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第1章第15話 ~開かれた新たな道へ~



 エビルモークドラゴンとの戦闘を終えて()()。私とアルクの二人は今『始まりの森』から脱出する為に、森の中に出来た広範囲且つ深く抉られたような形の地面の上を歩いていた。

 そこはエビルモークドラゴンとの戦闘の中で私が最後に放った《轟覇閃滅拳(ごうはせんめつけん)》によって作られた道であったのだが、何故そんな所を歩いているのかと言えば、それはこの先に森の外と思われる光景が広がっているのを確認したからだった。

 それを確認したのはエビルモークドラゴンとの戦闘を終え、唯一消滅せずに残っていた自身の体を拘束していたかのドラゴンの右腕から抜け出した後の事だ。

 その時の私は戦闘を終えた直後で、自身が敵と認識した存在を自らの手で滅ぼせたことによる達成感と、脅威と呼べる存在を排除できたことによる安心感から「はっ、ようやく死んだか、クソトカゲが!精々あの世で、地獄の窯にでも煮られてろ」と言いながら、満足げな笑みを浮かべていた状態であった。

 まあその後、昂ぶっていた精神状態を落ち着かせて、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()後、「―――あ~・・・しまったな。これは、少しやり過ぎてしまったか?全力を出せば地形を変える事くらいは出来るとは思ってはいたが・・・まさか、これ程とは、な・・・・・・」と、自分が全力を出せば自然環境を簡単に変貌させてしまえるのだという事を理解―――というよりは再認識して、タラリと一筋の冷や汗を流しながら、誰に言うわけでもない言い訳を呟いてもいたのだが。

 そうして、「なんだかなぁ・・・」と溜め息を吐きつつ頬を掻いていた時だった。自身の技の余波で作り出した道の向こうに森の外だと思える光景が広がっている事に気付いたのは。


「うわぁ・・・!」


「ほう、これは・・・・・・」


 そして今、私達はその森の外へと辿り着いた。そこには太陽の光を反射して青々と輝く広大な草原地帯が広がっていた。

 風に押されて揺られる様は、まるで海原で起こる波の様であり、その光景を目にしたアルクは瞳をキラキラと輝かせながら「こんな綺麗な光景、見たことないや」と感嘆の声を上げた。

 そんなアルクの横で共にその光景を見ていた私もまた最初は感嘆の息を零していたのだが、しかしその後でそれとは別の安堵の息を零していた。


「・・・まあ、ともあれ、やっと『始まりの森』から出る事が出来たな。まあ、大体三日くらいで遭難していた状態から脱出できた事を考えると、十分に速いのかもしれないが・・・・・・」


 それは思っていたよりも早く『始まりの森』の探索を終えて脱出できた事に対するものであった。

 本来ならば土地勘が全くなく、出口の分からない森の中で遭難している状況下で脱出しようとすればもっと多くの時間が掛かっていた事だろう。それがたった三日に短縮できた事は喜ぶべきなのかもしれないが、しかし私は素直にそうする事が出来なかった。

 何故なら『始まりの森』から脱出するまでのこの三日間は、『カオスゲート・オンライン』に存在した数々のイベントを熟して来た経験を持つ私からしても、色々と「濃いなぁ」と思える日々だったからだ。

 この三日間の間で起こった事をまとめると、一日目は目を覚ましたら何時の間にか崖に囲まれた窪地の森の中にいて、出口を探して彷徨い歩いている内に崖の上から落ちて来たアルクと出会い、彼が負っていた怪我の手当てを行った。

 二日目は窪地の出口となる洞窟を見つけて外に出る事が出来たものの、何故かその後でアルクが状態異常に掛かってしまったので、その治療の為に一休みした。・・・まあ、その際にアルクの過去を知って、その内容に己が胸の内で激情が沸き立ってしまうなんて事もありはしたが。

 そして最後の三日目だが、これは二つの理由により一度休みを取る必要があった。

 一つ目の理由としては、私とエビルモークドラゴンとの戦闘の余波による影響だ。尤もそれを受けたのが先程まで私達が歩いていた広範囲且つ深く抉られたような形の地面なのだが、そこは出来上がった当初は辺り一帯が赤熱しており、さらには一部が溶岩化もしていて、ジュウジュウ!と音を立てながら物凄い熱気を放っていた状態であった。

 遠くに森の外と思われる草原地帯が見えていたとしても、これではとてもではないが通る事はできない。そう思った私は、一度熱気が冷めるまで時間を置く必要があると判断して翌日まで様子を見ることにしたのだ。

 ・・・が、結局翌日になっても熱気が冷めきる事はなかったので、最終的には”対象の熱を奪い取って”凍結”の状態異常を付与する”という【火属性魔法】の魔技である《ヒートアブソーブ》と、”触れたモノに”凍結”の状態異常を付与する霜の霧を周囲に放つ”という【水属性魔法】の魔技である《フリージングミスト》を併用して通れるようにしたのだが。

 そして二つ目の理由だが、それは私が自分の体を思う様に動かせなくなった事であった。

 というのも、実はエビルモークドラゴンとの戦闘を終えた後、私は全身が酷い筋肉痛の状態になってしまっていたのだ。

 何故そんな事が起こったのかについてだが、それは力のコントロールがまだ上手く出来ない状態でありながら、戦闘中に強化(バフ)系の技を多用した事からだ。それも、自分の体が掛かる負荷に耐えられなくなる程に。

 トドメとなったのは《バニシングドライブ》を発動した時だろう。あの時から本来は無い筈の『HP(生命力)』の減少というデメリットが発生していたので、おそらくその時点で既に私の体は掛かる負荷に耐えられなくなってしまっていたのだろう。そしてその反動として、動けなくなるほどの全身筋肉痛が起こってしまったというわけだ。

 ちなみに、回復系の技やポーションを使って治さないのかと思う者もいるかもしれないが、実は筋肉痛はそれで治す事は出来なかったりする。

 というのも、回復系の技やポーションの効果は飽く迄”怪我を負っている状態を回復させる”というものであり、筋肉痛にまではその効果を発揮しないからだ。

 一応筋肉痛を治す特技も存在しているし、実を言えば私はそれを習得してはいるのだが、しかし体を少し動かす度に全身に激痛が走る状態ではそれを発動する事はまず無理だった。

 その為、エビルモークドラゴンとの戦闘を終えてから翌日の昼近くまでの間、完全に動けなくなる前に展開していた『キャンプセット』の大型テントの中で寝て過ごす羽目になってしまったのである。


「(あの全身筋肉痛は本当に辛かった。指を動かすだけで全身に痛みが走るんだから相当だ。・・・一応私は痛みに耐性があるし、その気になれば我慢して無視する事もできるんだが、今回のはあまりにも痛すぎて我慢できなかった。思わず目尻に涙が浮かんでしまった程だ)」


 昨日の全身筋肉痛で動けなくなっていた時の事を思い出して、思わず遠くを見る。

 今後強化(バフ)系の技を使用する時は、しっかりと力のコントロールが出来る様になった後か、もしくは体に負荷が掛かり過ぎない様に注意した方が良いだろう。でなければ、私は再び筋肉痛で泣きを見る羽目になるのだから。


「あ・・・!あそこを見てください、フェルヌスさん!」


「・・・ん?」


 そうして、今此処に至るまでの事を思い返していた私は、そこで自分のスカートの裾が軽く引っ張られている事に気付いた。

 引っ張っていたのはどうやらアルクであったらしい。彼は何かを見つけたのか、その方向へと人差し指を向けていた。


「もう少し行った先に街道が見えます!あの道を通って行けば、町に辿りつけますよ!」


「ふむ、街道か・・・」


 アルクが指を差していた場所は、青々とした草が広がっている草原地帯の中にある土肌が露出している地面であった。

 それはまるで一本道に様に伸びており、自然に形成されたにしては色々と不自然に見えるので、おそらく人工的に作られた道なのだろう。

 その道の左右に視線を向ければ、右側は真っ直ぐな道のりがまだまだ続いている様に見え、反対の左側の道は途中でT字に分かれていて、丁度その間には三枚の木の板が取り付けられた一本の木の棒が立っていた。


「あれは看板・・・と言うか標識の類か?」


 取り付けられている板に文字が書かれていることに気付いた私は、何が書かれているのかを確認しようとアルクを連れてその場所へと近づいていく。


「え~と・・・『交易都市ライファ』に『ハイート村』、『サバラン』・・・これはもしかして町や村の名前か?」


 それぞれの木の板に書かれていたのは都市や村の名前と、それらがどの道の先にあるのかを示す矢印。木の板に書かれた文字はABCといったアルファベットであり、その文字の並びから考えるに、ローマ字読みの様に見える。

 それを目にした私は、ふむ・・・と考え込む様に顎に手を当てた。


「(『カオスゲート・オンライン』で一般的に使われていた文字は日本語読みのローマ字だったが、どうやらそれはこの世界でも同じらしいな)」


 一応アルクも基本的な文字の読み書きが出来るらしいので彼にも確認して貰ったのだが、木の板に書かれている文字は先程私が口にした通りで合っていると頷かれた。


「う~ん・・・」


「・・・?どうしたんだ、アルク?どうも何か悩んでいる様だが・・・?」


 ただその後でアルクは、木の板に書かれている文字をジッと見ながら何かに悩む様子を見せ始めた。

 その様子が気になった私はアルクに声を掛けるのだが、それに対する彼の返答はちょっと困った様な感じのものであった。


「えっとですね・・・実はここに書かれている町や村の名前に聞き憶えがありまして・・・たぶんなんですけど、僕達は今ライファ領にいるんだと思います。・・・ただそうなると、フェルヌスさんはともかく僕にとっては困った事になりまして・・・・・・」


「困った事・・・?」


「はい。その・・・実は僕がいたエプーアの町はライファ領とは別の領地にある町なんです」


「別の領地だと・・・?」








 どういう事だ?と首を傾げる私に、アルクは自分達が現在いる場所についての説明を始めた。


「この地域一帯は『始まりの森』を中心に周囲を囲むように複数の領地が存在しているんです。北から時計回りに『シャダイラ領』、東の『バスクード領』、南の『フォーマル領』、そして今僕達がいる西の『ライファ領』といった感じに。

 そして、僕のいたエプーアの町は東のバスクード領に存在しているので、今僕達がいるライファ領とは『始まりの森』を挟んで正反対の方向にあるんです」


「ふむ・・・つまりは私達、というかアルクは『始まりの森』を横断する様に真っ直ぐ反対側にある領地に来てしまった、という事になるのか・・・・・・」


「(・・・ん?待てよ?それって、私からすれば案外都合が良かったりするんじゃないのか?)」


 アルクの話を聞いて納得した様に頷く私であったが、しかしその内心では彼を元いた所に―――エプーアとかいう町に戻すつもりなど欠片も考えてはいなかった。

 というのも、これまでアルクがエプーアの町で受けていた仕打ちの事を考えると、彼が町へと戻ればまず間違いなく死んでしまう可能性が高いと予想できていたからだ。


「ちなみにだが、此処からバスクード領へ向かうとすれば、どれくらいの日数が掛かるか分かるか?」


「えぇっと、そうですね。・・・安全を考えれば必然的に『始まりの森』を迂回するルートを選ぶ事になりますけど・・・・・・その場合だと徒歩では三ヶ月ほど、馬車を利用しても一ヶ月ほどは掛かると思います」


「なるほど・・・」


 一応確認の為にエプーアの町があるバスクード領までどのくらい掛かるのかをアルクに聞いてみたが、どうやら早々に戻る事はできないようだ。

 それを知った私はやはり都合がいいと内心で笑みを浮かべた。


「・・・しかし、聞いてみた私が言うのもなんだが、アルクはよくそんなことを知っていたな・・・いったいどこで覚えたんだ?」


 まあ、それはそれとして、アルクがこの近辺の地理に詳しい事に少しだけ疑問を覚えていた私は、彼に一体どこでそんな事を覚えたのかと問い掛けてみた。


「その、昔の事なんですが・・・・・・エプーアの町にいた頃に、行商人や他の冒険者達から話を聞いたり、冒険者ギルドにあった地図を見た事があったんです。・・・あの頃はまだ、きちんとした勉強をするだけの余裕がありましたから」


「町に来たばかりの頃と言うと、確か君が五歳の頃だった筈だよな?よく覚えていたものだ」


「昔から物覚えは良かったんです。村の皆からも将来が楽しみだ、なんて言われたことがありましたから」


 私の問いに対して、苦笑を浮かべながら答えるアルク。

 どこか遠くを見ているその瞳には陰りが浮かんでいて、それが十歳の子供が浮かべる様なモノではないという事に私は気付いていたが、しかし敢えて何も言わずに「そうか」と返すだけに留めた。

 そして、それから少し時間が経過した後、私とアルクの二人はこれからどう行動するかをお互いに話し合った。


「・・・とりあえず、ここからエプーアの町に向かうには色々と準備が足りないだろう。私としては情報収集と休憩を取る事を兼ねて、まず近場の町である『交易都市ライファ』に向かうべきだと思うんだが・・・アルクはどう思う?」


「僕もそれで良いと思います。・・・本音を言えば、依頼の事もあるのですぐにエプーアの町に戻りたいところですけど、どう考えても依頼で決められていた期日までには間に合わないでしょうから・・・・・・」


 どちらにしても受けていた依頼は失敗だろうと、暗にそう言いながら残念そうに呟いていたアルクは、「はぁぁぁ・・・」と大きな溜め息を吐いた。


「なに、そう暗くなるな、アルク。もしもの時は私が養ってやるぞ?」


 そんな様子のアルクに、私は薄らとした笑みを浮かべながらそう言った。

 それは端から聞けば冗談半分で言っている様に聞こえたかもしれない。だがしかし、私としては本気で言ったつもりであった。

 自身のアイテムボックスや倉庫の中には換金できそうなアイテムが大量にあるので、それを売っていけば子供一人を養うくらいは十分に出来るだろうと考えていたからだ。

 ・・・ただまあ、当のアルクは私が本気で言っているとは受け取らなかったようで、困った様な苦笑を浮かべて返すだけだったが。


「さて、それじゃあ行こうか、アルク」


「はい、フェルヌスさん!」


 その後、私とアルクの二人は一路『交易都市ライファ』を目指して歩き始めた。頭上からは太陽の日差しが優しく降り注いでおり、それはまるで私達の新たな旅路を祝っているかの様であった。





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