96話
さて、と。今日の旅の間に気になったところを急いで改良しよう。
ゴーレムが自走してくれている間に俺が座っている椅子。あれが跳ね上げ式であるが故に硬い。クッションをお尻の下にしたけれど厚みがある分不安定だ。そして背もたれがないから長時間だと疲れる。ここを改良する。
折り畳み式にして広げると椅子になり、折りたたむと二つに分かれて全く邪魔にならないデザイン。うん、これならいいかな。
そして、俺が座る椅子にも安全バーをつけるか。シートベルトタイプか腰のみを支えるか…。まずはシートベルトタイプでいいか。
……よし、出来た。
見かけはリヤカー。だけど地面から浮くことも出来るから空を飛んでいるようなもの。予定よりもかなりの距離を進むことが出来たのは、やはり道なりに進まずにショートカットが出来たことが大きい。
改良が終わったマイルをアイテムボックスに収納して、代わりにカプセル型の保護スペースを取り出す。寝袋で寝ているお婆ちゃんに、ここに入ってもらうのだ。
それを上空待機させたカケルの足とドッキングさせれば…コウノトリが赤ん坊を入れた籠を足に掴んで飛ぶ、イメージを近代的にしたようなもの…だと思う、多分。
「よし」
テントに入って、お婆ちゃんが眠る寝袋を抱きかかえる。身体強化が使えてよかった。テントから連れ出して保護カプセルへ。扉は閉めるが空気穴は…うん、大丈夫。
野営テントを収納して、カケルに乗り込む。お婆ちゃんのカプセルと繋がっているよな?
フローティングボードに乗り換えて念のためチェックする。
うん、問題ない。
これを5日間繰り返すからな。カケル、この変形ドッキングを記録しておいてくれよと命令する。
飛び立つ前に再確認。テントも収納したし、平原には何も残っていない。全てアイテムボックスに収納済み。うん、忘れ物はない。
「カケル、頼むぞ…」
静かに上昇し、マップさんのナビ通りに水平移動。徐々にスピードを上げていく。
夜間飛行は経験があるけど、寝たまま飛んだことはない。明日の朝6時までエミナルお婆ちゃんに寝ていてもらうとしたら8時間睡眠。飛行時間を4時間にすると俺の睡眠時間は4時間だけになる。連続三日ぐらいなら4時間睡眠でもなんとかなるかな。
…あれ? 体感でしかないが前より早く飛んでないか? 飛んでいる速度を測るメーターもないし、とんだ距離が分かる計測器もない。眼下に見えるのは小さな町のわずかな明かりだけで村はこの時間闇に包まれているから、そこにあると気づくのは難しい。
だから速度を知るのは遠くに見える、高い山。聳える山との接近時間で飛んでいる時間を測っている。
「…………」
もしか、して? レベルアップした恩恵か?
きっとそうだ。それ以外にないような気がする。魔力の制御が前よりスムーズになっていて、無駄が少なくなった気がする。漏れていた魔力が漏れずに効率よく変換されているとしたら…それは、性能が上がったに等しいのではないだろうか。
これは、嬉しい誤算というやつか。もしかしたら5日かかると思っていた移動が4日に短縮できるかもしれない。
通常だと片道1カ月かかる。それがあと4日。船に乗っていた3日とエックルの町で1泊した分を合わせても8日でお婆ちゃんとの旅が終わるかもしれない。
初めから全てをカケルで移動すれば…俺だけで無茶をすれば3日ほどでセルセラまで移動できるかも。…すごいな、俺。
祝福の魔力回復のおかけか、4時間飛び続けても疲労は感じなかった。そろそろタイムリミットかな、と判断して平原へ降りた。
野営テントを出し、お婆ちゃんを寝袋ごと保護ポットから回収。テントに運んで元通り、初めからここで寝ていたように偽装完了。テントの外にはリヤカーとトイレ兼更衣室のシークレットスペースも出して元通りの配置に戻す。
眠りを邪魔されたくないから、テントを中心に大きい方の結界石で安全を確保。お婆ちゃんが寝ている横に俺が寝るスペースもあるから、寝袋に入って寝転がる。
お休みなさい、と自分にも安眠を4時間かけて寝ることにした。
*
パチと目が明いた。一瞬、え? と思ったが野営テントで寝たことを思いだした。初めて自分でもタイマー付き安眠を体験してみたが、眠りがめちゃ深い。そして4時間しか寝ていないハズなのにたっぷり6時間ぐらい寝た気がする。
身体も疲れてないし、これはいいかも。
隣を見るとお婆ちゃんはまだ寝ている。朝のうちにしたいことがあれこれあるから、まだ寝ていてよと睡眠時間を1時間延長しておく。
シェルターに移動して、トイレを済ませて歯磨き、花の水やりと観察。そして昨日はうっかり忘れてしまった召喚タイム。
貴重な2回を今日は無駄にしないために、ここで2回使っておく。
このゴーレムのコアを、壊れる前の状態…元通りに直してください! 【環】!
このゴーレムのコアを、壊れる前の状態…元通りに直してください! 【環】!
ヒビが入り色褪せていたコアを2つ、新品に戻せた。
「…ん? あれ? まてよ…」
毎回1つずつゴーレムの核を元に戻していたけれど、まとめて直せないのか? 壊れた状態はそれぞれ違ったり、似ていたりするけれど…もともと同じゴーレム核ということでは違いがない。
うわー! なんでもっと早くに気がつかなかった。
複数まとめて、一気に直せた…かもしれない。
「次は、試してみよう」
上手くいけば次回でゴーレム核の復元が終わる。
さあ、気を取り直して朝食の準備だ。と言っても作り置きがあるから、それを出して並べればいい。
野営コンロで湯を沸かして、麦茶を入れたところでお婆ちゃんを起こそう。
安眠スキルを消して、お婆ちゃんが起きるのを待つ間にストレッチでもしているかな。
「ん…んー?」
お婆ちゃんが起きたみたいだ。伸びをする声がした。しばらくするとテントの中で着替えて髪を整えたお婆ちゃんが出てくる。
「ヒロヤ…おはよう」
「おはよう、お婆ちゃん。麦茶飲む?」
「早いねぇ…もうご飯の準備も終わっているのかい? お茶は後でもらうよ」
シークレットスペースへ入っていってトイレタイム。戻ってきたお婆ちゃんにクリーンを掛ける。
「ん? ありがとうね。服が汚れていたかい?」
トイレの後の手洗いが気になったとは言えない。
「麦茶、どうぞ。暖かいものを飲むと身体も目を覚ますよ」
「面白いことを言うねぇ」
サンドイッチに茹でブロッコリーモドキ。食後のフルーツに干しアンズ。
「これは甘いねぇ。朝からこんな甘いものを食べたのは初めてだよ」
「そう? これでよかったら多めに持っているから、毎朝出すね。夜も出そうか?」
「ヒロヤがいいなら、いただこうかねぇ」
にこにこ嬉しそうに笑っているお婆ちゃんに体調を聞いてみると、今朝もしっかり寝たから良すぎるぐらい体調がいいとの返事だった。
「良かった。夜中に獣も出なかったし、ぐっすり眠れたのが良かったんだね」
朝食に出したサンドイッチもぺろりと食べてくれたし、体調がいいのは本当なのだろう。汚れ物はクリーンでさっさと片付け、マジックバックに入れたフリでアイテムボックスに収納。
「さぁ、出発するからリヤカーに乗って」
靴を脱いでステップに足を掛け、荷台に上がる足運びもしっかりしている。本当に体調は問題なさそう。
野営テントとシークレットスペースも片づけ、いざ出発!
マップを見ながら誰もいない間はそのまま、誰かとすれ違いそうなときだけ100メートル先から認識阻害を掛ける。
お婆ちゃんは俺が疲れた様子をしていないことから安心して、編み物に集中している。
俺もお婆ちゃんの視線がこちらに向かないことをいいことに、マイルの自走に任せて座って休憩している。
街道近くの平原で昼食休憩をしている時、お婆ちゃんに不思議そうに聞かれた。
「そういや、まだ次の町に着かないのかい?」
「あー。隣町は昨日、お婆ちゃんが寝ている間に通り過ぎたよ」
「え?」
「買い足したいものもなかったからね、別に寄らなくてもいいと思ったんだ」
「そうだったのかい。いつ着くのだろうと思っていたら…通り過ぎていたのかい」
「それに、別に馬車に乗らなくてもいいでしょ? 狭いし、どんな客が乗り合わせるか分からない馬車に揺られるより、このリヤカーの方が絶対に快適だよ」
「…確かに、そうだねぇ。座ったり横になったり編み物したり、好きなように出来るからねえ」
「それに馬車旅にすると、俺たちだけ美味しいものが食べられなくなるよ。誰かがいると魔道コンロも出せないし」
干しアンズをパクリと食べるとお婆ちゃんは笑って頷いた。
「そうだねぇ。下手にみんなの前で料理をして、分けてくれと言われて揉めるのも嫌だしね」
「ね? 今日、明日の分の食料も持ってきているし、明後日までは街が見えても素通りする予定だから」
明後日には、もうかなりハイセイに近づいているはず。その頃になったらさすがにもう誤魔化せないだろう。
「そうかい。そのあたりのことはヒロヤの判断に任せるよ」
「うん、任せて。ハイセイは一度行ってるからね、ちゃんと迷わずに行けるから安心してて」
そんな話をして出発。やはり今日もお婆ちゃんはお腹がいっぱいになったことと日差しの温かさの誘惑に負けてうたた寝を始めた。
これ幸いと2時間のお昼寝タイムを利用して、マイルからカケル便に乗り換えてもらってステルスモードで上空を飛んだ。そして3時過ぎからはマイル便に戻って街道を爆走する。
揺れもないし、お昼寝タイム後のお婆ちゃんは編み物に夢中だし、午後からもかなりの距離を稼いだ。
途中、村や町を通り過ぎたことにお婆ちゃんは気がつかなかった。
夕方、今回もどこにでもあるような平原を選んで野営した。夕食を食べて、しばらく話をして就寝。昨夜と同じようにテントの中で寝ているお婆ちゃんを寝袋ごと運んで、保護ポットの中へ。カケルとドッキングして、必要なもの全てを収納した平原から飛び立つ。
今夜の夜間飛行は5時間の予定。お婆ちゃんが早く寝てくれたこともあるし、俺が疲れていなかったこともあって5時間飛んだのだが…
どうしよう、このペースだと明日の夕方にはハイセイに着きそうな勢いだ。
日中に2時間カケルで飛んだことが良かったのか、お婆ちゃんが起きている間もマイルが爆走できたからなのか…
いつまで誤魔化せるか、怪しい感じになってきた。
とりあえず、手ごろな平原があったため、降りて野営テントを出す。お婆ちゃんを保護ポットからテントに戻し、カケルと保護ポットはアイテムボックスへ収納。代わりにマイルを出し、シークレットスペースも元の位置に設置し直す。
さて、今夜もそろそろ寝よう。目を閉じて、安眠スキルを4時間かけて寝た。
*
朝が来た。目覚めのいい朝だ。
朝の用事をいつも通り済ませ、朝食の準備が整ったところでお婆ちゃんに掛けていた安眠スキルをオフ。起きてきたお婆ちゃんに用意していた朝食を食べてもらう。
食べ終えたお婆ちゃんはリヤカーに乗り込む前にあちらこちらを見て、少し不思議そうな顔をした。さすがにずっと遠くに見えていた山がだんだん近くなるにつれて違和感を感じるようになったのだろう。
しかし、何も言わないままリヤカーに乗り込み、お婆ちゃんはいつものように編み物を始めた。だが、昨日までの集中力はなく、時々周囲を確認するかのように視線を外へ向けている。
しかし、昨日同様に村や町を素通りしても気に留めていない。昼食を食べた後のお昼寝タイム。誘導せず様子を見ていたが、自然と眠くなったのか何度も欠伸を繰り返し、うつらうつらし始めたので2時間の安眠タイムに入ってもらった。
マイルの爆走も絶好調だが、カケルも絶好調。4時前に空の旅を終えてマイルに戻ってもらい、安眠スキルを切るとお婆ちゃんはゆっくり目を覚ました。
俺はそ知らぬふりでリヤカーを押して歩いていた。
「ヒロヤ、少し止めてくれないかい」
声が掛かったため、リヤカーを止める。
お婆ちゃんはリヤカーから降りると、周囲をぐるりと見まわし、俺を見て、また周囲を見回した。
「ヒロヤ、黙っていようかと思っていたが…おかしくはないかい?」
「そうだね。そろそろ説明が必要かな」
さすがに誤魔化せない。
「じゃあ、今夜はここで野営することにするから先にテントの準備をするよ」
いつもはリヤカーを出しっぱなしにしてテントを出していたが、今夜は先に収納する。実はここから1時間も歩くと村がある。誰かが通りかかる可能性もあった。
テントを出して、その前に椅子代わりの箱も並べる。魔道コンロでお湯を沸かす。
「お婆ちゃんがオカシイと感じているのは、正しいよ」
「ヒロヤ! いったいここはどこだい! 私はどこにいるんだい?」
「ここはヤノクト村の近く。あと1時間ほど歩くと村があるよ」
「それはどこだい?」
「ハイセイの街から歩いて1日くらいの距離にある村かな」
お婆ちゃんは絶句した。何を聞いたんだろうと言う顔をして、小さく呟いた。
「いち、にち…」
「そうだよ。明日にはハイセイに着けると思う」
「どうして……」
一カ月かかるはずじゃなかったのか? と顔に書いてある。




