掛けも可能であり、使い勝手という点では単発で発動する魔技よりも魔方陣の方が上だ。
・・・ただし、物に方陣と文字を刻むと言う関係上、発動するまでに時間が掛かってしまうという欠点もあるが。
外壁に描かれている魔方陣は四角形型という事で防御系であり、外側の枠には”Barrier Ⅰ”、”Barrier Ⅱ”の文字が、中心の五角形型の陣の中には”Absorption Ⅱ”という文字が刻まれていて、そしてそれが約十mごとの間隔で並んでいる。
図式から判断するに、おそらく外側の枠に描かれているのは物理攻撃を防ぐ障壁を展開する 《アタックバリア》と魔法攻撃を防ぐ障壁を展開する 《マジックバリア》の魔法であり、また中心に描かれているのはその魔法を発動する為の魔力を集める 《マナドレイン》だろう。
「(この世界にもあったんだな。おそらく都市防衛用として用意したモノなのだろうが・・・・・・随分と雑な描き方をしているな、これは。発動する為に最低限必要な物は描かれているが、結構な穴あき状態じゃないか)」
『カオスゲート・オンライン』に存在していた魔方陣がこの世界にも存在し、使われていた。その事を知った私は内心で軽い驚きを覚えながらも、しかし雑な描き方をされているそれを目にして思わず困惑気に眉を顰めた。
「(この魔方陣に使われている文字はアルファベットとローマ数字の二つだけで、出力調整を行う為のアラビア数字が描かれていない。一応これだけでも大抵の物理、魔法攻撃を防ぐ障壁を展開することは出来るが、これだと全ての攻撃を常に全力で防ぐ事しかできないし、消費する魔力の量は相当なモノになる。・・・それに、どうやら発動条件も描かれていないようだ。これじゃあ魔方陣に直接魔力を送り込みでもしない限り、魔方陣の効果は発動しない。いったいどこの誰が、何を考えてこんな魔方陣を描いたんだか・・・・・・)」
外壁に魔方陣を描いた人物の意図が理解出来なくて思わず首を傾げてしまった私であったが、その事について考えても現状では答えなんて出ないだろうと思い、頭を左右に振って一旦考える事を止めた。
「(まあ、今はそんな事よりも、この都市の中にどうやって入るかを考えないとな)」
私は外壁に向けていた視線を下げて、前へと向けた。
視線を向けた先には交易都市ライファに入ろうと多くの人々が列を作っており、その列は時間が経つにつれて少しずつ前へと進んでいる。その様子を列の最後尾から眺めていた私は、ふと列の最前列に並んでいた者達が門番の兵士に何かを見せてから町の中に入って行くのに気付いた。
「(ふむ・・・―――《兎の長耳》)」
いったい何を見せたのだろうと思った私は、頭頂部にある獣耳を動かして彼等の方へと向け、《兎の長耳》―――”聴力を強化して遠くの音や声を聞き取る能力を自身に付与する”という効果の特技を発動。彼等の会話を聞き取ろうと耳を澄ませた。
『身分証を見せて欲しいんだが?』
『はいよ』
『・・・・・・パラモンド商会だな。積んでいる荷はなんだ?』
『買い付けた地方の特産品の食べ物や布、鉱物資源に・・・後はアレだ。大旦那の趣味の品さ』
『パラモンドの大旦那の趣味ってぇと、アレかぁ・・・アンタも大変だなぁ・・・』
『はは、もう慣れたよ。本当、アレさえなければあの人の事を真っ当に尊敬出来るんですがねぇ』
『苦労するな、アンタも・・・―――通って良し!』
門番の兵士が許可を出すとともにガラガラと木製の車輪が廻る音が聞こえ、一台の馬車が門の向こうへと進んでいった。
それを見て、そして彼等の話を聞き取った私は、これからどうするべきかと考える。
「(・・・やはり身分証が必要なのか。こういった話はよく異世界モノのライトノベル等で出てはいたが、それを現実に体験するとなると、実際にはどうすれば良いのかと困ってしまうものだな)」
町に入るのに身分証明となる物が必要となることは予想していたが、生憎と私はそれに該当する物を持っていない。そもそも、この世界へは自分の意志で来た訳ではないので持っている方がおかしいのだが。
「(・・・とりあえず、事実を適当にぼかしながら交渉で何とかしてみるか)」
一応の推測ではあるが、門番の兵士と交渉する事で仮の身分証の様な物を得られる可能性はあると考えられる。
こういう時は異世界物のライトノベルの話によくありそうな、且つこの世界の世界観的にも可能性がありそうな、身分証を失くしてしまったというストーリーが適切だろう。そう思った私は、列が進む中で話のバックボーンを考える事にした。
「はい、次の人~・・・」
そして、ようやく自分達の番が来た。その声を耳にした私は俯かせていた顔を上げて、一歩前に足を踏み出した。
「(ふぅ・・・今日も結構な数が来たなぁ)」
交易都市ライファに入る門の前に立つ一人の兵士が軽い溜め息を吐きつつ内心でそう呟いた。
彼の名は『サジェット』。この交易都市ライファで十年もの間、門番の仕事を行ってきた男だ。かれこれ十五歳から始め、続けていた仕事ではあるが、毎日毎日都市を出入りする人物が何者なのかや、荷物の持ち込みや持ち出しで何か異常はないかを確認するといった同じことの繰り返し。慣れてしまった今となっては退屈ささえ感じられる単調な仕事ではあるが、それでもこれはこれで彼にとってはやりがいがある仕事だ。
そして今日もまたそんな退屈で穏やかな一日だろうと、そう思っていたサジェットだったが、しかしそれは門の前に並んでいた人の列、その最後尾にいた人物達の姿を見た時に一変した。
「はい、次の人~・・・ッ!?」
「(おいおい・・・とんだ別嬪さんが来たもんだなぁ)」
目の前に歩み出て来た二人の人物。片方は金髪に緑色の宝石のような色の瞳をした少年で、その見た目からおそらく八~十歳程だろうとサジェットは思った。多少痩せている様子なのが彼としては気になったが、しかしそれ以外では特筆すべき所は無い。
・・・問題はもう片方の少女の方だった。その少女の姿を目にしたサジェットは、思わず一瞬見入ってしまった。
それは十四、五歳くらいの少女であった。日に焼けた様な褐色の肌に肩に掛かる程度の長さの銀髪、目元は少し吊り上った形をしており、そこに納められた紫色の瞳が光を反射して少し輝いている様に見える。更にはその容姿に加えて頭の上にピョコピョコと動く獣耳が生えているのが見え、それが一種のアクセントとなって彼女の容姿を可愛らしく感じさせていた。
そんな彼女の容姿を見たサジェットは、おそらく彼女は”獣武種”なのだろうと当たりをつけた。サジェットが知る限り頭に獣耳がある種族は基本”獣武種”だけだ。
・・・尻尾が見えないのが多少気にはなるが、間違いはない筈だと彼は思った。
「あの・・・?」
「・・・っと、すまない。身分証を見せてもらえるか?」
思わず目の前の”獣武種”の少女の姿に見入っていたサジェットであったが、その少女に声を掛けられた事で正気に返り、自らの職務を全うしようと彼女とその隣にいる少年に向けて身分証を出す様に求めた。
「・・・?どうしたんだ?」
だが、何故か少女は自身の懐を探る様子を見せない。どころか足を前に一歩踏み出し、その可愛らしい口を開こうとしていた。
その様子を見たサジェットは不思議そうに首を傾げつつ、彼女が何を言おうとしているのかを耳にしようとして、
「はい。冒険者カードです」
「―――ッ!?」
だがしかし、少女が何かを言うよりも先に、その隣にいた少年が自分のカバンの中から一枚の薄い板状の物を取り出して見せた。
「あ、ああ。確認する」
少年が取り出したそれを受け取るサジェット。
視界の端でギョッと、まるで「そんなものを持っていたのか・・・!?」と言いたげに驚いた様子を見せる少女が気になりはしたが、まずは自身の職務を全うしようと、少年から受け取った冒険者カードと思われる物を確認する。
「・・・なんじゃこりゃ?」
それを見たサジェットは思わず眉を顰めた。
冒険者カードと思われるそれの表面には盾を中心に剣と杖が交差した絵柄が描かれている。これは自身も知る冒険者ギルドの紋章で間違いなく、特に問題はなかった。
問題があったのはその裏側だ。そこには本来なら付いているべき物が無く、何かのマークの様な絵柄だけしかなかった。
カードの表裏両方を確認したサジェットは、困ったような、しょうがないなと言いたげな表情を浮かべながら、手に持つそれを少年い返した。
「これが、冒険者カードだって?おいおい、冗談はよしてくれよ坊主。表はともかく、裏にこんな落書きを書いたような物が冒険者カードなわけないだろう。冒険者に憧れてその真似事をするのは微笑ましいと思うが、こいつじゃ身分証にはならないぞ?」
「―――え?」
サジェットの言葉を聞いた少年はカードを受け取りつつ目を見張る。その表情は何を言っているのか分からないと言いたげな、驚きと困惑に染まったものだった。
それから少ししてようやく理解が追い付いたのだろう。彼は「そんなバカな!?」と言いたげにサジェットへ詰め寄った。
「・・・え・・・ええっ!?そ、そんな、そんな筈はないです!だって僕は冒険者として活動していた五年間、ずっとこれを使っていたんですよ!?」
自身が持っているこの冒険者カードは本物だと、長年使っていたのだがら間違いないと訴える少年。
そんな少年の主張を聞いていたサジェットは、「う~ん、困ったなぁ」と呟きながら自身の頬を掻き、それから少年に一つの質問をした。
「・・・坊主、お前今何歳だ?」
「え?十歳ですけど・・・じゃなくて!どうして駄目なんですか!?」
突然歳を聞かれた事に驚いて素直にそう答える少年。
しかし、その後ですぐに我に返って、更にサジェットに詰め寄るのだが、そんな彼に対してサジェットは「あのなぁ坊主・・・」と諭す様な口調で話し掛けた。
「十歳程度で冒険者になれるわけがないだろう。冒険者として登録できるのは十二歳からと冒険者ギルドの規則で決められているんだ。だからそれ以下の年齢の子供が冒険者になれるわけがないんだよ。それに冒険者カードの偽造や詐称は犯罪だぞ?・・・まあ、未成年の様だから、今回は見逃すけどさ」
「・・・・・・え?」
サジェットの話を聞いた瞬間、少年はその小さな体をビキリと固まらせた。
「だ、だって・・・僕は冒険者になった時にギルドマスターにこのカードを渡されて・・・それからずっと、ずっと・・・!それじゃあ、今まで僕が冒険者カードだと思っていたコレは、いったい・・・!?」
「信じられない・・・!?」と言わんばかりに愕然とした表情を浮かべる少年。その視線は自身が手に持つ冒険者カードだった筈のモノに向けられていた。
「(・・・なるほど、そういうことか)」
私はアルクと門番の兵士の話を聞いて、なんとなくアルクの悲惨な境遇と状況が見えてきたような気がした。
初め私は、アルクが一枚の薄い板状の物―――彼が言うには冒険者カード―――を取り出して見せた事には驚いた。・・・が、同時に納得もしたのだ。彼は冒険者として活動していたわけなのだから当然身分証明ができる物を持っていてもおかしくない、と。
・・・しかしそれも、門番の兵士の訝しむ反応を目にするまでであったが。
なんてことはない。アルクはエプーアの町の冒険者ギルドの人間に最初から嘘を吐かれ、騙されていたという事なのだろう。それも偽物の冒険者カードを渡す事までして、だ。
普通子供に、しかも当時の年齢を考えれば五歳程の幼子相手にこんな性質の悪い詐欺染みた事を行うだろうか?――――――いいや、普通なら行うわけがない。常識的に考えて、そんな事をした所で得られるメリットなどあるわけがないし、もし行うとすれば、それは何らかの目的によるものか、もしくはそういった事に悦楽を感じる輩くらいだ。
「(元々、齢十の子供に命の危険性が高い仕事をやらせる時点で色々と信用ならないと思っていたが、今回のこれでその思いは余計に強まった。組織的か、それとも個人によるものか、はたまた第三者の策略なのか・・・情報が足りないせいで詳しい事は分からないが、それでも絶対に碌でもない事だろうという事は分かる。―――本当に胸糞悪いな・・・!!)」
内心で、チッ・・・!と舌打ちをする。
しかし、今はそんな奴等に対して腸を煮え繰り返している場合ではないとも判断し、自身の気持ちを一時脇に置いて衝撃の真実を知って固まってしまっているアルクに助け舟を出すことにした。
「すまない。ちょっといいだろうか?」
「・・・うん?」
門番の兵士へと声を掛ける。
自身が呼ばれたことに気付いたのだろう。門番の兵士はアルクに向けていた顔を上げ、その視線をこちらへと向けた。
「私は旅人で、いろいろな国を渡り歩いているんだが、実はこの少年は私が旅をしている最中に助けた子なんだ。森で道に迷って彷徨っているところを偶然見つけてな」
「ほう・・・?」
「・・・・・・?」
「なんでも彼は農村の出で、家族のために薬草を採取している時に魔物に追いかけられ、崖下から落ちたそうなんだ。それを私が助けて家に帰そうと考えたんだが、目的地が崖を上った先で、そのまま上るのは危ないと判断してな。遠回りにはなるが、一先ず近くの町に向かうことに決めたんだ」
「―――ッ!?」
「ふむ・・・」
「ちなみに、彼が冒険者カード擬きを持っていたのは、彼が知り合いから貰ったものらしく、貴方にそのカードを出したのも、その知り合いから本物同様に使えるのだと教えられていたからなんだ。なので、あまりその子を責めないでやってくれ」
「―――ッ!?!?」
「なるほど・・・なるほど・・・」
門番の兵士の意識がこちらに向いたのを確認した私は、彼に一部の真実と九割の嘘を織り交ぜた即席のバックストーリーを語った。
ちなみに、そのバックストーリーの主要人物であるアルクはと言えば、偽物の冒険者カードを手に持ちながら呆然自失の状態で私の横にいた。
その状態で私の話を聞いていた彼は、最初は「え?何の話?」という顔をしていたが、話が進むにつれて「ちょっ、本当に何の話なの!?」といった感じに表情を変化させていた。
・・・が、私はそれを敢えてスルー。だって話が進められないから。
一方、門番の兵士の方はといえば、私の話を聞き終えた後で「ありえなくもない話だ」と頷いていた。
「グスッ・・・!坊主。お前も苦労してきたんだなぁ・・・家族のためにかぁ・・・泣ける話だなぁ・・・!―――ってか、偽物の冒険者カードをこの子に渡して、本物みたく使えると言った糞野郎マジ許さねぇ・・・!こんな良い子が犯罪に走ったらどうするつもりだったんだ・・・!!」
「(・・・話を作って語った私が言うのもなんだが・・・この人、泣き過ぎではないだろうか?もしかしてこういった話に弱いタイプなのか?)」
遂には目元を潤ませながら何度も頷く門番の兵士。
その後で彼は目尻に溜まった涙を指で拭い、アルクに偽物の冒険者カードを渡した者達に向けて怒りと罵りの声を上げていた。
そんな彼の反応を見た私は、思わず戸惑いと呆れとちょびっとの罪悪感を抱いてしまったが、しかしそれを口に出す事はしなかった。
「―――ッ!?―――ッ!?!?」
そんな私達の横では、アルクが目を白黒させて口をパクパクと動かしていた。
どうやら私が唐突にでっち上げた自身の身の上話に、驚きと困惑で言葉が出せなくなってしまったらしい。
しかし、それすらも私はスルーした。むしろ私としては話を挟まれることが無いので都合が良かった。
「それと、申し訳ないが私も旅の途中で身分を証明する物を荷物と一緒に落として失くしてしまったんだが、その場合はどうすればこの町に入れるのだろうか?」
話のついで、といった流れで自身も身分証等を持っていないことを私が告げると、門番の兵士は「グスッ・・・!」と鼻水を啜った後で、「ちょっと待っていろ・・・!」とその場を離れた。
それから少しして、門番の兵士はその手に一枚の木の板を持って戻って来た。
「これは『短期身分証』と言う物で、これを持っていれば町の中に三日間は滞在出来るようになる。ただし、三日を過ぎると不法滞在となるから、その前に町役場で身分証か冒険者ギルドで冒険者カードを発行して貰うといい」
そう説明をしながら、赤色の文字で『短期身分証』と書かれた木の板を私達に渡す門番の兵士。なお、『短期身分証』の返却についてはこの町から出る時か三日間の間に返せばいいらしい。
それから、『短期身分証』を三日を過ぎてから返却する際には罰金も払う事になるので返し忘れないようにとも門番の兵士は忠告してくれた。
「ありがとう。・・・ああ、そうだ。先程の冒険者カードに付いての話しでもう一度確認しておきたいんだが、冒険者ギルドでは本当に十歳の子供が冒険者になることは出来ないのか?」
門番の兵士から『短期身分証』を受け取った私は礼を言い、その後で「ここら辺に来たのは初めてだから勝手が分からなくてな」と言い訳染みた言葉を付け加えながらそう彼に尋ねた。
それに対して門番の兵士は「間違いない」と頷いた。
「・・・さっきも言ったが、十二歳以下は冒険者になることはできない。一応登録するだけならできるが、それは飽く迄冒険者見習いとしてであって、正式な冒険者としてじゃない。それに冒険者見習いでは町や村の中での依頼しか受注出来ない決まりになっている。そもそもこの決まりは、孤児も含めた子供たちが依頼を受ける時に危険に晒されないようにする為の措置なんだよ。だから討伐依頼や採取依頼なんかを受けさせる、なんてのはまず許可されない」
「じゃあ、もしも・・・もしもの話だが、その冒険者見習いや、そもそも冒険者ですらない子供を討伐、採取依頼に出した場合はどうなるんだ?」
私のその質問を聞いた門番の兵士は、嫌悪感丸出しにその顔を歪めた。
「もしそんなことをしたら、冒険者ギルドの決まりを破ったという事でギルドを退会させられるだけじゃない。人殺しの犯罪者として指名手配されるようになるだろうよ。・・・というか、そんなことをする奴がいたら俺がこの手で豚箱にブチ込んでやるさ!!」
ギルドの面子を潰す行為に当たるのだから当然だ、と真剣な表情で門番の兵士は語った後で、憤慨しながら彼はそう吐き捨てた。
そんな門番の兵士の話を聞いて「なるほど」と私は納得する様に頷く。
「そんな・・・、それじゃあ僕が今までやって来たことは、いったい・・・いったい・・・!?」
だが、私の横で同じく話を聞いていたアルクにはとても納得が出来ない話であったらしい。自分が持っている冒険者カードが本物でなかった事だけではない。そもそも今の自分の年齢では冒険者になれるわけがないのだと知ったからだろう。目尻に涙を浮かばせた彼はその顔を俯かせた。
その様子を心配に思った私がしゃがみ込みながら彼の顔を覗いて見れば、その瞳は黒く濁り、焦点が合っていないかのように小刻みに揺れ動いて何処か遠くを見ている様だった。
「(まあ、この子がこうなってしまうのも無理もないか・・・自分が信じていたモノが偽物だったと知ってしまったんだから、な。・・・まずは体もそうだが、心も休ませないと不味いだろう。おそらく真実を知ったことで精神的にも参っているだろうし・・・)」
まるで心此処にあらずの様な状態のアルクを目にした私は「無理もないだろう」と思いつつ、とりあえず街中で枯れが休める場所を探すべきだろうと考え、門番の兵士にお礼を言いつつ、町の中で宿泊できそうな宿の情報を得ようと問い掛けた。
「ありがとう、教えてくれて助かったよ。ついでにオススメの宿も教えてくれると助かるんだが・・・」
「・・・え?あ、ああ。それなら、この通りを進んで行った先の宿屋通りにある『ゴンゾーの宿屋』がお勧めだが・・・・・・それよりもそっちの坊主は大丈夫なのか?なんか急に黙り込んじまったみたいだけど」
私の問いに律儀に答えてくれた門番の兵士だったが、その視線はアルクに向けられていて、彼の事を心配そうに見ていた。
そんな門番の兵士の様子を目にした私は少し驚いた。先程から交わしていた会話から彼が良い人であるという事は分かっていたが、ここまで他人に親身になろうとする人物だとは思わなかったからだ。
職務上のそれかとも思ったが、どうやらこれが彼の性格であるらしい。その事を理解した私は誤魔化す様に苦笑してみせた。
「まあ、子供である彼にとっては長旅だったろうからな。流石に負担が強かったんだろう。宿に着いたらゆっくりと休ませるから、心配はいらないよ」
「そう、なのか?まぁ、それなら・・・」
私の言葉に一応の納得をしたのだろう。門番の兵士はアルクに心配そうな視線を向けながらも、一歩引いて私達を門の向こう側へと通してくれた。
「気を付けてなぁ。何かあったら相談に来いよぉ・・・!」
「それじゃあ」と言いながらアルクの手を引きながら門番の兵士の横を通る。
交易都市ライファの玄関口である門を潜って都市の中へと入ろうとしたその瞬間、後ろにいる門番の兵士から「何かあったら自分の所へ来い」と声を掛けられた。
私は彼のその気遣いに対する感謝と「分かった」と返事をする意味を込めて、アルクと手を繋いでいない方の手を上げ、ヒラヒラと振って見せた。




