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第弐話

不安に押し潰されそうです。

 傭兵ギルド《レジェンド》と呼ばれる民間組織が存在する。

 小大陸全土を閉める島国トネリコの中央、王都サカキに本部を置く、文字通りの傭兵達を束ねる組織である。その支部は国中の大小問わずほぼ全ての都市や町、村に置かれている。

 その存在意義は実にシンプル――『金さえ払えば何でもする』

 時には要人警護。

 時には物資輸送。

 時には害獣駆除。

 時には夫婦喧嘩の仲裁などなど。

 ギルドに所属する傭兵達は、基本的に金さえ払えば依頼された内容をクリアするよう義務付けられているのだ。それこそ町の美化から後ろめたい内容の仕事まで、である。

 だが彼らは、その後ろめたい仕事はやりたがらない。

 なぜなら、傭兵ギルド《レジェンド》は民間組織であると同時に、警察権を特別に与えられた準国家組織だからである。もちろん犯罪を犯せば、一般人よりも重い刑罰が課せられることもあるのだ。

 それゆえか、ギルドには要人警護等のいわゆる『傭兵らしい依頼』の他にも、国家指名手配犯の捜索と捕縛の依頼も多数入ってくる。運良く賞金首とも呼ばれる彼らを捕縛することに成功すれば、それほど命を危険に晒すことなく大金が入る事もあるため、傭兵達には割と人気のある依頼であったりするのだが――

「いらっしゃいませ。こちらは傭兵ギルド《レジェンド》アカシア支部でございます」

「さっき自啓団メンバーを捕縛したグレンとカレンだが……」

「はい。連絡は頂いております。念のためMIDカードをご提示下さい」

「どうぞ」

「少々お待ち下さい……………………はい、確認いたしました。№4〈影獣〉のグレン様と№6〈白刃〉のカレン様ですね。今回の依頼ご苦労様です。今回は盗賊『自啓団』メンバー二十三名の捕縛ですね。報奨金は――金貨一枚と銀貨十五枚です」

 ゴンッ。

 グレンはギルドカウンターのテーブルに額を打ち付けた。横を見れば、カレンは平静を装ってはいるが、何度も瞬きをして褒章金額を口にした受付嬢に驚いてはいるようだ。

「あー……え? 何? 何かの冗談か?」

 思わず聞き返すグレン。だが受付嬢は相変わらずにこやかな表情を崩さず受け答えた。

「いえ。この度の依頼の報奨金は金貨一枚と銀貨十五枚です」

 何度聞いても金額が増えることは無い。

「どう言うことだよ!? 何で指名手配犯二十三人が金貨一枚とちょっとに変わるんだよ!?」

「その『ちょっと』で普通の人なら半月は暮らせるのですがね」

 グレンに突っこみを入れつつ、カレンも不服そうに受付嬢に尋ねる。

「それはともかく、グレンの言うとおりその金額には文句を言わざるを得ませんね。一体どう言うことなのですか?」

「はい。確かに盗賊『自啓団』のメンバーはほぼ全員が窃盗、放火、強盗、殺人の容疑で指名手配されております。ですが自啓団には非常に多くのメンバーが所属しており、自啓団全体に掛けられている報奨金は高額でも、下位の者一人ひとりに掛けられている報奨金が小額となっているのです。今回グレン様達が捕縛した二十三名のうち一人が幹部クラスの者であったため、報奨金が金貨一枚まで伸びたのです」

「あのオッサンか……」

 グレンは登場早々にカレンに気絶させられたリーダー格を思い浮かべた。奴のおかげで報奨金が金貨一枚に届いたとはどこか皮肉めいている。

 額を押さえるグレンを一瞥し、カレンが尋ねる。

「それでは他の幹部クラスの報奨金はどうなっているのですか?」

「はい。基本的に銀貨五十枚から金貨十枚となっていますが……」

 そこで初めて受付嬢が言い淀んだ。

「何だよ」

「その、これはお話しても良い方が限られていますので……」

「私達では駄目なのですか?」

「いえ。『肩書き持ち』に一桁ナンバーであるお二人には話しても大丈夫なのですが……」

 ふいに受付嬢は周囲をキョロキョロと見渡した。グレンも倣って確認するが、決して広いとは言えないフロアには受付嬢を含め、三人しか見当たらない。

「……誰もいないぞ」

「そのようです。それではお話致します。他言はお控え下さい」

 そう前置きした後、コホンと咳払いをして受付嬢は小声で語りだした。

「お話しする事とは、自啓団の首領ジョン・ドゥのことです」

「ジョン・ドゥ?」

「はい。単刀直入に申し上げますと、ドゥには金貨五百枚の報奨金が掛けられております」

「ごひゃ……っ!?」

 大声を上げようとしたグレンを、カレンが慌てて口を塞ぐ。だが相当慌てていたのか、鼻っ面を思いっきりビンタする形となった。

「いてぇ」

「すみません」

「……話を続けますね。なぜそれほどの金額が掛けられているかと言うと、そもそも彼が手練であることに加え、彼が喰屍鬼グールである可能性が高いからです」

「……喰屍鬼グール、ですか……」

「はい。以前この町にいた№74〈協奏〉のリッカ様が彼の近辺調査を行なっておりました。ですが……『ドゥが墓荒しをし、屍を食べている』と報告があったきり、音信不通となってしまい……」

「! それで、そのリッカさんは……!」

「……一週間後、臓器と四肢の一部が欠けた状態で発見されました」

 話しながらも受付嬢は似合わぬシワを眉間に寄せ、口元を震わせていた。どうやら犠牲となった傭兵と少なからぬ交友があったようである。

「なるほどな」

 グレンは腕組みをしながら唸った。

「盗賊の首領ってだけじゃなく、喰屍鬼グールとしてのモンスター討伐の報奨金も加算されてるのか。それでその金額か……」

 うんうんと頷き、そしてギイと軋むような笑みを浮かべた。

「悪くない。が、同時に気に食わないな……! 俺も傭兵だ。殺しをやった事が無いと言えば嘘になる。が、そのドゥとやらは完全に人間を食い物としか見ていないようだ。俺はそんな殺しは認めない。断じてな! 旅費の補充のつもりだったが止めだ! 俺達がその自啓団、ぶっ潰してやる!!」

「……いえ、格好良く宣言したところで悪いのですが、そもそも旅費が尽きたのはあなたのせいですし、こちらにも予定という物があるのですから勝手に突っ走ってもらっては困るのですが」

 ちらっとグレンを一瞥し、カレンは首を横に振りながら嘆息した。

「まあ確かに捨て置けない事態ではありますね。微力ながら私も協力させて頂きます」

「ちょ、ちょっと待って下さいお二人とも! 危険です!」

「おいおい。俺達を誰だと思ってんだ?」

 グレンはヤレヤレと鼻を鳴らした。

「傭兵ギルド《レジェンド》メンバー総勢五万人以上の中でもトップ百人にしか与えられない肩書きを持っている上に、一桁ナンバーの俺達が行ってきてやるっつってんだ。文句はねえだろ」

「そうですよ。それに行動は早ければ早いほど価値を増していきます。ですからギルドに入っている情報を出来るだけお聞かせ願いませんか?」

「グレン様……カレン様……」

 受付嬢は目を伏せ、小さく頷いた。

「分かりました。お二人をサポート出来る事を誇りに思います」

「よし! じゃあまず自啓団の本部がどこにあるのか教えてくれ!」

「はい! ……って、えぇっ!?」

 一度快く頷きかけたところで、受付嬢は慌ててグレンを見返した。一体いきなり何を言い出すんだこの人はと表情に表れているが、当のグレンは涼しい顔をしている。

「……グレン。まさかいきなり本部に乗り込むつもりですか……?」

「当たり前だ! そのほうが手っ取り早い!」

「グレン。慎重、と言う言葉をご存知ですか?」

「そんな概念、お袋の腹の中に置いてきた!」

「なぜ概念と言う言葉を知っているのに慎重という言葉を知らないのですかあなたは!」

「あの……盛り上がっているところ恐縮なのですが……ギルドでも自啓団本部がどこにあるのかは掴んでいなくて……」

「む。そうなのか」

 至極残念そうに呟く。

「本部の場所がはっきりしていたら冗談抜きで突貫するつもりだったようですね……」

「それじゃあドゥの行動パターンだ。喰屍鬼グールなんかに身を堕したんだ。何かしら奇妙な行動はあるだろう。目撃情報とかでもいい」

「はい……。あの、これも重要情報ですので、他言は――」

「――無用。分かっています」

「はい。……実は、ドゥの目撃情報が多いのは紅蓮月エルマが満月となる夜の墓地なのです」

紅蓮月エルマの夜?」

「墓地に現れるのは『食事』のためとして……わざわざ紅蓮月エルマの夜に現れるのは人目を避けるためでしょうか? 情報の信憑性の方は?」

「……リッカ様の調査報告です。信用は出来ます」

「なるほどな……。幸いにも後一週間のうちに紅蓮月エルマの満月だ。自啓団の下っ端がこの町に現れたって事はドゥも近くに来ているはずだ。この町の墓地を見張っていれば何とかなる――」


「その話、聞かせてもらったあああああぁぁぁぁぁっ!!」


 三人しかいないはずのフロアに、全く聞き覚えの無い少女の声が響き渡った。

早く慣れたいですね。

第参話に続きます。

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