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第1章第10話 ~来襲する者達~



 僕がフェルヌスさんに自身の過去を語った夜から明けて翌日。僕達は『始まりの森』の探索を再開していた。

 ・・・ただし、その隊列の並びは昨日とは違っていたが。

 昨日はフェルヌスさんが先頭を歩き、その後ろを僕が付いて行くという配置だったが、今日は僕が先頭を歩き、その後ろをフェルヌスさんが付いて行くという逆の配置だ。

 何故昨日と隊列の並びを変えたのかと言えば、それは僕が自分から先頭を歩きたいとフェルヌスさんにお願いしたからだ。

 最初、僕の頼みを聞いた彼女は渋る様子を見せていた。何故なら、隊列の先頭というのは魔物や襲撃者といった敵性存在に真っ先に狙われ、襲われやすいが為に危険であるからだ。彼女としては僕が先頭に立って歩くよりも、自分が前に出た方が安全面という点では色んな意味で良いと考えているからだろう。

 しかしそれでもと、危険は承知の上でお願いしますと僕は頼んだ。それは何故かと言うと―――


「(・・・・・・抱き締められて慰められるとか。何それ恥ずかしい!本当に恥ずかしい!!しかもあんなにみっともなく泣くなんて、もっと恥ずかしい!?)」


 ―――といった感じに、昨日の夜にフェルヌスさんが優しい表情を浮かべながら僕の事を抱き締めたり、ゆっくりと僕の頭を撫でてくれたのを思い出して、恥ずかしさやら嬉しさやらで顔を真っ赤にさせているのを彼女に見られたくなかったからだ。

 特に、泣き疲れて眠ってしまった後に目を覚ましたらベッドの上で彼女の腕の中に自分がいたという事実が、幼いながらも持っていた男としてのプライドをギシギシと軋ませた。

 それはもう七転八倒(しちてんばっとう)の如くと言うか、悶絶甓地(もんぜつびゃくじ)の如くと言うか、それくらい恥ずかしさの悶絶地獄に内心陥っており、フェルヌスさんの顔を満足に見る事ができずに悶えていたのだ。

 けれど、それと同時に僕は、どこか胸の内が不思議とスッキリとした気分になっているのを感じていた。

 おそらく、ずっと心の内に押し込めて我慢していた気持ちを感情のままに口にしたことで、一種の解放感に近いものを感じているのだろう。

 そう自分で自分の心の内を推察した僕は、話を聞いてくれたフェルヌスさんに対して感謝の念を抱き・・・・・・まあ、それはそれとして、別に羞恥心が消え去ったわけではないので、実際に彼女と顔を合わせた時は全くと言っていい程目を合わせられなくて、隊列の変更を頼む時も土下座する勢いで頭を下げまくっていたのだが。

 そんな、何処か必死さも感じられる僕の様子にフェルヌスさんは多少悩みはしたものの、「しょうがないなぁ・・・分かったよ。まあ、私のスキルを使って周囲を警戒すれば問題ないだろう」と渋々、本当に渋々、僕が先頭を歩く事を認めてくれたのである。

 その時は心の底からありがとうと言いたかった。・・・・・・まあ、理由が理由なので口には出せなかったが。

 そうして、森の中を歩きながら両手で頬を押さえつつ、「あああああっ・・・!」と小声で叫んでいた僕だったが、ふとそこで、そう言えば、といった感じに内心で呟いた。


「(・・・そう言えば、村を出てから誰かにこんなに優しくされた事なんて、あんまりなかったっけ)」


 そう呟きながら、僕は自分の後ろを歩くフェルヌスさんに肩越しに視線だけを向ける。

 僕にとって彼女は、危ないところを助けてくれた、命を救ってくれた恩人だ。本来、僕と彼女の関係性は何にもない、ただ偶然出会っただけの間柄であり、その気になれば彼女は何時でも僕の事を見捨てる事ができた筈なのだ。

 だけど、フェルヌスさんはそんな事はしなかった。それどころか、逆に僕の事を心配して気に掛けてくれていた。

 彼女のその姿勢と態度は、これまで自分が出会ってきた冒険者達とは本当に違っていて、だからこそ最初に彼女に抱いていた疑念なんてものは、今ではとっくのとうに消えていた。


「(あの人の体、柔らかかったなぁ・・・それにいい匂いもしていたし・・・誰かに抱き締められることなんて、どれくらいぶりだったっけ・・・?)」


 フェルヌスさんの姿を肩越しに見ながら考え事をしていた僕だったが、ふいに視線が彼女の胸元へと向かい、そこでふと彼女に抱きしめられた時の事を思い出した。

 最初、フェルヌスさんに抱き締められた時は【危険感知】の影響で恐怖の感情しか感じられなかった。でも、ほぼ同時に耳に聞こえてきた彼女の歌によってそれは落ち着いていき、次第に彼女の体から立ち昇る女の子特有の甘い匂いと、心地良ささえ感じる温もりに安心して身を委ねていったのを覚えている。

 また、それによって心に余裕が出来た事で、僕は五年前の―――故郷の村を旅立つ時に見送りの為に来てくれた母親に、優しげに、愛しげに、でもどこか寂しそうに抱き締められた時の事を思い出し、それが昨日の夜のフェルヌスさんの姿と重なって見えた気がした。


「(まあ、飽く迄そう見えるってだけなんだけども。見た目も性格も全然違うし。どちらかと言えば、頼れるお姉さんといった感じじゃないかなと思う。故郷の村にもそういう感じの人はいたし、僕が感じていたフェルヌスさんとのイメージともピッタリ合いそうだ)」


 しかしそうなると、あの夜に自分がフェルヌスさんに抱き締められる姿は、姉に甘える弟という構図に見えなくもないだろうか?

 そう思った僕は、先程とは違った意味での恥ずかしさを覚えて、頬を赤く染めた。








「(ああ、あんなに恥ずかしそうに悶えちゃって、可愛いなぁ、アルクは・・・!)」


 私は、自分の前を歩いているアルクの表情が、恥ずかしがったり懐かしがったりとコロコロ変わり、悶えている様を見て、内心で可愛いと思いながら微笑ましそうに頬を緩めていた。


「(今の彼の様子を例えるとすれば、ワタワタしている小動物といった感じだろうか。可愛いもの―――特に小動物系が好きな私としては、思わず頬が緩んでしまうな。・・・・・・まあ、ここがもっと安全な場所だったら、もうちょっと落ち着いて見ていられるんだがなぁ)」


 そんな感じに表面上では穏やかな雰囲気を纏っていた私であったが、その裏では索敵系のスキルを使用して周囲の警戒を行っていた。

 そしてその警戒網に今、何らかの敵性存在が入って来た事を察知した私は、残念そうに溜め息を吐いた。


「―――ッ!」


 アルクもまた何かがこちらへと近づいてくるのを察知したのだろう。彼は前方斜め右の方向に視線を向けると、少し腰を落としながら身構えた。

 ―――その瞬間だった。鬱蒼(うっそう)と茂る森の木々の間から巨大な生物が姿を現したのは。


「シャァァアアアアーーーッ!!」


 私達の目の前に現れたのは、鮮やかに光を反射する緑色の鱗を持つ人間の一人や二人くらいは軽く飲み込めそうな巨体を持つ大蛇であった。

 その姿形は、もし地球の動物に詳しい人物がいればアナコンダという大型蛇に似ていると評していただろう。大蛇は私達の前に出てくると、鎌首をもたげて威嚇するように口を開いて牙を見せた。


「なっ!?ヴェノムスネーク!?」


 その大蛇の姿を目にしたアルクは驚きの声を上げた。その様子を見るに、どうやら彼も目の前の大蛇の正体が何なのか知っているようだ。

 『ヴェノムスネーク』。それがこの大蛇の名前であり、私の知る限りでは『カオスゲート・オンライン』にも存在していたそこそこ有名で強力な魔物(モンスター)であった。

 緑色に輝く鱗は鋼の如き硬さを持ち、上顎から伸びる刃を思わせる鋭そうな牙はその予想に違わず分厚い鎧ごと対象の肉を貫き、その牙から滴り落ちる強い酸性を感じさせる猛毒は鋼鉄すらも溶かし崩す。また、体の大きさはどれだけ長く生きているかで異なり、その太さも約一m~三m、全長は約二十m~三十m程までになる。しかも、その巨体に似合わず意外と俊敏に動けるので、大きさによってはファンタジーでも有名どころのドラゴン並みにまで強くなるポテンシャルを持っていたりする。

 そんな魔物が目の前に姿を現した事に私は警戒心を抱きながらも、同時に呆れとも感心ともつかない溜め息を吐いた。


「(しっかし、オークやゴブリンといい、こうも私が見知っている魔物(モンスター)が出てくると、本当にこの世界は異世界なのかと怪しく思えてならんな)」


 「実はこの世界って異世界とかじゃなくて、システムとかが色々とアップデートされた『カオスゲート・オンライン』の世界なんじゃ・・・」なんて呟きが思わず漏れてしまったが、しかしそんな戦意に乏しい態度は、自身の近くにいるアルクの姿を目にして改める事にした。


「ま、まさかこの森にヴェノムスネークが生息していたなんて・・・!?ど、どうします、フェルヌスさん・・・!アイツの目を掻い潜って逃げる方法を、何か思い付きますか・・・!?」


 アルクはヴェノムスネークの姿を目にして怯えていた。その様はまるで蛇に睨まれた小動物の様であったが、彼は体を震えさせながらも、どうにかして逃げる方法を探していたようであった。

 そんなアルクの姿を目にした私は「ふむ・・・」と呟くと、悠々とヴェノムスネークに向かって歩き出していた。


「いや、別に逃げる必要はないぞ、アルク。この程度なら片手間で三枚に卸せる」


「―――えっ?」


 そんな「ちょっと魚を三枚に卸してくる」といった感じのノリでアルクの前に出た私は、左手を緩く開き、その指の骨をゴキリッと鳴らす。


「・・・ッ!ちょっ、フェルヌスさん待って!?」


 最初「何を言っているんだ、この人は・・・!?」といった感じに呆然と見ているだけだったアルクは、しかしすぐにハッと我に返ると、ヴェノムスネークに向かって歩みを進める私を止めようと叫んだ。

 だがしかし、その時既に私がいた場所はヴェノムスネークの目の前―――相手の攻撃範囲(キルゾーン)の中。そして次の瞬間には、私に向かってヴェノムスネークが攻撃を開始した。


「シャァァアアア!!」


 鎌首をもたげたヴェノムスネークはググッと体に力を込めた後、一瞬で私の眼前にまで急接近し、こちらを丸飲みにしようと大きく口を開けた。


「フンッ・・・!」


 そして、そんなヴェノムスネークの行動に対して、私は戦技を発動する事で対応した。

 赤雷の如き(オーラ)が纏われた左手。それを、まるで邪魔な木の枝でも払うかの様に無造作に振るった瞬間、(オーラ)が左手の五指に集中、収束し、鋭い爪の様に尖っている手甲の指先から真っ赤な斬撃が放たれた。


「―――ッ!?!?シャッ・・・!?」


 その斬撃を食らったヴェノムスネークの体は、一瞬の内にバラバラに切り裂かれた。

 断末魔の悲鳴を上げる瞬間、ヴェノムスネークが浮かべていた表情はまるで「いったい何が起こったんだ!?」とでも言いたげなものに見えた気がした。


「・・・・・・はっ?・・・え?そんな・・・うそ・・・あ、あのヴェノムスネークが一撃で、一撃で倒されるなんて・・・・・・!?」


 そして、その光景を私の後ろで見ていたアルクもまた、「いったい何が起こったんだ!?」と言いたげな表情を浮かべており、その驚愕の視線は、今やバラバラとなり、地面の上に転がっているヴェノムスネークの肉片へと注がれていた。


「・・・ふむ。まあ、こんなものか」


 「なぁにこれぇ?」といった感じに唖然呆然となりながら頬を引き釣らせる様子のアルクを視界の端に納めながら、自分の左手をグーパーグーパーと握ったり開いたりしていた私は、ボソリとそう呟いた。

 先程私がヴェノムスネーク相手に発動したのは《オーラクロー》―――〝爪先から(オーラ)の斬撃を放つ〝という戦技だ。【徒手空拳】というスキルで覚えられる近中距離攻撃用の技の一つであり、技の威力自体はそこまで高いものではないが、しかしそれを高いステータスを保有している私が使えば尋常ではない威力が出ることは間違いなく、実際に鋼の如き硬さの鱗を持つヴェノムスネークの体を物ともせずにスパスパッと綺麗に切断した事から、その威力の程を証明していた。

 というか、あの程度の相手であれば別に戦技なんて使わずとも唯の拳の一撃だけで事足りていた。なのに何故、敢えて戦技を使ったのかと言えば―――それは自身の能力の検証の為であった。

 私はこの世界で目を覚ましたばかりの頃に魔物であるオークと遭遇し、戦闘を行ったのだが、その時に試しで発動した《パワーブロー》という戦技が、オークの体を挽肉に変えるだけでなく、周辺に存在していた森の木々も諸共に吹き飛ばすという事があった。

 本当ならオークを倒すだけで終わる筈だったその一撃が、どうしてそんな事態を起こしてしまったのか。その疑問に関して、私はある仮説を立てた。

 ―――”威力調整がされていなかったから”。それが私の立てた仮説だった。

 私が元々いた『カオスゲート・オンライン』はフルダイブ型MMORPGというゲームであり、当然のようにそれにはゲームシステムというルールが存在していた。そのゲームシステムが、プレイヤーが快適にゲームをプレイできる様に調整を施し、それが攻撃範囲を限定する調整も行っていたと仮定すれば、私が戦技を放った際に出た攻撃の余波が周辺の木々を吹き飛ばした理由にも一応の答えが出せる。

 まあ、発想そのものは簡単に思いつけそうなもので、妄想の類だとも言われかねないものでもあったが、だからこそ私は都合良く目の前に現れたヴェノムスネークを使って”手加減”を行えるのかという実験を行った。

 そして、その実験はある意味成功したと言えた。今回の事で、私が手加減をしようと意識しながら(オーラ)―――『STA』を変換して生成されるエネルギーの量を絞ることで威力の調節ができるという事が分かったからだ。

 ただし、攻撃範囲の調節については甘かったらしく、本来ならヴェノムスネークの頭部だけを切り裂くつもりであったのに、その全身をバラバラに切り裂いてしまったのだが。


「・・・・・・うん?」


 そうして、戦技についての考察行っていた私であったが、そこで自身の警戒網に新たな敵性存在が入ってきたのを察知した。

 どうやら今度は群れであるようで、それは物凄い勢いで私達の下へと向かって来ていた。


「「「「「グルルルルルルッ!」」」」」


「ブ、ブルーウルフ!?」


 おそらく、周囲に撒き散らされたヴェノムスネークの血肉の臭いを嗅ぎ付けて来たのだろう。私達の前に飛び出すように青白い毛皮を持つ狼の魔物の群れが草木の影から姿を現した。

 その名前はアルクが口にしたように『ブルーウルフ』と言い、水属性の魔法を使用してくる『カオスゲート・オンライン』では初期の頃から登場している魔物だ。単体の強さは普通の狼よりもちょっと強い程度だが、群れで出現した場合はテレパシーでも使っているのかと思える程の見事なコンビネーションを披露するようになり、油断しているとアッサリと全滅させられる危険性がある。さらに言えば、このブルーウルフという魔物は、()()()()の名で呼ばれるほどの厄介な特性も持っていたりする。


「気を付けて、フェルヌスさん!ブルーウルフの爪には強い麻痺毒があります!それに引っ掛かれれば体が動けなくなりますよ!」


 少しでも私の役に立ちたいとでも思ったのか、アルクがブルーウルフが持つ特性を口にする。

 そう。アルクの言う通り、ブルーウルフの爪には麻痺毒が存在する。『カオスゲート・オンライン』でも存在していたブルーウルフは、その両手足に麻痺毒が生成される極小の袋があり、獲物に爪を立てた時に、爪先にあるとても小さな穴を通して獲物の体内に麻痺毒を侵入させ、動けなくさせるのだ。

 所見殺しと言う名前も、その事を知らないプレイヤーが油断して麻痺させられ、ボコボコにされて死に戻りさせられることから付いた渾名(あだな)みたいなものである。

 ・・・とはいえ、私にとっては何ら驚異足り得ない、強さ的にも先程のヴェノムスネーク以下の雑魚なのだが。


「「「「「グルアァーーッ!」」」」」


「《百裂脚》!せいぃやっ!」


「「「「「キャィィィンッ!?」」」」」


 ―――なので、こいつ等で先程は失敗した攻撃範囲の調節を試してみる事にした。

 戦技を発動し、軽く持ち上げた左足に赤雷の如く迸る(オーラ)を纏わせる。そしてその足で、こちらに飛び掛かって来たブルーウルフ達へ向けて、目にも止まらない速さの連続蹴りを叩き込んだ。

 瞬く間に私の蹴りを全身に浴びたブルーウルフ達は、内側から爆発するかのように周辺に肉片をまき散らしながら一瞬で絶命した。


「よし・・・今度は上手く調節できたな」


 その後、周囲を見回してブルーウルフ達以外に技が当たったり、その余波を受けた様子が無いことを確認した私は、満足気に頷くのであった。








 襲い掛かって来たヴェノムスネークとブルーウルフの群れをフェルヌスさんが蹴散らした後、僕達は『始まりの森』の探索を再開―――できなかった。

 というのも、ヴェノムスネークとブルーウルフとの戦闘後、戦闘音か、もしくは辺りにばら撒かれた血肉に惹かれてか、どちらにせよそれが呼び水となったらしく、次々と魔物がやって来て襲い掛かって来たからだ。


 バキッ!バキバキバキッ!!


「ブッフウゥゥゥ!」


「『タイラントボア』!?どうしてこんなところに!?」


 荒い鼻息を上げつつ、幾つもの木々をなぎ倒しながら森の奥から姿を現したのは、僕達の背丈よりも何倍もの大きさの体を持つ大猪(おおいのしし)の姿をした魔物であり、その魔物の事を知っていた僕は驚きの声を上げた。

 『タイラントボア』。人間の数倍の大きさの体を持ち、口の両端から伸びている鋭く尖った牙と、全身を覆う毛の一本一本が鋼の如き硬さを誇っている魔物だ。なにより恐ろしいのはその強靭な肉体から繰り出される突進であり、魔物に関する情報が書かれた本や人伝に聞いた話だが、初速の状態から一気に最高速にまで加速してのその一撃は、受けた者の体をバラバラに粉砕してしまうという話は有名だ。


「気を付けてフェルヌスさん!こいつの毛皮はひどく頑丈で大抵の攻撃は効かない―――!」


 だからこそ僕は、フェルヌスさんにタイラントボアの危険性を教えようと声を掛けようとした。


「《パワーブロー》!」


「ブフグゥ!?」


「―――ん、だ・・・!?」


 ・・・のだがしかし、その時には既にフェルヌスさんはタイラントボアの下へ一瞬で接近し、その側面に回り込んで、がら空きの横腹に左拳の一発―――強烈なボディーブローを叩き込んでいた。

 ドゴンッ!と周囲に響く音。フェルヌスさんの一撃を受けたタイラントボアの巨体は九の字に曲がり、フワリと宙に浮く。


「もう一発・・・!フンッ!」


「ゴ、ゴフッ・・・・・・!?」


 そこへ更なる追撃として、顕わになった無防備な腹部に向けて今度は右拳を放った。

 一歩分前に踏み込んだ後に放たれる下から抉り込む様なアッパー。その追撃を受けたタイラントボアの体は、ドガボキグシャッ!という色々と生物の体から鳴っちゃいけないような音を響かせた後、ズシン・・・!という音を立てながら地面へと落ちて、口から大量の紫色の血を吐きながら絶命した。


「よし・・・!それで、今何を言おうとしたんだ、アルク?」


「・・・えっ!?う、ううん!な、何でもないですよ、フェルヌスさん・・・!!」


 タイラントボアを瞬殺して見せたフェルヌスさんは、一息吐いた後に僕に何を言おうとしていたのかを尋ねてくるが、それに対して僕は頬を若干引き攣らせながら、何でもないと首を横に振った。

 正確には、言おうとしたけど何も言えなくなった、というのが正しいだろう。なにせ、タイラントボアに関する事を言う前に、フェルヌスさんが倒してしまったからだ。


「そうか?・・・・・・ん?」


 ガサガサガサッ・・・!!


「シャァァァアアアアアーーーッ!!」


「こ、今度は、『アーマーセンチピード』・・・!?」


 そんな僕の様子を見て不思議そうに首を傾げていたフェルヌスさんだったが、そこでふと別方向に視線を向けた。

 その視線の先には、鋼の鎧を身に纏ったような甲殻を持つ人間大のムカデが木々の間を縫うようにして現れたところだった。

 『アーマーセンチピード』。虫の姿をした魔物の中でも特に硬い甲殻を持ち、多くの物理攻撃を簡単に弾いてしまうことから”アーマー”の名を付けられた大ムカデの姿をした魔物だ。攻撃力という点ではタイラントボアに劣るが、けれど硬さという点ではかの魔物以上という厄介極まりない存在である。


「シャアァッ!シャァァアアアッ!!」


「セイセイセイセイセイッ!」


「シャァァアアアッ・・・!?」


 ―――その厄介極まりない筈のアーマーセンチピードの体を、フェルヌスさんは近くの地面に突き刺していた斧槍(ハルバード)を手に持って連続で振るい、抵抗らしい抵抗を許さずに、数多ある節足と胴体の関節部を狙って瞬く間に両断したのだ。

 ゴロゴロと地面の上を転がるアーマーセンチピードの頭。その状態でもまだ息はあったらしく、ギチギチギチと(あご)を動かしていたが―――しかし、次の瞬間にはフェルヌスさんの足によってグシャリッ!と潰された。


「これで終わり、っと。・・・やれやれ、さっきまで影も形も見せなかった癖に、どうして急に襲い掛かって来たんだ、こいつ等は?・・・・・・む?また新手か。まったく、どれだけ来るんだか」


 アーマーセンチピードの頭を潰した後、頬を掻きながら思わずと言った風にポツリと呟いていたフェルヌスさんは、その後でまた新たな魔物が近づいてきているのを察知したのか、鋭く細めた両目を鬱蒼(うっそう)と生い茂っている森の中へと向け、斧槍(ハルバード)を持っていない右手の指をゴキリッと鳴らした。


「う、うわぁ・・・・・・!」


 それ以降もフェルヌスさんは、次々と現れる魔物達を一切の容赦なく、いっそ倒される側からすれば残酷に思える程、的確に倒していった。

 ・・・いや、あれはどちらかと言うと、処理している、と言った方がいいのかもしれない。そう言いたくなるくらいにフェルヌスさんは淡々と、迫り来る魔物達を重量感を感じさせる斧槍(ハルバード)を豪快に振り回して切り裂き、握り込んだ拳で粉微塵になるくらいに殴り潰し、縦横無尽に放たれる鋭い蹴りで吹き飛ばしていた。

 その様は、まさに鎧袖一触(がいしゅういっしょく)と呼ぶに相応しく、そのあまりの彼女の無双っぷりに、僕は思わず頬を引き攣らせながら一歩引いてしまった。


「(あの洞窟で複数のゴブリン達をたった一人で、しかもあっという間に倒したことから、フェルヌスさんの実力はかなりのものだと最初は思ってた。・・・でも、ヴェノムスネーク、タイラントボア、アーマーセンチピードといった、歴戦の冒険者であっても死を覚悟しなければならず、討伐する為には最低でも高位ランクの冒険者が十人前後は必要となる魔物すらも、傷一つ負うことなく、単独で、しかも圧倒的なまでに倒したとなれば話は変わる。

 その実力はどう考えても、かなり、なんてレベルじゃ済まされない。もしかしたら彼女は、噂で聞いたことがあるS()()()()()()()というのと同等の実力の持ち主なのかもしれない・・・!)」


 『Sランク冒険者』。それは自身も含めた冒険者ギルドに所属している冒険者達の中でも、英雄と呼ばれ、称えられる程の力を持つ強者だけが到達できる領域であり、称号だ。

 その実力はたった一人で一国の全戦力分に相当するとも言われており、正に規格外の強さを持つが故に、別名『人類の守護者』とも呼ばれてもいる。

 そのレベルの実力の持ち主であれば、なるほど、確かに冒険者ギルドが定めている脅威度ランク―――村や町、国等にどれだけの被害がもたらされることになるのかを予測、あるいは実際にもたらされた上で付けられる危険度の指標の事―――の中でも、Aランクという国家規模の被害をもたらす危険度の魔物達を圧倒できたとしてもなんら不思議なことではないだろう。

 彼女の強さの一端を目にした後で、伝え聞いたことのあるSランク冒険者に関しての噂を思い出した僕は、内心で納得するかのように頷きつつ苦笑を浮かべた。


「・・・まあ、僕は実際にSランク冒険者に会ったことがないから、フェルヌスさんの実力が本当にSランク冒険者と同等かどうかは、残念ながら分からないんだけど。・・・・・・って、うん?」


 ―――と、そこでふと僕は、何か言葉に出来ない違和感のようなものを覚えた。

 いったい何が気になったんだろう?と思った僕は、自身の記憶を振り返りながら、眉根を寄せて考え込む。


「・・・アルク?どうしたんだ、そんなに考え込んで・・・?」


 そんな僕の様子を不思議に思ったのだろう、フェルヌスさんが疑問符を浮かべながら声を掛けてきた。


「あ、フェルヌスさん。いえ、その・・・ちょっと違和感を覚えたと言うか、何かがおかしく感じられると言うか・・・・・・」


「違和感・・・?」


 フェルヌスさんに自分が感じ取ったままのことを話すと、彼女は「ふむ・・・」と顎に指を当てながら、何事かを考える素振を見せる。


「違和感・・・違和感ねぇ。・・・・・・実は私も少し不思議に思っている事があったんだ。この森の生態系のバランスが色々おかしいなぁ、って・・・」


「生態系が・・・?」


 フェルヌスさんはうんと頷くと、どうしてそう思ったのかを語り始めた。


「最初はこの『始まりの森』という場所がそういう場所なんだって思っていたんだが、ヴェノムスネークを見た時の君の反応が気になって、な。あの時、君はこう言っていただろう?”この森にヴェノムスネークが生息していたなんて”、と・・・」


「えっと、確かに言いましたけど・・・・・・」


 フェルヌスさんが何を伝えたいのか分からなかったが、とりあえずその通りだと頷いてみる。


「次に疑問に思ったのはタイラントボアとアーマーセンチピードだ。君はこいつ等を見た途端こう言ったな?”どうしてこんな所に”と・・・」


「それがどうかしたん―――ッ!?」


 続く彼女の言葉に、それがどうかしたのだろうかと返事をしようとした瞬間、僕はハッとした。


「まさか・・・!?」


「気付いたみたいだな。そう、今私達がいるこの森の、この一帯に生息している魔物の強さのバランスがおかしいんだよ。入り乱れていると言ってもいい」


 フェルヌスさんのその言葉を聞いた僕は、頬から冷や汗を流しながら自分達が出会った魔物達の事を思い出す。


「・・・・・・僕たちが出会った魔物の内、ゴブリンやオーク、ブルーウルフといった脅威度が下位から中位に当たる魔物は元々この『始まりの森』の浅い部分に生息していました。ですが、さっきのタイラントボアやアーマーセンチピードは違う。あの魔物達は、本来ならもっと森の奥で生息しているんです。多分、ヴェノムスネークも確認されていなかっただけで、森の奥の方に生息していたんだと思います」


「なるほどな・・・つまりアイツ等がこの辺りにいたのも、森の奥の方からやって来たから、という訳か・・・」


 フェルヌスさんは自身の胸の内に抱いていた疑問の答えを知ることができたからか満足そうに頷き、僕もまた自身が感じていた違和感の正体を知った事で喉に刺さった骨が取れたようなスッキリとした感覚を覚えた。

 ・・・・・・しかし、それと同時に一つ、新たな疑問も出てきてしまったが。


「でもそうなると、彼等はどうして森の奥の方からやって来たんでしょうか?」


「う~ん・・・現時点で考えられそうな理由は二つくらいかな?・・・一つは森の中から食べ物がなくなったから、それを求めて浅い方に出て来たとか。そこら辺はどうなんだ、アルク。そういった事ってあるのか?」


「・・・・・・調べた事なんてないし、確証もないですけど、多分それは無いんじゃないかと思います。確かに森の浅い部分なら、町や村に住んでいる人や僕達冒険者が様々な素材や食べ物を採取しているので、無くなる可能性はありますけど、実際にそんなことが起こったことはないです。少なくとも冒険者ギルドに記録されている、ここ三百年の間は・・・・・・」


「三百年の間、資源が枯渇しない森・・・?」


 僕の話を聞いたフェルヌスさんは首を傾げた。それほどの長い間、多くの人々が森の中に踏み込んで様々な資源を得ているのに、その資源が枯渇しないなんてことが現実にあり得るのだろうか?と。

 疑問の表情を浮かべるそんな彼女の姿を見た僕は、()()()()()()()()()()


「もちろん普通ならそんな事ある訳がありません。普通の森なら採取する量を調整しなければ、あっという間に取りつくして禿山のようになります。―――でも、この森は違います。いえ、この森だけは”特別”なんです」


 僕は『始まりの森』がどう”特別”なのかをフェルヌスさんに語る。


「この『始まりの森』はとても強い生命力を持っています。この森の中に存在する食べ物や薬草は、採取した後に数日経過してからまた来ると、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()んです」


 まるで成長に必要なエネルギーがどこかから供給されているようなその現象。普通の森では起こることなどまずありえないそれがこの森で起こっていることを知った時は、僕も言い様の無い気持ち悪さのようなものを感じた。

 ・・・まあ、慣れてしまった今では「そういうもの」だと、特に何の疑問も覚えなくなっていたが。


「だから一度取り尽くしたとしても、数日もすれば再び生えてくるんです。それこそ森の奥深くなんて人の手が全然入っていないのだから、食べる物が無くなるなんてことはまずありえません」


「そ、そうなのか。う~ん・・・なんか新しい疑問が出てきてしまったけど、今その話は脇に置いておこう。とりあえず、森の資源が枯渇しないという事を前提に考えると、もう一つの理由の方が可能性が高いという事になるな」


 僕の話を聞いたフェルヌスさんは、『始まりの森』そのものに対して、どうしてそうなっているのか、と疑問を覚えたようだけど、今はそれよりも森の奥の方から出て来た魔物達が浅い部分まで出て来てしまう理由についてを考えた方が良いと思ったようで、すぐに思考を切り替えた。


「もう一つの理由は、自然界の中で当たり前にある生存競争に負けたという可能性だな。住んでいた縄張りを追い出されたとか」


 それが原因で新しい住処を求めてあの魔物達がやって来たのでは?と話すフェルヌスさんであったが、その後で彼女は少し困った風に表情を曇らせた。


「ただ、これは可能性としては低かったりするんだよな。なにせ、ヴェノムスネークやタイラントボア、それにアーマーセンチピードは魔物としてはそこそこの強さを持っている。そんな奴等を縄張りから追い出せる存在がいるとしたら、そいつは相当な強さを持っていることになる」


 「そうなると、最低でもAランクくらいはあるだろう」と言うフェルヌスさんだったが、しかしそう口にした彼女自身も、実際にそんな事が起こっているのだろうか?と半信半疑な様子であり、確信があるわけではないようだった。

 だがそこで、僕が「あっ・・・!」と声を上げた。彼女が語った可能性について、思い当たる節があったからだ。


「あの、フェルヌスさん。その推測、もしかしたら当たっているかもしれません」


 僕がそう言うと、「はっ・・・?」と不思議そうな表情を浮かべるフェルヌスさん。

 そんな彼女に僕は、「まずは思い出して欲しいんですけど・・・・・・」と前置きを入れながら、自分がどうしてそう思ったのかの説明を始めた。


「フェルヌスさんは、僕が崖下に落ちた時の話を覚えていますか?」


「うん?ああ、覚えているよ。依頼された薬草を採取するために森の中に入って、運悪くゴブリンに追われる羽目になって、その最中に強大な力を持つ魔物が現れたんだろう?」


「はい・・・ただあの時は、その強大な力を持つ魔物の事を詳しく話していなかったと思います」


「・・・・・・確かに、私は聞いていないな。もしかして、その魔物が私の話した可能性を裏付ける要因になると言うつもりなのか?」


 フェルヌスさんのその問いに、僕は「はい、その通りです」と頷いた。


「僕の前に現れた魔物。それは、この『始まりの森』の主と呼ばれている存在。―――『ブラッドグリズリー』なんです」


「ブ、ブラッドグリズリー、だと・・・!?」


 そう僕が答えた途端、フェルヌスさんは驚いたようにカパッと口を大きく開けた。








 『ブラッドグリズリー』。その名前を聞いた瞬間、私は驚きを隠せなかった。なにせその魔物は、過去に何度も煮え湯を飲まされてきた相手としてよく知っていたからだ。

 『ブラッドグリズリー』とは、全身の毛が血の色の様に真っ赤に染まった五mに届く程の体躯を誇る、『森の殺戮者』という異名も持つS()S()()()()の大熊型の魔物だ。

 全ステータスが一万を超え、特に『STR()』と『AGI(素早さ)』が突出していて、その巨体に似合わない脅威的な俊敏性で急接近、もしくは回り込んでからの恐るべき巨腕の一撃にて沈められたプレイヤーは数知れず。

 私もその中の一人であり、『カオスゲート・オンライン』を初めてから半年経った頃に出会い、嫌になるほどボコられた()()は今でも覚えている。

 まあ、今の私であれば、ブラッドグリズリーを片手間で倒す事など造作もない。が、それでもトラウマ的な思い出のある相手の名前が出てくれば、心中穏やかではいられない。


「ま、まさか、その名前をここでも聞くことになるなんてな・・・―――というかアルク、アイツに出会ってよく生き残れたな君・・・!?」


「あ、あははは・・・まあ、色々と悪運が重なっちゃって・・・・・・それよりも、フェルヌスさんはブラッドグリズリーの事を知っていたんですか?」


「まあ、な・・・同じ個体ではないだろうが、アイツには嫌な思い出があってな・・・」


 深くは聞かないで欲しいと、暗い雰囲気を漂わせながら私は顔を逸らす。


「しかし、そうか。ブラッドグリズリーかぁ。・・・一応聞くけど、あの大熊は森の浅い部分によく来るのか?」


「いえ・・・主と呼ばれるくらいなので、普段は森の最深部にいます。『始まりの森』でその存在が初めて確認されたのは、今から約二十年程前、ブラッドグリズリーが森の中層付近に出てきた時に、偶々そこまで足を踏み込んでいた高位ランクの冒険者が目にしたことが切っ掛けです。

 それ以降、冒険者ギルドは定期的に監視と観察を行い、その行動範囲が最深部から中層までだという事が分かったそうです。そして、今現在に至るまでブラッドグリズリーが浅い部分にまで出て来たという記録は公式にはありません」


「なるほどな・・・だがそうなると、当たって欲しくない嫌な推測が頭に浮かんでくるなぁ」


 アルクの話を聞いた私は、「はぁ・・・」と頭を抱えながら溜め息を吐く。


「ブラッドグリズリーは自分の縄張り(テリトリー)からは滅多に出てこない。獲物が縄張り(テリトリー)の外に出てしまうと、追いかけるのを即座に止めるくらいの引きこもりなんだ。なのに、普段なら絶対にやってこないであろう場所に出てきている。その時点で、何かしらの異常事態が起こっているのは間違いない。

 ・・・そして、それがもし敵対する何かによって縄張り(テリトリー)を追い出されたからだと仮定すると、よりヤバい可能性が出てくる」


「ヤバい可能性・・・?」


「よく考えてみろ。あのブラッドグリズリーが敵わない相手だぞ。まず間違いなく、その敵対する何かはブラッドグリズリーよりも強いことは確実だろう」


 そこまで聞いたアルクはその事にようやく気付いたようで、ハッとした後にその可愛らしい顔を青醒めさせた。


「あ、あの、フェルヌスさん・・・ブラッドグリズリーより強い魔物なんて、本当にいるんですか・・・?」


「―――いる。少なくとも、私が知っているものだけでも五体は存在している」


「―――ッ!?」


 体全体を恐怖でガクガクと震わせるアルク。

 私は片膝を着いてそんな彼目線を合わせ、その両肩を優しく掴むと、自身の知る真実を告げることにした。最初は「そんなモノはいない」と嘘を吐いてでも落ち着かせた方が良いんじゃないかとは思ったものの、しかしそう言ったところで状況が好転する訳でもないことを理解していたが故に、アルクにとっては酷だとは思うが現実を突き付けてやるべきだろうと考えたからだ。

 その瞬間、ヒュッと息を吸い込む音がアルクの口から聞こえたが、私は構わず話を続ける。


「ブラッドグリズリーは魔物の中ではかなり強い方だ。そんじょ其処らの輩に負ける事なんてことはそうそうありえない。それが勝てない相手となれば、その数はかなり限られる」


 この世界が『カオスゲート・オンライン』の世界観と酷似しているのであれば、おそらく脅威度の中でも最高位ランク言われているS()S()S()()()()の魔物がいる可能性が十分にあり得る。

 このランクの魔物は、私の知る限りでは主に神と名乗っていたり、単身で世界を滅ぼすことができるくらいのポテンシャルを持つ存在が挙げられるのだが、その大半がイベント毎に登場していたレイドボスばかりであり、持ちうる能力やスキルは容赦の無さとえげつ無さを混ぜたような凶悪かつ理不尽なものが多かった。

 その難易度はまさに鬼畜と呼ぶに相応しく、実装初期の頃に多くのプレイヤーが最大参加人数である百人でチームを組んで討伐しようとして、()()()()()()()()()()()()という話は、今でもそれなりに有名な語り草だ。

 一応、後に()()()()()()に関する情報が公式から開示された事によって攻略できる余地はあるらしいということは分かったのだが、それでも鬼畜な難易度が緩和されるというわけではなく、実際にSSSランクのレイドボスを討伐できたプレイヤーはそれほど多くなかった。

 私自身も挑戦してみた事があったが、流石はSSSランクと言うべきか、勝利するまでに何度も敗北を味わう羽目になった。


「そいつ等の強さは軒並みブラッドグリズリー以上。攻撃力も異常な程に高くてな。ステータス・・・実力が一定水準以下だと一瞬で一撃死とかざらにある。加えて、厄介かつ理不尽な能力も持ち合わせていて、まともな方法じゃ傷を付ける事すら難しい。それくらいヤバい存在なんだよ、そいつ等は。・・・理解できたか、アルク?」


「・・・・・・・・・」


「・・・アルク?・・・・・・白目剥いてる」


 と、まあそんな感じに、私は自身が知る限りの事をアルクに話したわけなのだが、何時の間にやら気が付けば、彼は白目を剥いて気絶していた。

 顔を引き攣らせているのと、全身を小刻みに震えさせているのを見るに、どうやら恐怖心によってキャパオーバーを起こしてしまったらしい。

 まともな反応を返さなくなってしまった彼の様子を目にした私は、「あちゃ~・・・」と自身の顔を片手で覆った。


「・・・しまった。もう少しオブラートに包むべきだったか」


「・・・・・・グゥォォォオオオオオオッ!!!」


「―――ッ!?」


 ―――その瞬間だった。遠くから反響する様に響いてくる獣の遠吠えが聞こえてきたのは。





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