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第1章第12話 ~邪なる嘲笑する竜 中編~



「さて、それじゃあ行くとするか・・・!」


 私はそう言いながら右手に持つ斧槍(ハルバード)を軽く振るうと、エビルモークドラゴンに向かって突撃を開始した。

 唯々真っ直ぐに、愚っ直なまでに。


「・・・・・・ッ!」


 そんな私の行動に気付いたエビルモークドラゴンは、まるで「馬鹿が来た・・・」と言いたげに目を細めた。

 おそらく特攻でもするかの様に突っ込んでくる私の姿を見て、考えなしの愚か者だとでも思ったのだろう。鼻を鳴らしたかのドラゴンは、億劫そうにこちらを迎え撃とうと体を動かす。


「まずは確認のための一当てだ」


 私はエビルモークドラゴンへ向けて走る最中に、アイテムボックスの入口である黒い穴を自身の左側に出現させ、その中に左腕を突っ込んでとあるアイテムを取り出した。

 それは『投合用短槍』という、灰色の杭の様な形をした長さが短めの槍であった。

 これは『カオスゲート・オンライン』で私がよく使っていた遠距離用武器の一つで、本来は使い捨て用の投げ槍として使う事を目的に作った物だったのだが、鉄七割、ミスリル二割、オリハルコン一割の配合で混ぜ合わされて作られていることもあって、使い捨てとは思えない程に頑丈であり、またミスリルの特性から魔法媒体としても使える代物だ。


「ふんっ・・・!!」


 その短槍を順手で持った私は、一瞬足を止めてから、それをエビルモークドラゴン目掛けて突き投げた。

 私の手から投げられた短槍は音速を軽々と突破し、エビルモークドラゴンの長い首へ向けて直進していく。

 そして、そのまま突き刺さるかと思われた瞬間―――ガキンッ!という音を立てながら短槍が弾かれた。まるで何かに阻まれたかのように。


「・・・・・・!」


「ちっ!やはり弾かれたか・・・!」


 その様子を目にした私は、エビルモークドラゴンの首を覆うように出現した、六角形の形をした透明感のある紫色の壁の様なモノを確認して、思わず舌打ちをした。


「・・・・・・ガアァァァッ!!」


「・・・ッ!」


 ポリポリと短槍が当たった部分を痒そうに掻いたエビルモークドラゴンは、フンッと鼻を鳴らすと、周囲を走り回っている私に向けて前足の鋭い爪を振り下ろして来た。


「ハッ・・・!」


「グルゥゥゥッ!!」


「チィッ・・・!」


 その一撃を跳び上がって回避した私であったが、そこに更なる追撃が迫る。

 空中に跳び上がった私に向けてエビルモークドラゴンが自身の尻尾を横薙ぎに振るってきたのだ。


「ふっ・・・!」


 間にある木々を薙ぎ倒し、ゴウッ!と音を立てながら迫り来るそれを目にした私は、《空歩》―――”足下に(オーラ)を集中させて一時的な足場にする”という戦技を発動し、更に上空へと跳んで回避する。


「せぇいっ!」


 そしてエビルモークドラゴンの直上まで跳んだ私は上下逆さまの体勢となり、そこで再び 《空歩》を発動して跳び、私の姿を見失って辺りを見回していると思われるエビルモークドラゴンの頭頂部へ向けて斧槍(ハルバード)による一撃を叩き込んだ。


「グゥッ・・・!?」


「くっ・・・!硬い・・・!?」


 私の一撃を受け、その衝撃によって下を向くエビルモークドラゴンの頭。

 しかしその体表に―――どころか、鱗の一枚にすら傷が付く事はなかった。またもや現れた紫色の障壁が私の一撃を防いだのだ。


「グラァァッ!」


「・・・ぐぅッ!」


 その一撃を受けた事で己の頭上に私がいる事に気付いたのだろう。頭を傾けたエビルモークドラゴンは片目を頭上へ向けて私の姿を視界に捉えると、右腕による裏拳染みた横薙ぎの一撃を振るってきた。

 それを両手で構えた斧槍(ハルバード)で受けた私は、そこを基点に体を回転させ、振るわれるエビルモークドラゴンの腕の下を(くぐ)る様にして回避する。


「ガァフッ!」


 自身の攻撃が躱された事に気付いたエビルモークドラゴンはその顔を不快気に歪ませながら、未だ空中にいる私に向けて火球型のブレスを放ってきた。


「《スラッシュ》!」


 ゴウゴウと燃え盛りながらこちらへ向かって飛んで来る火球。

 それを目にした私は、斧槍(ハルバード)を構えると戦技を発動。斧槍(ハルバード)を縦に振り下ろし、赤雷の如く迸る巨大な(オーラ)の斬撃を放って、迫り来る火球を真っ二つに切り裂いた。

 左右に分かたれた火球は、そのまま私の横を通り過ぎて後ろへと流れていき、そして地面に着弾すると爆発を起こして周辺の森をその業火でもって焼き払っていく。


「もう一発!《スラッシュ》!」


 ビュオンッ!ガキンッ!!


「グルゥッ!?」


「チッ・・・!やはり【邪神の加護】を持っていたか・・・どうやら効果自体は私の知っているモノと同じみたいだが、相変わらず厄介な・・・!」


 それを尻目に地面に着地した私は、エビルモークドラゴンの顎下に向けて再び《スラッシュ》を放つが、しかし先程と同様に展開された六角形の形をした紫の障壁に阻まれてしまい、小さな傷一つすら付けられず頭をかち上げるだけとなった事に私は舌打ちをした。

 私が発動した《スラッシュ》という戦技は、”対象に向けて斬撃を放つ”という技だ。【片手剣】というスキルで最初に習得できる技であり、その威力はお世辞にもあまり高くはない。

 だが、そんな技でも高いステータス値を持つ私が放てば威力は相応に底上げされる。具体的には、少し前に遭遇したタイラントボア程度であれば軽く真っ二つにしてしまえるくらいには。

 けれど、その底上げされた一撃を持ってしてもダメージを与えられなかった。その原因が、『邪神の僕』という称号持ちであれば必ずといって言いほど取得している【邪神の加護】というスキルの効果によるものだということを私は知っていた。

 【邪神の加護】とは特殊スキルに分類されるスキルであり、その効果は二つあって、一つは”『VIT(物理防御力)』と『MND(魔法防御力)』の数値以下の攻撃を無効化する”というもの。そしてもう一つが、”相手からの攻撃ダメージを半分に抑える”というもの。

 つまり、このスキルを持っている相手にダメージを与えるためには、最低でも相手の保有ステータス値のニ倍以上のダメージを出さなければならないということ。そんな、思わず頭おかしいと言いたくなる程に高い防御性能を持つスキルが存在することを初めて知った時には、私も「冗談でも笑えない」と思わず頬を引き攣らせた程だし、当然と言うべきか、過去にそのスキルに関してプレイヤー側からの抗議が運営に殺到したことがあった。

 結果として、運営側もこのスキルは流石に理不尽過ぎるとでも思っていたからなのか、表面上は「仕様です」と答えて訴えを全く取り合おうとはしなかったものの、後のアップデートで【邪神の加護】のスキルを持つ存在は”状態異常による効果及びスリップダメージが二倍になる”というデメリット効果が付け足されるという処置が施された。

 ・・・まあ、実際には攻略手段が増えたというだけで、元々の理不尽さはなんら変わりはしなかったのだが。


「さて、どう攻略するか・・・・・・」


 そうして【邪神の加護】の詳細を思い出していた私は、ポツリとそう呟いた。

 現状、私が選べる戦法は二つある。一つは状態異常の付与を中心とした持久戦。もう一つは防御力とスキルの効果を超える攻撃を行うゴリ押し戦だ。

 前者は【邪神の加護】持ちを相手にするならばオーソドックスな戦い方だ。通常攻撃ではまともなダメージを与える事が出来ないのだから、スキルのデメリットを利用する事は間違いではない。

 ・・・がしかし、実はこの戦法には一つ穴があったりする。

 それはエビルモークドラゴンの状態異常耐性の有無だ。状態異常に掛かるかどうかの確率は個体の持つ耐性レベルによって左右されており、また『カオスゲート・オンライン』ではこの耐性レベルに種族ごとの上限が存在していた。

 その中でもエビルモークドラゴンが属する竜種(ドラゴン)と呼ばれる種族は、基本的に全ての状態異常を()()()()()で弾くくらいには状態異常耐性のレベルが高い。故に状態異常を主軸にした戦法はあまり有効とは言えないだろう。


「(ついでに言えば此処は異世界だから、そのデメリットがこの世界のレイドボスにも適応されているとは限らない。・・・・・・というか、どちらかと言うとそっちの可能性の方が高い)」


 ・・・であれば、残る戦法は唯一つ。


「―――アイツの防御力を超える威力の一撃を叩き出して、力づくでブチ抜けばいい・・・!!」


 自身が取るべき戦法を決めた私は、再びエビルモークドラゴンに向けて突撃を開始する。

 私が選んだ戦法は後者、所謂脳筋的なそれであり、普通なら「本当にそんな事ができるのか?」という疑問が出て来るものだろう。

 がしかし、その疑問に対して私は「できる」と答えられる。

 方法は簡単だ。それが出来るくらいに、()()()()()()()()()()()()


「《パワーアップ》・・・《鬼神化》・・・《渾身の一撃》!」


”『STR(物理攻撃力)』を上昇させる”という魔技と、”全ステータスを一・五倍に上昇させる”という戦技を発動し、更にそれに加えて”一撃のみ攻撃の威力を二倍に上げる”という戦技も発動する。

 それにより、炎の様に立ち昇る海よりも深い色合いの青い魔力(マナ)が私の全身を薄く包み込み、更にその上から赤雷の如く迸る(オーラ)も纏われていく。


「(―――ぐッ・・・!?なるほど、これが強化(バフ)系の技が掛かった時の感覚か・・・!自分の体がまるで暴れ馬にでもなったかのように感じるな・・・!)」


 発動した強化(バフ)系の魔技と戦技の効果が問題なく自身に付与されたことを確認した瞬間、私は全身から生じ始めた痛みに顔を顰めた。

 正直に言えば、戦技と魔技のコントロールについては未だ不安な部分があった。現に、キチンとコントロールができていない所為でか、強化(バフ)系の技を掛けた時に掛かる自身の体への負荷がかなり強い。それはまるで全身が蛇のような何かに締め上げられているかのようであり、同時に内側から湧き上がる力によって体がバラバラになりそうだとも思える感覚だ。

 本音を言えばかなりキツイ。だが、眼前の敵は強大で、その防御力は堅牢だ。生半可な攻撃では通じはしないだろうし、そんなのと戦って勝利する為には自身の強化が必須だ。

 唯一ありがたいと思えるのは、エビルモークドラゴン相手であれば全力を出しても問題ない事だろうか。今まで遭遇した魔物達はどれもこれも自身より遥かに弱く、また攻撃の威力調整もする必要があったので色々と苦心する羽目になっていたが、しかしかのドラゴンであればそんな気を遣う必要は無い。

 思う存分に力を振るえる。そう思った私は口元に薄らとした笑みを浮かべ、自身の胸に高揚感の様なモノを抱きながら、エビルモークドラゴンに飛び掛かった。


「はあぁぁぁーっ!《ギガインパクト》ッ!!」


 硬い鱗に覆われたエビルモークドラゴンの胸元へ向けて、赤雷の如く迸る(オーラ)が纏われた斧槍(ハルバード)を全力で振るう。

 私が発動した《ギガインパクト》という戦技は”相手に超強力な打撃と衝撃波を叩き込む”という技であり、低ステータスであっても一万前後の『HP(生命力)』を一気に消し飛ばす事が可能な、【斧】スキルで習得できる戦技の中でも最高威力を誇るものの一つだ。

 しかも、事前に発動していた強化(バフ)系の技の効果が上乗せされた事によって、元々の威力を超えて更に強力な一撃となったそれは、エビルモークドラゴンの胸元に当たった瞬間に出現した紫色の障壁を破壊し、紫色の水晶の様な輝きを放つ胸元の鱗を爆砕して、内側の肉が露出する程のダメージを与えた。


「―――ギョォォウオォォッ!?!?」


 《ギガインパクト》の一撃を受けたエビルモークドラゴンは堪らず悲鳴を上げ、片手で胸元を押さえながら一歩二歩と地響きを立てながら後退る。

 おそらく自身の防御力を突破されるとは思ってもいなかったのだろう。動揺に揺れる瞳と、痛みに歪ませたその顔は、初めに浮かべていた表情と比べて全くと言っていいほど余裕が感じられないものだった。


「よし、効いたな・・・!なら、このままもう一撃を・・・ッ!?」


「ギャァァアアアッ!?」


 そんなエビルモークドラゴンの姿を目にした私は、口元に笑みを浮かべながら地面に着地し、再び攻撃を繰り出そうと斧槍(ハルバード)を構え直す。

 だがしかし、その瞬間にエビルモークドラゴンがこちらの動きを妨害しようと両腕を振り回してきた。


「チィッ・・・!」


 腕が振り回される度に発生する暴風によって動きを阻害された私は、一度追撃を中断して後ろへと跳び退く。


「グルゥゥァアアアッーー!!」


「なにっ・・・!?」


 そこへ、まるで逃がしはしないとでも言うかのようにエビルモークドラゴンが腕を伸ばしてきた。

 振るう勢いのままに伸ばされたその腕は、あっと言う間に私とエビルモークドラゴンとの間にあった距離を縮め、こちらに届かんと迫る。


「食らって、やるものか・・・!!」


 いくら私のステータスがカンストしていると言っても、あんな質量兵器と呼んでも差し支えない一撃を食らおうものなら、少なくないダメージを受ける事は免れない。

 故に私は、エビルモークドラゴンの腕が眼前にまで近づいて来た瞬間に《空歩》を発動。体を回転させつつ上へと跳び上がってその一撃を回避した。

 そして、そのままエビルモークドラゴンの腕の上に着地した後、そこを足場にかのドラゴンの頭を目指して駆け登り始めた。


「グ、グルゥッ・・・!?グ、アァァッ・・・!!」


 そんな私の姿を目にしたエビルモークドラゴンは困った様子を見せた。どうやら自分の腕を足場にされるとは思ってもみなかったらしい。

 エビルモークドラゴンは若干の戸惑いを見せながらも、自身の腕を駆け登ってくる私を払い落とそうと、ブオンブオンと腕を振り回す。

 しかし、その動きに対して私は、かのドラゴンの腕の所々にある棘の様に出っ張っている部分に、手足や尻尾を引っ掛けるなどして振り落とされないように堪える。

 一向に落ちない私の姿を見たエビルモークドラゴンは、ならばともう片方の腕を振り上げ、こちらを叩き潰さんと振り下ろしてきた。

 迫り来るその腕を目にした私は、その一撃を回避しようと足場としていた腕を蹴って跳躍。空中へ跳んだ後はそのまま体を回転させ、かのドラゴンの左肩目掛けて斧槍(ハルバード)を大きく振り被った。


「《渾身の一撃》!《ギガインパクト》!!―――シィィィヤァァッ!!」


 全力で振るわれる斧槍(ハルバード)の一撃。勿論、戦技も発動しながらだ。

 その一撃を受けたエビルモークドラゴンの左肩は、胸元の鱗が破壊された時と同じように爆砕し、内側の肉が露出した。


「ギャァァァアアアッ!?」


 堪らず悲鳴を上げるエビルモークドラゴン。

 左肩を右手で押さえたかのドラゴンは、再び一歩二歩と後退ると、痛みに歪めたその顔を俯かせた。


「グッ・・・グゥゥッ・・・!?」


 左肩を右手で押さえながら痛みに呻くエビルモークドラゴン。

 その両目は血走り、自身の目の前で地面へ降りようとしているフェルヌスへと向けられていた。

 だが、その瞳に浮かばせている感情は、怒りよりも恐怖の色を強く滲ませていた。

 何故エビルモークドラゴンが恐怖を感じているのかと言えば、それはかのドラゴンのこれまでの半生が関係していた。

 なにせ、エビルモークドラゴンは持ち前の高い『VIT(物理防御力)』と【邪神の加護】の効果によってダメージを与えられると言う経験をした事がなかった。。生み出されてから今に至るまで己の体を傷付けられる存在に出会ったことなど一度もなかったのだ。

 だからこそ、最初はフェルヌスの事も矮小で格下の存在だと認識していた。そんな存在からの攻撃なんかで自身の体が傷つくわけがないと高を括っていたのだ。

 だがしかし、その格下だと思っていた者の一撃によって無敵だと思っていた己の体が傷付けられた。

 生まれて始めて痛みと言う刺激を与えられたエビルモークドラゴンは、その事に驚き恐怖したのだ。


「ゥゥゥッ・・・!」


 ジクジクと、ズキズキと、痛みを訴える胸元と左肩。その痛みは次第に熱さへと変わっていき、焼けつくような感覚がエビルモークドラゴンを苛ませる。

 だが同時に、その熱がかのドラゴンの胸中に怒りの感情を湧き上がらせた。

 「よくも我が体を傷つけてくれたな」と。

 「よくも痛みという屈辱を与えてくれたな」と。

 頭に血を登らせたエビルモークドラゴンはフェルヌスを睨みつけると、己の体内に魔力(マナ)を溜め込み始めた。


「ガアアァァァッーーー!!」


 そして、力強い咆哮と共に体の中に溜め込んだ魔力(マナ)を活性化させ、次の瞬間にはエビルモークドラゴンを中心として青いエネルギー状のドームが展開された。

 エビルモークドラゴンが発動したのは《魔力爆発》―――”体内に溜めた魔力(マナ)を爆発させて周囲一帯に魔力障壁と衝撃波を短時間発生させる”という魔技だ。【魔力操作】というスキルで早期に習得できる技で、副次効果として物理攻撃や魔法攻撃を防ぐ壁としても使用可能であり、熟練度レベルによって展開できる範囲と衝撃波の威力が変わるようになっている。

 だがしかし、エビルモークドラゴンの【魔力操作】の熟練度レベルはあまり高いものではない為、展開可能な範囲はそう広くはなく、衝撃波の威力も精々相手の動きを阻害する程度。だがそれでも、未だ空中にいるフェルヌスを吹き飛ばすには十分だろうと考えたエビルモークドラゴンは、魔力(マナ)を更に活性化させた。


「グゥアァァァッ!!」


 エビルモークドラゴンの咆哮に合わせて物凄い勢いで広がって行く魔力障壁。それと同時に、発生する衝撃波が周囲にあるモノ全てをまるで押し出すように吹き飛ばしていく。

 そして、それは当然フェルヌスの下まで届き―――


「―――《スパイラルチャージ》!」


「グフゥ・・・!?」


 ―――だがその魔力障壁と衝撃波を、フェルヌスは《スパイラルチャージ》―――”武器の切っ先を基点に使用者の全身を包む様に(オーラ)の膜を張り、さらにそれを渦巻かせながら突撃する”という戦技でもって抉り、貫いた。


「ガアァッ・・・!?」


 まさかそんな方法で自身が発動した《魔力爆発》が防がれ、突破されるとは思ってもみなかったエビルモークドラゴンは、驚愕し、その体を硬直させた。

 ―――そしてその隙を、フェルヌスは見逃しはしなかった。


「《空歩》!《渾身の一撃》!そしてもう一発食らえっ・・・!《ギガインパクトォォ》ッ!!」


「ガァッ!?グブフゥッ・・・!?」


 三度(みたび)振るわれるフェルヌスの斧槍(ハルバード)。《ギガインパクト》も乗せられたその一撃は、当然の様に展開された紫色の障壁を破壊し、そしてエビルモークドラゴンの顔面右側を強かに打ち払い、その部分を覆っていた鱗を粉砕した。


「ガ、ガァァアアアッ・・・!」


 その一撃を受けてゆっくりと体を傾かせるエビルモークドラゴン。

 だがそこで、「やられっ放しは己のプライドが許せない・・・!」とでも言わんばかりの咆哮を上げたかのドラゴンは、捻るように自身の体をグルンッと回すと、自身の尻尾をフェルヌスに向けて勢いよく振り回した。


「ぐっ・・・!?」


 その反撃の一撃は、咄嗟に防御の為に構えられた斧槍(ハルバード)によって防がれるが、しかしその衝撃までは殺し切れなかったらしく、フェルヌスの体はエビルモークドラゴンの尻尾に押されるような形で吹き飛んで行った。


「コォォォッ・・・・・・!ガァアアアァァァッーーー!!!」


 遠くへと吹き飛んでいくフェルヌスの姿を目にしたエビルモークドラゴンは、背中に生えている己が翼を羽ばたかせ、飛び上がる。

 そして、空中での側転宙返りというその巨体に見合わない身軽さを発揮すると、逆さまの体勢のままフェルヌスが吹き飛んで行った方向へと顔を向け、その口から合計七発の追撃の火球を発射した。








「チッ!?《マジックアーマー》!」


 エビルモークドラゴンが放った尻尾の一撃を防ぐ事はできたものの、しかしその衝撃までは殺す事ができずに吹き飛ばされていた私は、自身に向かって飛んで来る追撃として放たれた複数の火球を目にした瞬間、反射的に防御系の技を発動した。

 《マジックアーマー》とは、〝肉体表面に魔力障壁を纏わせ、魔技による攻撃のダメージを減退させる”という魔技であり、それを発動したのは火球によるダメージを防ぐ為―――というわけではなく、火球を受けた際に発生する衝撃を緩和させる為であった。

 あの程度の火球なら、素の状態のままで受けたとしても大したダメージになりはしない。しかし、今私がいる場所は踏ん張ることができない空中だ。加えて、吹き飛ばされている影響で体勢も崩されてしまっている。この状況で更に火球による衝撃を受けようものなら、着地すらままならなくなってしまうことだろう。

 だからこそ私は、敢えて魔技の攻撃による衝撃を緩和させるという副次効果のある《マジックアーマー》を発動したのだ。


「ぐっ・・・!づぅっ・・・!?―――でえぇぇぇいっ!!」


 最初の二発は体勢を整える前に来てしまったのでそのまま受けるしかなかったが、しかし残りの五発に関しては斧槍(ハルバード)を振るって切り裂いたり、砕いたり、時には弾き飛ばすなどをして迎撃する。


「くっ・・・!あのドラゴン、空中一回転からの連続火球発射とか、なんて器用な真似を・・・!」


 火球による追撃を防いだ私は、クルクルと体を回転させながら地面に着地した後で、感心と呆れの感情が混じった呟きを零す。


「よくもまあ、あれ程の巨体で、あんな曲芸染みた事ができたものだな―――ッ!?斬撃ッ!?」


 そこへ、エビルモークドラゴンからの更なる追撃が飛んで来た。

 それは赤雷の如く迸る赤色の(オーラ)を纏った複数の黒い斬撃であり、途中に乱立している木々を切り飛ばしながら自身に向かって飛んで来るそれの正体が何なのか気付いた私は思わず舌打ちをした。


「《ネイルショット》・・・!しかも闇属性を付与した奴か・・・!」


 《ネイルショット》とは”一定確率で”出血”の状態異常を付与させる斬撃を爪先から飛ばす”という戦技であり、【徒手空拳】のスキルで覚えられる遠距離攻撃技の一つだ。その威力はお世辞にも高いとは言えないが、しかし時間経過と共に最大『HP(生命力)』が減らされていく”出血”という状態異常が厄介であり、しかもそれに加えて闇属性を付与する技―――おそらくだが、”状態異常の付与成功率と効果を上げる”という魔技である《ダークウェポン》も使用しているのだろう。この二つの技は組み合わせとしてはかなり相性が良く、しかしそれ故に受ける側からすればただただ面倒でしかない。


「ふっ・・・!はっ・・・!」


 流石にそんな攻撃を受けるわけにはいかないと思った私は、次々と飛来してくる《ネイルショット》を斧槍(ハルバード)でもって切り裂いたり弾き飛ばすなどして迎撃していく。

 殴る蹴るでの迎撃は自粛だ。直接触れでもしたらその時点で”出血”の効果が発動しかねないからだ。


「これで、最後・・・!」


 最後の《ネイルショット》を弾き飛ばした私は「フゥ・・・」と一息吐きながら、視線をエビルモークドラゴンへと向けた。

 それはエビルモークドラゴンが放ってくるであろう次なる攻撃を警戒しての行動だったのだが、しかしそこで何かがおかしい事に私は気付いた。


「・・・ッ?」


 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 その事に気付いた私は、かのドラゴンがいったい何処を見ているのかとその視線を辿り、そして驚きに目を見開いた。


「アルク・・・!?」


 そこには、顔色を真っ青にさせながら地面に尻餅をついているアルクの姿があった。

 しかも再びエビルモークドラゴンに視線を向ければ、口内に大量のエネルギーを収束させている様子が見えた。

 半開きの口から覗かせる黒い炎。それはブラッドグリズリーを焼失させる際に使っていたブレスであり、おそらくはそれをアルクにも放とうとしているのだろう。

 その事に気付いた私は思わず舌打ちをした。


「アイツ、倒せない私を後回しにして先にアルクを殺すつもりか・・・!?」


 エビルモークドラゴンの思惑に気付いた私は、内心で「ドラゴンの癖になんて下種(ゲス)な事を考える奴だ・・・!?」と思いながら歯軋りをしつつ、急ぎアルクを守るために駆け出した。





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