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異世界に来たら召 喚スキルがありました  作者: ふぅみ


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98/101

98話

お待たせしておりました第3部スタートになります。

またしばらく…毎日連載をしていきます。

どうぞよろしくお願いします。


 ハイセイでエミナルお婆ちゃんと別れた後、俺はトワトワ村へカケルで飛んだ。トワトワ村、そこは麦味噌作りをしている村だ。


 村の規模は小さいのかそれとも大きいのかまったく分からないが、偶然村を訪れた旅人の設定で大丈夫だろうと近くの森で鳥を2羽仕留めてそれを持っていくことにした。

 セルセラの街近くの森でも鳥は多めに獲っていたから、マジックバッグの中には在庫がある。でもあの森にいた鳥とこのあたりの森で獲れる鳥が違っていれば都合が悪い。だからわざわざ現地調達したのだった。


「こんにちはー」

「おや、旅人さんかね」

 村の集落に着く前に、畑の端で農作業の手を止めて休憩している人に出会った。

 おばちゃんとおじさんが手拭いで汗を拭きながら、にこやかに微笑みかけてくる。

「どこから来なさった?」

「ずっと遠くの村。村というか森に近いところから」

 ほーという感じで俺のことを見ている。この感じだと、あまり村を訪れる人はいなさそうだな。

「狩りをしながら旅をしているんだ。この村で塩などの調味料や野菜は買える?」

 塩がなくては麦味噌は出来ない。この村では簡単に塩が手に入るのではないか、そう思ったのだ。


 夫婦は俺が手にしている鳥に目をとめて、期待にその表情を輝かせた。

「あんた、その鳥を野菜や塩と交換するのかい?」

「ええ。この村で交換出来たら…」

 嬉しいのだ、けど…

 おばさんもおじさんも鳥をガン見している。この村に狩人はいないのだろうか。


「うちの畑で採れる野菜はどうだ? ジャガイモにトマトにビュアーに…」

 おばさんが怒涛のように野菜の種類を口にする。

 ピュア―というのはトウモロコシの実のように細長くくっつきあっているが、親指大の粒をひとつずつ引きちぎるようにして切り離す、ブロッコリーもどきのことだ。生の見た目は黄色で茹でると橙色に変化する。食べると味はそのまんまブロッコリーという俺にとっては不思議野菜だ。生で食べることも出来るが、茹でたり炒めたりする方が甘味が増して美味しい。


「ではそれぞれ3つずつと鳥1羽と交換して、いいかな?」

「鳥1羽? 丸々と交換かい?」

 おじさんが驚いたように声を上げた。

「あ、はい。出来れば、もう1羽は塩や調味料と交換出来たら…と」

「いやいや、それじゃ少ないよっ! もっと持っていきな!」

 ハッとしたようにおばさんが動き出し、畑に走っていった。あんなに早く走れるんだとびっくりした。見た目じゃ分からないね。


「兄ちゃん、待っててくれよ。今すぐかき集めてくる。頼むよ!」

 逃げないでね。というように懇願した後おじさんも畑に走った。こっちはそれほど早くはない。けど必死そうなのは同じかも。

 あーそんなに慌てなくても…転んでも知らないよ。


 チラチラと時折顔を上げて、その場に俺がまだいるのを確認しては収穫作業に戻る。夫婦は両手に野菜をいっぱい抱えて戻ってきた。

「ほらこれ、これと交換でどうだい?」

「え? 全部ですか?」

 嘘だろ?

「俺たちだけじゃ食べきれない。野菜なんて余っているんだ。その鳥と交換なら、これでも足りないぐらいだ」

 いやいや、そんなわけないでしょ。と思うが二人の表情は真剣だった。


「えっと…じゃあ、交換で…」

 はい、どうぞとおじさんに鳥を手渡す。

 そして俺はマジックポーチから取り出したふりをして袋を出し、野菜をそこに入れてもらった。

「ありがとうね! 肉なんて、いつぶりだろう!」

「ホントだ。今夜はご馳走だな!」

 夫婦は小躍りしそうなぐらい喜んでいる。


「えっと…もう血抜きはしてあります」

「おや、それはありがたいねぇ」

「旅人さん、塩の他にこの村には麦味噌があるんだよ。麦味噌、知ってるかい?」

 もちろん知っている。それ目当てでこの村に来たのだが、今回は知らないフリをしておく。

「いえ、知りませんが調味料ですか?」

「ああ。塩みたいに長持ちする。旅人さんも食べてみてよ。湯に溶くだけでも美味いスープになる。少し味に癖はあるけどな」

「好きな人にはたまらない、味と匂いだよ」

「それは興味ありますね。どこで買えますか?」

「村長の家に行ってみなよ。村で作る麦味噌の販売と管理は村長がやっているよ」

 なるほど。

「村長の家。行ってみます」


 嬉しそうに手を振る夫婦と別れて、村の家々が集まって見える中心へ向かう。

 集落に辿り着く前にいくつもの畑と幾人もの村人を見かけた。物珍しげにこちらを見てくる人も多かったが、そのまま村長の家を探す。

 村には門もなく、囲いの塀もなかった。村を守る必要がない、つまり脅威がないということだ。森から野獣が出てきたりしないのどかな村みたいだ。家と家は程よい距離感を保つように離れていて、農作業用に利用されているのか適度な空き地も各家の横にある。



 村長というからには村の中心にあるか、一番大きな家ですぐに分かるだろう。そう思いながらずんずん進んでいく。

 ああ、あそこかな。

 他の家に比べるとひと回り大きな家がある。隣には倉庫っぽい建物と、その反対側には作業場のようになっている壁のない建物があった。そしてそこで、何人もの村人が忙しそうに作業をしている。

 独特の匂いが離れたところまで漂っていて今まさに、そこで麦味噌作りをしていると分かる。


「こんにちはー」

「こんちはー」

「村長さんいら…いるかな?」

 いけないいけない。言葉遣いが丁寧過ぎるとまた貴族の子供疑惑が再燃するぞ。

「いるよー」

「隣の家ン中だ」


 ありがとうというように小さく会釈して家のドアの前へ。ドンドンと木のドアをノックして「こんにちはー」と呼びかけてみる。

「そんなんじゃ気がつかないよっ」と叫んで作業している人の中では一番若い少女がやってくる。

 いきなりドアをガラリと開け「村長ー!」と言いながら、勝手に奥へと入っていく。ああ、そういや田舎のおばあちゃんちに行った時もこうだったなーと懐かしく思い出す。


「村長、いたよー」そう言って奥から少女が戻ってくる。ありがとうという間もなく横を通り過ぎていった。

「どなたかな」

 お爺さんの声に、顔の向きを戻す。やや腰は前かがみに曲がっているが、足取りは確かだった。そう言えば、まだこの世界で杖をついている人を見たことはない。


「あ、旅をしています。麦味噌という調味料があるとここの村の人に聞いて、鳥と交換…」

 出来たら、という前に村長の目が…俺が手にする鳥にロックオンされた。

「出来たらと…」

「もちろん交換できる。ありがたい。この村では肉を得られる機会はほとんどないからな。して、量はどのぐらいだ?」

「それはそちらで決めても…決めて欲しい」

 うーむというようにしばらく考えて村長は小さな樽を持ってきた。1キロ分の味噌が詰まっていそうな大きさだ。

「これ2つではどうだ?」

 いやいや、ありえないでしょ。

「で、では3つでは?」

 増えてます、増えてます。


「多すぎますよ! 1つで充分です!」

 作る手間暇を考えたら、その半分でもいいくらいだ。俺にとってはそれぐらい麦味噌は貴重なのだ。

「信じられん」

 それはこっちの言葉だよ。

「その小樽1つと鳥1羽。交換成立です」

 はいというように差し出すと、村長はおずおずと手にしていた小樽を差し出してきた。

 ハイハイ、こちらが先に受け取りますね。片手で先に受け取ると、村長は両手で鳥の足をしっかりと握った。


「血抜き済みですので、この後してもらわなくて大丈夫です」

「ほーそれはありがたい」

 さっきから気にはなっていたのだが、奥の建具の隙間からこちらを覗きこんでいたお婆ちゃん。取引が無事に終わってホッとしたのか、いそいそとやってきて村長から鳥を受け取るとそそくさと奥へ…多分台所へと消えていった。素早い。


「えーと、婆さんが失礼した。鳥肉なんて久しぶりでのぅ。挨拶もせんですまんの」

「いえ…この村に狩人はいないの?」

 あー敬語抜きで話すの、慣れてないな。特に相手がお年寄りだと、どうも無意識に出てしまう。冒険者だった頃の気分を思い出して、言葉をタメ口モードに直そう。


「2年ほど前にゲンザ爺さんが引退してからは…村で鳥や獣が獲れる者がおらんようになってしもうて」

 狩人がいなくなるまでは、肉の自給自足も出来ていたのか。

「旅人さん、しばらくでええからこの村に滞在してもらえんか? それで、出来たら鳥などを獲ってきてもらえると嬉しいんじゃが…」


 麦味噌が買いたくて立ち寄ったのだが、正直この小樽ひとつでは少ない。これをもとにして自分で大豆味噌を作るとしても、自分で食べる量としてもう少し確保しておきたい。

 買い取りが出来たら話は簡単だっただろうが、この分ではお金よりも現物支給の鳥の方が喜ばれそうだ。

「えーと、じゃあ1週間ほどなら…」

 こういう小さな村でしばらくのんびりするのもいいかもしれない。近くの森に行けば、これまでとはまた違ったものも発見できるかもしれないし。


「いてくれるか!それはありがたい! 森に近い空き家がいいじゃろ、誰ぞに案内させる」

「空き家?」

 家って何?

「空き地だけ借してもらえたら、テントで生活するのには慣れている」

「いや、旅人さんなら慣れているかもしれんが…家は人が住まんと傷みも早い。家賃を寄越せなんぞと言わんから、この村にいる間だけでも使ってくれ」

 あーそういうことなら。

「1週間、世話になります」


「いやいや、それでもし鳥が手に入ったら…ぜひ…」

「ああ、いいですよ」

「ホントか! 村のもんも長い間鳥肉を食べてないからの。わしらだけと知られたら…何を言われるか」

 ああ、そういうこともあるか。

「分かりました。獲れたら持ってきますけど、村の人達に配るのは任せていいですね?」

 誰に渡して誰に渡していない…と覚えてなくてトラブルになっても困る。

 分配は村長さんに一任したい。


「もちろんじゃ。うちに持ってきてくれたら少しずつ切り分けてみんなに渡るようにする」

「ちなみに、この村は何軒何人います?」

「35戸253人じゃ」

 意外と家があり、意外と人がいた。こりゃ鳥を数羽獲ってきただけではなかなか行き渡らないな。


「分かりました。それじゃあ、今日から早速森に入ってみます」

「ああ、待ってくれ。いまチヨを呼ぶ」

 そう言って村長が名前を繰り返し叫ぶと、さっきの少女がやってきた。


「なに、村長?」

「この旅人さんをロガンの家の先の空き家に案内してくれ。1週間ほど使いなさる。それと、ゲンザ爺さんの家にも案内して鳥が良く獲れる場所なんかを教えてやって欲しいと、村長が言っていたと伝えてくれ」

「はーい」

 チヨと呼ばれた少女がこちらを見たので「ヒロシだ」と名前を名乗っておく。ここでは買い物に立ち寄ったつもりでいたけど、名前が必要になりそうだ。1週間も滞在していて名無しは無理がある。


「あたしはマチヨ。同じ名前の子がいるからみんなはチヨと呼ぶ。あたしもチヨと呼ばれる方が好き。…こっちよ」


 同年代なのだろうけど態度がお姉さんぽいよな。多分だけど、歳下に思われている気がする。

 くそー、もっと背が伸びないかなぁ。毎日牛乳を飲んで身体も動かしているのに…なかなか身長が伸びない。親父も背が高い方じゃなかったから、ダメなのかなあ。親戚のお姉ちゃんはみんな背が高かったのに。


 チヨに案内されたのは先にゲンザ爺さんの家だった。村長の伝言を聞いたゲンザ爺さんは俺をジロジロ見た後、森の中に沼があることを教えてくれた。そこが鳥たちのいいエサ場になっているらしい。他にも少し遠いが崖になっているところがあり、そこを巣穴にしている鳥もいるとのこと。

 頑張ってみてくれや、と励ましを受けてゲンザ爺さんとは別れた。かなり足腰が弱っているみたいで、立ち話をしている僅かな時間も辛そうだった。


「ここよ。しばらく誰も使っていないから、中がどうなっているか分からないけど」

 連れていかれたのは村の端。森に近い古い空き家だった。

「ああ、そこは大丈夫。どうにもならなかったら中でテントを出す」

「家の中でテント。ま、外よりはマシよね」

 じゃあねと案内を終えた彼女は村長の家に走って戻っていった。


 借りた家には鍵は掛かっていなかった。もしかしたら、どの家にも鍵はないのかもしれない。

「さぁて、やり過ぎない程度に綺麗にするか」


 すこしだけきれいになぁれ!


 少しだけにポイントを置いて室内を綺麗にする。すると落ち葉や土汚れ、剥がれ落ちていた土壁も綺麗になった。大きくへこんでいた土壁は元通りではなく、わずかにへこみが直った程度。

「うん、上出来」

 このくらいなら、掃除を頑張ったレベルだ。多分。


 ドアには内側から閂をつけさせてもら…ってと思ったら、ここのドアはふすまのように横へスライドさせる用になっていた。これじゃあ閂は無理だ。

 それなら、と昔ながらのやり方。突っ張り棒で防犯対策だ。


 この家なのだが…ドアを開けて入るとすぐが土間で、右手側に土間のままの台所。つまりはかまどが2つある。水は洗い場の横に水瓶があった。そういえば、この村には2カ所に井戸があったなと思い出した。

 まだ村の中で歩いていないところにも井戸がある可能性もあるが、この家に近い井戸の場所は横を通り過ぎてきたので把握している。ま、俺は水くみをする必要はないんだけどね。


 そして台所の先が…4畳半ほどの個室。どうやら寝室かな。ここもクリーンで綺麗にしておく。そしていったん戻ってメインの居間。入ってすぐに見えるこの居間は八畳ほどの広さがあり、中央に囲炉裏がある。囲炉裏は料理を温め直す他にも部屋の暖房としても使われていたから、古い家には必要だよな。

 とはいえ今の季節は夏。さすがに囲炉裏は必要ない。


 居間から見て台所の反対側。ここにトイレがある。昔ながらの…というあれだ。ここも俺は使わないな。ずっと空き家になっていたからか、何も匂いがしないところが救いだ。

「ワンルームにダイニングキッチンが1つ、か。まあ独り暮らしをするには充分の広さか」

 思いがけず田舎で1週間の狩人暮らしをすることになってしまった。


「ま、期待してもらっているようだし…早速森へ行ってみるか」

 ざっと確認して掃除をしただけで荷物は何も出さないまま、近くの森へ向かうことにする。


 マップさん、沼があるという場所を教えて。


 沼を目的地にマーク。他に何か危険な獣がいたらと表示を頼むが遠くにぽつんとあっただけだ。本当にこの村は安全な暮らしをしているみたいだ。ボアでさえ森の奥にいて、近くにはいないみたいだ。


 それじゃあ、薬草を探しつつ沼まで移動しますか。

 気軽な感じで足を踏み入れた俺だが、10分後には喜びの声を上げていた。

 これ、山椒の木だ。季節が過ぎたから若い葉はないけど…山椒の実はちょうどいい感じだ。お婆ちゃんちの庭に山椒の木があったから良く知っている。

 お、これ…いい若木がある。根を掘り起こして土ごと持ち帰らせてもらおう。シェルターの庭に植えて聖水で育てたら、成長が早いかも。


 虹の花だけど、とうとう結果というか結論を出してもいい育ち具合になったんだよな。ハッキリとした差が出たのだ。

 聖水で育てている花はまだまだ元気で、大きく育ち続けている。浄水で育てている花はちょっと元気がなくなってきた。水魔法で育てている花はまだまだ元気だが、成長しているかどうか分かり難い。元のままキープという感じ。井戸水で育てていた花は枯れ始めた。このまま様子を見て種が出来るかどうかまで観察を続けようと思っている。


「手に山椒の実の匂いがついた」

 せっせと実を収穫していたら、手が山椒臭い。臭いと言ってもどちらかといえば好きな香りなんだ。

 カレイの煮つけに山椒の葉という組み合わせ好きなんだよな。ウナギに粉山椒もいいし、魚料理に合うんだよね。


 山椒の実の次は木の実を発見。鑑定さんに教えてもらって分かったけど、丸い形をしたカシューナッツみたい。丸い実が、高い木の上にいっぱい生っている。熟してきて外側の固い殻がぱかっと割れたら、鳥が群がってきてつついて落とすらしい。

 鳥さんに食べられては困るので、先に俺が収穫させてもらう。


 風魔法のトルネードで優しく木を包み込み、風の渦の中に木の実をもぎ取って集めるイメージで根こそぎ収穫した。さらにトルネードで分別もするよ…っと、よし重さで別れた。

 実だけをマジックボックスに収納。この後しばらく天日干しにすると水分が抜けてきて熟成され、自然と殻が割れるらしい。

 急ぐ必要もないから、村で生活しながら天日干しもいいかもね。後で試そう。


 薬草も森に入る人が少ないからか、結構生えている。初級ポーションの材料にしかならない比較的どこにでも生えている薬草ばかりだけど、少しだけ自家消費分を補充する意味で収穫しておく。

 この辺は村の人も来れるはずだから、ちゃんと残しておいてあげたい。


「この辺、蔓も茂っているな」

 通る人がいないせいか、蔓が伸び放題になっているところがあった。この世界では見てないけど、妹がクリスマスリースを作っていたのを見ているから、これが飾りの材料になると知っている。

「蔓を使う予定はないけど、せっかくだし貰っていこう」

 行く手を遮るように生えていた蔓を刈り取り、丈が長い草も刈り取る。

「あれ、これ?」

 鑑定さんが働き、刈り取ったばかりの草から良質な植物繊維が採れることを知る。

 んー見た目から似ているのは…パピルス?

 生えている環境も世界も違うが、見た目が似ている。


「もしかして、これから紙とか麻袋のようなものが作れる?」

 布から自作するのはメンドクサソウだが、紙梳きぐらいなら動画で見た記憶がある。何でもかんでも動画に上げている人がいて、あれも何気に情報の宝庫だよ。


「とりあえず、この辺のを刈り取って保管しておこう。通るのに邪魔だし」

 ウインドカッターで根元から刈り取り、トルネードで集めて掃除機に吸い込むイメージでアイテムボックスに収納。

 あっという間に視界をふさいでいた草の壁が消えた。


「へーここが沼か」

 なるほど、水の上を優雅に泳ぐ鳥が多くいる。沼の広さは小学校の体育館4つ分ほど。いや、もうちょっと広いかも? 水はきれいで、そこそこ深そうだ。これ、沼というのか。イメージは小さな湖という感じ。


 騒がれると困るので、弱い麻痺薬をピアッシュに塗布する。一度に投げられる数は4つ。つまり、一度に操ることが出来る数でもある。これ以上は操り切れずにピアッシュが落下しはじめる。5つを同時に投げて最後のひとつを落ち着る前に風魔法で掬い上げて的を狙うという手もあるが…4つずつ投げる方が効率はいい。


 遠視スキルで狙いをつけながら一気に4本を3投。つまり3回投げて12本すべてを命中させた。

 普段は一回ずつ回収していたが、今回は先に仕留めることを優先した。麻痺薬を使ったので無言で仕留めたはずなのに、近くにいた仲間がバタバタと死んでいくことに驚いたのだろう。先ほどまで静かだった沼は今や鳥たちの大乱狂。逃げる羽音にけたたましい声を張り上げ続ける鳥のうるさいことと言ったら…大パニックだ。


 水面に浮いた鳥を風魔法で手繰り寄せトルネードで巻き上げて…アイテムボックスに収納。12羽もいると少し時間がかかった。

 沼の近くから離れ、スコップで地面に穴を掘る。

 1羽ずつアイテムボックスから取り出して、刺さっていたピアッシュを回収。血抜きが終わったらアイテムボックスに戻して、また次の鳥を取り出して…刺さっていたピアッシュの回収と血抜き作業を繰り返す。

 途中でナイフいっぱいになった血の処理をして、続きに戻る。12本のピアッシュを地面に並べてクリーン。脂や血の汚れを落としてからアイテムボックスに収納した。


 ひとりの時はピアッシュを装備する必要もない。アイスニードルで仕留めてアイテムボックスへ収納するだけ。わざわざ投げるのはそれすらしなくなったら、人前で狩りが出来なくなってしまう気がするから…つまり狩りの勘をなくさないための練習だ。

 この世界では鍛錬していくうちにスキルが獲得出来る可能性がある。つまり、繰り返し練習した方が身につく世界でもある。

 反則のようなやり方でスキルを習得しているが、習得後も使えば使うほど良くなる気がするのはこの世界の人達と同じ気がする。


 さて、どうしよう。

 12羽の鳥に対して村人の家は35戸。村長と一番初めに畑で会った農家の夫婦のところを引いても33。鳥1羽を半分ずつ分けたとしても16か17羽は必要。しかし、いきなり12羽以上持っていってもなー。

 1回に12羽でも多い気がしている。


「俺は食べる気しないが、他の獣でも…ここの人達は食べるかな」

 探せば野ウサギやキツネ、タヌキなどがいるかもしれない。蛇だって昔の人は食べていたらしいし…

「もうちょっと食べごたえのあるものじゃないと…」

 みんなには分配できないよな。

 ボアが狩れたら解決するが…いきなり、大物を買ってきて出すのもなあ。


「少しずつ分配されるのを待っててもらうか」

 俺のその認識が甘かったことを知るのは、わずか半日後のことだった。


誤字脱字報告、いつもありがとうございます。

しっかり読み直し手直ししているはずなのに毎回

誤字脱字報告お世話になっております。


皆様の善意がありがたいです。感謝していますm(__)m

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