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【改訂版】カオスゲート・サーガ ~大魔王と勇者の冒険譚~  作者: Kudo
第2章 ~大魔王と少年と交易都市~
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第2章第1話 ~交易都市到着 1~

2020年10月10日に内容の一部変更と修正をしました。

2020年12月14日に一部文章の修正をしました。

2021年9月30日に内容の一部変更をしました。




 『始まりの森』。そう呼ばれる数多の魔物が住まう森から出た私達は、その時に見つけた看板と街道に沿って意気揚々と『交易都市ライファ』と呼ばれる場所へと向かっていた。

 上を見上げれば、彼方まで青々と広がる空。下を見れば、これまたどこまでも続いているかのように思える青々と広がる草原。その光景はとても幻想的で、ある意味感動すら出来る美しさであった。

 ・・・・・・のだがしかし、そんな光景を見ていた私は一つだけ疑問に思う事があった。

 一体この草原はどこまで続くのだろうか?もうかれこれ三日も歩いているのだが、未だに目的地に着く気配がない。

 本当に、何時になったら辿り着けるのやら・・・








 『始まりの森』から出て草原の中を横断する様に伸びる街道を辿りながら歩く事、数日が経過した頃。私とアルクの二人は、ようやっと『交易都市ライファ』と思われる町が見える所へと辿り着く事ができた。


「あれが交易都市ライファ、か・・・」


 そう呟いたのは肩に掛かる程の長さの銀髪に日に焼けた様な褐色の肌、少し吊り上った形の目に納められた紫色の瞳と頭頂部にある獣耳、鋭い刃物のような突起が先に付いた硬質感のある尻尾が特徴的な見た目十四、五歳程の少女こと、私―――『フェルヌス・クディア』だ。

 私は元々『カオスゲート・オンライン』というVRMMORPGを遊んでいたプレイヤーだったのだが、何の因果か元いた世界とは違う異世界であるこの世界にやって来てしまった人間だ。

 ・・・いや、今は種族が”混血種(ハーフ)”の『獣魔族(ビーストデビル)』というモノになっているので、人間だったと言うべきか。

 その私がどうしてこの世界に来ることになったのか。その原因については一応心当たりはあった。

 おそらく、一昔前に流行った異世界物のライトノベルにあったような召喚系みたいなもので呼ばれたのではないかと思われるのだが・・・しかしこの世界で目を覚ました時、私の近くには召喚したと思われる存在は人っ子一人いなかった。どころか、人なんてまずいるわけがない数多の魔物(モンスター)が蔓延る森の中だった。

 他に分かっている事があるとすれば、私をこの世界に呼んだ人物の目的が「自分の世界を救ってほしい」というものくらいなのだが・・・正直言っていったい何から、そしてどのように救えばいいのかさっぱり分からない。

 ・・・なので、とりあえず私は流れに身を任せる様に、『始まりの森』で出会った短い金髪とエメラルドグリーンの瞳を持つ少年と共に人里を目指して行動する事にしたのだ。


「話には効いていたけど、想像していたよりもだいぶ大きい・・・・・・あんなに大きな町・・・ああ、えっと、都市でしたっけ?こんな大きな都市を目にするのは僕も初めてです」


 私の隣で、ほわぁ・・・!と感嘆の声を零しながら開いた口が塞がらない状態となっているのがその少年―――『アルク』だ。

 私と彼の出会いはかなり衝撃的なモノだった。なにせ、突然切り立った崖の上から落ちて来て、全身傷だらけの死ぬ一歩手前の状態で私の前に姿を現したからだ。

 ・・・まあ、その後は当然の様にけがの治療をして、互いに自己紹介や身の上話を語ったりもしたが。

 それ以降も森の中を探索したり色々な魔物(モンスター)と遭遇して戦ったり、最終的には巨大なドラゴンと戦う事になったりと色々な出来事が起こったりもして、そうしたなんやかんやの末に私達は『始まりの森』を出て、こうして今この場所に立っていた。


「ふむ・・・都市を囲む様に建てられている外壁もしっかりしている様に見える。どうも見た感じでは交易都市と言うよりも、どちらかと言えば城壁都市とかの方が印象としては近そうだな・・・」


 私はアルクの姿を視界の端に納めつつ、頭上から降り注ぐ太陽の光を片手で遮りながら遠くにある都市を見ようと目を細める。

 都市の大きさはかなりのものであり、それを囲んでいる外壁の高さは目算で大体十五~二十m前後。横へと伸びる壁の長さは端に向かうにつれて弧を描く様に曲がっているので、おそらく円形状に建てられているのだろう。

 また、外壁の下の方へと視線を向ければ、そこには巨大な門が設置されており、その前には何台もの馬車や大勢の人々が並んでいる様子が見えた。


「えっと・・・これは冒険者ギルドとかで昔聞いた話になるんですけど、交易都市ライファはその名の通り交易が盛んな都市で、様々な地方の町や村から品物が集まり、売り買いが行われている場所らしいんですが、昔はあんなに大きな外壁は無かったそうなんです」


「うん?そうなのか?」


「はい。昔はあったとしても精々数mくらいだったらしく、今みたいな大きさになったのは、十年程前に『ライファ辺境伯』として任命された貴族がこの地を治める様になってからだそうです」


 そうして外壁に囲まれた都市を見た感想を私が口にしていると、アルクが補足をするように自身の知る交易都市ライファに関する情報を教えてくれた。


「なんでも都市に住んでいる領民の安全を考えての事らしいんですが、飽く迄噂なので本当かどうかまでは・・・・・・ただ、そうしたことによって交易都市ライファはどんどん発展していったらしく、今ではこの領地を代表する主要都市となっているそうです」


「へぇ・・・」


 アルクの話を聞いた私は、思わず感心する様な声を零した。

 それは噂であるとはいえ、ライファ辺境伯と言う人物がいったい何の為に高い外壁を築いたのかを知ってというのもあるが、同時にアルクに対して「そんな事を良く知っているなぁ」と思ったからだった。


「なるほどね・・・・・・まあ、それはそれとして、そろそろその噂の都市へ向かうとしようか。とりあえずあの大きな門が入り口の様だが、どうやら町に入る為には列に並んで順番が来るのを待つ必要があるみたいだな。・・・さて、最後尾はどこかな、と」


 そう呟きながら、私は門の前に何でいる列の最後尾を探して視線を巡らせていると、隣にいたアルクがとある場所を指差した。


「えぇと・・・。あっ、あそこですね!どうやらあの馬車の所が一番後ろみたいですよ?」


 彼が指差した先にあったのは、一頭の馬に引かれている荷馬車だった。見た感じでは確かにアルクの言う通り、あそこが列の最後尾である様だ。


「ふむ。じゃあ、準備を終えたらあそこの後ろに並ぶとするか」


「そうですね・・・って、準備?」


 それを目にした私が一つ頷きながらそう呟くと、それを耳にしたアルクがキョトンとした顔を向けて来た。それはまるで「列に並ぶのに何か準備する必要があるのだろうか?」と言いたげなものだった。


「あの、フェルヌスさん?準備って、一体何をするんですか?」


「いやなに、ちょっと着替えようと思ってな。今の装備のままだと、色々と目立ちそうだから」


「あ~・・・」


 そう説明すると、私の言わんとしている事を理解してなのか、納得する様な声を上げるアルク。

 そう。正直言って今の私の格好はかなり派手な物であった。今私が装備している防具は”カースドシリーズ”と呼ばれる様々な呪いが付与されている物であり、本来なら各種ステータス及び耐性の低下や状態異常が付与される等のデメリットばかりしかない代物だが、しかしそれはアクセサリー装備である『反転の首飾り』によって効果を反転させることで逆に各種ステータスや耐性を大幅に増加させたり、特殊効果が付与されるといった多大な恩恵を与える装備品へと変わっている。

 まさしく自身が持つ装備品の中でも最強だと言ってもいい代物ではあるのだが、しかしそれを身に着けた状態で町や村などに入るにはあまりに不適格と言わざるを得ない。なにせ私が装備している”カースドシリーズ”は、見た目もそうだが呪いの影響のせいか常に禍々しい雰囲気を発し続けているからだ。

 今自身がいるこの世界は異世界と言う名の現実だ。オンラインゲームであった『カオスゲート・オンライン』であらばいざ知らず、そんな物を身に着けた人物が町や村に入ろうとすれば、不審人物と見なされてまず間違いなく止められる事だろう。

 故に、都市へと向かう前に一度着替える必要があると判断した私は、アイテムボックスの入口である黒い穴を空中に出現させるとその中に片手を突っ込み、そこから掌に治まるサイズの茶色い箱を取り出した。

 それは『キャンプセット』という野営を行う為に必要な物が一通り揃って入っているアイテムだ。『始まりの森』の中でも寝泊まりする為に使用していたアイテムだが、今回私が取り出したのはその時に使っていたカスタム品ではなく簡易的な、それこそ一人か二人くらしか入らない大きさのテントが展開されるタイプのそれだった。

 「着替えるだけならこれくらいで十分。わざわざ大型のタイプを使う必要はないだろう」とそう考えた私は、『キャンプセット』を街道の脇の地面に置くと、茶色い箱の上部に付いている赤い部分を指で押し込む。

 その瞬間、『キャンプセット』からシュゥゥゥーッ・・・!という空気を取り込むような音が聞こえ始めたこと思うと、それに合わせて箱がどんどん膨らんでいき、最終的にそこそこの大きさのテントが展開された。


「じゃあ、ちょっと待っていてくれ。このテントの中で着替えてくるから」


 それを目にした私はアルクに一声掛けてから垂れ幕を(めく)ってテントの中に入る。


「さて、何を装備しようかな、と」


 テントの中に入った私は、人差し指と中指を立てて虚空に這わせる様に横に滑らせる動作を行ってメニューウィンドウを呼び出し、表示された項目の中から装備品のそれを選択。何を装備しようかと考え始めた。


「幾つか私が持っている鎧系は全部派手で今着ているのと大差ないからダメ。魔法使いが着る様なローブもあるが・・・こっちも派手な物ばっかりだから当然ダメ。・・・後は普段着の様な物くらいだが・・・う~ん・・・よし、これとこれとこれにするか」


 何の装備に着替えるのかを決めた私は、メニューウィンドウを操作して自身の装備を変更していく。そして最後に変更完了のボタンを押した途端、首から下の自身の体が光に包まれ、次の瞬間には先程まで装備していた”カースドシリーズ”とは別の装備を身に纏っていた。


「ふむ・・・まあ、こんなものか?」


 装備を変更し終えた私は、自身の体を見下ろして何か異常がないか、もしくは組み合わせ的に不自然な所はないかと確認した。

 ちなみに、現在の私の装備は以下の通りである。



 【ヘッド】:『黒鱗の獣耳飾り』

 影黒竜(えいこくりゅう)とも呼ばれる『シャドウドラゴン』の龍鱗を使って作られた獣武種(ビースト)用の耳飾り。身に着けている限り、《デセブ》というある程度の認識阻害と各種ステータスを隠蔽する『魔技』が常時発動状態となる。


 【アウタ―】:『ブラックガードジャケット&ショートパンツ』

 『シャドウウルフ』と呼ばれる狼の毛皮を使って作られた黒いレザージャケットにショートパンツ。銀光石と呼ばれる光属性を吸収する特性を持つ鉱石を使って作られたアーマーが両肩と袖、背部に取り付けられており、光属性攻撃をある程度緩和させる効果を持つ。


 【インナー】:『呪われし一角獣の白布』(カスタムエディション)

 神聖且つ癒しの獣と称される一角獣『ユニコーン』の皮から作られたレオタード。その衣装を身に纏ったモノには他者を癒す能力を得ると言われている。ステータスの『MND』が最大値まで上昇し、『MP』と『STA』の自動回復量が十倍に上昇するが、現在は呪いにより効果が反転し、自動回復量も本来の十分の一にまで下がってしまっている。

また、手が加えられたことにより首元のリングが元の金色から銀色に変わり、二の腕まで覆う手袋と太ももまで覆うサイハイソックスとそれを止める銀色のリングが追加されている。


 【アーム】:『拳闘の手甲盾』

 拳闘亀とも呼ばれる『ナックルタートル』の鱗と甲羅を使って作られた手甲。大小の甲羅と鱗が付いた肘近くまでを覆う指ぬきグローブで、腕にピッタリとフィットする形状でありながら斬撃や刺突、打撃と言った攻撃を防ぐ盾としても扱う事が出来る。


 【レッグ】:『堕天使の天靴』

 墜ちた天使である『堕天使』の素材を用いて作られた黒と銀のブーツ。そのメタリックな輝きを裏切らない硬質さを持ち、銀色に染まった靴底には同じ素材で作られた隠しナイフが収められている。


 【アクセサリーⅠ】:『反転の首飾り』

 フェルヌスが作成した特別な首飾りで菱形(ひしがた)をしており、中央には反転の効果を持つ紫色の宝石が取り付けられている。また、首飾りの中央以外にも他の宝石を嵌めることが出来、嵌められた宝石に付与されているスキルに応じた効果を反転させる。現在は光属性、デバフ、呪いが付与された宝石が取り付けられている。


 【アクセサリーⅡ】:『呪われし巨神の指輪』

 太古に存在していた巨神の骨から作り出された白い指輪。状態異常耐性五十%上昇と『LUK』が最大値まで上昇するが、現在は呪いにより効果が反転している。



 全体的な配色としては黒、白、銀といったやや地味目な組み合わせのそれだが、デザイン的には自身の容姿に合わせながら動きやすさを意識したスポーティーな装備だ。昔、まだ中堅クラスの実力しかなかった頃に使っていた装備ではあるが、性能自体は悪い物ではない。


「あとは尻尾をこうして腰に巻き付けるようにして、と・・・」


 装備の確認をした私は、次に自身の腰から伸びている黒い装甲の様なモノで覆われた、先端に鋭い刃物の様な突起が付いた細長い尻尾を腰回りにグルリと巻き着ける。こうすればベルトの様に―――まあ、少しばかり太くはあるが―――見えなくもなく、一見しただけでは尻尾であると気付かれることはないだろう。

 ちなみに、どうしてそんな偽装とも思えるような事をするのかと言えば、それはこの世界での”魔導種(デモニア)”という種族の立ち位置が関係していた。

 『始まりの森』でアルクから聞いた話ではあるが、どうもこの世界の”魔導種(デモニア)”は過去に世界征服を目的に何度も自分達以外の種族に戦争を仕掛けているそうで、その際に他種族を大量に殺したり奴隷にしたりしていたらしく、それ故か”魔導種(デモニア)”は同族以外からは基本敵視されているらしい。

 それについては完全なる自業自得と言わざるを得ないのだが、しかし”混血種(ハーフ)”という種族柄、その血を半分引いている私にとっては(はなはだ)だ迷惑な話でしかない。


「次は武器だな。流石に装備効果による強化なしで”コイツ”を持つのは難しいからな。さて・・・どれを装備しようか」


 装備した防具の確認を終えた後、続いて武器の変更をしようとメニューウィンドウを操作していた私は、そう呟きながら槍先を地面に刺して突き立てた斧槍(ハルバード)―――『パニッシュメント・ハルバード』に視線を向けた。

 これには『グラビティメタル』と呼ばれる途轍もなく頑丈ではあるが、それに比例して途轍もなく重いという特性を持つ素材が使われており、扱い切るには一定以上のステータスが必要なのだが、装備を変えたことで一部を除いたステータスが素のそれとなっている今の私では持ち上げる事は不可能だ。

 そして、それ故にメインで使う武器を変える必要があったのだが・・・・・・


「はぁ、しまったなぁ・・・そう言えば私が持っている武器も大抵派手な物が多かったんだっけ」


 自身が持っている武器の確認をしていた私は思わずといった風にそう呟いた。私が所持している武器は自身の手で作った物か、もしくは知り合いに頼んで作ってもらった物ばかりであり、メイン武器として扱っていたパニッシュメント・ハルバードを除けば基本的に自身の素のステータスで扱い切れる物ばかりだ。

 しかし、その大半はデザインが派手な物ばかりであり、格好いいのとか可愛いのとか、中にはどこぞの悪役とかが持つ様なヤバい見た目の物もあった。一応無難な見た目の物もあるにはあるのだが、それは別の意味で今の私には扱う事が難しいものばかりだ。

 というのも、それは『カオスゲート・オンライン』の初期の頃に使っていた武器であり、その耐久性も相応に低いものだったからだ。故に今の自分がそれらを振るおうものなら、たったの一振りでバラバラに砕け散ってしまうことだろう。


「最悪、無手で行くか?いや、流石にそれはそれで怪しまれる気がするし、ツッコまれたらどう答えれば―――おや?」


 どうしようと溜め息を吐きながら各種武器に目を通していた私は、そこでふと、ある武器が目についた。


「これは・・・・・・ああ、そう言えば昔、パニッシュメント・ハルバードが手に入る前に予備武器として使おうと思って作ってたんだっけ、これ」


 「すっかり忘れていたなぁ」と私は呟きながらメニューウィンドウを操作して、目についた”それ”を装備する。

 私の後ろ腰に出現した”それ”は、一振りの剣だった。見た目は装飾らしい装飾が付いていない無骨な作りだ。似た様な見た目の頑丈そうな鞘に納められていると、その無骨さが余計に感じられる。


「ふむ・・・・・・よっ!ほっ!」


 その剣を鞘から抜いて片手でブンブンと軽く振り回す。

 抜いた事で姿を現した刀身の長さや形から、それがショートソードだと分かるが、その刀身の長さは六十五cm程と、七十~八十cmくらいが一般的な普通のショートソードと比べて少々短い。

 ・・・が、私はそれに関しては特に問題を感じてはいなかった。何故ならこのショートソードは、元々サブウェポンとして扱う事を前提として私が自作した武器だったからだ。

 長すぎず扱いやすい手足の延長線上の武器として使えるように考えて作った武器だったのだが、その後に手に入ったパニッシュメント・ハルバードが有用過ぎた為、結局今の今まで使う機会が無くて倉庫の中に仕舞い込んでいた代物でもあった。

 ちなみに、以下の内容が今私が手に持っているショートソードに関する記述である。



 【武器】:『オリハルコンショートソード』

 とても固い金属として有名なオリハルコンで作られた、刀身が白銀に輝くショートソード。素材として使われたオリハルコンの特性として様々な魔法効果を宿すことが出来、効果も増幅させることが可能だが、しかし今この剣には何の効果も宿されておらず、唯のショートソードでしかない。


「ふむ・・・これだけ振ってもキシキシと軋む音もしないのであれば大丈夫だろう。コイツを使うとするか」


 ある程度ショートソードを振り、自身の力に耐えうることが出来ると判断した私は、満足そうに頷きながらそれを鞘に納めた。


「さて、着替えを終えた事だし、そろそろ行くとするか」


 それからメニューウィンドウの装備品の項目や自身の体を見直して、装備の変更が終わったと判断した私は、踵を返してテントの外へ出ようと入口の垂れ幕を捲るのであった。








「じゃあ、ちょっと待っていてくれ。このテントの中で着替えてくるから」


 フェルヌスさんはそう言うと、『キャンプセット』というアイテムによって展開した小型のテントの中へと入って行った。それを見送った僕は、先程のフェルヌスさんの言葉を思い出して「・・・う~ん」と悩ましげな声を上げた。


「(色々と目立ちそうだから、かぁ・・・・・・まあ、その・・・確かにフェルヌスさんのあの格好は色々と派手だからなぁ・・・)」


 僕は声に出さない様に気を付けながら溜め息を吐く。

 実際、フェルヌスさんのあの恰好―――鎧姿は、かなり派手だと思えるものだった。

 見た目も、感じられる禍々しい雰囲気からもそれが普通の鎧ではない事が分かるし、加えて所々にある紫色に薄らと光る溝が余計にそう思わせる。

 おそらくは何かしら強力な効果を持つ魔法の防具なのだろう。遠い異国にあると言われるダンジョンと言う場所では、そういう物が手に入る事があると昔聞いた事がある。


「(それに、僕としてもあの鎧姿から着替えてくれるというのは正直ありがたいと思う。なにせ、フェルヌスさんが着ているあの鎧って意外と露出が多くて、目のやり場に困る時があったからなぁ・・・)」


 ただ、それ以上に目を引いたのが肌面積の意外な多さであった。確かに彼女の鎧は見た目も雰囲気も禍々しいと感じられるものなのだが、所々で露出が多かった。特に鎧の下に着ている肌にピッタリと張り付いているノースリーブの白いレオタードが露出している日に焼けた様な褐色の肌を際立たせていて、それがどこか少女の様な見た目に不釣り合いな色気のようなものを匂わせていた。

 加えて、フェルヌスさんの無防備さもまた問題であった。一応僕はこれまでの旅の中で彼女の肌が露出している部分を極力目にしない様に注意してきた。それは、昔自分と親しくしてくれた女性冒険者から「依頼に失敗して服がボロボロになった時に、むさ苦しい男性冒険者達に肌が露出した部分をジロジロと見られて嫌な思いをした」という愚痴を聞いた事があったからであり、異性にマジマジと肌を見られるのは嫌だろう、という気遣いからくるものであった。

 ・・・のだが、しかし当のフェルヌスさんの無防備さはそんな努力が無駄になるくらいに過ぎたものだった。特に野営の際、彼女はテント内で休む時に毎回身に着けている鎧を全部外して、その下に来ていたインナーだけという薄着姿になっていた。

 幼いと言えど僕も男だ。異性の、それも美少女と言っていい人物のそんな姿を見ればドキドキするのは当然だし、どことなく感じられる艶めかしさには思わず頬が赤く染まってしまう。


「(それにフェルヌスさんの体から漂って来た良い匂い―――体臭なのかな?それを嗅いだ時は本当にヤバイと思った。モヤモヤというかモンモンというか、そういった感覚が胸の奥から湧き上がって落ち着かなくなることもあったし・・・)」


 これまでの色々と際どい場面を思い出した僕は、赤面しながら若干遠い目をする。

 同時にその時のフェルヌスさんの反応を思い出して、そういえば、とふと呟いた。


「(その時のフェルヌスさん、自分の体に視線を向けられていると気付いている筈なのに、不快に感じている様には見えなかったんだよなぁ)」


 というか、自分が頬を赤く染めて挙動不審な態度になる度に不思議そうな顔をしていたので、そう言った視線を向けられていると分かっていなかったのではないだろうか?


「(もしくは、僕がまだ子供だからそんな視線を向ける筈がないと思われていたからなのか)」


 何となく「悔しいな」という思いを抱く。

 それが幼いながらに持ちあわせている男としてのプライド故か、それとも何か別の理由なのかまでは自分でもよく分からなかったが。


「(まあ、でも・・・今後は僕が彼女にそういった視線を向ける事も、赤面して挙動不審な態度になる頻度も減るだろうな。なにせ、フェルヌスさんは今あのテントの中で別の服に着替えているわけだし)」


 交易都市ライファに入る為と彼女は言っていたので、必然的にあの鎧よりも肌の露出が少ない服を着て来るだろうとそう考えた僕は、つい安堵の息を零した。

 ・・・・・・実は、内心ではちょっとだけ残念な気持ちもあったりしたが。


「お待たせ、アルク。準備完了だ。これならたぶん問題ないだろう」


「あ、着替え終わったんですね、フェルヌスさ・・・ッ!?」


 そんな事を考えている内にどうやらフェルヌスさんが着替えを終えてテントの中から出て来たらしい。その事に気付いた僕は返事をしつつ彼女へと視線を向けて―――思わず変な咳が出てしまった。


「・・・?どうしたんだ、アルク?」


 テントから出てきたフェルヌスさんの格好はテントに入る前とあまり変わっていなかった。

 ・・・いや、鎧姿からは変わっていたのだが、肌の露出度という点ではあまり大差がなかったのだ。むしろ彼女の容姿と相まって健康的な艶めかしさのようなものが感じられるようになっていた。


「もしかして、私の格好が何かおかしかったりするのか?」


 僕の反応を訝しんでか、首を傾げながら「何かおかしいのだろうか?」と問い掛けてくるフェルヌスさん。

 それに対して僕は首を横に振ることで答えた。


「い、いえ、その・・・おかしいか、おかしくないかと言えば、別におかしくはないんですが・・・」


 そう、おかしくはない。斥候を専門とする者や剣士等であれば似たような軽装を好んで着ることが多いので、ある意味ありふれた格好と言える。

 ・・・・・・とはいえ、彼女ほど肌を晒している者は見たことがないのだが。


「そうか、おかしくないなら問題ないな。じゃあ、行くとしようか」


 僕の返答を聞いたフェルヌスさんはそう言うと外壁に囲まれた都市に向けて歩みを進め始めた。口許に薄らとした笑みを浮かべながら。






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